Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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弾丸ロスト1999

 

 

 

「―――配置、完了しました」

 

「そうか。まあ、適当にやっておけ。貴様たちなぞいてもいなくても変わらん」

 

 敬礼してみせる黄色いフルフェイス。

 その後ろにはまったく同じ装備の人間が百人以上。

 彼らこそが幻影魔人同盟の兵隊、雀蜂。

 

 もっとも彼らはとうに存在の目的を完了している。

 彼らはシェイクスピアの世界観がある程度進むまでの間に合わせだ。

 怪物が跋扈するようになった今の世界で、彼らを必要などしていない。

 

 彼らに対し鬱陶しげに返し、アーチャーは周囲のビルを見渡した。

 文句もなく仕事に戻っていく雀蜂。

 

 さっさと薙ぎ払われるだろうが、ただの人間だからこそ殺されもしないだろう。

 いっそ纏めて殺されてくれた方が彼としては楽なのだが。

 

「―――――」

 

 雀蜂は彼に対して与えられた枷だ。

 

 片目を瞑り、思考に耽る。

 この世界では勝者と敗者が明確に線引きされる。

 突破方法こそあるが、彼はその方法を行使することはできない。

 

 そして彼は“負けた後に動く者”と定義されたもの。

 彼が自分の目的を優先して動く時、そこには“間に合わなかった”という事実が生じる。彼が彼の目的を以てモリアーティと敵対した場合、“モリアーティは目的を果たせた”ことになる。

 

 ―――こうなる前に動かねばならなかった、と今更考えてももう遅い。

 これこそ常に間に合わない男の面目躍如、というワケだ。

 

 だからモリアーティは彼という駒を自由に動かせる。

 モリアーティの目的と彼の目的は決して噛み合わない。

 実際には敵対関係なのだから当たり前だ。

 敵対関係が確定している上で、彼がモリアーティに敵対してはいけない状況。

 

 だから裏切りの余地などない。

 裏切られたら、それはそれでモリアーティの得になるようになっている。

 

「……問題はカルデアがどこまで掴んでいるか、だが」

 

 この世界はもう強い弱いで語る世界ではない。

 勝利の要因と敗北の要因だけを天秤に乗せた、事務的な計算だけが勝敗を決める。

 

 そうするために、あの魔人どもは全てを重ね上げてきた。

 基礎から丁寧に、丹念に、この都市を築いてきた。

 求めた最後の一瞬のためだけに、此処に至るために全てを懸けてきた。

 

 だから、奇蹟の逆転の可能性など残されてはいない。

 

「―――まぁ、どうあれ仕事がいつも通り後始末になるだけか。

 掃除屋の特性まで利用されては、こちらとしてはどうしようもない。

 抑止の仕組みから完全に攻略されていた、というだけのこと。

 撃たれた弾丸如きが気を揉んでどうにかなるような話でもない」

 

 そう呟いてくつくつと嗤い、アーチャーが肩を震わせる。

 すると、そこで彼の前で整列していた雀蜂の一人が声を上げた。

 

「ダイヤ4から通信。こちらに向かうバイクらしきエンジン音を確認」

 

「なに? 奴のバイクは既に撃ち抜いたはず。騎士王の魔力に耐えるバイクなどそうは―――

 いや、仮面ライダーの装備にあったな。ならばそれか。

 ……正面はオレが備える。スペードは左、クローバーは右に展開しろ」

 

 燕青、ロボと連戦をこなした常磐ソウゴを前には出すまい。

 ならばその装備をセイバーが使っている、と考えるのが妥当。

 まあ相手が誰だろうとこちらの初動は変わらない。

 英霊だの仮面ライダーだの相手に有効な戦術が打てるほど優れた戦力ではない。

 

「了解」

 

 乱れない、統率の取れた動きを見せる雀蜂。

 二部隊は新宿各地に展開しているため、ここにいるのは総数の半分。

 そんな半分でしかない二部隊でも、人数は百を超える。

 

 当然だが、雀蜂とサーヴァントの自力の差は隔絶している。

 が、カルデアがなるべく殺人を避けて戦闘する、というなら面倒極まりない状況だ。

 

 ―――アーチャーはまだモリアーティの駒。

 雀蜂の隊長として任命された以上、その仕事を果たさなければならない。

 指揮を放棄すること自体が、モリアーティに対する反逆である。

 従っても従わずともモリアーティのためにしかならない。

 

 そういうことである以上は。

 裏切って相手を“間に合わせる”よりは、こっちの方がまだマシだろう。

 

「ダイヤ2から通信。目標がビルを挟んだ通りを時速300キロ程度で通過」

 

「……また地上で出すには随分なスピードを。

 ダイヤ2の位置からその速度でここへ迎えば、到達まで残り二十秒といったところ。

 構えろ、到着二秒前から斉射する。足を遅くできれば上出来だ」

 

「了解」

 

 整列した兵士たちが、百以上の銃口を同時に動かす。

 向ける先は当然、これからバイクが姿を見せるだろう位置。

 

 この世界で、とはいえ通常兵器で騎士王は討ち取れまい。

 雑兵を百人並べて殺せるなら、あれは剣の英霊などやっていない。

 

「十秒前―――五、四……」

 

 投影される剣弾を撃ち出すための改造ライフル。

 それを構えながらのアーチャーの声に合わせ、雀蜂たちが銃を持つ手に力を籠める。

 

 カウントが二になった時点で斉射開始。

 当たる当たらないすら考える必要はない。

 ただ弾幕で足を鈍らせ、彼がライフルで撃ち抜くだけだ。

 

「三」

 

 ギチリ、と銃爪が軋む音。

 それを塗り潰すのは、街に轟くエンジン音。

 此処まで至ればもう鉄の騎馬の咆哮はこちらにも届いている。

 爆速で迫りくる標的の位置情報に目を細め―――

 

「撃て」

 

 開始される発砲。叩き付けられる弾丸の雨

 侵攻してくる敵は時速300キロのままこの中に突っ込む事になる。

 だが敵こそ剣の英霊。それすらどうにか凌いでみせるだろう。

 が、そうして足を止めた瞬間こそが弓の英霊の狙うところ。

 

 アーチャーがライフルにかけた指に力を籠める。

 弾丸が殺到していくのを見ながら、その先に姿を現すはずの標的を睨む。

 残り一秒。その先に、彼は既に射抜いた敵の姿を想起して。

 

「“虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)”―――――!!」

 

「なに――――?」

 

 半秒後、視界を覆うほどの巨大な何かが眼前に現れた。

 現界するのは巨大な剣。

 神なる武装としての神秘など想定しない、ただの絶対的な質量の塊。

 単純に数十メートルあるだけの巨大な剣が、ただ突然に現れて。

 空中から落下する勢いのままに、バレルへと叩き付けられた。

 

 それ自体でバレルに大した傷は与えられない。

 この巨大な剣には質量以外に見る所がない。

 以上に、今のバレルは既に破壊できるものではないからでもある。

 大剣の刀身がバレルの壁に乗り、勢い柄が地面に落ちてアスファルトを抉り。

 

 そうなった結果。

 巨大な剣がただ、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 バレルの前方に展開していた部隊は、全員その屋根の下。

 大剣の刀身に阻まれて、目前も頭上も見えなくなる。

 

 瞬間、エンジン音が今まで以上に高らかに。

 前から聞こえてきていた怒号が、空へと跳んだ。

 

「神造兵装のハリボテを橋に……! 小癪な―――!」

 

 上に見上げる幅広の刃。それは最早彼らの頭上を覆う天蓋だ。

 如何に中身のない紛い物とは言え宝具、雀蜂の装備では大した傷も与えられまい。

 接敵以前にばら撒いた弾丸は、全てイガリマの刀身に阻まれている。

 

 彼女たちはこの剣を足場にしつつ、更に斉射からの盾としてみせた。

 

 アーチャーが即座にライフルごと剣弾を破棄。

 そこに上がるためワイヤーを頭上に射出しながら、舌打ちを一つ。

 

 ハリボテとは言え、今からライフルで打ち砕くにはイガリマは厚過ぎる。

 装填していた剣は貫通力重視。粉砕するには破壊力が足りない。

 通常なら刀身に穴でも空ければ想定された基本骨子がずれ、崩壊する。

 だがこの規模(サイズ)の剣となると、多少損傷させても崩し切れないだろう。

 だから確実に粉砕する必要がある―――が。

 いまさら破砕力重視の次弾を準備していたら、相手がバレルを昇り切る。

 

 別に彼女たちはバレル、モリアーティを目指すわけじゃないだろう。

 だがバレルに昇られるという事は、この贋作者(フェイカー)に上を取られるということだ。

 それが面倒だと誰より知っているから、無視はできない。

 

 イガリマの端にかかり、火花と擦過音を撒き散らしながら巻き取られるワイヤー。

 その勢いに運ばれて、アーチャーの体が舞い上がる。

 彼は体を振ってバレルにまでかけられた剣の橋に乗り込んで―――

 

「―――――!」

 

 ゴウ、と。目の前を通り過ぎていく乗り捨てられたバイク。

 時速300キロの質量兵器を何とか躱し、彼は巨大な刀身に着地した。

 濁った目をバイクが来た方向に向ければ、そこにいるのは黒い鎧を着た女。

 魔力を漲らせた、セイバーのサーヴァント。

 

「……囮にしては随分と派手にやってくれる」

 

「―――元より私の標的は貴様だ、アーチャー。

 貴様が何を目的にしているかは知らんが、関係ない。此処で斃れろ」

 

 構えた聖剣が振るわれ、その衝撃が僅かにイガリマの刀身という足場を削る。

 漆黒の魔力を迸らせる竜を前に、アーチャーが口元を皮肉げに歪ませた。

 

「ハ―――それが出来たら楽なんだがなァ。

 生憎だが、悪党が刻みつけた痕跡を全て消すのがオレの仕事だ。

 これから始まる予定のオレに仕事を果たさせない、というならば。

 先に掃除屋が召喚される要因、どこぞの悪党が企んだ計画を潰してくるんだな」

 

 男の手の中に出現するのは黒白の陰陽剣―――の面影がある、双銃剣。

 

 地上に向かって剣を飛散させつつ、クロエがちらりとそれを見る。

 展開する剣を銃弾からの盾に。射出する剣を銃を斬り捨てる弾丸に。

 彼女は一人で雀蜂を制しつつ、アーチャーに対して意識を向けた。

 

 百人に囲まれては事だが、雀蜂は飛べない。

 戦場をイガリマの上にしてやれば、彼らは地面についた柄から上ってくるしかない。

 展開する方向が限定されれば、彼女の力は手数で負けるような事はない。

 

 剣の雪崩を前に、雀蜂は応戦する。

 だが彼らの装備で対抗できるようなものではない

 単純に剣が無数に上から落ちてくる、というだけでそこは彼らが戦える場所ではない。

 

 上を目指すことすらできず、地面から応射しても剣の壁に阻まれる。

 その事実に歯噛みして、スペード1のトップが通信機に叫んだ。

 

「ダイヤ1……! 応答しろ、ダイヤ1……!

 射線を確保しろ! ビルに上がり奴らの上を取って……!」

 

 スペードとクローバーは総員がここに集結している。

 だが他の連中はまだ街にいるのだ。

 ここからほど近い位置にいる部隊ならば、すぐにでもこちらの援護に回れる筈で―――

 

『こちらダイヤ1。伏兵に襲撃された。

 敵は闇討ちに特化したサーヴァント、未確認だった敵戦力だ。

 ダイヤ1は私を残して既に全滅』

 

「なんだと――――!?」

 

 

 

 

「敵の目的はこちらの分隊行動を確実に処理する事だと思われる。

 分散するのは危険だ。分隊単位では奴に対抗できない。

 全部隊を即刻隊長の元に集結させて、数の優位を活かすべき―――」

 

 そこで意図して言葉を止める。次いで、腕に絡ませたストールに力を加えた。

 頭にストールを巻きつけられた男が一人、そのままビルの壁に叩きつけられる。

 インパクトの瞬間に拘束を解き、解放される雀蜂。

 

「ガァ……ッ!?」

 

 正真正銘の悲鳴。それを最後に男は気絶し、床に転がった。

 そんな声を通信機越しに拾った雀蜂から安否を問う声が返ってくる。

 が、それに何も答えずに彼は通信機を手放した。

 

 通信機はカンカンと乾いた音を立て、床に転がる。

 それを踏み潰しながら、黒ウォズはゆるりと溜め息を一つ。

 まだ動けるような相手がいない事を確認して、彼はストールを引き戻し。

 そうしてから、『逢魔降臨暦』を抱え直した。

 

「やれやれ、まったく人使いが荒い」

 

 ソウゴには近くのビルの屋上で休んでもらっている。

 近場ではあるが、雀蜂が来るような場所ではない。

 黒ウォズもそこでこの戦いの顛末を見守る気だったのだが。

 

 ―――そういえば黒ウォズってさ、ツクヨミたちのレジスタンスを騙し討ちしたんだよね?

 

 利用したのは事実だが、別に騙し討ちしたわけではない。

 そもそもあの襲撃計画自体、オーマジオウはとうに知っていた事である。

 黒ウォズの行動如何に関わらず、計画は崩壊していただろう。

 

 ……などと言い返したりはせず、仕方なく彼の指示に従って動いているわけだ。

 

「……さて。個々の練度はそこそこ、部隊間の連携はそれほどでもない。

 統率するリーダーのやる気の無さの表れだろう。闇に沈んだ男が率いる部隊は、完全調和には程遠い、という事かな。まあ、これで十分撹乱できたとしよう」

 

 崩し切れはしないだろう。

 が、全部隊が行動するのに二の足を踏む状況にはできたはずだ。

 通信内容こそ怪しいが、事実としてダイヤ1は壊滅した。

 彼らはもう、唐突に自分たちが全滅する可能性を否定できない。

 そんな事をしようとしているサーヴァントは実在しないが、無視できなくなった。

 

「これで彼らは疑心暗鬼に落ちた烏合の衆。彼女たちに任せてしまえばいい。

 後はさっそく乗り捨てられたライドストライカーを回収しなくてはね」

 

 そう言いながら外を見る。

 セイバーに乗り捨てられたマシンは、そのままバレルに突っ込んでいった。

 恐らくはバレルの1階ホールに転がっているだろう。

 幾度となく酷使されるジオウの愛機に肩を竦めつつ、彼はゆるりと歩き出した。

 

 

 

 

「―――ああ、まったく。手抜きが過ぎたか。相手と言えば暴徒か壊れたファントムの人形くらいなもので、真っ当な敵との戦闘など経験もない有象無象。であれば、この結果は順当だろうさ」

 

 聖剣と銃剣が打ち合い、銃剣が砕け散る。

 同じものを再投影しながら、アーチャーはそう吐き捨てた。

 

 眼下では足並みの狂い始めた雀蜂。

 大元の雇い主であるモリアーティも。直属の上司であるアーチャーも。

 彼らにとっての女王蜂である事は、完全に放棄していた。

 そうなれば潰走するのも必然だろう。

 

「仕事の手抜きか。では、そこで抜いた手を一体どこに回していた。

 貴様はルール違反が原因で聖杯に招かれたカウンターではない。モリアーティが始めた聖杯戦争、開幕の七騎。あの悪党には自分から与し、幻霊の混ぜ物とされたわけでもない。

 そんな貴様は一体何を目的として行動していた」

 

「聞き分けのない女だ。仕事で手抜きする自由なぞオレにはない。

 きっちりオレの仕事はこれからだ、と告げただろうに。

 ほんの数分前のことさえ覚えていられない鳥頭か、おまえは」

 

 爆音。

 イガリマを揺らして、セイバーが魔力放出で疾走する。

 二丁の銃剣により張られる弾幕を突き破り、彼女はアーチャーに斬撃を見舞った。

 

 咄嗟に盾にされ、斬り飛ばされる銃剣。

 衝撃に弾かれ大きく後退しつつ、彼は即座にそれと同じものを投影した。

 

「ちょっと……! 色々聞き出す前に叩き落としたりしないでよね……!」

 

 剣の弾幕を形成しつつ、クロエが焦ったような声をあげる。

 人数と個人の練度の割に雀蜂の崩壊は早かった。

 このまま行けば数分も待たず、本当にクロエだけで抑えてしまえるだろう。

 その後に彼女もアーチャーに訊きたい事があるのだから、と。

 

 そんな事を言った少女に視線を向け、アーチャーが嘲笑した。

 

「ハ―――役に立たない姿になったものだ。せっかく使い物になりそうな正義の味方とやらは、薄っぺらになって女の中でぐっすりときた。

 まあ、らしいと言えばらしいがな。間に合わないのは、腐っていようがいまいが同じ事だ」

 

 彼の視線を受けて、クロエが咄嗟に自分の胸に手を当てる。

 アーチャーの言葉が、彼女の中のクラスカードを指しているのは疑いない。

 

 そうして嘲笑を浮かべる相手に対し、セイバーが僅かに目を細めた。

 

「……ほう。その口振りでは黒化していない貴様ならば意味があった、と。

 本来、この場には通常の貴様が召喚される筈だった。

 だがこの特異点の影響で意図せず黒化した貴様が召喚された……そういう意味か?」

 

「だろうさ。意図せず黒化したのは貴様たちもだろう。

 そう難しい話でもない」

 

 言いながら銃口が跳ねる。連続で吐き出される無数の弾丸。

 すぐさま反応し、セイバーの振るう剣が銃弾を斬り捨てる。

 全てを片付けた瞬間、彼女の足が強く刀身を踏み締めた。

 

 弾ける黒い魔力の風に押し出され、漆黒のセイバーが加速。

 アーチャーは即座に双銃の柄を合わせると、それを一つの刀剣へと組み替える。

 正面からぶつかり合い、押し切られつつも何とか武装を保つアーチャー。

 

「自分を殺せるものをあらかじめ壊しておく。

 特別何を言うまでもない、誰にでも分かるごく普通の対策だ」

 

「それが貴様を悪党に染めておくこと、だとでも?」

 

「さて、な!」

 

 アーチャーの手から合体させた剣が投げ放たれる。

 が、それはセイバーが撃ち落とすまでもなく。

 彼女の背後から飛来した剣弾が直撃し、狙いを逸らされた。

 

 セイバー手ずから行うべき一手間が省略された結果として。

 眉を顰めるアーチャーに対し、肉薄を果たすセイバー。

 

「―――既に完全に壊されている、というのならなおさらだ。

 これ以上動くことなく、大人しく此処で朽ち果てろ」

 

 大上段から振り下ろされる聖剣。

 アーチャーは再投影した双銃を盾に、しかし容易く粉砕されてそのまま吹き飛ぶ。

 バレルの方へ向け、盛大に刀身の上を転がっていく黒いアーチャー。

 

「ちょっと!」

 

 追撃をかけようとしたセイバーの背にかかるクロエの声。

 それに多少ながら眉を顰めつつ、しかし彼女は踏み込みを控えた。

 剣を手に、歩みで距離を詰めていく。

 

「―――ハ、止まれときたか。馬鹿を言え。

 真っ先に壊したのがブレーキだから、こんなところまで至るんだ」

 

 立ち上がりつつ、再度彼は双銃をその手に顕した。

 そのまま体の状態を確かめるように首を振り、セイバーを見据える。

 交差する、白く濁った彼の瞳と、くすんだ金色の彼女の瞳。

 

「善人を救うために悪人を駆逐する。悪人を殺すためになら善人も殺す。

 善行を是とし悪行を非とする。悪行を糾すために善行を踏み躙る。

 当然の話だ。そのためにまず捨てたのは、邪魔にしかならない人間らしい信念からだとも」

 

「……憐れな男だ。善である事ではなく、悪を裁く事にだけ執心した始末屋。

 アサシンやライダー。他の連中と同じく、目的をどこかに忘れてきたと見える」

 

 アーチャーの腕が銃を持ち上げる。

 ほんの数メートルの間合い越しに突き付けられた銃口。

 しかしそれに脅威など覚えていない、と言わんばかりにセイバーに動きはない。

 そんな彼女の言葉に、アーチャーが嫌味な笑みを浮かべる。

 

「王としての機能に終始した憐れな女からの忠告痛み入る。

 終わらせた貴様はさっさと妖精郷にでも籠っていればいいものを。

 そうでなくともこちらの仕事を邪魔しない場所で遊べという話だ」

 

「善悪の是非も問わず、ただ撃ち抜くだけの殺戮機構。

 何が原因で正義(そこ)から目を背け、厭うようになったか知らないが―――」

 

「うん? いいじゃないか、善と悪の戦争。

 善も悪も食い物にする我欲だけの獣よりは余程まともだ」

 

 銃と剣を突き付け合いながら、交わす言葉。

 そんな中で一際強く嗤ってみせるアーチャー。

 彼の様子に対し、セイバーがきつく眉根を寄せた。

 

「―――――」

 

「相容れぬ、なんて互いにムキになって暴れ回るのはいっそ痛快ですらある。

 結果こそ見るに堪えんが、譲れぬモノのための闘争なんて精神的には健全だろう?

 そういう意味で言えば、モリアーティにしろアレにしろ、オレよりは真っ当だ」

 

 減り始めた雀蜂。壊走を始める部隊。

 しかし地上から弾丸が来る以上、剣幕を切らさないクロエ。

 彼女が余裕が増えてきた戦況に視線を後ろに向ける。

 

 彼がクロエの使うカードの黒化英霊だというのは理解した。

 ここまできて、あれほど能力を見て、それでも真名さえ掴めないが。

 

 直接対峙してさえ、彼女の内包するアーチャーのクラスカードに何も響かない。

 同じ英霊の黒化、反転したものであれば、もっと何か感じ入るものがあってもいいだろうに。

 まるでただの別人であるかのように、アーチャーのカードに反応はなかった。

 

「アレ……?」

 

「そんな戦争の行先。

 ラストが、正義の味方が悪の首魁を打ち倒す場面であるならば、言う事もない。

 帰ってきたヒーローが、救ってみせた無辜の民に迎えられるなら尚良い。

 喝采で物語が閉じるなら、それ以上の事はないだろう?」

 

 まるでモリアーティ以外の黒幕がいるかのような。

 そんな事を仄めかしながら。

 しかし彼は追い詰められた状況を気にもせず、雑談するように言葉を続ける。

 

「そうでない趣味の悪い話を、知られない内に無かった事にするのがオレの仕事だ。

 貴様たち名のある英雄どもは、素直に英雄譚に取り組んでいればいい。

 裏方で不必要なページを破り捨てるのは、オレのような名もなき黒子に任せてな。

 分かったらおまえこそ引っ込んでいろ、聖剣使い。仕事の邪魔だからな」

 

 嗤う男。

 それに対し何とも、何か思う所があるように彼女は一瞬だけ瞑目し。

 

「――――……アーチャー、無銘の英霊。他に言い残したい事があるなら今の内に並べておけ。

 少なくとも、この特異点の貴様は此処までだ。貴様の首は間違いなく私の聖剣が落とす」

 

「……言い残したい事、ね。しいて言えば、オレは正義と悪の戦いになぞ傾倒はしていない。

 オレにとって正義なんてものは、悪に譲れる程度のものだったんだろう。

 最終的に帳尻さえあえば、過程を善と呼ぶか悪と呼ぶかなんぞどうでもいい話だ」

 

 皮肉げに、何かに呆れるようにそう口にして。

 アーチャーはセイバーに向けていた銃口を下ろした。

 そのまま見上げるのは、新宿の星空。

 

「だから。この馬鹿みたいなやり取りに意味があるとしたら―――」

 

 瞬間、空が割れる。

 まるで硝子を砕くように、空間が散っていく。

 それは彼方に繋がる、この瞬間のためだけに用意された隕石の弾倉。

 最後の一発を装填するために使用された、バレルに弾丸を籠めるための機能。

 

 急に出現したその巨大隕石を見上げ、クロエが叫んだ。

 

「なに!? ―――隕石!? なんで……!」

 

 即座に剣を握り直し、アーチャーに向き直るセイバー。

 時間的に考えて、状況はまだ他のメンバーがバレルに到着した程度。

 そんな中でいきなり隕石が出現するなど、想定していない。

 

 この結果を予測していたと言いたげなアーチャーに対し、セイバーが眼光を鋭くした。

 

「アーチャー、貴様……!」

 

「―――それはただの時間稼ぎだろうさ。

 やれやれ、やっと本命の到着。首が落とされる前に間に合ったな」

 

 双銃の片方を放り、彼が撃つべきただ一発の弾丸をそれに籠める。

 これに意味があるかどうかは既に怪しいが。

 ―――それでも、やるべき事をやるのが彼の仕事だ。

 

 

 




 
 本来なら新宿→明治維新→CCC→アガルタだと思いますが、
 このSSでは新宿→アガルタ→CCCと進むでしょう。多分。
 明治維新は分からん……ところで明治維新がどうかなったら平成も消滅するのでは?
 今日から今年は……明治154年だ。
 
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