Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー 作:アナザーコゴエンベエ
「あの、ツクヨミさん。これはどうすればいいでしょう」
後付けをしながらそう言った美遊の言葉に、ツクヨミは彼女の視線を追う。
少女が視線を向けるのは、腰にぶら下げた一つのウォッチ。
もちろんそれは、黒ウォズが彼女に押し付けたブランクウォッチだ。
一体どういう企みがあるのか、ツクヨミを頭を悩ませる。
「……一応、危なくはないと思うけど。うーん」
「ソウゴさんがライダーに対抗できる力を得るためになるなら……気にはしませんが」
勝率を高めることになるし、イリヤの負担も減る。
ゴルゴーンの力に依存しない勝機を得ておくのは絶対に無駄じゃない。
だから問題ないなら、黒ウォズの策略に乗るのもやぶさかではないのだが。
「……それにしても、何で美遊に渡したのかしら」
「これは、美遊様が仮面ライダーカブトの力を引き出す切っ掛けとして期待されている―――
という理解でいいのでしょうか」
ふぅむと、顎に手を当てて考え込むツクヨミ。
横でふよふよと浮き上がるサファイアの言葉に彼女は頷く。
「たぶん、そうだと思うんだけど」
「アナザーカブト―――狼王、ロボ」
「19世紀末頃、アメリカではオオカミが家畜を襲う事案が問題となっていました。それを解決するために呼び寄せられた博物学者シートン。
彼はそこで、悪魔の化身とさえ称された狼の王『ロボ』と邂逅します。どんな罠にさえかからず、家畜被害を甚大なものにしていくロボ。
それを捕らえるため実行されたのは、妻と思しき白い狼『ブランカ』を囮とすること。ロボと違い、罠にかかってしまったブランカ。彼女の死体を囮に、ロボは遂に捕獲されます。
そして彼は人間から与えられる餌や水を一切拒み、人間を憎悪しながら息絶えた―――と」
黒ウォズが示したアナザーカブト、国道を縄張りとするライダーの正体。
シートン動物記に名を残す、狼の王の名前。
サファイアが滔々と語ってくれる、その狼の来歴。
それを聞いて少し眉を顰めて、ツクヨミが天井を見上げて。
「……人を憎む理由も分かる。縄張りを荒らされる事を赦さない事も理解できる。
でも、彼は何でこの新宿で、人間の街を縄張りに……?」
「――――……一番、大事な」
隣で、美遊が小さく呟く声に反応する。
「え?」
「ロボにとって、一番大事なものは、何だったんでしょうか」
酷く難しい顔でそう言う彼女に、困惑げな表情を見せるツクヨミ。
それに構わず、少女は言葉を続ける。
「憎しみを雪ぐために人を殺すこと。縄張りを侵すものを殺すこと。
―――それはどっちも、本当はやりたいことなんかじゃなくて。
大事なものを守るために、やるべきだったこと」
ロボの行動は前提が整っていない事を除けば、きっと彼の使命だったのだ。
ここは狼の縄張りではないだけで、縄張りと定めた場所の死守は王であった彼の使命で。
そこに守るべきものは何もないけれど、縄張りを荒らしにきた侵略者の排除もそうだった。
それはつまり、彼の今の行動は。
「……やらなきゃいけなかったのに、やり遂げられなかったこと」
「美遊様」
僅か、美遊の言葉に熱がこもる。
彼は縄張りを人間に切り拓かれ、仲間を殺された。
自分も囚われてそれでおしまい。
「―――きっと、ロボはずっと迷っている。
守りたいものを置き去りにしたまま、守るための意志で動き続けてる。
大切なものは、
そこへ帰る事も出来ず、帰れない事を認める事もできず……ただ、ずっと」
ふと、ツクヨミの手が美遊の頭に乗せられた。
困惑しながらマスターを見上げる美遊。
慣れない手つきでゆっくりと撫でられる髪に、少女は何とも言えない顔で苦笑する。
「それは、あなたもお兄さんに感じてる……感じてたこと?」
ツクヨミの言葉に、少しだけサファイアが揺れる。
踏み込むべきなのかどうか、よく分からない話のままだけれど。
よく分からないからこそ、だ。
ツクヨミも美遊も、この世界にとっては異端の放浪者みたいなもの。
本来いるはずのない人間で。でも、いま二人ともここにいる。
だけど―――だから、どうするかは。
いつだって、今ここにいる自分で決めることだ。
「―――そう、かもしれません」
美遊がそう返し、床に視線を落とす。
「……わたしはお兄ちゃんの、
そこに大切なものが置き去りになったままだからこそ。
もう帰れない場所に、まだ帰りたいと思い続けている。
そんなことはありえなくても、あってはいけないことだと分かっていても。
―――ブランクウォッチが熱を持つ。
それに気付かないまま、美遊が言葉を続けた。
「けど。最初が
そうでいたい、本当の家族でいたいと願えたから―――」
灯った熱が加速する。
美遊・エーデルフェルト―――朔月美遊の心に感応して。
「何にも代えられない、大切な家族として。
わたしはお兄ちゃんが願ってくれたことを、果たしたい」
ウォッチに胎動するのは小さな灯り。
―――男は選んだ。それを守るべきと定めた。
全てを奪った悪魔への復讐を果たすのではなく。
偶然が産み出したような、しかし確かに彼に残された大切な妹を守る事を。
そのために求め、自身を鍛えながら待ち続けた力。
それが何も宿していないウォッチの中で、確かに一度脈打った。
離れた場所で壁に背を預けていた黒ウォズ。
彼は小さく笑うと、開いていた『逢魔降臨暦』をゆるりと閉じた。
「そうそう、アンタ。私と契約しなさいよ」
「所長じゃなくていいの?」
オルタに声をかけられて、首を傾げるソウゴ。
そう返された彼女は少し顔を顰めつつも言い返してくる。
「……別に今更こだわらないわよ。っていうか元々はアンタが最初に召喚したんでしょ。
契約してるとしてないじゃ使える魔力が違うし、ほらさっさと」
「そう? じゃあいいけど」
急かす彼女に頷いて、ソウゴが立ち上がる。
そんな二人を見ていたクロエが、からかうようにオルタを見つめた。
「あ、後輩サーヴァントゲット?」
「は?」
冗談じゃない、という顔を浮かべるオルタ。
にやにやしながら自分を見てくる少女に対し、彼女は威嚇するような表情を見せる。
それを見てクロの服の裾を引っ張るイリヤ。
が、クロエはそれでやめる様子もなく、からかいの視線を向け続けていた。
「……ふむ、確かにマスターは欲しいところだな。今はライダーにしろアサシンにしろ、正面から粉砕するには難い相手だ。魔力供給は万全にしておきたい」
セイバーがそう言えば、イリヤの横でルビーが神妙に羽をぱたつかせる。
「クロさんはともかく、イリヤさんと美遊さんはわたしとサファイアちゃんの魔力供給がありますからねー。サーヴァントが増えても、マスターの負担は大したことないでしょう」
『カルデアからのサポートもありますので、その辺りはもちろん』
そんな会話を聞いていた立香がモリアーティに視線を向ける。
彼女の視線が何を言おうとしているか読み取り、皮肉げな笑みを浮かべる老爺。
「……まァ、私はネ。流石に私の正体を知って契約は望めないだろう?」
「え? プロフェッサーはしなくていいの、契約」
「え、してくれるの?」
「何でしないと思ったのかよく分からないけど」
戸惑うモリアーティに合わせ、不思議そうに首を傾げる立香。
危機感が足りない、とモリアーティの方こそ顔を顰めた。
「――――あのネ、私はアレだよ? ジェームズ・モリアーティ。途轍もない悪党だ。ホームズを引き合いに出すまでもなく、犯罪界のナポレオン、悪のカリスマとまで称される男。
私と契約するなんて、孫を自称する相手からの電話に唯々諾々と従って、聞いたこともない口座に全財産を振り込むようなものだヨ?」
「そこまでならまだ本物のお孫さんの可能性もあるよ」
「祖父母の全財産を要求する本物の孫がいたらそれはそれで問題だが!」
がなるモリアーティに対し、ううんと悩んで見せる立香。
彼の真名を聞いて契約を拒否する気はない。
が、彼自身が頷かないのであれば、無理強いする気もない。
「大丈夫だよ、きっと。プロフェッサーが嫌なら無理にとは言わないけど」
「嫌なわけではないが……」
『今のところですが、モリアーティさんの行動に怪しいところはないと思います。ただ存在そのものが怪しいだけで……』
「それは喜ぶべきか哀しむべきか微妙なところだネ……」
マシュの庇っているのか貶しているのか分からないフォロー。
だがそれが事実でしかないと分かっているのは本人こそだ。
そんなやり取りを眺めつつ、ソウゴが腕を組んで椅子の背もたれに寄り掛かる。
「結局のところ、なんでプロフェッサーが増えたのかは分からないよね。
分身して安定を取った、ってことでいいのかな?」
彼の正体は判明した。
シャーロック・ホームズと敵対する悪のカリスマ、ジェームズ・モリアーティ。
彼の目的―――行動方針も大筋から判明した。
モリアーティという数学者が起こす、地球を狙い通りに破壊できるか否かの実験。
何故、地球を破壊しようとするのか。そして、何故二人に増えたのか。
この辺りはまだ判明していないが。
「ジェームズ・モリアーティがどれほどの悪人であろうと、それはまともな人間の枠組みから外れるものではありません。むしろ、ただの人間の筈なのに異常なほど優れている。彼はそう言った存在でなければならない。だからこそ、彼の“
「んと、つまり、魔弾の射手……幻霊をモリアーティさんの中に入れる余裕がない?
その分のスペースを確保するために、自分の一部を切り離した……」
ちらりとモリアーティの方を見る。
意味なく自分を分割するような人間ではない、と思う。
実際のところは一体どうなのか。
「可能性の話です。そもそもどうやって英霊と幻霊を混ぜているのか分かりませんからね。
普通はそんなこと自体できないですから。
こっちのモリアーティさんは、相手にとっても予想外である可能性だってあります」
「予想外?」
「切り離した自分の余分がプラナリアみたいに行動を始めるとは思ってなかった、みたいな?」
ルビーの言葉に首を傾げるイリヤの前で、立香がそう言って。
プラナリアに例えられたモリアーティが、何とも微妙そうな表情を浮かべた。
「ただ捨てただけのつもりで、もう一人の自分になったのは予想外……ってこと?」
「その割には相手の動き、というかプロフェッサーへの対応が遅い気がする」
ただの予想外なら排除すればいいだけのはずだ。
だが、明らかにそういう動きではない。
それを訝しむソウゴとクロエをちらと見て、セイバーが腕を組んで片目を瞑る。
「対応する必要なし、と考えた可能性もないではないが。
大した存在ではないから無視していい―――……いや。どちらかと言えば、こちらが味方として抱える分には相手の得にしかならない、か」
「……ジェームズ・モリアーティの結末は敗北であり、それこそが地球の滅亡。
その前提で進めるのであれば、どちらかのモリアーティが立ち会えばいい。
例え向こうの私を排除しても、こちらの私が存在する限り状況は進行するわけだネ」
「そっか。同一人物なんだから、どっちかがいれば成立しちゃうんだ」
鍵が“モリアーティ”である以上、モリアーティが増える分には損はない。
確かに言われてみれば、とイリヤが目を白黒させた。
排除されても問題ないし、排除されなければ隕石の誘導が盤石になる。
そうと考えれば、向こうがこちらのモリアーティに手を出さないのは当たり前な気がしてくる。
「じゃあどっちも排除しなきゃいけないじゃない。どうするの?」
「うーん……」
クロの呆れるような声に、立香が腕を組んで唸る。
そっちを見ていたソウゴが視線を外し、モリアーティに問いかけた。
「……とりあえず、保険っていうのが一番可能性が高いのかな?」
「――――保険、か。それはまた、私らしくないような気が……いや、どうだろうネ」
何とも座りが悪い、というような顔。
微妙に納得しきれていない様子のモリアーティ本人。
不思議そうな視線を集めていた彼が、仕方なさげに口を開いた。
「私は君たちカルデアを外から見た情報程度にしか知らなかった。
だから、私の計画に対してどう動くか計算するための情報が足りなかった。そう考えればリカバリー案を備えているのは、まあ、分からないでもないのだが。
というか、だ。そもそもの話だヨ。最終的に働くかどうか分からないような……いや、仕事をしてもしなくてもいい、しかし特別製の私という駒が配置されている、という事実が気持ち悪い。美しさの欠片もない。私のやり方ではない、と思う。たぶん」
嫌そうに語る本人。
計画について語るのが嫌なのか、あるいは悪党としての矜持を語るのが嫌なのか。
何とも言えない表情で一応語った彼は、そこで咳払いして仕切り直す。
「……私の計画は、君たちが私を受け入れる前提で敷かれているように見える。
だからこそ私は、なおさら君たちに受け入れてくれとは言えないのだがネ」
「悪のカリスマという割には何と言うか、心配性な上にめんどくさいジジイですねぇ」
「ルビー……!」
素直な感想を率直に述べた相棒を引っ張り戻すイリヤ。
「そういう部分を切り離した、ってことなのかな? 隕石を落として地球を滅ぼすのに邪魔な……こだわり? 感情? を優先して切り捨てた、みたいな」
モリアーティ本人がおかしい、と言っているのだ。
ならばそこにもきっと意味があるだろう。
彼は現状のそれを自分の計画らしくない、と口にした。
ならば、それこそが……
そう言ったソウゴに対し、イリヤに振り回されているルビーが返す。
「ですけど、ただでさえ霊基の分割なんてまともな手段じゃないですし。
そんなに便利に特定の感情のみ分離なんてできますかねぇ」
『……そうだね。普通ならできない。
いや、普通じゃできない幻霊の融合があるんだから、何か抜け道があるかもしれないけど。
ただ流石に霊基ごと自己の性格を分割するなんて器用な真似は流石に……』
どこからどこまでが可能なこと、と考えればいいのか。
それすら定まらない現状に頭が痛いとばかりにロマニが言う。
彼の言葉に何か思うところがあったのか、モリアーティが表情を変えた。
まるで今更何かを思い出した、とでもいうかのように。
「……私の要らない感情、か。たとえば、そうだネ。
霊基の分割の前に―――
先に善と悪を分離させ、その後にそれぞれを別の霊基に分割するんだ」
『それはやはり無理が――――……あ』
「マシュ?」
思いついたように言い出すモリアーティの言葉。
彼の言葉を否定しようとしたマシュが停止し、ぽかんと口を開ける。
そんな彼女の様子に首を傾げる立香。
マシュはすぐに意識を立て直し、キーボードを叩き始める。
そうして浮かび上がるのは、カルデアに記録されたデータベースの一部。
文字情報だけで必要な部分だけ残していた、ロンドンでの戦いのもの。
『ジキルさんの霊薬のようなものがあれば、それが叶う可能性も……!』
彼女たちの旅路で巡り会った、一人の人間。
彼が所有していた、特殊な霊薬。
その情報を見てハッとしたロマニが眉根を寄せ、先程の言葉について考え出す。
『なるほど、確かに……霊基、人格の分離というものについて語る場合、ヘンリー・ジキルという人物の作り出した霊薬は避けられない。彼は確かに善悪を分離する薬品を作り出していた。
それと似たものでも精製できる方法があれば、モリアーティが善悪で分離したという可能性も考えられる……』
「いやァ、ほら。ウン……だろう? ははは」
どうしてか所在無さげに、何か申し訳なさそうな顔で笑うモリアーティ。
「じゃあこっちのプロフェッサーは善モリアーティで、あっちが悪モリアーティ?」
「かもしれない、という段階だがネ」
ソウゴに問われ、苦笑しながら頷く。
そんな彼の様子を笑い飛ばすのは、ジャンヌオルタ。
「善ねぇ……それより、とんでもない悪党って割にとぼけた爺さんだもの。
実は自分の間抜けな部分だけ切り離した、とかじゃない?」
「そんなことが可能なら、貴様も是非やっておくべきだな」
「言ってくれるじゃない。
アンタもその人を馬鹿にしなきゃ気が済まない性根の悪さを切り離してもらってきたら?」
「貴様と違って私は元よりアーサー王の一側面だ。
表に出てる頭の残念さが全てであるお前と同列には語れんよ」
やれやれ、とばかりに首を横に振るセイバー。
彼女の態度に対し、ふるふると座ったまま震えだすオルタ。
やがて彼女はテーブルを叩きながら、一気に立ち上がった。
「――――もういいわ、表に出なさい。燃やしてやるわ!!」
「ああ、準備して後から行く。カヴァスⅡ世の餌皿も洗わんとな。
貴様は先に外へ行って首を洗いながら待っていろ」
「上等よ!!」
対してセイバーはカヴァスⅡ世が舐めていた皿を取り上げつつ、言い返す。
ぱたぱたと尻尾を振る白い犬。
その頭を軽く撫でつつ、彼女はオルタに対して手の甲をしっしっと払う。
了承が得られたからか、犬と同等に扱われたからか。
更に燃え、彼女は決然と外に向かって歩みを始めた。
それを見送りつつしばらく犬の頭を撫でていて。
そうして彼女が店外に出たのを見ると、セイバーは再び席に着いた。
「……さて。阿呆は追い出したことだし、真面目な話に戻すか」
『ええと……その、それでいいのでしょうか……?』
「気にするな。話が終わったらちゃんと遊んでおいてやる。
そんな余裕があるならば、だが」
マシュにあっさりと言い返し、セイバーは難しい顔を浮かべる。
『というと?』
「悪モリアーティが欲しがってるのは時間、ってとこだよね?」
「ああ。つまり、遊んでいる暇は一切ないということだ。私たちも、奴らも」
ロマニからの問いに答えを出したのはソウゴ。
彼の言葉に鷹揚に頷いて、彼女は疲れたように軽く首を回す。
「ソウゴ、貴様の状態は?」
「たぶん、大丈夫だと思う。もしもの時一人でアナザーカブトを抑える必要があっても、数分ならなんとかなる、くらいかな。正直、一回寝ちゃいたいけど」
時間が無いなら休憩は最低限だ。
ディケイドアーマードライブフォームを使用しなくてはいけない場合を考えると辛いが。
加速の代償に軽く息を吐きつつ、彼はセイバーを見つめ返す。
「―――世界観を固めるまでにどれだけかかるか、か。
まあ、そう余裕はないだろう。要石となっているのはシェイクスピアだが。
バーサーカーの仕上がり具合から見るに、希望的観測であと半日程度、と言ったところだネ」
「じゃあ全部終わってから寝ることにする」
余裕のないスケジュールを提示するのはモリアーティ。
仕方なさそうに頷いて、彼はゆっくりと肩を回した。
「まあ、ギリギリまで休んでいろ。ライダー以外は極力私たちで処理する。
……イリヤスフィールもだな」
セイバーがそちらを向き、相手の姿をじいと見る。
ルビーを抱えたまま、白い少女がびくりと震えた。
「わ、わたしは大丈夫です……ケド」
「ロボが復帰するまでどれだけかかるかにもかかってるけど……」
「ロボがいてもいなくてもバレルに直接乗り込んだ方がいいわ。
狙撃を受けないように戦うには、懐に飛び込むのが最上だもの」
相手にしなくてはいけないのは、狙撃手もだ。
それを難しい顔で口にするのはクロエ。
彼女の言葉に頷いて、ソウゴが眉を寄せた。
「俺とイリヤがロボを引き付けて。その間にみんながバレルに突入?」
クロエが頷き返す。
バレルに侵入するまでの狙撃からの防御。それは彼女の仕事になるだろう。
その後は美遊、クロエ、オルタとセイバーとモリアーティ。
この戦力でバレルにいる敵を相手取ることになる。
『そうなると悪のモリアーティ、アーチャー、アサシンをバレル内で相手取る事になるか……』
シェイクスピアは戦えないだろうし、何よりこの世界観の要だ。
前に出してくるような真似はしないだろう。
もし前に出してきたとするなら、相手の別の作戦が動いてると断じなければいけないほどだ。
「ロボはどうにかして俺たちが外で戦うけど……
アナザーウィザード、アサシンはどうするの?」
「どうにもならないほどではない。
数はこちらが勝っている。ライダーさえ封じれば、十分に対抗できる。
そこで話が戻るわけだ。そのためにもマスターが欲しい、というな」
ソウゴの問いかけに対し、セイバーはそう言って立香の方を見る。
彼女は少し悩み、セイバーとモリアーティの間で視線を行き来させた。
そんな相手を見て、小さく肩を竦める。
「……なら、私はもう一人の方と契約するとしよう。
あちらには私のカードとやらを持った娘もいることだしな」
呆れた様子のセイバー。
彼女を窺っていたイリヤが、モリアーティの方に視線を送る。
「善のモリアーティだったとしたら、別にもう気にする必要ないんじゃないんですか?」
「う、むぅ。私の善悪を問わず、私の存在が仕掛けを成立させるための楔になっているのは確かだからネ。どちらにせよ、あまり望ましくは……」
ごにょごにょと何やら言い訳を並べるモリアーティ。
そんな様子を見て、少女は不思議そうに首を傾げてしまう。
『あ、れ? これは――――』
『ドクター?』
そうしている間に、困惑するようなロマニの声が届く。
どうかしたのか、と問いかけるようなマシュの声が続いて。
その直後、緊張感を増したロマニの言葉が出てきた。
『―――範囲内に生体反応が集まってきてる! 明らかにここを目的地とした動きだ!
マシュ、すぐに詳細をサーチして……!』
彼が言い切る前に、すぐに作業へと移っていたマシュ。
彼女の動きに合わせて、現地でも周囲の状況を映したマップが現れる。
『了解しました!
―――これは、人間? 多少魔力がありますが、普通の……』
光点として動く生体反応の印。
それは当然のように英霊でもなければ、アナザーライダーでもない。
ごく普通の、走っている人間程度でしかない動き。
そんな光景を見て、僅かに眉を上げるセイバー。
「……行動が早いな。しかも生き残っていた悪人どもをぶつけてくるか。
アーチャーを前に出す、とは考えにくい。アサシンだろうな」
「え、と。ルビー、あの薬まだある……?」
「あるにはありますが、そんなに大量に来られると足りませんねぇ」
相手が人間、と聞いて。
問いかけてくるイリヤに対し、ルビーは肩を竦めるように羽飾りを動かした。
少女は息を詰まらせて、自身のマスターの方へと視線を向ける。
そうされた立香が答えを出す。
―――前に。
『―――待ってくれ、それだけじゃない……!
こっちの反応、明らかに速度がただの人間じゃない……!
それどころか、高度からして飛行している。つまり―――』
『っ……! 高速飛行物体、皆さんの直上の屋根に着弾します!』
マシュのその声と同時。
店舗の天井が飛来するものに粉砕され、残骸が崩れ落ちてくる。
それとともに店内に現れるのは、黒い鱗を持つ飛竜。
腕の翼を広げ、長い首を振り上げて、ワイバーンが咆哮を放った。
『みんな、作戦会議中にすまない! 話の途中だがワイバーンだ――――!』
目覚めろ! ワイの守護神! ワイルドワイバーン!
バリアントワイバーンが一番好み