ありふれていない『天の鎖』で世界最強 作:如月/Kisaragi
第二章に入る前の閑話です。
所謂本編に入る前のお茶濁し的なアレになります。
閑話は短編を少しずつ投稿して繋げて一話にするみたいな判定で投稿していきます。
今回は影の薄いあの人とオリ主、そしてその周囲の人々の関わりについての小説です。
この人も原作よりかなりキャラが変わることになるかと思います。
ということでEp.9、どうぞ。
【疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲートとの出会い】
秋も終わりに差し掛かり、すっかり冷たい空気の吹く季節になった。
身の回りの人たちが冬の装いになっていくのを楽しむ季節。それが俺にとっての冬である。
因みに俺はもっぱら寒いのが苦手という訳ではない。むしろ苦手なのは高温多湿な夏である。
冬が好きかどうかと聞かれると、その問いには答えることができない。夏よりは好きではあるが。
そんなどうでもいいことを考えつつ、俺は目の前の光景を目にする。
「開け!開けってんだよこのポンコツ!」
……そこには。自動ドアの前に確かにいるはずなのに、自動ドアが反応してくれない可哀想な人物がいた。
間違いなく、そいつの名前は遠藤浩介。ありふれ世界において『人類最強格』とか『深淵のアビスゲート卿』とか『魔王の右腕』と呼ばれていた人物が、そこにはいた。
奴のことは当然ながら原作キャラなので知っている。こんなところで遭遇するとは思ってもみなかったが。
その影の薄さは世界一と言われており、自動ドアが三回に一回しか反応することがない。他にも話しかけていても気づかれない、大声で叫んでもスルーされる、挙句の果てには順番待ちの最中で他人に追い越される、そんな人間である。
「……」
何とも言えない気持ちで自動ドアと格闘する男を見つめる。
この男は生まれてくる時代を間違えてきたのではないか。戦国時代であったら確実に忍者として活躍できただろう。ここで肝心なのは、決してニンジャではないということである。そんなどうでもいいことは置いておいて、彼は強い人間である。その強靭な精神力、そして影の強さを用いて外伝主人公にもなった男。正直に言うのであればそんな浩介と友人になりたい。そう思った俺は目の前で悲しみに沈む男に話しかけていった。
「君、一体どうしたいんだい?」
「……え?おいアンタ、俺が俺のことが分かるのか!?」
「おぉ……びっくりした。うん、僕には君のことが正しく見えているとも」
すると浩介は目を輝かせて俺に詰め取ってくる。その姿はまるで尻尾を振る飼い犬のような忠犬みたいな雰囲気を醸し出していた。そしてその目からは涙が少し出てきていた。きっと見つけてもらえたことが嬉しかったのであろう。物凄く嬉しそうにしながら浩介が話し始めた。
「なあ、あんたの名前を教えてくれよ!それで友達になってくれ!」
「あ、ああいいとも。僕の名前は天臥久鎖李だ。君の名前は何だい……?」
「俺の名前は遠藤浩介!よろしくな、久鎖李!」
こうして俺は、新しい友達ができたのである。……嬉しい。これまで友達と呼べる存在が全然いなかったからこそ、とても嬉しい。あと言っておくが、別に俺は友人が少ないわけではない。少ないわけではないのだ。ただよく話す友達が少ないだけで、普通に友達はたくさんいるのだ。なんだか虚しくなってきたな。ついでに目からしょっぱい水が出できた気がするし。
そんな虚しい気持ちやこんな嬉しい気持ちは置いておいて。
こうして俺は、遠藤浩介と友達になったのだ。
【ありふれた日常の一幕】
ゆっくりと家の炬燵で暖を取る。本日は12月31日、年末であった。
テレビから流れてくる番組はみんながみんなバラエティー番組。去っていく年に思いを馳せながら、やって来る新しい年に願いを告げる。それが大晦日、そして正月の役割だと俺は思う。
そして今日という日は本来、家族と過ごすもののはずなのだ。
しかし今、俺の家にはたくさんの友人が来ていた。
まずは白崎香織。何やら天之川光輝に追われていたらしいが、ここに逃げ込んできたようだ。ここなら天之川も来ないと思ったのだろう。香織も中々に天之川のことを嫌いになったらしい。今はみかんを食べながら顔をふにゃりとほころばせていた。
次に坂上龍太郎。彼は何やらきらきらとした表情で俺の家をめぐっていた。
彼は単に暇だったから来たとのことであった。今は漫画のたくさん入った本棚から漫画を取り出して読んでいた。題名は『グラップラー刃牙』であった。……あっ(察し)。悟りを開いてしまった俺は、すべてを諦めた。これがまさかうちの龍太郎のルーツになるのか……そんなことないよね?
そして遠藤浩介。彼は俺たちの中でしっかりと認知されるほど俺たちの間ではしっかりと雰囲気を残していた。自らのことをしっかりと認識してくれる友人を得てからというもの、彼はよく俺や龍太郎たちと積極的に話すようになっていた。今もにぎやかにトランプを俺とさらに他二人としていた。
その二人のうちの一人が中村恵理である。彼女は眼鏡をかけることもなく、髪の毛を女の子らしくして俺たちに混ざっていた。
その内に恵理は学校の中で男子たちの憧れの的となったのだ。そんな彼女はこれまで告白の悉くを切り捨てていたが。
それでもって、俺の隣に当然の如くいるのが八重樫雫であった。
彼女はのんびりしながら炬燵にて香織の剥いたみかんをつまみながら恵理のトランプを引いていた。
そして早抜けしていった。因みにやっていたのはババ抜きである。
「はい、私の勝ちね」
「……負けた、かぁ」
そして勝ったのは雫のようであった。浩介は見事1抜けし、俺が二抜け。雫が三抜けで恵理の負けで終わったしまったのである。
年末なのにこんなのんびりしていてもいいのかと思いつつ、俺は再びトランプを切り始めた。
ゆっくりしながらグダグダしていると、何ともう11時を回った頃の時刻になっていた。
正直話の展開が早いが、それを気にしてはいられない。何故なら既に除夜の鐘が鳴っていたからだ。
「今年ももう終わりなんだね」
香織が感慨深そうに声を上げる。今年は一年間を通してずっと濃い一年間になったと思う。
ごーん、ごーん、と音が鳴るたび、これまでに起こった出来事を想起することができた。
龍太郎たちとの出会い。天之川との訣別、雫の救済。そして浩介に出会い、こうして恵理と共に年を越すことができることになった。
「おう。それでも俺たちの関係はまだ終わりにはならないぜ」
龍太郎がこれからの未来を予言する。俺も同じことを、考えていた。
きっと俺たちが変わっても、友人としての関係は変わらないのだと。そう、深く思うことができた。
「……俺、久鎖李たちと出会えて本当に良かったと思うよ。これからも、よろしくな」
「あーっ!?浩介、それ私も言おうとしていたのに!」
浩介が感謝の気持ちを言葉に乗せて伝えると、そのセリフを取られてご立腹になった香織が浩介に躍りかかっていった。何というかやはり、行動力高い系女子なのだなと再認識することができてしまった。
「私も。こうやって久鎖李君に出会えて、良かったと思うよ。明日からも、よろしくね」
恵理が儚い微笑みを浮かべながら、俺にそう告げる。心の奥深くが温かくなり、その微笑みに釣られるように俺も笑うことができた。
皆がいてくれることの喜びが、何よりも嬉しくて。何よりも、いいものだなと。そう再び思うことができた。
「……久鎖李。今までありがとう。そして……」
107回目の除夜の鐘が鳴る。
そして全員が声を合わせるようにして、俺に向かって告げた。
「「「「「明けましておめでとう。今年もよろしくね」」」」」
それに俺は精一杯の笑顔で答えた。
みんなと一緒に居られることの喜びと、嬉しさを込めてこう言った。
「勿論。今年もよろしく頼むよ、皆」
そう言って、俺はみんなの下に向かって微笑みかけながら言った。
108回目の除夜の鐘が鳴った瞬間。俺たちはみんなで走り始めた。目指していくのは、ここにほど近い神社。
走り始める。その先にきっと、俺たちのさらなる旅路は続いているだろうから。
儚くも脆い、けれどこの旅路は刹那の時しかないように見えて、実は無限に続いている物語であるのだ。
だから。これからも一緒によろしくね、皆。
口にも出したその一言を、俺は心の中で再び告げた。
【剣聖・八重樫雫】
正月になったということであいさつ巡りに出る。
全ての家に周り終わったことを確認した後、俺は雫の元を訪れていた。
「こんにちは、久鎖李。今日は一体どうしたのかしら?」
小首をかしげながら告げてくる雫に癒されながら、俺は他愛もない話をしようとして。
ふと気づいたことがあったので、尋ねてみることにした。
「……聞きたいことがあったんだった。雫、1つ聞いてもいいかい?」
「え?何よそんなに深刻そうにして。何かあったの?それなら私が力になるわよ」
「いや。別に何かあったわけじゃないんだ。雫」
――君は、斬撃を飛ばすことってできるのかい?
常人であれば卒倒しそうなことを、俺は聞いた。
漫画の世界において飛ぶ斬撃とは当たり前のように存在するものである。
男のロマンの一つに分類されるもので、誰しもやってみたいと思ったことがあると思う。俺は実際にやってみたいと思ったことがある人間の一人だ。
俺の好きな作品であったFate/シリーズにもこの飛ぶ斬撃は出てくる。佐々木小次郎の宝具、燕返しのことだ。
厳密には違うのかもしれないが、俺はわかりやすいからということで飛ぶ斬撃をイメージするようにしている。ただそれだけの事である。
格好いい技に憧れを示すのは、何というかオタクの性なのかもしれないな。そう自嘲しながら聞いてみる。
正直に言うと、きっと雫はできるわけないわよというのかもしれないなと思いながら、冗談半分で聞いてみることにしたのだ。
もしできると言われたらきっと俺は卒倒するだろうなと思いつつ、その問いの答えを待った。
「斬撃を飛ばす?……何を言っているのよ、久鎖李」
雫は若干呆れを交えながら俺に視線を向けてくる。
流石に無理なのだろう。俺はこの反応を見てほぼ確信に近い考えを抱いた。
さすがの雫であっても、そんなことはできないのだ。やはり雫は人の子であるのだ。俺はそう思い、安堵した。
「そんなこと、
そう、雫が斬撃を飛ばすことができるという事実に安堵したのである。
そうかそうか、雫、つまり君はそういうやつなんだな。すごい人間だよ貴女は。まさか斬撃を飛ばすことができるなんて。
………………ほんとうに、すごい、やつだよ、雫は……。
この日から俺は、雫の逆鱗に触れるようなことは絶対にするものかと、そう強く心に誓った。
俺は自分の命をやすやすと捨てるほど死に急いでいるわけではないのだ。だから死んでたまるか。俺は雫に対する信頼感と畏れの感情を持ったのであった。
因みに俺もやってみたいと思って少し剣を振ってみたところ、できてしまったことを此処に報告しておきたいなと思う。
本日の連続投稿はここまでとなります。
もう一回閑話を挟むか本編に突入するかは未だに未定です。しかしそろそろ原作に行きたいとは思っているので、これからも動向を少しだけでもいいですから見守っていただけていると幸いです。
それではまた次回でお会いしましょう。