英雄と呼ばれた男 ~引き籠もりのあがり症の俺だけれど、ゲームの最強キャラになって異世界転生したから今までの俺とは違ってバラ色の人生を送りたいと思う~   作:ケツアゴ

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英雄と呼ばれた男 ~引き籠もりのあがり症の俺だけれど、ゲームの最強キャラになって異世界転生したから今までの俺とは違ってバラ色の人生を送りたいと思う~

 とある世界のとある国のとある街、其処には冒険者達に依頼を発注する冒険者ギルドが存在した。薬草採取からモンスター退治、はたまた護衛と多岐に渡る依頼をこなせば実入りも増えるし名声だって思うがままだ。

 食い詰めた農家の次男坊や英雄を夢見て家出した貴族の若者、集まる者達も個性豊かで実力も人間性もピンからキリまで。一生雑用で終わる者も居れば無謀な真似をして命を散らす者も居て……たった数ヶ月で英雄と呼ばれる者も居る。

 

「おい、来たぞ」

 

「アレが”冥王”。隣国で王都に迫った数千のモンスターを一人で撃退した魔法使い。思ってたより餓鬼だな」

 

 その人物が姿を見せた途端、建物内の冒険者達は左右に分かれて彼の道を作り出した。漆黒のフード付きのローブを身に纏い、骸骨を模した仮面で顔の上半分を隠す小柄な少年。腰には魔法使いの証であるワンドを携え、己へ向けられる視線や言葉など意に介した様子も無く受け付けの方へと向かって行く。

 

 ”冥王”という二つ名を持つ彼が表舞台に現れたのは一年ほど前、この町に巨大なドラゴンが襲来するという悪夢が訪れた時だった。この世界の頂点に立つ生物であり、どれだけ英雄と持て囃されても所詮は人間の範疇である冒険者には到底太刀打ちが出来ない相手だ。当然、この時に町に居た冒険者達は諦めて逃亡……等はしなかった。

 

 

「仕方無いよな。まあ、精々時間稼ぎをさせて貰おうぜ」

 

「小生の魔法ならばドラゴンのブレスに数発なら耐えられる程度の炎耐性を付与可能だ。まあ、途轍もなく痛いだろうがな」

 

「はっ! 上等だ! 俺達は此処で死ぬだろうが、生き延びてくれる奴等が居るんだったら万々歳よ。所詮は何時かは散る命。だったら一花咲かせてやろう」

 

 この地に集ったのはまさしく英雄の称号が相応しい者達。自暴自棄になって挑むのではなく、自分達が死んでも想いを繋ぐ者達が、死んでも守りたい家族が居るからと覚悟を決めてドラゴンに立ち向かう。

 

 確かに彼等は人間で、ドラゴンには到底敵わない矮小な存在だろう。だが、それがどうしたのだ。例え彼等が死んだとしても、ドラゴンを足止めすれば大勢が生き延びられる。これからの生活の当てや心に残る深い傷、多くの問題は残るも全ては生き残ってこそ。

 

 

「さあ! ちっぽけな人間の魂の輝きを見せてやるよ!」

 

 怯えも後悔も封じ込め、英雄たる彼等は巨大な相手に立ち向かう。勝利条件はドラゴンの撃破ではなく逃げた人達の生存。例え命を落としてもこの戦いの勝者は自分達だと彼等は笑っていた。

 

 

 

 

 ……結論から言おう。彼等は勝利した。だが、町は滅び英雄達は死んでも人々を守りきった訳では無く、町に一切の被害を出さず、彼等の中の誰も命を落とさずに戦いは終わったのだ。

 

 突如現れた謎の人物によってドラゴンが氷漬けにされた事によって。

 

「な、なあ。アンタ、一体何者……」

 

「……」

 

 顔を隠した不審な相手、それも生物の頂点であるドラゴンを一撃で倒した相手だ。当然ながら冒険者達の一人が声を掛けるも相手は無言を貫き名乗る事無く姿を消す。

 

 

「アレは一体……。いや、分かっている事が一つ有るな。まさしく英雄だ」

 

 生き延びた自分の仲間と無事な町の姿を目にして男は呟く。そして、これが”冥王”と呼ばれる英雄の伝説の幕開けであった。

 

 とある国では巨大な盗賊団を誰一人殺さずに壊滅させ、とある国では王都に迫るモンスターの群れを撃破する。決して己の事を語らず、最低限の遣り取りだけで王族の勧誘すら受けずに各地を回って人々を救い続ける英雄。最初は気取った奴だと不服を漏らす者も居たが、最低限の謝礼や報酬だけを受け取り贅沢する姿も見せない彼の姿にそんな者も徐々に減って行った。

 

 寡黙にして無欲、決して誰も寄せ付けずに人助けの旅を続ける孤高の英雄。それが冥王と称され羨望の眼差しを集める英雄だ。

 

 

「あの、貴方に勲章授与の話が……」

 

「必要無い。それよりも依頼の受理を」

 

 今日も彼は名誉ではなく一人でも多くの命を守る為に危険な任務に身を投じる。その姿は正しく英雄だとこの場にいる誰もが思うのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、英雄とか冥王とか俺には重いから! あー、怖かった。さっさと仕事に行こうっと……」

 

 あっ、どうも。冥王です。ギルドから出た俺は注がれる視線から逃げたくって路地裏に駆け込む。心臓がバクバク鳴ってるし、冷や汗はダラダラ流れている。

 

 

「ああ、こんな生活もう嫌だ……」

 

 英雄とか呼ばれても俺には本当に荷が重い。だって俺って人と接するのが苦手な引き籠もりだったんだからさ……。

 

 

 俺は元々日本で生まれ育ったんだけれど、昔から人前に出ると緊張してマトモに話せなかった。そんなんだから高校受験も面接がダメダメで、入ったのは定員割れした底辺校。不良が多いし、目を付けられてパシりにされて、入学三日目で登校拒否の引き籠もりだ。

 

 まあ、それも十日目に便所に行く途中で階段から足を滑らせて、気が付いたら好きなゲームでカンストまで育てたキャラの肉体で異世界に居たんだ。

 

 

「こ、これで俺の人生バラ色だ!」

 

 ネット小説は好きだったし、こんな風に転生する話も幾つも読んだ。力は思うがままに使えるし、数多くの主人公みたいに英雄になってハーレムを築いてやる!

 

「おっ、早速ドラゴンが町を襲ってる。これは俺の伝説の始まりだな!」

 

 この時、俺は転生したばかりのショックで忘れていたんだ。自分がどんな人間だったのか……。

 

 

 

 

 

「……無理。他人、怖い……」

 

 はい、早速駄目でした。ドラゴンを倒したら話し掛けられたので顔を向ければゴッツい外国人の大人達。気が付いた時には速攻で逃げ出して震えてましたよ。そりゃそうだわ! 対人恐怖症の気がある俺が初対面の、それも明らかに日本人じゃない人相手にコミュニケーション取れる筈がないから!

 

「……所で今後はどうしよう」

 

 あの驚き方じゃ俺が凄く強いのは間違い無いとして、これからどうやって生きていこうか。親の庇護も無いし、日本じゃないから勝手も全然違う。

 

 何処かに雇って貰う? この力を見せれば雇い主は多いだろうし、それが一番だと思う。

 

「でも、戦争とかに使われたら……」

 

 俺は平和な国に生まれて虫だってスプレーでしか殺せない。そんな俺がドラゴンとか現実味の無い相手なら兎も角、人間を殺せるのか?

 

「いやいや、無理だって! 人を殴ったのも小学生の喧嘩以来だし、訓練受けた軍人だって心病むのに俺も病む!」

 

 想像しただけでも震えが来るし、実はドラゴン殺した事で吐き気がして来た。うん、結論から言って凄い力を持っても俺は俺だって事だ。

 

 

 

 

 結局、俺は冒険者になる道を選んだ。農業も商人も無理だし、魔法で犯罪歴を調べて問題が無ければ登録出来るからな。……にしてもこの体は割と不便だ。

 

「あっ、まただ……」

 

 この体、ハイスペックなんだけれど、そのせいで前の体と同じ感覚で動いたら力が入り過ぎてしまう。今だってフォークを折ってしまったし、何かの拍子に人を殴りでもしたらと思うと恐ろしい。その上、何か知らないけれどゲームのイベントみたいに町の危機とかに遭遇するしさ。

 

 

「お主こそ英雄だ」

 

「是非私の婿に!」

 

「王に仕える気はないか?」

 

 はい、無理です! 自分で頑張って得た力なら兎も角、”厳選な抽選の結果、懸賞に当選しました”みたいな感じで手に入れた力を評価されても自信なんか湧く筈もない。

 だから貰える物だけ貰ったら姿を消して、仕事だって一人で出来る討伐系ばかり。最近じゃ吐かなくなったけれど、最初は生き物殺したショックで吐いてたよ。

 

 

 え? 危険に近寄らなければ良い? いや、そうなんだけれど危ない目に遭う人が居るのを知っていて見捨てたら魘されそうだし。道端に怪我人が転がっていたら何もせずにスルー出来ないのと同じだよ。

 

 

 贅沢? 何か注目されそうで嫌。基本的に一般人の感覚が抜けないし。

 

 

 

「……さてと、仕事に行こうか」

 

 お金を貯めて引きこもるにも今の俺じゃ人が集まりそうだし、こうして孤高の戦士を演じている方が幾分か気が楽だ。……ギルドに入るなり注目されたプレッシャーで今も吐きそうだけれどさ。

 

 

 

 

 

 

「矢っ張り人間って簡単には変われないよって話だな」

 

 まあ、それでも俺はこの世界で生きて行く。他人が苦手な小市民なのは変わりそうに無いけれど……。

 

 

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