Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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美しき世界2000

 

 

 

「ふわぁ……」

 

 吐き出される感嘆の息。

 目前に広がる空に、イリヤは目を丸くした。

 

 警戒しながらの行動、いつ戦闘になってもいい心構え。

 そんなものを心掛けていたにも関わらず、思わず感心が表に出た。

 

 少女が見上げた先にあるのは煌めく空の色。

 緑豊かな木々のカーテンの越しに垣間見える光の天蓋。

 それは太陽の昇った空、ではなく確かに鎖された空間の果て。

 岩の天井に生した苔らしきものが、輝かしく発光している様だった。

 

「へー! すっごいね、これ! 苔ってあんなに光るものなんだ!」

『いえ……外部からの光を反射して光るものはあっても、あのように明らかに自身を光源として発光するようなものは通常ありえないかと』

 

 自然の溢れる大地。

 木々の緑に富んでいる風景の中で、両手を広げて絶景を楽しむアストルフォ。

 マシュは周囲の環境を探査しつつ彼の認識を正してみせる。

 

「……まあ綺麗なもんではあるけど、つまりどういうことよアレ」

「―――――」

 

 苔の天蓋を呆れ気味に仰ぐジャンヌ・オルタ。

 彼女とは違い、アルトリア・オルタが睨むように同じものを見る。

 そんな騎士王の様子に目を向け、ツクヨミが問いかけた。

 

「どうかした、アルトリア?」

「いや……時代は西暦2000年、だったか。

 だというのにこれは一体どんな冗談だ、と感じただけだ」

「と、いうと?」

「空気が違う。下手をすれば私が存命の頃のブリテンに匹敵する……とまでは言わないが。

 それでも空気の質が1500年前後は遡っているだろう」

 

 アルトリアはデオンから促され、そう付け足す。

 彼女はそのままアストルフォへと視線を向けた。

 

「貴様も感じるだろう」

「え、っと。そうかな? うーん……まあ、確かに、そう言われれば?

 でも、そもそも地底王国なんて面白そうな世界ならそうなるのも当然じゃない?」

 

 周囲をきょろきょろと忙しなく見回すアストルフォ。

 

 地底王国ならば神秘の流出は最小限だ。

 島国であるイギリスや日本が長く神秘を地上に残したように。

 そういう閉鎖的な土地、という前提であるならば―――

 

 彼の言葉に片目を瞑り、騎士王は軽く考え込む。

 そこで口を開くのはモリアーティ。

 

「ふむ、アガルタというのはそう昔の伝承ではないはずだ。つまり―――」

『基盤となっているのがif(もしも)の世界、と解釈するのはどうだろうか。

 もし伝承に云うアガルタがかねてより実在したら。それが西暦2000年まで現存したら。それは今キミたちがいる世界程度の神秘を残した空間になるのではないだろうか、というね。

 アガルタは地球の中心にある理想世界と云われるもの。魔術的には星の内海と解釈してもいい場所だが、それにしてはこの光景は()()()()に寄っているように見える。もちろん、特異点を見て回らなければ確かな事は分からないがね。

 人の伝承に寄っている、ということはどういうことか? それはこの世界を構築した()()()()の持ち主がいるということだ。

 前例から言って、どこぞの犯罪者がミスター・シェイクスピアを利用して世界観を構築したように、誰かが“物語”の延長上としてこの特異点を発生させた、という可能性を提起しておこう』

「この探偵、私が話するのに邪魔だなァ!」

 

 しれっとした顔でモリアーティの言葉を奪うホームズ。

 がなる老爺に対して彼が浮かべるのは涼しい顔。

 

「それってつまり、また作家のサーヴァントがいるってこと?」

『そこまではまだ分からない、が。この特異点の成立には、“物語”との関係性を持つサーヴァントが関わっている可能性が高い、と私は予測する』

 

 そこまで聞いて、周囲を気にし出すイリヤ。

 新宿よりさらに前の話。

 平和そうな世界だと思ったら、とんでもないのに襲われたのは記憶に新しい。

 確かにこの特異点は、新宿よりむしろレディの世界に雰囲気が似ている。

 固有結界、というわけではなさそうだが。

 

「それで、そうだったとしたら何か問題があるの?」

「……現代よりは何が起こってもおかしくない状況、というだけだ。

 全てを粉砕する気概さえあれば、何の問題もないな」

 

 探偵と悪党のやりとりを流しつつ、問いかけるクロエ。

 彼女の質問に対してさらりとそう返して、アルトリアは肩を竦めた。

 

 一通りの話を聞いて、オルガマリーは溜め息をひとつ。

 考え込むように己の眉間に指先を添える。

 

「―――この人数がいるなら調査は人員を分割して、と思っていたけれど」

 

 戦力は間違いなく充実していると言えるだろう。

 絶対に勝てる、などと思い上がる気はもちろん無いけれど。

 だが、まずどうにかなるだろうという考えは持っている。

 

 だからこそ、戦力を分散してでも事態の把握を急ぐのが良い。

 そう考えていたが、そうでもないかもしれない。

 初見殺し染みた世界観によるルールの強制。

 そういったギミックがいきなり襲い掛かってこないとも限らない。

 

「とりあえず拠点にできる場所から探しましょうか?」

「そうね。アガルタ、というのが地底国家ならば街なんかがあってもおかしくない。

 ―――人間の街である保証はないけどね」

『んー……一応通信の強度は確保できる、かな。場所によるかもしれないけれど。

 とりあえず報告だ、周囲に生体反応はない。

 この環境で小動物もいないのは気になるが、とりあえずは安全だと思う』

「とりあえず探査に引っかかるものがあったら報告を。

 ……それにしても安全なら安全でいいけど、進む方角さえ決められないのは悩ましいわね」

 

 ロマニからの報告に頷くオルガマリー。

 街や村があり、そこの生体反応が見つかっていれば指針にはなるものを。

 溜め息と共にそう吐き捨てて、彼女は苔生した天蓋を見上げる。

 

「なんかこの始まったのに何も分からない感じ、最初の時みたいだね」

「最初って、フランス?」

『フランス……カルデアがチームとして成立し、最初に行ったレイシフト。

 人員は先輩と、ソウゴさんと、クー・フーリンさんと、わたし。右も左も分からないままの始まりで―――』

 

 次の行動を選ぶための停滞。

 そうして弛緩した空気の中で、なんとなしに口を開くソウゴ。

 彼のセリフを聞いて、立香が反応した。

 同時に、それを聞いたことでマシュが懐かしげに語り出す。

 

 しかしそんな彼女の声を、彼女の頭で暴れる獣が遮った。

 

『フォウ! キャウ、キャーウ!』

『す、すみません、フォウさん。もちろんフォウさんも一緒でした』

 

 暴れ狂う小動物をどうどうと宥めるマシュ。

 彼女の隣ではロマニも苦笑している。

 そんな光景を横目に微笑んで、

 

「――――いい思い出として語れるなら何よりだ。なあ?」

「は? なんか言いたげじゃない?」

 

 デオンが帽子を押さえながら流し目を送る。

 それを向けられた相手は、当然のようにジャンヌ・オルタ。

 

「懐かしい冒険の始まり。そんな思い出話にも温度差あり、ね」

「一回高い場所から見てみる、っていうのはどうですか!

 天井はかなり高いし、結構見渡せると思うんですけど!」

 

 口笛に交えて肩を竦めるクロエを押しのけ、イリヤが次の行動を提案する。

 イリヤからの提案を受けて、オルガマリーが表情を渋くした。

 何故そうなるのか分からず少女が困惑する。

 

「飛んでみたら撃墜された事あるからさ。必要なら俺がやるけど」

「アメリカ、ですね」

 

 ソウゴの言葉に首を傾げようとして、気付いた事でイリヤが止まる。

 そんな彼女の姿を見て、サファイア―――厳密には彼女が管理するクラスカード・ランサーへと視線を向け、神妙な顔で頷いてみせる美遊。

 わざわざ言わんでいい、とソウゴに対して眉尻を上げるオルガマリー。

 

 溜め息交じりに、話を変えようとツクヨミが声を張った。

 

「つくづくタイムマジーンが使えないのが痛いわね。

 カルデアから転送できなくても、本体の時空転移システムだけで来れればよかったのに」

「なに、あれ結局使えないの?」

 

 彼女の言葉に反応し、ジャンヌ・オルタが不満げな声を上げた。

 

「うんうん、聞いた限り持ってこれれば楽しそうなのにねー」

 

 同意する残念そうなアストルフォ。

 そういう話じゃない、という顔を向けられるが彼に気にした様子はない。

 

「いっそ白ウォズのタイムマジーンを貸してもらうとか?

 どうせ白ウォズは黒ウォズみたいに自分で時間移動できるんだろうし」

「貸してくれるかな」

「無理でしょ……」

 

 カルデアが確保しているマジーンでは時空転移システムが作動しない。

 というより、特異点を連続した歴史として観測しない。

 が、今までの事を見るに白ウォズのマジーンならば出来るのだろう。

 だからと言って借りられるはずもない、とツクヨミが呆れ顔を浮かべた。

 

「まァ、上からの偵察は出来るならしたいのは確かだ。もっとも状況を把握できていない今、無理にする事ではないだろう。この特異点では狙撃が一大ムーブメントになっている可能性は否定できないしネ」

『そうだね。飛行して射線が取れた場合、カルデアの観測外エリアからの砲撃があるかもしれない。それを考慮した行動を取るべきだと思う』

 

 モリアーティが冗談めかして言い、それにロマニが同意した。

 単純な砲撃であればいい。迎撃、防御が行える攻撃ならばいい。

 だがそうではない可能性だってある。

 それこそ、開幕で名無しの森に囚われた時のような事だってありえないとは言えない。

 相手に観測された結果、不意打ちされれば抗えないルールを強制されないとは限らない。

 

「うん! つまりアレだね!

 ボクがヒポグリフでびゅびゅんと一通り見てくればいいんじゃない!?」

「話聞いてたかネ?」

 

 話の流れに大いに頷きつつ、秒でそう返してくるアストルフォ。

 

 彼の宝具、“この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)”。

 鷲の上半身と馬の下半身を持つ幻獣、ヒポグリフへの召喚騎乗。

 それならば確かに飛行に関しては何の問題もないだろう。

 でもそもそもそういう話ではなかったはずだ。

 

 彼のそんな様子に対し、モリアーティが珍妙な表情を見せる。

 が、アストルフォの意見にアルトリアが支持を見せた。

 

「だが徒歩だけで手がかりを探す、は消極的にすぎる。私たちの移動でカルデアの観測範囲が広がるにしても、この土地の全容さえ私たちには分からないのだから。

 その上、魔神は私たちのレイシフトは察知しているだろう、モリアーティ」

「うー……ん、まァ。魔神にはレイシフト自体は感知されてるだろう。最悪、レイシフトで出現した位置もバレているかもだ。アガルタは新宿よりは遥かに広いだろうから、魔神の知覚でもそこまでは掴み切れていないかもしれないが」

 

 新宿という街一つは、特異点の規模としては最小クラス。

 バアルと彼はそこでカルデアの動きをおおよそ把握して動いた。

 が、それは狙撃手であるアーチャーの実測と推測を重ねてのものだ。

 より広い規模での活動を完全に観測できるものではない。

 

 だから魔神がカルデアの行動を完全に把握している、とは考え難い。

 それを行うには、それこそ魔術王の眼が必要になるだろう。

 もちろん、魔神に協力するサーヴァントの存在によっては不可能とも言い切れないが。

 

「相手には俺たちが見えてるのに、こっちが何も見つけてないのはよくない?」

「できるだけ後手は避けたいのは確かだ。

 ただそれを無理をする理由にできるか、というと微妙なラインだと思う。

 相手がこちらを把握している、というのも推測にすぎないしね」

 

 ソウゴの空を見上げながらの問いに答えるデオン。

 

「ジリジリと探索範囲を広げていくか、パパっと飛んでしまうか。悩ましいところですねー」

「その選択肢を広げるためのサーヴァントだろう、何のために召喚した戦力だ。攻撃があるかもしれない、というならば率先して受けるのも役割の一つ。

 不意打ちされるよりは、最初から受けて立つ心算で動いた方がマシだ。この特異点独自のルールがある可能性を考察するならば、余裕のある内に情報を求めるべきだろう」

 

 空中でくるくる回っているルビー。

 その姿に奇妙なものを見る目を向けつつ、アルトリアは強く告げた。

 彼女から言葉を向けられたオルガマリーが微かに目を細める。

 

「確かに、あなたなら本当に“受けたら不味いかどうか”は分かるものね」

「―――まあ、多少はな」

 

 納得したようなツクヨミの言葉に少し曖昧に返す。

 

 アルトリアの直感であれば、危機は直前に察知できる。

 黒化により直感のランクこそ落ちているが、戦闘における直感に陰りはない。

 危機感知が鈍くなったのではなく、凶暴性が増したが故の感覚麻痺だ。

 

 もちろん察知できたところで確実に回避できるわけではない、が。

 それでも考慮するべき一手の助けになる。

 

「――――――」

 

 口を覆うように手を当て、思考するオルガマリー。

 考え込むのは数秒、彼女はそうしてから顔を上げて―――

 

 

 

 

 ギリギリと音を立てる強弓、直後に風切り音。

 それを何とか聞き取って、彼は即座に剣を振り抜いた。

 手にした剣が迫っていた矢を打ち払い、叩き落とす。

 

「見ろ、()()()()だ!」

 

 矢は確かに弾いた。と、言い返すまでもなく。

 その弓兵が言いたいのはそういうことではない、と分かった。

 相手は灼けた肌を持つ、露出の多い民族衣装を纏った女性の集団。

 

「逃げ出した奴の処分に来てみれば、思わぬ拾い物だな」

 

 弓兵の背後、剣を持っている同じ格好の女が言う。

 そちらから意識を外さないようにしつつ、自分の後ろを確認。

 そこには疲労困憊で地面に転がる、一人の成人男性の姿。

 流れから言って、逃げてきた彼を彼女たちは追ってきたのだろう。

 

 一人であれば多勢に無勢であってもどうにかなる。

 が、この動けない男性を庇いながらとなると難しい。

 

「あの戦士とは殺し合う。その強さを確かめた上で、胤として迎え入れる。

 地面に転がっている惰弱な男は踏み潰せ」

「我らには強き胤が必要だ。

 次代の戦士が我らより精強になるために。女王が従えるに足る強き戦士を産むために。

 女王が挑む、あの災厄の嵐を凌駕するために」

 

 足並みが揃う。

 我欲の塊みたいに見えるくせに、たった一言、たった一瞬でその意識は重なった。

 十数名の女たちは意志が統一されている。この瞬間に統一されたのだ。

 今にも爆発しそうな本能を抑えつける、口振りから言って恐らく女王への忠誠。

 

 さぞや心を集めている指導者なのだろう、と。

 こんな状況であるのに、彼は少し感心した。

 

「逃げられますか?」

「―――――」

 

 小さな声で後ろに向けた問いかけ。

 それに対して返ってくるのは荒い吐息だけ。

 訊かずとも大体分かっていたが、無理だろうな、と。

 そう認識して、両手で剣の柄を握り締めた。

 

 状況が分かっていない。

 どころか、自分の状態さえちょっとよく分かっていない。

 何をすればいいのかなんて、まるで分かっていない。

 

 その上、何が問題って。

 自分が目の前の女性たちを戦士だと認識しているのは間違いない。

 敵であろうと確信している事にも間違いない。

 

 ―――だというのに、どうにも腕に力が入らないのだ。

 

 対峙している相手を戦う対象として観れない。

 相手はむしろ、自身より完成された戦士の群れだというのに。

 

「では、走れるようになったら逃げてください。

 それまでは僕が何とか彼女たちを引き付けますので―――」

 

 それでも戦わない、という選択はなかった。

 戦えない相手だからと言って、逃げるような選択肢が浮かばなかった。

 剣を握る両腕に最低限力を籠めて、彼は目の前の女戦士たちを見据える。

 

 その態度がよほど琴線に触れたのか、相手の雰囲気が昂りだす。

 『女王のため』と、『自分のため』。

 二つの目的意識がぴたりと同じ方向を示し、彼女たちの闘志は加速していく。

 

 直後のダン、という足音はまったく同時に十数のものが重なり。

 迫りくる女性の群れに少年は口元を不甲斐無さで歪め。

 

 ―――瞬間、空を切り裂く黒い流星が双方の間に落ちてきた。

 

 盛大な衝撃と破砕音、地面に造り出されるクレーター。

 立ち昇る砂塵から顔を庇いながら、女戦士たちが驚愕に足を止める。

 

「なに……っ!?」

「ヤツか!? ここが一体どこだと思っている……!

 ――――いや……!?」

 

 女戦士たちがその流星の正体を見極めようと目を凝らす。

 数瞬遅れて、その場に突風が吹き荒れた。

 突如として発生したそれこそは、幻獣の羽ばたきによって発生した強風。

 それは土煙のカーテンを引き剥がし、その向こう側。

 大地を砕きながら降臨した者の姿を露わにする。

 

「―――ちょうどいい、まずは軽く慣らし運転だ。

 少々の間でいいが、簡単には潰れてくれるなよ?」

 

 突風を黒く塗り潰し、噴き上がる魔力の波動。

 ただそこに立っているだけで肌を串刺すような圧倒的な魔力風。

 その存在を目の当たりにして、女戦士たちが即座に守りの姿勢に入った。

 

 直後、魔力が爆発して弾かれるように撃ち出される漆黒の弾丸。

 

「ガ、……ッ!? チ、ィ……ッ!」

 

 アルトリアに正面から激突された女戦士が空を舞う。

 その衝撃だけで周りの連中さえも体勢を崩した。

 

 そんな瓦解した敵を前にして、黒い騎士は着弾してからゆっくりと息を入れ直している。

 間を置かずとも攻め立てられるだろうに、そうはしない。

 最早余裕の態度にしか見えないその所作に対し、女戦士たちが顔を歪めた。

 

「貴様がどちらから来た女かは知らないが、我らアマゾネスを侮るな――――!!」

「ほう?」

 

 力を漲らせる女戦士の前、楽しげな相槌など打ってみせる女騎士。

 彼女は一瞬だけ視線を流すと、片手で剣を構え直す。

 

 足を止めた騎士に対し、数人のアマゾネスが弓に矢を番え放ち出した。

 剛力でもって直線軌道を描く、横殴りの矢の雨。

 それに対して騎士王は微動だにせず、ただ待ち受けるだけ。

 

 しかし、放たれた矢は一つたりとも彼女の剣の射程距離に入りすらしなかった。

 

「―――さて、どう動くのが最良なのか。

 燃費を考えるなら、この程度の相手にあなたを動かすのが損とも思える」

 

 ゆるりと空を裂く銀色の軌跡。

 小さな動きで僅かにずれた帽子の位置を直すたおやかな腕の動き。

 空を裂き直進していた筈のアマゾネスの矢は一本残らず、シュヴァリエ・デオンの足下にある。

 

 それを見たアマゾネスが、困惑したような表情を顔面に貼り付けた。

 

「――――どっちだ!?」

「え、なにが?」

 

 その叫びにこちらこそが困惑した、という声。それはアルトリアの突進で発生させた土煙に紛れ、相手の背後に回り込んだアストルフォのもの。

 声と同時にぐいん、と大きく回る軌道を描いて奔るのは黄金の馬上槍。繰り出される横薙ぎのスイングが、アマゾネスを二人纏めて殴り飛ばす。

 

 最終的な選択は、アルトリアとデオンを連れ、アストルフォがヒポグリフで周囲を軽く飛び回ってみること。

 その目的は基本的に発見したものに深入りはせず、周囲の地形を把握しつつ街などがありそうな方向にアタリをつけること。

 だったのだが、

 

「ま、こんな場面を見つけちゃったらしょうがないよね!」

 

 少年と男性を背に庇いつつ、アストルフォが肩にランスを乗せる。

 即座に臨戦態勢に入ろうとしたアマゾネスたちが、またもやその相手に困惑した。

 

「男……女……? いや、やはり男か!?」

「そんなの今関係ある?」

 

 アストルフォを目にして、ざわめきだしたアマゾネスたち。

 彼はそれらを前にランスを地面に突き立て、どこか不満げに腰に手を当てる。

 そんなやりとりを見て、目を見合わせるアルトリアとデオン。

 男、女。まるで性別が重要であるかのように振る舞うアマゾネスたちの態度。

 

「ええと、あなた方は……」

「この場の状況はまったく把握していない。説明が聞けるならそれが一番だが……」

 

 ちらりと見てみれば、アマゾネスは臨戦態勢。

 特にデオンとアストルフォに狙いを定めたように見える。

 さらに倒れた男を庇っている少年にも意識は向けられている様子だ。

 

「……とりあえずは、叩き伏せるところから始めるか」

「ォオオオオオオオ――――ッ!!」

 

 アルトリアの声を塗り潰すアマゾネスの咆吼。

 その大地を揺らす音波を放つや否や、女戦士たちの突進が始まった。

 

「―――――」

 

 相手の突進が始まったのを確かに見届けて。

 完全に出遅れるようなタイミングが訪れた直後、アルトリアの足が地面を砕いた。

 アマゾネスたちの加速が最大になった瞬間、真正面からぶつかりに行く黒い弾丸。

 当然のように当たり負け、弾き返されていく数人のアマゾネス。

 

 わざわざ全力を潰すような真似をしてくる相手。

 そんな敵と激突した女戦士たちが更に咆哮の音量を上げた。

 敗北の恥辱に怒り、その熱量で血を燃やし猛る戦士たち。

 

 再びの突進が慣行される前に、アルトリアが僅かに眉を顰める。

 

「……」

「どうしたんだい?」

 

 その態度を見て、数人を相手に全てサーベルで捌きながらデオンが問いかける。

 

「アマゾネス、か。どういう存在か測るぞ、アストルフォ」

「えー? あー……あ、うん。はいはーい、そういうことね!

 いっくぞーぅ、“触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)”」

 

 曲刀を構え吶喊してくる相手に対し、アストルフォがランスで迎撃に入る。

 正面から武装を叩き付け合うことになる二人。

 力での競り合いに入った瞬間に彼の腕がうねり、槍の穂先が大きく振れた。

 そうして揺れた槍が一瞬、アマゾネスの体にぴたりと触れて。

 

「なに……っ!?」

 

 その瞬間、アマゾネスが()()()()

 無理矢理に地面に引きずり倒されるように、酷く強引な動き。

 それを見たアストルフォは槍を引き戻しつつ、報告のため声を上げる。

 

「足が霊体化せずに転んだから霊体じゃないね! ちゃんと肉体あるっぽい!」

「……宝具などで召喚された存在ではない、か。

 このアマゾネスどもは正しくこの地底世界に根付いた生態ということか?」

 

 黒い魔力が爆発し、それを推進力にアルトリアが突進する。

 鍔迫り合いが成立するはずもなく、容易に跳ね飛ばされるアマゾネスたち。

 彼女たちはその勢いのまま地面に墜落し、転がって、しかしすぐに立ち上がってくる。

 

「頑丈だな……」

「ああ、通常の生物であればもう少し堪えてもいいはずだがな」

 

 目を瞠るデオンと、溜め息の混じるアルトリアの声。

 

 彼我の実力差は明白だ。

 数の差が開いたところで、まず負けることはない。

 だからこそ、今やっているのは観察だ。

 

 アストルフォに試させた限り、アマゾネスは生物だ。

 霊体や、エーテルで構成された仮初めの肉体ではない。

 生物の規格に収まった設計ならば、限界は設けられている。

 西暦2000年代まで世界が許容する生き物に、こんな種族はそうはない筈だが。

 

「オォオオオオオオオオオ―――――ッ!!」

 

 叫び、向かってくるアマゾネスたち。

 雄叫びに応じることもなく、アルトリアの足場が爆裂した。

 突撃する黒い獅子の爆進は止まらない。

 アマゾネスたちはそれを止めようと果敢に挑み、当然のように弾き返される。

 

 そんな立ち回りの後ろで奔るサーベルは、アマゾネスの突進を全ていなす。

 自身に群がる相手に対し、確実に傷を与えていくデオン。

 

(騎士王に挑む連中は戦闘意欲、強者に挑戦したいという気概か。

 アストルフォと私、と後ろの少年や男性に群がる連中は性欲、というか生殖意欲?

 それ以上に何か、鬼気迫るものを感じなくもないが……)

 

 女性のみの戦闘民族、アマゾネス。

 それが生殖のために異性を求める、というのはおかしくない、のか。

 どういう生態なのか判然としない以上、考えきれないだろう。

 

 アマゾネスから聞き出すにも、恐らくそんな真似はできない。

 彼女たちは体が動くなったとしても死ぬまで戦うだろう。

 そうと感じさせるだけの気迫が満ちている。

 

(……この特異点には生物としてアマゾネスがいる。彼女たちは恐らく生殖のために男性を狙っている。とりあえずはこの程度、出来れば撤退を選ばせて追跡したいが―――)

 

 ちらりと視線だけを騎士王に向ける。

 派手に魔力放出を使用しているように見えるがその実、相当手加減している。

 それでも紙切れのように跳ね飛ばされる女戦士たち。

 圧倒されているという事実に、アマゾネスはむしろ喜んでいそうなのは気のせいだろうか。

 まあとにかく、逃げてはくれなそうだ。

 

 意識が騎士王の戦場を向いていたデオンの背後に回り込もうとする一人のアマゾネス。

 そいつをランスの一振りで殴り返し、デオンの隣に着地するアストルフォ。

 引き戻した馬上槍を肩に担ぎ、彼がそこで一言。

 

「デオンはモテモテだね!」

「それはキミもだろう」

 

 二人揃って白いマントを軽く翻し、武装を構え直す。

 相手の行動が前進しかないのであれば、ここで相手をし続けるのは無駄だ。

 早々に決着させて、この周囲の探索に入った方がマシだろう。

 あちらもそう考えているのか、アルトリアの視線がデオンに向けられている。

 

「―――仕方ない、これ以上は……」

「……待ってください」

 

 背後からの声。それはいま庇われている少年サーヴァントのもの。

 剣を構えたままそちらに耳を傾ける。

 注意を向けられた事を察した少年が、そのまま言葉を小声で続けた。

 

「彼女たちの行動指針なのですが、最上位に王―――女王がいます。

 そして……彼女たちは、その女王の事を全霊で()()()()()

「案じる……?」

 

 その女王というのがどういう存在かは知らないが、この民族の有り様を見るに、戦闘力が劣る者を女王に戴くようには思えない。だというのに何故、心配されているというのか。

 状況から見て少年が疑うべき存在とは思わない。が、どうにも胡乱げな声が出た。

 

「……詳しくは分かりません。ですが、嵐か何かに挑戦する気の女王に対し、どこか苦慮しているような……そのために自分たちには強い胤が必要だ、と」

「嵐って、嵐?」

 

 アストルフォが首を傾げる。まあ、天候の事ではないだろう。

 そもそもここは天蓋のある地下空間。

 仮に生存圏を脅かす天災があったとして、地震の方だろう。

 

「うーん……」

「……胤、次代の戦士。なら自然な話として、嵐とやらは戦える相手だと解釈できるが」

 

 そう軽く呟きつつ、手首を返して剣を振るう。

 いつまでも足を止めてはいられない。

 少年たちを背中に庇うのを悩んでいるアストルフォに任せ、デオンが前に出た。

 ――――直後。

 

「つまり、あいつらだって自分たちの女王様が心配なんだよね!

 やいやい! おまえたちの女王様がこんな事をするなら、ボクたちが黙っていないぞ!」

 

 ビシリ、と。アストルフォの指が倒れた男を指さす。

 何を言いたいんだこいつは、というアマゾネスたちの視線が彼に集まる。

 

「つまり今ここにいないボクたちのマスターだって、おまえたちの国に攻め込む事になる!

 そんな事になるよりはおまえたちの女王様のためにも、その嵐っていうのを相手にするのに、ボクたちと協力したりした方が―――」

「―――なに?」

 

 デオンとアルトリアもまた動きを止めるアストルフォの発言。

 だがその二人以上に、アマゾネスたちの反応が劇的だった。

 全てのアマゾネスが驚愕に目を見開き、アストルフォへと視線を向けていた。

 

「え? なに、ボクっていまそんなに変な事言った……?」

「―――侵略、すると言ったか? ここにいないお前たちの仲間が、私たちの国を?」

「え、あ、うん? このままだとそうなっちゃうっていうか。

 そもそも国っていうか、まずは一番近くにある街から行ってみようっていうか……」

 

 彼の言葉の終わりを待たず、アマゾネスが全て動き出す。

 

「来ている……! 女王はいま、あの街にお越しになっている――――!!」

「――――撤退しろ!! 我ら戦士は全て女王の許へと参じよ!! ()()が来る!!

 我らが女王の怨敵が、侵略者を殺戮するべく我らの領土へと()()()()()!!」

 

 一糸乱れぬ、というのはこういう様子を指し示すのか。

 わけのわからない事態の推移を見ながら、デオンはなんとなしそう思った。

 少年から得た情報を元にした、状況を転がすための適当な発言。

 それがどうしてか、本当にアマゾネス全員を動かした。

 

 いつでもどこでも戦って死ねる、と。

 そう考えていただろうアマゾネスが全員、敵に背を向けて走り出していた。

 一体どうしてこうなるのか、わけがわからない。

 

 ぽつん、と。

 啖呵を切っていた相手が全員消えたことで、アストルフォが首を傾げる。

 

「えっと……あれ?」

「……まあ、結果的に情報になりそうだがな。

 デオン、追跡するぞ。アストルフォ、貴様は騎獣を出してマスターたちの元に戻れ」

 

 答えは聞かず、アルトリアが加速した。

 アマゾネスが体力配分など気にする様子もない加速で走っていった。

 すぐに追いかけなければ見失うかもしれない。

 様子を見た感じ直進以外ないだろうおかげで、それもなさそうではあるが。

 

「……とにかく。私と彼女で追いかける、と言ってもあの方角に一直線だろう。

 だからキミはマスターたちと合流して、こちらを追いかけてくれ」

 

 ある程度近付けばレイラインで正確な位置も把握できるだろう、と。

 そう言ってデオンもまた走り出した。

 

「うーん、うん。オッケー! ほら、キミたちも!」

「ええと、僕たちも、いいんでしょうか……?」

「あったりまえじゃん! 助けるために割り込んだんだし!」

 

 急ぎヒポグリフの再召喚に取り掛かるアストルフォ。

 少年と抱えられた男性を纏めて運ぶため、彼は自身の宝具を展開した。

 

 

 




 
 これ原作と全然違う話にならないかと書きながら思ったけどまあいいや。
 よくあるよくある。
 ヘラクレスにはどれだけ盛ってもいい。
 
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