Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー 作:アナザーコゴエンベエ
「わん! わん! わふっ」
「うむ。番犬ご苦労、カヴァスⅡ世」
ファーストフード店の地下にある倉庫。
そこに踏み込むと同時、白い犬が駆け出してくる。
それを受け止め、撫で回し、セイバーはそう言った。
「わっ、かわいい……!」
イリヤが漏らした声にちらりと視線を向け、セイバーが犬をそちらに放す。
人懐こい様子の犬は、そのままイリヤに飛び掛かった。
犬にくっつかれて奇声を上げる少女。
それから視線を逸らし、セイバーは奥へと踏み込んでいく。
『バーガーショップの地下……倉庫? ここを根城にしているのかい?』
「ああ。丁度いいだろう」
ロマニからの問いにそう返し、セイバーは冷凍庫を示す。
彼女から視線を向けられて、立香とツクヨミが顔を見合わせた。
揃って、真っ先に近くの椅子に座ってテーブルに突っ伏したソウゴを見る。
先に使用したディケイドアーマードライブフォーム。
その力で高速戦闘を長時間行った反動はけして軽くなかったらしい。
「まあ、そうね。食事しないわけにもいかないし」
「上の店の方じゃないと調理できない、のかな?」
「電気……は大丈夫。ガスと水道ってちゃんと来てるのかしら」
冷凍庫を開けてみて、動いている事を確認するツクヨミ。
彼女が適当に引っ張り出す冷凍された商品を受け取り、立香が天井を見上げる。
食事するなら地上の店舗で直接の方がいいかもしれない、と。
「でしたら、全員で上に上がった方がいいかと。
アサシンが忍んでこないとも限りませんので」
「うん。なら、先に最低限掃除してこよう」
そう言って、犬と戯れるイリヤとクロエをちらりと見つつ。
美遊はサファイアと共に踵を返す。
それにハッとして、イリヤがカヴァスⅡ世から手を離した。
どうしたの? とばかりに見上げてくる白い犬から視線を引き剥がし、彼女も立ち上がる。
代わりに両手で犬の毛をわしゃわしゃとかき回すクロエ。
そっちに後ろ髪を引かれつつ、イリヤは美遊を追いかけた。
「ちょ、ちょっと待って! わたしも手伝うから!」
「イリヤは休んでいていい。さっきの戦いでイリヤとソウゴさんは明らかに無理をしてたから」
全力でぐったりしているソウゴを見つつ、そういう美遊。
それは、疲れただろうから休ませてあげよう―――なんて親切心ではない。
もちろんそういう気持ちがないわけではないが。
ごく単純な問題だ。
それはただ一騎の敵、アナザーカブトによって全滅する可能性だ。
なので、二人の体力回復は現状において何より優先される。
それは分かっているけれど、と。イリヤが言葉を詰まらせた。
「いや……それはそうなんだけど。終わってみればそれほどでもないというか……」
「サーヴァント化してる恩恵ですね。生身だったらもっと酷いことになってましたよ?
ファースト・レディの時もそうでしたけど」
生身の人間とサーヴァントでは根本的な肉体の強度に差がある。
そう言って羽飾りをぱたぱたと動かすルビー。
確かに何度限界を超えても動けていた感じはする。
と、納得の表情を浮かべるイリヤ。
「あ、あのロッカーが掃除道具かな。道具も上に運んじゃおうか」
〈スイカアームズ! コダマ!〉
分かり易く『掃除道具』、と書いてあるロッカーを視界の端に見つけて。
懐から取り出したコダマを転がして、立香が指をさす。
彼女の指示に従って、変形したコダマスイカが軽やかに跳躍した。
扉を開き、ぱぱっとあっという間に道具を纏め、運び出す小さな体。
「とにかく、大丈夫だから!」
「イリヤがそういうならいいけど……」
「じゃあ頑張ってねー」
カヴァスⅡ世を撫でながら、ひらひらと手を振るクロ。
そんな彼女を胡乱な目で見つつ、しかし一応こちらで待つソウゴの護衛は必要だ。
なので少しだけ転がる犬を口惜しげに眺めつつ、少女たちはコダマと共に上に向かっていった。
「おい、そこの暴走女。お前も手伝ってきたらどうだ?」
「は? 何よいきなり、この爆走女。アンタこそ手伝ってきたら?」
「はいはい、喧嘩してないで二人とも手伝ってくれればいいから。
オルタはこれ。セイバーはこれね」
睨み合いになろうとした両者の間に入り、ツクヨミの手が双方に伸ばされる。
オルタとセイバーに押し付けられる箒。
二人揃って強引に受け取らされて、彼女たちは微妙な表情を受かべさせられた。
そうした三人を見つつ、立香がプロフェッサーに視線を向ける。
「ふむ、もちろん私も手伝うがネ。なるべく腰に負担がかからない業務がいいな」
「そう? じゃあオルタとセイバーが喧嘩しないように見ててあげてね」
「腰に負担がかかってもいいから別の仕事ない?」
掴まされた箒に溜め息をひとつ。
セイバーがそれを肩に乗せて、呆れた風に目を細める。
「それにしてもその男、野放しにしていていいのか?
貴様らが知っているかどうか分からんが、それは黒幕の片割れだろうに」
告げられた言葉に対し、気の抜けた間が開く。
カルデアの者たちもプロフェッサー本人も。
浮かべているのはどうしたものか、と言わんばかりの奇妙な表情。
「セイバー、プロフェッサーのこと知ってるの?」
冷凍されたハンバーガーを纏めながら、ツクヨミが視線をそちらに向ける。
ひとしきり犬を撫で終えたクロも立ち上がり、警戒を示す。
そうした反応を当然だろうと受け止めて、肩を竦めるプロフェッサー。
『黒幕の片割れ、というのは……』
「幻影魔人同盟の首魁はこの男、少なくともこの男と同じ外見のサーヴァントということだ。私は一度交戦したが、能力もそう変わらないだろう。性能としてはあちらの方が強大だったがな」
マシュの問いかけにそう答え、軽い苛立ちを見せて箒を揺らすセイバー。
そんな彼女の反応に口端を吊り上げ、オルタが真っ先に喋りだす。
「はぁ? 一度黒幕とやり合ってるのに逃がしたわけ? は、役に立たない女」
「ほう? アサシンに追い詰められ、バーサーカー相手に死にかけてた割りに、口はでかいな」
実は敵のボスだったらしいプロフェッサーをそっちのけ。
ジャンヌ・オルタとセイバーが視線をぶつけ合う。
火花を散らしているそこに、腰が引けながらも口を挟むDr.ロマニ。
『あー、その、うん。情報の共有を進めてしまってはどうだろう。こちらとしてもこの街で活動していたあなたや、ジャンヌ・オルタの持っている情報は知っておきたい』
「ならばいちいち茶々を入れるこの黒いのをどうにかしておけ」
「アンタも黒いのでしょうが!」
鼻を鳴らすセイバーに、そのアクションに対して余計にがなるオルタ。
その二人を放置しつつ、突っ伏していたソウゴが少し顔を上げる。
「こんなにあっさりプロフェッサーが敵でもあるって情報が出てくるってことはさ。
敵もバレることが前提でプロフェッサーを野放しにしてるんだよね?」
「そうでなくても怪しいのに、絶対に敵だって思える情報が追加で出てきたもんね。
あ、ツクヨミ。こっちにポテトがある」
冷凍されたポテトの袋を引っ張り出す立香。
それを受け取って積み上げながら、ツクヨミが眉根を寄せる。
「じゃあそれも……って、どれだけ食べる気よ。
ここにいるプロフェッサーがどうこうじゃなくて、黒幕の方のプロフェッサーが何を考えてこうしているかが問題ってこと?」
ツクヨミの手が近くにあった段ボールを引っ張りだす。
その中に詰め込まれていく、山のように積み上がった食料。
「安心しろ。ここにある分全てを揚げても揚げすぎということはない。
アサシン相手に随分と魔力を使わされたからな、量が欲しかったところだ」
「つまりこの山盛りポテト女が黒幕と接触してるのは、情報を流すために意図して生還させられたってわけ? へー、なに、こいつがいま偉そうに口にした情報は、利用するためにわざと持たされたお土産ってこと? へー! へー!」
「勝敗はさておき、奴が小競り合い以上をする気がなかったのは明白だ。否定はできんな。
対してお前が拾ってきた情報は信じるに値する。何せアサシンとバーサーカーに黒焦げポテトにされかけていたんだ。口封じすればどれだけ情報を漏らしてもいい、と相手が考えていた可能性を考慮すれば、信憑性は天地の差だ。よくやったぞ、黒焦げ女」
「誰が黒焦げ女よ、ぶっ飛ばすわよ!?」
オルタが突き出す腕。その掌に灯る黒い炎。
その炎を見つめて、分かり易く舌打ちするセイバー。
「馬鹿が。冷凍食品を引っ張り出してる最中に火を出すな。まったく、ただの黒焦げ女ならまだマシなものを。表面は黒焦げのくせに中身は生焼けなのが始末に悪い。無論、中身が凍ったままシャーベットなのもごめんだ。揚げる油の温度には気をつけろ」
「自動で何か良い感じにしてくれる専用の機械があるんじゃないの?」
「それはあるでしょうけど……でも使い方分かる?」
山積みになった袋を見て呟くソウゴ。
彼の言葉にツクヨミが首を捻り、立香は通信先に声を投げた。
「マシュ、検索したら出てきたりしないかな?」
『はい。ではファーストフード店で使用されている調理機器のマニュアルを取り寄せます。
すみませんが、少しだけお待ちください』
「聞きなさいよ! アンタも何かないの!?」
もう食い物の話しかする気のない連中を睨み、オルタが叫ぶ。
ついでに怒鳴られるのは黒幕カミングアウトされたプロフェッサー。
彼は少し悩む様子を見せて、何故かパチン、とひとつウインクを飛ばして見せた。
「私の正体よりポテトの方が注目を集めているなら、このままなあなあにしてしまうのも一つの手カナ、って」
「んなわけないでしょクソジジイ!」
ばちーん、と箒が床を叩く。
それに驚いてびくりと跳び上がるカヴァスⅡ世。
そんな光景を見て、セイバーが馬鹿を見る目でオルタに視線を送る。
「おい、騒ぐのはいいがカヴァスⅡ世を驚かさない程度にしておけ」
「だったら人を騒がせるような煽り入れてくるんじゃないわよ!!」
「まったく……」
呆れるような、憐れむような、そんな視線を浴びて更にオルタがいきり立つ。
物理的に熱を帯び始めた彼女を見て、揃ってバーガーとポテトを彼女から離す。
「―――で、結局プロフェッサーはどういう立ち位置なわけ?」
「うーん……―――少し長くなりそうだ、食事しながらにしようか?」
「じゃあそれで。クロ、荷物運ぶの手伝って」
「はーい」
そういうことになって、皆で荷物を運びにかかる。
セイバーもまた大量の食糧を抱え、そうしてちらりと部屋の隅にある空間を見た。
そっちに置かれたドッグフードを見つつ、彼女は疲労しつつも立つソウゴへ声を向ける。
「トキワソウゴ、だったか。
お前はそっちにあるカヴァスⅡ世のドッグフードを持ってこい」
「分かった……そういえばさ、もう分かってるけどセイバーはアーサー王でいいんだよね?」
「何をいまさら。セイバー、アルトリア・ペンドラゴン。
反転こそしているが、アーサー王とは私の事だ。好きなように呼べばいい」
その二人の会話を拾い、即座に絡みにかかるオルタ。
「好きに呼ばせてくれるって!?
だったらアンタは―――そう、ポテトよ! ポテトリア・ペンドラゴン!
これからそう呼んでやるわ!!」
「……衆目の前で自分は他人にそんな馬鹿みたいなあだ名をつけて喜ぶ変人だ、というアピールがしたいなら好きにすればいい。誰かの名を呼ぶとき試されているのは、常に貴様自身の品性だぞ」
「――――こいつ敵にならない!? 燃やしていいエネミーにならないの、ねえ!?」
本気の憐れみの視線を受けて、彼女が更にもう一段階ヒートアップ。
そろそろ武装しそうなオルタ。
「どうどう」
そんな彼女を見て、ツクヨミが宥めるように背中を叩く。
怒り心頭なオルタを前にして、ソウゴが困ったように腕を組む。
「所長がいればなぁ……」
『いやぁ、所長に抑えられるかなぁ……』
「直接会ったことないわたしにも分かるわ。
今の所長さんが求められた理由って、ストッパーじゃなくてターゲットの分散目的でしょ」
あー、と。ロマニが何とも言えない表情を浮かべる。
クロエの言葉を肯定も否定もせず、曖昧に笑ってソウゴも動き出す。
彼が山のようなドッグフードを抱えると、カヴァスⅡ世はソウゴの足元に擦り寄ってきた。
「ったく。ゴミどうすんの? 外にほっぽって全部燃やす?」
それなりに荒れていた店舗。
その中身を強引に薙ぎ払うように掃き清め、端に押し退けてみせたオルタ。
箒から離した手の指先に黒い炎が灯り、小さく燃え上がった。
そうしている彼女の様子をちらりと見て、アルトリアが呟く。
「……間の抜けた村娘と思って一から説明してやろう。
私―――のみならず、私たちはお前とバーサーカーの戦闘で発生した炎と煙で位置を把握した、とな。わざわざここにいる、と周囲にアピールして敵を集めたいなら好きにしたらどうだ?」
「うっさいわね! 冗談に決まってるでしょ!?」
「そんなバカな発言を本気でしない程度の知性はあったか。何よりだ」
灰の山のような長髪を振り乱し、オルタがまたもいきりたつ。
厨房の中で作業を手伝っていた立香がプロフェッサーに視線を向けた。
「プロフェッサー、オルタ係の仕事だよ?」
「アレに口を挟むのはちょっと無理カナー……」
モップがけをしていた老爺はさっさと視線を逸らす。
端をイリヤとクロが持ち、下からコダマスイカが押し上げて、運ばれるテーブル。
そうして整えられた場に運ばれてくるのは、大量のバーガーとポテトの積まれたトレイ。
美遊がせっせと調理し、立香が積み上げて、ツクヨミが運んでくる。
瞬く間にできあがるバーガーとポテトの山。
そんな光景に割と呆然としつつ、イリヤは目前に積まれた食料を眺めた。
山のように積まれたハンバーガー。
山のように積まれたフライドポテト。
盛り上がればいいのか、逆に気圧されればいいのか。
反応に困りつつも、少女は声を上げる。
「山積みのジャンクフード……なんか、妙なハイトクカンがあるような。
これ、お兄ちゃんが知ったら何ていうかなぁ」
まるで大食い番組みたいというか。
自分の目線までの高さを有するポテトタワーを見て、少し引くイリヤ。
作業を終えた美遊が、エプロンを外しつつ戻ってくる。
「……士郎さんなら、こういうのもそれはそれで楽しみそうな」
「お兄ちゃんならジャンクフードのジャンク感にも意義を見出すかもね」
いつの間にやらさっさと手を洗ってきたクロ。
彼女はひょいとそこからポテトを摘まみ、口にする。
塩加減は丁度いい。流石の美遊である、と。
「確かにこのイケナイ事してる感は普通の料理じゃ得られないカモ……」
彼女たちの兄は料理におけるわびさび、情緒を知る男。
きっとジャンクフードにはジャンクフードの楽しみがあると言うだろう、と。
そんな風に考えて、三人の少女が深々と頷いた。
「ほう、ジャンクフードにも一家言ある男か。雑さを無為に否定するのではなく、雑なものは雑なものとして魅力を見出す、というのはいいことだ。
自分の雑さを仕事の速さと誤認している騎士にも見習わせたいものだ」
「ガウェイン……」
箒を壁に立てかけて戻ってきたセイバーの言葉。その言葉で思い起こされるのは、ポテトをマッシュする事にかけては他の追随を許さない、円卓の騎士に名を連ねる一人の男。
そんなツクヨミの反応を見て、セイバーは軽く片眉を上げた。
「まあ料理を作ってる人が楽しいに越したことはないんじゃない?」
テーブルでまだまだぐったりとしながらそう言うソウゴ。
ぼんやりと思い起こす料理が趣味の一つの叔父。
一年以上会っていない相手がどうしているか、ふと考え込んで。
「そういや今カルデアって料理できる奴いるの?
わざわざマシュがそこにいるってことは、ダ・ヴィンチもいないんでしょ?」
椅子を引いて乱暴に座りつつ、バーガーを取るオルタ。
『前は職員の業務に余裕がなかっただけで、今は人理焼却の時ほど切羽詰まってはいないよ。
普通にそちらで仕事できる人間だっているさ』
「ふーん、アンタも出来んの?」
『ボクはほら、そんな事をしてる余裕もなく今まで使命に燃えていたから……』
問いかけられたロマニは速攻で目を逸らす。
別にできないわけではないが、できると口にできるほどじゃない。
そんな独り身の男らしい態度を見せて、彼は誤魔化すように笑った。
「もっと悪びれずに言ってみろ。マーリンにそっくりだと私の名で保証してやろう」
『わぁい、キングメイカー・マーリンの最高傑作からお墨付きのろくでなし扱いだ!
……マギ☆マリに誰でも出来る簡単お料理紹介コーナーとかないかなぁ……』
そう言って、別画面でどうやらネットアイドルのホームページを表示し始めたらしいロマニ。
そんな彼の様子を見て、隣で何とも言えない表情を見せるマシュ。
彼女の頭の上で、フォウが小さく首を傾げみせた。
「料理は人に任せればよくない? 王様なら」
『ボクの国は王様と患者しかいないから……』
「ダ・ヴィンチさんに習えばいいのに」
『ダ・ヴィンチちゃんは基本的に簡単な料理をしないんだよ。天才らしく偏屈だから。
例えばボクじゃなくてマシュが頼んだりすれば、あっさり教えてくれるだろうけどさ』
『はい。前回日本に行った時からですが、時々教えて貰っています。それでもまだまだ雑と言える出来のものしか作れませんが―――』
ちらちらと美遊を意識している様子を見せるマシュ。
イリヤとクロの多分そこ基準にしない方がいいと思う、という表情。
そんな光景を横目にツクヨミが座ろうとして。
―――目の前に積み上げたものを冷静に見返して、首を傾げた。
「……代金になるもの、置いていくべきかしら」
「素直にこの事件を解決することを対価としておきたまえ。
食い逃げのようで心苦しいかもしれないがネ」
プロフェッサーも席につき、食事に手を付ける。
食事が目的と言うよりは、まるで積極的に共犯者になりに行くように。
彼の様子に眉を顰めつつ、セイバーはいつの間にやら手にしていた餌皿を置く。
皿に盛られるドッグフードに反応し、カヴァスⅡ世が駆けつけてくる。
すぐに食い付き始めた白い犬。
それを見てから自分の椅子に腰かけた彼女が、プロフェッサーを見た。
「心に引っかかるというならそれこそ、その男に唆されたことにしておけ。
最終的にそいつを監獄に叩き込んで解決が一番スムーズだ」
「もうちょっと手心をだネ……」
「事実として貴様のせいだからな。あらゆる意味で」
苦い顔のプロフェッサーにそう言って、肩を竦めるセイバー。
彼は彼女の態度に目を細め、口許に手を当てる。
そんな風に何となく各々食事に手を付け始めて。
まだ体が重そうなソウゴに、立香が目を向けた。
「大丈夫?」
「なんとかね。ただ、アナザーカブトは倒し切れなかったけど」
最後の交錯。あそこで詰め切れたはずだ、と。
少々の後悔を滲ませながら、ソウゴが深々と息を吐く。
そうしていても仕方ないとは分かっている。
ので、もちろん食事には手を伸ばす。
「そう落ち込むものじゃないよ、我が魔王。
あと一歩だったじゃないか」
そうした声と共に、ソウゴと同時にハンバーガーを一つ取り上げる腕。
彼はさっさとそれを頬張りながら、ソウゴの隣に着席した。
そんな風に現れた相手に溜め息ひとつ。
「そりゃ黒ウォズはさ。
俺がカブトの力を手に入れる前に、アナザーカブトを倒されたくないだろうけど」
「おや、私はそんな心配はしていないんだがね。
ところで、ポテト用のケチャップはないのかな?」
王からの尖った言葉を聞き流し、黒ウォズがポテトにも手を向ける。
言われて気付いた立香が軽く手を打つ。
「あ、下の冷蔵庫にはいっぱい入ってたよ。持ってきてなかった」
彼女の言葉に鷹揚に頷いて、黒ウォズはツクヨミに顔を向けた。
「ではツクヨミくん」
「自分で取ってきなさい」
「ついでに俺のも取ってきてよ」
「面倒だ、纏めて持ってこい」
ツクヨミに軽く手を払われ、ソウゴに指示され、セイバーに追加される。
何故か流れるようにケチャップ回収要員にされていた黒ウォズ。
彼がいかにも難しそうな顔で、着席して食事している面々を見渡した。
「我が魔王以外の王の命令を聞く理由はないんだがね」
「俺の命令も入ってるんだから別にいいじゃん?」
「そう言われてしまえばそうなんだが……」
何とも納得しがたい、という表情の黒ウォズ。
そんな彼の動きがとろい、という事でポテトをつまんだオルタが顔を動かす。
視線の先にプロフェッサーを捉え、彼女はポテトで彼を指した。
「持ってくるなら早くしなさいよ。
ほら、あんま食べる気ないならそっちのアンタでもいいわよ」
「私かネ? うーん……この歳になると、自分で食べるより若い子の食べっぷりを見てる方が気分がいいのは確かなんだがネ。
そうしてあげたいのは山々だが、それはそれとして。残念なことに一度こうして座ってしまうと、腰の負担の関係上中々動けなくなってしまって……」
「ジジ臭いこと言いますねぇ」
イリヤの髪に止まったルビーが発する、どことなく遠い声。
先にカルデアでしていた会話からして、老いに何か思うところがあるのだろうか。
そんな事を考えつつも、イリヤは大人しく食べ進める。
普段なら躊躇する量の料理でも、サーヴァントの体ならあんまり気にしなくてよい。
それを少しだけ楽しみつつ、新たなバーガーへと手を伸ばした。
溜め息混じりに黒ウォズの手がストールを弄び始める。
そんな動作を見咎めたツクヨミがすぐに反応し、黒ウォズの手を抑えつけた。
「それ使うとき強い風が起きるから食事中に使わないで。
階段ちょっと降りるだけなんだからワープとかじゃなくて歩きなさいよ」
「だって、黒ウォズ」
「……今度からはケチャップが食卓に並んでから出てくる事にするよ」
「むしろ最初から持ってきてくれればよかったじゃん?」
肩を竦めて立ち上がり、地下への階段へと向かっていく黒ウォズ。
それを見送りつつ、セイバーがバーガーを口に送り込む。
「ではケチャップを待つ間に話をつけるとするか。
もう一度言うがその男はこの特異点の黒幕だ。少なくとも、同一人物である事に違いない」
「私の正体はケチャップが来るまでの待ち時間程度の価値……?」
流れるように、さして声を荒げるでもなく吐き出される言葉。
ハンバーガーを食べながらの告白に、一瞬だけ場が静まった。
空気がひりつく、というほどではなく。
僅かに硬くなった空気の中で、オルタが再度ポテトを振り回した。
「で、アンタからは何かないの?
この黒いのが言う事にゃ、アンタは敵のボスだって話だけど?」
「うーん……まあ、正直納得というか。やっぱりかァ、くらいなものだネ」
「こちらとしても納得しかないけれど」
「あとはどう処分するかでしょうか」
オルタからの問いに、プロフェッサーはお手上げとばかりに両手を挙げる。
細めた目でそんな彼を見据える美遊と、同調するサファイア。
彼女の態度にイリヤが少し口元を引き攣らせた。
「それで、プロフェッサーからは何か話すつもりがあるの?」
「無いと言ったら訊かないのかネ?」
立香からの質問に質問で返すプロフェッサー。
問い返された彼女はポテトをくわえたまま、小さく首を捻る。
「……プロフェッサーが『自分はそうするべきだと思ってる』って言ってくれるなら」
隠した方がいい、と宣言してくれるならこれ以上は訊かない、と。
自分たちを思って隠匿する気ならそれを信じる、と。
そう言われた老爺は片眉を小さく上げ、すぐに自分の言葉を笑い飛ばした。
「…………ははは、まァ別に隠すつもりもないのだがネ。
私は先程の戦場、アサシンからの情報で自分の真名にも辿り着いた。多分合ってる、はず」
「え、そうなんですか?」
『ええと、それは一体……?』
イリヤとマシュの驚いたような視線を受けて、自慢げに胸を張るプロフェッサー。
が、そうして数秒後には微妙な顔をして縮こまった。
「なによ、急に小さくなって。まあそもそも自分の名前を推理できた、って話が自慢として受け取りづらいから別にいいんだけど」
「辿り着いた自分の正体が何となく自慢しづらいんじゃない?
最低最悪な感じな人だったんでしょ?」
珍妙な様子を見せるプロフェッサーに呆れるクロエ。
そんな彼女に対し、ポテトをもりもり食べつつソウゴがそう言って。
「いやァ、流石に最低最悪ってほどじゃないと言いたい……が。
正直なところかなり最低最悪だ。自慢げに話せる名前じゃない感じだネェ……」
「別に私たちの中の誰も、プロフェッサーのこと清廉潔白な英雄だなんて思ってなかったし。どんな名前が出てきても『そうだったんだ』で終わりじゃない? それって今更気にするところ?」
正直にそう言ったツクヨミに対し、何とも言えない顔をするプロフェッサー。
そんな彼の様子を横目で見つつ、手は一切止めないセイバー。
「それで? 話す気があるのかないのか、はっきりしろ」
「―――……そうだネ。せっかくだ、相手の目的と一緒にそれを解き明かしていこうじゃないか」
セイバーからの詰問に数秒迷い、プロフェッサーは小さく笑う。
彼が示したその態度に首を傾げる立香。
「目的って、黒幕の方のプロフェッサーの?」
「そう。もう一人の私はあの改造都庁に籠って何をしようとしているか、分かるかネ?」
先に整理した情報の中で、どう考えても浮いていたプロフェッサー。
聖杯に呼ばれたサーヴァント、それに対するカウンター・サーヴァント。
そのどちらでもないサーヴァントが二人いた。
それが黒幕のアーチャーと、プロフェッサー。
この二人が同一のサーヴァントだと言うのなら、
「黒幕のアーチャーはそもそもこの特異点を作り、聖杯戦争を始めた張本人、のはず」
「それと同じプロフェッサーはどっから出てきたんだろ。分身?」
「増える能力を持ってるとか?」
『相手には聖杯があるんだ。あと、幻霊と英霊の融合まである。増えられるかどうかより、増えることで何をしたいかを考えた方がいいかもね』
黒幕のアーチャーが聖杯を手にし、聖杯戦争を開始した。
つまり聖杯が手元にある以上、彼は真っ当ではない方法で、何らかの目的を持ってプロフェッサーを発生させた可能性がある。
方法ではなくその理由を考えた方がいい、と言われて揃って首を傾げる面々。
「……そういや改造都庁のこと、アサシンが“バレル”とか呼んでたわね」
「バレル、銃身? あの塔になってる建物が?」
ぽつりとオルタがこぼした言葉に、ツクヨミが顔を向ける。
彼女は軽く頷きながら、ポテトを口に放り込んだ。
幾度かそこから発射された剣弾を思い起こし、クロが眉を顰めた。
「確かに狙撃手のアーチャーの方は銃使いだけど……」
「いや、恐らく“私”というアーチャーのための銃身だヨ、アレは。
この特異点に敷かれたギミックは、全て“私”の目的のためのものだろう」
クロエの言葉に首を横に振って、プロフェッサーはそう言って。
そんな彼の言葉がバレルの事だけを語っているわけではなさそう、と。
イリヤは今まで見てきたこの世界の仕掛けをもう一つ思い出す。
「ギミック……って、そのバレルだけじゃなくて、物語が強い意味を持っていることも?」
「……この世界では物語の流れが事象を補強する。そして何かを撃つための銃身が建造されている。普通に考えれば、物語の通りに何かを撃つ……のが目的になるはず」
「では。何を、どこへ、あるいは誰へ。バレルの照準と弾丸を推測すべきでしょうか。
―――あれほどの塔を銃身とするなら、弾丸も相応の規模と考えるのが自然ですが……」
悩み込む美遊とサファイア。
彼女たちが考え込んで黙りこくってしまった後、立香が壁に立てかけられた棺桶に目を向ける。
「つまり、プロフェッサーの正体はそんなでっかい砲弾を撃てるアーチャー?」
「その男の戦闘力。アーチャーとしての武器は、恐らく混ざった幻霊のものだろう。
本来はアーチャーとしての性質さえ持ってない。それはそいつの戦い方を見ていれば明白だ」
一切減速せずにハンバーガーを崩しながら、そう言って顎をしゃくるセイバー。
そうして示されたプロフェッサーは、同意するように頷いた。
「そうだネ。本来の私単体で考えるならば、適性はキャスター辺りか。
あの棺桶は私と幻霊の性質が混ざって宝具化したものだろう。結構な霊基改造ぶりだヨ」
「銃……プロフェッサーの棺桶は基本的に幻霊のもの?
んー。つまり、それもバレルを使うために何かを補強する手段、だったのかな?」
「恐らくはな」
ケチャップはまだか、という視線を階段に向けつつ。
彼女の手はやはり止まらず、ファーストフードの山を軽快に崩していく。
そこまでではないにしろ、相応に食べつつソウゴが今までの戦闘を思い返す。
プロフェッサーの射撃。放たれるのは銃弾、ミサイル、レーザー。
そうして吐き出す火力は全て、相手を追尾する性能を有していた。
「……プロフェッサーと混ざってるのは自動追尾してくれる銃弾、を撃てる幻霊?」
「幻霊ねぇ……ファントムの連れてたクリスティーヌ。アサシンがどうこう言ってたドッペルゲンガー。ああ、そういやアサシンは名乗ってもいたわね。
えーっと、天罡星? 三十……いくつだったかしら。そこ何番目だったか、天巧星とか」
「アヴェンジャーには忘却補正とかいうスキルがあったはずだが、まるでニワトリだな」
「ああん!?」
戦闘中に交わした幾つかの会話を思い返し、オルタはバーガーを口にしつつ喋る。
そんな彼女に横目を向けて、冷淡に言い放つのはセイバー。
さっさと会話の内容を引っ張り戻さないと、と。ロマニがすぐさま口を挟んだ。
『天巧星……なら恐らく浪子燕青だろう。
水滸伝の登場人物で、梁山泊の第三十六席に名を連ねる好漢。天巧星の生まれ変わりとされていて、中国拳法の中でも彼の名を冠する燕青拳という流派の達人だ』
「そいつよそいつ、多分」
言われても分からないが、そう名乗ったからにはそうなのだろう。
そんな彼女の様子に小さく溜め息を一つ。
バーガーを一個口に放り込み、セイバーは話を続けることを促した。
「まあそいつのことはさておけ。先にそっちの黒幕を片付ける」
「……あとは首無しの騎士、デュラハン。スリーピー・ホロウの伝説。
幻霊はそういった、単体で英霊として成立するには弱い伝承からくるもの」
騎士王の言葉に頷いて、美遊がもう一騎確認されている幻霊を口にする。
ライダーに騎乗している首無し騎士。あれもまた幻霊であるはずだ。
「うーん。共通点とかある、のかな?」
「……強いて言うなら、デュラハンもドッペルゲンガーも、そしてある意味クリスティーヌも。相手の死を告げる者、って事ね。前者二人は相手の前に顔を出すこと自体が死の宣告。クリスティーヌはオペラ座の怪人に死という結末を与えたもの。ま、意図してかどうかは知らないけど」
オルタの語った言葉に、へえ、という声。
その声を上げたソウゴに対し、オルタの刺すような視線が飛ぶ。
それを気にもせず、彼は壁に立てかけてある棺桶の方へと視線を向けた。
「だとしたら、プロフェッサーとくっついてる幻霊もそういう伝承?」
「銃が絶対当たる、人が死ぬことを宣告する伝承……?
ううん……ねえ、ルビーはそういうの知ってる?」
「ふーむ……―――“
「であ、ふらい……?」
ルビーにそう返されたイリヤが、ポテトフライを見る。
そんな半身の反応にジト目を向け、クロエが頬杖をつく。
そうしながら伸ばした手が、大皿から纏めてポテトを七本掴み取った。
「……
「死の宣告、とは違いますが、行動以前に前もって死を確定させるという意味では近いかと。あれは7発目の弾丸で奪った命を悪魔の生贄として捧げる、という契約です。6発の弾丸を必中させるという対価を既に受け取っている以上、7発目における標的の死、魂の支払いは絶対です。
まあ、7発目の標的を決めるのは悪魔ザミエルですが」
「しかし姉さん。幻霊であることを差し置いても、魔弾の射手で目的が果たせるのでしょうか。
あの物語は奸計を弄した者が悪魔に囚われ地獄に落ち、最終的に大団円で決着するのでは?」
「今の話の流れでハッピーエンドで終わるの?」
ルビーに問うサファイアの言葉に反応し、ツクヨミが首を傾げる。
概要を聞いただけでは不穏さしかなかったというのに。
どうやらハッピーエンドで終わる物語だったらしい。
「ええ。ですので“物語”の影響が強い今のここの世界観では、むしろ最終的には自分を撃ち抜きかねないです。状況と能力はあまり噛み合ってはいないですね」
「そっかぁ」
「―――いや、だからいいのだヨ」
「え?」
「……私はこの世界において、敗北が決定づけられている。
もう一人の私は一切躊躇なく、その道に舵を切っている」
そう言って、プロフェッサーはゆっくりと立ち上がった。
緊張に強張るセイバーとオルタの雰囲気。が、彼はそれを気にする様子はない。
どちらにせよセイバーにやる気があれば、彼は棺桶を掴む暇もなく両断される。
気にしてもしなくても変わらない。
「幻霊、魔弾の射手。私に融合している者の正体は、それで恐らく正解だ。
この世界観を築くという方針と噛み合っていないように見えるが、それこそが最大の仕込み」
「……一見噛み合ってないそれが、プロフェッサーが利用できる最高の状況ってこと?」
彼はソウゴの問いかけに答えず歩き出し、少し離れた位置で足を止めた。
そうして振り返り、全員を視界に収めると不敵に微笑む。
「―――では、私が私の真名に辿り着くに至った、ピースの正体を白状しよう。
巨大な銃身には、そこに収めるべき弾丸が必要だ。
地上から天に向かって聳えるあんな巨塔だ、弾丸の正体も自然と限られる」
「……弾丸を地上から空に撃つ、じゃないとしたら。空から地上に落ちてくる?」
立香の言葉に鷹揚に頷いて、彼は天井を指差した。
その先にある天を示すかのように。
「隕石だヨ。あのバレルは、隕石を地球に撃ち込むためのギミックだ」
「隕石、って。え、あのバレルにすっぽり入るくらい大きな、ってこと……?」
「……地球に撃ち込む、ね。
日本はとんでもないことになるかもしれないけど、随分大きく出たもんだこと」
唖然とするイリヤ。対してオルタは呆れるように頬杖をついた。
バレルのサイズから言って、数百メートル規模。
そのサイズの隕石が地上に落ちたら、被害は新宿どころではないだろう。
だが、彼の口振りはまるで地球自体をどうにかすると言いたげで。
そこで小さく眉を顰めたセイバーが腕を組み、椅子の背もたれに体を預けた。
「―――それで魔弾の射手か。地球の急所を撃ち抜くための」
「それって、バレルを通して弾丸として地球の中心に隕石をワープさせる、ってこと?」
『いや、流石に幻霊である魔弾の射手ではそこまでの誘導力はないはず……』
ポテトタワーをバレルに見立てて見上げ、ソウゴが眉を顰める。
彼の言葉を流石に無理だと否定しようとするロマニ。
そんな彼の声を遮って、プロフェッサーは言葉を続けた。
「―――私はね、私の著作において一つの解を出した。
これを書いた筈だ、という感覚こそが私に私の真名を知らせてくれたのだヨ」
『著作、ですか? もしや、プロフェッサーさんは実は作家系の……?』
マシュの問いに答えず、プロフェッサーは目を瞑る。
そうして自身の書いた論文の内容を反芻するように数秒置いて。
彼は己が記したものの内容を、静かに口にし始めた。
「火星と木星の間にある
その数値を求める“式”を解き明かした論文こそが、自著『小惑星の力学』だ」
『小惑星の力学、って。それは……!?』
そのタイトルだけで思い至るには十分だ、と言わんばかりに。
マシュが目を見開いて、プロフェッサーの顔を見つめた。
「そこに記した解答を出すための式が正しいならば当然、別の数値を入れてやれば必要なエネルギーは算出できる。小惑星を地球に置き換えれば、地球を破壊して小惑星帯に変えるために必要なエネルギー量が求められるわけだネ」
『いえ、そんな。だとしたら、あなたの真名は……!』
戦慄くマシュに苦笑しつつ、プロフェッサーは口を止めない。
「何が敗北かなんて考えるまでもない。
私は目的を達成できず、宿敵に滝壺なりに突き落とされて死んでしまっておしまいだ。
この世界は最終的にそこに、私の敗北に辿り着くようにデザインされている」
何とも言えない表情で肩を竦めてみせる彼。
どこかひょうきんにおどけるような様子に、美遊がゆっくりとサファイアを握る。
彼女も彼の正体に辿り着いた様子で、張り詰めた表情を見せた。
「……さて、改めて言おう。私には敗北が決定づけられている。だが視点を変えてみよう。
私の敗北という絶対不可避の現象を武器に変える方法がある。
犯罪者として暴かれ、シャーロック・ホームズにボコボコにされる事こそ私の敗北だ」
シャーロック・ホームズ、と。その名を口にして、皆を見回す。
その名探偵の宿敵として語られるのは、ただ一人。
悪のカリスマにして、全てを裏から操る犯罪コンサルタント。
彼が警戒する美遊に視線を向けて、問いかける。
「では、それ以外のカタチで私の敗北があるとするならば?」
「…………数学者としての成果。『小惑星の力学』が、否定されてしまうこと……」
「―――その通り、優秀な生徒で何よりだネ。
数学者として出した解が、間違っていると
それは紛れもなく私という人間にとっての敗北だ」
称えるように拍手して、彼は言葉を続ける。
「目の前に紛れもない結論が用意された時。私は私の計算が間違っていたのだと、完膚なきまでに証明された、完全なる敗北を認めなければならない。
だからこそ、私は見届けることになる。私の出した『小惑星の力学』という
手にしたステッキで床を軽く叩き―――地球を示す。
これは、
彼という人間は、地球を壊して小惑星帯になるまで砕くのに必要な数式を導き出した。
実行されることはなかったが、それでも必要な数字は解き明かしていた。
それこそが彼という数学者が求めた、最終式。
だからこそ、勝敗の天秤に乗せるに足る。
「―――数学者としての私。その敗北は、私が狙った場所に、私が想定した惑星破壊規模のエネルギーを持つ隕石が直撃し、その上で地球が小惑星帯にならないという結果だ。
……分かるかね? この世界の向かう先は―――この私、
彼はこの特異点で必ず敗北する。
勝敗の天秤がどちらに傾くかは、手を離す前から決まっている。
彼の敗北を“証明”するためには、この惑星に致命的な一撃を与え、その結果を実現させなくてはならないのだとしても。
それは約束された敗北に至るまでの、確実に訪れる過程。
誰にも彼の敗北は止められない。だからこそ、この惑星の終わりも止められない。
―――それこそが、悪魔と契約した人間が、最後に放つ必殺の魔弾なのだから。
犯罪コンサルタントと言えばリッチリィイイイイッチハイカー教授が思い浮かぶマン。
カーレンジャーの話するなら七夕に投稿しなければいけなかったのでは?
七夕を迎え天の川へ向かう織姫と彦星。
疲れからか、不幸にも野性の車に激突されそうになってしまう。
愛車をかばいすべての責任を負った猿顔の一般市民に対し、
警察官だが、半ば暴力団員みたいなシグナルマンが言い渡した釈放の条件とは・・・
野性の車には気をつけよう。
2周年を越えてたらしい。