ありふれていない『天の鎖』で世界最強 作:如月/Kisaragi
ネタの使いまわしになってるけど、待たせたな。
ということでEp.20です。
前書きで言うことのネタが何もないので、本編行きます。それではどうぞ。
橋の上では、メルド団長と光輝が口論をしている。光輝のリーダーシップが必要であることを理解している雫やその他の実力者グループは、光輝のことを後ろの応援に行かさせるために全力で説得を試んでいた。
「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」
「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」
「くっ、こんな時にわがままを……」
二人の口論はいつまでたっても納まるところを知らなかった。口論が平行線の状態で終わりが見えないことと光輝が話を全く聞いてくれないことに対して、メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。一方の光輝は自らの力があればあの怪物を倒せると本気で考えている。このようにして互いが互いの考えをぶつけ合い、引こうとしていないのだ。
ベヒモスは依然として障壁に向かって衝突を繰り返していた。
障壁に衝突するたびに壮絶な衝撃波が発生し周囲にまき散らされており、石造りの橋が悲鳴を上げている。障壁もすでに破られる瀬戸際の段階に至っている。最高硬度を誇っているはずの騎士団員たちの"聖絶"は全体に亀裂が入っており、メルド団長が重ね掛けする形で障壁を貼り、さらにその下から香織が障壁を貼ることで耐え忍んでいた。
ハジメはいざこうして前線に出張ってきたものの、これでは自分の考えを遂行することができないことに気づく。
この閉鎖空間の中でベヒモスの突進を躱すことはほぼ不可能に近い。それ故に障壁を貼ったり、自らの技能である"錬成"を使い地面を陥没させたり障害物を作ったりして逃げることが一番良い。その指揮もメルド団長であれば確実に行ってくれるだろう。
しかしそれは同時に、メルド団長でしか達成させることのできない微妙な匙加減の上で成り立っている。
メルド団長はただ強いだけの自分たちとは違って、圧倒的に場数を踏んできている。とどのつまり、経験値が段違いなのだ。
今の状態の天之川光輝にはどうすることもできない、決定的な差がそこにはある。
若さゆえの過ちと評するには行き過ぎた勘違いと自らの力を信じて疑わない愚かさが組み合わさり、光輝は今こうしてメルド団長に反抗していた。
「光輝!団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」
「撤退した方がいいぜ、光輝!これ以上はもう無理だ!」
雫や龍太郎は状況がしっかり分かっているので、今にも躍りかかっていきそうである光輝のことを諫めていた。
実際に障壁を貼っている香織は辛そうな表情を浮かべながら耐えている。騎士団員の貼った聖絶は
「雫!?それに龍太郎まで、何を言い出すんだ?俺はメルド団長のことを見殺しにするつもりはない!」
そしてここにきて勇者のご都合主義的な考え方が前面に出てくる。その姿は勇者とは程遠く、ただ駄々をこねている子供の様にしかハジメの目には映っていなかった。
このままでは本当に皆が共倒れしかねない。ハジメはそう理解すると、光輝を説得するべく一歩を踏み出した。
戦場では各地で乱戦が始まっていた。連携のれの字もない、ただ純粋に己の力をぶつけ合うだけの戦い。それだけしかここの戦場には存在していなかった。
そしてそんな戦場を駆け抜けるているのが俺こと天臥久鎖李なのである。
すでにハジメは説得に入った。つまり落下するのはほぼ確定したといっても過言ではない状況になっている。
俺の介入で止めるべきなのかとも考えたが、このまま止めてしまっては恐らく俺たちではあのクソ神には勝つことが出来ない。そのため、ハジメには落ちてもらうことにした。
この選択によってどのような歴史の変換が起きるかはわからない。何なら自分という存在が混じった状態になってから、こうなることは何となく想像できていた。
なら、俺だって好きにやらさせてもらうとしよう。俺がこの選択をすることで、少なからず悲しむ人だっているかもしれない。自惚れではないが、きっとそう思ってくれている人は多数いてくれるはずだ。そんな彼らの気持ちを蔑ろにすることは俺にとって地獄のような苦痛になる。そんなことは分かっているのだ。
でも俺は、こうしなければ気が済まない。言っていることが支離滅裂でめちゃくちゃかもしれないことだってわかっている。
でも自分はこうすると決めたのだ。決めたなら、やり通せ。覚悟を決めろ、天臥久鎖李。
この選択がたとえ、
俺は止まってはいけない。いや、止まってはいられないのだ。
決意を固めると、俺は両手から鎖を放ち縦横無尽に操作する。
トラウムソルジャーの群れを蹴散らし、叩き潰し、切り裂き、砕きつくす。
『
見せてやろう。
これが俺の――
「――覚悟、だとも」
この世界で、
天の鎖の名を示す。
「天之川君!」
「な、南雲!?」
「ハジメ?」
突然響き渡った第三者の声に、光輝は驚いたような表情を浮かべた。
他にも驚いている人はいたが、そんな一同にまくしたてるようにハジメは早口で言葉を紡いでいく。
「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」
「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」
「そんなこと言っている場合かっ!」
光輝が南雲ハジメという戦士を侮辱していることに憤りながら雫はこの状況を驚いたかのように見つめている。
八重樫雫の目に映る南雲ハジメは、このようなことを言うような人間ではなかった。つい最近までは、という前置詞はつくものの。
その目は南雲ハジメが天之川光輝に物申したということと、そこまで勇敢な人間になったのかということの二つの感情が込められていた。
「あれが見えないのか!みんながパニックに陥っている。君というリーダーが、そこにいないからだ!一体何のために君は戦っているんだ!?正義の為か?殺しの為か?そんなものではないだろ!?少なくとも今此処では、クラスメイト達を守るために戦っているんだろう!?」
普段の物腰柔らかで優しい人間である南雲ハジメとのギャップに香織は少し驚きながらも、頬を緩ませる。
大好きな人が頼りがいのあって、格好いい人間であることが知れたから。それだけで白崎香織は満たされていた。
「クラスメイトを守るためには君の力が必要なんだよ!勇者なら、この状況からみんなのことを救って見せろ!偽善で塗れてないで、今此処で戦え!天之川光輝!」
らしくもない過激な言葉になったことを反省しながら、ハジメはそう言い切って見せた。
怒号を上げ、悲鳴を上げ、逃げ回るクラスメイト達。その目には絶望と、諦めと、他にも様々な感情がごっちゃになった状態で存在していた。
ハジメの声を聞いた光輝は呆然としながら、クラスメイト達のことを見つめている。やがて逡巡しながらも、それを振り払うようにして大きく首を振った光輝はハジメの意見に内心は渋々といった感じながらも従うことにした。
「…………わかった、直ぐに行く!メルド団長、すいませ――」
「下がれぇ!」
意を決して言い放った光輝の言葉はしかしながら、メルド団長の大きな声によってかき消されていった。
「下がれ」。この言葉が意味すること、それは即ち。
戦士の直感がハジメの体内を強烈に駆け巡った。
このままでは危険だ。どう危険なのか今考えていると、きっと皆やられてしまう。そんな感じを受けたハジメは、地面に手を付け一言いい放った。
「――"錬成"!」
その瞬間、障壁が破られた反動で倒れている香織と自らの近くにいたメンバーを隠すように石の壁が出現した。
瞬間、響き渡る咆哮。凶悪な超音波の塊が石壁を突き崩さんと襲い掛かってくる。もしこれを生身で受けていたらどうなっていたのだろうか。ハジメはその光景を想像するのが怖くなり、首を振った。
手を離し、錬成の制御を行いながら香織の下へと近寄る。一番消耗しているのはきっと彼女であろう。近寄って様子を確認してみると、やはり苦しげな表情を浮かべていた。
「香織、大丈夫か?」
「……ハジメ、君?」
「うん。一回下がって魔力を回復させてきて。しばらくは僕が、この場を引き受けるよ」
その言葉を聞いた瞬間、香織が心配そうな表情を浮かべる。やはりあの夢のことが頭から離れないのか、その目は怯えのような感情を持っていた。
「……うん。でも、必ず、」
無事で帰ってきてね。
二回目となるその言葉を聞いたハジメは、今度は不敵な笑みを浮かべながら香織に言い放った。
「勿論。ああ、無事に帰ってくるのはもちろんだけど……
――別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
咆哮の止んでいたその空間に、ハジメの一言が鋭く響き渡っていた。
傍から見れば、絶望的にも見えるこの状況下で。ただ一人、南雲ハジメは笑っていた。
錬成によってできた壁が崩れ去る。
それと同時に、ハジメは全力の強化魔術を掛けながら両手に夫婦剣を呼び出した。
「グルアアアアアアアアア!」
咆哮を上げながら突っ込んでくるベヒモスに狙いを向けて、ハジメは詠唱を開始する。
「――――
両手に持つ夫婦剣の一対を投擲する。
ブーメランのように回転しながら、陽剣と陰剣は飛んでいく。その威力は正に、鉄塊をも砕く必殺の一撃だ。
「
投げられていた夫婦剣にさらに加えて、もう一対の剣を投影――正確には停止解凍――し、接近する。
この夫婦剣は、投影する剣の中でも特に使いやすいものだ。
だが、ただ使いやすいだけではない。
夫婦剣の性質はただ一つ。互いに惹かれあうこと、ただそれだけであった。
「――――
これはそんな利点を生かして作られた、絶技の一つ。
自らの振るえる、自らが戦うことが出来る、力。
引き寄せられてくる一回目に投擲した剣。
それと手に持つ剣を同時に振るい、攻撃する。
しかしその一撃は、ベヒモスに多大なるダメージを与えるには不十分なものであった。
――だからこそ、もう一回同じことをする。
反対の手に持つ投影品に惹きつけられてやってくる、先に投擲しておいたもう一本の剣。
先程の光景の焼き直し。しかし、その威力は絶大なものであった。
「――――
そしてここで、三対目を手に持ち、刀身を巨大化させる。
干将・莫邪オーバーエッジ。便宜上そう名付けた一品で、可動の限界に陥り動けなくなっているベヒモスに接近し両手に持つ二対を同時に振り下ろした。
「――――
先程の二回とはまるで威力の異なる一撃が、ベヒモスの巨体を襲う。
苦しげな咆哮を上げて崩れ落ちていくベヒモス。三連の攻撃をまともに食らい、満身創痍といった感じであった。
これこそがハジメが自らの力のみを使って辿り着いた境地の一、鶴翼三連。
鉄塊をも砕く一撃を三連に連ねて放つ。原作のハジメとは違い経験値と強靭な肉体、そして何よりも戦士としてのセンスがあったからこそハジメはこの行きに自らの力のみで辿り着いたのである。
そしてハジメは慢心することなく、大きく後ろに飛びのいて一本の剣と名もなきカーボン製の弓を取り出して構えた。
心の中にある、自らのイメージを高める言葉を口にしながらハジメは照準を痛みで悶えているベヒモスに定める。
「――
その一言と共に、紅い閃光が空間を捻じ切りながらベヒモスに向かって飛んで行った。
剣の真名は『
真名開放と共に飛んでいき、その先で爆発。本来であれば必殺の一撃。
ハジメも内心で「やったか!?」と言いながらその光景を見つめている。
現実が、そう甘いはずもないのに。
「――グルァァァァァァァァァァァァ!」
響き渡る咆哮。
その声を聞いた。聞いてしまった。
あれだけの攻撃を受けても尚、ベヒモスは健在であったのである。
化け物は、その頭の角を赤く染め上げ、これ以上ないほどに怒っていた。
咄嗟の判断でベヒモスの足元をぬかるませ、巨体を沈ませる。
さらに沈み込んだ足を出せないようにするために足元を再び固める。石の硬度以上に硬いものへと錬成で作り替え、時間を稼ぐためにハジメはここに残る決断を下した。
「……やれるんだな、坊主?」
「勿論です。分の悪い賭けなんてものじゃない。全員無事に帰ってやりましょうよ」
「はっ!言うじゃねえか。ならお前さんがしっかりやれよ」
メルド団長はそう言い残すと、光輝たちを連れて後ろの血路を開くために突撃を開始した。
それと入れ違う形でハジメの傍に寄るのは久鎖李であった。
「久鎖李?」
「もし危なくなったら僕を頼るんだ。それに
「……ははっ!これ以上ないピンチだってのに、変わらないんだね」
「そりゃ勿論。……さあ、来るよ」
二人して不敵な笑みを零す。
その瞬間にベヒモスは、その巨体を固定から引っ張り上げてきて赤熱化させていた角を振り下ろす。
それを久鎖李は『天の鎖』で防御し、ハジメは盾を投影して散らばってくる破片から身を守った。
必然的にベヒモスの頭は再びめり込むことになる。そこにハジメが"錬成"を仕掛けて頭を埋める。そして魔力を送って突破されないように押さえ続けるという、精神との戦いが幕を開けた。
中途半端ですが今回はここまでです。
このまま書き続けていたら一万字超えてしまうような気がしたので、ここから先の展開は次Ep.に持ち越しです。
ということで読了ありがとうございました。
今後の小説展開。どうする?
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奈落行withオリ主&ハジメ
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奈落行withハジメ