ありふれていない『天の鎖』で世界最強 作:如月/Kisaragi
ということでEp.7です。
またシリアステイストになっていくのでよろしくお願いします。
後この話で救済を受ける彼女についてなのですが、かなり原作とキャラ設定が変わることになります。
そこに関してはご了承ください。
前回のあらすじ
・雫、襲来(家に)
・孤独のグルメ
・理性、勝利を収める
夏休みは終わり、秋の季節がやってきた。
といってもまだまだ暑い陽気が続き、夏のうだるような暑さが残暑として俺たちに襲い掛かってきている。今日から学校なのだが、正直言ってエアコンのガンガンに効いているこの家から出たくない。そう思って今日は仮病抵抗を試みようとした。
しかし俺の必死の抵抗は呆気なく崩された。我らが雫様の手によって俺は学校への登校を余儀なくされてしまったのだ。雫に逆らえるはずがなかったのである。おのれおのれおのれぇ!
隠し切れない嫌な気持ちを前面に押し出しながら、学校に登校する。途中で合流してきた龍太郎と香織には大層びっくりさせられた。そりゃ傍から見たら途轍もなく嫌な顔をしながら学校行きたくないと呟いている男の子を女の子が問答無用で引っ張っている、という図なのだから。後天之川がなんか言っていたけど無視した。あいつの自己中心的な考えなぞ聞いていられない。
そうして始業式を終えて宿題をすべて提出し、俺は帰路についた。
朝よりも数段階暑さの度合いが上がり、出てくる声がしわがれた声になってしまうのも納得がいくほどに俺は暑さによって追い詰められていた。
「ああ……星が……星が見えたスター……」
アスファルトからは蜃気楼が立ち上り、これでもかというほど暑さを主張してくる。申し訳程度の型月主人公要素を出しつつ、俺は信号待ちに突入した。
ゆっくりと信号が変わるのを待つ。此処の信号は変わるまで中々の時間がかかるので、暑いのが嫌いな俺にとってこの時間は正しく苦痛でしかない。気を紛らわせるために手で顔を仰いでみるが、余計に熱くなるだけで逆につらい気持ちになった。
「……とけそう。というかこれもう溶けてるんじゃないかい、僕」
泥人形だからね、溶けることもあるよね(白眼)。
そんなあほみたいなことを思いつつ、早く信号変われと高速詠唱並みの早口言葉を心の中で唱え続ける。
その時であった。
小さくではあったが、女の子の叫び声が聞こえてきたのは。
「――っ!?」
咄嗟にサーヴァントとしての能力を解放する。
鍛え抜かれし気配感知のスキルと聴覚の強化を使い、叫び声の中心地を特定する。
もしかしなくてもこれは、原作にもあった‶あのシーン"である可能性が高い。ここで一つ、不安要素の回収に向かわなければいけないか。そうすれば、原作で生まれた犠牲者の数が少なくなることにもつながるだろう。
そう考えた俺は、全力の気配遮断を使用して能力を全力で解放し、走り出した。
「……ここみたいだね」
声の中心地に着いて、標識の名前を確認する。そこには『中村』と書かれた標識がかけられていた。
……十中八九、あたりだろう。どうやら周囲の人たちの通報によって既に警察が出動したようであった。聴力を全力解放しているので、今の俺はどんなに小声であってもここから半径100m以上は正確に音を聴きとれるようになっている。家の門前で中の様子を見てみると、そこには小さくなって泣いている女の子と絶望したかのような表情を浮かべている男が住民たちによって拘束されている風景が見えていた。
……アレが中村恵理のようだ。この頃はまだ眼鏡をかけておらず、書籍やアニメで見た時と比べてずいぶんと印象が違うことが分かった。
そして彼女の顔を見て気付いたことがあった。それは、眼鏡を外している状態の彼女の顔が、とても可愛いということであった。これは彼女の親友であった谷口鈴も恵理のことを可愛がるわけだなと、周りに人がいる中で確信めいたことを思っていた。
そして家の道路前にパトカーが止まり、男が連れていかれる。
恵理の方はどうやら事情聴取に入るのだろうか?そう思っていたが、今日はやらないらしい。限界まで耳に神経を集中させていたからか、簡単に聞き取ることができた。
気配遮断を解除し、ふらりと門の前まで行く。
そしてちらりと門の中を見てみる。恵理は呆然としていたが、やがてふらふらと家の中に入っていった。
原作通りに事が運べば、明日の早朝恵理は自殺しようとしたところを天之川光輝に止められる。そして独占欲強い系の歪んだ愛情の持ち主になり、やがてとんでもない暴挙に出てボスになるわけである。俺がやるべきことはまず、恵理の自殺を止めること。そしてもう一つは依存癖がつかない様に精神を立て直すこと。そして何より、天之川光輝に会わせないこと。これを明日は細かくこなす必要性があるのだ。
頭がこんがらがりそうになるのを抑えながら、一つ一つのファクターに関する対策を考える。
自殺を止めるなんてたやすいことなのだ。しかしそれを行う為に精神を立て直すことが一番の難関になりそうで、この一連の救済において重要になることなのだと直感した。
天之川に関してはうまくあしらえばいいだろう。あいつは俺に突っかかってくるくせして正論を言われると兎に角弱い人間である。いつも通り徹底的に論破してやればいいのだ。歪んだ自己が正しい正義と疑わない心に惑わされることがないと良いのだが、と思いつつ俺は明日の流れに関して計画を練った。
<三人称>
まだ日の上りきらぬ早朝。中村恵理という少女は、独り家から出て歩いていた。それは偏に、自らの死ぬ場所を探すためである。
事の発端は昨日につながる。学校が早く終わり、家に帰ったところ、父親――義理の――に襲われたのがすべての始まりであった。
自らの防衛反応を放出するかの如く叫んで助けを求めた後、義父親は警察に連れていかれた。
それに関して特に感慨も何も浮かべることはなかった。自らの本当の父に起きたことを思い出しながら、自らの罪について改めて心に刻み付ける。
本当の父が死んだのは私の不注意ゆえの事であったのだ。そう思い込みながら、また母親に会いに行った。
これで母親は本当の父親のことを思い出してくれる。そう確信めいたこと思いながら、母親の愛情が戻ってくると信じ込み話に行った。
そう、思っていた恵理の期待は大きく外れることになった。
母親の憎悪が加速したためであった。
家に居た恵理が帰って来た母親から最初に受け取ったのは、愛情でもハグでもなく。一回の張り手であった。
憎悪のこもったその目に、恵理は恐怖した。そして吐き出されていく醜い暴言の数々。次々と、自らの中に貼っていた心の防壁が突き崩されていくのを感じ取りながら、恵理は理解してしまった。
これこそが母親の本性なのだと。嫉妬に狂い、実の娘に手を挙げる暴君であると。
聡明であった恵理は、気づいてしまったのだ。
心が崩れるのも当然の帰結であると、言うことができた。
物理的な暴力と精神的な暴力の前に、中村恵理は心を崩壊させた。
理不尽なまでの責め苦についに心を崩壊させた恵理は、脱走を決意した。
そうして今、中村恵理は歩いているという訳であった。
自分が死ぬために。何の当てもない。ただ、自らが正しいと思う方向に進んだ。
そしてその先にあったのは、自殺するのに正しくおあつらえ向きである川であった。
その川は昨日雨が降ったせいか、増水し流れが速くなっていた。さらに水深が深いことでも知られる川である。
これなら死ぬことができる。そう確信し、恵理は身投げをしようとして。
自らの隣に、薄緑色の男がいたことに気づいた。
その髪は男にしては長く、また顔も中性的なものであった。正しく男装の麗人と言われた方が納得できるな、と心の中で思い。彼の名前を思い出した。
天臥久鎖李。人気者である天之川光輝に対して物怖じせずに、正しいことを述べている自らの同級生。
とても優しいことはあまりにも有名で、恵理に対しても声をかけてくれる。よく言えばお人よしであり、悪く言えば奇妙な人間。それが彼に下している評価であった。
なぜこんなところにそんな人間が居るのか。気になってしまった恵理は、
「……どうして、貴方はここにいるの?」
と、問を投げかけた。
――それを認知することができた人間は久鎖李だけであったが、この瞬間運命が変わった。
様々な人間が救われて、
<久鎖李>
「……どうして、貴方はここにいるの?」
まさか相手から話しかけるとは思ってもいなかったな、と思う。
この時の中村恵理と言ったら周りに対して大きく壁を作り交友というものを徹底的に断っている人間であったはずだ。
それが何の因果か、ここで俺に話しかけていた。
「僕か。……僕はね、少し考えたくなってここに来たんだ」
「……考えたくなった?」
「うん。その前に名前交換といこうか……と言っても僕は君のことを知っているし、君も僕のことを知っているだろうね」
事実の確認を済ませる。小さくうなづいてきたのを確認したのち、遂に肝心の説得を始めることにした。
「それなら構わないよ。……僕の話をするとしようか。まず大前提だけど僕には家族がいない」
しれっとこれまでに伝えたことのなかった事実をしれっと告げた。
このこと知っているのは俺が積極的に関わっている人間のみであった。
隣からはっ、と息をのむ声が聞こえる。驚愕したようなそんな感情がありありと感じ取られた。
「生きるのには困っていないけど。やっぱり寂しくなることはある。嫌なものだよ、家族が離れるというのはね」
虚空に放つかのような雰囲気で俺は言葉を漏らす。前世への哀愁と辛さを言葉に込めてみると、その声は空に向かって飛んで行った。家族がいないのは本当につらかった。誰も来てくれない真っ白な部屋の中で独り過ごして、心はすり減っていたのだ。
俺という人間と中村恵理は何処か似ているように見えてしまう。それは果たして、俺が彼女に向ける同情心故の事か。それとも自分という存在を重ねているからかはわからないのだが。
「僕はだからこそ、ここにいるんだ。……昨日の騒ぎの時に、僕も近くにいたからね」
その言葉を聞いた中村恵理の表情が驚愕に染まる。
どうしていたのか、という疑念と驚きがその顔から読み取ることができた。
「一人で抱え込むよりも、誰かに言う方が精神的にも安らぐと思う。だから、教えて欲しい。あの日一体何があったのか。そしてなぜ君がここに来たのか。僕に、教えてほしいんだ」
全ては
この出来事を起こしたことによって、未来にどのような変化が起きるかはわからない。しかしそれでも、やると決めた以上やり通して見せると決意した俺は、ぽつぽつと語られていくその話に耳を傾けるのであった。