ありふれていない『天の鎖』で世界最強   作:如月/Kisaragi

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Ep.6

Ep.6です。

あらかじめ言っておきます。この話も賛否両方の声があると思うので、それに関しては甘んじて受けます。

ということで今回の話は孤独のグルメです(?)。

 

前回のあらすじ

・メンタルブレイク

・光輝、天之川呼びになる

・雫、メインヒロインとなる

 

 

 


 

 

 

雫のことを救ったあの日から、既に季節は移り変わり夏になっていた。

春の暖かった陽気は何処へやら。じめじめした梅雨もすでに終わり、今はもう夏休みだ。うだるような夏の暑さと肌にまとわりついてくる湿気のせいで外に出る気にもならず、家の中でエアコンをつけてのんびり過ごすことしか最近はしていなかった。

 

因みに宿題は夏休み入ってすぐの一週間でほぼ終わらせてある。後は絵日記と毎日書く夏休みのしおりくらいしかない。

最終日にすべてを終わらせるなんて真似はしたくないのだ。因みに俺はそのようなことにはならないように学校に入ってから心がけている。

昔読んだ小説に泣きながら夏休みの宿題を終わらせているシーンを見ていてよかったなと思った瞬間であった。

 

そして俺は今、何もやることがないのでグダグダしているところである。

何せ家庭用ゲーム機もまだ普及していないような時代である。PCはあるにはあるが、やれることも少なく何もやることがない。最近は龍太郎や香織が家に遊びに来てくれるのだが、今日は全然来ない。誰も来ないときは全国高校野球甲子園を見ている。球児たちが炎天下の中で走り回り全力でプレーしているのを見ると、もう夏も終わり外は秋に近づいているのだなと前世の俺は思うことができていた。

 

「……うーん、暇だねぇ」

 

誰もいない我が家の風景を見ているとなんだか寂しさを感じてしまう。なんやかんやで俺は騒がしいみんなのいる風景が好きなようであった。最も友人の人数は少ないのだが。

改めて自らの友人関係について考えてみる。香織、龍太郎、雫……これだけか。

 

うん、少ないね。

改めて自らの交友関係を振り返ってみると悲しい気持ちになる。友人を増やした方がいいかもしれないという思いになりつつ、別にいいかとやはり思い友人を作ることを諦めた。

 

「あーあ、本当に暇だねぇ」

「そうね、貴方は暇そうに見えるわね久鎖李」

 

本当に暇だという気持ちを乗せて空中に言葉を吐くと、隣から返事が返ってきた。

この声は間違いなく雫である。……うん。ちょっと待ってくれ(鉄華団団長並感)。

 

「いつの間に入ってきたんだい?雫」

「あら、私は呼び鈴を鳴らした筈よ?その呼び鈴に出なかったからいつものごとくだらけているんだろうと思って合鍵を使って入ってきたのよ」

 

なんてパワーだ、奴の正妻力は!?

控えめに言っても強い。この世界の雫は可愛いしすでに美しい。

短く切りそろえていた髪もすでに長くしてポニテになっており、光を浴びてキラキラと光るその黒い髪の毛はえもいわれぬ美しさを秘めていた。

そして小学生にして完成しきった引き締まっているスタイルを持っている。女子の中でも特に高い身長と豊かに実ったその二つの胸元の膨らみは齢9歳にして妖艶な雰囲気を醸し出していた。

因みに最近の悩みはその胸のふくらみを二の腕に押し付けられて理性が溶けそうになってしまうことである。

 

他にも嬉しいやら辛いやらと思うことがある。雫の今の身長は130cm台後半なのだが、今後更に大きくなることが分かっている。その上、女性としての魅力についても今以上になることを知っている。そうなったら俺の理性は大丈夫なのだろうか。俺は一応この世界でも男である。

 

ここで疑問に思った人もいると思うが、この世界のエルキドゥは男なのだ。本来であれば性別:エルキドゥであることはご存知の事実である。

ではなぜこの世界のエルキドゥ……いや、俺は男になったのか。その原因についても少し考えたことがある。

元々のエルキドゥの霊基パターンが無性だとする。そこに入り込んできた俺の魂の霊基パターンを入れてかき混ぜたら――つまり憑依したら――どうなるか。

結果として俺の躰が男性の側によることになるということである。

 

長々と言っているがつまり何が言いたいかというと、雫は可愛いということであった。

合鍵の件に関しては雫に頼まれたから渡してあげたのである。その時の雫の喜び方が尋常でなかったのには驚いたが。

 

「……」

「やっぱり貴方って少し抜けているところがあるわよね。しっかりしないとダメよ?全く……」

 

はい可愛い(理性蒸発)。

もうこの微笑みだけで世界を救えるんじゃないのかというほどに可愛いよ、これ。

 

「そうだね。もう少し周りに気を配れるように気を付けるとするよ」

「……ええ、そうして頂戴」

「ところで雫。今日は何をしに来たんだい?」

「ええ。今日は暇かしら?」

 

訪ねてきたのだから何か用があってきたのだろうと思ったらやはり何かあるようだ。

夏ということもあり暑いから俺はあまり外に出る系のお話は受けたくない。俺は暑いのは嫌いなのだ。

 

「暇だとも。でもあまり外には出たくないね」

「そこは安心していいわ。外にはいかないもの」

 

どうやら外にはいかないようだ。それを聞いて安心した。

この躰になってから、ジメジメしたのと暑いのが極端に苦手になったから、これは助かるところである。

きっとこの苦手になったというのも恐らく先ほど述べた霊基の混同があるからであろう。

 

「なら良いのだけど。いったい何をしたいんだい?」

「……その、ね。久鎖李」

 

今日、貴方の家に泊まってもいいかしら。

雫は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら俺にそう言った。

どうしてこうなった。久しぶりに俺は心の中でそう叫んだのである。

 

 

 


 

 

 

「……ここが久鎖李の部屋なのね」

「うん。入るのは初めてだったかな?」

 

取り敢えず了承の意を込めていいよと言ったらやはり大喜びしていた。可愛かった。

そして俺の部屋に入ってみたいと言われたので部屋の中に入れてあげたのだ。

 

「ええ。……何というか、とても落ち着いた雰囲気がするわね」

「そうかな?僕はいつも通りだと思うのだけどね」

 

落ち着いた雰囲気と言われたことに関して、はて、と首を傾げる。

別に何か落ち着くような香水とかアロマとかを置いているわけでもないので本当に何故だか見当がつかない。

いつも通りと言ったことに対して雫が首を少しかしげながら何かを考えている姿を見る。やはり可愛いなと思いながら、雫の横顔をまじまじと見つめてみる。

 

やはり雫は美人だなと、横顔を眺めながら思う。

整った顔のパーツとくっきりした鼻梁は、横顔だけであっても雫を美人たらしめていた。

ふわり、と鼻腔をくすぐってくる甘い匂いがした。ふと横を見てみると、そこには俺の躰を抱きしめてご満悦の表情を浮かべている雫の姿があった。

その胸元にある二つのモノのせいで、こっちはもう動揺している。何せ相手は絶世の美女ともいえるあの八重樫雫なのである。緊張と動揺によって俺の心臓が早くなっているように聞こえてくる。その動揺を押しとどめて、雫にばれない様に表情を取り繕ってなぜこんなことをしているのか問い質すことにした。

 

「雫……何でこんなことをしているんだい?」

「この安心感を感じているのが久鎖李からのような気がしたから……こうしていればきっと落ち着くと思ったのよ」

 

なんだこの可愛い生物は。

もうこれなら抱き着かれたことなんて気にしないわ。

 

「……んー。落ち着くわね」

 

雫はそう言って、俺の背中に頬ずりをしてくる。まるで愛玩動物のような可愛らしさを感じさせる微笑みと甘え方を見ると、こちらも心が温まってくる。その様子を見て頭を撫でてみるとさらに頬を緩ませてくっついてくる雫。その姿を見ていると何やら猫の様に見えてきた。

 

「……怖いのよ。いつかこうしていられなく日が来るかもしれないって。また、誰かにいじめられるんじゃないのかって。そう思うと、怖くて……」

 

しかしその後の言葉を聞くと雫の姿が、何かにおびえる一人の女の子にしか見えなくなっていた。

その心配をなくすために、そっと頭を抱えて撫でてあげる。雫の心配を解きほぐすかのように、彼女の心を守るかのように。

 

「……ぁ」

「大丈夫だとも。僕が一緒にいてあげるからね」

 

すると雫は強張らせていた体から緊張をほぐすかのようにふにゃりと俺にもたれかかってきた。

その表情をうかがい知ることはできないが、これで安心してくれるといいなと思いながら過ごし続けていた。

 

 

 


 

 

 

とん、とん、とん、と。

台所から聞き心地の良い音が、リズムよく聞こえてくるのを目を閉じて聞き取る。

同時並行で何かを作っているのだろうか。台所からは心なしか、とてもいい香りがしてきている。

それを感じ取りながら、俺はニュースを見ていた。

 

では台所で作業しているのは誰なのか。それはもちろん雫である。

泊りに来たから私に料理をさせてほしい、と言われたのでそれを了承して俺は雫の好意に甘えている。いつもは簡単に料理を済ませているので、雫の作ってくれる料理に俺は多大なる期待感を持ちながらのんびりしていた。

しかし今日のニュースもすごいことになっているな。どこかで見たことのあるような玉ねぎみたいな頭をしている某国民的アニメのキャラに似た人の家が全焼していたり、ニンジャをスレイヤーすることがアメリカで人気になっているという報道が出たり、挙句の果てにはどこかの国の総統閣下の空耳が全国で反響を呼んでいるとのニュースまで出てきた。この国本当に大丈夫か?

 

「……はい、お待たせ」

 

そんなことを考えているうちにどうやら料理ができたようだった。早速並べられた料理を見ると、その完成度に舌を巻いた。

先ず白米。こちらは一粒一粒が光り輝いていて、立ち上っている湯気からもいい香りがしてきている。

日本人の大好きな香りの一つだと思われるそれに気分を高揚させていると、芳醇な香りがしてきた。これは味噌の香りであろうか。そう思い目線を動かすと、そこにはやはり味噌汁の姿があった。豆腐とほうれん草、そして油揚げが入ったこの味噌汁からはだしの香りと味噌の香りが漂ってきており、自分の食欲をどんどん刺激してきているのが感じ取られるほど魅力的な匂いと見た目をしている。

一つ一つの完成度の高さと本気度を感じ取った俺は早く口にしてみたいという感覚にとらわれた。しかしそれをする前にまずは香りを楽しまなければならない。かのテレ東系列のよく食べる孤独のグルメの人だって言っていたじゃないか。

そういうわけで主菜の方に目を向ける。そこにはハンバーグがあった。大根おろしをかけられているそれは、テイストを和に統一するための最高の要素としてそこに君臨していた。こいつはいいぞ。

副菜の方にも目を向ける。卵焼きと、漬物。一見すると重そうに見えるが、卵焼きの方には何かの野菜が切って混ぜてあり、漬物に関してもとても健康に良さそうな色をしているのが目に見えた。黄色い柑橘系の皮が入っていたことから察するに、きっと柚子皮が一緒に漬けられていたのだろうか。

 

「これはおいしそうだ。それじゃあ早速……」

 

両手を合わせる。食事前の儀式であり、食材に対する敬意と生産者さんへの感謝を込めて、この言葉を放つ。

 

「「頂きます」」

 

まずは卵焼きから。

……これは。シソの葉の様だ。すっと来るさわやかさと程よい卵の塩加減に舌鼓を打つ。

これはうまい。迷いなく白米を食べる箸が進むぞ。

 

さてさて、次はハンバーグだ。おろし大根と肉汁の調和。見せてもらおうじゃないか。

……うまい。これは正しく、味のオーケストラだ。重厚感があって、どこかすっきりしていて。そんな旨さが、ここにはある。

 

味噌汁の方はどうかな?こいつもうまそうだ。

良く香りをかいでみようか。……だしも、しっかりと取れている。だしの素では取れない、しっかりとした厚みのある匂いがするな。

早速一口。うん、これはうまいぞ。食材にも程よく味が染みついている。味噌の味も濃すぎず、他の食材を食べてもそれぞれの良さが損なわれないようになっているじゃないか。

 

これを食べられている俺って、果報者なのではなかろうか。別に付き合っているわけでもないのにこれほどにうまい食事を食べさせてもらっていると思うと、なんだか罪悪感が湧くような気がする。

……いや、気にしないでおこう。モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず 自由で何というか救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで……そう俺の中のゴローさんも言っている。

 

そう思いながら再びハンバーグを口にした。そのハンバーグはとてもおいしかったのである。

見る見るうちになくなっていく食事。そして空っぽになったところで、料理を作ってくれた人への感謝の気持ちと有難さを言葉に込めて伝える。

 

「ごちそうさまでした」

 

 

 


 

 

 

そして孤独のグルメ(孤独ではない)を終わらせた俺は、遂に戦いの時を迎えていた。

その戦いとは即ち、理性との戦いであった。

 

別の部屋で寝るつもりだった俺は、雫から告げられた衝撃の一言にしばらく固まっていたのだ。

それは即ち、一緒に寝ようという趣旨の発言であった。

当然俺は反対した。それはさすがに無防備すぎるし、何より俺の理性が持たないからやめてくれと言った。しかし俺のそんな些細な抵抗は一瞬で崩れ去った。そのわけは涙目+上目遣い+ほんのり赤面の三段構え攻撃にあった。俺の抵抗は失敗に終わったのである。

そして深夜1時になった今でも、俺は寝ることができないでいるのであった。

 

因みにその後、俺はピンク色に染まっている思考との戦いに打ち勝ち、普通に睡眠をすることに成功したのである。

その時に密かに「何で襲ってくれないのよ……」と聞こえてきたのは俺の勘違いであってほしいと、そう思わずにはいられない俺なのであった。

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