モブウマ娘は引退した 作:マンハッタンカフェ実装感謝組
A.ご都合主義です。モブです。
Q.モブのトレセン生活……私、気になります!
A.(書く気は)ないです。そこまで書いてたらモチベがもちません……完結させたいので。書き終わって余裕があったら補完する形で書きたいと思います。
Q.モブなのに中央? 半エリートじゃん。
A.ローカルまでは知識が追いつかないのとオリキャラで溢れるので勘弁してほしいです。
あと、無難な展開にはなりません。淡々としたストーリーは個人的に書きたいとは思ってないので。
今回から話が色々拗れていきます。
型の古い液晶テレビから吐き出されるニュースの音声を聞き流しながら、わたしは目の前でうつ伏せになる爺ちゃんの肩を揉んでいた。
「ん、終わりましたよー」
「おー、ありがとありがと」
仕上げに軽く首上までマッサージをし、一通り終わり。ぽんぽんと、肩を叩いた。
施術台の上にうつ伏せだった初老の爺ちゃんが、柔らかい表情で身体を起こす。
「おっほっほ、かるいかるい。こりゃまた畑で頑張れるわ」
「もー、1ヶ月も来るのサボったから痛めたんでしょ? また来週ちゃんと来てくださいね」
軽く睨みながら言うと、爺ちゃんは「へへ、すまんすまん、すんまへん」とヘラヘラ笑いながら待合室へと向かっていった。
ようやく、仕事が終わった。
誰もない施術室の中、大きく背伸びをする。
壁掛け時計を見れば、時刻は20時前。随分とかかってしまったな、と思いつつ、台の上のバスタオルを回収して離れた。
「ハセさーん、終わったよー」
「おーう、お疲れさん。助かったわ」
簡易仕切りで区切られた区画の方へ行けば、安いデスクに向かっている大柄なスキンヘッドの男性――――ここの整骨院の院長であるハセさんがいた。
「ドンさん、またサボりそうな顔してましたよ」
「しゃーない、自己責任だっけさ。具合は?」
「んー、あんま改善はなさそうかなーと。来週来てくれればもうちょい矯正できそうな感じですけどね」
タオルを備え付けの大きなカゴへシュートしつつ、先程施術を終えた爺ちゃんのことを伝える。それをハセさんはカルテにサラサラと書き込んでいった。
「――――夕飯はどうする?」
一通り記入を終えたところで、ハセさんがたずねてくる。
「家内がまた多めに作ったすけ、食っていけってな」
「あー……お言葉に甘えます」
「そうしてけ。ウマ娘の膂力はウチとしちゃ助かるが、飯も食わんと力も出せんだろうけな」
申し訳なさと、懐事情の寂しさから来る嬉しさに挟まれ、苦笑い。
わたしは今、日本海側の某県で整骨院に勤めている。
中央のトレセン学園を離れて早20年近く。
『有マ記念』を最後に引退し、卒業。地元に帰って福祉系の大学へ進み、資格をとって、今ここにいる。
「そーいや見たけぇ、ニュース。トウカイテイオーが無敗で皐月賞取ったって話だ」
ふと、ハセさんがそんなことを言い出した。
「流石に知ってますよ。ルドルフさんと親子で初の無敗3冠、そりゃあ皆注目しますって……」
「ウマ娘的にはどうだ、行けると思うか?」
「えー、重賞すら勝てなかったわたしにそれ聞きます?」
「まぁまぁ。あのシンボリルドルフを間近に見たんだろ? だったらトウカイテイオーの走りだってわかるんじゃないんか?」
確かに、当時わたしが学園にいた頃はルドルフさんは生徒会長で、ドリームトロフィーリーグに出てた。レースだって生で見たこともある。
「無理ですよ。
月とスッポン。雲泥の差と言われるものが、そこにはある。
Glを勝利するポテンシャルを持つ者と、重賞ですらまともに勝てない者。前者は一握りのウマ娘に限られる。
ちなみに、わたしは間違いなく誰がどう見ても後者だ。
「――――ま、ルドルフさんの娘さんならダービーくらいは余裕で取るでしょ」
日本ダービー。クラシック路線で、もっとも注目を集める権威あるレースと言っても過言ではない。
わたしとは縁遠い、勝てば“ダービーウマ娘”という称号を認められる程に、日本ダービーは文字通り次元が違う。
だだし、それでも。
ニュースで一目見たトウカイテイオーの走りは、鮮烈だった。
あの娘は、勝つべくして生まれてきたウマ娘だ。あんな柔らかい脚のバネを持つ子はまずいない。
シンボリルドルフの再来。無敗3冠への期待が、少しずつ全国に波及し始めていた。
ターフを駆ける。
全力だった。
息が切れる。
苦しい。
必死に腕を振り、我武者羅に脚を前へ踏み出す。
チカチカと、視界が明滅する。
指差の感覚が消えてゆく。
それでも。
それでも、その背中には遠く及ばなかった。
オグリキャップ。
どんどんと、離されてゆく。
何もかも。
真っ暗な闇にすら、追い越されてゆく。
遠く、遠く。
その芦毛の背中は、遠のいてゆく。
「――――――――っっ、…………サイアク……、」
吐き気がした。
意識が浮上して、目が覚める。
汗が、気持ち悪い。
じっとりと、胸焼けのような不快感。
まだ寒い早朝だというのに、あまりの暑さに布団を跳ね除けた。
スウェットも下着も汗が染み込んで、とてもじゃないが着ていられない。
何とか腕を付いて起き上がって、眠気眼で壁掛け時計を見やった。
いつもより、1時間ほど早い起床。シャワーを浴びる時間はありそうだった。
シャワーを浴びて、簡単なお弁当を用意して、今日も整骨院へ出勤する。気分は優れないが、仕事は休めない。社会人とはそういうものだ。
わたしの中で、レースというものは酷くトラウマのようなモノになっている。
普段はあまり考えないようにしているのだけれど、たまに変に思考にこびりついてくることがあった。
そして、夢を見る。
『有マ記念』の夢だ。
遠ざかってゆくオグリキャップの背を見続けるだけの、寒い夢。
昨日はたまたま、トウカイテイオーの走りが頭からついて離れなかった。
レースのことを考えてしまうと、あの悪夢がわたしの貴重な睡眠時間を妨害してくるのだ。
いや、正確には違う。
真因は、トウカイテイオーではない。
具体的には――――、
「……ん?」
車を走らせ15分ほど。
国道から少し奥まった道すがらにある整骨院に来て、従業員用の小さな駐車場に入った。
そこで、ふとお客様用の駐車場の方に止まっているタクシーを見つけたのだ。
まだ整骨院が開くまで1時間ほどある。
ハセさんの整骨院は予約制のため、飛び込みでこんなに早く来ても基本的に施術は後回しにされがちだ。
それに、車が基本的な移動手段のこんな田舎でわざわざタクシーに乗ってくるというのも珍しい。常連のお客様は大概車で来るか徒歩圏内に住んでおり、タクシー通いはいなかった記憶があるため、より一層疑問だった。
ハセさんの整骨院は元々広い民家だったのを改装して作った建屋のために裏口はなく、正面のお客様用の玄関と従業員出入口は共用だ。
安い軽を止めて表の方に行くと、やはりタクシーから人影――――いや、ウマ娘が降りてきた。
「――――えっ……?」
珍しいな、と思った矢先のこと。
そのウマ娘の顔を見て、思わず固まった。
見間違えるはずがなかった。
ウマ娘ならば、誰もが知っている。
いや、図らずとも、下手をすれば名前を聞いて彼女の顔を思い浮かべるのは誰だってできるのではないかと言わせるほど、彼女は有名だった。
「――――ああ、良かった。私を覚えていてくれたみたいだね」
その鹿毛、その流星、その立ち居振る舞い。
レースに絶対はないが、“彼女”には絶対がある。
勝利よりも、たった3度の敗北を語りたくなるウマ娘。
「――――ルドルフ、さん……?」
「うん。久方ぶりだな」
“皇帝”シンボリルドルフ
かつて、URAの頂点に君臨した彼女が、そこにいた。
整骨院全然行ってないし行きたいなぁ