変身しません。
「プリキュアって言うのはね〜。」
「「うんうん。」」
「私にもよくわからないんだ〜。」
「「ズコッ!」」
今、私たちはあの崖から、ぐるっと回ってとりあえず神社の方に戻ることにして、歩きながら話している。モイランは私の頭の上が落ち着くらしく、くつろいだ様子だった。
で、プリキュアって何なのか聞いたら上の通り。何がなにやら。なんにもわからない。
と、いうことで、私は別の質問に移ることにした。
「そういえば、元はと言えばあのリボンつけてたのってあなただよね。なんか知らないの?」
「知ってるわけないでしょ。」
女の子はあっけらかんと肩をすくめてみせた。……どうやらウソはついてなさそう。
「ところでなんだけど……。」
「?……なによ。」
「名前。教えて!」
「…………急に何よ。」
女の子はとたんに気まずそうに目を逸らした。冷や汗もタラタラだ。
「………………適当に呼んでってって、さっき言ったでしょ。スフィンクスでもマンチカンでもスコティッシュフォールドでも。何でもいいわ。」
「………………ネコ、好きなの?………じゃなくて名前!おーしーえーてーよー!!」
女の子の肩をつかんでゆっさゆっさと揺らしても、ぷいっと顔を背けられるだけだった。
「あなた、どうしてそんなに私の名前を知りたがるのよ。」
「友達になりたいから!」
「………………即答ね。」
「当然!」
宣言したばっかりだし。
「なになに〜?ふたりはどういう関係?」
「友達予備軍!」
「赤の他人よ。」
「…………え?どっち?」
「そんな…!眠ってる私にあんなことやこんなことをしたのに…。もう私、お嫁に行けない……。」
「え?ちょっ!はぁ!?あんなことって何よ!」
「ふ〜ん。ふむふむ。ふたりはそういう関係か〜。………………グッジョブ!」
「違うから!」
私は頬をプクーっと膨らませた。
「もう!私のこと、助けてくれたくせに。」
「?………なんのこと?」
「崖から飛び降りた時、追ってきてくれたじゃん!私が逃げてって言ったのに。」
女の子がギクッ、と反応した。
「あ、あれは別に、その…②はなしだし、③はもう論外って言ったから!それに、私を逃がすためにあなただけが犠牲になるのが納得できなかっただけで!あなたのためとかそんなんじゃないから!」
慌ててるのカワイイから許す。
「優しいんだね。」
「優しくない!」
「ふたりは仲いいんだね〜。」
「仲良くない!」
「仲良くなりたい!」
「ならなくていい!」
むぅ…。やっぱりなかなか強情。
「なんでそんなに名前を隠すの?」
「…………………別に。」
女の子はかえってさらにツーンとそっぽを向いてしてしまった。
「見えてきたわよ。さっきの鳥居。」
「おっ!ホントだ!」
来た時と同じように、街は錆びていた。
「あぁ……そうよね。またここを歩かなきゃいけないわね。痛いからイヤなんだけど。仕方ないわね。」
痛い?
女の子の足元に視線を落として、女の子が裸足であることを思い出した。その足は、いくつかの切り傷と土でひどく汚れていた。
「大丈夫!?……あぁ、ごめんね。私のせいだ。」
「あなたのせい?どこがよ。」
「だって、強引に連れ回して、後ろほとんど意識してなかったから……。」
「いや……。全然大丈夫よ。仕方ないわ。わたしだってさっき気付いたくらいだし。」
「さっきから気になってたんだけど、なんで裸足なの?」
「うっ!…………………えっと、そのー……。」
明らかに怪しい。目がキョロキョロしてるし。
「まだ何か隠してるでしょー。」
「…………………………なんでもない。」
おばあちゃんじゃなくてもわかる見え見えのウソ。第一、なんでもないなら裸足になるわけない。
ジトーっとした目で女の子の顔に近づいていく。モイランもそれに便乗する。
じーっと見ること十数秒。女の子は、ちょっとだけ頬を染めてから、私のおでこを押し返して、スタスタと私を置いて歩いていく。
でも女の子が一人で勝手に行っちゃっていいわけないので、呼び止めようとした……んだけど。
「あんまり先に行かない方がいいよ〜。」
女の子の足がサビに触れる寸前に呼び止めたのは私ではなくモイランだった。
「……どういう意味?」
「下手したら死んじゃうから〜、ここからは離れた方がいいってことだよ〜。」
「「死ぬ!?」」
女の子があわてて後ずさりして、足を普通の地面に戻した。
「う〜ん。死ぬって言うよりは〜。……永眠かな?」
「同じだよ!」
「正確には違うんだよ〜。…………多分。」
「多分って…え?…どういうこと?」
「ごめんね〜。言葉が出てこなくって。でもとにかく直接触れるのはダメなんだよ〜。」
モイランは、頭を押さえてムムムっと唸ると、、何か閃いた様子でぴょんと頭から飛び降りて、えいっと近くの小石を錆びた道に投げ落とした。
すると、その小石に赤茶けたサビがザァッと一気に広がり、転がりもせずに落ちたところで止まった。もしこれが人間の体だったらと想像してみると、背筋が冷たくなった。
「「……………………。」」
女の子は足の裏をチラッと見て、どうやら無事であることを確認して胸を撫で下ろした。
「こういうことだからさわっちゃダメみたいだよ〜。」
……………はい。よくわかりました。
「………靴なら大丈夫?」
「ある程度は防げそうだけど、せいぜい1分くらいかな〜。靴がサビたら多分足もサビ始めるよ〜。」
私もすぐに後ずさり。モイランの言葉通り、靴底は既にすっかり赤茶けていて、脱いで内側をのぞいてみると、つま先の方までサビていた。
「モイラン。サビてる物に触ったらどうなるの?これ、もう地面からは離れてるけど。」
「普通にサビちゃうよ〜。裸足で、回り道するのをオススメするね〜。よく見ると靴下もサビてるし。」
「ホントだ……。」
サビた部分に触れないように気を付けて靴を脱いで、裸足になった。足にぺたっとした独特の感触だった。
「裸足、オソロだね!」
「………………………はぁ…。」
女の子は、深く、深ーくため息をついた。
それはさておき。
「モイラン。これ、何がどうなってこうなったのかな?」
「さぁね〜。何なんだろうね〜。」
*
プリキュアとの一戦の後、俺は周囲を探し回り、民家を潰してできた真新しいクレーターを見つけた。
その足元で、カカシのような、鉄錆色に赤茶けた人型が尻もちをついている。
「……………傷は癒えたか。ワルスギルプ。」
「ギィルプ………。」
先ほどあれ程のパンチをくらったというのに、怪物の体にはへこみどころかかすり傷の一つすらもなかった。
「…………あァ、お前には愚問だったなァ。」
ワルスギルプは、その口から黒い瘴気を吐き出す。それに周囲のものが次々と包まれ、鉄錆色に染まっていく。
「………行くぞ。反撃開始だァ。」
「イェッサァァァァァァアアア!」
翼をはためかせながら、ワルスギルプが雄叫びをあげると、世界は、どんどん錆びて動かなくなっていった。
「この瘴気に触れたあらゆる物は、錆びてそのエネルギーがゼロになる。だが、プリキュアだけは……。」
小さくそう呟いて、俺は舌打ちをした。
*
「って言うかわたし、プリキュアやるなんて一言も言ってないわよ!」
「えっ!ダメなの〜!?」
「イヤよ。あんな怖い怪物と戦わなきゃいけないんでしょ?」
「ウソでしょ…。こういうのって積極的にキター!ってなるのが定石でしょ〜!」
「…いや定石って何よ。」
モイランは頭の上でじたばた暴れて、女の子と言い争っている。これをカワイイと思っちゃう私はおかしくないと思う。
…………逆に私はもっと違和感を持つべきなのかな。こんなちっちゃいぬいぐるみみたいなものが普通に日本語をしゃべっているのに、驚いたのは最初の一瞬だけで、あとは割とあっさり受け入れてしまった。自分でも妙な気分がする。
こんなこと、絶対に一度も体験したことなんてないはずなのに。
「じゃあマッヒーはどうなの〜!?」
「?………え?まっひー?私のこと?」
「そうだよ〜!まひるだからマッヒー!ほれ!これからプリキュアをやる意気込みをどうぞ〜!」
マッヒーか…そんなあだ名を付けたのはモイランが初めてだよ…。
「意気込みと言われても…。こう見えて平和主義なんだよ私。」
「さっき『ぜりゃぁぁぁぁあ!』って叫びながらワルスギルプにドカドカパンチしてたのは誰だったかな〜!」
「……………あれ?さっきのこと見てたの?」
「……………あれ?なんでだろ〜。」
「そういえばなんで私の名前知ってるの?」
「……………………?」
モイランは急に黙り込んだ。首を盛大に傾げながら。
不審に思ったのであろう女の子が口を開こうとした時、3匹の腹の虫が合唱を繰り広げた。
「「…………………………………………。」」
「…あー。そういえば私、今日はカロリーメイトしか食べてないや。」
女の子は顔を真っ赤にしてうつむいて、一方でモイランはちょっとだけ戸惑った様子だった。
…ていうか、モイランも普通にお腹空くのか……………………。
「なんか、食べよっか。何にする?」
「わたしは……特に希望はないけど。」
「ワタシもないよ〜。」
「じゃあ、今日は土曜日だから…あそこかな!ついてきて!」
「えっ?ちょっと!待ちなさいよ!」
「ダーメ!腹が減ったら何とやらっておじいちゃんじゃなくても言ってたよ!ね?モイラン。」
「いや〜、ワタシにはよくわからないんだけど〜………。」
「うーん。まぁいいや!レッツゴー!」
「もう!走らないの!何か落ちてたら危ないじゃない!」
*
「ストロベリーパレットひとつ!」
「はい。」
「あなたは何にする?」
「何がいいのかよくわからないんだけど…。あなたが選んでくれない?」
「わかった。」
私は、キッチンカーのテーブルからぶら下がっているメニューを見て、ちょっとだけ考えた。
「じゃあ、グレープアンサンブルで!」
「はい。2つでよろしいですか?」
「いえ。あともう一つ………!」
あ!モイランの分どれを食べるか聞くの忘れてた。どうしよう。ぬいぐるみのフリをして、絶対動かないでね、って自分で釘を刺しちゃったよ…。
うわぁ。店員さん不審そうにこっち見てる。どうしよー…。
(ワビサビ宇治抹茶!)
「えっ?あ、ワビサビ宇治抹茶で。」
え?なに今の。頭の中でモイランの声がしたんだけど。
「はい。3つですね。900円です。」
店員さんは、2人しかいないのに3つ頼んだことに一瞬だけ不思議そうな顔をしたけれど、すぐに元の営業スマイルに戻った。
900円。なかなか懐が寒い。うーん……。よし、この子にも頼ろう。
「ごめーん。半分くらい出せる?」
「……………………ごめんなさい。わたし、今一文無しだから。」
女の子は、ワンピースのポケットをひっくり返してみせた。本当に何も入っていなかった。
しょうがないかぁ……。本格的に懐が氷河期になっちゃうけど。
「……じゃあ、これで…。」
「900円ちょうどですね。では、少々お待ちください。」
お金を渡すと、店員さんはキッチンカーの奥へ引っ込んで、あっという間にクレープを3つ作り終えて戻ってきた。
「ストロベリーパレット、グレープアンサンブル、ワビサビ宇治抹茶です。」
訳。イチゴ味と、ブドウ味と、宇治抹茶味のクレープです。
うん。なかなかぶっ飛んだネーミングセンスだと思う。美味しいから来るのをいつも楽しみにしているわけではあるけど。
私たちは、とりあえずキッチンカーの近くの公園のベンチで食べることにした。
なんか女の子が異様に目をキラキラさせてるんだけど。どうしたんだろう。
「これが…くれーぷ…。」
……ん?
「……まさか!食べたことないの!?ちょっとびっくり。」
「ワタシもないよ〜。」
「まぁモイランはいいとして。」
「え?何よその対応の差は!」
「まあまあ。いいじゃん。これ、ホントにおいしいんだよ。しかも土曜日にしかこの辺りに来ないんだ。」
でもお金ないからあと三週間はガマンかな…。悲しい。
「まぁとりあえず!食べてみて!この味に出会えたことは本当に運命的だよ!」
「何よそれ。………………………………………!!」
「ね?美味しいでしょ?」
女の子は、一口食べると、二口、三口、立て続けにどんどん食べ始めた。
それじゃ私も。
「いっただっき………ちょっと待ったモイラン!それ私のストロベリーパレット!モイランはこっちのワビサビ宇治抹茶でしょ!」
あ。そういえば。
「モイラン。さっき頭の中にモイランの声が響いて来たんだけど何か知ってる?」
「フッフッフ〜。あの時ワタシはマッヒーの心に直接語りかけていたのだ〜。」
モイランは、短い腕で自慢げに胸をポン!と叩いた。
「ふおぉ…。なんか妖精っぽい。」
「すごいでしょ〜。触った人にしか効かないんだけどね。実際にやってみると〜。」
(イェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェイ!って感じ。
……………。あれ?大丈夫?)
「大…………丈夫じゃ……………ない…………。パタリ。」
とにかく頭が痛い。クレープを落とさなかった自分を心からほめたい。
一方でモイランに触ってない女の子は涼しい顔でこっちを見ている。
モイランがニヤッと笑った。
「聞いてみる〜?」
女の子に逃げてと言おうとしたけど、時すでに遅し。モイランは女の子に飛びついて、同時に女の子の体が電撃でも受けたみたいにビクンっと飛び跳ねた。頭、ガンガン痛むんだろうなぁ…。
「もう…とんだイタズラ妖精ね。………………あ、よかった。普通の大きさでも話せるのね。…………まいくてすと?よくわからないんだけど。まぁ、いいわ。……………え?こっちも同じように話せるの?
それじゃあ……………………………………………。………………………。」
女の子は頭の上のモイランを見つめて黙った。まさか、心の声で会話でもしてるのかな。
むむむむむっと、難しそうな顔をしてはいるけど、なんか、心なしか楽しそうに見える。
でも、なんだろうこのモヤモヤは。楽しそうにしているのは間違いなくいいこと。うーーーん。……心の声で会話っていうのをやってみたい…ってこと?いや、それよりも……わかった。
「疎外感ーーーーーーーー!」
「ふぇっ!?」「ん?」
食べかけのクレープを落とさないように気をつけながら、女の子の体にくっついた。
えーっと…テステス!マイクテス!私の声が聞こえるーー?
(この子には聞こえてないと思うよ〜。)
モイラン!よかったぁ〜。モイランには聞こえてるよね?
(聞こえないよ〜。)
いや聞こえてるでしょ!ホントにそうならなんで会話が成り立ってるの!?
(顔に出すぎだよ〜。)
……………………なるほど。
(なんて言うか〜。糸電話してるみたいに自分と相手を繋いで、メッセージの塊を送信するイメージで!)
ぐぬぬ。でやああああ(あ)あああああああ!!
(おっ!『あ』だけ聞こえたよ〜。)
いやっ(た)ぁああああああ!
(今度は『た』だけ〜。)
う〜ん。一歩前進したのは確かだけど、やっぱり心許ないなぁ…。
(ち・な・み・に〜。そっちのあなたはいろいろ言ってたみたいだけど実は1文字も聞こえてなかったよ〜。)
(ふぇっ!?)
女の子の目が点になった。
今のは聞こえたけど……………まさかさっき会話してなかったの……?
(してなかったよ〜。ワタシ、表情を見ればだいたい何を言いたいのかわかっちゃうから。)
それ私たちがメッセージ送る必要なくない!?
ところで、気になったところがある。
モイランは、どうして私の名前を知っていたのに、この女の子の名前を全く口にしないんだろう。何かを、避けてるみたいに。
(とっつぜんですが〜!ここで自己紹介タ〜〜〜〜イム!!)
本当に突然だねモイラン。
………………ひょっとして、私の考えてることを、察してくれたの?
(まず、ワタシの名前はモイラン!これ、さっき決めたばっかりなんだよ〜。)
えっ?そうなの?
(うん。ワタシ、実は自我が芽生えたばっかりでね〜。生まれたてホヤホヤなんだよ〜。まぁ、物心0.05秒くらいでついちゃったんだけど。あはははははははははは!)
0.05秒って………ウソでしょ?
女の子も、空いた口が全然塞がっていない。
(あと、二人が知りたがってる、プリキュアに関する知識はゼロって言っていいくらいでね〜。現在自分探し中〜。なんかこう、喉元まで出かかってるから何かきっかけがあれば思い出せそうなんだけど…。ってワタシの喉ってどこなんだろうね〜。)
確かに。
(じゃあ次、マッヒー!)
と、突然だなぁ…。
コホン。私の名前は…。
(口から言わないと聞こえないよ〜。さすがに表情で読み取るのはこの子には厳しいし〜。)
おっ、オッケィ!
「じゃあ、改めまして。私の名前は星月まひる。星に月って書いて、ほしづき、って読みます。歳は13歳で、中学一年生なんだけど、この春休みが明けたら二年生!まだ見ぬ後輩ちゃんに早く会ってみたくてウズウズしてるんだ。
特技はおじいちゃんから教えてもらった武術。おじいちゃんはホントすごい人で、私の心の師匠って言っても過言じゃないよ。ただ、名言が多すぎていちいち検索しないといけなくなっちゃったんだよね………。
得意な教科は体育と国語と歴史と………それくらいかな?
で、趣味は体を動かすことと、ゲームと、食べること!
それで新聞部ではいつも食レポの担当を……………ん?」
突然黙った私に、女の子とモイランは不思議そうな顔をした。
「どうかしたの?」
(どうしたの〜?まるですっかり忘れてたことを思い出したみたいな顔だね。)
「………………………………………。」
私は、まだ半分以上残っていたクレープを10秒足らずで胃の中へ送り、おもむろに立ち上がった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!ヤバい忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!新聞部!締め切り昼までだったよぉーーー!今何時!?10時?あーもう私どんだけ寝てたの!?」
頭を抱えてのたうち回っていればいるほど、二人からの不審の目がどんどん高まって来ていることに私は全く気がつかなかった。
むむむ。カァモーン!おじいちゃん!あんどへるぷみー!
「物事は、計画的にな!」
遅い!それ超遅いよおじいちゃん!今それ言う!?もう!裏切り者ー!
いや待て。冷静に考えろ私。とんでもないスクープなら、目の前にある!
「モイラン!」
「な〜に?」
「取材、オッケー?」
「むり。」
「なんで!?」
条件反射レベルでの即答だったんだけど…。
「さっき、答えられるような知識はないって言ったよ〜。」
「いや、あのね、プリキュアに関することじゃなくていいから。例えばモイランの体ってどんな仕組みなのかなとか…。」
「わかんないよ〜。体の中なんて見たことないし。」
……………たしかに。
それに、あの先輩の前にそんな得体の知れないものを持って行ったらすぐに分解作業(もしくは解剖実験?)に入りかねない。
じゃ、じゃあ!私が変身するまでの過程をまとめてみると…。
『なんとなく木に登ったら超絶美少女がいて、と思ったらでっかい化け物に追いかけ回されて、追い詰められた先で崖から飛び降りたらピカーっ!となって、気づいたらなんか魔法少女的なやつに変身してました!』
突拍子も無さすぎるわっ!それに先輩にそんなことを言ったが最後、200パーセントその崖から飛び降りさせられる。
あぁ、先輩。人手不足だからって…。くぅぅぅ。このクレープを記事にできればなぁ…。でも食レポの部分はもう書いちゃってるからなぁ…。なんてこったい。
「うわぁぁぁぁぁぁ。もうダメだぁ…。」
「ほっしづっきさん。」
「なんですか先輩。今考えてるんですよ。」
「あら。それは感心感心。でも食レポの記事はもうもらってるから他のを持ってこいと言わなかったかしら。クレープなんて食べちゃって。」
「ですから食レポ以外のやつを……って先輩!?いつの間に!?」
私の背後には、私より少しだけ背の低いメガネ女子が立っていた。
「この私の情報網を舐めないでいただけるかな?星月さんの位置を特定することなんて簡単簡単。星月さんは毎週土曜日、高確率であのクレープ屋を訪れ、そしてこのベンチで食べているわ。味はイチゴ→ブドウ→カスタード→パイナップル→抹茶の順番でローテーションね。もう食べ終わったみたいだけど、今週はイチゴだったかしら。」
「…………………先輩、いつの間にストーカーになってたんですか?」
「違うわよ!それに、今のだいたいは星月さんが前に自分で言ってたことだからね?味の順番は店長さんに聞いたけど。星月さん、完全に顔を覚えられてたから。」
「えっ?マジですか?」
「マジよ。大マジ。」
先輩のドヤ顔解説。
そういえば、モイランは自分からぬいぐるみの振りモードに戻っていたので一安心。
「って言うか、さすが先輩ですね。」
「ところで…星月さんさっき私に対して何か失礼な想像してなかった?ストーカー以外でも。」
「え?し、してませんよ?」
見破られた!?いや、先輩のことだからカマをかけただけかな。
「そう。ならいいか。あと、そっちの子…見ない顔ね。」
先輩が両手にクレープを持った女の子を見た。片方はモイランの分だった。
「星月さんの家に誰かが出入りした痕跡はなかったし、親戚とは考えにくいわね。じゃあ……どういう関係?」
「先輩。やっぱりストーカーしてません?カメラとか盗聴器とか仕掛けてないですか?」
「………してないわよ。」
「まぁ、この子はただの友達です。」
「いや友達でもないわよ。」
ぷぅー。泣くよ?いくら私でもそんなに否定されたら泣くよ?
「いや、友達なの?違うの?どっち?」
はい。それモイランにも言われました(泣)。
「まぁいいわ。名前、教えてくれる?私は益子美空。中学二年。と言っても、もうすぐ三年。新聞部部長、マスコミ!ソラ!で覚えなさい。よろしくね。」
「はぁ……。よろしく、お願いします。」
「さぁ、名前を教えて?」
おっ!グッジョブです先輩!この調子で名前を……。
ところが、女の子はクレープをモソモソと口に運びながら、明らかに不自然に目を泳がせた。
先輩の丸いメガネがギラッ!と光った気がした。怪しい!というサインだ。これで運命は決まった。あと1分でこの子は生い立ちから今に至るまで洗いざらい吐かされるはず。
「…………ねぇ。星月さん。」
「はい!」
キタキタ!
「この子の名前、知ってる?」
「知りません!会ったばかりなので!名前も聞こうとしたんですけど、教えてもらえませんでした!」
「なるほど。よ〜〜〜〜〜くわかったわ。」
「ホントですか!?さすが神出鬼没の益子先輩!」
これは勝てる。間違いない。
私は、先輩に期待と羨望の眼差しを向けた。
「星月さん。」
「………はい………………?」
ん?何だろう。
「見知らぬ女の子をたぶらかすのはよくないと思うの。」
………………………………………………え?
「たっ、たったた、たたたたたぶらかす!?私全然そんなつもりななっな、ないですよ!?」
「わかってるわかってる。星月さん無自覚にそういうことしちゃうから。でもそれが、ここまで見境がないとは。こんな超絶美少女だからと言ってねぇ…。」
「って言うか私ですか!?色々言われるの!」
「そりゃそうでしょ。どうせ突然『私と友達になってください!』とか言ったんでしょ?」
「いや、まぁ確かに言いましたけど!言いはしましたけど!これには色々と深い深〜いわけが…ってちょっと待った!」
チラッと先輩の後ろを見ると、女の子は突然ベンチから立ち上がってコソコソどこかへ走り出した。
それを追おうとすると、先輩は、目以外は満面の笑みで私の肩をガッチリとつかんだ。
「逃がさないわよ?話はちゃんと聞きなさい。」
殺気というものは…今まさに先輩が出してるもののことを言うんだなぁ…と、しみじみ感じた。
いや、勇気をだせ私。これを逃したら次は無いかもしれない。なら怖くない!
「先輩、ごめんなさい!」
「わかってくれた?でもまだ話は終わってな…」
「おじいちゃん式格闘術85番!」
「ぷぎゃっ!」
素早く先輩の首を手刀で打って気絶させ、両手でしっかりと体をキャッチ。そして心の中で土下座して、そっとベンチに寝かせた。
「モイラン!行くよ!」
「りょうか〜い。まだクレープ食べかけだから、急がないと!」
「わかった!」
私は、モイランを小脇に抱えて、女の子が走り去った方向へ全力ダッシュした。
もうその姿は見えなくなったけど、そこは運に身を任せて勘で行くしかないけど、なんとなく追いつける気がする。証拠はないけど。でも、こういう時の私の勘はよく当たる。
曲がり角を3回曲がった先に、あの子の姿を見つけた。気合を入れて、さらにスピードを上げていく。裸足だからいつもよりは遅いけど、それはあっちも同じなはず。
「ま〜〜〜〜〜って〜〜〜〜〜〜〜!」
(マッヒー、足速いね〜。)
「これでも陸上部員並には!」
女の子が左に曲がった。でも、そこは行き止まり。確か、隠れ家グルメ的なレストランがあったくらい。
これは勝った。
「追いついたよ!もう逃がさな…………え?」
誰も、いなかった。人どころか猫1匹も。
「ちょっと…これはビックリだね〜。」
「…………うん。」
奥に入って、辺りを見回しても、湿っぽい日陰と、『closed』と書かれた札が下がった、古びたオシャレなドアしか目に入ってこない。
どこを見ても、ここから抜け出せる方法はわからなかった。
「消えた……のかな………?」
「そう考えるのが一番しっくりくるよね〜。どうやったのか見当もつかないけど。」
なぜか、胸の奥で冷たい雫が落ちて、波紋を広げていくような感覚がした。
「……………どこにいるの?」
*
ハァハァと息が切れる。さっき食べたばかりなのに、もうお腹が空き始めてきた。
「ここ………どこ………?」
音が大きくて、うるさくてたまらなくて、耳を塞いで、フラフラと歩き続ける。
ただ……ただ怖い。
わたしはいったい、どこへ行けばいいんだろう。
どうすれば、いいんだろう。
しばらく途方に暮れて、ふと思いついた一つの場所へ自然と足が向かった。
次回システムの説明するつもりです。
と思ったら出来なさそうです
あと、益子って言うのは誤字じゃなくて意図的なものです。