終わらせる禁忌   作:Damned

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殺意のプラエタリタ

「おい」

 粗野な男の声が、ニールの背中にかかる。振り返ったその先に立つのは、癖のある赤毛を奔放に伸ばした傭兵であった。

 リジェネに呼ばれ、その住居であるという巨大な母艦へやって来て二日。その呼んだ本人である彼が用があるとかで、ニールは待ちぼうけを食らっていた。

「……何だ」

 その声に鳥肌が立つほどのものを覚え、ニールは眉を顰める。何故かは分からない。だが、この感情を言葉にするとすれば──生理的な、嫌悪感というものだろう。

 露骨な表情を浮かべるニールに、赤毛の男は気にもとめず話しかけてくる。

「なあ、あんた。右眼が見えねえんだって?」

「……だったらどうした」

 知らずとその声は低くなる。睨むような視線になってしまったニールにハッと笑いながら赤毛の男は続ける。

「可哀想だよなぁ。テロで家族を失った挙句、今度は自分が仲間だとか言われてるなんてよ」

 今度こそ自分の意思でニールは男を睨んだ。

「何が言いたい?」

「アリー・アル・サーシェスって名前にゃ聞き覚えはねぇか? 薄情な野郎だな!」

「……は、」

 思わず、声が掠れる。アリー・アル・サーシェス。その単語に嫌な響きを覚えて。

 誰だったか──と思案するより先に、ニールの瞳が殺意を帯びる。ともすればソレスタルビーイングのメンバーに向けたものより遥かに鋭い意思を以て。

 ここが艦内であることも考えずニールは挿している銃を向けた。男──アリーのほうは銃を向けられているにも関わらず武器を向ける様子はなく、余裕のある表情でニールを見ている。

「──殺すぞ」

「やっと思い出したか。殺しがいがねぇなあ!」

 一切の躊躇なくニールは引き金を引いた。だが、感情のままに行われたそれの軌道は読まれていたのだろう、逆に蹴りを食らってニールは拳銃を叩き落とされてしまう。その脚を掴んで捻ろうとするも、元々調子の悪い身体では間に合わず足を引っ掛けられ転倒した。

 冷たい床が、熱のあるニールの肌にひやりとした感触を与える。ストリージを拾ったらしい、セーフティの外されたままの拳銃をアリーはニールの胸に押し付けた。

「さわ、んな……!」

 声にも力が入らない。そもそも、無理をして戦ってすらいたのだ、万全の状態であろう彼に拮抗することすら不可能に近い。

「こちとらてめぇのせいで体の半分が消し炭だ。てめぇの足の腱叩っ切って逃げられんねぇ様にして、左目も抉ってその指切り落としてやらねえと割に合わねんだよ」

 わざと煽るように喋るアリーのやり口に吐き気を覚えたが、もうニールは殺意以外の感情を表に出すことはなかった。発作の前駆症状である右目の痛みすらそれに変えて、胸に押し付けられていた銃口を払って奪い返す。

 この男がどういう人物なのか。それを思い出してしまえばニールの心がそうならないはずはない。KPSAのリーダーで、家族の命を奪うことになったテロを指示した、──ニールをロックオンたらしめる、根源。

 今でも克明に思い出せる。自分の見た、家族の変わり果てた姿を。緩やかに自身を締め上げるような殺意を、怒りを、憎悪を、絶望を、苦痛を。そして、これで終わるのだと覚悟した、白い光を。あれはどこだったのだろうか。

 ロックオン、ロックオンと呼ぶハロの声が、いやに現実味を帯びず頭に響く。「心配すんなよ。必ず、戻ってくるさ」と笑ったのは何故だったか。焼けるように右眼が痛むのを感じて、ニールは握り直したストリージを取り落とした。

「〜〜っヅ、が……!」

「ああ? ンだよいきなり……」

 身体を支えきれず、崩れ落ちたニールにアリーが眉を顰める。

「ハハッ、こいつぁいい気味だ。あん時に細胞異常にでもかかりやがったか!」

 床に倒れ込むニールをアリーはそのつま先で蹴飛ばしてやる。力の入らぬ身体は微重力であることもあり容易く吹っ飛んで、弱々しく睨むニールに笑い声を上げた。

 激しく咳き込んで、ニールは浅い呼吸とともに血を吐き出した。

「……チッ。面白くねぇな」

「──そこで何をしているのかしら」

 吐き捨てたアリーに、はっきりと分かるほど機嫌の悪い声がかかった。

 丁度こちらへ帰ってきたのだろうマテリアが、眉間に皺を寄せてアリーを見ていたのだ。

「何って、遊んでんだよ。もうぶっ壊れてたみたいで殺しがいもねぇけどな」

「ウチの大事なパイロットに触れないでもらえる? 彼には死んでもらう訳にはいかないの。仮にもリボンズに雇われている身なら理解して頂戴」

 倒れているニールを抱え起こして、マテリアはストリージを拾うとアリーの横を通り過ぎていく。その大事なパイロットにどんな仕打ちをしているのかを、アリーは知らない訳では無い。イノベイターってのはいい趣味だと笑った彼に、マテリアは苛立たしげに目を細めた。

 

 

 

 宇宙空間でビームが飛び交う。ガデッサとガラテアの二機は二人がかりでダブルオーと交戦していた。

 ガデッサの援護とともにファングが飛び回る。スクワイアとファングを掻い潜り、ダブルオーの実体剣がガラテアに振り下ろされた。

『ファング!』

『そんな攻撃で!』

『この先には行かせん!』

 飛び回るファングと嗾けられるスクワイア。二種類の飛び道具で翻弄しようにもダブルオーはそれらを見ていない。ツインドライヴシステムを操り、グリシルデ・シュミットをして勝利した相手だ、そもそも後方支援機であるガデッサとガラテアでは勝てるとは言いがたかった。

 ガラテアのいるその先ではケルディムとガッデスがそのピストルで、サーベルでぶつかり合っていた。二人でも荷が重いダブルオーとの戦闘に、圧倒されながらもアッシュは辛うじて致命傷を回避している。

 ガッデスと同様、ビームを内蔵しない分バーニアにより機動性を確保したガラテアのファングは、移動先を限定しスクワイアの取り付きを助けるもののはず。だが、ダブルオーはその道を強引に踏み越えてきた。

 行く先を阻むスクワイアが切り捨てられ爆散する。

『ッ、くそ……!』

 残り二基。率直に言って、勝機はない。リヴァイヴもそれを感じているが、イノベイターとしてのプライドが撤退を許さないのだろう。

 彼の気持ちを理解しながらも、アッシュはダブルオーに食い下がるガデッサに通信を飛ばす。

『リヴァイヴ・リバイバル! 俺達だけでは勝てない、諦めろっ。ケアやハレヴィと合流するんだ!』

『うるさい! 出来損ない風情が……! 貴様がいるからダブルオーに、』

『出来損ない?』

 四基のスクワイア全てが破壊される。単純に二対一、どちらもダブルオーを狙っているというのにこのザマだ。ダブルオーはガデッサのGNメガランチャーを破壊して、戦闘宙域よりはるか遠く──ガッデスとケルディムのいるその場所へと飛翔した。

 それでもダブルオーを追おうとするリヴァイヴの発言に、アッシュは思わず笑い声を上げた。

『その割には、俺が居ない間も戦果も挙げられていないようだが? まだ敗北を認めないか、リヴァイヴ・リバイバル』

『人間如きにこの私が負けるなど認めない!』

『……ああ、そうか。承知した』

 低い声で、アッシュが言った。

 朱い粒子が、ガラテアのGNウィングから拡散する。

 禍々しさすら感じるGN粒子を纏った翼が、激高するリヴァイヴの前に広がった。

 彼は一体、何を?

 リヴァイヴの脳量子波は、彼の言う『出来損ない』であるアッシュには、届かない。

『やめ──』

『もういい、リバイバル』

 恐ろしいほどの粒子の放出を行うガラテアが、主武器であるGNヒートロッドをガデッサに振り下ろし、その装甲に触れた。

 

『一体何よっ?』

 ヒリングの乗るガラッゾとルイス・ハレヴィの乗るレグナントの交戦するその向こう。ダブルオーの前に立ちはだかったガデッサ、ガラテアの二機が大いに不利になっていたのはその脳量子波で感じられた。

 ガデッサはメガランチャーを破壊され、ガラテアも全てのスクワイアを喪失。その上ダブルオーにはガッデスとケルディムのいる宙域まで迫られている。そこまでは、理解出来る。その後、ガデッサは静止を振り切ってダブルオーに追随しようとするが、立ち塞がるガラテアは異常なほどの粒子放出を行って。

『いいからファングを使いなさい!』

『っ……了解!』

 乱戦と言っていい戦況だからだろう、彼女はファングを使わずビームとGNフィールドのみで戦っていた。だが、そんな事に構っていられるほど彼らの戦力は低くない。なんでよ、相手はニンゲンなのに! 思わずそう毒づいたとき、先程トラブルのあったガデッサとガラテアがこちらへ向かってきた。

 ガデッサはビームサーベルを構えセラヴィーへ。ガラテアもくるりとヒートロッドを振るうとそこへファングを嗾ける。

 ガデッサに乗っているのは人一倍アッシュへの態度のきついリヴァイヴだ。どうやって宥めすかしたのだろうか。あるいは、ハッキングを行って?

『確かにガラテアは情報支援機……だけど、何したっていうのよ?』

『戦闘中によそ見など!』

『きゃ……』

 GNアーチャーがサーベルを手に背後から斬りかかってきた。それを左手のビームクローで受け止めて、放たれたエグナーウィップにヒリングは唇を歪めた。

 勝ったな、と。

 ニヤリと笑った口元は誰にも見えないが──しかし、彼の予測と全く違う事態に驚愕した。

 レグナントの放ったウィップは全て撃ち落とされ、あるいは切り裂かれ、その役目を果たせずに沈黙した。

『な、何故……』

 ひやり、と背中を汗が伝う。咄嗟にレグナントが放った多数のミサイルを避け、アリオスが迫る。その背後でGNアーチャーが放ったビームにより爆散するミサイルの推進を受けて、レグナントの懐へ一気に潜り込んだ。

 苦し紛れのように射出されるファングを撃ち落として、張られたGNフィールドに向かって飛行形態で突貫。わずかな時間の後にGNフィールドは突破されて、回避するもレグナントの右手が破損し、爆煙がフィールドを満たしていく。

 爆発の衝撃はコクピットまで届き、思わずルイスが悲鳴を上げる。更に、ダブルオーがこちらにビームを放ちながら接近してきた。

『ハレヴィ准尉!』

『っ……問題、ありませ……』

『撤退だ!』

 ファングの隊列を統制して、アッシュが言った。

『これ以上の戦闘は無意味だ。そうは思わないか』

『……分かったわよ』

 地位だけを見れば最も低いアッシュの提案に、ヒリングは不承不承と頷く。

 リヴァイヴはなにも答えなかった。通信すら開かず、退却するガラテアについていく。ますます訳が分からなかった。が、このままでは戦況は悪化する一方なのも事実で、ガラッゾはレグナントと共に撤退した。

 

 

 

 

「どういうことよ、アニューまでやられちゃって。あたしらイノベイターなのに」

 不満げに喚くヒリングと、思案するアッシュ。

 リヴァイヴはまだ呆然としたように、緩慢な動作でヒリングを見た。

 先程起きた「ヒリングたちと合流しなければいけない」気になった現象。それが何なのか、リヴァイヴには分からない。記憶は曖昧で、高濃度のGN粒子に晒されたその後に自分の意識は怒りからそれに上書きされたのだ。

 何だったのだ、と思う。アッシュ・グレイといった出来損ないは、脳量子波すらまともに扱えないイノベイターでも人でもない存在だ。

「ダブルオーのパイロット……あの戦い方は、モビルスーツの性能だけではない。彼は恐らく……『革新』を始めている」

「はぁ? 何バカなこと言って、」

「そうでなければ説明がつかない事が多すぎるだろう」

「……純粋種とでも言いたいわけ?」

 馬鹿らしい、といった雰囲気でヒリングは言い放つ。

 リボンズのように能力が与えられているわけがない。リヴァイヴやヒリングと違って、彼はリボンズに造られた訳でもなければヴェーダへのアクセス権もレベル四──かつてのスメラギ・李・ノリエガと同じなのだ。ましてや、自分たちと違いリジェネのクローン。劣化した存在。そんな彼がヴェーダを介して能力を使えるなどありえない事だ。

 恐らくガラテアから多量のGN粒子を浴びせられ、こちらには筒抜けの脳量子波の影響を受けたのだろう。リヴァイヴはそう結論づける。

「貴様が思っているよりもイノベイターは上位種ではないという事だ。どう考える、リヴァイヴ・リバイバル」

「……僕も、同意する」

 先刻からリヴァイヴはどうにもあやふやな態度を取り続けている。不審そうに彼を見たヒリングはアッシュに問うた。

「さっきから何なのよ、ぼーっとしちゃって。あんた、何か知ってる?」

「知らないな。彼なりに思うことがあるんだろう。それでは、僕はフォルトゥナに戻る。まだ話すことがあるようなら、通信で頼む」

 唯一パイロットスーツのままだったアッシュは、それだけ告げると部屋を出ていく。すぐ左に曲がって、更衣室のある方向へ向かおうとしたそのとき、一人の男が歩いてくるのが見えた。

 制服の上に独特な上着を着用し、仮面を着けた男はアッシュの姿を見て立ち止まる。この面を着けたまま暗闇で遭遇したらゼルデは悲鳴を上げそうだ──と今はもういない仲間の事を思案しながら、アッシュは敬礼した。

「見ない顔だな。新兵か?」

「いいえ。私はフォルトゥナに所属するモビルスーツパイロット、アッシュ・グレイ准尉と申します。ケア大尉らと作戦行動を共にしたため、こちらにお世話になっていました」

「グレイ准尉。確かモビルスーツの開発者にも、グレイという名が居たはずだが……」

「マテリア・グレイは兄です。貴方は?」

「……名乗る名は持っていない。他の兵士たちは、私のことをミスター・ブシドーと呼ぶがな」

 ミスター・ブシドーと言えば、思案したまさにその仲間が目標としていたユニオンのグラハム・エーカーではなかったか。だが、『名乗る名はない』と言われればわざわざ訊くのも野暮というものだ。

 僅かに微笑んで、アッシュは言った。

「ミスター・ブシドー。貴方も今から出撃なさるのですか?」

「ああ。特命が下った」

「──準備が完了しました、ミスター・ブシドー」

 静かな女性の声。一体誰かとアッシュがそちらを向くと、スーツを着用した金髪の女性パイロットが立っている。

「失礼しました。ルイス・ハレヴィ准尉です」

「アッシュ・グレイ准尉だ。先程の任務では世話になったな」

「という事は、貴方はガラテアのパイロット……?」

「そうだ。これからまた任務とは、忙しいことだ。気を付けろ」

「はい」

「……そろそろ行くぞ、准尉。では、失礼する」

 ミスター・ブシドーとルイスは格納庫に向かって歩いていく。それを見ながら、自身も帰投しなければならないことを思い出して、アッシュはガラテアの待つ格納庫へと向かった。

 

 

 

 

 帰投した刹那と沙慈は、無言で待機室に踏み入る。そこには彼女がいて、青いハロで端末の文書を読み進めていた。

 アニューの代わりに操舵手を頼まれたのだ。すっかり信用されたものだと思うが、これからの戦いを考えれば仕方がないとも言えるし、信頼に値するとも考えられる。

 オーライザーを奪取しようとしたリヴァイヴに抵抗したのも、彼女なのだから。

「グリシルデ・シュミット」

「シュミットさん」

「セイエイさん、クロスロードさん。お疲れ様」

 互いの名を呼んで、それだけだ。ゼルデは文書──もとい、プトレマイオスの操舵のマニュアルを閲覧しているし、二人も疲れからか口を開かない。

 時折ハロが喋る以外は、居心地の良いとも悪いともとれない静寂が待機室に広がっていた。

「……ねえ」

 五分ほどの沈黙の後に、ゼルデが声をかけた。

「どうした」

「あの時、貴方は何を言いかけたんですか」

「なんの事だ」

 セイエイさんは誰かに似ていると思ってたけど、アッシュだわ。外見だけなら、アーデさんが瓜二つなんだけど。下らないことを考えながら、ゼルデは答える。

「さっきストラトスさんに狙撃がどうのって言いかけて、止めたでしょ」

「……ああ」

 何かを思い出しているような遠い目、しかしその表情は少しだけ苦々しいもので。なにかよくないことを聞いてしまったのかと思う。

「『狙撃のコツは、あの男に教えてもらった』。だ」

「あの男ってまさか」

「ロックオンだ」

「それは確かに言えない事ね」

 触れてはいけないものに触れてしまったという顔で、ゼルデは口を噤んだ。

 かつては仲間だったようだが、間違いなく、現在のロックオン・シューターは敵であるのだから。

 

 

『──愚かな人間だ』

『ア、ニュー?』

 人が変わったかのように冷たく、見下すような調子で喋るアニュー。

 ぼろぼろになったガッデスのヒートサーベルが振られ、包囲するシールドビットが破壊され、ファングがケルディムを切り裂いていく。

『アニューッ』

 悲鳴のようなその声もアニューには届かない。やめてくれ。そう心の中で絶叫した、その時。

 ハロがダブルオーの接近を告げる。三機を振り切って飛翔した刹那が、今だけは絶望的だった。戦えない理由の方が大きい。もしもの時は俺が撃つ。彼の言った通りになるのは、己の死よりも恐ろしかった。

 女神の名を関する機体を、澱みなくなくダブルオーのGNソードⅡが撃ち抜いた。

『あ、ああ……!』

 その躊躇いの無さに、ライルは声を上げる。アニューが。彼女が。

 呼びかけるが、応答はない。

 彼女がどうなっているのか、口に出すことさえ、恐ろしかった。

 ダブルオーは加速する。機体を赤く染めて、こちらへ接近してきて。

 ライルの視界に、美しい碧緑色の粒子が、オーロラのように揺らめいた。

 ──わたし、は。

 アニューの声が、聞こえたような気がした。物理的な認識ではない。意識が光の海に溶けていくような、そんな錯覚を覚える。距離も肉体も、何もかもが阻むことを許さず碧緑の光が繋いでいく。ライルが手を伸ばすように声に応じれば、アニューを封じ込めていた『何か』が動揺するのを感じる。

 ──こんな、これは、一体。

 知らない、誰かの声。それも散って、アニューの声が大きくなる。

 私は、と言った、その先は。

 

「──私は、未来を掴みたい!」

 

 その声とともに、世界が吹き飛んだような、そんな感覚を覚えた。

 時間にして一瞬。ハッとしたライルの向こうに、ダブルオーはいた。

『ロックオン、彼女を! 負傷はあるが生きている!』

『刹那……』

『急げ!』

 緊迫した刹那の声に、震える腕で破損の酷いケルディムを動かす。露出したコクピットから彼女をケルディムの手に乗せて、ライルはハッチを開けた。

『後は俺たちがやる。彼女を頼んだ』

 短く告げて刹那はティエリア達の元へ飛び去っていく。

『アニュー……っ。刹那……、ありがとう……!』

 泣きそうな声で言いながら、ライルはアニューを抱いてケルディムをプトレマイオスへ向けた。

 

 

「あの時、彼女は何者かに操られていた」

「操るって、何よ。そんなファンタジーみたいな……」

 怪訝そうにゼルデが返した。沙慈も同様だ。眉根を寄せて、彼を見る。

「トロイア・ヘクトールも、ルイス・ハレヴィも。それが全て同一人物かは分からないが、そう感じた」

「どうしてそう、言いきれるの?」

「分からない。だが、確信がある」

 だが刹那は至って真剣だ。平坦な口調で、愛する者が戦っている二人へと。

 不安げに、沙慈は言う。

「……最近の君は、どこかおかしいよ」

 今までとは、何か──そう続ける前に、フェルトの艦内放送が響いた。

 艦内のシステムチェックの為、一時的に電源をカットするという。すぐに待機室が暗くなって──そこで見たものに、ゼルデも沙慈も、絶句した。

 刹那の強い意志を宿した双眸は、いつもとは違う金色に輝き。

 二人を、射抜いていた。

 艦内の電源が復帰したあとも、二人は言葉を発することが出来なかった。

 

 

 

 ──そうだね。

 ──彼は×××にも、見えたよ。

 ──君は何をしたんだい?

 ──僕の複製さ。何もしていないよ。

 ──ああ、君は覚えてないからね。彼が同じ力を有していたとして、分かるはずもない。

 ──本人からは聞き出せそうにないし、あたしがやってみようか?

 ──問題はないけれど、彼の返答次第だよ。

 ──早く棄ててしまうべきかもしれないね。

 ──やめてよ。そしたらあれに乗る子がいなくなるじゃない。

 ──冗談さ。彼にはまだ、役割があるんだから。

 

 

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