多分これからも1話分はこれくらい長さって最初は言ってましたけど全然違いましたw
とあるL●NEのトーク履歴より抜粋
益子美空@新聞部部長
『なんかネタ見つけた?』
『〆切明後日までだけど』
mahiru
『( ゚д゚)ハッ!まだです!』
益子美空@新聞部部長
『ほ・し・づ・き・さん?』
mahiru
『すいません!明後日までには必ず!』
益子美空@新聞部部長
『間に合わなかったらどうなるか…わかるな?
( ・᷄ὢ・᷅ )』
mahiru
『((((;゚;Д;゚;))))カタカタカタカタカタカタカタ』
益子美空@新聞部部長
『とにかく明後日の昼までに絶対見つけてきなさーい!p(`Д´)ノドルァ!!』
「………………………………………どうしよ。」
ベッドの中で、私は言葉が出ないくらいの危機感の中にいた。
*
「はーい皆さん。長かった1年間が終わり、明日から春休みです。しかし、決して気を抜かず、新しい一年に向け…」
終了式が終わり、ホームルームで先生が何か言っているけど、私の頭には一文字も入って来ない。
心の中は冷や汗でビショビショになって、足はカタカタと震える。通知表の結果すらどうでもいいと思えてしまうくらいだ。
あの先輩を怒らせたら、とてもじゃないけど生きて帰れる気がしない。
いつの間にかホームルームは終わり、そそくさと帰る人や、早速春休みの予定を決める人が出始めたけど、全然その中に加わろうと思える気分じゃなかった。
「まっひるー。どうかした?」
「うぅ…助けて浅美ぃー!」
「うおっと。」
隣のクラスから来た幼なじみに半泣きで抱きつくと、少しびっくりした顔をして、軽く頭を撫でられた。
「なになに?ホントにどしたの?」
「これ見て!」
私は、浅美にスマホの画面を突きつけた。益子先輩と私のトーク履歴。
すると浅美は、あー、と小さく呟いてデコピンしてきた。私は頭を押さえて痛みにのたうち回った。
「それはまひるが悪い。」
「そうだけど…。」
「これ昨日のやつ?じゃあ〆切実質明日じゃない。」
「はい……。すっかり忘れてて…。」
「悪いけど、今日はネタ探し手伝えないからね。」
「えっ!?なんでなんで!」
「塾。」
「なるほど…。うわぁ〜。どうしよ。」
頭を抱えてみせると、浅美は私の席の前に座って、カバンからカードの束を取り出した。
「そうね………占ってあげようか?」
そう浅美が言った瞬間、私を含めたクラスのほとんどの人がこっちを向いて、私たちの周りに集まってくる。廊下から、「おい!松本が占いを始めるぞ!」という声が聞こえた。誰かが窓から、校舎外へ出た人へこのことを知らせている人がいる。たくさんの廊下を走る音がこちらに近づいて来る気がした。
「いやぁー。相変わらず人気だねぇ〜。」
「ふふふふふ。それほどでも〜。」
浅美は、慣れた手つきでカードをシャッフルし始めた。タロットって言うらしい。
「ストップ。」
「ほい。」
手渡されたカードを、私もシャッフルし、浅美に手渡した。
「右と左、どっちを上にする?」
「うーん………。左。」
「オッケー。」
浅美はその通りにカードの山をぽん、と置いた。
「なんかムダにスムーズだなぁ…。」
まぁ、浅美が占いを始めた時に私は恰好の実験台にされたせいですっかり手順は頭に入ってしまった。
「じゃあ、引くよー。」
「おおおおおおおおおおおお!」
浅美が皆にそう言うと、一気にどよめきが起きた。浅美がコクリと頷いて、私はカードの山に手をかけて、3枚裏返しで引いた。
「左から引いてねー。」
「1枚目…。『節制』の逆位置。」
「これは過去の占い。無計画とか、そんな感じ。マジメすぎてダメって解釈もあるけど、まひるに限ってそれはないかな。」
「さっすがー!当たってる!」
周りからも手を叩く音がする。
「まひる……。言っとくけど良いカードじゃないからね?…って言うかこのカード出すの何回目?」
「わかんない。」
「そ・う・い・う・と・こ・ろ!」
「くおぉー。」
浅美は私の眉間を指でぐりぐり突っついた。
「2枚目…。『月』の逆位置。」
「はぁ…。カードの種類覚えてきたみたいで感心ね。これは現在の占い。ざっくり言うと迷走してる状態って意味。」
「おお!また当たり!」
「喜んじゃダメでしょ!これも悪いカードだから!」
「えへへー。やっぱり浅美の占いはよく当たるなぁーって。」
私の一言に、周りの皆が一斉にうんうん、と頷いた。
「いや、まぁそれは素直に嬉しいけどね。」
「おっ!照れてる?」
「……3枚目の予想。『死神』か最悪の『塔』で。賭けるわ。」
「えっ!ひどーい!1枚目と2枚目は悪くてガッカリだったけど3枚目で逆転する予定だったのにー!」
「いやちゃんとガッカリしてたのね。なんか妙に安心したわ。」
私は頬を膨らませながら3枚目を引いた。
「3枚目……………………………………?」
知らないカード。大きな赤いハートを、いくつもの輪が囲んでいる絵が描いてあった。多分今までの占いで1回も出ていないやつだ。
「ねぇ浅美。このカードなに?これの正位置だったんだけど。」
「うわっ!予想外れた!…良かったね。」
「?」
訳がわからない。
「それは未来の占い。否応なしに訪れる好機って意味。」
「えっ?それすごく良いカードじゃない?」
「だからそうなの。予定通り、見事に大逆転ね。おめでとう。」
んー、なんか実感が湧かない。
「ところで、なんていうカードなの?」
「『運命の輪』だよ。」
その名前に、スリープ状態だった私の頭の中のセンサーがピクリと反応した。
「うおおおおおおおおおおおお!」
「うわっ!びっくりした!急に叫ばないでよ!」
「いやだって!それってなんか……なんか…運命的だよ!」
「語彙力だいじょぶ?」
そう言う浅美もなんか嬉しそうだった。
「おおー。良かったな星月。」
「ところで何を占ってたんだ?」
「知らね。」
「そこの皆さん!」
「「「うおお!」」」
「ちょっっっとお話いいですか?」
早速、たまたま近くにいた男子3人に取材を始めてみた。
テンションもモチベーションもマックス。気分は水を得た魚、スターを得たマリオだ。
私は、浅美を放ったらかしにして(後で謝ったら苦笑いされた)学校中を歩いて、手当り次第取材して回った。
*
そう、気分は無敵状態だった。気分は。気分だけは。
記事にできそうな情報は何一つ集まらず、完全下校時刻で先生に学校から追い出された。
……とりあえず浅美にLI●E。
mahiru
『浅美〜。全然ネタ持ってる人と巡り会えないよ〜!』
占い師アサミちゃん
『あっれ〜?占い外れたかなぁ…』
即レス!?塾だったんじゃ…?
占い師アサミちゃん
『今は休憩時間なのでスマホをいじっていたのだ〜!』
……なるほど。
mahiru
『でもどうしよ〜!〆切がぁ〜!』
占い師アサミちゃん
『じゃあ、諦めるの?』
この言葉にはちょっとムッとした。
mahiru
『諦めない!』
『諦めても諦めなくてもいつか試合は終わるけど、どうせだったら諦めない方がいい!って!』
占い師アサミちゃん
『おじいちゃんが?』
mahiru
『そう!おじいちゃんが言ってた!』
占い師アサミちゃん
『www』
mahiru
『ちょっ!草生やさないでよ!』
占い師アサミちゃん
『いやー、まひるらしいなぁ、って』
mahiru
『どういう意味!?』
私は頬をプクーっと膨らませた。
占い師アサミちゃん
『そんなまひるに元気の出る画像を与えようかな』
mahiru
『?』
占い師アサミちゃんが写真を送信しました。
さっきの、『運命の輪』のカードの写真だった。
スターの制限時間が延長された。
mahiru
『!?!??!??るろろん!?』
占い師アサミちゃん
『暴走w』
mahiru
『ありがと!とりあえず近所の商店街行ってくる!』
占い師アサミちゃん
『あー』
『確かにあそこ人多いもんねー』
『おっと、休憩時間そろそろ終わる』
『じゃ』
『ふぁいと』
「よしっ!」
私は、頬を手のひらでパンパン!と叩いて、商店街まで走った。
とりあえずカードはスマホの待ち受け画面にした。
*
結目商店街は、私の家と学校のちょうど間くらいにある場所で、私の通学路だ。
そこは、一言で言うと、カオス!
例えば、この道100年!という超老舗のお店もあれば、全国区クラスの有名ファストフード店もある。大抵のお店は繁盛していて、潰れたお店と言えば、うっかり老舗ラーメン屋の近くにお店を建ててしまって見事に潰されたおバカなラーメンチェーン店くらいだ。
で、そんな場所で取材してみたら!
①週三で通うカフェのマスター
今日に限って休み!嘘でしょ…。
②肉屋のおじさん
「面白い事件?…特に無いなぁ。」
「そうですか…。」
「強いて言うならウチの5歳の娘がさぁ…。」
結果。メンチカツ美味しかった!あと5歳になったその娘さんがめっちゃ可愛かった!
③ボウリングのピンでジャグリングしてる人
「面白い事件?いや今それどころじゃないんだけど…。」
「何か…ありませんか?」
「ちょっ!二の腕掴まないでよ!うわっ!うわわわわわわ!」
ドンガラガッシャーン!と、一気に10本近いピンが地面に落ちた。
「今、この状況が大事件だよ?」
その人がすごい目で見てくる。
「…………すいませんでした。」
ちょっとお説教された。
④布団屋の前で掃除しているおばあさん
「………………………?」
「いや、ですから、面白い事件…。」
「あんだって?聞こえないよ。」
「お・も・し・ろ・い・じ・け・ん!ですよ!」
「おもち?鯉?試験?」
「……いいです。もう。」
「おはぎ余ってるけど食べる?」
「………………………いただきます。」
これもすごく美味しかった。
⑤魚屋の若い店員さん
「俺彼女募集中なんだ。」
「そういうのいいです。じゃ。」
「わー!悪かったってー!」
⑥その他道行く人
「知らない。」
「無いかな。」
「あ?なんだオメェ。」などなど。
…………………………………ダメだ。
記事に出来そうな情報が全くでてきてくれない。そもそも私が作ろうとしているのは学校の新聞。怪事件でもない限り、載せることはほぼできないので、学校の方がまだ簡単。
ものすごく後ろ髪を引かれる思いだったけど、取材しているうちにけっこう遅くなってしまったので、しぶしぶ帰ることにした。
*
湯船に浸かりながら、おじいちゃんの言葉を必死に思い出す。おじいちゃんはいつも私に色々なことを教えてくれたから。
検索ワードは、謝る、先輩、怒り、鎮める、方法!
いや、さっき諦めない!とか言ってはいた。でもそれはできる限り!の話で、その時出来ることをやった上で諦めるのはもう仕方がない。っておじいちゃんはその言葉に添えていた。だから多分その言葉に反してはいない。
思い出せる限りで、3件ヒット!脳内おじいちゃんが喋り始めた。
「謝って済むなら警察はいらない。つまりそれが一番平和的ってことだ。」
「土下座は最上級の謝り方。でも、一生に1度しか使えない技だと思えよ?」
「目上の人を怒らせそうになったら先制攻撃で謝ろう。」
うーん………。3つ目……でも今はもう遅い可能性が…。2つ目はここで使うのはもったいない気がするからボツで。
悩んでいると、ポンッと別の言葉を思い出した。
「どうしようも無くなったら運に身を任せろ!」
……………………。おじいちゃん、もっと良い言葉を選んでよ…。そう心の中で呟くと、脳内おじいちゃんはちょっと悲しそうな顔をして引っ込んでいった。
お湯の中に口を沈めて、ぶくぶくと泡をたてた。
曇った小窓を拭うと、明るい満月が見えた。
まだ私の運勢は、『月』の逆位置だ。
*
お風呂から上がって、夕ご飯を食べて、もう寝ようとした直後だった。
「ねえ、まひる。何か悩んでるの?」
ギクッ!おばあちゃん。鋭すぎない?
「なっ何も?悩んでないよ?」
声が裏返った。おばあちゃんの前じゃハイと言ってるようなものだ。絶対バレた。
「あら。悩んでないならいいわ。もう遅いから、おやすみなさい。」
「お、おやすみ………………。ぇ?」
スルー、された?
「あ、そうだ。まひる。」
「えっ何!?」
おばあちゃんが突然振り返って、思わず身構えた。
「頭がゴチャゴチャになったら、夜に外の空気を吸って、月でも見ろって、あの人が言ってたわ。」
「あの人って……おじいちゃん?」
「そう。とっておきのリラックス法なんですって。なんて、なんか懐かしいわね。」
「うん。おばあちゃんがおじいちゃんの話するの久しぶりに聞いた。」
「あら、そう?ふふ。毎日あの人のことを考えてるのに、人にはあんまり話さないものなのかもね。」
おばあちゃんはそう言うと、自分の部屋へと入って行く。私は、その隣にある自分の部屋のドアを開けて、ベッドに体を預けた。
やっぱりおばあちゃんは、何でもお見通し。多分私が悩んでるってわかってたからあんなアドバイスをしたんだ。
カーテンを開けると、ガラスごしに満月が夜の街を照らしていた。ベッドのすぐ近くにある窓を開けてみると、少し肌寒いくらいの3月の風が部屋の中で穏やかに舞い始めた。しばらく目を閉じてそれを感じた。
そして目を開けて、月を見ようとした。
でも、私の目は、別の物へとすいこまれていった。
紫色の光の粒の尾を引いて、何かが彗星のように夜空を動く。それは、満月が明るく輝いていてもはっきりと見える光。でも、それは彗星よりもずっと小さくて、ずっと近くを飛んでいる。そして、だんだんその粒が減っていき、どこかに落ちて、やがて消えた。
私ではない誰かが、見つけた、と呟いた気がした。でも一緒に、その言葉は私の中にも生まれていた。。
ほんの十数秒もない時間だったはずなのに、私の目の中にはそれがフィルムに撮った写真のようにくっきりと焼き付いて離れない。
頭がぼうっとしたまま、窓を閉めて、電気を消して、毛布にくるまった。
おばあちゃんの、あるいはおじいちゃんのアドバイスには間違っていた。
とっておきのリラックス法だなんて。
私の中に、そんな安らぎなんて砂粒ほども無くなってしまった。
どうしようもなく湧き上がるくすぐったい高揚感を抑えたくて、毛布を握りしめた。
「運命的……だよ…………。」
その時だけ、私からそれ以外の言葉が消えていた。
記事にできる、とやっと思ったのは、すっかり夜がふけた後だった。