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( '-' )ノ)`-' )ナゲェヨボケ
…結局、名前については保留にした。
ご飯中にもいいやつが出なかったし、何かアイデアの元になるかな、と思って引いてみたタロット占いは、気長に待てという結果…。
しかも、浅美はお店の手伝いがあるらしく、ごめんねー、と言いながらお兄ちゃんと一緒にバイクに乗って商店街へ行ってしまった。
そのおかげで、私たちは半ば追い出されるように(靴はちゃっかり二足借りた)浅美の家から出た。
「で、何でわたしの名前以外の方は軒並み決まってくのよ!技名って何!あれ言うの?本当に?」
「かわいいじゃん。変身してる間だけでいいから!お願い!最後の名乗りは一緒に言ってあげるから!」
(マッヒー、すごいノリノリだね〜。変身バンクがどんどん変わってくよ〜。)
「とにもかくにも、私たちは今、最初の桜の木があった山の前に来ていまーす!」
「……誰に向かって言ってるの?」
「え?今回は説明回だからいいんじゃないの?」
「だからって、説明回とかさらなるメタ的発言を重ねないの!」
「メタ的発言って言葉自体メタ的発言じゃん!」
(ちょっとちょっと〜。スト〜〜〜ップ!)
「…………やめましょ。終わりが見えなくなるわ。」
「…………そうだね。あはは。」
それはともかく、記憶喪失の手がかり探しと言えばやっぱり最初に目覚めた所かな、となるのは自然な流れだと思う。
「さっきはサビてたけど、ワルスギルプは浄化したから、今は心置きなく探せるしね!」
「まぁ、それはそうね。」
心配なのは、まずあのコモドルガって言う人を倒したわけではないってこと。あれで諦めたとは思えないし、二回も同じように退散されてるってことは、三回目もあるって思っていいと思う。しかもモイランの話だと、ワルスギルプは新しく作れるみたいだし。
それに、あの人は自分を三幹部の一人って言ってたから、敵は少なくともあと二人はいる……ってことで。
でも、あの必殺技みたいなの使えば一発だから、ワルスギルプは大丈夫かな。
「そういえば、私から逃げてた時、どこ行こうとしてたの?」
女の子は、きまりが悪そうに耳たぶを触った。
「………ここ。わたしについての何かがあるかと思って。それに、なんとなく落ち着くかなったから、何回か『ジャンプ』して行こうとしてたの。」
「『ジャンプ』…って、瞬間移動だっけ。」
「えぇ。距離に限りはあるけど、頭の中でイメージした場所に行けるわ。さっきは微妙に座標がズレちゃったけど。と言うより、わたしはイメージしたことならだいたいなんでもできるわよ。」
「なんでも!?すごいね!」
なるほどなるほど。闇雲に探すもんじゃないなぁ。そりゃあ見つかるわけない。
「あれ?でもあのクレープ屋さんからあなたが倒れてた場所って、この山とは真逆の道なんだけど。」
「………え?」
女の子の顔がラクガキみたいになって固まった。
「もしかして…普通に迷子?」
「ちっ!違うわよ!別に道を忘れてだいたい山までの距離はこれくらいかなって仕方なく適当に『ジャンプ』したとか、そういうことじゃないから!」
「誰もそこまで言ってないんだけどなぁ。」
「ぐぬぬ……。」
「あははは。」
「もう!笑わないでよ!」
「いや、かわいいなー、って。」
「かわいくない!どこがかわいいのよ!」
そこ!そういうところ!と言うとエスカレートしてしまいそうだったので、仕方なくその辺で話を終わらせることにした。
「でも、結局あなたが思った通りになっちゃったね。」
「?」
女の子は本気で不思議そうな目で答えた。。
「思った通りでもないと思うけど?」
「そう?なんで?」
でっかいため息の音が聞こえた。
「わからないならいいわ。行きましょ。」
「…うん。」
あれ?なんかちょっと……怒ってる?
女の子は、おもむろに私とモイランの手を握って呟いた。
「『ジャンプ』。」
パン、と何かが弾ける音がして、一瞬視界がぐにゃっと歪み、気づけば目の前にあの桜の木が伸びていた。
ただし、満開どころか一分咲きくらいのやつが。
「………これ、だよね?」
「え、えぇ。多分そう。」
木の周りのスペースの広さも傾き方も全部覚えがあった。でも、この桜の木だけが違う。
地面には乾いた落ち葉と小枝だけが落ち、ワルスギルプの風で飛ばされたはずの花びらの一枚も見つからない。
「…ちょっと登ってみるね。」
「えぇ。お願い。」
「一緒に来る?」
「嫌よ!」
「はーい。」
枝に手をかけ、するするっと登った。初見で登った感じじゃない。枝の長さもつき方も覚えがあった。しかも、上の方にはちょうど人が二人分寝れるくらいのスペースがあった。
首を傾げて、道のりを逆再生するように木から降りた。
「やっぱり、この木だよ。花以外全部同じだった。」
「そうよね……。」
「あなたの力で、花を咲かせるとか、できない?それだったらわかるんけど。」
「ムリね。この木の生命力に干渉するとか、時間の進みを速めるとか、色々やり方はあるけど、さっきのスパゲティが千年分は必要よ。」
女の子が山のような麺をブラックホールみたいに吸い込んでいる絵面が浮かんできて、なんとも言えない気持ちになった。
「………モ、モイラン?メタモリアならどれくらい?」
「50年ずっと会いたかった人にやっと会えたくらいの喜びの軽く20倍くらいかな。」
「「……………。」」
はい。どっちにしろケタ違いってことはわかりました。
どうしよう……。このままだと何の手がかりも掴めずに終わっちゃうよ…。
それにしても、私はどうしてこんな所に来てたんだっけ……?
「……あぁあああああ!流れ星!」
「あれ?マッヒー、もしかして忘れてた?」
「うん……。完っ全に忘れてた。」
「もう……わたし、これでも流れ星を一緒に探す気満々だったのよ?」
「ごめんね…。」
女の子がジト目で口をとんがらせた。
「形とかわかる?それならこの山の中からでも探せると思うけど。」
「全然わかんない。」
「はぁ………。地道に行くしかないわね。」
「ごめんね……………。行こ!止まっててもしょうがない!」
女の子がうなづいたのを確認して、手を繋いで木々の中へ入って行った。
----1時間後----
「ここって、思ったより広いわね。暗いし。」
「明かりってつけられる?ボウッて。感じで。」
「いけると思うわ。モイラン、いい?」
「は〜い。準備オッケ〜!」
「『サニー』!」
「おっ!ついた!……あれ?ちょっと明るすぎない?え?」
ゴァァァァァァァァァァアアア!
「「「目が!目がぁぁぁぁあああああああああ!」」」
----2時間後----
「ふぅ……ひどい目にあったね〜。」
「ごめんなさい…。光るものを思い浮かべようとしたら、太陽をイメージしちゃったみたいで……。」
「さっきのやつも技名付けないとなぁー。」
「それよりわたしの名前考えてよ…。」
「そうだ!これでどう?ゴニョゴニョ…。」
----3時間後----
「マ、マッヒー…?こんな山の中から石ころ一つ探すのは無茶なんじゃないかって今更だけど思い始めてきたよ〜…。今まで地面しか探してないけど、木の枝とかに引っかかってるかもしれないし…。」
「石ころじゃないかもしれないよ!」
「例えば?」
「宇宙人が乗ったロケットとか?」
「さらに突拍子もなくなったね…。」
「ねぇねぇ。そっちはどう?なんか見つけた?」
「ないわね。枝がどうにも邪魔だわ。焼き払えば探しやすくなりそうだけど。」
「待って待って。自然破壊はダメだから!」
そうこうしているうちに、空はすっかりオレンジ色に染まって、カアカアとカラスの鳴き声すら聞こえてくるようになった。
「帰ろっか。もっと暗くなったらちっちゃくてもこういう山の中は危ないし。」
「そうね。降りましょ。…『ジャンプ。』」
力をたくさん使ってもらったせいか、ズシッと肩に何かが伸し掛るようなだるさを感じた。
「じゃあ私の家に……………。…?」
一緒に私の家に向かおうと、女の子の手を引いて歩こうとすると、その手はなぜか私の手を引っ張り返した。
振り向いてみると、女の子は少しだけうつむいて私の手を見ていた。
「どうかした?」
「…ねぇ。聞きたいことがあるんだけど。」
「何?」
「友達って………………何?」
……………。
「もしかして、意味もわからないまま友達じゃない!って連発してたってこと?」
「そうじゃなくて、意味はだいたいわかってるけど具体的に何をすればいいのかがよくわからなくて。」
どこまでもまっすぐで真剣な目で、私は、これはできるだけちゃんと答えないとダメだなって思った。
なるほど。友達としてすべきこと…か。
こめかみに指を当てて、今まで友達と一緒にしてきたことを思い出した。
一緒に遊んだり、くだらない話で盛り上がったり、やり忘れた宿題を写させてもらったり、おいしいものを食べたり……ちょっとケンカしちゃったり、怒られたり、別れて悲しくなったり…一緒に、夜空を眺めたり。
こうしてみると、色々あったなぁ…。でも、やるべきこと…って何だろう。私にもわからない。
おじいちゃんは、何て言ってたかな。検索。
……結果。該当なし。近いのはいくつかあるけど。
「う〜ん。何だろうね。私にもわかんないや。」
「はぁ……。じゃあわたしはどうすればいいのよ。」
「う〜ん。…一緒に遊んだり?」
「それだけ?」
「いや、それだけでもないけど…。ケンカしたりもするし。」
「ケンカ……どうやるの?」
「どうやるの!?……って言われてもなぁ…。自然とそうなっちゃったりするし。」
「友達って大事な人なんでしょ?それなのに?」
むむむ。難しいなぁ……。
「大事な人だからこそ…なのかもね。」
「?」
「ううん。なんでもない。……ところで今の発言は私のことを大事な人って思ってくれてるってことでいいのかな?」
私はいたずらっぽくニシシと笑った。
「ちっ!違うわよ!別に今のはイメージの問題で、まだそんなふうに思ってる訳じゃないから!」
「まだ?ってことは?」
「……………………ほんとに…………違うから…………………。」
くああああああああああああ!照れた顔かわいいいいいいいいいいいいいいいいいい!
よし!追い討ちをかけよう!
「そっかぁー。私のこと、大事じゃないのかー。ちょっと傷つくなぁー。」
「いや、だって……わたしたち、出会ったばかりだし……………。」
「そーゆーの、いつ出会ったとか関係ないよ。少女マンガとかでも、ぽっと出の転校生が、幼なじみを差し置いて主人公をかっさらっちゃう展開とか、よくあるでしょ?」
「………………?」
「あ、そっか。そりゃわかんないよね。貸してあげるから、後で一緒に読もうね。」
顔では笑いながら、静かに心の中でため息をついた。結局、まだ女の子の質問には答えていない。
「行こっか。」
家に向かって歩いて行こうとしたけど、後ろから足音が聞こえない。 振り向いてみると、女の子はモイランを抱えて、俯いたまま止まっていた。
「どうしたの?行こう?」
「………わたしは、寝る場所を探すわ。」
「え?」
待って待って。寝る場所探し、ってもう既にツッコミたいけど。
「……どこで寝るつもりなの?」
「とりあえず、ベンチの上とか木の上…はちょっとアレだけど、泊めてくれる人を探すわ。………それじゃ!わたし行かないと。」
「ちょっと待ったぁ!」
女の子が放課後友達と別れる時みたいにナチュラルに立ち去ろうとしたので、慌てて手を掴んで止めた。
「いるでしょぉぉ…?泊めてくれそうな人が目の前に……!」
「……………?ふぇ?」
「ふぇ?じゃ!なくて!第一、見つからなかったらどうするつもりなの?」
「野宿するわ。」
「いやいやいやいやいやいやいやいや!!」
女子中学生(推定)が夜に野宿とか絶対ダメでしょ!補導待った無しだし、それ以外にも何をされるかわかんないし……。
「私!いるでしょ私が!泊めてくれそうな人〜!」
「大丈夫よ。『ガード』しながら寝てれば誰もわたしに近づけないわ。」
「それ餓死まっしぐらだから!ご飯どうするの!?」
「あっ……。」
一瞬で女の子が石像と化した。
「気づいてなかった……。」
「じゃあモイラン、今から私の家に行くけど、動いちゃダメだよ。」
「………。」
「…モイラン?……あれ?寝てる。」
いつの間にか、モイランは私の腕の中で、すやすやと寝息を立てながら気絶したように脱力していた。
「まぁいっか。……………とりあえずお母さんとおばあちゃんの許可が取れるかどうかが一番の勝負なんだけど……。でも私がなんとかする!」
女の子が、ゴクッと唾を飲み込むのをよそに、半ば強引に家まで引っ張って行った。
*
「あぁ、別にいいわよ。」
「いいの!?」
理由も何も話してないのに、軽く「この子泊めてもいい?」って言っただけでこう即答するのは私のお母さん。今は真っ白なTシャツにジーンズ、そして若々しいポニーテールという、ラフすぎる格好をして、おばあちゃんと一緒にテレビを見ながら仲良くお茶を飲んでいた。
「その子のお家の人には許可取ったの?」
と、おばあちゃん。
「おうちを聞いても名前を聞いてもわからないんだよね…。」
「「?」」
「実は、かくかくしかじかで…。」
私がお母さんとおばあちゃんに事情を話している間、女の子はどこか緊張した面持ちで、キョロキョロとリビングを見回していた。
「うんうん。記憶喪失。記憶喪失ね……。わかったわかった。………………記憶喪失!?」
「あらあら。それは驚きねぇ。」
目玉が飛び出さん限りのお母さんと、全く動揺した様子のないおばあちゃん。本当に母娘かどうか疑いたくなるくらいの表情の差だった。
「それを踏まえた上で泊めていいかどうか…」
「いいわよ。」
「いいんだ!びっくり!」
それでもまた即答。どっちの目にも、迷いはなかった。
「なになに?泊まらせたくないの?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど、もっといつもお母さんもおばあちゃんもこう…結構用心深いでしょ?」
「まぁ、それはそうだけど…ねぇ。」
「自分の娘と同じ年頃の子を、路頭に迷わせるほど、お母さんもおばあちゃんも薄情じゃ!ありませーん。」
「それに、その子が悪いことをするとは思えないしねぇ。」
「お父さんには出張から帰ってきた時にお母さんが言っとくからね。任せなさい。」
「お母さん……。おばあちゃん……。」
満面の笑みで、女の子とハイタッチ。
……正直、最大の関門だと思ってた。
「よかった…。ベンチで寝ることにならなくて。」
「あ、あの、ありがとうございます。」
「いいのよ。ちょうど、我が家にも新しい風を吹かせたかったところだしね。」
「お母さん…………。」
「じゃあ、今日の夕ご飯はごちそうよ!冷蔵庫の中身、ありったけ使っちゃおうか!」
「私も、久しぶりに手伝おうかしら。お庭で小松菜が採れたてなのよ。」
「ありがと!助かる♪」
「さ、とりあえずお風呂入ってきなさい。二人とも泥だらけよ。」
「「あっ……。」」
確かに、あんな場所に何時間もいたらそうなるよね……。
*
「おいしかったー!あんなの久しぶりだよ!ありがとね!」
「えぇ。こちらこそありがとう。パジャマまで貸してもらっちゃって。」
まひるに連れられるまま階段を登ると、右側に3つ、左側に2つの扉が見えた。
「あなたの家って、浅美の家より大きいのね。」
「うん。よく言われるよ。部屋もけっこう広いし、地下もあるしね。」
「地下…………!?」
「本棚がいっぱいあるんだよ。昔、おじいちゃんが集めてたみたい。」
それはちょっと…いや、かなり興味を引かれる気がする。
「ここが私の部屋なんだけど…。ちょっと待ってて。」
まひるが右側の真ん中の部屋に入って行き、中から何かをガタガタと動かす音がした。もしかして、部屋の片付けでもしてるんだろうか。
モイランはまだ寝ている。でも、ぬいぐるみモードは貫き通すつもりなのか、目は半分くらい開いていた。
「なんて顔で寝てんのよ…。」
ため息をついて、扉に耳を当ててみた。何かうず高く積み上がっていたものが倒壊する音とまひるの悲鳴が聞こえて、すぐに拾い集める音がした。
「あら、どうしたの?そんな所に立って。」
階段の方から声が聞こえた。まひるのおばあ様だった。
「いえ、あの子…まひるが部屋を片付けてるみたいで。」
「あぁ、そういえば昨日の夜中に地下に降りてたわね。流れ星を探すから資料集めするんだ、って言って。」
おばあ様は、部屋の前まで行くと、扉に耳を当てて、くすっと笑った。
「あら。出てくるわ。」
まひるは、器用に足でドアを開けて、前が見えないくらい積み上がった本を両手に抱えて、慎重に階段に向かって歩いた。
「ちょっと?何してるのよ。危ないわよ。」
「今……話しかけないで…。集中してるから……!」
おばあ様は微笑みながら、何も言わずに階段をすぐ近くの部屋に引っ込んで行った。まひるはコォォと変な呼吸をしながら階段を降り始めた。
「無理しないの。わたしも持つから。」
「いや、悪いよそれは。大…丈…夫……!」
「いいから!」
わたしは、誰も見ていないのを確認して、モイランをまひるの背中に押し付けた。
「『フロート』!」
まひるが持っている本の上半分が一斉に浮き上がり、わたしの左手に載っていく。これでまひるは前が見えるはず。
でも、わたしは痛恨のミスをしていることに気づかなかった。
チカラを解除すれば、当然数十冊分の本の重さが手にダイレクトに伝わってくる。両手ならギリギリ支えられないでもない重さだけど、右手はモイランを持っている。もしモイランを放したら、メタモリアの供給が止まって自動的にチカラが解除される。
それでもわたしはなんのためらいもなく『フロート』を解除した。
わたしの本来の腕力が、プリキュアになっている時とは全然違うということが、完全に頭から抜けていた。
「って、えっ?きゃあああ!」
「!」
左手の本を右手で支えようとして、バランスを崩した。視界がスローモーションになった。
まひるは自分が持っている分の本を真上に放り投げてわたしの体を抱きとめ、下からすくい上げるようにしてわたしが落とした本を1冊残らずキャッチ。さらに放り投げた本もその上に落ち、ストンと元通りに積み上がった。
………今のって、完全に動体視力とバランス力だけでキャッチしたわけで。しかもわたしが片手じゃ全然持てなかったのをいとも容易く空中で受け止めて、一ミリも震えてない……。
もう、わけがわからない。もしかして、あの時二階から落ちてても、この子普通に大丈夫だったんじゃ…。
「大丈夫?どこかケガしてない?」
「え、あ、えぇ。」
「よかった。そっちこそ、あんまり無理しちゃダメだよ。ここは私が運ぶから。任せて!」
まひるは突然わたしの頬を人差し指でつんつんつついて、階段を降りて行った。その足取りはどこか軽かった。
「………………………はぁ……。」
ため息をついて、床に落ちたモイランを拾った。それでもモイランは眠っていた。
片付けは、その後二分足らずで終わった。
*
「おふとん準備完了!ベッド使っていいよー。」
「ありがと。」
「いやいや。私はおもてなしする方だから。って言っても、寝る場所しか与えられてないけどね。」
「そんなこと…ないわよ。」
「?」
まひるは首を傾げて不思議そうな顔をした。
むしろ、どうしてわからないのかこっちが聞きたいくらいだ。
「だって、あなたは最初に木から降ろしてくれて、自分がおとりになってワルスギルプから逃がしてくれて、食べ物も用意してくれて、倒れたわたしも助けてくれて、寝るところまで用意してくれて…」
「あ、もしかして。」
まひるはパチッと部屋の明かりを消して、代わりにカーテンを開けて、窓辺に軽く腰掛けた。星と月の冷たくて柔らかい光が部屋の中に差してきた。
「さっき野宿しようとしたのって、私に迷惑かけちゃう!って思ったから?」
「それは…。」
図星だった。
「別にいいのに。友達だもん。」
「でも!わたしはあなたに助けてもらってばっかりじゃない!わたしからは何も与えられてないでしょ?さっきだって、桜の木の周りを探してくれたし…」
「ストーップ!」
「むぐごっ!」
まひるの手が、わたしの口を塞いだ。
「………?…………!?」
「言いたいことはわかった。………でも!」
「プハッ!………はぁ……はぁ…………。」
手が口から離れた。かなりしっかりと塞がれていたせいか、思わず息が荒くなった。
「自分は何もしてないとか、そういうこと絶対言わないで!」
また、この目だ。どこまでも澄んでいてまっすぐで、見られているだけでぐぅの音も出なくなるような、自然と敵わない、と思ってしまう目。少しの怒りは混じっているけれど、本質は何ら揺るぎはしない。
「あの時、崖から飛び降りて、あなたが来てくれなかったら私、確実に死んでたよ?万が一生きてても、いろんな所をケガして、逃げきれなくて、サビになってた。プリキュアになって、浅美を助けることもできなかった。…今ここにいなかった!」
まひるの目には、だんだんと涙が浮かんで、そしてわたしの二の腕をぎゅっと掴んだ。
「おかしい……よね。あなたには…、逃げてって言ったのに、来てくれた時……あなたと手を繋いだ時、すっごい嬉しかったんだよ。」
まひるは俯いて、ぽつり、ぽつりと、一言ずつ、噛み締めるように紡いだ。顔は見えなかったけれど、でも、小さな雫が落ちるのだけは見えた。
「………運命的なんだよ。これ以上、ないくらい。こんな気持ちになるの、初めてだから……。だから…その人を、助けたいって思うのは、………ダメ?」
……………………………………………ずるい。
「……………ダメじゃ……………………ない。」
顔が耳まで熱くなるのがわかった。なんとなく、深呼吸しながら上を向いた。
まひるは手を放して、くるっと回って窓の方を向いた。右腕で顔をゴシゴシと拭いて、後ろで指を組んだ。
「…………ねぇ。」
「…………何?」
「名前、付けていい?今、思いついた。」
「…それ、また借りが増えない?」
「増えないよ。むしろ、私はあなたからこの名前以外を名乗る権利を奪ってるってことだから。」
「何それ。」
むちゃくちゃな理論。でも、悪くないと思ってしまう自分がいた。
「なんでもいいわ。名前なんて。」
まひるの横まで歩いて、窓の外を見た。
まひるに聞こえないように小さく呟いた。
「…なんでもいい。………あなたが付けてくれた名前なら。」
今の一言は、墓まで持っていこう。
「じゃあ、言うね。………なんか、緊張するなぁ。」
「早くして。こっちだってドキドキするから。」
「…………うん。」
まひるは、わたしの肩に、そっと自分の肩をくっつけた。薄い布越しに、まひるの温かい体温が伝わった。
「……………………夜空。」
「……………よ、ぞら…………。」
「うん。あなたの名前は、今から夜空。」
互いに顔を見合わせた。紫色の目に、ほんの少しだけ欠けた月が映っていた。
心の中で、自分の名前を何度も反芻した。
心臓が胸を突き破ってしまうんじゃないかと思えて、パジャマ越しにぎゅっと掴んだ。
そして、たった一言の言葉を絞り出した。
「……………ありがとう。まひる。」
まひるはちょっとびっくりしたように目を見開いて、また泣きそうな笑顔を浮かべた。
「…………どういたしまして。夜空。」
わたしは、そっと手をまひるの手に重ねた。なぜかはわからないけれど、まひるがそうして欲しいと思っているように感じた。
すると、それまでまひるの机の上で眠っていたモイランが突然起き上がり、こっちに向かって歩いてきた。その目はどこか虚ろで、わたしたちを見ているようで、わたしたちでないものを見つめているようだった。
「「モイラン?」」
「もちあげて。ワタシを。ふたりで。」
わたしたちが首を傾げながら言われた通りにしてみると、わたしの左目と、まひるの右目が、プリキュアに変身した時みたいに金色に染まった。
左目の視界だけに、何かが映っていた。
わたしの胸からまひるの胸へ向かって、グレーに発光するリボンが伸び、脈打つように何かが流れていた。
モイランの手が、そのリボンに触れた。
「『メタモリー・チャージ』」
リボンに流れるものがモイランの指先に丸く集束していく。
「『チップ・アイアン』」
身体から何かが引きちぎられるような痛みと共に、丸い塊はリボンから分離し、モイランの胸の中へ入って行く。
モイランは気を失ったのか、だらりと体から力が抜けた。その時には、私たちの目の色はもう元に戻っていた。
「…………見えた?」
「…………えぇ。」
「………今の、何だと思う?」
「………モイランがさっき言ってた、『解放』ってやつじゃないかしら。」
「……うん。私もそう思う。」
とりあえず、モイランの頬をペシペシ叩いて起こそうとしたけれど、反応は全くなかった。
「寝よっか。明日になれば、さすがにモイランも起きてると思うし。」
「そうね。」
わたしがベッドの上に寝転んだのを確認して、まひるはカーテンを閉めた。
*
「午前2時……。さてさて、草木も眠る丑三つ時。…………とは言っても、まだ起きている不健康な若者は五万といるだろうけどね。」
コツ、コツと革靴の音を響かせ、月明かりに照らされた住宅街を歩いていく。
「草木は眠る………でも、一本だけ起こしてみようか。」
たまたま近くにあった木に触ると、赤錆色に輝き始めた。
「あとは、そうだな……。あれとか良さそうだね。」
周りを見回し、目に留まったブロック塀に手を伸ばすと、そちらも赤錆色になった。
「トジコメ!ナガシテ!ハガシトレ!」
胸の前に黒い塊が現れ、真っ二つに割れて木と塀を取り込むように包み、そして再び一つに集合した。
「ラストリンク!ワルスギルプ!」
塊から木の幹とコンクリートブロックが溢れ出し、歪な化け物の形を作っていく。残った部分は、ガパァッと口を開け、その上に黒い鋳型の仮面を作り出した。
「ワァルズギィィ…!」
「静かに。良い子はもう寝てる時間だ。代わりにと言っては何だが…………皆を眠らせてあげなよ。」
「イェッサァ……。」
ワルスギルプがタコ足のような根を地面に次々と突き刺すと、徐々に錆が広がっていった。
*
私は、ただただ走っていた。うっかり※※※のために買ってきた本を、家に忘れてしまったから。おじいちゃんはきっともう到着してるんだろうから、急がなくちゃ。
でも、私の耳に入ってきたのは。
鳴り響く救急車のサイレンの音。
そして、私の目に入ってきたのは…。
「は!や!く!目を開けなさい!起きてるでしょ!?」
「……んぅ……。はっ!」
夢から覚めた私の目に入ってきたのは、私に向かって怒涛の拳のラッシュを繰り出す夜空だった。それを、ほとんど条件反射で受け止めた。
「何!?どうしたの夜空!?」
「はぁ!?まさか今の今まで寝てたの!?あれで!!?」
「え?そうだけど?なに?私そんなに恨まれるようなことした?」
「起こそうとしてちょっと肩を叩こうとしたら、まひるの手がものすごい速さで動いてわたしの手が防がれたのよ。それでだんだんエスカレートして、いつの間にか本気で殴りに行ってて…。」
「えー…。そんな記憶ないんだけど…。」
「それでもまひるは全部受け止めてたのよ?あれで寝てたって……。」
「うーん、そういえば小さい頃、おじいちゃんにまひるは第六感もすごいな、って言われた。そのうちセイント?…になれるんじゃないかとか、よくわからないことも言われたけど。」
それにしても、眠い。今夜はお昼前くらいま寝ちゃおうと思ったのに。よく見ると、カーテンから射し込んでくる光はすごく少なくて、部屋の中は暗い。
「なんか、時間早くない?……あれ?このカーテンなんか立て付け悪い……。」
窓の外を見てみると、地平線の辺りがわずかに明るくなってきた程度だった。
「まだ夜明け前じゃん!何で起こしたの!?」
「それは…」
「今何時!?…………………………!!」
枕元の目覚まし時計に手を伸ばそうとした時、気づいた。
目覚まし時計は、完全にサビて、赤く染まっていた。
「…夜空!これって!」
「わからないけど…。ワルスギルプが近くにいるに違いないわ。」
サビはゆっくりと進み、壁も天井も、床の一部も覆っていた。
「どうしよう…。ドアも窓枠も塞がれてる…。触ったらサビちゃうし…。」
「とりあえずモイランも起きて!ほら!」
「んぅ……今何時〜?」
「知らないわよ!起きなさい!」
「ふぁ〜。よく寝た〜。………………………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?何このサビ!」
「もう……。とりあえず、この部屋から出るわよ!点と点での移動だから障害物は大丈夫!」
「「うん!」」
モイランと私は、夜空の手をぎゅっと握った。
「『ジャンプ』!」
飛ばされたのは、私の家の真上の空中。下から吹き荒れる風は、パジャマだけじゃ寒かった。
「何これ……。」
「ひどい……。」
見渡す限り、赤茶色。
町のほとんどの家には木の根のようなものが絡みつき、サビを広げていた。
(出現からかなり時間が経ってる…。ここまで進んでると、相当強いよ。)
「とりあえず、ワルスギルプを探すわ。モイラン、ワルスギルプの顔って…」
(鋳型の形以外は大差ないよ〜。)
「わかった。……『サーチ』。」
夜空の目が紫色に光った。
「あそこ。あのでっかい木。」
「学校の近くの………住宅街の辺りか。」
じっと目を凝らして見ると、幹の隙間から何か灰色の塊がせり出した異常に巨大な木があった。見たところ、80メートルはある。
「……ところで夜空。高い所大丈夫なの?」
「…………………。」
夜空は下をちらっと見下ろして、顔が真っ青になった。
「じゃ…じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ『ジャンプ』!」
飛び移ったのは、ワルスギルプの幹のすぐ近くの空中。もちろん地面はサビていた。
…と言うかまた飛び降りながら変身かぁ…。
「「キュアモール・ファティ!」」
世界が止まり、モイランが腕輪の姿になった。体が金色の球体に包まれ、そのままカードをスキャン。
「「ゴールド・コマンド!
ダブル・メタル・リベアリング!!」」
ふわっとした感覚。体がわずかに大きくなり、服が次々と着せられていく。
球体がワルスギルプに衝突し、世界が動き出すのとほぼ同時に割れた球体はなぜかハート型に変わった。
「結ばれた二人の喜び!キュアディライト!」
「繋がれた二人の運命!キュアデスティニー!」
そして、事前に決めておいた決めポーズ。なんだかんだでデスティニーも協力してくれた。
「「ツインコネクト!プリキュア!!」」
ハートが今度こそパァン!と弾けて、腕輪と腕輪を繋ぐリボンに変化した。
(いえ〜い!変身エフェクト大成功〜!)
「やっぱりあのハート型、モイランの仕業だったのね…。」
着地した瞬間、地中から突然何本も根が飛び出し、私たちに襲いかかった。絡みつかれないように、できるだけ素早く、全方向に攻撃して防いだ。
「数多い………!」
「キリが無さすぎる!…ディライト!左!」
チラッと横目で見ると、ワルスギルプは巨大なコンクリートブロックを砲弾のように撃ち出していた。
「ワァルズギルプ!」
「「くぅ……!」」
二人がかりで何とか受け止めて弾く。その間に脚に根が絡みつく。
「ディライト!手を!」
「うん!」
「『ジャンプ』!」
根によって私たちの距離が離される寸前に、わずかに上方向に瞬間移動。
「ふっ!」
「ていっ!」
デスティニーがコマのように低い姿勢で回転しながら下からの根を蹴散らし、私はその上で宙返りしながらの垂直ラリアットで上からの枝をまとめて叩き折った。
背中合わせになり、ジリジリと近づいて来る根と枝に対して身構えた。
その時だった。
「やぁどうも、プリキュアのお二人さん。元気かな?」
「「…!?」」
(……だれ?)
突然、ワルスギルプの太い木の根に乗った誰かが、私たちに向かって声をかけてきた。
真っ黒なコートに真っ黒なズボン、真っ黒なシャツに真っ黒な帽子、という全身黒ずくめの長身の男の人。
そして、何よりも目を引くのは、鳥のくちばしの付いたガスマスクのような仮面。コモドルガの異形の妖しさとは違う、いわゆる不審者的な怪しさが漂っていた。
「誰?味方ではなさそうね。」
デスティニーがキッ!とにらんだ。
「こんな早朝に申し訳ない。と言うより、こんな時間に起きているとはね。」
「起こされたのよ!寝たかったのに!」
「ギィィィルプ……!」
「ワルスギルプ。一旦止まろうか。」
「ワルズ!?」
ワルスギルプは抗議するような目(?)でその人を見た。
けれど、その人は柔らかい雰囲気から、急にドスの利いた声になった。
「いいから、止まれよ。」
「ギッ!ギルプ!」
地上の根の動きはピタッと止まった。
「「…………。」」
「まぁ、待ちなよ。そんなに人を睨むもんじゃない。それと、もし君たちが来たとしてもボクは全力でボクの身を守るから、倒せるなんて1ナノメートルも思わないことだ。」
確かに、ここからその人の所へ向かうには、邪魔な枝が多過ぎた。
この人、多分コモドルガより強い。
「さてと、今回は説明回らしいからね、ボクの口からボク達の組織について説明しようかな。」
「……これ以上メタ的発言を重ねるなって言ったのに……。」
丁寧なお辞儀。敵に対する態度とは全く思えなかった。
「ボクの名はクロウレス。昨日君たちが戦ったコモドルガ君と同じハズアルド三幹部の一人さ。」
「ハズアルド……。」
ガスマスク越しにでも、その顔がニタニタと笑っているのがなぜかわかった。
「ボク達ハズアルドの目的はただ一つ。世界をサビで覆い尽くすこと。ワルスギルプは、言ってしまえばその道具さ。」
「「……!」」
「見てみなよ、この町を。………おっと、一人かかった。ワルスギルプ。動いていいよ。」
「イェッサァ。」
遠くから、男の人の悲鳴が聞こえて、すぐに消えた。
そして、その方向から太い根がこちらに向かって来て、先端に絡みついた何かを私たちの目の前に投げ落とした。
二本の手、二本の足。細い首に支えられた、サッカーボールくらいの大きさの頭。細かく赤いブツブツに覆われて、一瞬何かは分からなかった。
けれど、それは確かに、人間がサビたものだった。
こんなふうに、時間が止まったみたいに何も動かず、ただ世界に赤色を広げて行くだけの世界。それが、ハズアルドのゴール。
心の中で、何かがプチン、と切れた。
「このぉ!」
「ディライト!待って!」
拳を振り上げながら走り出しかけた私を、デスティニーがタックルで止めた。私が進もうとした先には、槍のようにとがった枝が、何十本も飛び出していた。あのまま進んでいたら、今頃体が輪切りにしたレンコンみたいになっていた。
「……ごめんデスティニー。ちょっとカッとなった。」
「気持ちはわかるけど、今は止まって。あのクロウレスっていう人の話、聞いておいて損はないわ。」
手が離れて、私が立ち上がろうとすると、デスティニーがそっと耳打ちした。
「……………作戦がある。だからその時まで待って。タイミングは…きっと分かるわ。」
「……うん。」
ドクン、と赤いリボンが脈打った。
「人の話を中断するもんじゃないよ…じゃあ、続きといこうか。なぜボク達が君たちプリキュアと戦うのか。それはね、メタモリア…だったかな。それに可能性を感じたからさ。ボク達のワルスギルプが使うのは、ラスタルジアって言うまた別のエネルギー。物体が持つエネルギーを吸い取って、頭部で精製してラスタルジアに変えるのさ。そして、吸い尽くされた物体は、そこに転がってるものみたいにサビて全く動かなくなる。」
(なんかちょっとメタモリアの精製に似てるかも。元のエネルギーが違うだけで、機械の動力を発電機にするか蓄電池にするかってレベルの違いだし。)
「ラスタルジアは消費すればまた新たに摂取しなければならない。だが、メタモリアは違う。感情さえあればいくらでもエネルギーを生み出せる。そうすれば、ワルスギルプはもっと強くなる。最高だろう?だから、メタモリアの源であるその腕輪を渡しなよ。」
なるほど。シンプルでわかりやすい。
だからこそ、答えは明白だった。
「「絶っ対!渡さない!」」
「おいおい、もし渡してくれればこの町を覆うサビを取り除いてあげてもいいんだよ?君たちだって、やられることはない。」
「今はそうでも、いつかはサビさせるんでしょ!」
「それに、これはデスティニーの…夜空の記憶を取り戻す手がかりなんだから!あと!言っておくけど………!」
私とデスティニーは、クロウレスをビシィ!と同時に指さして叫んだ。
「わたしたちは!あなた達なんかに絶対負けない!」
クロウレスは、額に手を当ててため息をついた。
「まぁ、そう言うよね。予想はしてたよ。
…ところで、ボクが話してる間に君は上下左右ワルスギルプの根に囲まれている訳だが、それでも同じことが言えるのかな?」
確かに、横の壁にも、地面からも、空がまだ暗いせいでわからなかったけれど、私たちの真上には、枝がドーム状に絡み合っていた。
「……騙したんだね。」
「さっき、ワルスギルプに動いていいよ、と言っただろう?その時からここまで仕込んだ。卑怯だと蔑むかい?」
「…ううん。試合ならダメだけど、命がけなら卑怯な手だって必要になる時もある、っておじいちゃんが言ってた。ただ私は絶対に使わないだけ。」
「そうか。」
「それと、質問に答えるけど、私たちはこれでも負けないよ。」
「……ふーん。そうなの?」
クロウレスが手を上に上げた。何かの合図だろう。
「デスティニー。技名言うの、忘れないでね。さっき、忘れてたでしょ。『ジャンプ』って言っちゃってさー!」
「…あれ、本当に言うの?」
「いーじゃんいーじゃん。遊び心はどんな時でも大切だよ。」
「もう…。わかった。」
ぎゅっと手を握って、前を向いた。
「やれ!ワルスギルプ!」
「イエッサァァァァァァァァァァ!」
クロウレスが手をバッと下げ、ワルスギルプの根と枝とコンクリートブロックが一斉にこっちに向かった。その数、数千本。防ぐことはおろか、避けることも不可能。
たった一つの方法を除いて。
「デスティニー!いっけぇぇぇぇぇえ!」
「『デスティニー!ジャンピングスター!』」
紫色の燐光を放ち、私とデスティニーの体がその場から消えた。
効果は『ジャンプ』と同じ。目指す場所は、クロウレスの目の前。
握る手に力を入れ直して、胸の飾りに手を当てた。
「「ゴールド・コマンド・リバース!」」
枝と根とコンクリートブロックが衝突する音が聞こえた。クロウレスの目が驚きに見開かれた。
「チェリーブロッサムロッド!」
「シューティングスターロッド!」
二つの杖を合わせ、カードをスキャンしながら着地し、突きつけた。
「「ハート・トゥ・ハートアロー!
ダブル・メタル・スパークリング!」」
これが、デスティニーの作戦。相手が攻勢に転じて油断したところに、ゼロ距離で必殺技を叩き込む。
クロウレスがニヤッと笑った。ほんの少しだけ感じた違和感を無視して、構わず矢を引こうとした手が空を切った。
矢が、出ない。
(逃げて!まだそれは使えないよ〜!)
体が勝手に動いて、下から伸びる根を全力で回避した。
「モイラン!使えないってどういうこと!?『ゴールド・コマンド』は解放したんでしょ!?」
(変身からある程度時間が経って十分なメタモリアを作れるようにならないとハート・トゥ・ハートアローは使えないんだよ〜。)
「それを早く…」
(これ、さっき解放したばっかりの情報で…。あれ?解放してる?ってことは…。あっ!そうだ!二人とも、手は繋がなくていいから、自分がつけてない腕輪の方に手を伸ばして〜。ハート・トゥ・ハートアローは一回ちょっと捨ててもいいよ〜。)
言われた通りにすると、また体が勝手に動いて、それぞれの腕輪のクリスタルに触れた。
すると、グレーのカードが飛び出して、リボンをつたって、デスティニーの腕輪から私ヘ、私の腕輪からデスティニーへ、すれ違うように手の中に収まった。
膜が剥がれ、銀色の縁取りとグレーの背景の上に、二つの小手が描かれたカードが現れた。
デスティニーの方は、クロスした双剣の絵だった。
最後にカードをクリスタルに触れさせて、スキャンした。
「「メタル・コマンド!アイアン!」」
私の手の甲にグレーの光が収束し、肘から上を覆う、桜の花があしらわれた優美な小手が現れた。
一方で、デスティニーの手の中には、鍔に星型のモチーフが付いた双剣が握られていた。
「何これ!強そう!」
「…剣?………剣、よね。」
試しにガッコンガッコンと小手どうしをぶつけてみると、びっくり箱みたいに花びらが大量に巻き上がって、尻もちをついてしまった。
デスティニーは、剣をやたらと使い慣れた様子で、ビュンビュンと振り回していた。
(これが今のところの切り札。『メタル・コマンド・アイアン』。喜びを司るメタモリー・チップだよ〜。)
リボンが、やたらと嬉しそうにクネクネと波打った。
「…なんだよ。出し惜しみしてたのかい?ボクもなめられたものだねぇ…。ワルスギルプ。」
「イェッサァ!」
ワルスギルプは、幹の隙間からコンクリートブロックを何発も撃ち、さらに後ろから挟み込むように、槍のようにとがった根を進めてきた。
私たちは背中合わせになり、私は前のブロック、デスティニーは後ろの根に突進した。
「ワルスギィィィィィイイイイイ!!」
「ぜやぁぁぁぁああああああああああ!!」
小手がブロックに当たった瞬間、桜の花の形の刻印が現れ、そこを起点に爆裂して粉々にした。
一撃で、一つずつ。一つ残らず。後ろにいるデスティニーを、守りたいから。
*
襲いかかってくる根を、両手の剣で次々と切り飛ばしていく。できるだけ広い範囲を、低く、根元から。それでも、根は何本でも生えてくる。切って、切って、切って切って。
ふと、山の中で流れ星を探していた時のことを思い出した。
そうだ。木が邪魔なら。
「………………まとめて焼き払う。」
左手の剣を地面に刺し、正面に突き出した。イメージするのは、燃え盛る炎。
「『デスティニー・バーニングスター』」
小さな太陽のような球体を撃ち、適当な所で爆発させると、あっという間に燃え広がり、炭になった細い根がボトボトと落ちてきた。
一人では、とてもこんな火力は出せない。
動きがあからさまに鈍くなる。でも、ワルスギルプならこの程度、何度でも再生してくるだろう。
燃え盛りながらもムチのようにしなってきた根を、右手の剣だけで両断した。
再び両手に剣を握り、隙を見せないように構えた。
酸素が無くなってきたのか、少しだけ息が苦しい。でも、構わない。
一閃で、何本でも。一本残らず。後ろにいるディライトを、信じてるから。
*
殴っては砕き、殴っては砕き。流石に焦り始めたのか、ブロックの砲弾は私に向かって集中してきた。
それが、とっても、好都合。
狙いが私に集まれば、その分デスティニーに向かうブロックはなくなる。だから、動きは最小限で、全部壊せる。
「無駄だよ。その攻撃は、もう私には効かない。」
「ワァ!ルズ!ギィ………ギィィィルプァ!?」
突然、ワルスギルプの動きが鈍くなった。
何かが焦げる匂い。多分デスティニーだ。
今なら、行ける。私にも入れた、遊び心。
「『ディライトストライク!フォーティ!』」
つまり、おじいちゃん式格闘術40番。
突進して右手で正拳突き。さらにジャンプしてワルスギルプの顎にアッパー。
大輪の花の刻印が現れ、爆裂。けれども再生。
「ワルスギィィルプ!」
「ふっ!」
ワルスギルプが振り回す枝を避け、そのうち一本の太い枝に飛び移り、駆け上がる。角度はほとんど垂直。けれどもブーツはしっかりとその表面を踏みしめ、ワルスギルプの頂点へと登っていく。
妨害に入る枝もブロックも、小手の一撃で消し飛ばし、時には避け、時には飛び乗り、上へ、上へと、突き進む。
そして、ワルスギルプの真上にたどり着いた。
胸に手を当て、『ゴールド・コマンド』のカードを取り出し、裏返す。
「ゴールド・コマンド・リバース」
消えた杖が再び現れた。
「チェリーブロッサムロッド!」
さらにもう一枚。『メタル・コマンド・アイアン』のカードを裏返し、杖のスリットに読み込ませた。
「『シングル・メタル・スパーク!
ディライト!プレジャーブレッシング!』」
………本当に使える。なんとなくやってみただけなのに。
両腕に力が集まり始め、熱のようなものがどんどん小手に注入されていく。我慢できないほどのエネルギーを、目の前のものにぶつけた。
「だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!」
口を限界まで開け、喉を力の限り震わせ、拳を何度も何度も、私自身にすら視認できないスピードで、次々と花の模様を刻み込む。
嵐のように花びらが舞い、ワルスギルプの枝を桜色に染めていった。気づけば、地面までたどり着き、ワルスギルプの体をバラバラにしていた。
頭は残り、もぞもぞと動きながら再生を始めた。小手が、散る花みたいにふっ、と消えた。
心の中で、デスティニーを呼んだ。
それに呼応するように、ドクン、とリボンが脈打った。
*
突然、使っていたメタモリアがディライトの側に持って行かれて、火が消えた。それとほぼ同時に、根の動きが止まって、糸が切れたように倒れた。ゼェゼェと肩で息をしながら、体が前に倒れかけるのを、剣を突き立てて止めた。
体が熱い。意識も朦朧とする。でも、後ろを振り向いて、まっすぐと駆け出した。
呼んでる、となぜか感じた。
邪魔な根を切り落とし、自分でもびっくりするほどのスピードで走って、チェリーブロッサムロッドを持ったままうつ伏せに倒れるディライトをわたしの胸の中に受け止めた。酸欠のせいか、少しだけふらついた。剣は、いつの間にか消えていた。
「一人で…そんなに無理しないの……。ボロボロじゃない………。」
「デスティニーに…言われたくないよ………。服、ちょっと燃えてるよ……?」
「えっ……!どこ……!?」
「ウソだよ〜……。」
「もう………。」
この子は、こんな時まで変わらない。そういうところが……。
そういうところが…何だろう。上手く言えない。
言葉にする代わりに、ディライトを抱きしめる手を、ほんの少しだけ強くした。
見ない間にずいぶんと小さくなったワルスギルプは、根を足のように生やし、地面に突き刺した。
「………ディライト。行くわよ。」
「……うん!」
わたしは胸に手を当ててもう一度カードを取り出し、ディライトは杖を前に突き出した。
「ゴールド・コマンド・リバース!
シューティングスターロッド!「ダブル・メタル・スパークリング!」」
飾りを合わせて、もう一度。
「桜咲く咲く」「星降る夜に」
赤いリボンが、一気に太くなり、身体中を電流のように力が駆け巡る。
「「ハート・トゥ・ハートアロー!」」
今度こそ矢が現れ、二人でしっかりと引き絞る。ワルスギルプの目が、恐怖と驚愕に見開かれた。
「「黄金の心を!二人の輝きに変えて!
プリキュア!
ゴールデン・マグニフィセント!!」」
空中に現れたマーカーを通過して矢はまっすぐ進み、ワルスギルプの目の鋳型を満たした。
「…………ワルスギルプ。」
ワルスギルプの体が砕け散り、黄金が広がった。
いつの間にか、朝日が顔を出していた。
「まぁ、負けるよね。…………ヒビワレロ。」
クロウレスの姿は、コモドルガと同じように穴の中に消えていった。
ため息をついて、二人で同時にその場に座り込んだ。
「なんて言うか……疲れたわ。」
「デスティニー、たくさんチカラ使ってたもんね。急に後ろが燃えてたから、びっくりした。」
「ディライトこそ、メタモリアが一気にそっちに持ってかれたせいで、大変だったんだからね?」
「そうなの?ごめんね。」
(ディライト〜。さっきのチェリーブロッサムロッドの使い方、ワタシ説明してなかったよね〜。そもそも解放もされてないし。)
「あ、いやぁ、あれは本当にできそうだなー、って思ってなんとなくやってみたらできただけ。あれってデスティニーのシューティングスターロッドでもできるの?」
(う〜ん。チェリーブロッサムロッドとシューティングスターロッドの中身はほとんど同じだから、使えないことはないと思う。やってみないとわかんないけど。)
「じゃあ、やってみようかしら。」
「待って。それはダメだよ。あれ、ビル一つなんて軽く壊せるくらい強烈だから、もし次にハズアルドが来た時にとっとこう。」
「……えぇ。そうね。」
立ち上がって、変身を解除しようとすると、なぜかディライトがそれ止めて、必死の形相で左を指差していた。
そこには、さっきまでワルスギルプにサビの塊にさせられてわたしたちの前に転がされていたのであろう男の人が、あっけに取られた様子でこっちを見ていた。
その人は、ポカーンと口を開けたまま、おもむろにポケットから薄っぺらい機械を取り出した。その瞬間、ディライトが目にも止まらぬ速さで走り去り、わたしは独り取り残された。
パシャッ。
「ふぇ?」
パシャパシャパシャシャシャシャシャ。
「へ?え?」
パシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ…………。
「どっせぇぇぇぇぇえええい!」
いつの間にかその男の人の後ろに回り込んでいたディライトが、さっきから変な音と光を出し続ける機械をひったくった。
「わっ!返せよ俺のスマホ!…って力強っ!」
男の人はディライトの手からスマホ(って何?)を取り返そうとしたけれど、普通の人がプリキュアの…ましてやディライトの腕力に敵うはずもない。
「写真撮影はダメだよ!しょーぞーけんって言うのがあるって何かの本で読んだ!それに、これはコスプレでも見世物でもなんでもないから!あと、パスワード教えて!指紋認証のロックを解除してくれる方でもいいから!」
「はぁ!?何でだよ!」
「写真消す。」
「嫌だね!これは特大スクープなんだよ!」
サビていた間の記憶はないから仕方ないとはいえ、助けてもらった立場とは思えないくらい、その男の人は食ってかかってきた。
「じゃあ、スマホ砕けば写真も消えるよね。」
「いや、んな事できるわけ…。」
ディライトは、たまたま近くにあったカーブミラーをぐにゃっと曲げて、元に戻した。目以外は、満面の笑みだった。
「………パスワード、教えて?」
「…………………はい。」
男の人が何かの数字をディライトに伝えると、ディライトは高速で手元の機械を操作した。
「さて、写真は消したし、あとは電源を切って…。」
「…え?」
男の人の顔がラクガキになった。
「再起動まで時間かかるよね。…それじゃデスティニー!逃げるよ!」
「え?ちょっと!ディライト!」
置いていかれて崩れ落ちる男の人をよそに、ディライトは爆風を巻き上げながら走り出す。なんとなく心の中で謝りながら、ディライトについて行った。
桜並木に着くと、ディライトは突然止まって、腕輪のロックを外して変身解除した。
腕輪はリボンを経てモイランになった。
わたしたち二人とも、パジャマ姿だった。
「まひる?どうしたの?家に帰った方が…。」
「ここね、日の出がキレイに見えるんだ。お正月とかよく来るんだよね。」
「…?」
確かに、まひるが指差す方向には、真っ赤な空があった。
「…何しに来たのよ。」
「いや、そういえば夜空の名字、決めてなかったなーって思ってさ。何にするか、ちょっとアイデアが浮かんだんだよね。ほんとにだいたい決まったようなものなんだけど、練るなら今かなって。」
「それって必要なの?」
「必要だよ!記憶喪失だからこそ、ちゃんとこの世界にいるっていう証がないと!」
「そう。」
さっきみたいに、わたしはまひるに全部委ねることにして、黙って見ていた。
本音を言えば、まひるがうんうん唸りながら眉間にシワを寄せて悩んでいる姿は、何だかかわいらしかった。
「サクラ…サクラバ…サクラダ…サクライ…。」
「ほんとに、もうだいたい決まったようなものなのね……。」
じゃあ、練るのは今じゃなくてもいいんじゃないかと思ったけれど、何も言わないでおいた。
「決めた!桜木!フルネームは桜木 夜空!どう?」
「それってやっぱり…桜の木で寝てたから?」
「うん。下の名前を桜ちゃんにするのも悪くないかなって感じでもあったんだけど、なんとなく夜空の方がいいなって思ったから。ヨゾラギサクラって言うのも、おかしいでしょ?
それに…。」
まひるは、小悪魔的な笑顔を浮かべた。
「私がつけた名前なら、何でもいいんでしょ?」
「………。」
サァァァァ…っと血の気が引いて、すぐにカァァァァァ…っと顔が真っ赤になった。恥ずかしさと照れくささが頭の中で入り混じって大変なことになっていた。
「…聞いてたの………?」
「私、耳もいいんだよねー。いやぁ、嬉しかったなー。ハグしちゃいたいくらい。…ハグしていい?」
「ダメ!……………………もう…。」
あははは、とまひるは本当に楽しそうに笑った。
「…ところで、何で夜空にしたの?わたしの下の名前。」
「それは……夜空の本当の名前がわかったら教えるね。」
「いつよ、それ。」
「明日……ううん、今日だといいね。」
朝焼けを背にして微笑むその顔は、やっぱり眩しかった。
名前、ついに出ましたね!お待たせしてすみません。
まひるはすぐに決まったんですけど、夜空まではたどり着くのに時間がかかりました。と言っても、第2話の前編を書いてる時にはもう決まってたんですけどねw
まひると夜空の二人がプロットを壊しまくったせいで長くなったり遅くなったりしてすいません。