Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー 作:アナザーコゴエンベエ
―――頭上を黒い閃光が駆け抜けていく。
紛れもない漆黒の聖剣による光。
それは隕石、魔弾だったものの残骸を全て消し飛ばしてみせた。
そんな光景を確かに見届けて。
真っ先に口を開いたのは、ツクヨミだった。
「―――黒ウォズ! ソウゴを!」
「言われずとも」
ストールを回し、黒ウォズの姿がこの場から消失する。
ソウゴは恐らくもう動けない。
隕石を貫き砕いた時点で、完全に力を振り絞り切っただろう。
そうして黒ウォズが離脱するのを見送って。
次に口を開いたのは、モリアーティ。
「……あー、一応訊いておきたいのだが。
何か、この状況を逆転する奥の手を、実は隠し持っていたりしたかね?」
顔を手で覆いながらの彼の問いかけに、立香がゆっくりと首を横に振る。
本当に、何の偽りもなく、彼女たちは負けていた。詰んでいたのだ。
だが、今こうなっている。
―――まあ、それはそうだろうとも。
どれだけ綿密に計画を練り上げたと思っているのか。
不測だったのはモリアーティが立香に感情を向けられるかどうか、くらいだった。
そこがクリアされたのにあんな手段で突破されるなど、考慮しているわけがない。
バアルの方を見れぬまま、彼が数秒黙り込む。
「……そうか。そうか……つまり、完全に私の失態、自業自得というわけだ。
―――すまないね、バアル。私のせいで」
三千年積み上げてきた悪魔に顔を向け、目を伏せる。
ロボを見逃したのは彼の失態だ。
あそこでセイバーを止めなければ、それで終わっていたのだ。
一体何をやっているのか。
これほどまでに煮詰め、そして完遂直前だった完全犯罪は崩壊した。
それを成し遂げたのは他でもない、モリアーティだ。
あまりにも馬鹿らしい顛末だ。馬鹿らし過ぎて笑えもしない。
「―――モリアーティ、何故だ。何故アレを見逃した」
バアルが酷く平坦な声で問いかけてくる。
それに対し眉を顰め、モリアーティが返す言葉にすら迷う。
今更だが自分でも何と馬鹿な事を、と。そうとしか思えない。
「怒りは尤もだ、私は―――」
「怒るかどうかは貴様の答え次第だ、答えろモリアーティ」
言葉を濁らせようとするモリアーティ。
しかしそんな彼に対し、バアルはより強く本音と言うべき答えを要求した。
悩む時間は、たっぷり十秒。
魔弾を撃墜された時点で、もう彼らに撃つべき弾丸は残っていない。
そしてこの状況、もう決着がついたとカルデアも考えているのだろう。
モリアーティとバアルの会話に言葉を挟むこともしない。
だからこそ彼はひとしきり悩み、多分そうだろうという答えを何とか求めた。
「………………同情、だろうか。あの時の私にとって、悪のモリアーティに利用されていることになっていた彼は、酷く可哀想なものに見えたんだろう」
そうして求めた共犯者の答えを聞いて。
―――バアルは怒るでも狂うでもなく、ただ空を見上げた。
「――――そうか…………そうか」
今度は、彼がたっぷり十秒停止する番だった。
その憎悪の煮え滾った臓腑に、一体どれほどのものを押し込めたのか。
黙り込んでいた彼が、ようやっと再び言葉を紡ぐ。
「…………同情。つまりは勝手に抱いた憐憫、か」
停止していた魔神が再起動する。最早、そこに停滞の意志はない。
彼はもう、ただ目の前に立つカルデアどもだけを睨み据えていた。
「―――ならばいい。その感情は、私をも追ってきたものだ。
これは貴様の落ち度ではなく、我らの失態だ。それを計算に入れなかった我らは同罪だ」
『……バアル、キミは』
かつて憐憫の獣であったもの。
彼が、その感情だったならばいい、と。そう口にした。
それが理由で負けたならば、それは自分の敗北も同然である。
経験者であるバアルがその可能性を考慮しなかったせいだ。
だから、同罪。彼らの犯行は、彼らの失敗によって敗北を喫した。
ただ、それだけの話であって。
「―――――そして、それがどうした」
魔神の四肢に力が漲る。
「それがどうした、モリアーティ。何が変わった? ただ我らが抱えていた完全犯罪の計画書が、白紙に戻っただけだ。俺がいる。貴様がいる。そして目の前にはカルデアがいる!
ならば、ならばだ! 勝負を挑むだけだ! 我らが欲するのは完璧な結果か? いいや、もはや形振りなど構うものか! 欲しいのはただひとつ、奴らから得る勝利だけだ―――――!!」
完全犯罪を仕組んだのは何故だ。
決まっている。そうしなければ勝てない、と思っていたからだ。
綺麗に、完璧に、優雅に勝ちたいなどと思ったわけではない。
どんな形でもいい。どんな無様でもいい。どんな惨めでも構わない。
ただ、いま目の前にいる仇敵に勝利したいと願った。
「そうだ、貴様たちだ! 貴様たちが相手でなければ意味がない!
ただ、俺は……お前たちに、勝ちたいだけだ―――――ッ!!!」
そうでもなければもう、自分が自分でいられない。
時間神殿から惨めに逃れる無様を許容したのは何故だ。
そこから三千年耐えたのは何のためだ。
星の救済よりなお強く願った、魔神バアルという個体の欲望は一体何だという。
こんな勝とうが負けようが人理に瑕一つ残らない舞台を整えて。
厭わしく思っていた人間になりきるような真似までして。
「――――バアル」
立香の声に、魔神が彼女だけに視線を合わせる。
真正面から見据えてくる少女の眼を見て、彼は全身を奮わせた。
「私たちは、負けない―――!」
何の怯えもなく、彼女はバアルの前で宣言した。
ほんの少し前に敗北直前まで追いつめられていたくせに。
だがそれでいい。
負けていたくせにそう言って挑み、全部引っ繰り返した前例がある。
何百何千と負けようが、勝利するという気骨を失う理由にはならない。
それでいい。そうでなければ、彼が挑む意味がない。
バアルも同じだ。
何度負けようが、最早それは止まる理由にはならない。
いま正に再度の敗北を喫したが、それは諦める理由にはならない。
「――――――――嗚呼。そうだ、その眼だ! ゲーティアを睨んだ貴様たちの眼!!
いいや、ゲーティアではない! ゲーティアの先に、己らの生きる未来を見据えた瞳!!
俺はそれを挫きたかった! 希望を持てる未来など存在しない、と!
星の始まりから間違えた貴様らに、叶う望みなどありはしないのだ―――!」
「分かっていても、それでも私は言うよ――――!
これからどれだけ苦しい事があって、それがずっと続くとしても!
諦めないし、止まらない……! だって、それが私たちの生まれた世界なんだから―――!!」
「平行線だ! それでいい!! だからこそ競う、だからこそ戦う、だからこそ争う――――!
貴様たちの希望と、俺の抱いた絶望! そのどちらが、目の前に立ち塞がる障害を打ち砕き残るか、ただそれだけを決める戦いが、もう一度やりたかった――――!!」
蠢動する魔神が戦闘状態に移行する。だが形状は崩さない。
聖杯の出力を最大に、しかし彼は柱状にはならず人型を維持してみせた。
彼のその行動の意味を理解し、モリアーティが棺桶に手をかける。
敗者を敗者たらしめる世界観はまだ維持されている。
本来ならば魔人同盟ではどうしようもないが、バアルが取り込んだホームズという駒の御蔭で最低限、戦いにはなるだろう。彼らはいま、主人公である“ホームズ一行”なのだ。
モリアーティとバアルだけならばどうしようもない。が、まだ地獄に垂らされた蜘蛛の糸が残っていた。だが分が悪いのは間違いなく――――
「……失態はこの戦いで返上しよう。私とて、望んでこの場にいるのだ」
彼は立香を見据えながら、そう言い切った。
同時に多目的棺桶“ライヘンバッハ”から銃口が無数に展開される。
実弾からレーザーまで。
それらが狙った対象は、言うまでもなく藤丸立香。
「サファイア――――!」
彼女の前に立つイリヤが動く前に、美遊が前に飛び出した。
そうして展開される物理保護の壁が、吐き出される無数の弾丸を阻んだ。
直後、美遊の発動した防御の更に前方に黒い炎が沸き立つ。
守りを引き継ぐかのようなオルタの動きに、美遊が驚いたように目を瞬かせる。
「――――!」
「イリヤと美遊はバアルを! プロフェッサーはオルタに任せて……!」
「終局再演。発動せよ、焼却式 バアル――――!!」
聖杯から魔力を汲み上げて、魔神が結晶化させ浮かべていた瞳を全て開く。
吹き荒れるのは憎悪の光。敵と睨んだ相手を燃やし尽くす、嚇怒の熱視線。
大規模術式を聖杯で強引に完成させて、バアルは前方を纏めて吹き飛ばしにかかる。
その直前に―――
「
彼女たちの前方に、守護の為の魔法陣が展開される。
ローブをはためかせ空を舞うイリヤ。
彼女が纏ったのはキャスター・メディア。高速神言によって紡がれる神代の魔術。
展開されるのは常より強力な物理保護結界。
激突する熱波と神代の魔術。拮抗する攻撃と防御。
数秒の後、僅かにバアルの放つ閃光の方に戦況が傾いて。
しかし、焼却式を放っていた眼の幾つかが燃え尽き、崩れていく。
その事実に僅か魔神が肩を揺らす。
出力が下がっていく攻撃を前に、再び拮抗する両者の攻防。
『聖杯という動力源があるとはいえ、バアル自身の存在が限界なんだ……! そもそもゲーティアから離脱した状態で、しかしソロモンの魔神は辞めず、そんな中途半端な状態で三千年の間、自身を維持できているだけでも異常だ。戦闘なんてすれば、すぐに崩壊するぞ―――!』
怠惰な男の言葉が耳に届く。
そうとも。統括局ゲーティアからは離反して、しかしソロモンの魔神である事は辞めない。
そんな状態では、彼の機能状態が維持できるはずもない。
だがこの状態で此処に辿り着けなければ意味がなかった。
“あの時負けた魔神”のまま、再び彼女たちの前に立ちはだかりたかった。
―――だから。
「節穴め、俺が崩壊などするものか……! 今更そんな理由で死ねるものか――――!!
例えこの戦いの決着まで万年かかろうと、勝敗をつけぬままに消えられるものか――――!!
自己崩壊などという終わりで納得できるような在り方であったなら、最初からこんな場所にまで辿り着いているものか――――!!!」
「…………っ!」
拮抗が崩れる。物理保護障壁が罅割れる。
全てを燃料として挑み来る魔神の火力に、イリヤの守護が押され始めた。
「サファイア!
蒼の少女の手の中で魔法のステッキが真紅の魔槍に変わる。
同時にクー・フーリンの如き装束に変わった美遊が、魔法陣のすぐ傍に寄った。
振るわれる魔槍の穂先が描くルーン文字。
それが更なる守りの結界を描き出し、バアルの放つ閃光の前に聳え立つ。
砲撃と盾。
双方の光がぶつかり合う位置から大外を回り、オルタがモリアーティを目指す。
「聖杯を持ってるのがあっちって事は、アンタは大した事出来ないでしょ!
今まで好き勝手にやったツケ、さっさと払わせてやるわ―――!」
「……そのツケの支払いを隕石に任せていたのだがね。
まあ、今更だ。共犯者に倣って、ここからは
オルタの振り上げる剣が地面を削り、そこから黒い炎が奔る。
それを阻むためにライヘンバッハから放たれる光線。
モリアーティが無数に放った光が何とかオルタの炎を砕き、塞き止める。
とにかく全ての砲門を展開し、相手に近付かれないような乱射。
言葉とは裏腹の戦法に舌打ちしつつ、オルタが銃弾と光線を迎撃回避しつつ進む。
距離を詰めれば余裕の相手だ。
確実に迫り、首を取る。それこそがオルタの取った手段であり。
―――視界の端にそれを見止め、バアルが力を振り絞った。
「……っ、破られる……! ルビー、もっと魔力を――――!」
「この供給量がインストールが解除されないギリギリです……!」
加速する熱波。バアルの周囲では、続々と眼が焼け落ちていく。
機能停止した眼の分、残った眼が火力を増す。
その無理が次々と彼から眼を奪っていき―――やがて、残った全ての眼が一斉に燃え尽きる。
同時に砕け散って消えるイリヤたちの護り。
「何とか……!」
「次弾、装填――――!」
そうして撃ち合いに一度終わりが来た瞬間、バアルが己の肉体を削る。
その腐肉で新たな眼を形成し、彼は自分の周囲に浮かべていく。
質量を失い崩れてカタチを歪めていく手足に構わず、バアルはただ前だけを見つめた。
『バアルの霊基、削減……! 文字通り、身を削っています――――!』
「美遊――――!」
目の前の光景とマシュの報告。
それを聞いたツクヨミが、サーヴァントの名を呼んだ。
瞬間、青い獣が床を蹴り相手に向かって疾走する。
彼女の手の中には呪力に満ちた真紅の魔槍。
バアルは聖杯によって魔力が尽きない。
だが、彼という魔神にこれ以上の再生はない。ゲーティアから離れた以上、彼はもう魔力があれば再生できる、というような存在ではない。失われた肉体はもう還ってこない。
だからこそ、彼女たちはバアルの肉体を内側から喰い破れるこの一撃を見舞う。
「“
バアルが砲台である眼を展開し切る前に、少女が突き出す呪槍が届く。
彼の動きはけして速くない。それほどの動きが可能な状態ではないのだろう。
故にその一撃は、過つ事無く確かにバアルの胸を突き破る。
「これ、で――――!?」
放たれた一撃。死棘の槍がバアルの魔神核を打ち砕く。
聖杯と一体化しているだろう、と。そう思っていたものがあっさりと砕けてしまう。
そんな事実に攻撃した美遊が唖然としている間に、ゲイボルクは確かにその異能を発揮した。
槍が敵の体内で赤い茨を咲かせ、標的の体内に走り抜けていく。
殲滅されていくバアルの肉体。削ぎ落せる部分さえ無くなるような、体内破壊。
「託すぞ、モリアーティ」
自身が完全に殲滅された事を気にもかけず、バアルがそう口にした瞬間。
彼が肉体と引き換えに既に吐き出していた眼の一つが、モリアーティに向け飛んでいく。
『―――!? 聖杯の反応、バアルから離脱! 今の眼が……!』
「しま……っ!?」
「っ、美遊様! 槍を引き抜いて―――!」
マシュの報告に、飛び去ろうとする眼に視線を奪われる。
そうしたマスターに対し声をあげるサファイア。
だが蒼の魔法少女がステッキのいう事を成し遂げる暇もなく、魔神が動く。
全身に走る茨を体内で締め付ける。
ゲイボルクに変わっているサファイアを引き抜かせまいと固定する。
霊核と肉体を蹂躙され、聖杯まで放棄し、それでも魔神は止まらない。
「ッ!?」
武装を動かせなくなり、一瞬そこで動きが止まった美遊。
隙を見せた少女を、魔神が両腕を左右から叩き付けるように掴みかかった。
咄嗟に対抗しようと腕を上げた少女を、その上から覆うように拘束する。
何とか振り解こうともがくがしかし、それは絶対に逃さぬという意志に満ちていた。
そうしてバアルに捕らわれ、美遊が完全に止まる。
「一人目」
ジャンヌ・オルタに迫るモリアーティが呟いた。
同時に飛来した聖杯が、ライヘンバッハに飛び込み、溶けていく。
聖杯で強化される武装を前にして、竜の魔女が眉を顰める。
「させるか――――!」
「残念ながら遅い。二人目だ」
強化されたライヘンバッハが即座にロケットランチャーを展開。
彼女が渦巻かせている黒い炎の中に、爆発物を乱射した。
巻き起こる爆発は、聖杯の魔力を受けて強化されているもの。
それを至近距離で浴びて、防ぎきれずにオルタが弾き飛ばされた。
尋常ならざる速度で飛んでいった彼女が、バレルの壁に激突して停止する。
「く、ァ……ッ!」
火薬まで強化されるなんてどういう理屈だか。
などと考えつつ、モリアーティがライヘンバッハを持ち上げる。
「征け、モリアーティイイイ――――――ッ!!!」
美遊を抑えつつ叫ぶバアル。
サファイアはバアルの体内に取り込まれているような状態。
それを解消するに最も早いのは、サファイアをステッキに戻す事だろう。
だがそのためには、インストールを解除しなければならない。
「美遊様……!」
「くっ……!」
そうすれば今度は、美遊がクー・フーリンの後押し無しでバアルと筋力勝負だ。
どちらにせよ振り解くのは不可能になる。それどころかこの圧力だ。
サーヴァントの力無しでは、サファイアが手元にあっても押し潰されかねない。
ツクヨミの一瞬の逡巡。
モリアーティに向けるべきか、バアルへと向かうべきか。
一秒足らずの思考の結果、彼女がバアルを目掛け走り出す。
そんな彼女に火力を向ける暇はない。
バアルがどれほど無理をしようと、体勢を立て直した魔法少女との撃ち合いには勝てない。
あのまま足を止めての砲台勝負では、数発ぶつけ合えば負けるだろう。
弾丸を誘導するモリアーティの魔弾の射手は絶不調。
幾ら弾丸をばら撒いたところで、いとも簡単に防がれる。
だというのに、彼が接近戦で勝てるような相手はほとんどいない。
魔法少女、ジャンヌ・オルタ、それどころかツクヨミを仕留められるかさえ怪しい。
彼が正面からぶつかって、接近戦にまず勝てるという相手はただ一人。
「―――では、君たちという星を灼く焼却式を我が最終式に組み込もう」
―――だからこそ、彼は撃ち合いを捨てた。
もう聖杯を恃みに遠距離戦しかできないような彼が、その戦法を捨てたのだ。
バアルは相方の思考を理解し、聖杯を放棄。
その聖杯は、モリアーティのライヘンバッハへと直結する。
聖杯から流れ込む魔力を凝縮し、ライヘンバッハの砲口が焼き付いていく。
全てを懸けた一撃を放つため、モリアーティが床を強く踏み締めた。
「イリヤ……ッ!」
「はい――――!」
行使される神代の魔術。
ルビーが読み取った神言を実行し、彼女の周囲に砲撃のための魔法陣を構築する。
ライヘンバッハの一撃。
それは聖杯から溢れ出す魔力を制御せず、ただ吐き出すだけ。
そもそもの話、モリアーティはそれを制御する術など持っていないのだから。
そんな暴虐に対抗するため、ルビーが並行世界から魔力を汲み上げる。
空中に描かれる魔法陣は五つを数え、その全てに膨大な力が注がれていく。
溢れて弾ける紫電が空気を灼く中、モリアーティが僅かに目を細め。
「“
「
最後の撃ち合いを開始した。
ライヘンバッハから吐き出される砲撃。五門の砲台から放たれる光芒。
激突の瞬間だけ、勝るのはモリアーティの砲撃。
―――だが、聖杯による過剰出力ではライヘンバッハは長い間保つ筈がない。
十秒も撃ち合えばパンクし、逆に魔法の杖に押し返される事だろう。
だから。本当に、全てを注ぐ。
ライヘンバッハには十秒も無事でいてもらう必要はない。
聖杯の有する魔力が一瞬空になるほど、二秒の間で全てを吐き出させる。
そうなるように、バアルが聖杯を調整して吐き出した。
「―――――!? イリヤさん、これは……!」
「く、ぅ、うぅううう……ッ!」
少女が何とかそれに対抗するべく魔力を振り絞る。
必死になれば防げるという時点で、まともにやれば勝てないわけだ。
だが、だからこそ彼らはこうしている。
二秒きっかり魔力砲を吐き出して、ライヘンバッハが全体から火を噴いた。
モリアーティの宝具はこの瞬間、完全に終わった。
代わりに得た状況。
それは、魔力をほぼ全て吐き出す事でインストールが解除される魔法少女の姿。
乾いた音を立てて排出されるカード。
しかしそれでも、イリヤは転身は維持していた。
回復こそ始まっているが、現状で魔力は底をついている。
だがそれでも、ライヘンバッハの無いモリアーティでは突破できない壁だ。
「ま、だ……!」
酷く息を荒げながら、少女が何とか顔を上げる。
視界の先で発生しているのは、砲撃の正面衝突の余波で起きた濃密な魔力の霧。
その霧越しにモリアーティを見据え、イリヤはルビーを構え直し。
「いや、君たちは此処までだ。三人目」
ギャリギャリと音を立て、床を滑ってくる棺桶が目前に迫っている事を理解した。
「―――物理保護全開……ッ!」
ルビーの声と同時、聖杯を抱えたままの棺桶が木端微塵に爆発する。
その場に聖杯たる水晶体だけ残し、複合兵装の弾薬全てがイリヤの足元で爆散した。
イリヤだけでなく、彼女が後ろに庇った立香も吹き飛ばしかねない爆炎。
それを障壁で全て受け止め、少女の体が盛大に弾き飛ばされる。
「イリヤ……っ!」
バレルの壁際にまで吹き飛ばされる少女。
彼女を視線で追おうとして、しかし立香がすぐに正面に向き直った。
そこにあるのは魔力の霧を突き破り、立香を目掛けて駆けてくる姿。
モリアーティの手が仕込み杖からサーベルを抜き放つ。
その姿を見て、立香が僅かに表情を歪めた。
彼女のそんな顔に感じ入るものを、何と言えばいいのか。
そんな自分の思考を打ち切り、彼は別の事を考える。
極論、彼女以外に狙える相手がいないのだ。
自己の戦力は理解はできている。彼は本当に、接近戦が出来ない。
ライヘンバッハを放棄する、という選択の結果として彼はサーヴァントと戦えなくなる。
流石にサーヴァントだ。基本的にスペック上、普通の人間には負けない。
が、ではもう一人のマスターであるツクヨミに勝てるかと言うと。
まあ、普通に攻めきれないだろう。銃にさえ気をつければ負けないとは思うが。
だから、彼らが勝利を目指す上で。ここから逆転を目指す上で。
どうあっても、藤丸立香の殺害を基点にするしかない。
万が一にでも勝機があるとすれば、それしかない。それ以外は確定負けだ。
「―――プロフェッサー」
「恨むな、とは言わんよ」
例え彼女をこのまま殺したとして。
そのまま勝てるかと言うと―――まあ、まず間違いなく負けるだろう。
実に意味の無い殺人だ。こういう無意味な事は嫌いなのだが。
だが、ここで止まるという選択はありえない。
―――そう。挑んだのは、勝機があるからではなかった。
動機は一つ。ただ、ホームズに
彼のその思考がバアルを目覚めさせ、この計画を完全に始動させた。
最初から勝機なんてゼロだった。彼とホームズはそういう関係だった。
1+1が2になるように。1-1が0になるように。
モリアーティとホームズが勝負すれば、ホームズが勝者でモリアーティが敗者だった。
それが正しい公式なのだ。変わる筈の無い、結果が確定した計算式。
そうと決まっているのだから、そこを覆そうとすることに意味はない。
なのに、望んでみたのは何故か。
「勝ちたい……! 負けたくない、負けられない! 勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい――――!!
俺は、貴様たちにィ――――! 貴様たちだけにはァ―――――!!」
とうに消えてもおかしくないバアルが、未だに美遊を拘束しながら咆哮する。
その熱量に押され、モリアーティが立香へと距離を詰めていく。
ジャンヌ・オルタも、イリヤスフィールも、壁際でまだ立ち上がれていない。
どうあっても、もう間に合わない。
『先輩――――っ!?』
マシュの悲鳴染みた声。それと同時、立香の懐から二つのウォッチが顔を出す。
コダマスイカウォッチの弾丸と、タカウォッチの突撃。想定内だ。
出てくるのが分かっていれば、モリアーティでも捌ける程度の攻撃力しかない。
二つのウォッチが飛び出した瞬間、立香が後ろに向かって飛ぶ。
ウォッチの時間稼ぎと合わせて、しかしその程度では五秒にもならない。
オルタがやっと立ち上がれるか、というくらいだろう。
何故、ホームズに勝とうとしたのだろうか。
実は自分がそんなチャレンジ精神に満ちた男だった、というのは信じがたい。
ホームズとの関係など、彼にとっては“そういう
多分、バアルほどの熱は自分の中にはないだろう。
バアルはモリアーティの中にホームズに対する勝利への渇望を見たと言う。
決定づけられた敗北の運命への叛逆者だと言う。
―――まったくもって、不思議でならない。
「今回は、君の負けだ」
サーベルがタカウォッチを打ち返す。返す刃でコダマスイカを弾き飛ばす。
そうして、最後の一歩を前にして。
彼は遂に立香を正面から見据え―――呆けるように、彼女の姿に目を見開いた。
「それは――――あなたが私のサーヴァントじゃなかったら、でしょ?」
彼女の全身に奔る、スパークする魔力。
ウォッチたちとバックステップ。
それで稼いだほんの数秒の間に準備を終えた、彼女の礼装が有する援護機能。
それがある事を忘れていた―――いいや、そうではなく。
まだ、自分が彼女のサーヴァントである事を忘れて―――忘れようとしていた。
モリアーティに追い詰められた藤丸立香を救うのは、彼女のサーヴァントに他ならない。
彼女のサーヴァントは二人。イリヤスフィールと、モリアーティである。
彼は元の悪党に戻っていたが、それでも彼女のサーヴァントは辞めていなかった。
パスは残っている。ジェームズ・モリアーティはまだ、藤丸立香のサーヴァントだ。
立香が腕を振るい、礼装の機能を始動させる。
発動する機能は、二騎のサーヴァントの位置交換。
モリアーティが魔術師なら、どうとでもなっただろうけど。
彼は生前から、自分の計算に組み込めない魔術に関わるのがそもそも好きではなくて。
意図して魔術を遠ざけていたから、それはもうどうしようもなかった。
「――――ああ、しまった。
まったく……この計画を始めてからこっち、間が抜けているにもほどがある」
魔術とかそういうあれこれは、計算に必要な数値が読み切れないから厭わしい。
正しく計算をすれば、間違いなく正しい答えが求められる。
そんな当たり前のことさえできなかった時、失敗を未練がましく考えるようになるから。
だから、負けるべくして負けるなら、それでよかったはずなのに。
当たり前のように負けただけの彼は何故、ホームズに勝利する事など考えたのか。
―――だから、意外ではあったが意外ではなかった。
善心を後付けで乗せたとはいえ、彼ほどの悪党が善人に絆されたこと。
ホームズに勝ちたい、なんて思った事も。立香たちといて楽しい、と感じた事も。
彼自身からしてとても意外な事で、自分の心がよく分からなくなっていた。
「―――オーダーチェンジ!!」
渦巻く魔力に囚われて、彼の視界が一瞬暗転した。
次に放り出された場所は、先程までイリヤスフィールが転がっていた場所。
すぐさま彼は立香に向き直ろうとして、
「終わりよ、クソジジイ――――!」
横合いから叩き付けられる黒い剣を、咄嗟にサーベルで防御した。
いとも簡単に手から剣を弾き飛ばされ、その勢いで彼自身も吹き飛ばされる。
床に叩き付けられ転がる彼に、追撃の熱波が殺到。
もはや反撃も叶わぬモリアーティを、憎悪の炎が焦がしていく。
その炎を維持しながら、ジャンヌ・オルタが叫んだ。
「イリヤスフィール!!」
立香の前に出現したイリヤが、その声に応じてルビーを眼前に突き出した。
魔法のステッキの先端に収束していく魔力。
並行世界から再び汲み上げた魔力の渦が、そこで圧縮されていく。
―――まるで蜘蛛の糸に捕え、操るように。
人の行動を言葉巧みに操作して、悪のカリスマと呼ばれるようになった男としては。
意外なことだが、心というものへの理解が足りなかったのだろう。
自分は計算に違わぬ現象になど拘泥しない、という顔をしながら。
その実、誰よりもそんな計算結果に苛立ちを抱いていた。
計算ミスをしたから未練を抱いたのではなく、その結果が気に食わないから不満を持った。
計算が全て合っていたとしても、その結果が気に食わないなら同じ事だ。
ただ正解を導くための確認作業としての計算ではない。
存在しない答えを求めるための試行錯誤。
そんな挑戦であるところの計算を―――彼はどうにも、愉しんでいたらしい。
「……いやはや。地球を滅ぼせる隕石を操る計算は、ああも簡単に進むというのに。
それに比べれば余程ちっぽけな筈の、人間の心というヤツは―――こうしてみると、自分の心さえ意外と計算し切れぬものだネ」
彼は正しく計算して、正しく導き出される答えを好む。
もちろん、自分自身を数字に置き換えた時に出る答えは全て理解している。
その計算上、彼はホームズには勝てないし、彼は善人になどならない。
だというのに、こうして必死に数字をこねくり回してみれば、意外と―――
「モリアーティ!!」
焼かれるモリアーティ目掛け、バアルが体を揺すり強引に体を組み替える。
イリヤスフィールを狙い撃つため、体の一部を眼として結晶化させる試み。
限界をどこに置き忘れてきたのか、魔神は未だに稼働し続ける。
肉体は限界。寿命などとっくに尽きている。聖杯は譲渡した。
それでも、まだ終われないのだと。
「美遊、抜けて――――!」
そんな魔神の両腕に、連続で赤い弾丸が直撃する。
発生する赤光の拘束。ファイズフォンXが放った攻撃にバアルの腕が止まった。
死に物狂いで動いていても、彼の動力源は既に壊れている。
その拘束を吹き飛ばすだけの出力が得られず、確かに彼の両腕の力が緩む。
「アンインストール……! サファイア!!」
「美遊様、脱出を―――!」
自身にかかる腕力が緩んだ瞬間、美遊が自身の体からカードを弾く。
同時に槍からステッキへと変わるサファイア。
彼女が魔神の腕の中で梃子となり、すぐさま美遊にかかる圧力を僅かなりとも解消する。
そうして何とか体を捩じり抜ける状態になった瞬間に美遊は拘束から脱し、
「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――――ッ!!」
だが、その直後に魔神の腕が拘束を引き千切った。
そのままサファイアを掴まえ、握り潰すように拳を固める魔神。
相棒を手にするつもりだった美遊の足がそこで止まり、伸ばした腕が空を切る。
「サファイ……ッ!」
「負けられない……! いいや、違う!
勝とうが負けようが何も変わらない……! 勝とうが負けようが関係ない……!
勝たなくてはいけない理由はない! 負けてはいけない理由なぞあるものか―――!
俺の望みだ!! ただ、ただ―――! 貴様たちにィイ――――ッ!!」
サファイアを握る腕が鉄槌と化し、美遊の頭上から振り下ろされる。
鞭のように撓りながら迫る肉塊。それは尋常ならざる速度で少女の上から降り注ぎ―――
それが届く寸前、美遊の横からツクヨミが突っ込んだ。
体当たり同然で激突し、揃って吹き飛ぶ二人の背後に鉄槌が落ちる。
床を粉砕する一撃を躱され、しかしバアルはすぐに相手の背を視線で追った。
反動で歪んだ腕をそのままに、二人に向け思い切り横薙ぎに振り抜いてみせる。
激突の勢いのまま宙に浮く二人。
その状態のままツクヨミが力強く美遊を抱き締め、
「ミユ、全力で跳びなさい――――!」
この部屋の入り口からの荒げた声を聞いた。
瞬間、美遊が空中に魔力を押し固めた。魔力が物質化し、空中での足場となる。
横っ飛びしている状況での、強引な踏み切り。
無理矢理さらに飛距離を伸ばした二人が、魔神が振り抜く腕の射程外へ跳んで。
「逃がす、ものかァ―――――ッ!!」
振り抜いた状態で、相手を逃がさぬために腕が伸びる。
そうして完全に伸びきった魔神の腕。その、肩口に。
―――空間を圧砕しながら直進する、螺旋の矢が届いた。
抉り取られ弾け飛ぶバアルの半身。
伸ばされていた腕も引き千切られて残骸が宙に舞う。
バレル中枢の入り口で弓を構えるのは、息を切らした赤い外套の少女。
全力疾走を成し遂げた少女が、そこで堪え切れずに膝を落とした。
疲労ならず、原因は全力疾走中にイリヤから呪詛を通じ流入してきたダメージ。
自身の半分が消し飛んだ事を理解して彼はしかし、残った半身で駆け出した。
迫りくる半身が消し飛んだ魔神。
例え全身が消し飛ぼうと、その残滓のみで相手を殺すとでも言うかのような殺意と気迫。
それを前にして、ツクヨミと美遊が顔を合わせて頷き合う。
抱き合って吹き飛ぶ二人が空中でくるりと回り、揃って着地。
そんな二人の元に、空中にぶち撒けられた魔神の残骸から、サファイアが帰還する。
「―――美遊様!」
「振り絞った全魔力をこの一撃に集中、外さないでください……!」
サファイアが美遊の手の中に納まり、残存魔力が即座に一極集中する。
同時にイリヤに握られたルビーが、いま出せるだけの魔力を絞り出し終えた。
美遊の眼前には魔神バアルが迫る。
イリヤの眼前にはモリアーティが立つ。
そうして最後の一撃を放つ直前の美遊の隣で、ツクヨミが立香に向け声を上げる。
「立香―――――ッ!」
前回使ってからそう間を置いていないオーダーチェンジ。
その過負荷に熱を帯び、白煙を上げるカルデア戦闘礼装。
それを纏った少女が反動に膝を落としそうになりながら、しかしそこで踏み止まる。
告げなければいけない言葉がある。
確かに勝敗を競った相手を前に、区切りをつけるための宣言。
他の誰より弱く、真っ先に狙われ続けていた彼女からの。
喘ぎそうになる肺を抑えつけ、彼女は全力で二人の敵に向け叫んだ。
「私たちの、勝ちだ―――――っ!」
「
「
二人の魔法少女が砲撃を解き放つ。
もはやどちらにもそれを防ぐこと、躱すこと、耐えることは叶わない。
互いにとって、本当に最後の一撃。
その直撃に呑み込まれ、バアルとモリアーティは吹き飛んだ。
―――バレルの壁に激突し、止まった魔神と人間。
彼らは隣り合うように壁に叩きつけられ、完全に動きを止めていた。
モリアーティはおろか、バアルにさえ動く気配はない。
それでも熱の消えないバアルに苦笑し、消えかけのモリアーティが声をかける。
「―――認め給え、バアル。戦犯から言うのは気が退けるが、今回は私たちの負けだ」
無言のままに意識を共犯者に向けるバアル。
彼らを吹き飛ばしたカルデアたちも疲労困憊。膝を落として休んでいる者たちばかりだ。
少しの間なら、まだ密談は叶うだろう。
「私たちは勝負をした。勝つか負けるか、確かに此処で競い合った。
―――負けたからには、負けを認めるべきだろう。
そうしない限り、自分が勝った時にも相手に負けを認めてもらえなくなる」
彼が望んだのは勝負だ。だったら、勝ちと負けだけは決めないと。
結果を認めず終わらせないのは、バアルこそ望んでいないだろう。
そう言われ、半分欠けた魔神の頭が下がる。
「…………そう、か。また、負けたか。また、勝てなかった。
……勝ちたかった。そうだ、俺はただ、奴らに勝ちたかった……ッ!」
口惜しい。ただただ口惜しい、と。
魔神は目の前にいる敵を見上げ、どこか浮いた声で言葉を続ける。
「だが……そのために三千年を懸けても、また敗北した。
望みは果たせなかった。願いは果たせなかった。だというのに――――」
バアルが声を僅かに震わせた。
ゲーティアさえもそう感じていたのだろうか、と。
この思考自体が不本意極まりない、が。
「俺はこうして目的を果たし切れずに終わる事に、どこか充足感すら得ている。
目指した場所に辿り着けていないのに、やり切ったとさえ感じている」
人理焼却―――逆行運河/創世光年は失敗した。
だというのに、アレは確かにどこかそれを受け入れていた。
そんな無体、彼らソロモンに怒る魔神に赦されるはずがないと言うのに。
勝負して、負けた。
覗覚星はその結末をけして認めなかった。その推論はけして出さなかった。
全ては勝つため。この憤怒を解消するため。
そのために理論を編み、しかしこうして覆された。
「……何と言う不出来さだ。出来損なった生命とはこの事だ。
ああまで醜く、生き汚く、足掻き尽くした様の結果がこれで、満足できるのか」
そう思っていても、バアルもまた。
怒りは尽きぬ。憎悪は止まぬ。それでも、達成感がないわけではない。
受け入れてはいないはずの感覚に、意識を委ねてしまいたくなっている。
三千年やり直して得た結末がこんなものだ、などと。
それを受け入れることこそが、彼の終わりだ。
「―――――――ああ。今度こそ、完敗か」
勝つために全てを懸けたのに、勝てなかった。
本当に。本当に、全てを懸けて勝つために挑み、負けた。
そんな自分に納得してしまった事で、彼の旅路は終結する。
それに納得してしまえるということは、ゲーティアが認めたものと同じものを認めてしまったということだ。そんな自分を嗤いながら、バアルは意識を落としていく。
「……おやすみ、バアル。己が在り方に決着を求めた我が共犯者。
私も消えるとしよう。そこまで果たす事が、敗者の義務というものだろう」
共犯者を追うように、そうしてジェームズ・モリアーティも消えていく。
立ち昇る黄金の光。夜闇に覆われた新宿の空に溶けていく魔力の残滓。
―――そうして。今、此処に。
けして手に入らぬ幻影だけを追いかけた、魔と人が築いた同盟は壊滅した。
これからやっと月姫始めるマン