Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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 疾走する本能
 


亜種特異点Ⅱ:未踏破黄金郷 アガルタ2000
逢魔が時2068


 

 

 

「……逃亡した魔神、ね」

 

 久しぶりの司令席に腰掛けながら、オルガマリーが顎に手を当てる。

 ようやっと帰ってきた彼女は、報告を聞いて久方振りの気分を味わっていた。

 

 彼女の前には報告するロマニ。

 そしてなんか、新宿からどうやってかついてきたというホームズ。

 レイシフトを何だと思っているのか。

 

「……ああ、残りは最低三柱。それがバアルの把握していた状況だ。

 もっといる可能性も否定はできないけれど」

 

 ロマニが酷く苦い顔をしてそう口にする。

 人間、ロマニ・アーキマンには関係のない事ではあるが。

 魔術王ソロモンだったものとして、彼は眉根を寄せていた。

 

 ―――単純にどうすればいいのか分からない、という顔。

 対処がどうとかいう話ではなく、態度の問題だ。

 ソロモンがロマンになったように、バアルがゲーティアでなくなった事。

 その変化を彼は否定できない。

 

 バアルの行動こそは弾劾するに足るものだ。

 が、方針を変えた事にはどんな顔をすればいいのか分からない。

 

 そんな珍妙な顔をしているロマニに眉尻を上げて、オルガマリーが鼻を鳴らす。

 

「問題を起こすようなら今までのように排除する、以外の行動は無いでしょう。

 問題を起こすかどうかすら分からない、というのが問題だけど」

「確かに。世界の隅に住処をつくり、安楽椅子にでも腰掛けて、穏やかに寿命を過ごしてくれるなら、こちらとしても助かるというものだが」

「勝手に()()()になられても知らないわよ」

 

 ホームズの軽口に、オルガマリーがじとりと視線を向けた。

 勝手に身内になってるんじゃない、という彼女の発言。

 

 それに対してははは、などと笑って肩を竦めるホームズ。

 ロンドンなどで援護されていたのは事実なので、敵ではないのだろうが。

 

「ん。まあ、問題を起こして貰えなければ発見すら出来ないのが実情。

 結局のところ、準備を万全にしておく以上に出来ることはないでしょう」

 

 笑っていた彼は一度咳払いをすると、そう言った。

 その通りでしかない、と彼の言葉に頷いてみせるロマニ。

 

「……そうだね。それでマリー、協会まわりの事はどう着地したんだい?」

「どうもこうもないけど。まだこっちが提出した報告書の精査の段階。

 横やりのおかげで多少は動けるようになったけど、実質ここで軟禁状態よわたしたちは」

 

 話題を変えたロマニに、オルガマリーは肩を竦める。

 基本的に動けないのは変わらない。

 状況が変わるまで大人しくしておくしかない。

 もちろん、ここからでもやれる事はやっておくにしろ。

 

 対応が浅いのは、外野の声よりもいずれは確実に潰れる場所という事実が大きいか。

 それはもう、衝突するより自重で潰れた後に残骸を掘り起こす方が楽だろうとも。

 

 今のカルデアはまだ負債も織り込みだ。

 そこを何とか必死に解消して、負債の返済の結果として地盤が崩壊する。

 末路はそんなことになるだろうと、大概の連中が考えている。

 だから残骸、遺産を回収するのはその後。

 ハイエナ、というか火事場泥棒の思考。

 

 ―――だが、そうしてもらわねば困る。

 ひとつ大きく息を吐いて、オルガマリーが気を取り直した。

 

「新宿の件も報告して、次の特異点が発生した場合を想定しつつ。

 目下優先して進めるべきは、コールドスリープ解除の準備ね。

 ……ちょうど今年いっぱいかけるくらいの速度で進めましょう。

 最終的にどんな形の引継ぎになるにしろ、来年までは引き延ばすわ」

「ああ、それで」

 

 彼女の言葉に、ふと納得したように頷くホームズ。

 ぎろりと睨んでみても、探偵は苦笑するばかり。

 

 そんな彼に首を傾げて、ロマニが問いかける。

 

「どうかしたのかい?」

「いいえ。彼女たちが帰還した際の荷で、資料室に運ばれていたものがあったのでね。

 協会からの帰りにあの荷物、一体何を持って来たのか、と注意半分好奇心半分で楽しみにしていたのだが……大したものではなさそうで何より」

 

「……そんなもの、決まってるでしょ? 日本の学校教材よ」

 

 ああ、とロマニが苦笑する。

 流石に特定の国のハイスクール教材なんてものは、カルデアのデータベースに無かった。

 それ以上の情報データベースはあっても、丁度いいものは用意されていない。

 カルデアは学校じゃないんだから、当たり前だけれど。

 

 学校より効率的な教育ができるとしても、ただそうすればいいわけじゃない。

 だって、最後には()()のだから。

 

「……帰せないんだから、ここでやらせるしかないでしょ。

 丁度いいわ、あんたにも教師ごっこしてもらうわよ」

「私が青少年の教育に向いているとは思えないが……

 もちろんこうして屋根を借りている以上、手伝いくらいはお受けしますが」

 

 眉を軽く顰めつつも、仕方なさそうに頷く名探偵。

 

 彼女たちを見ながら、ロマニは微笑んで。

 それを頼めば、恐らく全霊で取り掛かるだろう少女の姿を思い浮かべた。

 

「いっそマシュに任せてみるとか。

 さぞ綿密なカリキュラムを組んでくれるだろうし」

 

 言われてオルガマリーもその少女の姿を思い描いたのだろう。

 何とも言えない表情で、彼女は溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 渡した衣装を見て、ダ・ヴィンチちゃんが小さく眉を上げた。

 作業台に広げられる藤丸立香に与えられたカルデアのバトルスーツ。

 

 その反応を見て、さぞ状態が悪いのだろうな、と何となく感じる。

 

「まあ、仕方ない。状況は聞いているよ、無理をさせなければいけない状況だった。

 ただ修理するのは難しい。私の技術より、素材の面でね……んー、こんなことなら外に行っている時にもうちょっと。でもオルガマリーはケチだしなぁ」

 

 冗談めかしているが、そもそも資金が危ういのは公然の秘密。

 つまり、どうあってもすぐに修理は無理。

 それが真っ先に言われた結論ということだろう。

 

 ……無理なら無理でしょうがない。

 なら、次の事を考えないと。

 

 魔神はまだ三柱いる。

 恐らく今回のような規模で、また三度の戦いがあるのだろう。

 

 マシュは戦えない。

 マシュ、というよりギャラハッドの盾がなければ、大量の物資は転送できない。

 つまり、タイムマジーンも使えない。

 

 思い悩むような様子を見せた立香に、ダ・ヴィンチちゃんが視線を向ける。

 

「どうしたんだい? ほら、そう思い悩む必要はないだろう?

 正直に言ってしまえば、今回の事案は人理焼却ほどの異常じゃない。

 油断してはいけないが、魔神の一柱とゲーティアでは規模が違い過ぎる」

「……私に、できることって。生きること、だと思うから。

 サーヴァントの楔として、カルデアのマスターとして、当たり前の人間として」

 

 バアルがそうしたように。モリアーティが仕組んだように。

 彼女は弱点だ。切り崩すために真っ先に狙われる城壁の一穴。

 別に、それを恥じているわけではない。

 彼女は自分にできることをやってきたし、それは結果として無二のものになった。

 生きるために、出来る限りのことを、全身全霊で達成してきた。

 

 断言できる。

 それが、そんな生き方が、ゲーティアさえも越えてきたのだと。

 

 でも、何かが。

 今回の戦いは、何かが。

 

「―――ゲーティアは大災害だった。その感情は人類全体に向けられていた。

 ただ今回は違う。バアルは、もっと視点が限られていた。

 余分なものは視界に入れず、ただただ標的だけを恨みにきたんだ」

 

 そんな少女を見ながら、ダ・ヴィンチちゃんが語り出す。

 

 ゲーティアは嵐だった。

 一個人にとっては、惑星規模の災害でしかなかった。

 だから言ってしまえば、同じ場所に立っていなかった。

 

「地獄のような環境で死にたくない、と顔を上げる事と。

 殺人鬼を前にして死にたくない、と顔を上げる事。

 それは全く違う事だ。

 自然の脅威に対する畏怖と、脅威になる知性体に対する恐怖は違うもの。

 そして。君の殺害が過程でしかない外敵と、君の殺害が目的である仇敵の熱量だって当然違う」

 

 ゲーティアはあくまで、彼の目的のために邁進した。

 そしてその目的は特定の一個人の事など関係なく。

 その過程において、人類を滅ぼす嵐が生じただけのこと。

 

 けれど、バアルは違った。

 

「―――きっと、初めてだったはずだ。あそこまで君という個人に感情を向けている敵は。

 対象が君だけではなくとも、君に抱いていた感情は桁違いだったと断言できる」

 

 今まで敵対した相手は数あれど、恐らくあれが初めてだった。

 

「……生きたい、という願い。生命であれば誰もが抱く原初の感情。それはまあ、普通にしてる分には否定されるものじゃない。相手が化け物であったって普通はそうなる。

 だって殺す殺されるの話になったとしても、それは基本的に殺したいから殺すのであって、相手の生きたいという気持ちを否定したくて殺すわけじゃないからね」

 

 生きたい、と。

 何より、誰より、そんなシンプルな想いで駆け抜けてきた。

 そうすることが、余分な考えを抱くよりも、強い足取りでいられると思った。

 

「だが、彼は違った。

 ―――そんなもの認められるか、と。殺害ではなく、生存の否定をするためにきた。

 “生きたい”と“殺したい”じゃない。だってその気持ち二つはぶつからない。

 “生きたいから生きる”と“殺したいから殺す”は、相反するものじゃない。

 進む方向は反対だが、乗っているレールが違う。そのままであれば、衝突なんかしない。

 それらの関わり合いは、すれ違いの通り魔みたいなもの。

 その程度の関係性として成立してしまう」

 

 だから、あの敵は誰よりもシンプルな感情で舞い戻ってきた。

 

「彼の理念は“お前たちだけは生かすものか”という感情だ。

 君たちが“生きたいから生きている”だったから、それと正面から激突するために。

 彼にはそれ以外の結論なんて存在しなかったのさ」

 

 それはきっと、初めてのことだった。

 

「……怖いだろう、その衝突は。

 今まで誰も、個人の“生きたい”という気持ちにだけは踏み込んでこなかった。

 殺意あるものは幾らでもいた。

 カタチを変えた生存や死を妥協の道として示したものだっていた。

 ただ、生きたいなんて願いは認められない、と。

 それほどまでに、真摯に君たちを憎んだものはいなかった」

 

 もうここまででいいだろう、とか。

 生きている価値はどこにある、とか。

 その命に意味はない、とか。

 

 そういう問いに、ただ“生きたい”と返してきた。

 

 初めてだったと思う。

 その“生きたい”に、“許すものか”と返されたのは。

 

「ま、普通ならそんなヤツいるわけないんだけど……」

 

「―――怖がってる、のかな。私」

 

 少女が呟く。

 怖がってはいけないわけではないけれど。

 今まで恐怖しなかったわけではないけれど。

 

 ただ、今までの恐怖とカタチが違う。

 当たり前のように命が摘まれる環境を走り抜いた。

 生存を脅かされる()()は終わった。

 敵は、純粋に命を狙ってくる相手に切り替わった。

 

 これからは見えている地獄の中を走るわけじゃない。

 

 ただただ、普通に走っているところを。

 悪魔に命をつけ狙われるようになっただけ。

 怖いは、怖い。

 

 立香が一度目を瞑り、息を吐く。

 苦悩も、恐怖も、否定はしない。

 前に進む限り、生きる限り、それは必ずついてまわるもの。

 

 ここで弱音を吐いたら、顔を上げて。

 また辛くて動けなくなるまで全力疾走だ。

 人の生とは、ずっとそれを終わるまで繰り返すものだから。

 

「……ソウゴも、なんだよね、多分」

 

 顔を上げる前に、ふとそう呟く。

 

 彼はバアルとは対面しなかったが、間違いなく。

 というより、誰より知っているのだろう。

 オーマジオウに対面したあの日から。

 

 あの日から彼は、ツクヨミのような立場の多くの人間から否定される側になって。

 そして、自分で自分を否定する者になった。

 例え自分の一部分を受け入れても、実在するオーマジオウへの否定は止まらない。

 ああならない、という目的意識は固定されている。

 

 ダ・ヴィンチちゃんが困ったように苦笑した。

 

 数秒。

 立香がそこで深呼吸をして、軽く自分の頬を張った。

 

「―――ところでダ・ヴィンチちゃん、他の装備とかどうにかなったりする?」

「んー……残念ながらすぐにはどうにもならないな。

 ああ、そういえば―――いや、うん。悪いけどすぐには無理かな!」

 

 思い当たるものがありそうだったが、途中で言葉を止める。

 言わないという事はまだ使えないということだろう。

 そっか、と呟いて椅子に座り直す。

 

「じゃあ、次の特異点が出たらサーヴァントは召喚できるのかな。

 それとも今のままで?」

「新宿から回収されたリソースがあるからそっちは大丈夫。

 今回の回収分なら、おそらくはサーヴァント召喚4回分にはなるだろう。

 もちろん令呪も補填した上でね」

 

 サーヴァントとしての戦力はイリヤたちだけ。

 ソウゴもいる。これで戦力が不足している、とまでは思わない。

 だがあるに越したことはないものだ。

 辛勝よりは圧勝の方がいいだろう。

 

 それに頷いて、ダ・ヴィンチちゃんは召喚は可能だと断言した。

 

「そしてその点に関しては重要なお知らせがある。

 なんと、なんとだ」

 

 更に彼女は楽しげに、そういってにんまりと笑った。

 

「英霊召喚にかかるコストを削減することに成功していたのさ!

 今までだったら4回分だったろうリソースで、なんと!

 5回まで召喚可能になったのさ! まあ私は天才だからね!」

 

 それはまるで4個が3個になるように。

 4×4=16だった筈のところ、3×5=15でお得感、的な。

 そのうち一日一回、1個で召喚できるようになるかもしれない。

 

 そうやって胸を張る彼女に対し、首を傾げる立香。

 

「増えるのは1回分だけ?」

「えー、反応うすーい。こう見えて凄く頑張ったんだけどなー」

 

 どちらにせよ5回分の召喚が可能、というのは朗報だ。

 既に契約している立香、ソウゴ、ツクヨミで1回ずつ。

 契約していない(一応ダ・ヴィンチちゃんがいるが)所長が2回。

 これで戦力としては最大値に持っていける。

 

「じゃあ、リソースの回収が終わり次第召喚するの?

 今まで召喚した皆の霊基で再召喚、になるんだよね?」

「うーん、それはちょっと待った方がいいかもだ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが頬に手を添え、僅かに柳眉を下げた。

 

「え、どうして?」

「新宿の情報を改めて精査したところ、問題点が見つかってね。

 下手をすれば、()()()()可能性が出てきたのさ」

「弾かれる……って、レイシフトできないってこと?」

 

 寝耳に水の発言に、立香が驚く。

 それに苦笑しつつ、何故かダ・ヴィンチちゃんは眼鏡を取り出した。

 流れるように装着される英知の結晶(メガネ)

 そうしてから指をピンと立てて、彼女は説明を始める。

 

「レイシフト適正があるマスターは問題ないんだ。

 ただ、サーヴァントはその影響を受ける可能性を考えなくてはいけなくなった」

「でも今までは……」

「その通り、今までは問題なくレイシフトできていた」

 

 困ったものだ、という表情を見せるダ・ヴィンチちゃん。

 

「じゃあどうして?」

「安定してきたからこその問題、というのかな。

 人理定礎は本来揺らぎを許さない。泡と消えるような小さい特異点ならまだしも、正しい歴史への影響を与えうる規模に対しては修正力が発動する」

 

 そこで言葉を止めて、ダ・ヴィンチちゃんが眼鏡のブリッジに指を添えた。

 

 人理焼却が原因だ、とは言えなかった。多分だが、それは違うのだ。

 本来ならむしろ、サーヴァントは特異点に弾かれるようになる。

 正しくその時代にあるもの以外は、歴史の自衛によって排斥されるようになるのだ。

 歴史の運行の邪魔になる“ありえないもの”は、世界が弾き出す。

 

 聖杯を投下された時代は特異点と化し、悪化を嫌ってそれ以上の外からの介入を拒絶する。

 そうして閉ざされた門を越えられるのはレイシフト適性者のみ。

 

 本当はそうなるはずだった。無理を通す裏道はいくらかあるかもしれないが、そもそも多量のサーヴァントを普通に連れ込めた今までがおかしかったのだ。

 

「ご存じの通り、サーヴァントというのは歴史に名を遺した偉人。

 過去や未来に顔を出す異物としては、ビッグネームすぎる。本来ならば存在しない彼らが発生させる影響が、危機に瀕している時代を決壊させる最後の一押しになり得てしまう。だから根本が揺らいでいる時空は、自身に影響を与えかねない存在の降臨を許さない」

「でもカルデアは元から特異点をサーヴァントで攻略するつもりだったんでしょ?」

「ああ、影響が小さいうちに潰しに行くなら何の問題もなかったのさ。

 土台がしっかりしていれば、英雄が着地したって揺るぎはしない。人理焼却という大黒柱が炎上している状況でなければ、サーヴァントの影響なんて無いも同然だとも」

 

「でもじゃあ何で――――」

 

 話が違う。だって、魔神の暗躍は人理焼却よりは小さい事象だ。

 ならば今まで出来た事が出来なくなるのは、道理が通らないというものだ。

 そこまで口にして、ふと今までの戦いが脳裏によぎる。

 悩むこと数秒。思いついたことを、彼女は素直に口にした。

 

「……今までは世界自体が、正しい歴史が分からなかった?」

「―――そうだね。原因は恐らく()()()()()()()()()だ。彼らの歴史が再編されていく過程において、()()()()()は世界自体さえ、把握していないものになっていた。

 何を受け入れ、何を排斥すればいいかもわからなくなっていた、と言えばいいのかな」

 

 人理焼却。その現象は歴史の融合再編に利用されてもいた。

 ゲーティアが最終的に消し飛ばす故に些事、と捨て置いたその事象。

 その余分が混ぜ込まれた結果、世界の混乱は加速した。

 いや、何に混乱すればいいのかも見失っているタイミングがあった。

 

 結果として、ただの人理焼却では見過ごされるはずがなかったこと。

 世界という天秤を揺らし得るサーヴァントの直接レイシフトが見過ごされた。

 それが脅威である、と世界に見做されなかったのだ。

 同時に揺れる世界にライダーの歴史を融合させることで穴埋めし、安定させる。

 それこそが今までの戦いだった。

 

「ん……」

「ではこれからは、というと。もう流石に安定してしまった、と言う事だね」

 

 人理焼却の解消、のみならず。

 回収された歴史は龍騎、ディケイド、ダブル、オーズ、フォーゼ、ウィザード、鎧武、ドライブ、ゴースト、前回の戦いでカブト。そしてジオウ自身。

 代表となるものが恐らく20人、というのであれば手に入れるべき歴史は過半数を超えている。

 

 世界の状態は安定期に入った。もう混乱期は終わった。

 止められない状態にまで移行したのだ。

 あとは進むだけしかないという状況にまで陥った。

 

 かつてオーマジオウが口にした事。

 ソウゴがベルトを捨てれば無かった事になるという位置は過ぎ去ったのだ。

 もう此処からは、どちらかの世界の事じゃない。

 

「……だから、今後の特異点攻略は特異点ごとにサーヴァントを用意するべきだ。レイシフトできるのは、特異点から“こいつは自分が崩壊に至る影響を与えない”と判断されたサーヴァントだけになってしまうから。特異点が判明したらその都度、考察して戦力を用意していくしかない」

「そ、っか……」

 

 息を整えて、ダ・ヴィンチちゃんの言葉に頷く。

 一つの戦いは確かに終わった。

 けれど同時に、確かに新たな戦いが始まっているのだと認めるように。

 

 

 

 

 

 一糸乱れぬ動きで整列する二つの機体。

 黄金の機械兵士、カッシーン。

 荘厳なる玉座の間の扉を開いた彼らは、そこで完全に動きを止めた。

 

 彼らの間を通り抜け、黒ウォズが前に進む。

 ……普段ならば、門番であるカッシーンは一体なのだが。

 どうにも、今日は何か城が騒々しい。

 

 だとしてもこれから謁見の彼に関係はなく。

 彼はいつも通り、時の王者に跪いた。

 

 外からの明かりもなく、照明の類も見えぬ、暗闇に包まれている筈の空間。

 だというのに、何とも分からぬ光源がそこにあるかのように。

 

 確かにそこに光があり、その中に初老の男のシルエットがありありと浮かんでいた。

 

「――――ウォズか。いや、今は黒ウォズ、だったか?」

「お戯れを……」

 

 どこかからかうような王の言葉。

 それに微笑みながら返し、黒ウォズが面を上げる。

 

 オーマジオウの居城へ久しぶりの入城。

 そうしてみれば、どこか落ち着かない城内のざわめき。

 しかし普段と変わらぬとばかりに、彼は一切の緊張を見せることもない。

 

「本日は随分と騒がしいようですが、何か……?」

 

 そこまで口にした時、ふとオーマジオウの背後にある壁が目に入る。

 そうして、あるはずものがない事に気付いた。

 

「我が魔王、それは……」

 

 玉座の間の壁には、彼の有する無数のライドウォッチが飾られている。

 歴史の終着。力の結晶。それらで壁を飾る、結末のインテリア。

 

 あれらは全てオーマジオウの力であり、彼の一部だ。

 一つ一つを手に取るまでもなく、元より彼の中に収められたものでしかない。

 だから本当にそれは、飾られている以外の意味を何も持たないもの。

 

 だが、その中でもオーマジオウの背後にある20個は特別なもの。

 それらは特に特別な意味を持っている、が。

 

 そこには何故か、19個しかウォッチがなかった。

 

 いや、そこから1つがいま失われているのは知っている。

 それを持ち出したのは黒ウォズなのだから。

 だからその代わりにと、王はそこに代わりのものを飾っていたはずだ。

 必要性の問題ではなく、隙間が空いてる事を嫌ってだと思うが。

 

 だというのに、それが無い。

 

「どうやら私が外に出ている間に、何者かが侵入したらしいな」

 

 その事実をさらりと受け流し、王はカッシーンに目を向けた。

 入口で深く頭を垂れる二体のカッシーン。

 

 それでか、と納得する。

 

 この城内のざわめきは、侵入者が原因らしい。

 その侵入者はどうにかしてこの玉座の間まで辿り着き、ウォッチを盗んだ。

 挙句、オーマジオウがいなかったとはいえ、そこからまんまと逃げ果せた。

 

 それはまた、城内の連中はさぞ肩身が狭いことだろう。

 オーマジオウは気にしてもいないようだが。

 しかしこんな有様では親衛隊であるカッシーンたちも憤る。

 

 それにしても、このオーマジオウの居城に侵入してみせるなど。

 一体誰が――――

 

「お前が居たレジスタンスどもの最後の生き残りだったそうだ。

 そやつはどうにかここまで辿り着き、ここからウォッチとドライバーを持ち出した。

 私が力を込めていたブランクを己で染めて、変身してな」

 

「―――――」

 

 ……彼が知っている限り、レジスタンスの生き残りは二人だけ。

 そのうちの一人はツクヨミであり、今はカルデアに身を寄せている。

 であるならば、残るのは一人。

 

「それは」

「何も言わずともいい。ドライバーは勿論、あのウォッチも幾らでも替えが利く。

 ただお前は、今まで通り若き日の私についていればいい。

 今まで通りに好きにさせておけ。どちらもな」

 

 王はそこで話を打ち切った。

 

 しかしドライバーはまだしも、ウォッチはとんでもない。

 恐らく殺到しただろうカッシーンが突破され、逃げられたのも道理だ。

 何故って、それはオーマジオウが己の力を籠めていたウォッチのはずだ。

 今は失われていても、若き日の自分が2018年に到達した時点で元に戻るように。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんなものを奪い取り、自分のものに染めてしまったというのか、彼は。

 

 そんな事を考えている黒ウォズに、オーマジオウの視線が向けられる。

 好きにさせておけ、という王命が下っているのだ。

 これ以上気にしては叛逆も同然だろう。

 

「……既に遂げた者はともかく、以降の警備体制については一考の余地があるかと」

「必要ない」

 

 警備に関する話を上申しようとすれば、バッサリだ。

 そもそもオーマジオウを害せる相手がいるはずもない。

 だから警備など必要ないと言われてしまえば、それでおしまいである。

 

 だがこうなってみれば、強盗は成立しないがコソ泥なら通ると証明されてしまった。

 

 それでも、ただ。

 王がいない間無防備になるウォッチを引っ込めてくれれば、それだけで終わる話。

 だというのにオーマジオウはそれも一切認めない様子だ。

 彼はこの玉座の在り方を改める気はないらしい。

 

 それはなぜか、という思考をしようとして。

 ふと感じること。

 こうして改めて見ると、どこかを思い出させる。

 この時計を壁いっぱいにかけた光景は―――

 

「どうした、ウォズ」

「――――いえ、何でもありません。我が魔王」

 

 問いかけられて、咄嗟に頭を垂れる。

 

「そうか。して、若き日の私たちの時代の様子はどうだ。

 カルデアの者たちのように、人理焼却から取り戻した時代で動いていたのだろう?」

 

 “ああ、そうか”と。

 

 どこかわざとらしいオーマジオウの声に、先程の思考が答えに辿り着く。

 人理焼却で戻ってきた時代で、彼はまたいろいろと動いていた。

 その中で、当然のように行った場所がある。

 この玉座の光景は、そこを思わせるのだ。

 

 ―――ライドウォッチ。

 歴史を刻んできて、しかしもう既に動きを止めた時計たち。

 もう動かない時計を壁に貼り付けている初老の男。

 彼が僅かに顎を上げた。

 

 もう動かない時計の価値とは何だろう。

 かつて動いていたとしても、もう動かないなら役目は果たせない。

 過去を偲ぶための思い出の品、以上にはならない。

 

 もう動かない数多の時計に囲まれた男が、笑うように小さく喉を鳴らす。

 

 いつか、彼らはそんな話をしたかもしれない。

 

 ……二人の住処にはいっぱい時計があった。

 

 動いているものがいっぱいあった。

 電池が切れて動かないけど、電池を入れ替えれば動くのも結構あった。

 誰にも直せず、もう二度と動かないヤツもそれなりにあった。

 

 もう動かない時計に価値なんてあるの? と少年は訊いた。

 もう動かない時計に価値を見出す人だっているよ、と時計屋の店主は返した。

 

 ―――ああ、まったくその通り。

 彼こそはけして動かぬ、最大最強の大時計。

 時計の針を塞き止める、最低最悪の時の王。

 

 此処こそが彼にとっての時計塔。

 無数にあれど、一つ残らず二度と動かない時計に囲まれた無音の鐘楼。

 この玉座にあるものは一つとして意味の無い止まった時計。

 

 だから。

 この場にある、価値なき止まった時計に何かを求める者がいるのならば。

 彼は、それを阻むことはしない。

 結果として正面から叩き潰すことはあったとしても。

 

 玉座から、黄金の王はゆっくりと立ち上がった。

 歩き出す王は傅いている黒ウォズの横を通り過ぎる。

 

「問題がないならばそれでよい。これからも若き日の私を導くがいい」

 

 すれ違いざまにそう言って、彼はそのまま王の間を退出しようとする。

 

「お待ちください、王よ」

 

 引き留めようとするカッシーンの声。

 それに耳を傾けることなく、彼はそのまま歩みを止めない。

 カッシーンもまた二体とも、慌てつつ王の後ろにつき離れていく。

 

 立ち上がり、そんな背中を見送りながら。

 小さく、黒ウォズは眉を下げた。

 

 

 

 

 

「……私の知るところによれば」

 

 傅く巨体、銀色の機械の戦士。

 己のタイムマジーンに背中を預けながら、白い服の男が本を開く。

 本というよりノート、タブレット端末のようなものだが。

 

「2019年、オーマの日。

 その日、世界を混沌に陥れる最低最悪の魔王を打倒する、救世主が現れた」

 

 彼の背後の闇の中、浮かび上がる赤い戦士。

 その姿をちらりと見て。

 

 すぐに赤の戦士の前に浮かぶのは白銀の戦士。

 光に浮かぶものと闇に沈むもの、二重に重なった時計が姿を形作る。

 現れるのは、仮面ライダージオウⅡ。

 

「ですが、どうにも思った以上に魔王の力は増大している様子。

 随分と前倒しで進化に至ってしまっている」

 

 対面するように立つ赤い戦士。

 その姿が一際強く、眼光をイエローに輝かせた。

 赤いボディに重なるように掠めていく、烈火と疾風の残光。

 

「となれば……こちらも少々急がなければいけないようです」

 

 白い男―――白ウォズが手の中で、キカイのウォッチを弄ぶ。

 彼はそこで少し、苛立つように眉を上げた。

 本来ならばここでもう一つ集まっていた筈、とでもいうかのように。

 

「……今回はほんの挨拶。

 ―――だが、我が救世主が最低最悪の魔王を打ち倒す奇跡の瞬間は近い」

 

 マジーンに背を預けていた白ウォズが体を起こす。

 彼はそのまま闇の中に歩き始めた。

 

 そこで闇の中に、僅かな残像が混じる。

 

 真紅の月の許、夜闇を駆ける忍びが一人。

 鎖された背徳の村、そこに蔓延する謎の答えを出す者。

 その果てに完成する赤と青。

 

 ―――微笑んで、そちらに向かっていく白ウォズ。

 彼の手の中にあるノートの画面には、

 

【明光院ゲイツは決死の覚悟でオーマジオウの玉座にまで辿り着き、仮面ライダーの力を手に入れる。そして若き日の魔王、常磐ソウゴと相見えるのであった】

 

 そう、書いてあった。

 

 

 




 
 なんか平安京で出てきた実は連れていけるメンバーに凄い制限有りという話。
 1部では皆で行ってた? だいぶ時空が歪みだしているな…
 今までは歴史が融合していく状況なせいでガバガバだったけど、進捗半分を過ぎて安定期に入ったのでこれからは弾きます、みたいな。
 制限が増えるとむしろ楽しいみたいなところあるかもしれない。色んなサーヴァント書けた方が楽しいもんね。(適当)

 ところでなんかオダチェンなくなったんですけど…なんで…?

 明光院ゲイツ…一体何者なんだ…
 レジスタンスのライダーです。

 我が救世主は一体どんな風にウォッチを手に入れたのか。
 小説版を読んで自分なりの解釈をしてみる。

 壁にアナザーウォッチをかけていたアナザーオーマ。
 もう直せない壊れた時計も壁にかけたままのおじさん。
 じゃあオーマジオウはどうしてるかな、と。
 自分は同じように全部壁に飾ってるかもしれないな、と思ったというお話。

 だから不在の時に城に侵入できて盗めたんだろう、みたいな。
 それ結局ゲイツウォッチはどこからでてきたんや。
 このSSにおいて奪ったウォッチはオーマジオウが力を込めたブランクウォッチ一つ。
 カッシーンに追い詰められて、それがゲイツウォッチに変わった感じ。
 
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