機動戦士ガンダム00 -終焉(おわ)らせる禁忌-   作:Damned

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前話で完結かと思いましたか? 違うんですよね、これが!
みんなの掴む未来をちゃんと見てもらいたくてまだ一話残してたんですよ。兄貴の進む道を知りたくない奴いる!?いねえよなぁ!?
ここでセカンドシーズンのストーリーは完結となります。劇場版は……書けたらいいなぁ……。


エピローグ そして変革は

 どこまでも続く、果てしない宇宙。その広さに、深さに、自分がその一部になったような気がした。

 眼前には青い水の星が見える。彼女の手には未だ、彼の肉体から魂の失せていく、その感覚が張りついていた。

 静寂の中、グリシルデ・シュミットは一度は吹っ飛んだはずの右腕を伸ばす。ソレスタルビーイングで眠っていたひと月で、全身の火傷も、失われたはずの腕も全て再生してしまった。

 クーデターの成功と同時に、アロウズは解体。地球連邦平和維持軍も再編され大きく変わった。ゼルデはそのうち一ヶ月で起きたことを、眠っていたが故に伝聞でしか知らない。しかし、アロウズの──総司令のホーマー・カタギリの思想に傾倒した一部の兵士が抵抗を続けた結果、全てが終わるのには二ヶ月近くがかかったという。

 イノベイターの支配が失われた時点で、世界は混乱に見舞われ戦線も整っているとは言いがたかった。だが、テロスを駆ってエイヴィリーはマネキン大佐及びミルティ少佐の指揮下に入り、その多大な有用性を示した。故に、厳しい監視状態にはあるもののエイヴィリーはメメントモリ強奪未遂、及びそれに付随する殺傷事件については禁固や処刑をされることはなく軍にいる。

「ようやく、終わったのね」

 そう呟き、ゼルデは手すりを掴んでいた手を放して、微重力に身を任せる。夜明けを迎える故郷が、うっすらと輝いていた。

 不意に開いた扉に、ゼルデが振り向いた。

「──ゼルデ」

 ここにいたのか、とエイヴィリーが笑う。

「エイヴ。どうしたの、こんな所に」

「ミルティ中佐が、ゼルデを呼び戻してこいって。全く、なんで通信に出ないんだよ」

「ごめんごめん。……端末、部屋に置いてて。っていうか、中佐って。昇進したんだ」

「あの人もだいぶ、戦果を上げてたからさ。残党との戦闘だって、あの人が指揮取ってたし」

 エイヴィリーの逃亡及び反逆を許した罪も問われていたはずだ。その上での昇進であろうが、それらが功績により帳消しになったという訳ではないだろう。

「……ゼルデ」

「どうしたの?」

「アッシュとマテリアさんのこと、お前が責任を感じることじゃないからな」

 彼なりの気遣いだったのだろう。いつも三人でいたから、時折アッシュを呼びそうになったり、食事の時に余分にひとつ、席を取ってしまったりする。今でも、ここに行けばアッシュが「どうした」といつもの鉄面皮で迎えてくれるような気がしていた。格納庫に行けば、マテリアが笑顔で迎えてくれるような気がしていた。

「……分かってる。二人は、ロックオンを騙して、操って、私の弱みにつけ込んで、……エイヴィリーだって」

 彼らは、ずっとゼルデ達を騙していた。それが本心からかはわからないが、敵だったのだ。

 だから、

「私が全部、助けられた筈だなんて思うのは傲慢だって、ロックオンにも言われたわ」

 だが、士官学校からの四年間が、腕の中で失われて言った体温が、どうしようもなく記憶に焼き付いて、時折彼女を締め上げるのだ。

「私ね、わかんないの。あの時、アッシュがどうして初めから私たちのGNドライヴを爆破しなかったのか。なのにどうして、命を懸けて私たちと戦ったのか。結局ちゃんと話せないまま別れることになって、アッシュは分かってもらうつもりなんて無い、って言ってたけど、私は……」

 私はきっと、どんなに話したところで彼らと道は交わらない。アッシュの主張を受け入れることは出来ないし、逆に彼の意志を変えることも出来ないだろう。

 けれど純粋に、もっと彼らと話してみたかったのだとゼルデは結論づける。

「……分かり合えるはず、なんて言うつもりはないけど。私はアッシュの──マテリアの信念を、意志を、知りたかった」

 もう決して、叶うことの無い望みであるが。

 ヴェーダとのリンクが切断されていた二人は、意識データのバックアップがなされていなかった。故に復活はできず、イノベイドにおける本当の意味で死んだのだ。

「エイヴの処分が軽くて済んだのは、これまでの働きと、マテリアが残してた計画のデータのお陰なんだってミルティ少佐が言ってた。本当かどうかはわかんないけど、私やエイヴを洗脳するなんて書かれてたらしいから。それがあったから、私たちの現状があるんだって」

 そもそも、彼女は計画に──リボンズに、逆らえなかったのだろうが。

「あの人、計画が失敗したあとのフォローも考えてたのかな……」

 彼女は完全な悪人でも、ましてや完全な敵でもなかった。でなければ、警告や遠距離射撃のあるガデッサで近接特化のラヴィーネに挑む、そして『ラヴィーネとテロスに独立したシステムを搭載する』といった行動もしないだろう。

「ゼルデ」

 彼女の背中に、エイヴィリーの掌が触れた。

 優しく抱きしめられて、ゼルデは開こうとした口を噤む。

 ゼロ距離。ゼルデは頬を赤らめて、目を伏せている。そんな彼女に心臓の高鳴りを意識しながら、エイヴィリーは引き寄せられるように唇を重ねようとして。

「……二人とも、あんまりくっついてると他のクルーからお小言貰うぞ?」

 再び開いた扉の向こうで、ニールが肩を竦めた。

「うわああぁぁっ」

「きゃああああああ!」

 二人は同時に悲鳴をあげて飛び退いた。そんな二人に、やれやれとニールは隠されていない左目を閉じる。

 トランザムしたダブルオーライザーによる、広域に渡ったGN粒子の放出。それによって、ニールを蝕んでいた細胞異常は完全になくなった。しかし、その視力が再生医療によって戻ると知っても、ニールはコンタクトや眼鏡によってその視力を矯正している。

 彼なりに、思うところがあるのだろう。

「まあ、今更っちゃ今更だけどな。漸くって感じだな、エイヴィリー」

「だだだ黙ってくださいロックさん。ッッていうか、ロックさんだって病室で……じゃなくて! それでっご要件はなんですかっ?」

 滝のように汗を流しながら、エイヴィリーはニールの言葉を遮る。途端に引き締まった声でニールは告げた。

「ミルティ中佐が呼んでるぜ。その真っ赤な顔を何とかしたら、全員出撃だ」

 真っ赤な、というのはゼルデだけではない。エイヴィリーの方も、羞恥やらなんやらで顔を赤くしていた。

「からかわないでくださいよ、ロックさん……」

「おう。二人とも、末永くなぁ」

 話を全く聞いていない。ひらひらと手を振った隻眼のディランディ大尉は、パイロットスーツに着替えるべくロッカーへと消えていった。

 

『今回の作戦は、軌道エレベーターを襲撃するモビルスーツ部隊の殲滅ですわ。久しぶりの実戦でしょうが、気を抜かないように。

 大尉、お二人のサポートをお願いしますわね』

『了解。ゼルデは特に、前に出すぎるなよ』

 ニールの言葉に、ゼルデは頷く。

『分かってますって。ロックオン、援護は任せるわよ!』

『おうよ』

 コクピットに置かれたハロも『マカサレテ! マカサレテ!』と主張する。

『ハロ、今回も宜しくな』

『リョウカイ、リョウカイ』

『発進シークエンスを開始します。ミシェル少尉、いいですか?』

『いつでもいいぜ』

『機体をカタパルトデッキへ移動、射出準備完了。テロス、発進です』

『了解。テロス、エイヴィリー・ミシェル。防衛行動に入る!』

 まずはエイヴィリーが。カタパルトから射出されたテロスは、宇宙に紛れて飛翔する。

『続いて、ラヴィーネ。発進です』

『オーケー。ラヴィーネ、グリシルデ・シュミット。出るわよ!』

 ラヴィーネは一度半壊に追い込まれたものの、そこから修繕され元に近い挙動を出来るようになった。むしろ、高性能の演算システムによりシュネーヴァルツァと同様シルトファングを蹴ることができるようになった分、機動性が増して強化されたとも言えるだろう。

 白い装甲が、宇宙に美しく舞った。

『最後に、フィーニス。出撃です』

 アレーティアの後継機、終焉の名を冠したフィーニス。

 そのコクピットに座したニールは、ヘルメットのバイザーを下ろす。

『オーライ。フィーニス、ニール・ディランディ。狙い撃つぜぇ!』

 無限に広がる宇宙空間。フォルトゥナのカタパルトから、セレスト・ブルーに染め上げられた機体が、飛翔した。

 

 

 




.



「よう。ボクは『────』。ガヴリルのパイロットをやってる」
 アロウズとソレスタルビーイングの戦いから、二年の月日が経ったある日。
 殆どのクルーが転属や退役で入れ替わった中、トルネ級戦艦フォルトゥナに新たなパイロットが配属された。
 名前をアレーティア・ヴェリタス。『彼』と同じ顔をした、しかし真逆と言ってもいいほどの人物。その存在はフォルトゥナの乗員たちを震撼させるも、彼の気質も相まって次第に周囲に溶け込んでいく。
 しかし、つかの間の平和を噛み締めていたクルーたちにも危機が訪れた。
 金属異性体ELS。
 その邂逅は、彼らに何を齎すか。


『機動戦士ガンダム00 真理の名を継ぐもの』執筆中。


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