終わらせる禁忌   作:Damned

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終わりの始まり

 時折、考えることがある。

 俺たちは、一体何なのだろうと。

 地球連邦平和維持軍。独立治安維持部隊アロウズ。そして、アイアスのパイロット。

 各々が特殊な事情や志のもとに集まった俺たちは、気がつけばそんなものになっていた。

 三年前、士官学校で力をつける最中、ソレスタルビーイングにスカウトされた俺はたった一つ条件を出した。

 グリシルデ・シュミットを守る。だから、彼女の傍に居させてくれ。それだけ。

 何度も思う。助けられる力があるのに、どうして俺は行けなかったのだろうと。

 軍規に厳しいアッシュはもちろん、ゼルデもロックさんもミルティ少佐の指示に従うのは理解出来る。だが、俺には助けられるだけの力があったのだ。驕りではない。アリオスの攻撃如きではアイアスの装甲を破壊することなどできない。その自信があった。

 軍人としては、間違っているのだろう。しかし俺は、少佐の判断が正しかったとはどうにも思えない。

 愛する彼女のことを、思い出して。

 

『貴方に会えてよかったわ、エイヴ』

 

 声が、聞こえた。

 

『私は、エイヴが幸せなら、それでよかったのよ。そのはずだった。でも』

 

 装甲の殆どが破壊され、露出したコクピットの中。今にも爆発しそうなほど火花の散るその中で、痛みはもう、感じなかった。

 それは夢か妄想か、今際の際に見た幻覚か。

 なんでもいい、と俺は思う。こうしてまた会えたのだから。

 

『私はエイヴと、未来を歩みたい』

 

 そう言って、彼女は。

 

 

 

 エイヴィリーは目を閉じている。その瞳から、涙が一筋こぼれ落ちて──そして彼は、目を開くと涙を拭った。

 医療用カプセルを開く。すぐ隣に設置されている通信用コンソールを叩き、エイヴィリーは言った。

『ミス・スメラギ。状況は』

 

 

 

 始めに感じたのは、痛みだった。声が出そうなほどの頭痛に、ニールは目を開く。白い光が見え、徐々に像を結んでいくそれが、天井である事に気づいた。特有の臭気から、ここが医務室──あるいは、病院であることは理解出来た。

「俺、……どう、して……」

 声は掠れていた。全身が疲れていて、怠い。

 小さな音を立てて、見回した先にあるドアがスライドして一人の青年が入ってくる。

「よかった。目が覚めたんだね」

 眼鏡を掛けたその向こうで、瞳が細められる。

「──あ、あ。リジェネ。治療が終わった、って所か?」

「そうだよ。体の調子はどうだい? おかしい所はある?」

「問題ねぇ、が……俺、何かあったのか?」

「心配いらないよ。アレーティアに乗ってここに来たのは覚えているかい?」

 心配げにリジェネがこちらを覗き込んだ。その言葉に、何かあったのかと首をかしげニールは尋ねた。

「君は発作を起こして倒れたんだよ。細胞異常がここまで進行しているとは予想外だったんだ」

「そう、だったのか。悪い、そこまでは覚えてねぇんだ……」

「幸い、中にハロもいた事だし大事にはならなかったけどね。治療には時間がかかったよ」

 蓋をした何かがそれをこじあけようとするように、頭痛がニールの思考を乱していく。

「なあ……、あれからどのくらい経った? 俺がここに着いてから、だ」

「三週間。アロウズの戦況も芳しくない」

 リジェネの言葉にハッとする。アッシュは、マテリアは、フォルトゥナの仲間たちは。

「アッシュもマテリアも無事だよ」

 上体を起こし、壁に視線を遣る。頭が働かずぼんやりとする。酷い頭痛がニールの思考を何度も邪魔していた。

「……ェ、リア」

 無意識に、ニールはそう呟いていた。

 まるで脳の中で毛虫が蠢いているが如く落ち着かない。皮膚の下を線虫に這い回られているかのような不快感と違和感がずっと続いていた。

「どうしたんだい、ニール・ディランディ」

「いいや、何も……」

「……君は結局、その感情から抜け出せないんだね。いいさ。どうとでもできる。ティエリアとは会ったかい?」

 リジェネがなにか、おかしい事を言っている気がする。いや、おかしいのは自分だ。リジェネの言葉は正しい。いや、……正しい? 本当に? 思考がまとまらない。頭が痛い。頭蓋を貫くような頭痛がする。

「……いいや、会ってない」

「大丈夫、直ぐに会えるさ。君が右眼を対価にしてまで救った相手だ」

 そうだ。思い出したのだ。自分の右眼は、特務機関で仲間だったティエリアを庇って失われたものだった。テロに巻き込まれて、仲間の命には代えられぬと。

 そして俺は私怨のまま、感情のままに戦って死にかけて、何年もの期間を医療用カプセルの中で過ごしたのだ。そのせいで、彼は背負う必要のなかった罪悪感を抱えてしまった。ティエリアを庇うことはできたが、救うことはできなかったのだ。

「ああ……。今度、こそ」

 押し寄せる、胸を抉るような感情に唇を噛んだ。

 俺は変われなかった。誰も救えなかった。だから今度こそ、ガンダムを倒すのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ティエリアを救うのだ。

 ズキ、とまた頭痛が始まった。なんなのだろう。何故これほどまでに頭痛がするのだろうか。頭を押さえて、頭痛が収まるまでの時間を耐える。

「……もう、出撃できるのか?」

「頭痛が治まらないんじゃないのかい? 辛そうだよ」

「いい。俺は、あいつらを撃たなきゃならない」

「分かった。手配は済ませているよ」

 その瞳はここではないどこかを見ていて、『調整』を上手くやってくれたようだなとマテリアに感謝する。

 人の感情は実に御しやすいもので、たった一度悪夢を見せてやるだけでも面白いほど操れるのだ。

 人間は脆い。一人死んだくらいで自らを壊しかねない感情を抱いたり、破滅へと進んだりする。そういう効率の悪さは、やはり人間が不完全で進化途中の存在だからなのだろうか。

「アレーティアは整備を終えて、格納庫にスタンバイしてある。また会おう、ロックオン・シューター」

 そんな感情はおくびにも出さずに、リジェネは告げた。

 起き上がったニールは、掛けられていたパイロットスーツを着用しヘルメットを掴む。

 

 あの時。

 赤い輝きが自身の目を焼いたことを覚えている。絶望した声で自分を呼んだ、ティエリアの声も。

 彼に傷ついて欲しくなくて、ニールは庇った。しかし、結局。

「俺は、何も出来なかった」

 ──だから。

 コクピットから、ハッチの向こうに広がる宇宙を睨む。倒すべき敵がそこに居る。

「狙い撃つ」

 ティエリアがもう、罪悪感を抱えなくてもいいように。

 覚悟とともに加速する。朱いGN粒子が、火花のごとく宇宙空間に散った。

 

 

 

『あれは……!』

 セラヴィーにも似た横幅のシルエット。

 夜闇のような青に、赤いライン。

 そして、両肩の巨大な盾。

 ビームの前に立ちはだかったその機体は、防御姿勢を解除すると、おもむろに両腕を全面へと向けた。

 両脚に掛けられたボウガン型のビーム兵器、GNボウiiが引き出され、展開。再びこちらに向かってきた特攻兵器を撃ち落としていく。

 第二射、第三射を間髪入れずに発射。その様に安堵したマイスターたちは破壊を再開した。

 一体、誰が。その疑問を呑み込めなかったらしいティエリアが通信を飛ばす。

『協力を感謝する』

『……ああ。今まで、済まなかった』

『その声……トロイア・ヘクトールか!』

『今の俺に、それを名乗る資格は無い。ティエリアさん、行ってください』

 じっと前を見据え、ボウとミサイルで特攻兵器を迎撃する。彼のやったこと、やろうとしたことを考えれば当然か。ソレスタルビーイングの理念を外れた大規模殲滅兵器を奪取し、世界を焼こうとした行動は明らかにエージェントとしてかけ離れたものだ。

 お小言──もっと言うならば、ティエリアからの怒声まで覚悟していたのだが。

『了解』

 短く返して、ティエリアは通信を切る。

 カタロンや正規軍の援護もあって、特攻部隊が撃ち落とされていく中艦船用のドックを発見。プラン通りトランザムで突貫したプトレマイオスは着艦した。

 依然として止む様子のない特攻を迎撃する為、アリオスとGNアーチャーがプトレマイオスの後方に位置する。ラヴィーネとテロスもそれに続いて特攻兵器を撃墜していく。残りの三機は散開し、それぞれ侵入ポイントを探す。

 その間にもフェルトが母艦内をスキャンしており、ヴェーダを発見し次第ティエリアがそこへ向かう手筈となっていた。

 特攻兵器だけではない。オートマトンも百機近く、プトレマイオスに群がっていた。

 特攻兵器を撃ち落としながらの探索の中、ヴェーダを発見したというフェルトの言葉にティエリアは頷いた。

『よくやった、フェルト!』

 彼らしからぬ言葉ではあったが、ある意味では彼らしいとも言える反応である。漸く、敵の弱点であり、己の最大の武器であろうものの位置が判明したのだから。

 直後、接近する機影に──飛来したビームに、ティエリアは目を見開いた。

 深緑と黒に染め上げられた、肩のランチャーをこちらに向けるモビルスーツ。

『ロック、オン……』

 GNフィールドの向こうに、アレーティアの姿がある。展開したランチャーは、セラヴィーを狙っていた。

 咄嗟に反応出来ず、混乱がティエリアを無防備にした。その瞬間、セラヴィーに向かって大出力のビームが放たれた。

『ぐっ……!』

 フィールドだけでは減衰しただけで機体を掠める。再び放たれたビームに母艦へ叩きつけられて思わず声が上がった。

『ティエリア!?』

『敵機の襲撃を受けた。迎撃する!』

 機体の状況を確認する。戦闘には支障なし。

 体勢を立て直したティエリアは、真っ直ぐにアレーティアを見据えた。

『ニール、僕はあなたのおかげで、ここまで戦ってくることができた。あなたの存在が僕を、人間にしてくれた』

 ──だから。

『今度は……今度こそ僕が、貴方を救う!』

 その答えは、砲口より放たれた赤い光だった。その手に握られたガンブレードがセラヴィーの装甲を撃ち抜かんと乱射される。

『待ってアーデさん、敵の対処なら私が──』

『喋るなっ。君は迎撃に集中していろ!』

 左のバズーカを連射し、アレーティアを牽制する。炸裂する数発のビームが機体を掠めた。

『ロックオンっ、やめてくれ! 僕は貴方と戦うためにここにいる訳じゃない。思い出してくれ、僕達は仲間なんだ……!』

 こんな事、こんな戦い。している余裕など、ないと言うのに。

『……だま、れ』

 お互いに顔を見ぬ通信の先。ニールは昏い双眸でセラヴィーを睨み、そう吐き捨てた。

『てめぇと一緒に、するんじゃねぇ』

 再三放たれる砲撃。しかし、チャージの短い分その攻撃の威力は低い。GNフィールドでビームを受け流しながらティエリアは逃げ回る。

『ロックオンッ』

『うるせぇ、てめぇは……てめぇは、俺の……!』

 まるで呪いをかけられたようだ。ただ怨嗟の声を吐き、セラヴィーが──ティエリアがいなくなればそれが解けると信じているように、執拗に狙う。

 火力、持続性に関してはセラヴィーが上。しかし命中率は圧倒的にアレーティアが勝っている。幾度も狙い撃たれるGNフィールドに歯噛みしながら、ティエリアは接近しようと試みた。

『来るんじゃねぇ! 誰がてめぇの仲間だっ。お前は……お前らは、世界を乱すテロリストだ!』

『違う! 間違っているのはアロウズの、イノベイターのやり方だ!』

『黙れ、紛争根絶を掲げるテロリストが!』

『ロックオン!』

『それはお前が呼んでいい名前じゃない!』

『嫌だ! 貴方が思い出すまで、何度だって呼ぶ!』

 数週間前と同じだった。ロックオンと呼ばれ、違うと怒鳴りながら銃を乱射する。

『何故だっ。何故、貴方は……』

『死ねええええっ!』

『く、……トランザム!』

 脚部の損傷をアラートが知らせる。装甲ごと撃ち抜かれたことを理解した。だが、苦しくも、痛くもない。当たり前だ。今苦しんでいるのは、痛いのは、ロックオンの方なのだから。

『なぜそんなに苦しむ!? 何が貴方を縛るんだ!』

 そう訊ね、セラヴィーはアレーティアの銃口から逃れ、まるで瞬間移動のように背後へ回り込んでいた。

 銃を握る腕に対して斬撃を叩き込もうとして瞬間、左腕で抜かれたGNガンブレードがその手を撃ち抜く。

 しかしセラヴィーは止まらない。ライフルを構えた腕を掴んで、セラヴィーはアレーティアの両腕を封じた。

 パワーでは勝負にすらならない。先の戦いと似た展開ではあるが、結果は異なる。アレーティアは抵抗するが、セラヴィーの前には意味をなさなかった。

『ぐっ』

 母艦の外壁に叩きつけられて、衝撃にニールは手を離してしまう。苦しげな呻きに酷く胸が締め付けられて、ティエリアは顔を歪めた。

『聞けロックオン! ニール・ディランディ!』

 人間ならば、呼吸が触れるほどの距離で叫ぶ。鼓膜をびりびりと震わせるその声に、ニールは目を見開いた。

『ティエ、リア……?』

 まるで、今その存在に気づいたかのように。

『どこ、だ? ティエリア……俺は、お前に謝らないと……』

『僕がティエリアだ! ティエリア・アーデだ! ロックオン、貴方はそれ程までに、僕たちが……ソレスタルビーイングが、憎いのかっ?』

 愛する母の手が、父の背中が、妹の華奢な身体が、惨たらしく歪められた様を思い出す。それだけではない。自分が庇ったティエリアが、呆然とした声で自分を呼ぶのが脳裏に焼き付いていた。

『そうだ。俺の家族はテロのせいで死んだ。お前たちのように、世界の秩序を乱す存在のせいでな!』

『……アロウズが何をしているのか、貴方は知らないのか? 鎮圧と称した虐殺、それを隠蔽し、世界を歪めているのはアロウズだ!』

『ああ、そうだな』

 なぜ自分が生きているのか、なぜティエリアを救えなかったのか。気が狂いそうなほどの憎悪と罪悪感がニールを苛んでモニタの向こうにいるテロリストを睨む。

 だから、とニールは前置きした。そして左手に握ったままのガンブレードを手放し、セラヴィーを優しく突き飛ばす。

『……ティエリア。もう、俺は、大丈夫だから……』

『ロックオン……!?』

 ゆらり、幽鬼のように、ニールがその手で操縦桿を掴んで。

 あの時とは違う、全てを諦めきったかのような、悲しげで昏い瞳が細められて。

『──だから、間違っているお前たちは、ここで撃たなきゃならない』

 瞬間、肩に固定されたランチャーの砲身から、圧縮された粒子が放たれて。

『ロックオン!』

 回避は間に合わなかった。ニールに向かって伸ばしたままの腕に、ビームが直撃する。

 それが弾けて、赤い光の中、白く戻った分厚い装甲が呑み込まれ、破砕された。

 

 

「ロックオン、ロックオン」

 繰り返し、ハロが自分を呼ぶのが聞こえていた。

 アレーティアの損傷はさほどでも無いが、ニール自身の消耗は、激しいものだった。

「……ハロ。アレーティアを、頼む」

「ロックオン、ロックオン」

「……命令、だ」

「ロックオン、ロックオン」

 憔悴しきった彼がハッチを開くのに、ハロは何度も呼びかけた。しかしニールの意思は変わらず、仲間であるはずのティエリアを殺してしまうのだろう。

「大丈夫だって。必ず、帰ってくるさ」

 それが叶わぬと、ハロは五年前の経験(・・・・・・)から知っている。否、五年前と違い相打ちになるというわけではなく、彼自身の細胞異常は進行していて、恐らくそう遠くない時間でニールの体は機能を停止するのだ。

 だが、ハロには為す術が無い。主人たるニールに強く命令されれば、それに逆らうことは許されない。かつてと同じように、また、ハロは機体のハッチを閉じて、待機することしか出来なかった。

 愛用のストリージとその弾倉だけを連れて、ニールは熱に侵された思考を冷やさんと金属の壁に体をもたれさせる。

 ひやりとしたその感触は心地が良いものの、脳を掻き回すような頭痛に、ニールはもがいていた。

 セラヴィーを振り払って落ちた場所は、砲台の破壊されめちゃくちゃになった母艦らしい。周囲には、モビルスーツや戦艦が潰れて放られていた。

 頭痛に苛まれながら歩き回ったニールが行き着いたのは、不思議な青い光に閉ざされた、一辺が二十メートルほどの空間だった。

 量子演算システム、ヴェーダの本体──青く神秘的な光を放つ球体がそうであることを、ニールは知らない。

 ──突撃してくるGN-X。

 ──動かないティエリア。

 ──守りたいと、思った。なのに、俺は。

「ティエ、リア……ティエリア……ッ」

 無性に悲しくなって、ニールは頭を抑えながら左目から赤い涙を流す。そこに、一つの足跡が近づいてきた。

「……ロックオン・ストラトス。大丈夫か?」

 砕けた装甲が腕に刺さり血を流す、紫色の髪に、赤紫の瞳をした、──俺の、敵。居てはいけない、ティエリア・アーデ(テロリスト)の姿。

 ニールは即座に彼を蹴飛ばして、床に押し倒す。ティエリアは抵抗しなかった。綺麗な顔を悲しげに歪めて、怪我よりもほかの何かが痛いというような表情でニールを見据えた。

「ロックオン・ストラトス」

 再び、ニールの知らないラストネームで、ティエリアが呼ぶ。

 ヘルメットの中に、アーデさんと自分を呼ぶミレイナの声が聞こえる。それに対して「問題ない」と返して、ティエリアは痛みに唇を噛む。

 ふと既視感を覚える。どこかで見たような光景だと、ニールは呟いた。

「ティエ、リア」

 我知らず、呼んで。ああそうか、と思い出す。

 これは、自分がティエリアをかばった時の、その直前のことだ。こんなふうに、ティエリアと呼んで、反応のない彼を心配した。

 これは、あの日の、やり直しなのだ。

「俺は結局、本当の意味でお前を庇えなかった」

 ぽた、と赤い涙が、ティエリアの頬に落ちる。

「俺が負傷したせいで、いなくなったせいで、お前は後ろめたさを心に抱えたままになった」

 あの日の感情が、ニールの胸に湧き上がる。血の涙を止められないままティエリアの細い首に手を伸ばす。

「お前を、こんな風にはしたくなかったんだ」

 手袋越しに、ティエリアの喉が空気を吸う動きが伝わってくる。

 こいつはガンダムマイスターだと『シューター』が告げる。俺の罪の結果だとニールは答える。

 こいつはティエリアではない。

 俺は俺の歪めた未来を消さなければならない。撃たなければならない。

「なあ、俺がいたせいか?」

 彼が傷つき、罪悪感を抱える未来を作ってしまったのは。

「俺が、お前を庇って。怪我しちまったから、死んじまったから」

「あなたは……なんで。どうして、そんなに縛られているんだ。そんな事に、そこまで追い詰められていたのか」

 ニールの声と『シューター』としての声が、彼の声をかき消していく。頭痛が酷くなっていく。呻きながら頭を抱える。

「ガンダムは、お前は、俺の、敵……っ。いちゃ、いけねぇ」

 身体がばらばらになるような錯覚を覚える。ニールの心とは無関係に、その意思が再構成されていく。

 ──こいつを狙え!

 ──こいつを撃て!

 ニールはティエリアから飛び退いて、叫ぶ。

「俺はッ……俺は、お前を……!」

 狙い撃つのは俺がロックオン・シューターだから。

 ガンダムマイスターとしてのティエリア・アーデを憎悪するしかないから。

 それがアロウズのロックオン・シューターとしての存在意義だから。

「ロックオン・ストラトス!」

 俺の中の憎悪が冷静に命ずる。その名の通り、世界を歪める存在を狙い撃て。

 腰に挿していたストリージが、ティエリアに向けられる。ティエリアは避けようとしなかった。ただ立ち上がって、哀しそうな瞳でニールを見て、歩み寄ってくる。

「ロックオン・ストラトス」

「来るな。俺はお前を殺さなくちゃならないっ。撃たなきゃ……」

 でないと、俺の中の、ティエリア・アーデが、救われない。

「ロックオン・ストラトス」

 涙を流し続けるニールにティエリアの目が優しく細められる。ティエリアは微笑んでいた。銃口から逃れることもせず、ティエリアはニールに右手を伸ばす。

「思い出してくれ。貴方が、僕にくれた言葉を……!」

 撃て、と『シューター』が囁く。引き金に掛かる指に、力が籠っていく。

「駄目、だ……ッ」

 銃口の先には、ティエリアがいる。なのに俺は、その手を止めることが出来ない。

「ティエリア、逃げろ……!」

 ニールは、叫んで。

 GN粒子の輝きを見た。朱い煌めきが、視界を染める。

 そして。

 

 

 

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