ツインコネクト!プリキュア‼   作:ふーる41

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まほプリの宮本さんのプリキュアワークス買いました!
どのようにしてあの3人に落ち着いたのかがわかってもう興奮しっ放しでした!

その中でアレキサンドライトスタイルのラフスケッチが載っていたんですが、ミラクルマジカルの足がリボンで結ばれていたという……!見た瞬間「ツイプリじゃん!」と心の中で叫んでしまいました。一介のまほプリファンとしては嬉しい偶然でした(ほんとに読むまで知らなかった)!


第4話後編 指切りと「「またね。」」

「ほら、カンナちゃん。ちゃんと夜空ちゃんにお別れしないと。」

「うぅぅぅぅぅぅ……。」

さっきの女の子…カンナちゃんがぐずりながらわたしの服の袖をつかむ。まさか1、2曲弾くだけでこんなに懐かれるとは思わなかった。

「また、弾きに来るから。大丈夫よ。」

「ほんと?」

「本当よ。」

シドーさんをチラッと見ると、無言でOKサインをくれた。

「やくそく!」

「…?」

カンナちゃんが小指を差し出してくる。

「これは…何?」

「ゆびきり!だれかとやくそくするときにするの!」

「ふ〜ん。」

正直、よく分からないことするなぁ、と少し思った。でもこの子の様子的にやらないといけなさそう。ということで、カンナちゃんに倣って指を絡ませた。

「ゆ〜びき〜りげんまん、うっそつ〜いた〜らは〜りせんぼんの〜ます!ゆびきった!」

歌が終わると、後ろからシドーさんが優しく声をかけた。

「………もう大丈夫?カンナちゃん。」

シドーさんがカンナちゃんの頭を撫でる。なんだか母親みたいな目だった。

「うん!だいじょうぶ!」

「そう。よかった。じゃあ、行きましょ、夜空ちゃん。」

「…はい。」

カンナちゃんに手を振られながら、わたしはシドーさんの車の助手席に乗った。

「おねぇさーーーん!またねーーーーー!」

「またね。」

たぶん、わたしの声は聞こえていない。その代わりに、手を振り返した。

 

 

単語帳に、赤ペンのチェックが入れられた。

「これで10個目だけど、全部ガセかぁ…。運命的じゃないね。」

「何言ってんのよ♪喜ぶべきことじゃない。そんなん見つかるわけないって、あの部長に知らしめてやれるっての!」

「…………………オカ研の部員にあるまじき発言だよね今のは…。…あっ、でももう辞めるのか。」

「とにかく次、行こ。できるだけ楽そうでガセっぽいやつ!」

「え〜…。」

浅美は鼻歌交じりで単語帳をパラパラとめくった。私とは対照的に、なんだか楽しそうだった。

 

 

違う。楽しそうなんじゃない。意識して楽しそうにしているんだ。

何年か前から、浅美は私に元気がない時、こうやって自分は楽しそうに振る舞うようになった。言葉には出さずに、私が元気になるのを、じっと待ってくれてるんだと思う。

 

そうなった理由は……なんとなくわかる。

 

「ところでさ、まひる。」

「何?」

「ちょっと気になったんだけどさ、四日間も家に引きこもってたのになんで今日は急に出てくる気になったの?あんたの行動パターンなら、あたしがメッセで呼び出したくらいじゃ出てこないでしょ?」

「うーん…。それがね、お母さんとおばあちゃんが突然大掃除だーって言って家から追い出されちゃってさ。暇だし、仕方ないかーって感じ。」

「仕方ないって……あたしはそういう扱い?」

「浅美って結構しっかりしてるから、私なんかがいなくても大丈夫かなって思ってるから。」

「……人を褒めながらサラッと自分を貶めないの。」

照れと困ったが混ざったような顔になった。

「あら。」

「あっ!すいません!」

よそ見をしていたせいで、浅美の肩が近くを歩いていたお姉さんの肩にぶつかった。

「いいのよ。こちらこそごめんなさい。前を見てなかったわ。」

「は、はい………。」

そのお姉さんは、ファッション雑誌からそのまま飛び出してきたような、男の人どころか女の人…ちょうど今の浅美みたいに、ぽーっと見とれちゃうくらい、大人っぽくてキレイな人だった。

「ケガはない?」

「えっ?はい!ないです!大丈夫です!」

「そう、それはよかった。」

お姉さんが聖母のような笑みを浮かべて、軽く手を振りながら去って行くのを、浅美は呆然と見つめた。

「……ほぇ〜。」

「…浅美。」

「あっ!うん!ごめん!行こっか。

…………まひる?どうかした?」

呆然と、ではないけど、私もまたあのお姉さんが去って行った方向を見つめていた。

「ちょっと、気になったことがあって。」

「何?」

「あのお姉さん、前を見てなかったって言ってたよね。」

「うん。それが?」

「私、見てたんだけどさ、あの人、しっかりと前を見てたんだよ。」

 

じーっと。ぬい針に糸を通すみたいに。

何回脳内で映像をスロー再生しても、それは変わらなかった。

 

「うーん。何か考え事でもしてたんじゃない?」

「それにしては目線に迷いがなかったような…。」

「気のせいかもよ?まひるって、けっこう深読みしやすいところあるし。」

「それもそうかもね…。」

 

納得はいかないけど。

 

「行こっか。」

「うん。」

 

チラッと後ろを振り向くと、お姉さんが誰かと電話しているのが見えた。首を傾げて、前に進み始めた。

 

 

カフェの大きな窓の外をぼーっと見ていると、大人っぽいお姉さんが、そのきれいな顔をしかめて、スマホに向かって何かを叫んでいた。

 

「……ふざけんじゃないよ!わからないって……アタシらの………………じゃないのかい!?………消え………!?………今はいつどこで……………………。で、アンタがやったみたいに……。………………アタシはやるよ!誰が何と言おうとね!」

 

お姉さんは乱暴に電話を切り、ハイヒールで壁を乱暴に蹴りつけて、そのままスタスタとどこかへ歩き去って行った。

 

……そろそろ暇つぶしの人間観察にも飽きてきた。あと、モイランのいびきが地味にうるさい。リボンをつけてるわたし以外には聞こえてないみたいだけど。

あの時ほどではないけど、お腹が空いた。

 

と、思っていると、丁度よくシドーさんがコップを二つ持って私の隣に座った。

「ごめんなさいね。トイレ長くて。はい、ぶどうジュース。店長がサービスだって。」

「ありがとうございます……。」

シドーさんの話によると、ここはちょっと変わったカフェで、何人かの専属ピアニストが日替わりでピアノを弾いてお客さんに楽しんでもらいながらお茶しよう、というコンセプトだとか。でも、今日の担当の人が盲腸で急に休みになったらしく、さらに様々な不運が重なり、唯一代わりに行けるピアニストが来るまでに時間がかかってしまい、そこでシドーさんが間を持たせる目的でわたしをピンチヒッターに採用した、というわけで。

その役目を終えたわたしは今、ものすごく疲れている。

 

「お疲れ様。夜空ちゃん。びっくりしたわ。いきなり出された曲を10曲連続で弾ききっちゃうなんて。」

「あ、はい……。」

……なんとなく、初めて弾いた感じじゃなかった。たぶん、あの曲は全部、弾いたことがある気がする。

「店長も褒めてたわよ。ミスのごまかし方も絶妙だって。」

「うっ…!」

 

バレてた。

 

「でも本当に、遅れてきたそこのピアニストにも引けを取らないと思うわ。店長ったら、高校生になったら正式にバイトで採りたいって言ってたわ。」

 

話を聞いていたのか、件のピアニストが軽く苦笑いした。

 

「勝手なことしちゃったわ。ごめんなさい。これ、普通に職権濫用だし、労働基準法違反だから、これからは頼まれてもやっちゃダメよ。」

「え〜…。」

「はっはっは。師道さんは相変わらずだなぁ。」

キッチンから、スキンヘッドにグラサン、黒いエプロンをつけた小太りの男の人がひょっこりと顔を出した。店長だ。ちなみにピアノは詳しいけど全く弾けないらしい。

「あの、気になってたんですけど、二人はどういう関係なんですか?」

「あぁ、彼はね、私が初めて担当した子なのよ。」

「そうそう。後で聞いた時は驚いたよ。」

「!?」

「えっと、たしか5歳の時だったから……。もう25年も前なのね!時間が経つのって早いわぁ…。あんなにちっちゃかったのに、もうこんなに縦にも横にも大きくなっちゃって。」

「横は余計ですよ師道さん。」

「30歳だったんですか……!?」

「うるさいなぁ!俺はどうせ老けてるよ!」

店長は、その強面とは裏腹に、朗らかに笑ってみせた。わたしもシドーさんも、気づけば笑っていた。

 

「こうやってね、ブラック極まりない児相の仕事の合間に、昔担当してた子を私的に訪ねて回るのが趣味なの。ちゃんと元気にやってるのかとか、どうしても知りたくなっちゃってね。……まぁ、今日は過程がどうであれここには来るつもりだったけどね。」

「で、たまに俺と君みたいに担当の子同士を引き合わせちゃったりするんだよね。……でも師道さん、どうしてウチのピアニストが盲腸で休みだって知ってたんですか?」

「ツ○ッターよ。従業員の垢も欠かさずフォローしてチェックしてるわ。」

「………さすがです。……あと、夜空ちゃんだっけ?」

「はい?」

「どこで習ったの?あんなすごいピアノ。きっとすごい先生だよね?」

「それが…わからなくて。」

「?」

「無いんです。記憶が、全部。」

「……あ〜。なるほど。それで大ベテランの師道さんに回ってきたのか。」

店長は、ほんの一瞬だけ驚いた顔になって、でもあっさりと納得した様子になったせいで、逆にわたしの方がびっくりした。

「じゃあ、ウチのピアニスト共を通じて知り合いに当たってもらおうかな。さっき演奏も、録音させてもらったし。もしかしたら夜空ちゃんの先生が…もし居たらだけど、覚えてるかもしれない。俺から見ても才能あるし、記憶には残ってるんじゃないかな。」

「本当ですか!?」

「もちろん。今日は本当に助かったし、いいもの聴けたしね。ちょっとした恩返しだよ。」

「あらあら。来てよかったわねぇ。」

 

シドーさんは、わたしと店長を交互に見て、本当に幸せそうにニコニコ笑っていた。その時、あれ?っと思った。

シドーさんは、過程がどうであれここには来るつもりだったと言っていた。

それってつまり……

 

「さ、連絡先交換しときなさい。名刺よ名刺!」

「あ、は〜い。……えっと、はいどうぞ。」

店長は、エプロンの胸ポケットから小さな紙片を取り出して、わたしに手渡した。

メイシ…って言うらしい。

「あ、ついでに私のも。困ったらいつでも電話しなさい。それが仕事だから。」

「はい!」

 

 

もしかしてシドーさんは、最初から私と店長を引き合わせようとしていた……?

もしそうなら、まひるは運命的だよ!って言いそうだと思った。

 

「さて、そろそろ待ち合わせの時間ね。」

「待ち合わせ…?」

「あぁ、もう決まったんですね。よかったよかった。」

「えぇ。引き取ってくださる家庭が決まったの。異例の早さよ。」

「…あの、引き取られたら、どうなるんですか?」

「新しく家族になるの。その家族の一員になって、新しい人生を始めるのよ。」

「……新しい……人生……。」

「まぁ、人生経験が実質一週間の夜空ちゃんにはピンとこないかもしれないけど、きっと幸せなものになるって信じてるわ。」

「そうしたら、名前とかは…。」

「う〜ん。下の名前は夜空のままでいいと思うけど、苗字の方は変わる可能性が高いわね。でも、どうしてそんなこと聞くの?」

「それは…。」

急に、まひるの顔が浮かんだ。

なんとなく、シドーさんから目を逸らして、ストローでジュースを吸った。

 

ドアがスーッと静かに開き、店長が営業スマイルで「いらっしゃいませ。」とやや静かめに言った。ピアノの音を気遣ってかもしれない。

 

「あら、噂をすれば。あの人よ。あれが、夜空ちゃんの新しい家族。」

 

わたしは目を見開き、その方向を向いた。

 

 

がら〜んと私たち以外誰もいない境内の中で、なんかやたらとラフな格好の神主(?)さんの話が延々と続く。

「「……………。」」

「それでですね、ウチは神道じゃないので、俺も正しくは神主じゃないんですよ。強いて言うなら、神官ってとこですかね。神道は多神教ですけど、ウチは一風変わってまして、一神教であり多神教でもあるということなんですね。どういうわけかと言いますと…。」

 

やばい。眠い。校長先生の話並に眠い。これを聞いて熱心にメモを取り続ける浅美を、この時ばかりは尊敬した。

 

(助けて〜。眠い〜。運命的じゃない〜。)

(うっさい。今メモってんの。)

(なんでそんなに興味深そうに聞けるの?)

(一つ残らず聞かないとオカ研を辞められない。)

(なるほど……。)

以上。私と浅美のアイコンタクトだけで成立した無言の会話でした。

……もしかして、モイランのあれって、私のこれを元にしたのかな?

 

…とりあえず、神官さんの話を要約すると、ここは京都を総本山とする宗教で、結目町にあるのは支部なんだとか。社は神道の影響は受けてるみたいだけど、八百万の神々とかタカマガハラとか、そういうのとは一線を画す、全くの別物らしい。あと、神の名前は信者以外は知ったり、聞いたりすることすら許されないんだとか。

 

「ご利益は、なんでも、です。」

「なんでも…って、ほんとになんでもなんですか?」

「そう、なんでも。学業、恋愛、金銭、健康、その他諸々エトセトラです。」

「…浅美、怪しいよこれ。やめとこ?」

「…そうね。」

「いや待って待って。これでも平安時代から続く由緒正しきマイナー宗教なんですけど?入信しても月一万いくかいかないかくらいしかお金取らないですし。そこらのカルトより数百倍マシですよ。」

「一万……一万って言いました……?」

「まひる、大人の金銭感覚だから。月二千円か三千円のあたしらとは違うから。」

 

でも、月一万っていうのもわかる気がする。

ここは、社と言うよりは祠って感じの大きさだし。私が体を折り曲げてギリギリ入れるか入れないかってレベルの大きさだし。それほど大きい宗教ではなさそう。

でも、こんな商店街の路地の奥にちょこんと立っているにしては、周りの木々も手入れが行き届いているし、入り口からここまでの石畳も整然としていて、小綺麗だった。

…まぁ、前にニュースで年300万取る宗教もあるって言ってたから、そう考えると安いのか。

 

「この中って、何かあるんですか?」

「扉開けると、小さい箱があるんですけど、教祖様でも開けちゃダメってことになってるんですよね。だから、中身は誰もわかんないです。」

「まるでパンドラの箱ね…。」

「箱そのものは何百年も開いてないんじゃないですかね。………見ます?箱には触れないってことで。」

「「いいんですか!?」」

こういうのはワクワクする。なんかいけないことをしてる感じがして。

「まぁ、一般公開しちゃいけないって規則もないですし……。ここを…………こうやって…………こう!」

神官さんが祠のあちこちを撫でているなぁ、と思ったら、扉が勝手にパカッと開いた。

「えっ!?マジック!?」

「社のそこかしこにある鍵を決まった順番に解除しないと絶対に開かないんです。防犯上の理由ですよ。教祖様の計らいです。」

「と思ったら神秘も何もない……!」

「まぁ、でも箱はちゃんとあるし……。

……………………………。えっと、これは?」

 

ちゃんと腐らないように処理してあるのか、明らかに古いけど意外ときれいな、大きめの筆箱くらいの木箱の周りの壁には、所狭しと色鮮やかな絵が描かれていた。

 

「あぁ、皆初めて見る時はびっくりしますよね〜。それは、簡単に言うと神話です。この世界がどうやってできて、どうして今の世界があるかって感じの話ですよ。」

「はぁ………。」

……あ。まずい。さっき延々と語ってた時と全く同じ目になってる。めっちゃ楽しそう。

これはまさか。

 

「じゃあ、ちょっと最初から話していきましょうかね。」

 

………やっぱりこうなった。

 

私は、ただ浅美にアイコンタクトした。

 

(私が寝たら、支えてね。)

(……はぁ!?)

 

 

「……むかしむかし、ある所に、無の中を彷徨う者がおりました。」

((昔話調からの厨二病調!?))

 

もしかして神官さんは、最初からこの話をするために祠を開けましょうか?なんて言った…………?

もしそうなら、……………ある意味運命的だな、としみじみ思った。

 

 

 

〜数時間後〜

 

 

 

「………めちゃめちゃ、面白かった。」

「それな。ほんとそれ。…特に隕石が落ちてくる辺りとか。」

「そうそう!どうなることかと思った!」

「そしてあの序章の終わり方!切ないのなんの!」

「ね〜!あの二人がいつか救われるんじゃないか、って期待させる感じがもう!たまらないよね!すっごい運命的!」

「まひるって、ああいうの大好きだもんねー。」

 

神官さんが話してくれた神話は、笑いあり、涙あり、驚きあり、ファンタジーあり、SFあり、という、何時間聞いても飽きないものだった。校長先生はどこ行ったってレベルの情感こもった語り口で、プロの声優さんにでもなった方がいいと本気で思った。

 

「……あの話、本にしたら絶対売れると思うんだよね……!」

「意外とがめついこと考えるな……。わかるけど。」

「そしたら信者増えると思うんだけど…。」

「ま、いんじゃないの?あの神官さん本人が、信者は十数人でいいって言ってたくらいだし。」

「じゃあ、いいのかな。」

 

………そういえば、なんであそこに行ったんだっけ。

 

「………浅美。単語帳。」

「………………あ。」

 

浅美は、鞄から単語帳を出して、あの祠のページを輪っかから外した。

 

「社の中に眠る箱に、得体の知れぬものが眠っている。確かめるように……か。」

「どうする?浅美に任せるよ?」

「…まぁ、元はと言えばあたしの問題だしね。」

 

私は浅美をじっと見つめた。浅美は少し考え込んで、何も言わずに単語帳に赤いチェックを入れた。

 

「いいの?」

「いいの。教祖様でも開けちゃダメなら、そもそも信者ですらないあたしらはもっとダメでしょ。ましてや相手は全知全能の神様なんだから、全方向からバチが当たっちゃたまんないし。」

「箱の中身、確かめてないけど?」

そう言うと、浅美はちょっと悪い顔になった。

「別に、箱の中身を確かめろなんて一言も書いてないじゃない。あたしは、箱の中に得体の知れないものが眠っているってことを確かめたの。」

「なるほどね。」

二人で、クスクス笑った。

 

「浅美、今何時?スマホの電池切れちゃってさ。」

「うーんと、5時半。……まあまあいい時間になっちゃったね。」

「午後、まるまる神話聞くのに使っちゃったしねぇ。」

「一日でたった十一個…。しかもガセ十個にグレーゾーンひとつかぁ…。」

「でも、楽しかったね。」

「…そうね。」

 

浅美はなぜかため息をついて、単語帳をしまった。

 

「まひる。予定が空いたら、また手伝ってくれる?

…今度は、夜空も一緒でいいから。」

「うん。そうなると…いいね。」

 

夕日を背にして笑う浅美の顔は、どこか寂しそうだった。そして私も、きっと同じ顔をしている。

 

「じゃ、あたしこっちだから。」

「うん。…じゃあね。」

 

T字路に着いて、私たちは逆方向に別れた。

 

「大掃除……。終わったかな…。」

 

そんなことを呟きながら、とぼとぼと歩いていると。

 

誰かと、肩がぶつかった。

 

「あっ!すいません!………?」

「…………………。」

 

その人は、振り向きもせず、無言でその場に佇んでいた。でも、その後ろ姿は、ハッキリと覚えていた。

さっき、浅美とぶつかったお姉さんだった。

でも、何かが違う。さっきの優しい雰囲気はどこかに去って、かと言って殺気すら感じないのが逆に不気味だった。

「………あの…?」

「…意地なんて、張るもんじゃないね。余計な時間がただただ過ぎ去って、今日一日無駄にした気分だよ。」

「…?」

「自分だけでできるなんて、どうして思っちゃったんだろうね、アタシは。始めから素直に聞いときゃよかったんだ。アンタ達のことを。

 

 

………そうだろ?キュアディライト。」

 

「!!」

 

今のところ、キュアディライトが私だって知ってるのは、夜空と、モイランと……。

 

「…ハズアルド!」

「そうアタシはハズアルドの…」

「っ!」

 

私はすぐに回れ右して、走り出す。

すると、真横に風が吹き荒れ、気がつくとお姉さんの胸に正面衝突していた。

速すぎて、追い越されたことにも気づけなかった。

 

「逃げんじゃ、ないよ!」

 

お姉さんの右拳が私に迫る。私は、動体視力をフル回転させて、必死でお姉さんの服の袖を掴んだ。

 

「おじいちゃん式格闘術…!」

「…!?」

「31番!」

 

相手の力を逆に利用して、体全体を使って投げ飛ばす、「自分より力の強い相手に使え!」と教えられた技。

これが柔道の一本背負いだと知ったのは、けっこう最近の事だった。

 

「てえええええい!」

「かはっ!」

 

手加減はゼロで、全力で地面に叩きつける。そして、瞬間的にクラウチングスタートの体勢になり、地面を蹴った。

思った通り、すぐにお姉さんが起き上がって来る音がする。でも、振り向く余裕なんて全くなかった。

 

「…やるじゃないか……。…じゃあ、アタシも本気を出して行こうかね!」

 

後ろから、肉が焼けるような音がして、赤錆色の光が放たれた。

 

「トジコメ!ナガシテ!ハガシトレ!

 

ラストリンク!ワルスギルプ!」

 

太陽の光が何か大きな影に遮られて、私の周りが暗くなった。

 

「ワァァァルズギィィィィィルプ!」

 

おぞましいあの叫びが聞こえたと思ったら、影はすぐにどこかへ消えて、夕日が当たってきた。

思わず後ろを見てみると、出現したはずのワルスギルプも、あのお姉さんも、どこにもいなかった。

 

「…?」

 

足を止めて、首を傾げた。

その時、ポン、と何かの瓶を開けるような小気味良い音が聞こえた。

 

開いたのは、マンホールだった。

でも、中には人が通るためのコンクリートの管も、金属のハシゴも見当たらない。中に有るのは、どす黒い赤色の空間だけだった。

 

あぁ、これがダーククリムゾンかぁ、本に載ってたなぁ、と、少しだけ現実逃避した。…傍から見れば、これほど現実感のないこともないんだろうけど。

 

「ギィィィィィィルプ!」

 

穴の中から、どうやって出てきたんだろうって思うくらい太い(五〜六メートルくらい?)、長大な(三〜四十メートルくらい?)の胴体が溢れ出す。

 

硬い外骨格に覆われた、節がいくつもある真っ赤な体。細い、無数の脚。世の女子のほとんどが毛嫌いするであろうシルエット。

 

どう見ても、巨大ムカデだった。

 

お姉さんは、その頭の上に立って、じっと私を見下ろしている。

鋳型の形は、ウネウネした何か(たぶんムカデ)と、丸い何か(たぶんマンホール)だった。

 

 

話は変わるけど、私は他人よりちょっとは運動ができるし、武術も教わってたから、自分はそこそこ強いんだろうなぁ、という自負がある(小三くらいまで、なぜか男子にゴリラゴリラ言われたのと何か関係があるのかもしれない)。これでも腕相撲は生まれてこの方負けたことがない。

それでも、弱点は誰にでもあると思う。あのおじいちゃんでさえ、最後までピーマンは食べられなかったし、カメムシはどうしてもムリだった。

 

私の場合、それはムカデだったりする。

 

 

 

「改めて、アタシはハズアルド三幹部の…。」

「ぎゃああああああああああああ!」

「聞けよ!って速っ!?」

 

ろくに助走もせずに軽々と塀の上に飛び乗り、その上を自転車くらい軽々と追い越せるくらいの速さで走った。

あのワルスギルプはマンホールから出てきた。こんな家と家の間なら、マンホールなんてないはず。あと、うっかり少しでもサビに触らないように気をつけないと。

 

そう思ってほんの少し安心した時。

 

家の壁に、マンホールがひっついているのを見つけた。マンホールが家の壁に、ましてや横向きに付いてるはずなんてない。つまり、そういうことなんだろう。

 

キュポン、とマンホールの蓋が開く。私はそれを右手でキャッチして、構えた。

そして、マンホールの中から何かが出てくる頃合いを見計らって…。

 

「ワルスギ…」

「逃がさな…」

「どっせえええええええい!」

 

蓋を鈍器にして、お姉さんの脳天に勢いよく叩きつけた。バッコォン!という凄まじい音が響き、蓋が真っ二つに割れた。極限状態すぎるせいか、不思議と痛みはなかった。

普通の人より体はだいぶ頑丈なのであろうお姉さんも、これにはさすがに 全身の力が抜けて倒れ、その下のワルスギルプは戸惑いを見せた。今だ。

私は、スパイ映画もびっくりの動きで、屋根から屋根へ、何度も何度も跳び移り続けた。

マンホールの蓋を放した右手に、ようやく痛みを感じ始めた。

 

「なぜ、だ!どうして変身しないんだい!出し惜しみしてんのか!なめんじゃないよ!」

お姉さんが頭を押さえながら叫ぶ。

マンホールは、どんな場所にも作れるらしい。

 

あと、なめてなんかない。変身しないんじゃなくて、一人じゃ変身できない。出し惜しみしてないから今私はこうして逃げてるんだって言いたかったけど、そうしたら赤茶けたカカシになってしまうのは明らかだった。

 

…考えてみると、今まで私が逃げられている方がおかしい。あの図体と、どこにでもマンホールを出せる力があれば、私なんかあっという間に追いつかれる。それに、変身を要求してくるのもおかしい。普通だったら、変身しないうちにサビにでもしてしまえばいいのに、そうしてこない。

 

ムカデの触覚の刺突を、身を低くしてギリギリかわした。

 

…考えられるとしたら、相手はプリキュアと戦いたい…つまり、戦闘そのものを目的にしてるって言うのが自然な気がする。

だったら、時間が勝負だ。できるだけ早く逃げきらないと、待てなくなって本気で攻撃してくる。

 

一度、屋根から塀を経由して地面に降り、とにかくワルスギルプと逆方向に走った。逃げられる見込みも、逃げるための策も、何もなかった。何も、考えられなかった。

ゴン、と足元で何か音がした。その直後、突然左足に力が入らなくなって、前に転んだ。体を支えようとした右手にも、力が入らなかった。

私の左足は、マンホールを踏んでいた。足首からふくらはぎ、ひざ、太ももへどんどんサビが広がっていく。ほとんど条件反射で、右足だけで跳んでそこから逃れた。受け身も取れず、体全体に痛みが走った。ギプスで固定されたみたいに、サビた部分は一ミリも動かせない。まともに立っているなんて、できるはずがなかった。

 

息が上ずっている。鼓動も速くて、熱くて、汗が止まらない。肩はガクガクと震えていた。その恐怖は、ムカデとはあまり関係なかった。そのことを、初めて自覚した。

……そうじゃない。自覚していて、目を逸らしていた。そうしたら、なけなしの希望すら失ってしまいそうだったから。

すぐ近くの壁にマンホールが現れ、中からワルスギルプの頭とお姉さんが出てきた。

 

「わからなかったのかい?そのマンホールも、ワルスギルプの一部なのさ。でも、ワルスギルプに直接触れればどうなるか…。それはわかるだろう?」

「…………。」

「あと、その右手、見てみなよ。」

「……!」

 

そこは、手首まで真っ赤にサビていた。たぶん、マンホールの蓋を叩きつけた時にこうなったんだと思う。

一ミリでも動かそうとすれば激しい痛みが走った。痛すぎて、叫ぶことさえできなかった。

 

隣に夜空はいない。助けたい誰かも、助けてくれる誰かも、今の私にはない。恐怖を紛らわすものが、何もない。

 

体はこんなに震えてるのに、右手は震えない。だって、震えられないから。

 

「…もういい。アンタは頑張った。ただの人間でありながら、アタシに二回も攻撃を当てられたこと、褒めてやろうじゃないか。

……でももう、終わりだよ。

…ワルスギルプ。」

「イエッサァァァァァアア……。」

 

マンホールの中から、ワルスギルプの巨体が姿を現し、その顎が開いた。そして、じっとこっちを睨んできた。

 

 

嫌だ。

 

 

もしも運命があるのなら。どうか。

 

 

「『審判』を覚えているかって?…うん。覚えてる。」

「ウソね。今まで忘れてて、あたしの言葉で思い出したでしょ。」

図星だった。

「……ごめん。」

「謝んじゃないわよ。…あーもー!まひるは昔っから元気がないとなんでこうもめんどくさいんだか!」

浅美は乱暴に紅茶を飲み干し、すぐに2杯目を飲み始めた。

「…………あんたは、どうなってほしい?」

「………?」

私は黙って、首を横に振った。どうなってほしいかなんて、もうよくわからなかった。

 

だって、探していたものが、こんなにあっさり手の中からこぼれ落ちたから。

 

「あんたとは長い付き合いだから、あんたの強いとこも弱いとこも、それなりに知ってるつもり。

…だから、ちょっとは信じて。あたしは、まひるの味方だから。」

浅美が、悲しそうな顔になった。いつもこうだ。心配かけてばっかり。

「でも、話したって、どうしようもなくない?」

「どうしようもあると考えるの!あんた得意でしょ。」

「そうかなぁ…。」

「少なくとも、あたしから見たらそう。」

浅美はもう一度、真剣な顔で聞いてきた。

 

「あんたは、どうしたい?」

 

「私は……」

 

 

「私は……、寂しいんだ。夜空が傍に居なくって。こんなの、今までの私じゃ考えられないんだよ。そんな気持ち、とっくに枯れたと思ってたのに、まだ残ってた。正直、自分でもびっくりした。

ワガママだよね。前と同じ、いつもの私に戻っただけなのに、一度触れたらもう手離したくないなんて。不謹慎だよね!」

 

お姉さんが、怪訝な目で私を見た。当たり前だ。突然取り留めのないことをベラベラと話し始めたんだから。

 

「でも!寂しいものは寂しいんだよ!一緒にいて欲しい人が一緒にいないことを、寂しいって思って何が悪いの!!」

「ワルスギルプ。行きな。」

「イエッサァァァァァアア!」

 

ワルスギルプが、一直線にこっちに向かって来る。口からは瘴気も吐き出し始めた。あれに触れたら、私は終わりだ。

でも、私は自分でも不思議なくらい冷静だった。思っていることを吐き出したせいか、場違いだとはわかっていても、どうしようもなくスッキリしていた。全身の震えは、もう止まった。

 

「だから、私は…。」

 

 

「だから、私は、夜空に会いたい。もう一度だけでもいいから。」

「そっか。………よく言った!」

浅美は、弾けるように笑って、私の頭をポンポン、と叩いた。

「へ?」

「まひるの本音、なかなか聞けないからさ。」

「そうかな?」

「そう。まひるってすぐ、自分の心にも嘘つこうとするから、こうやって無理矢理にでも引き出してあげないといけないの。」

思い返してみれば確かに……そうかも。

 

浅美は、カバンからタロットの山を取り出して、シャッフルし始めた。

 

「じゃあ、そんな悩める乙女のために、この占い師アサミちゃんが力を貸してあげましょうか。」

「かっこつけても、あんまりかっこよくないよ。」

「ひっど。」

 

山札が、私の前に置かれた。

 

「占うのは、まひるの今日の運勢。カードを引くのは、あくまで占われる本人。だから、ほら。」

「うん。」

 

一番上に手を置き、深呼吸して、ひと思いに引いた。

 

「……………『世界』の正位置…。意味は?」

「…最高。今日は何もかも全て、上手くいくでしょう。」

浅美が、アナウンサーみたいに優しい声で告げた。

「ラッキーアイテムは、白いポーチ!」

「…タロットって、そこまでわかるっけ?ちょうど白いポーチなら今持ってるけど。」

「これはウソ。適当に言いましたー。」

「もう!」

こうやって心から笑うのは、久しぶりな気がした。

 

 

「……うん。ありがと。」

 

 

 

ワルスギルプが迫る。もう私は動けない。

 

でも、もし運命があるのなら。

 

「ラッキーアイテムは…白いポーチ!」

 

ファスナーを開けて、左手を中に突っ込むと、指先が何か柔らかい布に触れて、握りしめた。

その瞬間、中から明るい赤色の光が漏れ、溢れ出した。

 

光が止むと、そこには、あの紫色の髪が現れていた。

 

「夜空……………!!」

「まひる……………!?」

「夜空ぁーーーー!」

上半身の力だけで器用に立ち上がり、右手が夜空に触れないように気をつけながら、その首に飛びついた。

「…え?なんでまひるが…」

「ワルスギィィィィイ!」

「えっ!?ワルスギルプ!?」

夜空は、ワルスギルプを見ると目を見開き、慌てて私の左手を握った。

 

「『ジャンプ』!」

 

私たちの姿がその場から消え去り、ワルスギルプの触覚が空を切る。かなり勢いをつけていたらしく、地面に深くめり込んで抜けなくなって悪戦苦闘していた。

そこから十メートルくらい離れた場所に、私たちはパッと現れた。

 

「な…なにこの状況……。あとまひる、苦しい。」

「なんで夜空がここに!?」

「こっちの……せり…ふ。それより…手…緩めてよ…!」

「で〜も〜!」

ぎゅっ。

「ゆるめて〜…!」

「はいは〜い。」

夜空の声が泣きそうな感じになったから、さすがに放してあげた。すると、夜空が、私の脚を見て絶句した。

「まひる…足!……と手が…!」

「あぁ……これは、ちょっと…ドジった。」

「ドジったじゃないわよ!シャレにならないじゃない!」

「えへへ…。でも、来てくれてありがと。」

「いや、わたしは別に…。」

「じゃあ、なんで…?」

(ワタシだよ〜。)

夜空の頭の後ろでちょうちょ結びにされていた赤いリボンが解けて、クルクルと集まってモイランになった。

「あれ…?耳がちょっと欠けてる…?」

「耳は、それだよ〜。」

手の中に握りしめていた、1センチ四方くらいの赤い布がひとりでに浮いて、モイランの耳を埋めた。

「ワタシのカケラを緊急SOS用のトリガーにしておいたんだよ〜。ワタシとよぞっちがいない間、マッヒーは丸腰だから危ないし。この状況も予測済み!」

「カケラって…体が欠けちゃって大丈夫なの?」

「いや…、最初の変身のちょっと前に、ワタシを真っ二つに引き裂いたの誰だっけ〜?」

「…あっ。そういえばそっか。」

「これはヤバい!って心の中で思いながら、よぞっちを思い浮かべながら触ると、よぞっちの頭に結び付けられたワタシ本体がその信号をキャッチして、自動的にマッヒーの居場所に『ジャンプ』するっていう仕組みだよ〜。」

「すご〜い。……でも、そうならそうって早く言ってよ。」

「ごめ〜ん。完全に忘れてたいたいいたいいたいいたい!」

ちょっと怒って眉間をぐりぐりすると、モイランはあからさまに痛がった。でも、枕みたいな程よい反発で、なんか飽きなかった。

「ホントに怖かったんだよ?死ぬかと思った。」

「…それに、わたしにも言ってないってどういうことよ。」

「う〜ん。そっちも忘れてだだだだだだ!」

今度は夜空が後ろからぐりぐり。

「やーめーて!」

モイランの体がスルッと解けてリボンになり、手首に絡みついた。

 

「ギィィィィィィルプ!」

ちょうどその時、ワルスギルプが刺さった角を強引にへし折って脱出していた。もちろんすぐに再生していた。

 

「「キュアモール・ファティ!」」

 

そう叫ぶと、金色の球体が私たちを包む。それに触れると、私の体のサビは剥がれ落ちていった。

 

「「ゴールド・コマンド!

 

ダブル・メタル・リベアリング!」」

 

 

 

 

「結ばれた二人の喜び!キュアディライト!」

 

「繋がれた二人の運命!キュアデスティニー!」

 

黄金のハートが弾け、私たちは姿を現した。

 

「「ツインコネクト!プリキュア!!」」

 

それを見たお姉さんは天を仰いで高笑いした。

 

「会いたかったよ…。プリキュアァァァァァァァァァァァァァ!」

「ワルスギィィィィィィィィイ!」

ワルスギルプの突進を、二人で受け止める。モイランと違って、嫌な反発がきた。

「「くぅ…。」」

「アタシの名はオークラグナ!ハズアルド三幹部が一人さ!アタシこそが……アタシこそが…………!!」

ベキベキと音を立てながらその筋肉が盛り上がり、声もどんどん野太くなる。あの綺麗な顔も、獰猛なイノシシを思わせる豚面になっていく。気がつけば、あっという間に2メートルを超すムキムキの巨体がそこにあった。

「アタシこそが…この世で最も美しく強い!戦士だぁぁぁぁぁあああああああ!」

「ギィィィィィィ!」

「「ぐぐっ………きゃああああ!」」

美しいかはともかく、ワルスギルプの力は本当に強くて、あっさり押し負けて吹っ飛ばされてしまった。

二人で地面をゴロゴロと転がる。起き上がろうとすると、後ろからポコッと音が聞こえた。

「デスティニー!危ない!」

「えっ?」

「ワルズ!」

デスティニーの前に立ち、私はワルスギルプの脚の攻撃をまともに受けた。細い脚でも、それが何本も連なれば、私を壁に叩きつけるには十分だった。

「このっ!」

デスティニーの回し蹴りを、マンホールの中に隠れて回避。蓋も閉じられ、穴そのものが消えた。

 

「ディライト!大丈夫?」

「…うん…。それよりデスティニー、あれお願い。」

コクリとデスティニーが頷く。紫色のキュアブレスをこっちにかざし、クリスタルに触れた。カードがこっちに飛んでくる。

「メタル・コマンド!アイアン!」

私の両手に小手が現れた。

そして、耳を澄ませて、マンホールの蓋が開く音を探した。出てきた瞬間を、確実に叩くために。

…………ん?来ない?…………って言うかなんか、熱い。

後ろを見ると、デスティニーが赤い炎を出して何かを燃やしていた。

「…デスティニー?………あっ!」

デスティニーの手から出る炎の中でマンホールが赤熱していた。内側から何かがガンガンと蓋を叩いている。

「どう?金属だから、溶かして溶接してみたの。」

ドヤっ!って感じのデスティニーの顔が面白くて、思わず笑ってしまった。

「ぷっ。あははは。」

「なっ!なによ!わたしは真面目に…。」

「うんうん。なんかね、元気そうで安心したって言うか。」

「どういう意味よ。」

「そりゃあ、……。」

なぜか足元にザラザラした感触。恐る恐る振り向くと、憤怒の形相のワルスギルプが、微かに瘴気を吐き出していた。

「ワル…!」

「ていっ!」

デスティニーを左手で抱え、ワルスギルプが攻撃してくる前に、その顔の真ん中にパンチ。桜の花形の刻印が現れはしたけど、思った通り顔面だとダメージはなく、逆に後ろに弾き飛ばされた。ビリビリと小手と腕にモロに衝撃が伝わり、小手は花びらになって消えてしまった。

でも、今はそれでいい。普通にジャンプするより、速く突進を避けられる。落下が始まり、頭上をワルスギルプの頭が通り過ぎた。

やっぱり何度見てもムカデは気持ち悪い。

 

それにしても、なんか今回は調子が悪い。パワーもスピードも、前より数段劣っている感じがする。デスティニーも同じことを考えているようで、困惑した様子だった。

「…モイラン!なんで!?」

(わかんない!そんな情報は、今のところ『解放』されてないよ〜。……でも。とりあえず、30秒!二人は離れないで、できるだけじっと耐えて!作戦考える!)

「「わかった!」」

 

私たちはそれぞれ『アイアン』のカードを渡し、キュアブレスに読み込んだ。デスティニーの手に双剣が握られたけれど、私の方は何も起こらなかった。連続で使うのはダメらしい。

とりあえず、全方向に対応できるように、背中合わせに立った。

 

「どうしたんだい?そっちが来ないなら!こっちが行くよぉ!」

 

ポコッポコッポコッポコッ…と私たちを取り囲む配置でそこかしこの壁と地面に次々とマンホールが作られていく。モグラ叩きのように予測不能の方向から次々に現れ、脚による連撃を繰り出す。

デスティニーはバリアを張ったけど、バリアの内側にマンホールを作られて、解除せざるを得なかった。

ワルスギルプが竜巻のように荒れ狂う。無数のマンホールを出口に、時に入口にして、グルグルと回る。脚が列を成して、止まらない脚の攻撃が繰り返される。

私は拾ったマンホールの蓋を盾代わりに、デスティニーは双剣を何度も持っていかれそうになりながらも必死に耐えていた。

 

5…4…3…2…1。…ゼロ。

 

(ポクポクポクポクポクポク…チ〜ン!閃いた〜!)

 

モイランが明るい声を上げた。

 

(それはね…ブツッ!)

 

「…モイラン?モーーイラーーーン!」

「ワルスギィィィィイ!」

「って、え?ちょっと?え?モイラン!?」

 

糸電話の糸を切ったみたいに、モイランの声が聞こえなくなる。その間もワルスギルプの攻撃範囲はどんどん狭くなって、私たちは確実に1ヶ所に押し込められていく。

 

「…わかったわ、モイラン。やってみる。」

「…え?デスティニー…」

デスティニーには聞こえてたの?と言おうとした。

「…まひる!」

「はっ、はひっ!?」

突然の本名呼びに体がビクッと跳ねる。

驚きと言うよりは、戸惑いというか、一種の焦りのような、どことなくこそばゆい感覚がした。

「この戦いが終わったら、できるだけすぐに家に帰って。」

「…え?どゆこと?」

デスティニーは…夜空は、フッと優しい笑みを浮かべた。

「ちょっと先にね、まひるに会う予定ができたの。」

「…!!」

 

会う……予定……!

 

「だから、ちゃんと家に帰って、近いうちに……こんな形じゃなくて、別れていた間に何があったか、ゆっくり話しましょ。

だから、絶対…!勝つわよ!」

「うん!」

 

その時、腕輪のクリスタルが赤く光り、金色の方の目が熱くなった。

私とデスティニーの間に、赤いリボンが見えた。

 

(『メタモリー・チャージ』)

 

そのリボンの一部が膨らみ、キュアブレスに吸い込まれていった。

 

(『チップ・ニッケル』)

 

体が勝手に動いていた。クリスタルに触り、互いに向けてカードを放ち、キャッチした。

 

「「メタル・コマンド!ニッケル!」」

 

ムカデの台風の目から、白炎が上がった。私がやったということに、一瞬気がつかなかった。

ワルスギルプは苦しみの声を上げながら、マンホールの中に逃げ込んだ。そのほとんどが熱で溶接されて使い物にならなくなったはず。

 

「熱っ!危ないじゃない!『ガード』してなかったらわたしまで巻き込まれてたわ!」

「あ、ごめん。」

 

私は、膝から下を覆う、濃いピンク色のメタルブーツを履いていた。少しでも脚を動かすと銀粉が舞い、それが白炎を上げたけれど、私自身は不思議と全く熱くなかった。

一方でデスティニーは、刃こぼれだらけの双剣を捨てて、両手に簡素な黄色い指ぬきグローブをつけていた。…これが武器?

 

(『ニッケル・コマンド』。司るのは『幸せ』。一風変わった攻撃を得意としてるよ〜。)

 

モイラン!?さっきブツッってなったけど大丈夫なの?

 

(だいじょぶだよ〜。ディライトにだけ聞こえないようにしてただけだから〜。)

 

え?なんで?

 

(ひみつ〜。それより、早くしないとワルスギルプが再生しちゃうよ〜。)

 

うわっ。ホントだ。

 

「…モイラン。わたしの方はどういう使い方なの?見たところただのグローブなんだけど。」

(口で言うより試す方が早いかな〜。ちょうどワルスギルプも来るし。最初はワタシが補助するよ〜。)

 

デスティニーは、手をパーにして、ボールを投げるような構えになった。

 

「何だい……?急に強くなりやがって。どこまでもアタシをおちょくってくれるじゃないか。……そういうの…ムカつくんだよ!

ワルスギルプ!」

「イエッサァ!」

 

3方向に一つずつ、同時にマンホールが作られ、開く。

(ディライト!伏せて〜!)

「ほいっ!」

デスティニーの両手が横薙ぎに振るわれる。ヒュン、と頭の上を何かが通った。グローブからそれぞれ5本ずつ、合計10本の黄色く光る、10メートルくらいの鎖。それがワルスギルプを待ち構えるようにマンホールの穴に覆いかぶさった。

「なるほど。これで拘束するのね。」

(まぁ、一応そうなんだけ…)

 

ポコン、と音がして、突如デスティニーの体が沈んだ。いつの間にか、落とし穴のようにマンホールが作られていた。叫ぶ暇もなく、中からワルスギルプの顔が飛び出し、デスティニーが口の中に飲み込まれていった。

「ワルスギルプァァァァァァ!」

「デスティニー!デスティニーーーーー!!」

「アッハッハッハッハッハ!まず一人!次はアンタだ!」

「ギルプ!」

ワルスギルプの口の端が吊り上がり、瘴気を吐き出す。

 

「…………。」

「ん?どうした?何で黙ってんのさ。」

 

キュアブレスが、ドクン、と脈打った。

……あぁ、デスティニー。

 

「……そういうこと、か。」

「……何がだい。もう勝負は決したんだよ。アンタ1人で、アタシに勝てると思ってんのかい?」

「うん。勝負はもうついてる。今この時点で。…確かに、私一人じゃ勝てないね。」

オークラグナの眉間にシワが寄る。私が笑っていることに気づいたんだろう。

「何が可笑しいんだい?」

「あなたが言ったんだよ。もう勝負は決したって。私一人じゃあなたに勝てないって。でも、それは本当に私一人の場合でしょ?」

「…何を言いたいのさ。」

視線と視線がぶつかり合う。でも、そんなものは意味がないことを私は知っている。

もし本当にデスティニーがやられたのなら、今私が感じているこのメタモリアは何なんだろう。私が作る分のメタモリアすら吸い取って、リボンを通じて、私ではない場所で力が膨れ上がっていくのがわかる。

「あなたが負けて、私たちが勝つ。だって私は一人じゃないから。」

「何?」

ワルスギルプの体が硬直する。笑顔が、苦悶に変わっていく。

「ワ……ル………ギギ………!」

「…ワルスギルプ?どうしたんだい!」

 

 

 

 

(デスティニー!ハピネス・メテオリック!)

 

 

 

頭の中にデスティニーの声が響く。

 

「これが、私たちが勝つ運命だ!

私の友達を!なめてんじゃない!!」

私は仁王立ちで、戸惑うオークラグナに向かって拳を突き出した。

「ワルスギルプ、どうした!動け!この役立たず!」

「ギ……ギ……ギィィィィィィ!」

 

ワルスギルプの口から数百本の鎖が出てくる。たまらず吐き出し、シューティングスターロッドを持ったデスティニーが飛び出した。

グローブから伸びる鎖が、さっきとは桁違いに長くなり、ワルスギルプを縛り付ける。

やばいと思ったのか、ワルスギルプはマンホールの中に逃げ込もうとしたけど、それすらも許されなかった。

「はぁっ!」

「ワルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!!!」

 

鎖の一本一本からスパーク。バリバリと電撃が音を立て、ワルスギルプが痺れで体をよじらせた。えぐい。

追い討ちをかけるために、私も一直線に走り出す。

 

(ディライト〜。ちょっと待って。)

「…え?」

(すごく申し訳ないんだけど、デスティニーが今のでけっこうメタモリアを使っちゃって、同じように技を使うのはムリなんだよ〜。だから、お預け!また次の機会に!)

「え〜!うそーん!…。」

そんな…!ここは二人揃ってカッコよく技を決めるとこでしょ!

(でも、ちょっとした技なら、キュアブレスに再読み込みすれば使えるから、やってみて!)

「わかった!」

 

胸に手を当て、『ニッケル』のカードを取り出した。

 

「ディライト!ハピネス・ブルーミング!」

 

ブーツからの火力が上がる。とりあえずワルスギルプに向かって、ホップ、ステップ、ジャンプ。ちょうどその時、デスティニーの鎖が力を使い果たして消えた。

銃弾のように回転しながら、白炎をまとった脚での刺突。炎はあっという間に燃え広がり、ワルスギルプは黒コゲになって倒れた。

今なら、いける。

 

「ゴールド・コマンド・リバース!

 

チェリーブロッサムロッド!」

 

空中で、デスティニーと手を繋いだ。

 

「「ダブル・メタル・スパークリング!」」

 

 

「桜咲く咲く」「星降る夜に」

 

ガチャリ。

 

「「ハート・トゥ・ハートアロー!

 

黄金の心を!二人の輝きに変えて!

 

プリキュア!ゴールデン・マグニフィセント!!」」

 

黄金の矢がワルスギルプの目に激突し、光が爆裂する。それが消えた頃には、マンホールの蓋と、その傍らにムカデが見えるだけだった。

「…いいさ。今回はアタシの負けだ。

だが、いずれアタシの美しさに酔わせてやる。

…ヒビワレロ。」

 

そう捨て台詞を残して、オークラグナの姿が穴の中に消えた。

美しさというか…肉体美(ボディービルダー的な意味合いでの)というか…。ま、いっか。

カチッ、とキュアブレスのロックを外した。

 

「ふ~…。なんか今日は色々ありすぎて疲れちゃった。」

「そうね…。わたしも、いろいろあったし。」

「そっちは、どう?」

「…引き取り先、決まったの。」

「…!!それって…。」

 

夜空は、幸せそうに微笑んだ。でも、私の心は沈んでいった。

それはきっと、夜空が離れてしまうということだから。

だけど、喜ぶべきことだから、今は笑おう。

 

 

「…よかったね。」

「えぇ。自分の部屋ももらえたの。それで、片付けもひと段落して、ベッドの上でぼーっとしてたら、誰かさんに呼び出されたの。」

「そっか。…なんかゴメン。」

「いいわよ。まひるが危ない目にあう方が一大事だから。」

そう言われて、なんとなく目を逸らしてしまった。どうしよう。嬉しいのに、怖い。

「…どうかした?」

「ううん。なんでもない。どこら辺の家なの?」

「まひるの家からは、そんなに遠くないわ。」

「じゃあ今度…時間が空いたらでいいから、遊びに行っても、いい?」

 

夜空は、なぜかキョトンとした顔になって、可笑しそうに笑い始めた。こっちは割と真剣なのに。

 

「もちろんよ。いつでも来て。待ってる。」

 

沈んだ心が、少しだけ浮き上がった。

 

「絶対行く!約束する!」

「じゃあ…。」

 

夜空が、こっちに向かって小指を立てた。指切りげんまんしてほしいらしい。つばを飲み込みながら、自分の小指を絡めた。少しだけひんやりしてて気持ちよかった。

 

「これ、仲良くなった女の子が教えてくれたの。誰かと約束する時にするんですって。破ったら針千本飲ますとか指を切るとか、子供なのに物騒なこと歌っててびっくりしたわ。」

「確かに…。すごいこと言ってるね。」

これ、やるの何年ぶりだろ…。

 

「「ゆ~びき~りげんまんうっそついた~らは~りせんぼんの~ます!ゆびきった!」」

 

あぁ、ダメだな、私。笑わなきゃいけないのに、泣きそう。今、私どんな顔をしてるのかな。

くるっ、と後ろをむいた。顔を見せたくなかった。恥ずかしかった。

 

「じゃあ、わたしはそろそろ帰らないと。わたしが消えた、って今頃大騒ぎになってるかも。」

「そう、だね。」

 

無意識に、手持ちぶさたな指を絡ませあった。

 

「おなか、すかない?」

「空くけど、早く帰りたいしね。それにここ、屋根の上だから降りられないし。」

「まぁ、夜空はそうだよねー。」

「どういう意味よ。」

「そういう意味だよ♪」

「とにかく、ご飯もたくさん作ってくれるみたいだから、大丈夫よ。」

 

夜空は、早く帰りたいのか…。

 

「まひる…」「夜空…」

 

声が重なる。その先は、たぶん同じ。

 

「「またね。」」

 

耐えられなくなって、夜空の方を向こうとした。

 

「まっ…」

 

でももうそこに、夜空はいなかった。

中途半端に伸ばしかけた手を、下ろした。

 

待って、なんて。呼び止めたところで何を言いたいのか自分でもわかってないくせに。何してんだろ私。

 

いつの間にか太陽はもう半分以上沈んで、空は暗くなってきていた。

 

「……………帰ろ。」

ポツリと呟き、適当に降りやすそうな段差を見つけて道路に着地した。深く、ため息をついた。

すぅっと鼻から息を吸い込むと、なぜだか涙が出てきた。悲しくなんかない。本当に、嬉しいのに。でも、何かが足りない。何が足りないのかはわからないけど。

もし次に会えたら、それが埋まるのかなと考えたら、ほんの少しだけ楽になった。

いつかはわからないけど、その時まで。話したい思い出を、貯めておこうと思った。

 

無理して走ったせいで、脚が痛い。マンホールも重かったし。

 

明日、笑って起きられるように、今日は早めに寝よう。

 

そんなことを考えているうちに、家の前まで来ていた。

 

「…ただいまー……。」

玄関のドアを開けると、見覚えのない靴があることに気がついた。そして、なんだか視線を感じて、顔を上げると。

 

「おかえりなさい。まひる。」

「………へ?」

 

夜空に会いたい気持ちが、水風船みたいに弾けた。

 

だって、目の前に、夜空がいた。

 

「え?…ちょっ……えっ?へっ?」

 

頭が真っ白になって、その場に立ち尽くした。夜空は、まるで何かを達成したみたいに、得意げに笑っている。

 

「…なっ、ななななななななんでよよよよよよよ夜空が家に!?引き取り先の方に帰ったんじゃないの!?」

「えぇ。帰ったわよ。」

「え?…え?………えぇ?」

「…何も聞いてないっていうのは本当だったみたいね。」

「ん?んん?ちょっとお母さん!?」

急いで靴を脱いでリビングに行くと、お母さんとおばあちゃんと、いつの間にか出張から帰って来ていたお父さんが、テレビのお笑い芸人を見て笑っていた。

「あら。お帰りなさい。」

「お帰りなさいじゃないよ!これどういうこと!?」

「何が?」

「何がでもなーい!夜空!夜空のこと!」

手をブンブンさせながら喚くと、3人は顔を見合わせて大爆笑した。

「「「「サプライズ、大成功!」」」」

「…え?」

「なんかねぇ、夜空ちゃんが居ないとウチがまた暗くなっちゃいそうでねぇ。」

と、おばあちゃん。

「娘が増えると思って、張り切って行こうと思ってるわけよ。まひるにも良い影響与えてくれそうだしね。」

と、お母さん。

「仕事、光速で終わらせて手続きしてきたんだぞー。なぜかカフェでだったけど。」

と、お父さん。

「わたしも知ったのはまひるのお父さんに会った後なんだけど…。まさかまひるも知らないとは思わなかったわ。」

と、夜空。

 

えっと、夜空が言ってたことを振り返ってみると。

 

「ちょっと先にね、まひるに会う予定ができたの。」

その『ちょっと先』が今だとは思わなかったよ…。

 

「まひるの家からは、そんなに遠くないわ。」

…そりゃ、私の家だからね。

 

「…ねぇ、お母さん。」

「何?」

「もしかして、大掃除って………。」

「まひるの隣の部屋、空いてたでしょ?そこを夜空ちゃんの部屋にしたの。」

「なるほど…。」

 

つまり、この家の中で私だけがこの事実を知らなかったと……。そういうわけか。

 

「くぅぅ……。ひどいよー!そういうことなら私も大掃除手伝ったのにー!私の四日間を返してー!」

バタバタと手を振り回しながら喚いた。

「宿題終わったし、有意義だったでしょ?」

「それ違う!全っ然違う!」

「でもねぇ、まひる。」

おばあちゃんが私の顔をビシッ!と指さした。

 

「さっきからずっと、ニヤニヤしっぱなしだよ?」

「…えっ?」

ほっぺたを手のひらで触ると、確かに口角がグンと上がっていて、どれだけ下に引っ張っても元に戻ってしまった。

「…まひる。」

「…?」

夜空が、右手をこっちに差し出した。

「改めて、よろしく。今度は友達じゃなくて、家族として。」

「うん!」

その手をつかんで握手したかと思うと、夜空はグッと私の体を引き寄せてハグした。

不意打ちだったせいで、体がカァッと熱くなった。

なんだか涙が出てくる。でももう、その中に寂しさはひと欠片も無かった。

 

 

「夜空…。」

「ん?」

「…くるしい………。手、ゆるめて…。」

ぎゅっ。

「緩めるわけないでしょ?」

「夜空ぁ〜。」

「さっきのお返し。まひるが悪いのよ?」

夜空の腕の力が、もっと強くなった。




ま「次回予告ー!」
夜「やっとやる気になったのね作者…。」
ま「次回!『学校へ行こう(仮)』!」
夜「かっこ………かり?」
ま「作者さん、サブタイは書いてる途中に決めるスタイルだから、とりあえずなんとなくストーリーが伝わればいいよってこのカンペに……。」
夜「……とにかく、わたしが学校へ行き始めるわ。」
ま「って言うか学校戻ったら新聞部かぁ〜。………益子先輩、あの時張り倒しちゃったの怒ってるだろうなぁ〜……。」
夜「そりゃあ怒るでしょ。」
ま「でも、あれは夜空が逃げたからで…。」
夜「………。じ、次回もお楽しみに!」
ま「お楽しみに〜!」



桜木 夜空(さくらぎ よぞら)
桜の木の上で、記憶を失って倒れていた少女。瞬間移動したり、物体を浮かせたりできる不思議な力を持っているが、どういうものなのかは本人も知らない。
真面目な優等生タイプだが、高所恐怖症など、色々と弱点はある様子。
普段は冷静に行動するが、義理堅く、優しい一面もある。
星月家で暮らし始めた。

キュアデスティニー
上記の少女が変身するプリキュア。紫キュア。星がモチーフ。こちらは攻撃すると小さな金色の星が舞う。左目が金色。
肉弾戦が主ではあるが、バリアを張ったり、瞬間移動したりするなど、柔軟な戦闘を得意とする。『メタモリー・チップ』の種類によっては特殊な武器が出てくる。
ディライトは本能的な戦いをするが、こちらは理詰めで戦うタイプ。
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