ありふれていない『天の鎖』で世界最強   作:如月/Kisaragi

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大変長らくお待たせいたしました。少し落ち着いてきたので一話投稿していきます。投稿が遅れた理由は活動報告に記載してありますので、確認してないよという人は確認に行っていただけると幸いです。




第二章 始まりの合図が轟いて -Start to Enkidu-
Ep.10


Ep.10です。

 

第二章開幕。正に今此処から、この小説における最強の系譜が幕を開けます。

原作らしさを出しながら、さらに面白い小説にしていきたいと思います。応援のほど、よろしくお願いします。

 

 

 


 

 

 

月曜日。それは誰もが登校するのを嫌い、陰鬱な気持ちになる日。一週間の中で最も憂鬱で、世界の総てを呪いたくなるような、そんな日である。今もこうして登校していたり、仕事に出ていたりする人は皆、これからの一週間にため息を吐き、前日までの天国を思いながら逃げ出したくなる欲求に取りつかれることになるだろう。

 

それは俺――高校一年生になった天臥久鎖李――にとっても、同じことであった。

はぁ、とため息を一つ。昨日までの楽しかった日々を想起しながら、今日から始まる陰鬱な学校生活への嫌な気持ちを募らせる。

それは何故なのか。理由としては複数ある。

 

まず今年から、遂に原作が始まることになるから。

何時の季節になるのかは全然知らないのだが、間違いなく今年から原作が始まると言える。

 

そして次に、毎日の様にうるさいアイツがいること。最初の方は何も思うことがなかったのだが、少しずつ日時が経っていく度に辟易するようになり、最近では鬱陶しいを凌駕してもはや無関心の領域にまで至ったあいつのことである。もうお分かりであろう。その人物とは自己中心的な解釈と歪みに歪んだ正義、そして無駄に格好いいイケメン君のことである。

 

そしてこれが一番深刻。前に挙げた三つよりもさらに深刻な、俺の頭を悩ませる問題があった。

それ即ち、俺の幼馴染にして人外の境地に人間にして至ったサムライガール、八重樫雫のことである。

最近、というか高校に上がってからというもの、物理的な距離も精神的な距離もどんどん近くなっているのだ。具体的には俺の腕に柔らかい間隔が当たって、耳に息がかかるくらい。一般の男子たちならもはや血涙レベルの事であろう。学園の()()女神のうちの一人に抱き着かれて、しかも抱き着いている側もとてもうれしそうにくっついてきているからだ。

 

だが問題はそこではない。問題なのは俺の精神面である。

相手は八重樫雫。つまり当然のごとく美少女である。小学校の頃よりも遥かに成熟した肉体は最早そこら辺の女優が泡を吹いて失神するレベルで黄金律を行く肉体となっている。歩くだけで周りからの視線を独り占めにし、男女問わず好かれる。そんな美少女に、俺の最初の友達にして幼馴染はなっていたのだ。

 

正直に言おう。前世が童貞の俺には刺激が強すぎる。

今は最早オスミウムやオリハルコン何てレベルではない鋼の心でもってスルーするようにしているが、内心はもう恐ろしいくらいにビビっている。時折死にそうになって、自殺を試みようとするレベルで雫は成熟していた。コワイ。しかも気づいた時には背後に居たり隣に居たりするのである。アイエエエ!と心の中で言った回数は数え切れないほどだ。ニンジャコワイ。

 

そんなこんながあるので俺は学校には行きたくない。しかし行っておかないと召喚に巻き込まれることにもならない上に、雫が家に上がってきて捨てられた小動物を彷彿とさせる目で見てくるので行くことにしている。なんやかんやで俺は雫に甘いのだなと自認する。まるで親みたいだな。

 

そんなことを考えながら教室のドアを開く。

すると俺を殺意MAXの視線で見つめると同時に、舌打ちしてくる男子四人組がいた。彼らの名前は通称『小悪党組』である。檜山大介、斎藤良樹、近藤礼一、中野信治の四人組で、原作でもロクな運命を辿っていない哀れな小鹿達だ。救済も考えたが、天之川同様救いようもない屑だったので救うことを諦めた。

 

他の男子たちはおおむね好意的な目で俺のことを見てきている。このクラスの意見や対立の仲裁を積極的に行っているからだろう。天之川もやるにはやっているが、どうしても禍根の残るような形で毎回仲裁しているのであまり好意的な目では見られていない。

 

そして女子たちも、男子たちと同じように好意的な目で見てくれている。だけど俺と雫が毎回話しているときに黄色い声を上げるのは勘弁してほしい。そこに香織や恵理が来た時に小声で「これが略奪愛!?」とか「リアルハーレム?」とか「此処にキマシタワーを建てよう……」とか言うのもやめて欲しい。切実に。この前なんて同人誌のネタにされるところだったんだぞ。

 

これも俺が学校に行きたく無くなる理由の一つになっている。毎回同人誌発行の許可を取るために突撃してくる女子たちを撒くのに疲れるからだ。最近はなんか雫が来た途端に萎縮しているけど。その時に顔も青ざめさせていたし、一体何があったのだろうか……?

 

「おはよう、久鎖李」

「ああ、おはよう浩介」

 

教室に入ってきていの一番に話しかけてきたのは遠藤浩介。その持ち前の影の薄さは今も遺憾なく発揮されている。現にこの教室にいる人間の中で浩介の存在に気づいているのは俺だけだ。今現在来ていない人以外に浩介を認知できるのは雫、恵理、龍太郎、そして香織。さらにもう1人だけである。

 

「今日も僕が一番最初に気づいたみたいだね」

「もう気にしていないさ。今は全力で気配を隠しているんだ。……気づかれるとは思わなかったけど」

「その気配の隠し方なら、恵理と龍太郎、香織は完全に気づかないと思うよ。()が気づくかは微妙だね。彼、そういうのには敏感だから気づくかもよ」

「雫は……まあ、絶対に気づくだろうな。なんなんだよ本当に、って言いたくなるほど人外染みてるし」

 

この会話から予想できた通り、浩介は既に深淵への第一歩を踏み出している。これステータス計るときになったら多分バグキャラになっているんじゃないかな。雫は当然のことだけど。最近の雫は飛ばす斬撃の数を増やす鍛錬とか、斬撃の時間をずらす鍛錬とか、縮地を応用して刀を振る速度と斬撃の速度に差があるように見せかける鍛錬とかをしているらしい。本当に何の高みを目指しているのだろうか。俺は訝しんだ。

 

「おはよう、久鎖李!今日も早いな」

「天臥君、おはよう。……やっぱりまだ来ていないかぁ」

「おはよう久鎖李。香織はいつも通りだから気にしなくてもいいわ」

「……あれ、私もう言うことない感じ?取り敢えずおはよう、天臥君」

 

そして俺の後に送れるような形でやってきたのはいつものメンバーである。全員が浩介には気づいていない様子。龍太郎はいつも通り豪放磊落なように見せかけておきながらクラスの様子に気を配っている。香織は話の中にも出てきた彼を探しており、雫は苦笑い。自分の幼馴染の恋を応援するような形で、最近は男を落とすためのアレコレを教えているらしい。それ普通の人に教えてはいけない奴じゃないですかね。恵理は言うことが全て取られたらしく、普通に挨拶を返してきた。

 

因みに恵理は学校の中の三大女神の一人に数えられるほどの美人となっている。香織や雫に比べると人気が低い様に見えるが、十人に聞いて九人以上が美人だと言ってくるような魅力を備えている。最近はどうやら告白されたらしく、それを呆気なく突っぱねていた。原作通り谷口鈴と仲が良いようだ。これなら裏切るなんてないね。

 

「おい、聞いているのか天臥!俺もいるぞ!というかお前、挨拶くらい返せ!」

 

そしてどこからか聞こえてくる声。一回祓った方がいいんじゃなかろうか。いやはや地縛霊とは恐ろしいね。さすがの俺であっても少し気持ち悪く感じるくらいだよ。本当に。因みにイツメンの方たちは全力でシカトしている。人望無くなりすぎで草。それでもうちのクラスの意見って大体天之川主体で進んでいるんだよね。これが不思議。

 

そんないつもの朝を満喫していると、教室に入ってくる人物が一人いた。

黒髪黒目。The、日本人という風貌と普通過ぎる顔の持ち主。体躯も大きくなく、本当にただの一般という感じしかしない男が教室に入ってきた。

彼の名前は南雲ハジメ。この世界の主人公にしてやがて最強に至る男。そんな彼が教室に入ってきた。

 

「あ、皆来ていたんだね。おはよう」

「おう、遅かったじゃないかハジメ。ところで新作はまだか?」

「あ~。まだデバッグとバグの修正、あと細かいところが完成しきっていないからもっと時間がかかるよ」

「それだったらみんなで手伝うぜ?困った時はお互い様だしな」

「うん、そうしようかな。ありがとう浩介君」

「「「「え、居たの(かよ)浩介(君)!」」」」

「いよっし!今日は俺の勝ち!」

「……貴方たちね……」

 

ご覧の通り、いつもの皆とハジメは仲がとても良い。この会話から予想できる通り、俺たちもハジメの仕事……というか趣味……?の手伝いをしている。デバッガー、プログラマー、その他諸々の仕事もしている。なんなら俺たちだけでゲームも作った。前世の知識を活用して面白いゲームを大量に作ったりもした。それは現在、ハジメの両親たちの会社で一般販売されている。

また、ハジメは確率は低いものの本気の浩介の隠密を見破ることができる。そこら辺は原作と大きく違うところだ。オタクであるとはいえ授業は寝ずにしっかりと受けているし、真面目だ。しかし常に人気者たちの視線を独り占めしているという理由で、ハジメは疎まれることになっていた。

 

「取り敢えず、授業の準備をするとしよう。今日は月曜日だ、ここでしっかりやってこの一週間を乗り切るとしよう」

 

そう俺が言うと、皆が思い思いの掛け声とともに自席へと去っていった。

……自分でも思ったことだが、この声に慣れてきたものだなと思う。エルキドゥのロールプレイもある程度はしっかり出来るようになったことだし、この躰に転生できて本当に良かったと思うことができる。

 

そんなことを考えながら俺は、朝のHRをのんびりと過ごしていた。

 

 

 


 

 

 

昼。

それは、戦争の時間でもあり、同時に食事の時間である。

 

午前最後の授業が終わったのち、生徒たちは購買へと駆け出した。お決まりの風景である。因みに俺は雫から食事をもらうので走りに行く必要もない。なんと素晴らしき世界なのだろうか。

 

「……はい。どうぞ」

「うん、ありがとう」

 

この会話も最早お決まりの事である。まるで新婚夫婦だなと思ったやつは正直に手を上げなさい。

誰に向かって言っているかはわからないけど。

弁当の中身は栄養のバランスが取れていて、尚且つとても量が多いという俺にとっては嬉しい以外の何物でもない弁当になっていた。

 

早速一口頂く。塩分濃度が濃すぎず、箸が進みやすい味付けの仕方になっているということに舌を巻いた。うまい。

いつものごとくこれを食べられている俺はやはり幸せということなのだろう。

 

もっきゅもっきゅと弁当を食べながら教室内を見渡すと、香織がハジメにアタックしていた。青春はいいぞ。本来ならハジメはここで香織の誘いを断るのだが、この世界のハジメは紳士である。とても眠たそうな顔をしながらもしっかりと香織に答えて、弁当を食べ始めた。

 

「……やっているねぇ」

「……やっているわね。何というか、幼馴染の成長をこんなところで感じるとは思いもなかったわ」

 

ここに老人が一名と保護者が一名湧いた。香織は何と言うか昔から行動力があったから、こうしているのを見ると成長を感じずにはいられないのだ。まるで我が子の成長を見守る母親と、孫が元気に育っていくのを見ているおじいちゃんみたいな気持ちになる。普通に考えるとカオスだが。

 

そして天之川がハジメに何か言っている。それに辟易するハジメと香織。これあれだろ、今頃ハジメこう思っているだろ。異世界召喚されればいいのにとか思っちゃってるだろ。

 

事実ハジメはそう考えていた。皆異世界召喚されればいいのに、と。

そしてそれを俺は直感センサーで感じた、という訳である。

 

そして俺の直感センサーは憎たらしいほどに有能である。全力でここから離れろと警鐘を鳴らしてきたのだ。

まさかと思い天之川の足元を見てみると、そこにはやっぱり魔法陣があった。

 

「みんな、教室から出て!」

 

社会科教諭にして担任の畑山愛子先生がそう言った瞬間、教室に光が満ちた。俺やいつものメンバー全員はいつも肌身離さず持っているようにと俺が言った鞄を持って、光に飲み込まれていった。

 

そして暫く経った後、世界から数十名の人間が消えた。

この超常現象は神隠しとして、しばらくニュースに取り上げられる大事件となったのである。

 

 

 


 

 

 

<???>

 

「……そうか。まさか、奴が来るとはな。これはなるほど、面白いことになりそうだ。我の依代としては十分すぎるほどよ。……のう」

 

そこから先の声を、聞き取れたものはいなかった。

恍惚の表情を浮かべながら、自らが全能の神だと信じて疑わない愚かなる者は考える。

唯一つの目的を、そしてそれを達成するための謀略を。

 

黒き悪意の渦は、大きなうねりを持って世界を包もうとしていた。

それを暗示するかの如く、その世界で黒い雷雲が天を一瞬の間覆っていた。


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