ツインコネクト!プリキュア‼   作:ふーる41

8 / 9
今から本作に何の関係も無いこと言います。

ひかララええわぁ…( * ´▿` * )


第4話前編 単語帳と鍵盤ハーモニカ

どこまでも暗い部屋で、パラパラとカードをめくる音が微かに響いた。

「いやぁ、負けた負けた。完敗だよ。強いね、君じゃなくてあの二人。」

「……ツーペア。」

「残念、フルハウス。1万円ゲット〜♪」

「チッ。もう一回やるぞ。」

 

畜生め。まだ一回も勝ててねェ。なんでこんなに強いんだ。このままじゃ今月も好きでもねェモヤシで飢えをしのぐことになッちまう。

 

「……遠目に見えてたけど、紫の方の子の異能が厄介だね。メタモリアは使っていたが、あれは恐らくプリキュアシステムとは別物だ。」

「紫の方?あいつの異能は大したことないだろ。アイツが張ッたバリアなら、あのザコワルスギルプでも一瞬で砕けたぞ。むしろ俺はピンクの方の格闘術に目が行ったンだが。」

「まぁ、確かにそっちもなかなかだったよね。」

「ほらよ、配ッたぞ。」

「コモドルガ、君、イカサマしてない?」

「?してねェぞ?」

 

何言ってんだコイツ。そんなもんのやり方をオレが知るわけねェだろ。

 

「いや、コモドルガ君ならやり方すら知らないか。本当に素直というか馬鹿と言うか…。」

「ンだとコラ。」

事実だったが、コイツが言うと無性に腹が立って、乱暴に手札を見た。

「…ん?…………!!」

 

これは………勝てる………!!

 

「コモドルガ君、ポーカーフェイスって知ってる?」

「アァ?何だそれ。俺はルールしか知らねェぞ。…まさか表情も制限されんのか?ポーカーッてのは。」

「……………。もういいよ。仮面をはめて顔を隠してるボクに勝負を挑んだ時点でそれは察するべきだった。」

「ンなこと言えなくしてやるよ。どォだ!フラッシュ!」

「残念。ロイヤルストレートフラッシュ。はい、もう1万円。」

 

はァ!?何だとォ!?

 

「イカサマしてんだろテメェ!コートの中見せてみろ!」

「あれー?おかしーなー。中からトランプの箱が10箱も出てきたー。」

「棒読みで自ら暴露してんじャねェよ!」

 

キレてテーブルをひっくり返し、クロウレスに向かって投げつけたが、独特のクネッとした動きで躱された。

 

「やれやれ。トランプがめちゃくちゃだ。」

「テメェのせいだろォが。」

「コートの袖の中にちょうどワンセット入ってるけど、仕切り直す?イカサマはしないよ。」

「…もういい。どうせまだあと2セットくらい入ッてんだろ。」

「残念。残りは4セットだ。」

「そォいう問題かよ……。」

「コモドルガ君はポーカーをしてたつもりだったみたいだけど、ボクはコモドルガ君が『イカサマしてんだろテメェ!』って言うまで現金ぶんどり続けるゲーム!って言うのをやってたんだよ。だから君の勝ち。ほら、今までぶんどった15万円。返すよ。」

「いや、俺の勝ちならもう15万渡すのが筋だろ。」

「イカサマとはいえ、ボクは15連勝してたわけだから、プラマイゼロだよ。」

「なんだそりャ……。」

 

ため息をついて、二人で残ったイスに座った。

 

「……………コモドルガ君、君に二つ、話がある。」

「あァ?何だよ改まッて。」

 

クロウレスは人差し指を立てた。

「一つ、ボクは嘘つきだ。イカサマだって何のためらいもなくする。」

「今更過ぎんだろ。ンなこと昔ッから知ッてんぞ。」

次に中指が立った。

「二つ、プリキュア達にボクらハズアルドの目的を話した。」

「……………………………はァ!?」

「予想通りの反応をありがとう、コモドルガ。」

マスクの下でニヤッと笑っているのであろうクロウレスを睨みつけた。

クロウレスが俺を君付けで呼ばない時はたいていマジの話だ。

「正気か?テメェ。」

「ボクが正気だったことがある?」

「………………………………………。」

「ついでに、その力を渡してもらえないかって、交渉してみたんだけど。」

「………どォなッた?」

「決裂。ボコボコにされた。」

クロウレスはケラケラ笑いながら肩をすくめた。

「当たり前だろ。アイツらがあの力を手放すはずがねェ。」

「だよね。知ってた。」

「じャあなんで…」

「ひょっとしたら話が通じるかも、っていう1パーセントくらいの可能性に賭けてみたんだけど、答えはやっぱり99パーセントのようだった。もし次に討って出たら、問答無用で殴りかかってくるだろうね。」

「はァ………。逆効果じャねェか。」

「そうだね。ごめんごめん。……でも、それはこっちも一切の遠慮をせずに暴れ回ってもいいって意味だしね。高らかに目的を掲げて名乗る必要も、もう敵は居ないって油断して弱いワルスギルプを作る必要もない。」

「オレへの嫌味か?」

「そうだよ。」

「はぁ……。」

何だか、殴る気力も失せて、立ち上がりかけた腰を下ろした。

 

その時、後ろから、ズシン、ズシンと重い足音が響いてきた。

 

「………。やッと起きたのか、アイツ。」

「仕方ないよ。あれ程の深手だ。回復にも時間がかかる。……もし三人でババ抜きでもしながら今の話をしたら、何て言うかな。」

「どォでもいい、で終わりだろォな。」

「あぁ。そうだね。ボクもそう思う。」

 

 

「はぁ……………………。」

シックなオレンジ色で明かりの下で、今日だけでもう何度目とも知れないため息をついて、紅茶を口に含んだ。

口の中にフルーティで豊かな香りが広がり、飲み込むと体の隅々まで染み渡り、この世の苦しみを全て吸収してリセットしてしまうような、明るいものが心の中に差してきた。

そして後味すら無くなった時に、またため息をついた。

そうやってぼーっとしていると、カフェのドアについた鈴が、カランコロン、と鳴って、浅美が入ってきた。

 

「………まひるが待ち合わせ時間通りに来てる……!」

「開口一番、失礼なこと言わないでよ…。急に用事があるって呼び出したの、そっちでしょ?」

またため息をついて、テーブルに突っ伏した。

「なになに?どうかした?元気ないじゃん。」

浅美は、髪を後ろに結び始め、バッグの中から黒いエプロンを取り出してカウンターの内側に入った。

「あれ?おじいちゃんは?」

「マスターなら、この紅茶だけ煎れて、コーヒーミル買いに行っちゃったよ。」

「はぁ!?またなの!?何度壊せば気が済むのよあのバカマスター!いくら客が常連一人だからって…。……紅茶残ってる?」

「うん。」

ティーカップとポットがその手に握られ、高さ30センチから紅茶が一滴もこぼれることなくトポトポと注がれた。

浅美はゆっくりとカップを口に近づけ、目を閉じながら飲んだ。いつ見ても絵になる飲み方だと思う。

ふぅ、と吐息を漏らしながらカップをソーサーの上に置いて、ちょっと不服そうに呟いた。

 

「…冷めてても美味しいな……。」

「さすがは結目商店街の名物マスターだよね。」

「見方によっては迷物マスターだけどね。」

「看板娘がそんなこと言っちゃっていいの?」

「だーれが看板娘よ!」

「痛っ!」

 

デコピンされた。

 

「もう…。何?浅美こそ、なんか今日は元気すぎない?」

「何?じゃないわよ。こっちのセリフよ。」

浅美のしかめっ面が、カウンターを乗り越えて迫って来る。ものすごく怒ってる時のサインだ。

「私、何かした?」

「まひるに何があったかって聞いてんの!話しなさいよ。こっちが調子狂うわ。待ち合わせの時間までまだ30分もあるし。」

「でも…。」

「でも!じゃ!ない!断ったらあのコーヒーを飲ませる!」

「それはやめて!」

「じゃあ話しなさい!はよ!」

 

仕方ない、か。

 

○○

 

何があったって……まぁ、夜空のことなんだけど。

……そうそう。浅美が見つけてくれた子。

ごめんね。勝手に名前つけちゃって。でも、いい名前でしょ?

まず、あの次の日のお昼過ぎくらいにね、警察の人が来たんだ。

 

 

「えっと、まずは…あなたの名前は?」

 

「桜木 夜空です。」

 

「あぁ、名前はわかるのか。それなら…」

 

「待ってください。私が勝手に付けただけなので、たぶん…と言うか絶対本名じゃないです。」

 

「ん?そうなの?じゃあ、本名不明、住所不明、お金は持ってなくて持っていたのは元々着ていた白いワンピースとそのぬいぐるみだけ…か。困ったなぁ…。」

 

「ですよね…。」

 

「とりあえず、顔写真だけいいかな?行方不明者リストに照会してみるから。」

 

「「お願いします!」」

 

 

で、それから音沙汰無し。………え?商店街で聞き込みしてたの?4日間も家に引きこもってたから知らなかった…。

その次の日は、お母さんと一緒に病院に行ったんだ。CTスキャンとか、あとは精神科で色々質問されてたり、テストを受けてたり。

結果はね……。

 

 

「何も異常ないですね。」

 

「「!?」」

 

「脳そのものは至って健康的。むしろ海馬…記憶を司る部分は平均より大きめで、記憶力は良さそうです。」

 

「はぁ…。」

 

「受け答えもはっきりしていて、精神にも異常なし。さっきテストも受けてもらったんですが、IQ150。驚異的です。」

 

「150!?夜空、すっごい!」

 

「………(あのテストって、何だったんだろう)?」

 

「…あれ?文字とかの記憶はあるの?」

 

「えぇ。本とかは普通に読めたわ。」

 

「本の内容や文字などの知識記憶と、エピソード記憶…いわゆる思い出は、脳の別々の場所に保存されているんですよ、」

 

「へー!そうなんですか!」

 

「詰まるところ、原因は不明なんです。ただ…。」

 

「「ただ?」」

 

「こういう記憶喪失、というものは多くが事故、もしくは非常に大きな精神的ショックによるものなんです。目立った傷は無かったので、この場合は後者だと考えられるんです。」

 

「じゃあ、原因は…」

 

「いえ。精神的なショックで失う記憶は、多くてもせいぜい1、2年。本や漫画のように、自分の名前も含めて今までの記憶全てが無くなる、というのははっきり言って有り得ないと言っていいと思います。」

 

「でもわたしは…。」

 

「あぁ、記憶喪失というのを疑っているわけではないんですよ。しかし、我々の力ではこうとしか結論を出せませんでした。

…………申しわけありません!」

 

 

って、先生に頭を下げられちゃって…。

で、ここからが本題なんだけど…。そう。今までのは前置き。

来たんだよね。児童相談所の人。

師道さんって言う女の人でね。3、40代くらいだったかな?

すごい優しい人で、こっちの話も親身になって聞いてくれて。

それでね、予想通りだったんだけど、師道さん、夜空を連れて言っちゃったんだよね。モイランも一緒に。…あ、ぬいぐるみがあったでしょ?…そうそう、あれ。

 

引き取ってくれる人が見つかるまでは児童相談所で預かって、もし見つからなかったらどこかの施設に行くみたい。

あと、身元もわからないから、一応の戸籍とかも作るって聞いた。

 

…うん。わかってるよ。誰も悪いわけじゃないよね。むしろ、皆夜空のために色々してくれてほんとに嬉しいんだよ?

 

でも、さ。やっぱり………。

 

ううん。やっぱり何でも………痛っ!またデコピン?

 

……………………。

 

『審判』を覚えているかって?…うん。覚えてる。

 

……ごめん。

 

……………うん。ありがと。

 

○○

 

「ところで浅美。急な用事って何なの?結構高いプリンまでくれちゃって。金欠でスイーツ不足だったから助かるけど。」

「まぁ、仕事の押し付け?」

「えー………。」

元気がない理由を脅迫して自白させた直後とは思えない発言だよ……。

「って言うか、何の仕事?」

「言ってなかったっけ。あたし、オカルト研究部辞めるつもりなんだよね。」

「えっ!?そうなの?お似合いなのに。」

「どーゆー意味よ。」

でも、普通に活躍してたと思うんだけどな…。

「えーっと。まず、オカ研がまひるが所属する新聞部と同じくらい存続が危ういのをご存知でしょうか。」

「え?…………確かに。新聞部は3年生が卒業したせいで私と益子先輩の二人だけ。で、オカ研はもう浅美と…………あの先輩かぁ…。」

なるほど全てを理解した。

「確かに、部があの人の趣味に染め上げられそうな気がする。」

「…それに関しちゃ、新聞部の益子先輩も大概だと思うけど。

で、辞めるんだったらせめてなんか一仕事してからにしろ、って言うのが新部長様の言い分なわけよ。」

「それを私に押し付けよう、と。」

「ごめん言い方が悪かった。」

浅美は、カバンをゴソゴソと探って、そこから大きめの単語帳を取り出して私に手渡した。

「それ、見てみ。」

中には一枚一枚それぞれに、町内の不思議な噂についての情報がびっしりと書かれ、まとめられていた。

「何枚あるの?」

「200枚。これを全部解き明かせと。」

「………。」

「これでも、最初は400枚だったから、かなり簡単にしてもらったと思う。多分これ以上減らすのはムリ。」

「………。」

「できたら、やめていいって。もしこの契約を破ったら針千本飲みますって誓約書も自分で書いてた。」

これは…作るの大変だったろうなぁ……。そしてそれを解き明かすのはもっと大変なんだろうなぁ…。

 

「…………………ムリじゃない?」

「でしょ?」

「…………あ、ははははは。」

「はははははは。」

 

空っぽの店内に、乾いた笑い声が二つ響いた。

そして、しばらく静寂が訪れて、突然バァン!と土下座の要領で浅美の額がカウンターに打ち付けられた。

 

「助けてくださいお願いします!」

「………。」

「お願いだからぁー!宿題手伝うからぁー!」

「…実は、春休みの宿題ならもう終わったんだよね…。」

「ウソでしょ!?まひるがぁ!!!?」

「4日間、ぼーっとやってたら、気づけば終わってました……。」

「…お、おう。」

うん。自分でも驚きの集中力でした。

 

「え〜…。じゃああたしはまひるにどうやって返せばいいのよー!」

 

 

ちくり、とした胸の痛み。そして、夜空の声が響いてくる。

『でも!わたしはあなたに助けてもらってばっかりじゃない!』

違うよ。そんなことないよ……!

 

 

「はぁ……………。」

「こらー!」

「わっぷ!」

「またため息ついた…。」

「あ………ごめん。」

浅美は、深々とため息をついて、後ろに寄り掛かりながらどこか遠くを見つめた。

 

「今すぐ元気出せ、とは言わないけど。いつまでもそれはやめてよ。いい?」

「…うん。ごめん。……ありがと。」

「別にいいわよ。今更でしょ。」

「浅美。」

「何よ。」

何となく嬉しくて、ニッコリと笑った。

「プリン、これからもおごってね。」

「……はへっ!?」

 

今、浅美の顔からボン!ってヤカンみたいに湯気が出た気が…。幻覚かな…?疲れてるのかも。

硬直する浅美をよそに、私は紅茶を飲み干して、カップとソーサーを手渡した。

そこでようやく我に返ったらしく、いそいそと店の奥へ引っ込んで、わずか20秒で洗い物を終えて、ガッコンガッコンとロボットみたいな動きで戻って来た。

その時にはもう、私は荷物をまとめ終えて、パラパラと単語帳をめくっていた。

 

「マ………マヒルサン。イマノハ…プ…プロポー………プ……。」

「急にどうしたの?」

「あんたのせいよ!」

「…?……え?」

「…もういい。」

 

プロポ…プロポー……?……プロポーション?どゆこと?

 

「…………………何か、誤解してるかもしれないから一応言っとくけど、おごってくれるプリン追加って意味ね。」

「あ、そう!そうよね!そういう意味よね!あははは!何言ってんだあたし!」

 

浅美の笑い声は大きくて、一見元気そうに聞こえるけれど、なぜか少しだけ残念そうだった。

 

「行こ。途方もない量でも、終わらせるには一つずつって、おじいちゃんも言ってた。」

「わかった。ちょっと待ってて!」

浅美は急いで髪を解き、エプロンを脱いで、カバンを持った。そして、マスターに置き手紙を書いて、ドアにかかった札を『closed』に裏返した。

カランコロン、とベルが鳴った。

 

 

五歳くらいの女の子の、小さくてクリクリした可愛らしい目が、こっちを見つめる。「おねぇさん、なにしてるのー?」と、透き通りきった目をしながら訊ねてくるけど、今はちょっと構ってられない。

「………モイラン、どう?」

(ハズレ〜〜。)

「はぁ………。」

「おねぇさん?」

「あ。あぁ、なんでもないわよ。なんでもない。」

女の子の手首に結んだ赤いリボンを解いて、シドーさんに教えてもらったやり方で自分の髪の毛に結び直した。

「これで48人目。適合者って、なかなかいないものね。」

(だね〜〜……。)

モイランの、のほほんとした声も、今回ばかりはさすがにいつもよりテンションが低めだった。

 

 

 

思い出すのは、一週間前。ケーサツの人がまひるの家に来るまでの間、わたしたちは部屋でモイランの説明を聞いていた。

わたしとまひるはベッドの上に座り、モイランは部屋の真ん中に亀のぬいぐるみを置いて、その上に陣取っていた。

 

「じゃあ、ちょっと遅れたけど。『メタモリー・チップ』の解放、おめでと〜!」

「イエーイ!運命的だよ!」

「はいはい。」

まひるから自然にハイタッチ。はじけるような笑顔のせいで、わたしまで少し笑ってしまった。

「あんなにサビてた町も元に戻ったし!…まぁ、絶対に見られてはいけない人に見られた気がするけど。」

「?」

「なんでも、ないよ。」

何かあるなこれは、とわたしもモイランも思ったけれど、なんとなく言わないでおいた。

 

「とりあえず、解放した情報話すね〜。」

すかさずまひるが拍手。なんだか今日はテンションが高い。

「まず、ワタシの本当の名前がわかったよ〜。」

「おぉ!けっこうでっかい情報!」

「まぁ、ワタシの名前と言うより、腕輪としての姿の名前なんだけど。その名も『コネクトキュアブレス』!略してキュアブレス。でも、呼びにくいだろうから、この姿の時はモイランのままでいいよ〜。ワタシはそこら辺のこだわり、あんまりないから。」

「コネクト…キュアブレス……。」

「夜空。次に変身する時はちゃんとこれも言おうね。」

「え〜…。(断ってもどうせモイランに言わされそうな気がするけど。)」

この一瞬、わたしが思ったことを肯定するように、モイランが悪い顔になったのをわたしは見逃さなかった。

 

「あとは〜。変身中と変身後についてだね。変身してる時に、周りが全部ピタッ!と止まるでしょ?」

「あれは、見るからに時間止めてるよね。」

「マッヒー正解!」

「でも…どうやって?時間に干渉するなんて、わたしがどんなに頑張ってもムリよ。」

「おっ!聞きたい?それはね…。」

 

〜三十分後〜

 

「…で、〆×9|:々して、=°+・^~を上手く四次元に干渉させられれば、時間が止まるよ。わかった?」

「全っ然わからない。…あとまひる、起きなさい。」

「…………マカロン……。ふぇあ!先生ごめんなさい!…あれ?私の部屋?」

「「…………。」」

わたしとモイランは揃ってため息をついた。

「って言うかモイラン。5秒に一回くらい聞き取れない単語があったんだけど…。」

「まぁ、ヒトの認識力がまだそこまで達してないから、そりゃあ分かるわけないよね。」

「とりあえず、モイランがメタモリアで色々したら、時間が止まる!ってことだよね!」

「そうそう。一言で言っちゃうとね〜。」

「そんなアバウトな理解でいいの…?」

「別にいいじゃん。使い方が分かれば。ゲームを作るのはゲームクリエイターさんであって、プロゲーマーじゃないよ。」

「………?」

まひるはあっけらかんと、何の不満も無さそうにそう言った。

ちょっと今の例えはよくわからない。

「で、ここら辺に私のオススメのタイトルが…。」

「コホンコホン。」

まひるが目をキラキラさせて、四つん這いになりながら小さなテレビの下の箱を開けようとすると、モイランが咳ばらいでそれを制した。

「マ〜ッヒ〜?」

「………。」

天使のような、それでいて乾き切った笑みが、まひるを見つめた。

「説明はまだ終わってないよ〜?」

「…すいませんでした。」

さっきの動きを巻き戻すみたいに、まひるはわたしの隣に座り直した。

 

「じゃあ、『メタル・コマンド』についてちょっとした説明をするね。」

『メタル・コマンド』…。わたしの双剣と、ディライトの小手のことか。

「今回、ワタシ達が解放したのは、その一種の『アイアン』。司る感情は喜び。解放条件は不明。堅く、でも柔軟で色々な状況に対応できる…。つまりマルチタイプだね。ちなみに、ディライトの小手はパンチをした部分を起点に衝撃波を出せるのと〜、あとデスティニーの剣は一度手を放してもイメージすれば自動的に手元に戻ってくるよ〜。」

「あれ、すっごく強いけど、すっごく疲れるんだよね…。」

「…わたしの側のメタモリアも持って行かれたから、どうしようかと思ったわ。」

「しょうがないよ〜。強い力には、代償が伴うんだよ!」

まひるが頭をかいた。

「『メタル・コマンド』っていうのは、『ゴールド・コマンド』の支えとなる、ワンランク下のチップだね。」

「あ〜。だから『ゴールド・コマンド』は体で、『メタル・コマンド』はそれを支える武器…ってこと?」

「そして、小手とか双剣とかに限らず、種類によって異なる武器になる、でいいのかしら。」

「二人とも、すごい察しいいね。あと、ディライトが使うカードはデスティニーの腕輪から、逆にデスティニーが使うカードはディライトの腕輪からしか出せないから、一人だと使えないみたいだよ。」

「じゃあ、もし二人が分断されたら、攻撃力だだ下がりでかなりまずいわね。」

「そういうこと〜。」

なら、わたしとディライトの二人で付かず離れず適度な距離を保ちながら戦うのが一番有効…と。

 

「で、今から重要なこと!すぐ終わるけどね〜。ほい!」

モイランが腕を解いてわたしたちの腕に結びつけた。前にも見た、黄金のハートの周りをシルエットが廻るホログラムが現れた。

「…あっ!なんか一個増えてる!」

「あれが…『アイアン』?」

「そうだよ〜。」

シルエットのうちの一つは、鎖のように組み合わさった、二つの白い指輪になっていた。

「ワタシの考えは正しかったみたい。これは、どれくらい『メタモリー・チップ』が解放されたかのリストなんだよ。解放するたびにシルエット…あとは全部『メタル・コマンド』なんだけど、とにかくどんどん情報が明らかになっていって、そして全部ハッキリとした形になったら、プリキュアシステムは完成する。これも推測だけど、そしたら、多分全部わかる。ワタシがどうして生まれたのかとか、プリキュアって何なのかとか。」

「どうしてわたしがモイランのリボンを持っていたのかとか?」

「それは保証できないけど、ヒントくらいならあげられると思う。ただ、解放してる最中のワタシは意識が無いみたいだから、できるだけ早めに教えてね。」

「「うん。」」

 

 

「はぁ………。」

自分でも理由はよくわからないけれど、なんとなくため息をついた。

「おねぇさん?かなしいの?」

「あ、何でもないわよ。急に変なことしてごめんなさいね。ほら、あっちで遊んできなさい。」

「おねぇさんもいっしょにあそぼーよー。」

「ダメよ。わたし、今日は用事あるから。それに、まだ読みたい本だってあるし。」

「えー。やだー!」

立ち上がりかけたわたしの脚に、女の子がしがみつき、唇をツーンととんがらせて、頬をプクーっと膨らませてこっちをじっと見つめてきた。

額に思わず手をやって、天を仰いだ。

なんと言うか、困る。

不貞腐れるその顔が、何だかまひるに見えてしまう。

 

(別に見えちゃってもいいんだよ〜?)

 

モイラン。今ちょっとどうすればいいか考え中だから黙ってて。

 

(だって〜。ヒマなんだも〜ん。姿が完全にリボンになってるせいで、全然動けないし、目だって、よぞっちの心越しに見ないといけないし〜。)

 

だから、よぞっちって何よ…。

 

(ニックネームだよ〜!親しみを込めて!まひるはマッヒーで、夜空はよぞっち!)

 

必要?

 

(別に必要ない!)

 

自分で断言しちゃうのねそれ…。

 

(あ、なんかこの子泣きそうになってる。)

 

…え?…うわっ!

 

 

「…お、ねぇ〜〜さぁ〜〜〜〜ん!」

さっきから何かバタバタ暴れてるなぁと思ったら、いつの間にか目のダムはもう決壊寸前だった。

これはまずい。幼児の泣き声にこの四日間苦しめられてきた身としては、最後の日までこれは嫌だ。何とかしてあやさないと。

でも、足は重くてほとんど動かせないし、仮に無理やり引き剥がしでもしたら間違いなく泣く。かと言って、一番近くのおもちゃには手が届かない。

…とりあえず周りは…。積み木してる子…ベルトを巻いて、「変身!」って叫んでる男の子二人…隅っこで本を読んでる子…。よし、誰もわたしを見てない。ありがとう子供特有の集中力!

 

「…『フロート』…。」

 

誰にも聞こえないように囁き、たまたまそこらへんにあった鍵盤ハーモニカのケースを引き寄せ、吹き口をくわえた。

子供に受けそうなやつがよくわからなかったので、とりあえず少し前に男の子二人が声高に歌っていたのを耳コピしたものを吹いてみた。

 

「うわーっ!フルレンジャーだ!しってんの!?」

「すげーっ!」

 

すると、ベルトを巻いた例の男の子二人が駆け寄って来た。想定外の状況に慌てたけれど、時すでに遅し。女の子は泣き出してしまった。

「うぅ…ええぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」

「え?えっと、その…?」

「なんでふくのやめちゃうんだよー!」

「まだサビに入ってないじゃーん!」

「いや、でも…。」

よく見ると、男の子達も涙目。このままだと超音波兵器が三倍に増える展開だ。非常にまずい。

 

「うぅう…おねぇざんわおどごのごだったんだぁーーーーーーーー!」

「えぇーーーーーー!?」

でも、わたしが何かする前に、女の子は訳がわからないことを叫んでどこかへ走り去ってしまう。否定する暇すら無かった。

「おねーさん、オトコだったのか…。」

「スカートはいてんのに…。」

「違うわよ!真に受けないの!」

積み木してる子も、本を読んでた子まで変な目でわたしを見ていて、恥ずかしさでカーッと熱くなった。

とにかくその場から離れたくて、女の子が行った方へ向かうと、丸くて大きなメガネをかけた、ゆったりとしたスーツを着ている女の人にその子が抱きついているのを見つけた。

「あら、夜空ちゃん。」

「どうも、シドーさん。」

「おねぇざんがぁ…。」

「はいはい。男の娘なのね。」

「違います(なぜかシドーさんのはこの子が言ってるのとは意味合いが違う気がするけど)!何ですかシドーさんまで…。」

「困ったわねぇ…。手続きとか諸々女の子で通しちゃったんだけど。また最初からやり直しね…。」

「ですから…!」

「冗談よ。ほらカノンちゃん。カノンちゃんは夜空ちゃんをおねぇさんって呼んでるから、夜空ちゃんは女の子よ。男の子をおねぇさんって呼ばないでしょ?」

「………あっ!そっか…。」

どういう理屈…?と思ったけれど、あの子が納得してくれるならいいか、と思い直した。

「話は変わるけど。夜空ちゃんって鍵盤ハーモニカ吹けるのね。ちょっと聞こえてきたけど、上手かったわよ♪さっきの『完全無欠!フルレンジャー!』は。」

「どこで使い方を覚えたのかはまるでわからないんですけどね…。」

「まぁ、そのうち思い出すわよ。大丈夫。」

「はい。」

「ピアノもできたりする?」

「え?………たぶん、できると思います。」

「じゃあ、ちょっと頼まれてもらえる?」

シドーさんは、子供のように無邪気で、同時に母親のように包容力のある笑みを浮かべた。




星月 まひる(ほしづき まひる)
中学二年生。新聞部所属。明るく、誰とでも友達になれる。
身体能力が非常に高い。その他にも、五感(特に聴覚と味覚)が鋭い。
実はかなりのハイスペックだが、運の悪さと計画性の低さが全てを台無しにしている。
また、物事への順応が異常に早い。
たまに顔に影が落ちる。
おじいちゃんから独自の武術を習っており、生身でもものすご〜く強い。技は番号で覚えている。
口癖は「運命的だよ!」

キュアディライトこれからはここに色々と設定を載せていこうかと思います。

星月まひるが変身するプリキュア。桃キュアだが、桜がモチーフ。攻撃すると桜の花びらが舞う。攻撃に込められたメタモリアが多いほど、花びらの量も多くなる。右目が金色。
色々と凡ミスを犯したりするが、意外と冷静に立ち回っている。
拳や脚を武器とする徒手空拳を主とするが、戦闘スタイルは気分で変わる。



前回の後書きで、夜空の名前になかなかたどり着けなかったと言いましたが、プリキュアとしての名前はディライトの方が悩みました。
ちなみに、喜び(delight)と真昼(daylight)のダブルミーニングです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。