Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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怒れる獣2017

 

 

 

 こつこつと足音を鳴らし、彼は地下倉庫に辿り着く。

 そうして一人冷蔵庫の前に立った黒ウォズは、首に巻いたストールを大きく跳ね上げた。

 その直後からぼんやりとして見える世界の中で、彼は咳払いをひとつ。

 手にしていた『逢魔降臨暦』を開き、どこかを見つめた。

 

「この本によれば普通の高校生、常磐ソウゴ。

 彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた」

 

 そうしつつ、彼の手が伸びるのは冷蔵庫。

 開かれたそこに大量に入っているのは、小さい容器に詰められたケチャップ。

 それを一つ摘まみ上げて、弄びつつ。

 

「そんな覇道を魔神王ゲーティアから取り戻した彼は、いまこうして1999年の日本。

 ―――魔都、新宿へとやってきている」

 

 そう言った彼の背後に浮かぶのは、赤い姿。

 昆虫の甲殻を思わせる鋼の鎧。

 頭部から一本角を伸ばし、威風堂々と構えるそれこそが。

 

「この地で彼が継承するべきレジェンドの力は、仮面ライダーカブト。

 切っ掛けとするべき事象も既に用意されているが」

 

 自身の背後に浮かんだヴィジョン。

 仮面ライダーカブトへと視線を向けて、僅かばかり目を細める黒ウォズ。

 彼は手近な位置にあったバスケットを見つけ、そこにケチャップを放り込む。

 

「……しかしどうにも。あの男に整えられているようで座りが悪い。

 我が魔王ならば問題はないと思いますが、私も少し手を出す事にするとしましょう」

 

 そう言った黒ウォズが大量のケチャップを引きずり出す。

 それを纏めてバスケットに放り込んで持ち上げると、彼は踵を返した。

 

 階段に向かって歩き出す黒ウォズ。

 やがて彼の姿が見えなくなり―――赤い戦士の姿が、僅かにブレる。

 

 霞んだ一瞬の間その場で浮かぶ姿は、黒い戦士のもの。

 カブトと同じ姿の、しかし別の何かが。

 刹那の間だけ姿を見せて、すぐに消え去った。

 

 

 

 

 壁に寄り掛かった狙撃手が僅かに身動ぎしたのを理解して、男は視線を上げた。

 それと同時に曲芸師のような軽やかさで舞い降りるのは、一人の無頼漢。

 バレルの心臓部に降り立った彼は、肩を回しながら軽く笑ってみせた。

 

「ふぃーい、っと。帰ってきたぜ、ご主人様」

 

「お疲れ様。少々の予定外があったようだが、支払いは滞りなく行われたようで何よりだ」

 

「予定外ねえ、本当にアンタがそう思ってるかどうかは眉唾だが。

 ま、問い詰める意味もありゃしないし、大人しく頷いておきますか」

 

 そう言って壁に背を預けるアサシン―――浪子燕青。

 

 彼に苦笑を返してから、黒幕たるアーチャー。

 ジェームズ・モリアーティは狙撃手へと視線を向けた。

 

「さて、アーチャー。すまないが留守番を頼むよ。私はちょっと出てくるからね」

 

 反応は軽く顎を引くだけ。

 それを同意として受け取って、モリアーティは歩き出した。

 そんな彼に視線を向けて、燕青が首を傾げる。

 

「で、俺はもう元の仕事に戻ればいいのか?」

 

「まあ後必要なのは時間稼ぎくらいさ、この世界観が目標深度に届くまでの。

 それはライダーがいてくれれば事足りる、と言いたいところだったのだが」

 

 ―――そう言って苦笑したモリアーティ。

 直後に大気が揺れた。原因は外に到着した餓狼の咆哮。

 

 ライダーにとっては燕青も狙撃手も敵だ。

 見かけたら殺しにかかってくる程度には打ち解けていない。

 だからライダーに用があるならモリアーティ自身が足を運ぶしかない。

 

「残念なことに、彼は相応の傷を負って帰ってきた。

 時間稼ぎを担当する彼の回復のために、時間稼ぎが必要になってしまった」

 

 そして彼は、今からライダーの治療に入るという。

 治療中、当然ライダーが戦働きができるはずもなく。

 燕青がうへぇ、と表情に厭戦感情を浮かべる。

 

「そりゃあれか? それを俺にやらせたい、っていう?」

 

「ああ、そうだとも。そしてその任務が完了した暁には、君にはこの世界の支配者である私が与えられる、()()()()()()()()()()()()とも」

 

「―――――」

 

 大したこともないように、モリアーティはそこに踏み込んできた。

 そんな報酬を突き付けられ、燕青は数秒固まって。

 

「―――まだ足りないかね?」

 

 モリアーティの探るような視線を受けて、再起動した。

 

「……いや、もういいんじゃねえかな? いいさ、受けるとも。

 代わりに教えてくれよ、アンタの計画だと最後はここはどうなるんだ?」

 

 ドッペルゲンガーがからりと笑う。

 僅かに眉を動かすだけで、それに笑みを返すモリアーティ。

 

「私の計画上、地球が木端微塵とはいかないだろう。

 私が最期を見届けなければならない都合上、結果は間違いなく()()()()

 派手な最後にはならない。とはいえ、ここが生命の住めない死の星になるのは間違いないが」

 

 彼の計算が求めるのは、地球を破壊して小惑星帯にするだけのエネルギー。

 それ以上の結果でも、それ以下の結果でも、計算違いという敗北が彼に訪れる。

 

 だからどっちか。

 地球が欠片ひとつ残さず消し飛ぶか。地球がある程度は原型を保ったままか。

 大別するとこの二択になるのだが、あとは()()()の問題だ。

 

 地球ごと吹っ飛んだら、敗北を見届けずに死んでしまう。

 それよりは、思ったよりエネルギーが足りなくて地球が壊れなかった、という事実を見届ける羽目になる後者に誘導される可能性が非常に高い。

 

 もちろん、地球の核に隕石を叩きこむという事象は変わらない。

 例え砕けなかったとしても、惑星として死亡することには変わりない。

 違いとなるのは死体の損壊状態だけだ。

 地球が死ぬ以上、当然のことながら地球上の生物は死滅するだろう。

 

「……つまり、命を懸けた仕事の果て。

 アンタが約束した栄華が俺に支払われることはない、と?」

 

 薄く張り付けた影の仮面。

 それで表情を取り繕いながら、燕青が放つ言葉。

 彼の問いかけに対し、当たり前のことだとばかりにモリアーティは笑って返す。

 

「もちろん。君は絶対に手に入らない栄華を報酬に、戦いに向かうことになる。

 逃げたいならば止めはしない。そういう人間だと知って、私は君を呼んだのだから」

 

「――――ああ、そう」

 

 彼は薄く笑ったまま、ゆっくりと天井を見上げた。

 抜けた天蓋。弾丸を装填するために解放されているバレルのチャンバー。

 数秒間そうしていた彼が顔を落とし、再びモリアーティと視線を合わせる。

 

「……受けるさ。今なら受けられる。どこからどこまでが自分かも分からないようにしてくれた、ドッペルゲンガーのおかげさぁ。ただの“浪子燕青”なら逃げだすのが道理だろうが、魔都新宿に呼ばれた混ざりもののアサシンなら―――……ああ、馬鹿みたいな話で具合がいい。ドッペルゲンガー様様だ。主人を見捨てた従者はようやく、ここで同じように死ぬわけだ」

 

 燕青だったものがからからと笑う。

 まったくもって馬鹿馬鹿しいからこそ、最高だと笑う。

 わざとらしくほっとした様子を見せて、モリアーティもまた笑みを返した。

 

「それは助かる。手数でカルデアに劣るのは言うまでもないからね。

 ……しかしもしよければ、参考までに何故そうするのか聞いてもいいかね?」

 

「どうしてか、ねえ……理由があることでもないんだがなぁ。

 ま、従者なんて元より主人の(ドッペルゲンガー)みたいなもんだからかね?

 映すべきものから離れた影は、何にもなれず消えゆくのみ。

 死ぬことさえなく生き延びた俺には、終わりさえ訪れなかった」

 

 ゆらりと燕青の体が揺れる。

 バレルの正門前にはライダーが来ているのだ。

 流石にいま襲ってはこないだろうが、鉢合わせないことに越したことはない。

 彼のそれはバレルを駆け上がり、上から抜けていくための予備動作。

 

「―――ああ、なんか真面目に考えて馬鹿みたいだ。ひでえ話さ。

 俺も、バーサーカーも、ライダーも、そっちのアーチャーも。

 終わり際を見失って、本性では終わりたがってる莫迦ばっかなんだろうさ」

 

 巻き込んでくれるな、という狙撃手からの視線。

 それを鼻で笑って、燕青が腰を大きく落とす。

 

「終われるならそれに越したことはない。

 だってのに、自分の終わりと見越してた筈の場所を見失っちまったんだよなァ。

 なあ、憶えてるか? アンタが最初、どこで終わろうとしていたか」

 

 壁に寄り掛かっている狙撃手が僅かに肩を竦め、溜め息をひとつ。

 

 バーサーカーは終わらせてくれる愛を踏み躙った。

 ライダーは終わるために帰る場所を喪った。

 アーチャーは終わりを捨てて終わらせる側についた。

 

 アサシンは。

 裏切られて終わる主人についていくこともなく。

 主人が裏切られる前にせめて自分で終わらせることもなく。

 ただ、運命から逃れて消え去った。

 

 そんな自分を笑い飛ばし。そんな連中を笑い飛ばし。

 燕青は足に力を籠める。

 

「―――ハハ。ま、そうだよな。そうなってなきゃこんなとこにいるわけない。

 せいぜい巧く使えよプロフェッサー。どこに狙いをつければいいかさえ定まらず、外れちまって、最後にどこに当たってたかさえ誰にも分からねぇ。そんな出来損ないの鉄砲玉(おれたち)を」

 

 床を蹴り、爆発したように跳ぶ燕青。

 それが壁を蹴りながら、バレルの外へと向かって加速していく。

 瞬く間に小さくなっていくその背中を見て、微かに目を細めるモリアーティ。

 

「――――ああ、もちろん。

 私は完璧に君たちを使い潰して、必ず敗北(しょうり)するとも」

 

「…………ハ」

 

 嗤う声。もうここに残っているのは彼とアーチャーだけ。

 ここに限らずバレルに残っているのも、後は奥にいるシェイクスピアだけだ。

 

「どうかしたかね、アーチャーくん」

 

 モリアーティがそちらに顔を向ける。

 問いかけられたアーチャーは面倒そうに首を傾けると、言葉を吐き捨てた。

 

「別に。ただ悪党らしからぬセンチメンタリズムだと辟易していただけだ」

 

「さて、悪党らしからぬ、か。悪党と正義漢が抱く感傷にどれだけの差があるかは要検証だが……突き詰めると意外と、悪党の方が強い悲嘆を抱えているのかもしれないね。

 悪党はこれで結構自由なものだが、正義の味方はそんな当たり前の情動にさえ惑わされている暇がない。抱えてるだけで無駄になるそんなものは、真っ先に切り捨ててしまうのだろう?」

 

「―――――」

 

 白く濁った目がモリアーティに向かう。

 感情を窺わせない、ただただ面倒そうな顔。

 そんなアーチャーを前にして、モリアーティはすぐに己の言葉を謝罪した。

 

「おっと、気に障ったかね? すまなかった」

 

「……いいや、それほどでもない。まさしくそうだ。

 わざわざ怒ってみせている暇があったら、さっさと眉間を撃ち抜いた方が早い、と。

 まったくもって真っ当な意見だろう」

 

 アーチャーが片腕を上げ、床と水平に伸ばす。

 いつの間にかその手の中にあるのは、刃のある黒い拳銃らしきもの。

 その銃口を紛れもなくモリアーティに向けて、彼は僅かに口端を歪めた。

 

「いや、そこまでは言っていないがね?

 だが悲劇という事象は、英雄と悪党どちらも生むものだ。

 そして比率としては残念なことに悪党の方が多い、と。ただそれだけさ」

 

 焦る様子もなく。対応する所作もなく。

 ただただ不敵に笑むばかりのモリアーティ。

 そんな相手に舌打ちひとつ、アーチャーは銃を構えたまま言葉を続けた。

 

「悲劇とやらが一番多く生み出すのは英雄でも悪党でもなく死体だ。

 だからそんな端数は無視し、正義も悪もなく、さっさと頭を撃ち抜いて終わらせる。

 それが一番効率的だろう?」

 

「なるほど、確かに。これは一本取られたかな?」

 

 口元を手で覆い、笑いを噛み殺すように体を揺らす男。

 その眼光が僅かに尖り、自身に狙いを定める銃口を見据えた。

 

「―――さて、私のように望めば狙うべき場所に勝手に当たる弾ではない。

 そして六発まで自由が効く私と違い、君にあるのは銃弾ただ一発。

 どれを“頭”として狙うべきか、慎重に狙いをつけたまえ。

 慎重さも過ぎれば時間切れを迎えるだろうが」

 

 数秒の間、その広間で時間が凍る。

 モリアーティは一切動かず、避ける動作など取りはせず。

 アーチャーは狙いをつけたまま、しかし引き金を引くことなく。

 

 そうした後、アーチャーが銃を下ろす。

 ろくでもない計画が進行しているのを理解していて、しかし。

 どこで切れば導火線の火が止まるのか判断がつかない。

 そんな自分を鼻で笑い、アーチャーは再び壁に背を預けた。

 

「……その愚鈍さこそオレらしい。何せ後処理専門のなまくらだ。

 間に合うような状況なら、そもそもこんなところにオレはいないだろうさ」

 

「―――そう。間に合わないことが敗北だとするのなら、君がここで間に合うことはない。

 賢明だよ。君が決着を急いだ瞬間、君の敗北は確定するのだから」

 

 モリアーティが歩き出す。アーチャーに対し、無防備に背を向けて。

 撃たれることはない。撃たれたところで問題ない。

 とっくにそうなるように仕込みは終えている、というだけの話。

 

「勝者と敗者は覆らない。勝者は勝者のまま、敗者は敗者のまま終わる。

 そうとも、勝敗は決定している。それを覆せるとしたら―――」

 

 そう。勝利と敗北が覆ることは絶対にない。

 そういう世界でなくては意味がない。

 ここで勝てなければ価値がない。

 

 もっと簡単に勝てる方法があったとして、それを取る理由がない。

 

「……私が狼王を見ている間、シェイクスピアへの取り立てをお願いするよ。

 強制はしているが、そろそろ上手いサボり方を確立する頃だろう」

 

 そうとだけ言い残し、モリアーティがバレルを後にする。

 アーチャーに睨まれながら、彼は悠々と目的地まで突き進む。

 

 そう簡単に彼は裏切れないだろう。

 カルデアには合流できない。いや、モリアーティと敵対できない。

 何せ彼は勝敗で言えば負ける側。

 彼がモリアーティに敵対することで、モリアーティの勝因を補強しかねない。

 

 モリアーティが今競っているのは他の誰もなく、数式だ。

 どう動いたところで勝率になど影響はできない。

 それが分かっているからこそ、彼は自分がどう動けばいいか判断できない。

 結局、最終段階までは見過ごして後処理に回るしかない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と彼は納得できてしまう。

 

「―――さあ、どうするかね名探偵。もうゴールが近いぞ?」

 

 モリアーティはそう言って笑い、バレルの外。

 ライダーが待つ場所に向かって足を進めた。

 

 

 

 

「どうぞ、我が魔王」

 

「ケチャップ!」

 

 小さい容器に入ったケチャップを受け取り、ポテトが進む。

 黒ウォズはそんなケチャップ容器が大量に詰まったバスケットを少し離れたテーブルに放る。

 と、そのまま自分の席に座り、自分の食事を再開させた。

 

「まったく、全員に配る程度の配慮はないのか」

 

「無いね」

 

 セイバーにそう言い返し、不敵な笑みを浮かべる黒ウォズ。

 溜め息ひとつ、ツクヨミが立ち上がる。

 それに合わせて美遊も立ち上がり、二人でケチャップを配布し始めた。

 

「それで、どこまで話したんだい?」

 

「プロフェッサー……モリアーティの正体と作戦まで、かな?」

 

 立香から答えを貰い、ポテトを食べながら黒ウォズが視線を上げる。

 

「ほう、ではバレルから撃ち出される弾丸の最有力候補……1999年に渋谷に落ちた、巨大隕石の事も把握していたのかい?」

 

「ん、私はそれは初耳だネ。そうか、渋谷か。まあ新宿とはお隣さんだし、ほとんど誤差だろう。

 間違いなく、魔弾の射手でバレルへと引っ張り込める位置だ」

 

 モリアーティが顎に手を当て、悩み込む。

 そうしている内にようやっと再起動を果たしたのは、Dr.ロマニ。

 彼が声を荒げだす。

 

『ちょ、ちょっとストップ! 彼の真名がジェームズ・モリアーティなのはいいとして、その計画にはおおいに疑問が残る!』

 

「えっと、そうなんですか?」

 

「まあ地球を破壊する規模の行動を起こすとなると、意識外から阻まれる可能性が高いかと」

 

「それこそ人理焼却のような異常事態の最中でなくては、通らない話です」

 

 尋ねたイリヤに対し、魔法のステッキ姉妹が答える。

 彼女の疑問ももっともだ、とモリアーティは訳知り顔で頷いた。

 

「そう。外宇宙から意図せずいきなり隕石が飛んできて直撃して木端微塵、ならまだしもだ。

 地球の上で地球を破壊する計画は基本的には通らない。地球もそこに生きる霊長も、そんな無体な結末を受け入れるようなものではないからネ」

 

『……つまり、人理焼却に匹敵する下準備が必要と』

 

 それこそ地球の無事はカルデアスが保証している。

 地球の存続は100年後まで約束されている。

 それを覆すには、それこそ人理焼却に匹敵する仕込みが必要になるという話だ。

 

「いや、そうとは限らないんじゃないかナ? 抜け道はある。

 地球も人類も殺さないような計画であればいいんだ。ならやりようはあるだろう」

 

「地球を滅ぼす計画なんじゃないの?」

 

 難しい顔を浮かべたマシュに対し、モリアーティは方法があるという。

 なら今までの話は何だったのか、と。ソウゴが胡乱げな表情で彼を見据えた。

 その隣で立香がその意図を察して、彼に対して問いかける。

 

「―――本当に壊せなくても……実際にどうとかじゃなくて、ただ地球が壊せるかどうかのシミュレーションができればいいだけ、ってこと?」

 

「ああ、そういうことだ。

 私の計算が間違っている、と証明するのに本物の地球を壊す必要はない。

 どこかに地球とまったく同じ星があれば、そこで実地試験さえ出来ればそれで結論が出せる」

 

 ただ計算が実害を算出できているか否か、が重要なのだ。

 そこさえ結論できるなら、実際の地球がどうなるかは、言ってしまえばどうでもいい。

 だからこそ必要なのが、本来の地球の代わりに壊せる星。

 

「―――地球とまったく同じ星。って、それが特異点の……今いるこの地球?」

 

 結局地球じゃないか、と。

 クロエが胡散臭いものを見る目でモリアーティを睨んだ。

 彼はただそれに肩を竦めて返す。

 

『……泡沫特異点。いや、エジソンが目論んだアメリカ独立や、獅子王の聖槍格納。特異点が本来の人理から完全に外れてしまえば、大元の歴史に影響を与えることはなくなる。

 逆に言えば、人理にその世界は継続しているものだ、と保証される事もなくなるわけか……』

 

「―――この世界に正しい物理法則とは別のルールを敷いているのは、本来の時空からより強く乖離させるのも目的の一つか。

 世界に新たなる法則を被せ、ここは正しい人理定礎(テクスチャ)が敷かれている世界とは別の場所、と世界自体に誤認させ時間の流れから強引に離脱させるわけだ」

 

 聖槍格納、という言葉を聞いて僅かに顔を顰めつつ。

 セイバーが呆れた風に、ハンバーガーを食べながら椅子に背を預けた。

 

「大元にフィードバックしようがないほどに歪めて、あるべき場所から追い出すってこと?

 それでそうなったら実際、簡単に隕石を呼び込めるの?」

 

「可能性としてはありえる、かと」

 

「それでも世界からの抵抗はあるかと思います。ですが、既に時代から切り離されることで()()()()()()()()世界では、それも通常から考えれば明確に弱いものかと。」

 

 ツクヨミに答えるルビーとサファイア。

 彼女らの返答を聞いてツクヨミは眉を顰め、顎に手を当てた。

 考え込むような様子の彼女を見つつ、ロマニが口を挟む。

 

『……この計画の前提が成立した時点で、この特異点はいずれ消えゆく世界になる。

 たとえ聖杯という極大の魔力リソースがあったとしても、だ。

 消えることが確定しているからこそ、どれだけでも好き放題にできるという理屈だね』

 

「つまり、最悪見捨てても人理になーんの影響もないわけね」

 

 オルタが呆れ半分にそう口にする。

 前提条件として人理に影響のない特異点でなければいけない。

 であれば、ここで何を成功させても歴史に変化がないということだ。

 ゲーティアのケースが特別だっただけで、本来はそちらが普通なのだが。

 

 そんな彼女の物言いに対し、ソウゴが声を上げる。

 

「でも見捨てないよ。ここの住民だって俺の民だし」

 

「知ってるわよ、言ってみただけだっての」

 

「―――まあ目的の可否はこの辺りでよかろう。では、次は……」

 

『あ、そうだ! ボクが聞きたかったのはそれだけじゃないんだ。

 当然のことだけど、1999年に巨大隕石が渋谷に落ちて被害が出たなんて記録はないんだが!?』

 

 ロマニに言葉を遮られたセイバーが眉を顰める。

 そうしつつ彼女はモリアーティの方を睨み、視線を逸らされた。

 セイバーの反応は僅かに目を細めること。

 

 そっちのやり取りを無視して黒ウォズがポテトをくわえつつ喋りだす。

 

「それは私の方で把握しているよ」

 

「黒ウォズから言うってことは、それがカブトの歴史、ってこと?」

 

 わざわざ顔出したのはそういうことでしょ、という目。

 ソウゴからのそんな視線を受けつつ、黒ウォズは悪びれもせず答えた。

 

「そうだね。カブトの歴史は渋谷隕石……1999年の渋谷に、地球外生命体“ワーム”が潜伏した巨大隕石が落下してくる事から開始する。

 ワームとは擬態能力を持ち、人間に化けて社会に溶け込むような怪人だから、個人的にはアサシン、ドッペルゲンガーがアナザーカブトに選ばれるかとも思っていたんだが……」

 

「一応訊いておくけど、そこで話を止めるのはわざと?」

 

 言葉をぴたりと止めた彼に対し、新しいバーガーを取りながらソウゴが問う。

 そんな問いかけに対し、首を傾げる黒ウォズ。

 

「というと?」

 

「俺たちがモリアーティの計画と燕青の名前を把握したから、そこまで言ったんだよね。

 でもアナザーカブトの方の真名は分かってないから、そこで話を止めたのかな? ってこと」

 

 それ以外にも情報は握っているだろうに、出す情報をそこで渋る。

 別にいつも通りのことだが。

 ポテトを食べる手を止めずに動かしながら、彼の方こそソウゴに問い返す。

 

「問題かな?」

 

「黒ウォズがそうしたいなら別にいいけど。それ、俺が教えてって言ったら教えてくれるの?

 それともカブトの力を手に入れるまでお預けにする? 次会ったら倒す予定なんだけど」

 

 言って、ソウゴがイリヤの方に視線を向けた。

 その視線に対しポテトを持ったまま彼女は頷いてみせる。

 

 ライダーとバーサーカーの二重召喚、ゴルゴーン。

 その視界にアナザーライダーを捉え、ジオウによる撃破を成し遂げる。

 次こそはそうして完勝してみせる、という覚悟。

 そんな二人の様子を見て、黒ウォズはこめかみに人差し指を添えた。

 

「…………それで?」

 

「わざわざこんな風に出てきたってことは、カブトのウォッチを手に入れさせるために俺たちにやって欲しいことがあるんでしょ? じゃあ、交換条件」

 

「なるほど……私の誘導に従う代わりに、アナザーカブトの正体を、か。

 まったく、自分の継承の儀を私を従わせる交換条件に使うとはね」

 

 呆れた風にそう口にする黒ウォズ。

 そうした彼に不敵に笑いかけ、ソウゴは声を弾ませた。

 

「俺に幻滅した?」

 

「いいや? 私は君のそういう魔性の部分も好ましいと思っているよ」

 

 黒ウォズがそう返し、椅子から立ち上がる。

 彼は首に回したストールを軽く払いつつ、目の前にいる連中へと一通り視線を向けた。

 

「我が魔王からの要望だ。

 継承の儀に必要な全員に私の言葉に従ってもらうが……それでいい、というなら。

 私もここで協力しようじゃないか」

 

 真っ先に言い返そうとするジャンヌ・オルタ。

 それを予測していたツクヨミが、即座に彼女の肩を押さえてみせた。

 鬱陶しげに体を揺すりつつ、しかしそれで彼女は黙り込む。

 あからさまに怪しいが、カルデアは今までずっと付き合ってきたのだ。

 ならば、と。イリヤたちも頷く。

 

「―――では我が魔王の要望に応えて、アナザーカブトの正体の推理に手を貸そう」

 

 そう言いながら、黒ウォズがいつの間にか持っていた何かを投げる。

 それを向けられたのは、身構えていた美遊だった。

 咄嗟にそれを掴んでみれば、それはブランクのライドウォッチ。

 彼女は眉を顰めて、投げてきた黒ウォズを見返す。

 

「……これは?」

 

「とりあえず君に渡しておくよ。

 さあ、我が魔王。ダブルウォッチを貸してもらえるかな?」

 

 聞いてくる美遊を適当に流し、黒ウォズはソウゴに視線を向ける。

 

「なんで?」

 

「せっかくだからね、探偵の真似事をしてみようじゃないか。

 君たちも情報を持っていないわけじゃないんだ。それを使って、()()から探すのさ」

 

 よく分からない、という表情を浮かべつつ。

 しかしとりあえず言われた通りにウォッチを取り出し、彼へと渡す。

 ダブルのウォッチを握った彼は片手には本を抱えたまま、ゆっくりと両手を横に広げた。

 

〈ダブル!〉

 

「――――では、検索を始めよう。君たちが気付いたキーワードをどうぞ?」

 

 その体勢にいったいどんな意味があるのか。

 両目を瞑り、ぴたりとそこで停止する黒ウォズ。

 ソウゴは立香とツクヨミと軽く目を見合わせて首を傾げ。

 しかし何かキーワードを言えばいいらしいので、言う事にした。

 

「狼であること?」

 

 まずは見れば分かることを立香が言う。

 

「デュラハンが乗ってること?」

 

 続けて同じような事をツクヨミが。

 

「なんか凄い怒ってる?」

 

 戦闘時に感じた所感をソウゴが述べる。

 

「えーっと、哀しそうでもあった……と思います」

 

 彼と同じようにイリヤもまた。

 

 そこまで言って、すぐに。

 目を瞑っている黒ウォズが眉を顰め、大仰に肩を竦めてみせる。

 

「何も残らないね。キーワードが的外れのようだ」

 

「頼りにならない検索ねぇ」

 

「検索ワードの方の問題だよ」

 

 傍から見ていたオルタの言葉。

 即座に言い返す黒ウォズ。

 そうしている二人を眺めていたモリアーティが口を挟む。

 

「……デュラハンのことは検索ワードから外したまえ。それは後付けの幻霊のものだからネ」

 

 彼の言葉になるほど、と。そのキーワードを出したツクヨミが頷いた。

 モリアーティに言われた通りにしたらしい黒ウォズが作業に戻る。

 

「まだ絞り込むには足りないね。追加の検索ワードを」

 

「後は何かあるかな?」

 

「凄い速い、のは狼というかアナザーカブトの力だよね」

 

 もはや見えないような超常の速度。それはあのライダーの特徴ではないだろう。

 では狼とデュラハンが混ざり、更にアナザーライダー化したあれの特徴をどう探せばいいのか。

 立香が腕を組んで考えるのを見て、イリヤがとりあえず声を上げた。

 

「えっと、普通の狼にしてはすっごく大きいのは……どうでしょうか」

 

「幻霊であるデュラハンが乗るためにちょうどいいサイズになってるだけー。

 とか、そんな感じかもしれないけどね」

 

 クロに即座に否定され、むっとした顔を向けるイリヤ。

 彼女はそれを気にした風もない。

 

「……縄張り意識が異常に強い。踏み込んできた外敵を排除する、だけじゃない。

 流れ弾で自分の領土が壊された事に、明らかな殺意があった。

 あの時の攻撃の被害規模はどれほどだったんですか?」

 

 美遊がそう言うと、通信画面の先でマシュが地図を確認する。

 先の戦いではスウォルツ―――ギンガの攻撃が逸れ、国道に着弾した。

 ただそれだけで彼は今まで不動だったのが嘘のように街中にまで攻めてきた。

 彼にとってそれほど、自分の縄張りは重要だったのだ。

 

『そう大きくはない、と言えると思います。

 仮面ライダーギンガの攻撃はほぼソウゴさんが相殺していました。

 被害としては道路が数メートルに満たないくらい剥がれた程度かと』

 

「それだけ? いや、それだけって言っちゃうのもあれだけど……」

 

 破壊されたというのだから、もっと盛大な破壊かと思っていた。

 そうした印象を口にしたイリヤに被せるように、ルビーが喋りだす。

 

「つまり規模に関わらず、『自分の縄張りを傷つけるものは一切合切赦さない』と。

 そういう意識で活動しているワケですねー」

 

「純粋に縄張りに対する防備。縄張りに宝物などの守護するべきものがある、というような話ではないでしょう。本当にそれ以外にない、縄張り意識」

 

「でもそれ、実際は別に縄張りでもなんでもないじゃない。人間の街よ、ここ」

 

 ここでこうして幾つか推測してみても、どうにも納得できる答えが無い。

 そんな事実に悩む彼女たちに対し、黒ウォズが次のキーワードを促す。

 

「―――そこの是非は置いておいて、とにかく“縄張り意識”だね。後は何かあるかな?」

 

「……罠が見えてた、と思う。多分、普通にやったら絶対にかからないくらい正確に」

 

 それに答えたのは、考え込んでいたソウゴ。

 戦闘中に確かに感じた、明らかに図抜けた危機察知能力。

 

 水棲の狩人(バッシャー)の狩場、無邪気な罠(イノセントトラップ)

 アナザーカブトはそれを初見で看破し、完全に対応してみせた。

 確かにあの戦場は超高速のものだった。だがそれを考慮しても、察知があまりに早すぎる。

 まるで、()には絶対にかからないと言わんばかりに。

 

「―――なるほど。では、追加の検索ワード、“罠にかからない”」

 

 そう言うと、黒ウォズが虚空に向けて手を伸ばした。

 瞬間、彼のストールが大きくはためく。

 

 暴れるよう彼自身の手に纏わりつきそれが―――しかし。

 次の瞬間には、それを終えて再び彼の首にぶら下がっていた。

 

 だがその動きによって今この場に運んできたかのように。

 黒ウォズの手には、逢魔降臨暦ではないもう一冊の本が収まっていた。

 彼はそれを皆に見せるように突き出して、小さく微笑む。

 

「さて、検索で該当した本は一件。

 ―――『シートン動物記』に記された動物物語の一編、“狼王ロボ”だ」

 

 

 

 

「やあ、無事で何より」

 

「――――――――」

 

 狼は答えない。バレルの中に踏み込むこともない。

 彼に関することの場合は、モリアーティが外に迎え出る。

 

 最初に呼ばれた時、モリアーティだけは襲わない、という契約をしていた。

 他は誰一人例外なく、彼が襲う条件を満たした時点で襲ってもいい。

 そういう契約だ。

 

 ―――その契約、目的を果たすための力の提供。

 それが理由で襲われない、とモリアーティは考えているのかもしれないが。

 彼がこのモリアーティを襲わないのは、()()()()()()()()()だ。

 

 まあ、どうでもいい話だ。

 臭いがしても必要なら襲わなかったかもしれないし、襲ったかもしれない。

 どうでもいい。そんなことより、今は。

 

「―――ふむ、幻霊を追加する気かね。まあ霊基を強引に修復するならそれが早いか。とはいえ、バランスが崩れてはいけない。

 そうだね、“誰にも見えない”という方向性から追加する幻霊を決めようか。君は速過ぎて見えないだけ。しかし単純な透明化の属性でも調整は楽になる」

 

 言葉など交わさずとも何が言いたいかは分かる、と。

 モリアーティは顎に手を添えながら説明をくれる。

 あるいはそれは彼が背に乗せたヘシアンに向けてなのかもしれないが。

 

 ―――怒りで体が震える。

 その振動を直に受け、ヘシアンが僅かに身を捩った。

 

「……怒りが収まらないかね。分かるよ、それはどうしようもない感情だと」

 

 分かった風な口を聞く。

 真っ当な人間がこれを口にしていたら、他の一切を無視して八つ裂きにしただろう。

 だがそうではない。だから、睨むまでに留めている。

 

「だから、私が用意するとも。君が君の望む場所まで走れる機会を。

 行きたまえ、君が行きたいと思っている場所にまで」

 

 モリアーティが作業を開始する。

 始まるのは本来ありえない幻霊との融合作業。

 細心の注意を払っての作業が長々と続く。

 

 今度こそ最後まで走り抜けるために、彼はその時間で足を休める。

 そう。モリアーティが口にしたように、行きたい場所に今度こそ辿り着くために。

 

 ―――ああ、けれど。

 自分は最初、いったいどこまで行きたかったんだっけ。

  

 

 




 
 スーパーヒーロー戦記に小説版。
 平成がジオジオしてきた。

 パジャ麻呂のCMを見ていたら気付いてしまった。
 子供たちに光を授けてくれるパジャ麻呂はもしやウルトラマンティガなのでは?
 光たもれ~光たもれ~
 妖精國とかいう場所もついでに滅ぼしてたもれ~
 
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