ありふれていない『天の鎖』で世界最強   作:如月/Kisaragi

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Ep.8

Ep.8です。この話の投稿によって、なんと記念すべき十話目を迎えることになります。

見切り発車&無計画で発進したこの小説がこのような節目を迎えることができるのも読者の皆様のおかげです。ありがとうございます。

 

いつも感想を送っていただいている方には常に言っているのですが、感想送信ありがとうございます。

なるべく返信をしていけたらと思うので、これからもどうかよろしくお願いします。

 

そして注意事項です。この話の中で皆さんの中にこれは違うだろとか、筆者は何を言っているんだと思い不快になる方がいると思われます。それが気に食わなかった場合はブラウザバックを推奨したいと思います。

 

そんなわけで本編に参りたいと思います。それではどうぞ。

 

前回のあらすじはなしです。

 

 

 


 

 

 

小説版で読んだとおりの、壮絶で辛い人生の有様を俺は聞き届けた。

辛い人生だったのだろうと、当然のような感想を抱く。実の父親を早くのうちに失い、そこから受けてきた母親の厳しい虐待。聞けば聞くほど、俺はこの中村恵理の境遇に憐れみを抱くと同時に何が何でも助けなければという思考に至った。

 

「……そうか。辛い道を、歩んだのだね」

 

そのための一歩目となる言葉を発する。自殺を止めて、尚且つ普通の女の子として生きることができるようになるために、本当の父親の呪縛から恵理のことを解き放つために言葉を紡ぐ。うまく言葉がまとまりそうにないが、ここで彼女の事を救わない限り、きっとこの先に待ち受けているのは地獄になるのであろう。

だからこそ、俺は纏まらない言葉を何とか一つにして口を開いた。

 

「赤の他人だからこんなこと言われると嫌な気持ちになってしまうだろうけど。恵理、君に覚えてほしいことがあるんだ」

 

何故なのだろうか。今ならうまく伝えられそうになかった言葉が言えるような、そんな気持ちになる。これも一種の集中状態から入るゾーンなのだろうか。そんなことを考えながら口を開いた。

 

「恵理。君は父親に呪縛されているんだ」

「――呪、縛……?」

 

呪縛という言葉を聞いた瞬間、恵理の顔が少し顰められる。呪縛という言葉に納得がいかないというような表情で、彼女は俺のことを見つめてきた。やはり、きつくいわなければならないなと思いつつ俺は声を掛けた。

 

「そうだ。君は父親が死んだのは自分のせいだと、そう思っている。確かにそうかもしれない。……でも、それを何時までも自分のせいだと思うことは呪いだ。それは余りにも傲慢すぎることだよ」

 

そう、傲慢なのだ。

あくまでも個人の所感になるが、例えば自らの祖母が病気で亡くなったとする。それで死んだことを病に気づけなかった自分が悪いのだと思い、いつまでも自責の念に駆られることは個人的に傲慢だと思う。とてつもなく口の悪い言い方をするとすれば、人間なんていつか死ぬものなのである。それを自分がああしていれば止められた、とか思うのは筋違いな気がするのだ。事件は簡単には止めることはできないと思うが、事故や不慮の事態なんてこの世界で数えてみれば何件も存在する。

だからこそ傲慢。俺はそう断じて恵理に物申した。

 

「……それなら、私はどうしたらよかったの……」

 

弱弱しい声が耳に届く。彼女の聡明な頭脳は、その事実を早く認識してしまったのだろう。

こういうのは洗脳になってしまいそうで少し怖いが、やるしかないのだ。依存癖をなくすこと。そして一人の女の子として過ごしていけるように、できる限り助けてあげること。それが俺にできることなのだ。

 

「それなら、今から新しい自分として生きていけばいい」

「新しい、自分――」

「うん。今の母親も、自分のことを大切にしてくれてきたであろう父親のことを忘れるなとは言わない。でも君は立派な一人の女の子なんだ。自分の手で、自分の足で、自分の力で、道を切り開いていくんだ。そのための手伝いはしてあげるよ。……後は、君の意思次第だ。中村恵理、」

 

君は、どうしたいんだい。

俺は強い口調で、そう問いかけた。

 

これがきっと、運命の分岐点。

この先の道行を大きく決める、大きな大きな分岐点になるのだ。

 

恵理は、何かを決意したかのような強い目で、俺のことを見た。

そこには今までの中村恵理はない。真新しい中村恵理が、そこにはいたのだ。

 

「――私は、決めたよ。新しい自分に、なって見せる。だからこそ、天臥久鎖李君。力を、貸してくれますか……?」

 

力強さと勇気を感じさせる強い目で、中村恵理は遂にそう言い切った。

その選択に俺は満足して、恵理の顔をしっかりと見て告げた。

 

「勿論だとも。君の新しい道行を、僕が手伝ってあげようじゃないか。これはその偉大なる、第一歩だとも」

 

なんだかこういうことはグランドクソ野郎(マーリン)が言いそうなことだなと自嘲しながら、俺は恵理の差し伸ばしてきた手を取った。

そして俺たちは、早朝の橋桁から去っていった。

 

その後ろ姿は何よりも勇ましく、そして新たなる希望に満ちた大きな後ろ姿だった様だ。

後に中村恵理は執筆した自伝の中で、このワンシーンのことを『運命の早朝』と名付けて、その日のことについてこう語った。

 

【あの日こそ自らの人生が大きく変わった日。中村恵理という一人の少女が大きく変化を遂げて、自らの足で初めて道を切り開く決断をした日なのである】

 

因みにこの自伝に関しては何ととても高い評価を受け、文学界に長い間名を残すことになる著名的な本になったのである。

そのことを知る者は未だこの世にはいないが、少なくとも俺は思うことができたのだ。

 

これで、ハッピーエンドに向かって一歩前進することができたのだな、と。

 

 

 


 

 

 

【自分の手で、自分の足で、自分の力で、道を切り開いていくんだ。そのための手伝いはしてあげるよ。さあ、中村恵理。――君は、どうしたいんだい】

――中村恵理自伝『異世界召喚と自らの運命の物語』より

 

 

 


 

 

 

こうして中村恵理という人間は大きく変わった。

これまでよりも積極的に周りに溶け込むために努力をし始めた。そこから中村恵理に向けられる評価というのは大きく変わっていった。友人が沢山できて、前のような暗さを見せないほどには成長を見せていた。

また恵理は住んでいた家から逃げ出し、しばらくの間俺の家で住んだ後に雫の家に引っ越していった。一種の居候というかそんな感じである。そこから雫ともとても仲良くなり、よく学校でも仲睦まじく話しているのを目撃するようになった。

 

一方で恵理の義父親と母親は法の裁きを受けることになった。

それもそうである。これまでのことを恵理が洗いざらい吐いて、両名に懸けられる罪罰は更に重くなったのである。

 

そしてそれを達成するための大いなるきっかけになってしまった俺は、大きなため息を吐いた後に家のベットにごろんと寝ころんだ。此処に至るまでとてつもなく大変な道であったなと、これまでの道行を想起し始める。

しばらく自分がこの世界にもたらした影響を考えていると、なんだか眠くなってしまった。

 

「……やれやれ……僕もやはり、疲れていたってことなのかねぇ」

 

瞼を閉じる。

この目を閉じても死ぬ訳ではないのだ。死ぬことに対して諦めを持っていた前世の俺はもういない。ここまで自分なりに全力で駆け抜けてきたのだ。それなら少しくらい休んでも文句は言われないだろう。

そう思ったのち、俺は自らの手から意識を手放した。

 

寝る直前に、しっかり休みなさい、と聞こえたのはきっと幻聴ではなく彼女()の本心からの言葉なのだろうと思いながら。

心地よい微睡の中に、俺は誘われていった。

 

 

 


 

 

 

ということで第一章の起動 -The beginning- は終了となります。

ここから先も勿論話は続きます。原作に入る前の小噺的なアレを書いていきたいなと思います。

所謂閑話というやつですね。

 

しかし話の通し番号はそのまま続いて行きます。

暫く本編には入れないことになりますが、そこはご了承ください。

 

ということで読了ありがとうございました。

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