ありふれていない『天の鎖』で世界最強 作:如月/Kisaragi
久しぶりにこうして書いてみると、文才が落ちているということを痛感せざるを得ないところでございます。
暇があるときに書きたいと思った物語を書いたりはしているんですけどね。
やるせない感情と疲れのたまり続ける日々に憂いを抱きながら書き上げたEp.24、ご覧ください。
――そして今日もまた、夢を見ている。
あたたかなゆめを。
何かがかけた夢を。
そして、何よりも、きっと――
■にたくない。
彼の心はきっと、その言葉だけでいっぱいだった。
だからこそ、そんな彼は今とんでもないことになっている。
自らの不注意が祟り、ハジメは絶体絶命の大ピンチへと誘われている。
圧倒的な強さを見せつけた白いウサギへの恐怖が、自らの心に『■にたくない』という気持ちを呼び込んでいく。
そんなことから生まれ落ちたありふれた感情だったが、それは何よりも南雲ハジメの
現にハジメは、額から冷汗を流しつつも冷静に思考をしていた。
目の前のウサギは、自分を狩ろうとしている。そんな野生に生きるモノの、純粋すぎる殺意に中てられたハジメは否応なしに臨戦態勢を整えさせられた。
赤黒い眼に睨まれたハジメは、身体が竦んでいくのを確かに感じ取っている。
闘気。殺気。肉食獣――捕食者として研ぎ澄まされたその膨大な気配は、戦士であるハジメの精神すらも蝕む怪物として嗤っているように見えた。
瞬間、爆発する地面。
ハジメは本能で身体をひねり、白い弾丸が先程まで自らのいた場所を通過していくのを確認した。
ハジメの目には、そのウサギが一瞬だけではあるが分裂しているように見えた。
目の前にいるのは確かにウサギ一体である。だがその一体の爆発的な加速力がハジメの脳の認識、反応、直感すらも凌駕してその先を進んでいる。
ウサギの着陸地点は、そこに大砲の弾でも直撃したのかと問い詰めたくなるほどに抉られていた。
砂煙が舞い、視野が曇る。身体をひねり回避していたハジメは、砂煙にウサギが包まれたその一瞬だけで敵を見失ってしまった。
そして、その隙をもちろん捕食者は見逃してはいなかった。
再び爆発。先程よりもさらに早く、鋭く、重く。相手を確実に屠るという意思のこもった一撃は、ハジメに直撃――
「ッ!"錬成"!」
――することはなく、タッチの差で届かずに終わった。
ハジメが作り出したのは鉄の壁。咄嗟の判断ながらも、反射的に地面の中の鉄分から金属を生み出したのである。
「――投影、開始」
そして僅かに用意することのできた時間を使って、武器を呼び出す。
呼び出すのは、干将・莫邪の夫婦剣。信頼のおける一対を握り締め、精神をさらに落ち着かせていく。
忘れるな。
イメージするのは常に、最強の自分だ――――!
作戦は決まった。成功するかもわからない一か八かの手立てだが、それさえ決まっていれば今の自分にとっては十分――――!
目を開く。
その瞬間に、ハジメは錬成で作った壁を
壁を壊さんと突き進んでいたウサギは、エネルギーの行き場を失いそのまま突き進んでいく。もちろん、その先にハジメの姿はなかった。
錬成で作った壁が自壊することによって、一気に壁を構成していた金属がウサギの突進先で降り注ぐ。これを回避するために、ウサギは自らの固有魔法を使って空中を踏んでいた。
それすらも、ハジメの筋書き通りとは知らずに。
粗方の鉄塊が降り注いだのを確認したウサギは、固有魔法を使って浮いた状態から地面に立った状態へと戻った。
地面に着いたウサギは、一瞬のうちに姿をくらませたハジメを探すことに夢中だ。目は心なしか血走っているようにも見え、鼻息も荒くなっている。興奮状態になり、感情のコントロールが効きにくくなっているウサギ。
その足元には、
ハジメは、最初から武器を使ってウサギを倒すつもりすらなかった。
間違いなく固有魔法を使われて、一撃も当てることが出来ずに逆に手玉に取られるとわかっていたから。
それ故にハジメがとった行動が、この一連の動きであった。
野生も強く、賢いようにはとても見えないからこそできた動き。そしてそれをうまくやり遂げられたことに、ハジメは安堵した後ほくそ笑んだ。
捕食者を殺すべく誘導するのはうまくいった。
後は自分が錬成を使って鉄塊を鋭く伸ばし、剣山のようにして獲物を屠れば勝つことが出来る。
勝利の道筋が立ったことに満足して、錬成の一言を告げようとして。
――その瞬間、息を呑んだ。
ウサギが、震えていた。
先程まであんなに、鼻息を荒くし無双していたウサギが震えていた。
いや。
この感情は、言うなれば。
(……怯えて、いる?)
そしてハジメもまた、気づいてしまった。
右の通路からのっそりとやってきた、一体の魔物の存在に。
その魔物は巨体だった。例によって身体中には赤黒い線が走り、白い毛皮との相性も相まってグロテスクな見た目をしている。
その姿を例えるならば、正しく"熊"であった。二本の前足が異常に発達し、太く大きくなっていることと、とてつもなくでかい爪が生えていること以外は。
その爪熊が、いつの間にか接近しており一人と一匹を睨んでいた。
背筋が凍るのを、痛感していた。
あれはヤバい。
絶対に戦ってはならない。
そう思うほどに、目の前の熊はプレッシャーを放っていた。
重圧。息が苦しくなるような、そんな殺気。
視野が狭まる。膨大なまでの、強烈な気配が全身を駆け巡り、自らの身体を乗っ取っていくかのような。
そんな苦しさを感じていた。
「……グルルル」
まるでこの状況に飽きた、と言わんばかりの低いうなり声が放たれる。
その声は、この場にいた有象無象共を正気へと誘う声だった。
「!」
まず先手を取って動いたのはウサギだった。
ビクッと一瞬だけ震えた後、踵を返し脱兎のごとくその場から逃げ出した。爆発的な速度を出す踏み込みを用いて、ここから一目散に立ち去ろうと目論む。
その手立ては、成功しなかったが。
爪熊が、ウサギの速度すらも凌駕してその巨体を動かし、ウサギを攻撃したからだ。
長い腕から振るわれる殺傷能力に満ちた一撃を、ウサギは危なげなく躱した。少なくとも、ハジメの目にはそう見えていた。
だが、着地したウサギを見てみると。
ウサギの肉体は、いつの間にか二つに引き裂かれていた。
血と共に臓物が四散する。
先程まで圧倒的な強さを誇っていたウサギが、ああも簡単に死んだ。
恐怖で歯の根が合わない。
カチカチ、と無機質な音が鳴り響く。
寒くはない。
むしろ身体はこれでもかというほど熱かった。先ほどまでは。
急速に冷えていく身体。バリバリと貪られるウサギの死体と、それとは真逆の音を響かせる
圧倒的な強さを目の当たりにして感じた感情は、■にたくないという畏れだった。
戦士として確かな強さを持つハジメであっても、この目の前に見えている光景は精神を破壊させるのに十分すぎる破壊力を内包していた。
壊れた心に、爪熊の純粋すぎる野生の殺気が向けられる。次はお前だ。そんな空耳までもが、聞こえた気がした。
「うわぁぁぁぁぁあああああ!」
そして、戦士は恐慌へと陥った。
意味もなく叫び声をあげる。
誰よりも恵まれていたそのステータスを活かして、一目散に爪熊から逃げ出す。
しかし速度は十全に出てはいなかった。
何故かはわからないが、身体がとても重かったのだ。
戸惑いを隠しきれなかった。なぜこれほどにも速度が出ないのか、全くもって理解ができなかった。
混乱している頭に衝撃を加えられる。
避けようと思っても、身体は動かなかった。自分の意志とは反して、鉛の如く凝り固まった自分の身体は、為すすべもなく迷宮の壁に叩きつけられていた。
混乱する暇もなく、左半身が軽いなと思って自らの半身を見てみたら。
ドクドクと、自分の身体から、血が出ていた。
そして目の前にいる化け物は。
ヒトの腕を、食べていたんだ。
誰の腕を食べているかなんて、直ぐに嫌でも分かった。わかって、しまった。
脳が、心が、理解することを全力で拒んできていた。
それでも、とめどなく溢れてくる赤黒い液体と鼻につく鉄の匂いで、すべてを理解してしまった。
そして遅れてやってくる、全力の痛覚。
「あ、あ、あがぁぁぁあああーーーーーー!!」
気づけば、全力で絶叫していた。
覚えていたくもなかったのに、この身体はすべてを覚えてしまっていた。
腕が、なくなった瞬間の感覚も。
そして、この後に続くことの全ても覚えてしまっていた。
左の腕が、きれいさっぱりとなくなった。
その事実に気づいてから、無意識のうちに追い詰められていた迷宮の壁に右手を付けていた。
固有魔法で切り刻まれたのか、と考える自分の思考もあった。
そんなことを考えたところで自分の腕は戻ってこないのに、なぜかそんなことを考えていた。
左腕一本で済んだのが僥倖だと考える自分もいた。
もしかしたら死んでいたかもしれないと考える自分もいた。
「ぐぅぅう、――――"錬成"!」
何故そんなことまで覚えているのかもわからないまま、自分は眼中に迫ってきていた爪熊に怯えながら無意識にこう唱えていた。
背後に広い空間ができる。そこに向かって、思い切り転がって入っていた。
「"錬成!"」
そしてすぐさま追って来ようとする爪熊に怯えて、ノータイムで次は壁を作った。
そこからは、ひたすら涙を目に溜めながら同じことを繰り返した。
消えることのない痛みを抱えながら、ひたすらに唱えて、転がって、唱えて、転がって。
そして壁を作ったのにもかかわらず、それを掘って自分を喰らおうとしてくる化け物からひたすらに逃げ続けた。
左腕の出血で血がどんどん抜けていく感覚と共に、魔力が尽きるのを感じ取った。
どれほど掘ったかもわからない。今自分がどこにいて、何をしていているかすらもわかっていなかった。
この辺りには灯りになる緑光石もない。ただ、暗闇がそこに存在するのみである。
意識も消えかけ、走馬灯のようなものが流れていく。
保育園のことの自分。
小学校、中学校、高校のじぶん。
ともだちのきおく。かぞくのきおく。
そして、じぶんをつきおとした奴のキオク。
「ぁぁ……」
繋がっている右腕を、虚空に伸ばす。
だれも、この手を握ってくれない。ここには誰もいない。何もない。
ただ、取り残された昏い世界で一人きりだった。
――
――
――
――それでも まだ……――
身体が、残っている。
――誰かが苦しむような。
助けを求めているかのような。
そんな淡い声が、この誰もいない昏い迷宮の中で響いている。
ご読了ありがとうございます。
最近は文才を失わない様に、読書を積極的に行っているところです。
魔王学院の不適合者が一番の愛読書です。
いつか二次創作も書きたい(見てくれると非常に嬉しいです)。
それではまた、いつか会う日まで。
今後の小説展開。どうする?
-
奈落行withオリ主&ハジメ
-
奈落行withハジメ