Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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迷子の星1124

 

 

 

 粉塵を爆風で吹き飛ばし、アナザーウィザードが復帰する。

 一撃をもらう寸前に変身していたのだろう。

 ヘラクレスの必殺さえもただのダメージに抑え込み、彼は笑う。

 

「ははは! まさかこうも完璧に返されるとはな!

 俺はカルデアのマスターっていう囮にまんまと引っかかったわけか!」

 

 現状を呵々と笑い飛ばし、宝石の魔物はゆらめきながら立ち上がった。

 余裕さえも漂わせながら起き上がる相手に、イリヤスフィールが身構える。

 

 そうしながら状況を見極めた彼が実にあっさりと。

 

「ってーなると、どうすっかな……バレルの近くまで退いた方が無難か。

 アーチャーの援護射撃もあるしなァ」

 

 腕を横に伸ばして、そこに出現させる魔法陣。

 それが転移のためのものである、と。

 思考の暇さえなく理解したセイバーが、魔力の放出に押し出されて飛んだ。

 

「逃がすか―――!」

 

「お生憎様、死ぬ前に逃げ出すのは得意なんでな!」

 

 笑いながらそう叫び、アナザーウィザードが腕を広げる。

 展開される魔法陣。セイバーの眼前に立ち上がる岩の壁。

 それを粉砕する隙に発動するテレポート。

 

 一切の躊躇いなく選択された撤退。

 その事実に呆けたイリヤは彼を追えず、他のサーヴァントたちも届かず。

 

 離脱を見逃すしかない。

 そんな状況に、

 

〈フィニッシュタイム! スレスレシューティング!〉

 

 無数の光弾がその場に降り注ぐ。

 うねり蛇行する不規則な弾道を描き舞うのは、月光の弾丸。

 

「っとぉ! そりゃ対策済みならそっちも来るよなぁ!

 けど、分かってりゃどうとでもならぁな!」

 

 屋内から飛び出してきたジオウに一瞬だけ視線を向ける。

 彼を目掛けて飛来する無数の光弾を潜り抜け、燕青は一発の被弾もなくやり過ごす。

 流石にもう不意などつかせない。

 アナザーウィザードはそのまま流れるように離脱に動き―――

 

「どうかな? そこ、通行止めだけど」

 

「は?」

 

 ガチン、と。アナザーウィザードの体が魔法陣に届かず停止する。

 己の展開した、空間を跳躍するための入口。

 当たり前のように入れるはずだった、この場所からの逃走経路。

 

 は、と唖然として首をひねる。

 向けた視線の先、魔法陣の上からかけられた“止まれ”の文字。

 進行方向に対して、一時停止を余儀なくされるアナザーウィザード。

 

「―――残念、工事中みたいね!」

 

〈ディ・ディ・ディ・ディケイド!〉

 

 次なるウォッチを構えるジオウの前に降り立つ少女。

 振り上げた無手に瞬きの内に現れる弓と剣。

 紅い外套の少女が弓に剣をかければ、螺旋の剣が光の矢と代わり魔力を迸らせた。

 合わせた照準はアナザーウィザードを目掛けたものではなく、彼の目指す場所。

 空間を繋ぎ合わせるために描かれた、転移の魔法陣。

 

「“偽・偽・螺旋剣(カラドボルグⅢ)”―――――!!」

 

 放たれる矢が、空間を削り取りながら翔け抜ける。

 抉られるものは宙に描かれた魔力の道さえ例外ではなく。

 動きの止まった燕青の前で、彼方に繋がる道が掘削されていく。

 

「なん、」

 

「っ、ああ、ァアアアアアアア――――!!」

 

 愕然と。撤退を阻まれた燕青が、言葉をこぼしている内に。

 大地を砕く踏み込みと共に、岩剣を振り上げた少女が疾駆した。

 一時停止は数秒と待たずに解ける。

 すぐに解放された燕青が気を取り直す前に、神威が彼に向かって叩きつけられた。

 

「ッ、チィ……!」

 

 防ぐ、という選択を真っ先に破棄。

 受け流しきれる体勢ではないのでそれも破棄。

 躱す、逃れる、どうやって。

 その選択を叶えるための手段を己が内に見つけて、彼は即座に実行した。

 

「―――――な!?」

 

 イリヤが見舞う大英雄の一撃に合わせ、飛散する水流。

 自分の体を水に変えたアナザーウィザードが弾けた。

 彼は衝撃に弾け飛びつつ、意志ある水として空中で蠢いてみせる。

 

「こいつは便利だ、このまま―――」

 

〈エクシードチャージ!〉

 

「そこ―――!」

 

 それに。空中で蠢く大きな水の塊に、突き刺さるのは赤い弾丸。

 光弾を当てられたアナザーウィザードが、強制的にカタチを取り戻す。

 水に変化していた肉体が元に戻り、その上で行動を縛られる。

 

 水のまま流れて逃れようとしていたアナザーウィザード。

 彼は真紅の光に縛られて、封じられた状態で驚愕を声にした。

 

「な、にィ……!?」

 

「今よ、セイバー!」

 

 撃ち放ったツクヨミが、既に大地を踏み切っていた騎士王に叫ぶ。

 彼女が疾走に選んだ軌道は、上空への大ジャンプ。

 聖剣を両手で握り、空中で魔力を放出していた。

 

「――――卑王鉄槌(ヴォーティガーン)

 

 一閃と共に放たれるのは瘴気と魔力の濁流。

 空中から降り注ぐ黒い津波に呑み込まれるアナザーウィザード。

 縛られていた怪人の体が、全力で放たれた騎士王の一撃に悲鳴を上げた。

 

 そのまま地面に叩き付けられ、周囲のビルを多少巻き込みつつ道路が決壊する。

 黒の光芒によって崩落していく眼前の光景。

 

 それを見て、ツクヨミが思わず追加で叫んだ。

 

「セイバー、やりすぎ……!」

 

「―――分かっている。が、文句はあの男に言え」

 

 危うげなく着地しつつ、ちらりと視線だけ後ろに向ける。

 そうして彼女が示すのはモリアーティ。

 イリヤと入れ替わった上で、彼もまたこちらに戻ってきていた。

 彼の腕の中には、尻尾を丸めたカヴァスⅡ世の姿もある。

 

 セイバーの視線を受けたモリアーティは微妙な表情。

 自分が推奨したわけではない、と言いたいのか。

 だがあえて彼は何も言わず、腕の中の犬を手放した。

 

「―――ほら、カヴァスⅡ世くん。

 ツクヨミくんの方に行くといい。こっちは五月蠅くなるからネ」

 

 片手で引きずっていた棺桶を上げ、展開。

 店の方から続々とこちらに溢れてくる魔獣に銃口を差し向ける。

 

 それを見てカヴァスⅡ世を拾いにくるツクヨミ。

 彼女の護衛をしつつ、美遊は魔獣の対処へと意識を切り替えた。

 

 叩き付けられたアナザーウィザード。

 コンクリートとアスファルトの残骸から、彼はよろけつつも体を起こす。

 流石にダメージは軽くないのか。

 全身から黒煙を噴きながら、燕青が弱々しく体を揺らした。

 

 傍から見ても、完全に燕青が追い詰められた光景だ。

 アナザーウォッチが破壊できずとも、一時的に機能停止させればいい。

 それは何の強がりでもなく、セイバーはそれだけの攻撃力を持っているという話。

 

 そんな光景を見て。

 

「話が違う……! 話が違う! あんたが勝って、全てを手に入れるって!

 あんたが手に入れた全てを俺たちに支払うって約束だった!

 あんたが負けたら俺たちは何も手に入らない! 契約違反だ!」

 

 声が上がる。

 アサシンから注意を外さず、揃ってそちらを見てみれば。

 周囲でざわめいているのは、こちらに襲撃をかけていた人間たち。

 憎々しげにさえ聞こえる声を上げたのは、指揮を執っていた男の一人。

 それを切っ掛けにしたのか、他の連中も燕青への罵倒を始める。

 

「クソ、何も手に入らないのにこんな化け物どもの相手をしてなんになる!

 大損だ、付き合ってられるか!」

 

「これ以上あんたには従えない! 従って欲しけりゃ報酬を寄越せ!」

 

 そんな光景を前にして、最前線にいたイリヤが僅かに身を引く。

 怪人と直接に戦うのとは違う、周囲の空気に漂う恐怖感。

 それに影響された意識が、バーサーカーの狂化に押され始める。

 

「な、なに……? あの人たち……」

 

「イリヤさん、心を強く持って! もしくはカードの排出を……!」

 

「―――ダメ……! もしもの場合のために……まだ……!」

 

 イリヤが胸を押さえながら、少しずつ退く。

 バーサーカーは解除できない。

 いまこの土地で最も警戒しなくてはいけないのは、アナザーカブト。

 戦闘中で他に向ける意識が疎かになる以上なおさらだ。

 いつ復活してくるか分からない以上、すぐに対応できる状況は維持したい。

 

 心を揺らす少女の前で、怪人となった男はゆらりと立ち上がる。

 そして割れて歪んだ宝石の顔が、周囲の連中を一通り見回して。

 

「……生憎だが、いま払えるもんなんてありゃしない。

 死にたくないなら逃げろよ。俺には止める気もないんでな」

 

 それを聞いた人間たちが、迷う事なくこの場に背を剥けていく。

 僅かばかりの戸惑いさえなく、彼を見捨てて逃げていく。

 

 ―――仮面の下で、燕青が笑う。

 よかった、と。

 

 だってそうだろう。

 見返りなく命なんて懸けられてしまったら、どんな顔をすればいい。

 これが当たり前。

 何も得られない、勝ち目のない戦い。

 そんなもの、主を見捨ててでも逃げ出すのはごく自然な事だった。

 

 罅割れた宝石の魔人が拳を構える。

 もう詰んでいる。カルデアの総力に囲まれているのだ。

 攪乱があればまだ逃げられたかもしれないが、もうここには誰もいない。

 一回逃げ損ねた時点で、ここでアサシンの命運は尽きた。

 

 彼を前にして、ジオウが問いかける。

 

「……あんた、このまま黒幕の方のモリアーティに協力して何かあるの?」

 

「はは、はははははは! 応さ、あるとも! 栄華だ! 俺には栄華が約束されている!

 この計画が成就した暁には、俺には全てが与えられる!」

 

 響く声には喜悦だけがある。

 やっと前にした、欲しかったもの。

 それを手に入れられるのであれば、是非もないと。

 

「この星を滅ぼした後に栄華ねぇ……」

 

 店内からこちらを追跡してきた魔獣の残り。

 ワイバーンを撃墜するのに回ったオルタが、馬鹿を見る目をそちらに向ける。

 そんな視線に仮面の下で笑みを浮かべ、アサシンが応じた。

 

「ああ、そうさ! だがこの星の命運なぞ、俺に何の関係がある!

 俺には与えられる! 約束されている! ただただ栄華が!」

 

「そんなの、意味が……!」

 

 吼える燕青。彼に対して声を上げるイリヤ。

 だが少女の叫びを塗り潰し、彼の言葉が続いた。

 

「意味? ハハハハ! 意味なんざ要るものか! この星が潰える前に、俺と言う星の記録がさっぱり消えれば知った事か!

 我が半身となったドッペルゲンガーの力は、他人に化ければ化けるほど、その記憶を己の中に積み上げていく! 線引きはない! 生きれば生きるほど、自己が曖昧になっていく!」

 

 悲しむように。そして歓喜するように。

 燕青は己と一体化したもう一人の自分の特性を語る。

 その力を使う度、あらゆるものが塗り重ねられていく。

 

 ―――浪子燕青は己を塗り替えていくこの力を嫌い。

 同時に、この力を使うごとに燕青ではないものになっていく事に喜悦した。

 

「だがそれでいいさ! 名も記憶も魂も、薄れて消えるならそれでいい!

 何も無くなった俺の身は、俺が手に入れた栄華が証立ててくれる!」

 

 自分の中に積み重ねて築いた自己ではなく。

 外に打ち立てた自分の功績、栄華こそをもって己を己と証明する。

 それでいい。それがいい。

 薄れて消える自我なんて小さいものより、外に積み上げた偶像が自分であればいい。

 そうであったなら、自分にこだわる必要さえないのだから。

 

「栄華というものが、何もかもを失くしても残るものであったなら!

 命を懸けて手に入れるべき、己の支柱になりえるものであったのなら!

 それこそあの主人が目を眩ませたのも道理だろう? それを見捨てた男の方の過ちだ!

 手に入れた分で足りなけりゃここで俺は溶けて消える、ただそれだけ!」

 

 物語の中に溶けて消えた男が叫ぶ。

 もはや自分とは何なのかさえ判然としない。

 けれどそんなもの、ドッペルゲンガーとなる前からの話だ。

 何がしたかった。何を求めていた。どこに向かっていた。

 

 ―――その最期は、どこに辿り着いた。

 

「あんたは……」

 

「ハハハハハハハハハ―――――!

 光が強けりゃ目が眩む! 目が眩めば足取りを誤る! そんな、ただ当たり前のことがあった! 希望ってのは正気を奪うための目潰しさ! それに引っかかった奴の足を取って掬って転がして、積み上げていくのが栄華なんつう浅ましき人の業!」

 

 この新宿に栄華を築いていたアサシンが奔る。

 即座に対応するのはセイバー。

 聖剣と拳が空中で交錯し、火花を散らす。

 

 ぐらつくアサシンに対し、セイバーの剣撃には一切の淀みなく。

 弱っていようが、確実に削り落とすための攻撃に見舞われる。

 そんな手加減無用、敵に対して見せる必勝の態度こそが心地いいと。

 アサシンが呵々と笑い声を張り上げた。

 

「この無頼漢を支えてた誇りと矜持はもうありゃしない! どこに置いてきたかさえも覚えちゃいない! 俺にあるのは、この世界で名と記憶を切り売りして積み上げてきた栄華だけ!!」

 

「……それで、あんたは満たされたの?」

 

「この身、この器を捨てた、と言った!

 もはやこれは何物でもない、何を入れるべきかも知らぬ木偶人形さァ!」

 

 アサシンの拳が消える。

 影すら追えぬばかりか、影すら映らぬ無影の拳。

 伸長することを考えれば、もうどこを殴ろうとするかさえ分からない。

 

 それに舌打ちしつつ、セイバーが目を見開く。

 魔力が漲り、彼女の装束が漆黒の鎧へと変わる。

 鎧で耐え、致命傷は直感で防ぎ、強引に突き破ると宣言するような姿勢。

 

「魔力を回せ、マスター! 強引に押し切る!」

 

「え、ええ……!」

 

 セイバーが加速する。合わせ、アサシンの拳が加速する。

 聖剣で斬り落とせない堅牢さに加え、視えない腕。

 それがセイバーの踏み込みさえ阻み、むしろ押し返していく。

 

「ちぃ……ッ!」

 

「嗚呼、チクショウ……! 俺の拳、化け物みたいな王様にも通じてらァ!

 ―――おれ、何でここまで頑張ったんだっけ……!」

 

 セイバーが加速する。それを凌駕し、アサシンの拳が加速する。

 剣で弾き切れず、鎧に届く一撃が無数に生じる。

 直感が知らせる命に届きうる一撃。

 積極的に防ぐのはそれのみにして、セイバーが強引に攻め抜くために踏み込む。

 

「……そう言う割に。ドッペルゲンガーの力でどれだけ自分が曖昧になっても、それでも忘れられないんでしょ。自分が心に抱えたままの絶望が、そこにあり続けてるんだ」

 

「―――――」

 

 ぴくりと揺れて、アサシンの動きが一瞬止まる。

 結果として彼はセイバーに踏み込まれ、胴体に聖剣の一振りを叩きこまれた。

 弾き飛ばされる怪人。追撃として放たれる、クロエの投影した剣群。

 

 無数の鋼を、伸ばした腕を鞭にして薙ぎ払う。

 そうしながら着地した彼が、ジオウに顔を向けた。

 

「あんたの拳は影でさえ追えないけど、あんたの心にはずっと影がかかったままだ」

 

〈龍騎!〉

 

 既にディケイドウォッチを装填したドライバー。

 それを回転させながら、ソウゴは更なるウォッチを起動した。

 

「……あんたが目を背けてる鏡に映ってるのは、ドッペルゲンガーなんかじゃない。

 いまそこにいる自分自身だ」

 

〈アーマータイム! ワーオ! ディケイド!〉

〈ファイナルフォームタイム! リュ・リュ・リュ・龍騎!〉

 

 影を重ねて鎧と為し、そこに龍騎の力を更に纏う。

 炎上するジオウの肩と胴体、コードインディケーターに浮かび上がる文字。

 “リュウキ・サバイブ”。

 

「自分で自分にかけた影を晴らせるのは、自分だけだろ」

 

 炎上しながら歩み出し、彼がセイバーに並ぶ。

 同時に更にその隣に黒ウォズが並び、『逢魔降臨暦』を手にしながら祝福を告げる。

 

「祝え! 全ライダーを凌駕し、過去と未来をしろしめす時の王者!

 その名も仮面ライダージオウ・ディケイドアーマー龍騎フォーム!

 果てなき戦いの道を歩みし王が、新たなる力を継承した瞬間である―――!」

 

 もう慣れ切った空気感で流される祝福。

 黒ウォズはそれに少し不満そうにしつつ、ジオウの横から一歩退く。

 

 ジオウがセイバーへと視線を送る。

 その意図を読み取って、彼女が眉を吊り上げる。

 時間も余ってるわけではない。ライダーがいつ復帰するかも分からない。

 この状況なら、戦力を注いで一気に磨り潰すのが正解だろうに、と。

 

 確認するようにマスターに視線を向けたセイバー。

 そちらからも同意を受けて、彼女は呆れるように剣の切っ先を僅かに下ろす。

 

 首を鳴らしながら胡乱げな様子でそれを見つつ、アナザーウィザードが構え直す。

 

「……いまさら影を晴らして何になる。俺の物語は、()()()()()()()事で閉じた。

 結末をどうこうしようなんて、もう思っちゃいないんだ。そこにあった筈の怒りも悔やみも、二度と見つからなくなることで決着した。だったらもう俺は、そっから先だって何も見ないのが真っ当な在り方ってこった――――!!」

 

「―――本当にそう思ってる?」

 

 向かい来るアナザーウィザード。

 その怪人を前にジオウがライドヘイセイバーを呼び出し、更にウォッチを一つ手にする。

 それをヘイセイバーへと装填し、ハンドセレクターに指をかけた。

 

〈フィニッシュタイム! ヘイ! ウィザード!〉

 

「何かが違えば、そんな終わり方じゃなかったかもしれない。

 そう思う自分を、ドッペルゲンガーの影で隠したいだけじゃないの?

 止まらなかった主への怒りも、止められなかった自分の後悔も」

 

 ジオウが手にした剣を放り上げる。

 同時にドライバー上で解放されるディケイドウォッチ、龍騎ウォッチの力。

 

〈ウィザード! スクランブルタイムブレーク!!〉

〈リュ・リュ・リュ・龍騎! ファイナルアタックタイムブレーク!!〉

 

 上空でライドヘイセイバーが輝く。

 ライドウォッチベースに装填された、ライドストライカーのウォッチが脈打つ。

 炎と魔力に覆われて、ライドストライカーが変形を開始。

 

 龍にして龍騎を騎乗させるマシン、烈火龍ドラグランザー。

 竜でありウィザードのマシンと合体する、ウィザードラゴン。

 二頭の騎竜の力を受けて、バイクから機龍に変質するライダーマシン。

 頭上で発生した炎のドラゴンを従えて、ジオウが燕青を見据えた。

 

「隠せないよ。何より、あんたがあんた自身に抱いてる気持ちだからこそ。

 自分の心の底に残った想いは、絶対に隠せない。

 たとえどうやって塗り潰そうと、忘れることなんてできやしない。

 他の誰に分からなくたって、あんた自身だけには分かってることなんだから―――!」

 

「知った風なことを……!」

 

「自分でも自分を誤魔化せないから、せめて隠そうとしたんだろ!」

 

 ジオウが奔る。対抗するアサシンの拳。

 あらゆる行動の機先を制し、彼の拳は相手に己の影を踏ませない。

 それでも、一方的に殴打されているジオウは、退かない。

 

「けど、それじゃ何も変えられない……!

 『自分の物語は、全部分からなくなってしまったところで、おしまいだったから』

 そうやって、“ちゃんと終われなかった”って言って、負けた自分から、もう負けてる自分から逃げてるうちは、次の自分に進めないだろ!!」

 

「―――――――」

 

 どうやって終わったか分からない。

 どうやって終わってしまったか分からない。

 ちゃんと終われたかどうかすら、分からない。

 

 物語―――水滸伝の中において、燕青は裏切りを予測し逃避を主に提案した。

 だが、私には栄華が約束されている、と。彼の主は燕青の予測を杞憂だと一笑に付した。

 この愚かな主は何を言っても聞かないだろう、と。

 主の事をよく知っていた彼は、どうにもならない結末を前にして、主の前から姿を消した。

 

 彼が姿を消した後、彼の主は燕青の予測通り裏切りに会い命を落とした。

 ―――そこで終わり。

 

 彼がどうなったかは分からない。彼の行方は誰にも分からない。

 裏切りを予感し、主を動かせず、独りで利口に生き延びて―――それで、おしまい。

 勝利もせず、敗北もせず、存命だけど、何もせず。

 

「俺の、ッ、……結末、は!」

 

「何より自分で分かってるだろ―――! あんたは、見捨てて、逃げて、負けたんだ! 負けられなかったんじゃない! あんたはあんたの主より先に負けたんだ! 命を長らえたからって、負けてないわけじゃない! 少しでもマシな負け方をできるように、力を尽くした! そうしてあんたたちは揃って負けて、あんただけが生き残れただけだろ!!」

 

 そうしてぐらついたアサシンの顔面に、ジオウの拳が突き刺さる。

 ウィザードの力はそこにはない。

 クリーンヒットはせずに、ただ怪人に蹈鞴を踏ませて押し返す。

 

「なら、次を見ろよ! 負けてでも守り抜いた命で、どこへ向かうか決めろよ!

 それは……あんた自身にしかできないことだろ!!」

 

「―――ねえよ……ねえんだよ!

 そこが終わりの俺に、次に行くべき場所なんかねえんだよ――――!!」

 

 即座に復帰する燕青の放つ拳撃。

 その卓越した技巧が繰り出す拳は、ジオウが彼に一発入れる内に十発やり返す。

 

「だったらもう、“此処にいた”、と! 見上げた誰にでも分かるように、此処に!

 醜悪だろうと栄華でも積み上げて、証明にしておくしかねえだろうが!!」

 

「……そうやってまた逃げるの? そんな自分に、自分で納得できるのかよ!

 あんたが証明したいことは、あんた自身だけの事じゃないだろ! 何よりあんた自身が! 見捨ててしまった主と自分は、切り離せるものじゃないって思ってる! 誰より自分が納得してないのに、ドッペルゲンガーを盾にして自分の心から逃げるなよ!!」

 

 拳の応酬。アサシンの優位は揺るがない。

 拳同士で競って、ジオウが彼を上回れる道理がない。

 彼こそは浪子燕青、燕青拳という一つの流派を成立させるほどの侠客。

 

 何一つ薄れてはいない、彼と言う男が積み上げた拳の極み。

 それを総身に受けながら、ジオウがその場で踏み止まる。

 

「ドッペルゲンガーが化けた人間の記憶を積み上げていくものなら。

 だからこそ、いま一番底にあるのはあんたの人生だろ……!

 そこに決着をつけないまま何を積み上げ続けたって、あんたはあんたを隠せない!!」

 

 振り抜かれる燕青の拳。

 乱打の嵐に雑音は混じらず、確かに彼の技巧がそこにある。

 影すら追えぬその拳を正面から受け、ジオウはその見えない腕を両腕で掴み取った。

 

「あんたが積み上げようとした栄華の土台になれるのは……!

 いつだって! 自分っていう、人間だけなんだから―――――!!」

 

「―――――!」

 

 瞬間、空から龍の息吹が降り注ぐ。

 天空から舞い落ちる無数の炎弾が、彼ら二人の周囲に着弾する。

 大地に落ち、天まで立ち昇る炎の柱。

 それに呑み込まれて、燕青の視界が一瞬ブラックアウトした。

 

 一瞬後に戻ってくる視界。

 そこからジオウの姿が喪失していることを真っ先に理解して―――

 

「……別に、栄華なんざ欲しいわけじゃなかったさ」

 

 天空から、変形しながら地上に迫りくる竜の姿を見た。

 竜とマシンが組み上がり、描き出される姿はまるで巨大な竜の足。

 龍の炎が渦巻いて、その中に囚われた敵を撃滅せんと竜の爪が降り来る。

 

「―――結局、どっちも莫迦だった。

 止まらなかった主人も、止められなかった従者も、どっちも」

 

 炎の渦の中で、全てが焼け落ちていく。

 積み上げた虚栄の塔が崩落していく。

 そうした地獄に身を置いてみれば、莫迦みたいな独白まで零れ落ちた。

 

「……だったらせめて、仕方なかった理由くらいこじつけてやりたいだろ。

 あの愚かな主人が求めたものは、それだけする価値があるものだったのだ、と。

 命惜しさに逃げた愚かな従者は、それを解さぬ不明だったが故に背を向けたのだ、と」

 

 迫りくる竜の破壊。

 その威力に、アナザーウィザードが砕け始めた。

 

「だが、結局。どっちも自分の足取りさえ覚束ぬ莫迦だったわけだ。

 何が悪かったかと言えば、主従揃って莫迦だったところ、というだけ」

 

 霊核と共に崩壊を始めたアナザーウォッチ。

 再びの死を目前にして、彼はいたたまれないとばかりに失笑する。

 

「手に入りそうな栄華に希望を見て、目を眩ませた主人。

 その足が止められないと知るや、勝手に絶望して姿を眩ませた従者。

 同じ場所にいて、肩を並べてたってのに、ああも観てるものが違っちゃあな……」

 

 既に終わった燕青に、機竜の爪が確かに届く。

 地上に叩きつけられて、地面を引き裂く竜の一撃。

 完膚なきまでに砕け散るアナザーウィザード。

 

 それと同時に消失した竜。

 その上から蹴りつけていたジオウが、地上へと降り立った。

 

「……こんな有様だったんだ、仕方ない。どうしようもねえ。

 俺たちは、愚かな主人とそれに仕える愚かな従者だった。

 ただ、たったそれだけの話だった」

 

 地面に埋まり、金色の光に変わりながら、燕青が乾いた笑いを漏らす。

 

「―――ドッペルゲンガー。自分のない誰かの映し身、誰かの影でしかないもの。

 ……ああ、まさしくお前は俺だった。どこまで行っても、何と言おうと、俺という男の天命は我が主と共にあった。それを後悔することはない。だってのに、影が主人を置いて自分だけ、どこかに行っちまったらそりゃあ……それはもう、誰でもないって話だ」

 

 四肢が、胴が、解れて光になって消えていく。

 首だけで引き攣った笑い声をあげる彼。

 

「つったってよぉ……まったく、権勢におもねらない我らが星が、栄華に目が眩んで地に堕ちてたら世話ねえって話だぜ」

 

「そう言って、その人を止めたかったんだよね。あんたは」

 

 炎の中で立ち上がるジオウ。

 これからライダーも相手にする気だろうに、随分と無駄な消耗をしたものだ。

 馬鹿げてると思いつつ。

 

「ハ、言って止まる人だったら苦労してねえさァ……」

 

 アサシン、浪子燕青が光に溶けていく。

 笑い飛ばそうとして、しかしそれには足らずに悔やむような声で。

 手に入らない栄華を夢見て死ねたならまだ良かったのだけど。

 結局彼は正気を完全に飛ばせないまま、そんなもんありゃしないと理解していて。

 

「まったく……我が主が反省しない輩でな……ついていくのも、楽じゃねえ……けど。

 そこが、確かに、俺も望んでたはずの、居場所だったって――――」

 

 まったくろくでもない主であった。

 そして、掛け替えのない居場所であった。

 

 それにしたって。

 これだけやっても、同じ結末にさえ辿り着けないなんて。

 一体どれだけあの主は―――主従揃って、一体どれだけ愚かだったのやら。

 

 

 




 
 妖精め、ケルヌンノスにしたことは許さねえぞ!

 え!?ハベにゃん自前でNP100用意できてステラできるの!?
 スキル2とアペンド2即レベル10にしました!!!!
 これから自爆よろしくね!!!!!!!!!!!!!!!!

 妖精は醜い、人も醜い、それでも…生きているんだなって…
 
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