終わらせる禁忌   作:Damned

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トロイア

 チッ、とエイヴィリーは舌打ちをする。

 数ヶ月前にソレスタルビーイングに襲撃された時よりも、防衛ラインは厚かった。周辺に駐留しているのはバイカル級巡洋艦が四隻と、モビルスーツが二十機ほど。まだ出撃していない機体も多いだろう。

 この戦力、この布陣。新型とはいえ、モビルスーツ一機で突破できるものではない。ゆえにエイヴィリーは、事前に練っていたプランに従って行動することにした。

 現在エイヴィリー──そのコードネームをトロイア・ヘクトールと言った彼が搭乗しているのは、防御に特化しているはずのアイアス。しかし、腰部のシールドユニットを排し、代わりに装着されているのはビーム兵器。そしてその手には右肩のドライヴからケーブルで繋がれた大口径のビーム砲があり、増加装甲は排され細身になっている。

 GNX-114Dアイアス。

 その運用目的は『GNフィールドを展開せずに艦の主砲を防御する』ことにある。全身にある増加装甲ことGNインヴァリアー、肩にマウントされた巨大な盾、アイアス・シルト、腰部のGNシールドユニット。それらに高濃度のGN粒子を定着させることで、あらゆる防御特性を持った仲間の盾となるのだ。

 だが、GNドライヴを両肩に積んだアイアスにはもう一つの運用方法がある。シルトを外し、砲撃型ことセラヴィーのように重砲を装備し砲台として使用する、仮名を『トロイアイアス』。

 エイヴィリーは基地からそれらのパーツを拝借、換装してメメントモリのある低軌道リングへとやってきた。

 アロウズの艦隊が神経を張っているが、誂えたかのように存在する衛星に隠れてビーム砲のチャージを開始した。

 そして、司令室に向かって通信を飛ばす。

『ミルティ少佐。聞こえてますか?』

 分かっていて尋ねる。現在、軍上層部の連中はアフリカタワー復旧のセレモニーのため、ミルティと入れ違いで地球におりている。

 ミシェル准尉、今、何処にいる! といつもの何倍も鋭い声での問いをスルーして、エイヴィリーは続けた。

『そんなに怒らないでくださいよ。早速だけど、本題に入りますね。グッドマン准将はいらっしゃいますか?』

「准将でしたらここには居ませんわ。現在ここで指揮を執っているはわたくしです。お話を聞きましょう」

『メメントモリは俺がいただく。理由は言えませんが、承諾しないのならば武力の行使も厭いません』

 エイヴィリーの宣言が受け入れられることは当然ない。故に一分というタイムリミットを設けて、メメントモリを渡せと暗に告げる。

 短い時間で、バイカル級巡洋艦四隻、二十を超えたモビルスーツはメメントモリから距離を置いた。

『待避は終わりましたか?』

「ああ終わっているっ。お前に心配されることではない!」

 相当に怒っているらしい。先程から語調を荒らげているミルティは、普段と全く雰囲気が違った。

 全面にあるコンソールを叩くと、エイヴィリーは言った。

『分かりました。それでは』

 友軍に平然とトリガーを引くと、凄まじい光の束がモビルスーツと艦を呑み込んだ。

 宇宙に拡散する朱い光に目を細める。ビームが消えた後は、戦艦とモビルスーツの残骸である金属片が宇宙に漂っていた。

 ミルティの目は、『なぜ』と言いたげだ。

『待避させれば撃たない、なんて言ってませんから』

『っ、てめえ!』

 ニールが激昂した。 彼が何故そこまで怒っているのかエイヴィリーは知らないが、そんなことはどうでもいいとばかりに宣告した。

『これで俺の本気が分かっていただけたかと思います。

 今の映像を見れば、どういう意味か分かると思いますが。今から十分以内に、メメントモリの起動コードを送信してください。

 俺が乗っているのが『トロイアイアス』であることをお忘れなく』

 そう言って、エイヴィリーは通信を切った。それからふと違和感を覚え、モニタの映像を拡大すると、画面にに映るのはプトレマイオス2だ。

『あー、んでだよ。まさかミス・スメラギがこんなに早く破壊ミッションを敢行するなんて……』

 おそらく彼らは、戦力を整える為にこの二ヶ月近くを逃げ回っていたのだろう。

 ここで艦を落とせば、メメントモリの警備はがら空きになり、ガンダムに破壊されてしまうに違いない。

『あーあ。何でこんなにタイミング悪いんだよ』

 砲口をプトレマイオスに向ける。そこでふと、メメントモリから出撃したらしい一機のアヘッドがこちらへ迫ってきていた。

 操縦桿を握り、アイアスは徐に左腕をそちらへ向けた。溜め、方向を整えて十二の砲門から収束したビームが放たれ、アヘッドはあっさりとデブリの仲間入りをする。しかしそれに気を取られているうちにジンクスが背後にいて、振り下ろされるGNランスを左の盾が受け止めた。反転し腰からビームサーベルを引き出すと、エイヴィリーは追撃しようとしたジンクスの胴をなぎ払う。爆散。平時とは違いその空間認識能力は低下しているというのに、新兵であるはずのエイヴィリーに敵わない。

 散らばるGN粒子にゾワリと頬を撫でられたような感覚がした。おかしな高揚感を覚え、それが愉悦からのものだとエイヴィリーは分析する。

 プトレマイオスからは既にガンダム四機が出ているようで、アロウズのモビルスーツ隊と交戦中。行き交う火線に構わず、エイヴィリーはメメントモリの上方にアイアスを差し向けた。

 飛行するアイアスの先に、片腕と両足、頭部を失ったアヘッドが浮遊しているのが見える。ドライヴは無事なようで、パイロットは生きているようだが動けないらしい。ああ、ゼルデもこんな感じだったのかなあ、一人は寂しいもんなあと呟いて、さながら埃を払うような手つきでそれを斬り払う。

 否、斬り払おうとした。

『──ああ?』

 白がベースの血管のようなラインの走ったモビルスーツが、アイアスのサーベルを受け止める。

 赤い粒子を放出し、こちらを押し切ろうとするその機体は、シュネーヴァルツァを彷彿とさせる外見をしていた。白い装甲、赤いライン、腰に装備された実体剣。高機動機であるとわかる、すらりとしたシルエット。

 ただ、相違点もある。胸部に刺さった杭のようなものと、腰部のユニットが排され、背中から翼のように広がる装備。エイヴィリーはこの機体を知らなかった。

『何だよお前、邪魔すんな』

 投げやりな言葉に、接触回線でパイロットは答える。

『どうしてあんな事をしたのかしら』

『なんの事だよ』

『……なぜ、動けない相手を斬ろうとしたの』

 その声が硬く、憤りを孕んだものだったことにエイヴィリーは首を傾げる。

『どうして、って?』

 左腕の砲門を向けたのに、モビルスーツは体勢を反転させて脚部を振り下ろしてきた。シュネーヴァルツァと同じく、ビームを展開できるらしい。即座の判断で機体を蹴飛ばし距離を取って、エイヴィリーは言った。

『あんな状態で、動けずに、もしかしたら迎えも来ないかもしれない。かわいそうだろ? それなら殺してやった方がいいじゃねーか』

『──っ!』

 尋ねたのはパイロットの方だが、回答への反応はなく息を吸う音のあとに沈黙が広がった。

『わかったらそこを通せよ。死にたかねーだろ』

『……貴方はどうして戦うの。あの兵器を手に入れることが、貴方の望む未来に繋がるというの』

『うるせえな。てめぇに関係ねーだろ』

『いいえ、関係あるわ。答えなさい、トロイア・ヘクトール──いいえ、エイヴィリー・ミシェル』

 どうやらあちらは自分を知っているようだ。おまけに女性パイロット。どうしてもゼルデのことが過ぎって、舌打ちをする。

『……誰だ』

『グリシルデ・シュミット。あんたを止めに来たわ』

『死ね』

 反射的に湧き上がった感情のままGNボウからビームを発射。不意打ちにも動じずパイロットは回避、おまけに腰から武器まで投擲してきた。飛来した剣を盾で弾き飛ばして、エイヴィリーは彼女に昏い輝きを宿した瞳を向けた。

『俺の大切な人の名前を騙るな。ゼルダは死んだ。俺が助けに行けなかったから死んじまったんだよ。これ以上弄ばれる必要なんてねーだろ』

 モビルスーツから距離を取る。あの様子では、投擲武器以外は全て近接武装だ。離れてさえしまえばその戦力は大きく低下する。

『違うわ、私は生きて……』

『イノベイターってのも趣味が悪いな。じゃあその生きてたお前に話してやるよ。俺はさぁ、ようやく気づいたんだよゼルデ』

 瞬時に詰められた距離、振り下ろされる実体剣。ビームを内蔵した拳打がアイアスの装甲を軋ませる。自然と漏れたのは笑い声だった。

 悲しいほどに、空虚な。

『統一世界を望むなら、初めから作り直せばいい。全部壊して、リセットして、そこから始めたらいいんだ』

 どれだけ綺麗な水であろうと、そこに黒い絵の具が垂らされてしまえば濁る。透明に戻すには水を全て捨ててしまう必要があるのだ。

 そうすれば、まっさらな状態から全てを作り直すことが出来る。

『あんたは……』厳しい声で、ゼルデが言った。『あんたは間違ってるわ』

『あっそ』

 感情を乗せた攻撃を弾いてエイヴィリーは飛翔する。背中にマウントしていた武器を構え、エイヴィリーはバイカル級巡洋艦に向けた。

 即座に追ったゼルデは砲口と艦の間に割り込む。

『邪魔すんな!』

『嫌よ。私は貴方を連れて帰るわ』

『ハッどこにだよ、俺はスパイだったし、ソレスタルビーイングも滅ぼすつもりだ。それに、偽物といるような酔狂な趣味は無い』

 砲口を向け、トリガーを引くのと胸の杭が引き抜かれるのはほぼ同時だった。

 ゼルデの乗るラヴィーネ。シュネーヴァルツァの後継機であるそのモビルスーツに存在する、胸部の杭のようなもの。GNフラッグのビームサーベルのようにケーブルがつながっているそれは、ガンダムのある機構を見て作られたものだ。

 ダブルオーライザーがトランザム時に使用出来る超大型のビームサーベル、通称ライザーソード。それを知ったマテリアは、即座にこの機体を設計し始めたのである。つまりどういうことかと言うと。胸部から抜かれた杭──GNスレイヴは、巨大なビームサーベルとなってアイアスを襲った。

『ぐああああぁあぁっ!』

『エイヴ!』

 凄まじい衝撃。コクピットに叩きつけられたエイヴィリーは声を上げる。ゼルデは知らなかったのだ。このアイアスが、通常の戦闘では過剰とも言える防御力を排し、大量に生成される粒子を攻撃に回した『トロイアイアス』である事を。ゆえに普段と同じ防御力は持たず、盾で遮っただけではそれを防げなかった事を。

 不幸中の幸い、と言うべきか。アイアスの盾はビームを受けた衝撃で上部にひしゃげて根元から折れた。その時の反発で吹っ飛んでいなければ、モビルスーツの中でも最高の防御力を持つ盾で防いだとはいえその光に呑み込まれ、跡形もなく消えていたであろう。威力を落としていたこと、スレイヴを抜いた直後に粒子供給ケーブルを抜いていたことも助けていた。

 爆煙を上げ、制御不能になったアイアス。モニタが激しいノイズに包まれているコクピットの中で、エイヴィリーが最後に見たものはダブルオーがライザーソードを振り下ろす姿だった。

 

 

 

「初めまして、──君。うちの──と、同い年だってね。これからは家族として、よろしく頼むよ」

 八歳。自分を女手一つで育ててくれた母親が亡くなり、親戚の家をたらい回しにされていた頃だった。

 穏やかな声でそう語るスーツ姿の後ろに、綺麗な髪の少女が張り付くように隠れていた。彼に促されても何も語らず、ただ瞬きを繰り返す様は小動物のようであった。

 俺は彼女と喋りたかった。どんな声なのか、どんな表情を浮かべるのか。知りたかったのだ。だが、父親の陰から一向に出てこず、口を開かぬ彼女に子供らしい理不尽さで腹を立て、その髪を数本つまんで軽く引っ張った。綺麗な髪が手に絡まってぷちりと切れるその痛みに彼女は泣き出してしまい、俺も驚いて、ぼんやりと突っ立ったままだった。

 泣いている彼女は、子供心にすら美しいと感じられた。

 第一印象は最悪だったであろう。

 それでも彼女は俺を避けることなく、家族として接してくれた。しかし他に友達がいるでもなく、公園のベンチや堤防の下で編み物をしていることが多かった。大人しく優しい雰囲気の彼女はこの街にはなかなかいないタイプで、そんな彼女がどこにでも居る意地の悪い上級生にからかわれることもままあった。彼らもまた、俺と同じように彼女が気になっていたのだろう。

 だが──年下の女の子を、数人がかりでいじめるのは卑怯だ。

 泣いている彼女を見て、その手に編み棒と毛糸の入ったバスケットがないのを見て、俺は思わず彼らを探して駆け出した。

 道具一式があまり家に帰らぬ両親からのプレゼントで、編んでいたのが自分への贈り物だと知ったのははその後のことだ。上級生にぼこぼこにされながら必死で取り返してきたそれに彼女は「ありがとう」と小さな声で言ってくれたのである。

「な、泣くなって。また俺が守ってやるから、な!」

「……嘘」

 自分でも無理なことを言ったと思ったが、後には引けなかった。

「いや、俺を信じろって。大丈夫だから」

「……本当?」

「お、おう。男だからな」

「じゃあ、約束」

 彼女は俺の小指に自分のそれを絡めると、嬉しそうに微笑んだ。

「私も、エイヴのこと守れるくらいに強くなる。だから、一緒にいよう?」

 幼い頃の約束。それはずっと、二人の中に残っていた。

 

 

 

 アイアスの損傷は激しかった。四肢はひしゃげて破壊され、コードが露出している。両肩の盾も右は根元から捻じ切られ、左も半壊。防御の上からビームを食らった機体も稼働は不可能なほどのダメージを受けている。ドライヴこそ無事だが、生成される粒子が宇宙空間に散っていた。生体反応がなければ死んだと思っただろう。

 氷の手に心臓を握りつぶされたような感覚を覚え、ゼルデはラヴィーネの指を動かしコクピットの装甲を剥ぎ取る。壊れかけていたハッチはあっさり取り去られて、パイロットの姿が露出した。しかし、シートに凭れかかっているエイヴィリーは、こちらを一瞥しただけだった。

 はっとしてパネルを操作し、ゼルデは映像を拡大する。身動きが取れないのだ。コクピットで起きたらしい爆発でエイヴィリーの左半身は破片に潰されている。そのパーツの多くを機械に置き換えているからと言って、ダメージが無いわけではないのだ。

 殆ど衝動的にコクピットを開いて、エイヴィリーのもとへ装甲を蹴る。だがアイアスのハッチのあった場所におりたゼルデに向けられたのは、拳銃だった。

『なぁ、偽物……』

 ゼルデはなにも握っていない。持っていたとして、愛する人に武器を向けることはできない。

 エイヴィリーは眠たげに笑って、そう尋ねる。

『メメントモリ……どうなった……?』

『あれなら破壊されるわ。残念ね』

『……そっかあ。じゃあ、どうしようもねぇな……。はは、これから、どーしよ』

 内臓にも損傷があるらしい。けほ、と咳き込んでエイヴィリーは血を吐いた。失血のせいかその顔は青を通り越して白い。

 ゆっくりと、エイヴィリーの腕がおりて、銃が離れていく。

 もう喋るな、とは言えなかった。言ったら彼は死んでしまうような気がした。

『……ゼルダ。俺さ、ずっと……お前のこと、好きだったんだ。もう、伝えらんねーから』

『何言ってんの、私はちゃんとここに居るわよ』

『……なあ。ホントに、ゼルダなのか……?』

『そうよ。私は、グリシルデ・シュミット。あんたの、幼馴染で──あんたが世界を焼いても、死んだら戻ってこない、人間よ』

 焦点の合わぬ瞳をさ迷わせながら、エイヴィリーは納得したように呟いた。

『……ああ、そっか、そうだな。……世界を壊したって、死んだやつは戻って来ないんだ……』

『……エイヴ』

『なん……だ?』

 まるで狂信者がその呪縛から解き放たれたかのようだった。

『身体……痛く、ないの?』

『……うん。そういうの、もう、わかんねえ。スーツの中まで生温くて、すげえ気持ち悪いけど。なあ……ゼルダ。どうしたんだ?』

 何が、と聞き返そうとするが、声は出なかった。

『あの時、みてーな……顔、してる。……ごめんな、もう……眠いや。ゼルダも、……気を、つけろよ……』

 言葉が、途切れ途切れになっていく。涙を溜めて首を振ると、エイヴィリーは安心したかのように笑って目を閉じる。

 ゼルデはきつく唇を噛み締めると、零れそうになる涙を堪えた。

 

 

 

『……メメントモリは破壊されたか』

 どこか安堵の色を滲ませた声で、ニールは呟く。この様子ではガンダムに破壊されたらしい。

 ガンダム、という単語に否が応にも焦燥を覚えながらも、ニールはそれを抑制してアレーティアを操る。

 出撃した時には既に、メメントモリは鉄クズと化して宇宙空間に浮いていた。モビルスーツだったものも混じっていて顔を歪める。

 エイヴィリーがこの宙域にいるであろうという可能性を──もっと言えば、撃墜されている可能性を、ミルティは否定できずにいた。青いモビルスーツが光に呑み込まれるのを見た者がいるというのだ。アロウズに所属するモビルスーツで青い機体は、エイヴィリーのアイアス以外存在しない。

 もしかしたら、光──二個付きのビームサーベルを前に消し飛んだのかもしれない。探し始めて十分程が過ぎた頃、元は宇宙艦かメメントモリかも分からぬ金属片の中、青い装甲が浮遊しているのを目にした。

『これは……』

『アイアス、アイアス』

 ハロが蓋を開閉してそう繰り返す。元は手足であっただろうものはコードが露出し融解していたり、ひしゃげていたりする。生存は絶望的か。ミルティに連絡をしようとコンソールを叩いた、その時。

 ──不意に冷たい手が背筋を撫でたような感覚がして、ニールは振り向いた。

『ビーム……?』

 反射的にフルシールドを畳んで回避する。こちらに向かって走る光は明らかに、攻撃の意志をもったものだった。

 オープンな通信で何者かが──否、先程のビームを放った者だろう──が、笑い声を上げる。反射的に肩のランチャーを展開してニールは誰何を問う。

『誰だ』

『ヒリング・ケア。イノベイターよ』

 ガンダムに対する殺意を抑えていたのが少しだけ滲み出て、ニールの声は刺々しい響きになった。

 偶然か意図的か。ニールは知る由もないが、ヒリングの言葉はティエリアに向けたものと同じだ。

『アルマークの差し金か』

『やあね、面白いニンゲンがいるからからかってみただけじゃない。そんなにイライラしないでよ』

 粒子ビームの飛来した方向から、小さな点が段々とその輪郭をはっきりさせていく。ガラテアにも似た機体の形状、グレーに染められた装甲。名前はガラッゾだったか。噂には聞いている。総司令よりライセンスを与えられ、単独行動を許されたパイロット──ライセンサーだ。

 ヒリングはバイザーのシェード機能を切って、ニールに向かって笑ってみせる。

『お前……』

『へえ。あんた、面白いじゃない』

 自分から攻撃しておいてのこの発言に、目を細める。

 その瞳は、金色に輝いていて──

『何をしている、ヒリング』

『ちょっと遊んでみただけよリヴァイヴ。もう帰還しなきゃいけないの?』

『アイアスの残骸を確認した。ここに留まる必要はないだろう。……君は確か、リジェネの』

 通信の様子はニールの耳にも届いている。中性的な声だ。恐らく男なのだろうが確信はない。『リジェネの』の先に続く言葉は簡単に予想できる。あのラモールという女と同様、『リジェネのお気に入り』だとか何とか考えているのだろう。

 投げやりにニールは言った。

『ロックオン・シューター特務大尉だ』

『ああ、やはり。……ヒリング』

 ニールの言葉を受けても名乗ることすらしない。リヴァイヴと言ったか。彼は見下すような雰囲気で返して、ヒリングに促した。

『はぁーい』

 不承不承といったように彼女は言って、母艦のあるであろう方向に去っていく。

『フシギ、フシギ』

 ハロがニールの内心を見透かしたように言う。

 面白い──彼の言葉の意味を測りかねて、ニールは厳しい表情で操縦桿を掴んだ。

 

 

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