Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー 作:アナザーコゴエンベエ
「
「どうやら今回はそうらしいですねー。
まさかの地下王国、悪の総本山って感じです!」
何が楽しいのやら揺れるルビー。
王国とまでは言われてないし、とイリヤが頬をちいさく引き攣らせる。
そんな少女に対して、ルビーはいかにも心外とばかりに声を張った。
「なにをおっしゃいますイリヤさん! 地下王国と言えば地の獄に日向の花が咲き誇り、メイド型愉快式決戦兵器が溢れ、面白おかしい空間が広がっているというのが通説じゃありませんか!」
「そんな通説が一体どこの地上に流れてるの!?」
きゃーきゃー喚くそんな姉に対し、即座にサファイアが動く。
彼女は上部からアンテナらしきものを生やすや、そこから指向性の電波を発信。
ルビーの中枢回路に対し攻撃をしかけた。
すぐさま悲鳴を上げて、空中でのたうつ魔法のステッキ。
「あばばばばばば」
「姉さん、イリヤ様たちの邪魔はやめてください」
蚊取り線香に近付いた蚊のように、ぽとりと落ちるマジカルルビー。
そんな相方の姿を何とも言えない表情で見届け、イリヤは視線を前に戻した。
そこに広がっているのは、彼女の年齢に合わせた学校の教科書だ。
ふぃー、と目の前の光景に溜め息ひとつ。
彼女がそうしている内に、からからとテーブルの上をシャーペンが転がる音。
音の方に視線を向けてみれば、どうやらクロエが手にしていた文具を放ったらしい。
クロはそのままべったりと上半身を突っ伏して、不満げな声を上げる。
「まったくもー、なんでわたしたちまで勉強になるのよ。
せっかくのバカンス気分が台無しじゃない、これじゃ」
「別にバカンスをしにきているわけではないけれど」
手にした教科書から視線をずらし、美遊はそう言う。
もっとも彼女は見込まれて教師側。
イリヤとクロエに対して教える側である。
何なら立香やソウゴに教える側にも回れる人間なのであった。
「でも、その情報が出てきたってことはまた戦いがあるってことだよね?」
「それで今度は地底って? どうせ行くならそんな暗そうなとこより、もっとぱーっとした観光名所みたいなとこ行きたいんだけど」
イリヤがそう首を傾げている前で、不満げに腕をぱたぱたと動かすクロ。
軽く溜め息を吐きつつ、美遊が手にしていた教科書を閉じる。
「……確かにぱっとした華やかな場所ではなさそうだけど、興味深いとは思う」
「確かに地層を内側から望める、というのは得難い経験ではあるかと」
マスターの言葉にサファイアが深々と頷く。
前の戦いにおいて、地下にある冥界が戦場の一つになった事は知っている。
もっとも今回は近代、恐らく20世紀以降らしいのでそんなものはないだろうが。
「ただそもそも、わたしたちサーヴァントは参加できるかどうか調べるところから。
わたしたちはレイシフトについていけない場合も……」
「いえいえー、皆さんの場合は心配ないかと。だってそもそもサーヴァントではあっても魔法少女であって英霊ではないですし。
あのお話は要するに、特異点が自衛のために独自の基準で設けた入口の検問、検閲を
そして測るのは体重ではなく時代への影響力。世界が設定した、“この時代にいちゃいけない度”が閾値を越えているかどうかを測っているわけですねー」
ふらふらと浮き上がるルビー。
そんな彼女の声を聞きつつ、体を起こしたクロエが肩を竦める。
「つまりわたしたちみたいな一般人は、どこにいても影響力がたかが知れてるから、そんなのに引っかかるはずがない、ってわけね」
「クロさん以外は一般人じゃなくて魔法少女ですよう。
つまりどこにいても(可愛いから)許される、というわけです!」
くるくる回るルビーに消しゴムを弾くクロ。
着弾したそれが魔法のステッキを撃墜し、彼女はまたも床に落ちた。
そんな姉をちらりと見てから、サファイアが話を続行した。
「魔法少女に関してはともかく、おおよそ姉さんの発言の通りです。
美遊様たちが弾かれる、というケースはほぼないかと。
今回召喚なされるサーヴァントと合わせ、最大戦力での攻略は可能になるはずです」
「戦える人が多いに越したことはないもんね、うん」
しみじみとそう呟くイリヤ。
それに同意するように深々と頷いて、美遊が続けた。
「その特異点における検問の精度。誰なら弾かれないかが判断出来次第、サーヴァント召喚を実行するって言っていた。わたしたちもサーヴァントとして、それに立ち会うようにと」
「へえ、ちゃんとした召喚が見れるんだ。それは結構楽しみ」
関心アリ、と言った風に目を開くクロエの前。
美遊が改めて手にしていた教科書を開き、少女たちが広げたノートを見下ろす。
「そのためにも、課題は一段落させておくべき。じゃあ続けて」
「ふぁーい……」
今日の範囲を確認しながら静かにじいと見つめられて。
そのプレッシャーを前にして、同じ顔二つが同じ表情を二つ並べて動き出した。
「なるほど、初等部は成功だったんですね。流石は美遊さんです」
「? そちらでは何か問題でも?」
一通り今日の授業予定を終えた後、集まった先は召喚室。
オルガマリー所長からの通達を受けての招集。
つまりは、目処がついたサーヴァント召喚の儀式が今から始まるということだろう。
そうして待機している間の会話の中、首を傾げた美遊。
彼女に対して何と言い返したものか、とマシュが苦笑を浮かべた。
少女はその態度を見て、よりいっそう首を倒す。
マシュの頭の上では、フォウもどこか不思議そうにしている。
「さて、問題とするべきかどうかは難しい。
そういった生徒がいる事もある意味まっとうな学生生活、と言えなくもないからね」
言葉を詰まらせているマシュ。
彼女に代わって口を挟むのは、召喚室を物色していた名探偵。
彼の声に振り向いて、美遊はホームズへと視線を向ける。
「―――つまりは、だ。ミスター・常磐はまったく集中していなかった。
というか、半分寝ていたようだが」
向けられた視線に対し、彼は端的に事情を暴露した。
苦笑する立香の隣でどこ吹く風という表情のソウゴに集まる目。
「ずるーい! わたしたちは鬼教官になったミユに絞られてたのに!」
「……別にそう難しい課題は出していないと思うけど」
「いや。だって俺、王様になるし。勉強とかはあんましなくていいかなって」
「たぶん色んな国の王族とかはちゃんと勉強してると思う……!」
「為政者である以上、むしろ誰よりお金をかけた教育がされる人種ですねー」
飛び交う身も蓋もない反論。
喧々囂々と責め立てる勉学に励んでいた少女たち。便乗する魔法のステッキ。
それを聞かなかったことにして、ソウゴは顔を背けた。
目を向けた先は召喚室の入口で―――そのタイミングで、丁度。
「やあ、お疲れ様。後は所長とレオナルドが来たら始めよう」
自動扉が開放され、そこからロマニが入室してくる。
彼は少女たちに責められている少年を見て、目を困惑で瞬かせた。
「って。どういう状況だい、これ」
「ソウゴが授業を聞かずに寝ていた、っていう話です」
「ああ、それは。まあ何ともそれらしいというか」
ツクヨミに補足されて納得したように頷くロマニ。
そんな彼の反応にどこか不満げに、ソウゴは腰に手を当てる。
「えー……じゃあロマニは勉強してたの?」
「ボク? ボクはそりゃあ死ぬ気で勉強したさ。
そうじゃなきゃ今ここに医者として立ってない、ってね」
「そっちじゃなくてさー」
より不満そうなソウゴの顔。
その様子に乾いた笑いを漏らしつつ、ロマニは腕を組んで唸って見せた。
「いやぁ……そっちに関してはまあ、そうだね。
どちらかというと望むまでもなく授け与えられるモノだった、かもだ。
だから、従順ではあっても勤勉ではなかったんじゃないかな?」
もはや他人事とばかりに彼はそう推測の言葉を並べる。
彼の言葉を聞き、どこか自信有り気にうんうんと頷きだすソウゴ。
「つまり、王様なら大丈夫ってことだよね!」
「何が大丈夫なのよ……」
何が根拠なのか自信溢れる彼に対し、呆れるツクヨミ。
「ソウゴさんは興味のある事でしたら集中力が持続するようなのですが、その。
それ以外だとどうも続かないらしく……はい」
「歴史だとちゃんと集中が続くよね、ソウゴは」
言葉を濁すマシュに続け、立香が今日の様子を思い返す。
日本史、世界史。国家の推移を掘り下げる点に関しては、と。
分かりやすい彼の興味に対して、一周回って感心するという声。
「それはそう。王様になるために必要だ、って思った勉強ならちゃんとするよ、俺。
だから今までだって色々参考にしてるし」
「ははは……まあ実際、人理焼却は多くの国家、王を巡る旅路だったからね。
ためになったのなら何よりではあるけれど」
人理焼却によって巡ってきた数々の特異点。
その旅において出会ってきた、時代に名を残した王、英傑の数々。
それを回想する、間もなく。
「まあ流石に次の特異点においては、王として学べるものはないかもね。
何せ時代が西暦にして2000年、中央アジア・ヒマラヤ山脈直下の地下空間だ。
ま、前人未到の地下国家がある可能性は否定できないけれど」
「ダ・ヴィンチちゃん」
会話の最中、再び開く自動ドア。
その向こうから顔を出すのは天才、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
彼女が入ってくると、その後ろについてオルガマリーもまた入室してきた。
彼女が手にしていた資料がツクヨミの手に渡される。
渡されたのでそれを読み始めた彼女を横目に、所長は口を開いた。
「外から分かる限りでも、地底空間は相当に広大よ。
本当にそんな空洞があったなら、地上に影響が出ないはずがないほどに」
「―――ふむ。そんな場所に仮に都市、国家があるとするならば。
それは正しく、伝説に云うアガルタのようだが」
ホームズの相槌に肩を竦めるオルガマリー。
そうして出てきた名前に対し、立香が声を上げる。
「アガルタ?」
「アジアのどこかにあるとされる、地下都市の伝承ですね。地下ではありますが中心には小さな太陽があり、高度な文明社会を築く
マシュによって簡潔に補足され、なるほどと頷く立香。
「そういう伝説がある、というだけで特異点としてそれを成立させるのは難しい話よ。
メソポタミアの地下に冥界があった、ってのとは別次元。
神代にそういう幻想都市があった、ならば別に何の問題ない。
けれど、物理法則が定まった西暦以降の地下にそんな幻想都市は成立しない」
だが、成立しないという事が発生しないという事と同義ではない。
成立しないほどに破綻した特異点は、ただ泡沫のように消えるだけ、という話。
人理。正統な歴史に瑕疵をつけることなく、ただ無かったものとして消えていく。
本来ならばそうなるはず、と。
「でもこうしてる、ってことはそうじゃないって事だよね?」
「……そうね。どうしてか、この推定アガルタは西暦2000年に実在してしまっている。
これを維持されること、それ自体が人理に瑕をつける行為といって差し支えないでしょう」
存在しない筈のものが、そこに実在してしまっている。
それが明かされた時には必ず揺らぎが起こる。
この特異点の存在は確かに、人理に対する攻撃と見做せるものだった。
新宿の『人理など知ったことか、望みはカルデアだけ』という態度とは程遠い。
そう感じて、美遊が問いかける。
「ところでこれは、魔神が原因と考えていいんでしょうか?」
「ああ、それは間違いない。特異点の発生と同時に確かに魔神の反応があった。
今はもう感知できないが……恐らく何ものかに潜んでいると思われる。
例えば表に立たせるためのサーヴァントと一体化したり、とかだね」
ロマニからの返答に一度頷いて、彼女は納得を示す。
次に声を上げたのは、そんな彼女の横で資料を見ていたツクヨミ。
「それで、召喚するサーヴァントなんですけど……」
「そこに書いてある通り、現状でも条件はどこか判然としない。こちらで観測した事のある霊基と一通り照らし合わせてみたが、通れる条件の把握は微妙な感じだ」
溜め息混じりのダ・ヴィンチちゃんの言葉。
それ聞いて眉を上げ、ツクヨミに顔を向けるホームズ。
その態度から、彼女は素直に資料を彼へと手渡した。
「なので、特定の誰かの再召喚にチャレンジする、ということはしない。
フェイトの召喚システムに推定アガルタの情報を入力して、最初から選別した召喚を執り行うんだ。ここで召喚できた=そのまま推定アガルタにレイシフトできる、という事になる」
なるほど、と頷く者たち。
誰かに狙いをつけるのではなく、推定アガルタと同じ条件をこの召喚につけてしまう。
そうすれば最初からレイシフトできるサーヴァントしか召喚されない。
選べた方がいいのは確かだ。
が、そもそも召喚されるサーヴァントが常に確定しているわけではない。
確率を上げることはできても、100%に持っていけるわけではないのだ。
だからこそ推定アガルタが特異点に割り込める条件としているものを絞り込み、それを活用しようとしていたのだが、絞り込み自体が困難だという結論が出た。
ならもうしょうがない、と。推定アガルタから得られた情報を選ばず全部突っ込み、フェイト自体に選別も任せてしまえ、という思考の投擲だ。
「ところでさ、もうアガルタでいいんじゃない?」
「うん。まあ、そうだね」
言われた事に強く頷き、ダ・ヴィンチちゃんが一つ咳払い。
「つまり誰が呼ばれるかは完全に分からない、っていうことですか?」
「と言っても、基本的な部分は変わらない。
出来る限り縁のあるサーヴァントから選別される、という方式はそのままだ。
“そのサーヴァントはアガルタに行ける”という前提条件が一つ追加されただけ。
というわけで、一応は君たちの顔見知りが召喚される可能性が高い筈だよ」
ツクヨミからの問いかけに答えを返すロマニ。
それを聞いてから数秒置いて、立香がもう一つ問いかけた。
「……ちなみに、それで呼べたサーヴァントは私たちのこと」
「カルデアが時空を漂流している状況は改善された。
だから彼らが召喚されたとして、その記憶は記録となっているかもしれない。
ただフェイトによる再召喚は記録された最終霊基の再現でもある。
覚えている、ということもあるかもしれない。そこはやってみなきゃ分からないね」
あえて平坦にそう返したダ・ヴィンチちゃんに笑って頷き返す。
そうして状況から離れ、資料を眺めていたホームズ。
彼が指を這わせていた紙面に書かれた事に、僅かに眉を上げた。
「――――おや?」
「うん? どうかしたかい、ホームズ」
「……いや、ここにある数値が少し引っかかってね。
まあ大した事じゃない。混乱を招かないようにこれ以上は黙るとしよう」
彼は軽く首を横に振りながら、資料を畳む。
「その思わせぶりな態度が一番混乱を招くんだけどねぇ」
「――――では、これから地底都市アガルタ攻略部隊編成のため、サーヴァント召喚にとりかかります。マスター適性者は順番に召喚を行ってください。
契約サーヴァントたちは念のため警戒に当たるように」
ぱん、と一つ手を叩き、オルガマリーは話をまとめる。
アガルタの攻略を考えるにしろ、それは召喚を終わらせてからだ。
何せ行く事になるサーヴァントが誰かもわかっていない。
まずはこちらの戦力を確定させなくては話にならない、という当たり前の話。
彼女の指示に頷いて、マスターたちが動き出した。
「そう、私だヨ!」
どばーん、とジェームズ・モリアーティが目を見開く。
彼が引っ提げているのは複合兵装棺桶、ライヘンバッハ。
魔弾の射手マックスと融合する事で成立した、アーチャーである彼の宝具だ。
立香に召喚されたそんな悪党の顔を見るホームズ。
どこか舌打ちしたげな顔で見据えてくる好敵手を前に、モリアーティがにやりと笑う。
「おや、どうかしたかネ? 私に負けたホームズくん」
「…………いいや。大した事ではないとも、モリアーティ教授。
せっかく記憶があるんだ、どうやってキミに魔神の事を洗い浚い話させるか考えていただけさ」
「そうは言っても、私の持ってる情報がバアルより多い筈もない。
そもそもの話として私はバアル以外の魔神の行動、理念に何の興味も抱いていなかった。
私たちはただ、私たち自身の目的のみを志していたのだから」
お手上げ、と両手を上げて見せるモリアーティ。
召喚に応じておいてここで嘘を吐く意味もないだろう。
確かに、そもそも彼にとってもこの件に関してはバアルしか情報源が無かった。
であるならば、ホームズがバアルの中で得た情報以上のものが出るはずもない。
呼び出したと同時にホームズを煽るサーヴァントに対し立香が一息吐く。
「それで、プロフェッサーはもう何も知らないって事でいいんだよね?」
「モチロン。わざわざウソなどつかんさ。
ウソをつかずに誘導した方が言い訳と後始末が楽だからネ!」
立香の護衛として立っていたイリヤが何とも言えない、と口元をひくつかせた。
本当によくもまあ召喚に応じたものだ、と。
「……随分と物騒と言うか、何やら無視できない話をしているね。
キミたちは敵方をおおらかに迎えすぎなんじゃないかな、と私は正直思っているわけだが」
魔神側にいたというモリアーティを見て、胡乱げな表情を浮かべる騎士。
その姿こそは、かつてフランスで死合った白百合の騎士。
シャルル・ジュヌヴィエーヌ・デオン・ド・ボーモン。
即ち、セイバーのサーヴァントとしてソウゴに召喚されたシュヴァリエ・デオンであった。
「そう?」
ソウゴがデオンの視線を追ってみれば、そこにいるのは竜の魔女。
オルガマリー・アニムスフィアのサーヴァント、ジャンヌ・オルタ。
彼女は再臨した状態で再召喚され、どこか満足気にしている。
「ま、そういうお人好し? 的な感じの集まりだから。気にしない、気にしない」
「お人好し、とはまた違うと思うが……まあサーヴァントとして呼ばれたからには、適宜お節介でも口を挟んでいくさ。
そういう役割も必要―――いや、そういうのはあっちの胡散臭いヤツの方が得意そうだな」
クロエの言葉に肩を竦めようとしたデオン。
しかし途中で肩を止め、先程まで見ていたモリアーティに視線を向ける。
なんと、一目で分かる汚れ役担当。
デオンの言葉に同意するように、黒い騎士王が鷹揚に頷いた。
「汚れ役を避ける気はないが、あそこまでの適役に並ばれてはな。
騎士が剣を執るように、司祭が杖で祈るように、悪漢は奴にやらせておけばいい」
「確かに」
「適材適所、ということですね。
家政婦が料理を担当するならば、掃除を担当するメイドもいると」
「なんで家政婦とメイドで分けたの……?」
ツクヨミのサーヴァントとして降臨したアルトリア・ぺンドラゴン。
新宿と同じように黒化している彼女の言葉。
それにしみじみと同意を見せる美遊とサファイア。
「なんか美遊くんって常に私へのあたりが強くないかネ?」
「逆になんで優しくされるなんて思いあがれるのよ」
「うーん、でもほら、なんか本能であたり強めになる相手、ってのもいるし。
そういう相性なのかも」
呆れるオルタの言葉に対し、桃色の髪のサーヴァントがそう口にする。
バサリと翻る白いマントを纏った男性とも女性ともつかない中性的なその姿。
「あればっかりは多分どうしようもない。
まだ会ったばかりだけど、黒いジャンヌはそんな感じにはなりそうになくて嬉しいよ!」
「なんで私なのよ」
サーヴァント・ライダー、真名をアストルフォ。
シャルルマーニュ十二勇士に名を連ねる騎士の一人。
オルガマリーの二人目の戦力に他ならない。
一通りの作業を終えた状態でがやがやと騒がしい召喚室。
そこで終了操作を行いつつ、ロマニが顎に手を添えた。
「しかし、新宿から続けてのサーヴァントが多かったね。
これもアガルタの性質、ということだろうか」
「私としては特にアーサー王の召喚が叶っている事が驚嘆かと。ミスター・アストルフォもですが、英雄としての格式高い彼女たちの降臨をアガルタが許すとは」
「……ふーむ。確かにどこか作為的なものは感じる。
何か、アガルタが素通りさせてもいいと設定している共通の属性があるのかもしれないね」
同じくホームズとダ・ヴィンチちゃんが思考を回す。
そんな彼らの会話に出てきた言葉。
そこに引っかかるものがあって、イリヤがぴたりと動きを止めた。
「…………あれ、いま何か変な言葉を聞いたような?」
「分かりますとも、イリヤさん。
男の娘は魔法少女になれるか否か。なれたとしてそれは正統な“少女”なのか。
魔法少女界における永遠の命題の一つですよね」
「あれで男性なのね、アストルフォ」
どこか感心した様子のツクヨミ。
容姿や声のみならず、ぱたぱたと動く彼の所作。
外から見る分には、あらゆる点が彼の性別を特定させない不思議。
「そういえばデオンはどっちなの?」
「うわ、本人に直接訊く? 普通」
その話題に便乗するかのように、ソウゴがデオンへと問いかけた。
すぐにからかうような事を言うクロエも、興味有りげにデオンを見つめる。
容姿で言うならばデオンはむしろ女性的だろうか。
だが所作に関しては男性的なものを感じさせる。
どちらにも取れて、どちらとも言えない。
意図してそうしている様子のデオンに対し、投げかけられた疑問。
白百合の騎士は軽く帽子を押さえ、溜め息交じりに返す。
「マスターの望むままに。
キミの要望に合わせるよ、どちらにでもなれるのが私だからね」
「どっちにもなれるんだ。でもそれって……」
絶対ダメな質問がでるな、と。
即座に察知した立香が動き、ソウゴの口を背後から塞いだ。
マシュがそれを見てほっとした様子で胸を撫で下ろす。
そんな彼女の頭の上で眠そうに欠伸をするフォウ。
「相変わらずねぇ、ここ」
「そう簡単に変わるなら誰も苦労しないわよ」
メンバーは多く変わったが、雰囲気は変わりゃしない。
そう笑ったオルタに対し、オルガマリーが溜め息ひとつ。
「人理焼却だろうがその後のこれだろうが変わらなかったのだろう?
ならもう何があろうと変わるまい。
それが生むのが気苦労だけか、あるいは誇りもか。それは当人の意識次第だろうが」
アルトリアがそう言ってオルガマリーに視線を送る。
彼女はすぐにふい、とその視線から顔を逸らす。
ホームズが、そこでぽつりと。
「アーサー王は言うまでもなく、アストルフォもまたイングランドの王族。
さしあたって思い当たる共通項はその点でしょうか」
「つまり王様だとフリーパス?」
「騎士ならばフリーパス、という可能性もあるが」
ソウゴからの問いかけに対し、ホームズはデオンに視線を向ける。
白百合の騎士は帽子に指をかけて、どこか居心地悪そうに視線を彷徨わせた。
そんなデオンの顔を不思議そうに覗き込むアストルフォ。
「だがアガルタの発生個所はヒマラヤだ。イングランドの王族が何か関連するかい?」
「いや、そこは深く関連してはいけないんだよ。特筆するべき関係があるということは、影響を与え得るということだからね。
―――だというのに揃って彼女たちが呼ばれた、というのは考えさせられるけど」
「ボクは王族ではあったけど王ではないんだけどなぁ」
デオンから視線を外し、ダ・ヴィンチちゃんの言葉に不思議そうに首を傾げる。
そんなアストルフォの様子を横目に、モリアーティが言葉を投げた。
「ふむ、そうだネ。では一応残りのメンバーが特異点に弾かれない理由を考えておこう。
ジャンヌ・オルタは割と簡単な話だ、それは成立が特殊で正規の英霊とは違う事。これは幻霊と混ざっている今の私にも言える事だが。
そしてデオンくんは活躍がスパイとしてだからかな、暗躍が主なのは私もだが。影の存在であるが故に目立たない、みたいナ?」
軽々に言われた適当な理由。
それを聞いて、デオンは呆れるように片目を瞑ってみせる。
「……適当だな」
「そういう男なのです、彼は」
「言うネ、シャーロック・ホームズ。
そこまで言うならば、君が解き明かしてくれてもいいのだが?」
その状況で流れるように話をパスされるホームズ。
彼はそれに片眉を上げると、そこで数秒考えこむように静止。
そして再起動した暁に、いつも通りの言葉を吐き出した。
「――――いや、そこはまだ語るべき時ではないだろう」
「こういう男なのだヨ、彼は」
「二人揃って適当だな!」
やれやれ、と肩を竦め合う探偵と犯人。
そして叫ぶデオンを見て、立香がどこか不思議そうにする。
「思ったより仲良いね、二人とも」
「笑いながら抱き合えば隠し持ったナイフで背中を狙えるからネ。
いつでもそう出来る関係の構築は重要だ」
「同意しよう。その距離ならキミのナイフより私のバリツの方が速い。
獲物がわざわざ射程内に入ってくれるのはありがたいとも」
顔を合わせ、にこやかに笑い合う二人。
そんな朗らかなやり取りを見て、アストルフォも楽しげに笑う。
「うんうん、いつでもハグできる仲なんて素敵だと思うよ」
「理由が明らかに不穏なものだったのですが……」
マシュは刺し合うようなそんな二人の様子を見て苦い顔。
彼らのやり取りに溜め息を落としつつ。
ロマニが召喚室のシャットダウンを終えたのを見届けたオルガマリー。
彼女が軽く手を叩いて注目を集め、声を張った。
「とりあえず召喚は終わったわ。
これから管制室に行き、レイシフトの調整を行いつつ改めて状況の共有を行います。
その後、レイシフトを実行。―――特異点、アガルタの攻略を開始するわ」
「おー!」
返ってくる声と共に振り上げられるアストルフォの拳。
それを見てマスターたちが顔を見合わせる。
え、やるの? という顔を浮かべるツクヨミの横、拳を握る立香にソウゴにマシュ。
仕方なし、タイミングを合わせて四人揃って腕を振り上げた。
「おー!!」
そうして喊声を上げた面々が、揃って前を見る。
その先にいるのは当然のように、オルガマリー。
代表して問いかけるのは彼女のサーヴァント。
「あれ、マスターはやらないの?」
「やらないわよ……」
アストルフォからの問いかけに呆れ声を返す。
そのまま彼女は踵を返し、召喚室から管制室に向けて歩き出した。
ふぇええ…月の裏側は遠そうだよぅ…
○マスター 藤丸立香
キャスター:イリヤスフィール、アーチャー:ジェームズ・モリアーティ
○マスター 常磐ソウゴ
アーチャー:クロエ、セイバー:デオン
○マスター:ツクヨミ
キャスター:美遊、セイバー:アルトリア・オルタ
○マスター:オルガマリー・アニムスフィア
アヴェンジャー:ジャンヌオルタ、ライダー:アストルフォ
偏りすぎぃ。
ホームズが気にしたのはアガルタとあるサーヴァントの相性値。
何でこの英霊がこの特異点と相性最低なんだ? という。
ソウゴのデオンへの質問はトイレ使う時どっち使うの?