Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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守り神2000

 

 

 

 拘束など無いものと全てを粉砕し、大英雄が立ち上がる。

 傷一つない無敵の肉体が復帰する。

 そんな怪物を前にして、

 

「まずはここから離して―――!」

 

 オルガマリーの声が響く。

 彼女たちは背後に避難民を抱えている。

 どんな形で戦闘するにしろ、まずはそこを解消しなければ始まらない。

 

 だが同時に、彼女の叫びに対して何故かヘラクレスが反応した。

 彼の眼光が真紅に輝き、オルガマリーに対して向けられる。

 その事実に対して怯むオルガマリー。

 

『どうやら狙いはオルガマリー所長のようだ。

 ―――ふむ。状況を見るに我らの行動が何らかの閾値を越えた結果、ヘラクレスにターゲットされた。その際に主となる対象は責任者である彼女となった、ということかな』

「なんでよ……!?」

 

 淡々と語るホームズに唖然とした声を上げるオルガマリー。

 あんな化け物のメインターゲットなんて馬鹿げた話だ。

 接近されるだけで紙切れのように引き裂かれる自信がある。

 

「つまり何を狙うか、どう動くかは常に割れてる、ってわけね!」

 

 笑いながら振るわれる剣に従い、地面で燃え滾る黒炎。

 自身の周囲まで延焼させつつ、ジャンヌ・オルタが旗の石突きを地面に突き立てる。

 

 その態度に小さく眉を上げつつ。

 彼女の横でサーベルを翻して構え直し、デオンは疑問を口にした。

 

「逆に言えばこちらが何をしても行動が変わらない、か? だがなぜ奴にはその判断ができるんだ。奴が動く条件はさておき、その基準をどこで誰が達成したかをまさか目視で確認しているわけじゃないだろう?」

 

 ヘラクレスの標的に何らかの条件付けがある、というのはいい。

 だがそれを観測しているのは一体どういう手段なのか。

 その問いかけに対して答えを返すのはダ・ヴィンチちゃん。

 

『恐らくは何らかの情報をどこかから受信している……という事なんだろう。

 ヘラクレスが今まさに見せている初動の緩慢さは、通信中のビジー状態ってわけさ』

「電波わるそー」

 

 黒塗りの弓を投影しつつ、クロエがヘラクレスを見て呟く。

 

 実際に相手の動きはとても遅い。

 動き始めてからは怒涛の侵攻になるが、それまでがあまりに緩慢だ。

 その動きの鈍さを前に、美遊が太腿にあるカードホルダーに指をかける。

 

「いま通信してるってことは何かそうする必要がでた?」

『……恐らくは人員が増えた。つまりソウゴくんと……ゲイツ、くん?

 彼らがこの場に現れたことで()()()()()()()()()()、という事だと思う』

 

 ロマニの言葉を聞きつつ、同じくホルダーに指をかけていたイリヤ。

 彼女がそれどころじゃなかったので今更と、言わんばかりに首を傾げる。

 

「えっと、そういえば誰?」

「今それか? ……後にしろ、来るぞ!」

 

 ジオウ以外に突っかかる気は無い様子で、少女に対しては険悪さを見せず。

 しかしイリヤからの疑問を即座に後回しにし、ゲイツが身構えた。

 

 それとほぼ同時、ヘラクレスが再始動する。

 明確にオルガマリーをターゲットし起動する、誰かに動かされる報復マシン。

 

「■■■■■■■■■■■■―――――――ッ!!」

 

 ロケットが火を噴き。

 ホッピングが軋み。

 ジャイアントフットが踏み締める。

 

 その歩みで大地を割り、進撃する巨人の初動。

 止める術のない突進に繋がる最初の一歩。

 それを、

 

「―――このままただ見逃すばかりじゃ、シャルルマーニュ十二勇士の名が廃る、ってね!」

 

 空より降る勇士の声が止めにかかる。

 風を切り、大英雄の直上から襲来するヒポグリフ。

 同乗しているツクヨミが振り落とされないよう、ヒポグリフに強くしがみついた。

 

 だがしかし、ヘラクレスはそちらにただ一片の意識も向けない。

 

「上等じゃないか! さあ行くぞ、“触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)”解除!」

 

 ―――少年が振り上げた手の中から、黄金の馬上槍が姿を消す。その瞬間、槍によって一時的に失われていたヘラクレスの足が取り戻される。霊体化していた足は実体となって現世に再出現。

 そうなった結果として、当然のように。

 

「―――――――」

 

 失った足の代理をさせるように強引に繋いでいた義足は、本来脛に装着されるホッピングとジャイアントフット。

 それを膝上に無理に装備していた結果、足を取り戻した瞬間に()()()()()()。内側からかかる負荷に限界を迎え、千切れるユニット。そして同時に外側からの圧力に無理矢理縮こまる事になるヘラクレスの本来の足。

 

 結果としてその瞬間、ヘラクレスが足取りを誤った。

 外装を弾けさせながら踏み込み切れず、立ち直せず、そのまま膝を落とす大英雄。

 だが彼がそこから立ち上がるのに一秒といらない。

 足を取り戻したならば、本来のように立てばいいだけなのだから。

 

「というわけでもう一回!!」

 

 だからこそ当然のように、ヒポグリフの翼が空を叩く。

 落下するような角度で飛び、更に加速した幻獣。

 その騎獣に跨った騎士が再び手の中に黄金のランスを現した。

 

 ヘラクレスはどうなろうと対象以外に意識を向けない。

 空を翔けて放つアストルフォの一撃が、確かに大英雄の頭部を捉える。

 

 傷一つ受けず、しかし再び足を霊体化させる巨体。

 立ち上がろうとしていた体が、またも足を失って沈み込む。

 

 地面激突スレスレで進行方向を曲げ、離脱にかかるヒポグリフ。

 その瞬間、ヒポグリフから手を放してツクヨミが跳ぶ。

 体を丸めて地面に落ち、転がって勢いを殺し、彼女は避難民の方へと援護に向かう。

 

「アストルフォ! 所長さんの方へ!」

「りょーかい!」

 

 再び羽ばたく鷲の翼。ヒポグリフが首を曲げ、オルガマリーを見据える。

 ターゲットされた彼女をいつでも空に逃がせるようにする配置。

 いつでも行動を起こせるよう、彼らは加速に入れる状態で滞空する。

 

「■■■■■■■……ッ!!」

 

 そうして足を奪われた状態で、武装の柄に展開されたロケットモジュールが更に火を噴いた。

 足を取り戻せずとも、敵を粉砕しながら直進する事が可能な推力。

 彼は足を失ったままにそちらを全力で行使しようとして、

 

 大英雄の前で、百合の花弁が舞うように散り乱れた。

 

「“百合の花咲く豪華絢爛(フルール・ド・リス)”――――」

 

 踏み込むはシュヴァリエ・デオン。

 その切っ先が描くのは、斬り伏せるためではなく魅了するために振るわれる剣舞。

 白刃の煌めきがヘラクレスの視界の内で優雅に躍る。

 

(何かと通信をしている、というのなら彼の狙いは彼が決めるものではない。けれど今見せた通信にかけた時間を見るに、常に情報が共有されているわけでもない。

 どこかで何かが判断し、ヘラクレスに指令を出し、それを達成するために彼が動く……ならば、戦場で彼の動きの基準となるのはあくまで彼自身の知覚)

 

 サーベルが虚空を滑り、何を斬り捨てるでもなくただただ舞う。

 目にしたものに幻惑を齎す、ただ美しいだけのもの。

 それでも、惑わすだけではヘラクレスの動きは変えられない。

 

 彼は『オルガマリーを狙え』という指示によって動くもの。

 『オルガマリーを狙う』以外の行動はしない。

 

(ならばヘラクレスが此処にオルガマリーが立っている、と認識すれば)

 

 だからこそ。

 磨き抜かれたサーベルの刀身に、デオンが背後にいるオルガマリーの姿を映す。

 精神を惑わす剣舞に、距離感を欺く一手を仕込んでみせる。

 

 白刃に映り込んだ女の姿が、獲物を狙う大英雄の目に入った。

 デオンの後方に立つオルガマリーの位置。そこまでの距離感を、デオンの剣舞が欺いた

 その瞬間、ヘラクレスの動きが変わる。

 

 本来のオルガマリーの位置にまで飛翔しようとしていた巨体。それが即座にロケット推進を取り止めた。代わりに全力で振り上げられる事になる大剣。

 

〈チェーンソー・オン…!〉

 

 振り上げた刃の刀身が薄く伸び、チェーンソーへと形状を変える。

 目の前に突然現れた標的を粉砕するための対応。

 足を失い膝を落としたままに、彼は目標を目掛けて攻撃を慣行してみせた。

 

 回転を始める鎖鋸、即座に頂点へと到達する回転の加速。

 火花を散らして唸りを上げる凶刃。

 その凶器が、ヘラクレスの膂力でもってデオンに向けて振り下ろされる。

 

 己の剣舞の中にオルガマリーを配置した結果、それを受け流せない。

 いや、例え自由に動けたとしてデオン一人でこれは捌けない。

 受け流すにしても限度がある。

 こんな凶刃、受け流す以前に軽く触れただけでデオンの剣が削り折られるだろう。

 

 その攻撃をどうにかしたいのであれば。

 最低限、まずあの武装が巻き起こしている回転をどうにかしなければいけない。

 

「―――――“偽・偽・螺旋剣(カラドボルグⅢ)”……ッ!!」

 

 であれば、捻じ込むしかあるまい。

 

 クロエの弓が発射の反動で大きく撓む。

 彼女の手から放たれたのは、矢へと形状を変えられた螺旋虹霓剣。

 狙う先は、今まさに振り下ろされている最中の剣のチェーン。

 回転する刃の節を正確に射抜き破壊するための、回転する螺旋の矢。

 

 狙いは過たず、その一撃は確かにチェーンソーの回転刃に直撃した。

 

 が、鎖を止めるには足りない。

 回転するチェーンの中、回転しながら捻じ込まれる光の矢。

 それが勢いに負けて、弾き返されそうになる。

 

「――――っ!」

 

 そんな事実にクロが苦渋の顔を浮かべ、声を漏らす。

 ―――その前に。

 

「“虹霓(カラド)(ボルグ)”……ッ!!」

 

 その押し戻されんとする矢に対し、少年が踏み込んでいた。

 矮躯ながらも少年の行った全力の疾走は、足を止めたデオンを追い越していて。

 大英雄の懐に飛び込む勢いで飛び込みながら、彼の突き出した短剣。

 その切っ先が、矢筈にぴたりと合わさった。

 

「お、おォ、ォオオオオオオオオ――――ッ!!」

 

 回転が増す。光量が増す。虹が輝きを取り戻す。

 鎖の圧力に削り砕かれんとしていた光の矢が、その威力を跳ね上げる。

 未熟なれどもその身は確かに英傑、フェルグス・マック・ロイ。

 そして贋作であっても、その矢は確かに彼の剣。

 

 少年は大英雄ヘラクレスの一撃を正面から受け止められない弱さを恥じる。

 いずれはそれを成し遂げられる男になる、という克己心が彼を前に進ませる。

 彼の愛剣はその意志により、虹の輝きを此処に示す。

 

 押し込まれた虹の螺旋が鎖を焼き、チェーンソーの回転を凌駕する。

 鎖が弾け飛び、刃節が周囲に撒き散らされた。

 

 それでもヘラクレスは止まらない。

 チェーンソーを失ったところで殺傷力は微塵も失われない。

 鎖の残骸を散らしながら、大剣はデオンに向けて振るわれる。

 

 跳ね返されるフェルグスの目の前で振り下ろされる刃。

 その凶刃を前にデオンが半身を引き、サーベルの刀身を上げた。

 力だけで振るわれる剛撃を受け流すための柔らかなる剣の構え。

 

 それだけでは足りない。

 シュヴァリエ・デオンの筋力は華奢な外見に反して高ランク。

 技巧も合わせれば、相手が神話級の英霊だとしても競り合える。

 

 が、目の前の怪物を相手にするにはまだ足りない。

 敵は技量を削ぎ落した狂乱のヘラクレス。

 あらゆる技巧を尽くした戦士の全霊を、ただの力だけで圧し潰す無双の大英雄。

 デオンだけではその一撃を止められないし、逸らし切れない。

 

「真上からだ!」

 

 叫びつつ、デオンが迫りくるヘラクレスの一撃に対応する。

 相手の乱雑な一撃を逸らすため、尽くすのが全霊である事には変わりない。

 

「サファイア!!」

「どうぞ、美遊様!!」

 

 大剣の横合いからサーベルの切っ先が振れる。

 ただそれだけでデオンの体に突き抜けていく、微塵に砕けそうになる衝撃。

 それを神懸った体捌きで流す竜騎兵を飛び越して、蒼玉の主従が空に舞う。

 

 噴き上がる魔力は刹那の内に蒼銀に染まり、少女の手に現れるは黄金の輝き。

 空中で加速する術は、全力の魔力放出。

 

「―――夢幻召喚(インストール)、セイバー!!」

 

 変わる姿は青いドレスに銀色の鎧。

 蒼銀の魔力を纏い突き出される聖剣の刃が、ヘラクレスが手にした大剣を上から打ち据える。

 騎士王を模した者による全身全霊の激突。

 支えるための足もないヘラクレスの体が、それによってほんのわずかにブレる。

 

 その隙を、卓越した技巧が切り広げた。

 

 大地を砕く一撃が完遂する。

 ヘラクレスの一振りがその威力を余す事なく発揮する。

 結果として巻き起こされる地面の破裂と、それに伴う爆音。

 星が割れたのかとさえ感じる振動と衝撃。

 

 確かにそれを発生させながら、しかし。

 

「……っ! 一撃が限度だ、マスター!」

 

 シュヴァリエ・デオンは生還する。

 粉砕された大地の上で、確かに剣を手にしたまま立っている。

 それでも腕が悲鳴を上げている、と。焦燥の叫びを背後に送った。

 

 ただ一撃を凌いだが、このまま再び武器を振り上げられては一巻の終わりだ。

 

「ゲイツ!」

「―――――」

 

 投げ渡されるウォッチを無言で受け取り、ゲイツがドライバーに手をかける。

 彼がその操作を終える前に、ジオウは既にその動きを完了していた。

 

〈カメンライド! ワーオ! ディケイド!〉

〈ファイナルフォームタイム! カ・カ・カ・カブト!〉

〈カ・カ・カ・カブト! ファイナルアタックタイムブレーク!!〉

 

 幻に描く十の姿を重ね合わせ、ジオウの姿がマゼンタのアーマーに覆われる。

 そこから即座に更なる追加変身が行われ、彼はカブトの力を帯びた。

 インディケーターに浮かぶのは“カブト・ハイパー”の文字。

 

 瞬く間を静止させ、生み出す猶予。

 ジオウが踏み込むのは時空を歪めるタキオン粒子の奔流。

 全てを置き去りにする孤高の時流の中、ディケイドアーマーカブトフォームが行動を開始する。

 

 地面に叩き付けられた剣が再び振り上げられる前に、決定打を与える。

 そのために彼の手の中に浮かび上がる一振りの長剣。

 

〈ライドヘイセイバー!〉

〈フィニッシュタイム!〉〈ヘイ! フォーゼ!〉

 

 あらゆるものが停滞した世界の中を走りながら、ジオウはディケイドウォッチをヘイセイバーへと装填。更にセレクターを指で弾く。

 選ばれたライダーの力が高まり、その刀身を輝かせた。

 

 ヘイセイバーの刀身に纏わるコズミックエナジー。

 それがドリルのように螺旋を描き、雷光を帯びる。

 

〈ディ・ディ・ディ・ディケイド!〉

〈フォーゼ! スクランブルタイムブレーク!!〉

 

 強大なエネルギーを固めたそのドリルを向けるのは、ヘラクレスが武装を握る腕の手首。

 ジオウが一切止まる事なくそのまま刺突を慣行し、その切っ先を確かに叩き付けた。

 フォーゼの力が炸裂し、ヘラクレスの手首の表皮が焼き切られる。

 

 ―――だがそれまで。

 確かに突き立ちはしたが、貫通など出来はしない。

 押し込もうとジオウが踏み出そうとしても、足が前に出る事はない。

 不動のヘラクレスに対してさえ、攻めきれない。

 

「――――っ! だったら!」

 

 ジオウが足で地面を叩き方針を転換する。

 大きく後ろに跳びながら、彼が握るヘイセイバーの柄尻からロケットの如く炎が噴いた。

 その推力を利用して、ジオウが空中できりもみ回転を始める。

 通常の時流では刹那。圧縮された時間の中での体感十秒。

 それだけの時間を回転による加速に使い、彼は最高速度に到達する。

 

〈カ・カ・カ・カブト! ファイナルアタックタイムブレーク!!〉

 

 ディケイドウォッチのリューズを叩く。

 再度最大に引き出されるディケイドとカブトの力。

 マキシマムライダーパワーが溢れ出し、極彩色の翼となってジオウの背に出現する。

 その力の増大によって、更に加速。

 

 最高速度を突破した状態で、ジオウの手からライドヘイセイバーが放たれた。

 

 ヘラクレスの手首を目掛けて奔る電光ロケットドリル。

 投擲された刃は一直線に大英雄を目掛けて飛ぶ。

 しかしその剣は手から放して体感一秒後、正しい時流に回帰して停滞する。

 

 空中で動きを止めたドリルを挟み、ジオウの目が確かにヘラクレスの手首を見据えた。

 回転を終えたその体が極彩色の翼に後押しされ、再びの加速。

 確固たる狙いを定め放つのは、ヘイセイバーを鏃とした全力の蹴撃。

 

「ハイパー超電宇宙ロケットきりもみドリルキック!!」

 

 圧縮されてスパークするタキオン粒子、マキシマムライダーパワー。

 電光を纏うジオウが流星となって、弾頭として宙に設置されたヘイセイバーに激突する。

 接触した瞬間に再び時流を変え、ロケットとドリルが加速した。

 連結して推力を増し、一直線に限界突破(リミットブレイク)の超加速。

 

 ジオウの一撃が、ヘラクレスが武器を握る腕の手首を捉えた。

 焼ける皮膚。千切れる筋肉。穿たれる骨。

 刹那に満たない時間の内に圧縮される、本来ならば十秒かかる工程。

 

 抉られた血肉が蒸発し、力を失った大英雄の手が宙を舞う。

 

 手放された大剣が地に倒れると同時に着地するジオウ。

 限度を超えた力の利用に、彼が纏っていたアーマーが光と消えていく。

 

「――――――――――――」

 

 手首から先を失ったヘラクレスが僅かに止まる。

 だがそれは、拳を失ったからでもなければ武器を失ったからでもない。

 何故か見失ったターゲットを再び探すための間隙。

 失ったと同時に彼の手は修復を始めている。

 

 彼はオルガマリーの姿を再発見した瞬間、何の問題もなく動き出す。

 武器を拾う手間だけかけて、足がなかろうと殺戮の限りを尽くす。

 

 だからこそ、此処で一気に仕留め切る。

 

〈ドライブ!〉

〈アーマータイム! ドライブ!〉

 

「いくよ、ルビー!」

「一気に決めましょう! それしかありません!」

 

 真紅のボディに両肩のホイール。

 ゲイツの元に出現し、装着されるドライブアーマー。

 

 彼が更なる変身をするのと同時、イリヤスフィールがカードをホルダーから抜く。

 マジカルルビーを通し、顕現するサーヴァントの力。

 

夢幻召喚(インストール)、ライダー……!」

 

 少女が体勢を低くすると同時、金属の擦れる異音。

 彼女が手にした短剣から伸びる鎖が、蛇のようにのたうった。

 

「―――行けるのか……?」

 

 ゲイツ・ドライブアーマーの肩から射出される深緑のタイヤ。

 それを掴んで飛ばすのはフックのついたワイヤー。

 そうしてフッキングレッカーを操作しながら、ゲイツがイリヤを見て困惑する。

 

 だがゲイツの杞憂をよそに、彼らは確かに目的の入口に差し掛かった。

 ヘラクレスの両腕にそれぞれ巻き付くフッキングレッカーと短剣の鎖。

 両腕を絡め取ったゲイツとイリヤが力を尽くす。

 武器を失ったヘラクレスの腕を縛り、そのまま投げて距離を開けるという力業。

 

「お、も……!」

「が、頑張ってください、イリヤ、さん……!」

 

 だが上がり切らない。

 足を奪い、武装を奪い、欠損した肉体を再生中という状況まで持ち込んでなお。

 ただ腕力一つで彼はこの状況に抵抗してみせている。

 

 イリヤの手の中にある短剣(ルビー)が軋み、鎖が歪んでいく。

 ゲイツが抱えたワイヤーもまた悲鳴のような異音を立て、千切れんばかりに張り詰めた。

 

「チィ……ッ!」

 

 そのワイヤーを支えつつ、ゲイツがドライバーのウォッチに手をかける。

 だが彼がそれを成し遂げる前に、彼らの視界に黒炎が迸った。

 

「かちあげてやるわよ、“吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)”!!」

 

 ヘラクレスの直下、地面から再び突き出される槍衾。炎を束ねて形作った憎悪の槍が、ヘラクレスの胴体に次々と直撃する。

 足が無く、腕を縛られた大英雄に踏み止まる手段はない。無数の槍はヘラクレスを貫くことなく、ただその巨体を上へと押し上げる。下から押し上げ、両腕を捕らえ、ようやく。

 

 その巨体を、彼らは後ろに向かって投げやる事に成功した。

 

 投げ返され、地面に落ちるまでの時間。その間、体勢を立て直すためにアナザーフォーゼの力は発揮されない。彼という機構に許された行動は、目標を達成するための事だけ。

 

 だから彼は自身を害する他の何にも意識を向けず。

 ただ、

 

〈チェーンアレイ・オン…!〉

 

 デオンの幻惑が完全に晴れ、再び遥か後方に見えるようになったオルガマリー。標的として設定された彼女だけをただ見据える。

 手首から先が再生中の右腕に装着される鎖と、そこに繋がった棘付き鉄球。殺意の塊のような武装が彼が腕を振るうのに合わせて動き、

 

〈フィニッシュタイム! ドライブ!〉

〈ヒッサツ! タイムバースト!〉

 

「オォオオオオオオオオ――――――ッ!!」

 

 波打つ鎖を掻い潜り走るドライブアーマーに懐に迫られた。

 限界ギリギリまでデッドヒートする動力源、コアドライビア。熱気と蒸気を撒き散らしながら、ゲイツが赤熱した拳をヘラクレスへ叩き付ける。

 如何に大英雄と言えど、空中に一度上げる事ができたとすれば。後はその重量を動かすに足る単純な力さえあれば、押し込めない筈がない。

 

 故に続くラッシュ。灼熱の拳は止まらず、加速していく。リミッターを焼き切って慣行するチキンレース。行きつくところまで行きついて暴走自壊するまでのフルスロットル。死線で躍る限界無視のデッドヒートが生み出す力を乗せ、ゲイツの乱打はヘラクレスを押しやった。

 

 灼熱の拳打が雨霰。

 その衝撃で逸れた鉄球が狙いを外れ、オルガマリーに届かず木々を薙ぎ倒す。

 

「下がりなさい!」

 

 数秒の限界突破の代価に、全身から熱を吐き出すドライブアーマー。

 動けなくなる一瞬前、ゲイツの耳に届いたのは少女の声。それに反応して彼は踵の車輪でバック走行。ヘラクレスの前方を空けるようにカーブしながら撤退した。

 

〈ランチャー・オン…!〉

 

 逸れた鉄球を引き戻すまでもなく、彼は太腿に強引にランチャーモジュールを接続した。

 装填されている弾頭は五つ。

 ヘラクレスは空中に投げ出されたままに、それをオルガマリーがいる方へと向けて。

 

 先んじて、弓兵に矢の一撃を放たれていた。

 

 ―――その一撃のために彼女が選んだのは、クロエが投影できる中でも最強の幻想。

 聖剣・“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”。

 

 星の光を圧縮して矢と変え、放った最強の一射。

 流星のように空を裂き殺到するそれが、相手に届くその瞬間。

 少女は、その一撃の名を告げる。

 

 それは投影した剣を矢へと変換して撃ち放ち、内包した神秘を炸裂させる絶技。

 カタチを自ら決壊させ、その剣が持つ概念を爆弾のように利用する裏技。

 

「――――“壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)”」

 

 聖剣を織り上げた矢が破裂する。

 爆心地から立ち上るのは、岩の天蓋にも届くほどの光の柱。

 その破壊が今にも放たれる筈だったミサイルをも巻き込み、壮絶に大爆発した。

 結果、溢れる光と炎に呑み込まれて姿が見えなくなる大英雄。

 

「ルビー、アンインストール! ミユ!!」

「―――っ! サファイア、アンインストール!」

 

 残身するクロの前に降り立つ二人の魔法少女。

 少女たちは纏っていた英霊の力を排出すると同時、ステッキに戻った相棒を強く握る。

 イリヤから弾き出されたライダーのカードが宙を舞う。

 続けて美遊から吐き出されて舞い上がるセイバーのカード。

 

 ―――そうして宙を舞うセイバーのカードに、イリヤと美遊が同時にステッキを合わせる。

 

「――――並列限定展開(パラレル・インクルード)!」

 

 鏡写しのルビーとサファイア。間に生まれる無限に連なる鏡界回廊。

 そこに取り込まれたセイバーのカードが、虹色に煌めいた。

 並行世界から魔力を汲み上げる魔法のステッキが、その壁を更にもう一つ乗り越える。

 

 少女たちの背後に浮かぶのは、無数の“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”。

 隣り合った彼方の世界から映し出される、太陽よりなお燦爛とした星の輝き。

 

 描き出される星の光の万華鏡(カレイドスコープ)

 星の輝きに満ちた空にかかる虹の橋。

 その光は、眼前に立ちはだかる壁を打ち砕くために。

 

“約束された(エクス)―――――ッ!!」

勝利の剣(カリバー)”―――――ッ!!!」

 

 無限に連なる世界で、全てが同時に解放された。

 怒涛の勢いで雪崩れ込む、斬撃として押し固められた光の波動。

 重なった斬撃は最早津波の如く、あらゆる障害を呑み込んでいく。

 

 クロの巻き起こした爆発もまた、一息の内に光の波濤に押し流される。

 視界一帯を更地に変えるような暴虐的な破壊。

 完全にそれの直撃を受けただろうヘラクレスからの反応はない。

 

 反撃どころか先程まで乱舞していた気迫も消えた。

 

 戦場が停滞したような気の抜ける隙間。

 

 その間隙に少女たちが小さく息を吐き出した、その瞬間。

 

〈ウインチ・オン…!〉

〈ホイール・オン…!〉

 

「■■■■■■■■■■■■■―――――――――ッ!!!」

 

 爆発も、光の津波も、全てを力尽くで掻き分けて。その地獄の熱量の中から、ヘラクレスがロープを打ち出していた。

 確かにその肉体のアナザーライダー化していない部分は傷つき、熱に焼かれ、炭化している部分もある。だがそれでも、ヘラクレスの行動に支障はない。

 

「っ、これでもまだ……!」

 

 ロープは地面に転がった彼の剣へと絡みつく。

 武器を取り戻そうとしているのだと理解し、デオンとフェルグスが即座に動く。

 が、二人が到達する前にそのロープは一気に巻き上げられた。

 同時に脚部にタイヤを接続し、走行を始めるヘラクレス。

 

「“触れれば(トラップ・オブ)……!」

 

 先と同じ方法でアストルフォが足を取り戻させようとして。

 しかし、そこで止まった。

 先程は()()()()という行為に付け込んでタイミングをずらした結果の足取りだ。

 ただ前傾姿勢で下半身を力ませずホイールで走行しているだけの今、足を取り戻させたら。

 

 ヘラクレスであれば、間違いなく。

 そのまま疾走に入れる。一切勢いを失わず、むしろ加速してしまう。

 

 ギャリギャリと音を立て巻き取られていくロープ。

 大地を揺らしながら前進するヘラクレス自身。

 武器は巻き取られ持ち主に向かい、ヘラクレスは前進して標的に向かう。

 丁度、武器を振り下ろすべき対象の直前で彼は武装を取り戻すだろう。

 

「―――ッ! イリヤ、下がって!!」

 

 その進行方向を見て、美遊が叫ぶ。

 更に手を伸ばし、舞い落ちるセイバーのカードに手を伸ばした。

 理解したのはヘラクレスの行動方針。

 先程一瞬訪れた停滞は、ヘラクレスの損傷が原因ではなかった。

 

 ()()()()()()

 イリヤと美遊が破壊の限りを尽くした瞬間、ターゲットは彼女たちに移っていた。

 今や狙いは先程の一撃で一帯を吹き飛ばしたイリヤと美遊。

 彼が拾おうとしている大剣が向けられるのは二人の少女であり―――

 

〈覇王斬り!!〉

 

 周囲に散乱する万華鏡の残光の中から振るわれた斬撃。

 その一閃が、巻き取られていたロープを斬り落とす。

 勢い余って空中に跳ね上がり、持ち主を飛び越していく大剣。

 

 取り戻すはずだった武器が手に戻らずとも、ヘラクレスは止まらない。

 大英雄の走行は確実にイリヤたちに迫っていく。 

 そんな侵攻の前に立ち誇り、

 

〈仮面ライダー!〉〈ライダー!〉

〈ジオウ!〉〈ジオウ!〉〈〈ジオウⅡ!!〉〉

 

 ジオウⅡが、サイキョーギレードとジカンギレードを連結した。

 連なる二つの刃。更にジオウの顔を模したサイキョーギレードのメーンユニット、ギレードキャリバーをジカンギレード側へと装填する。

 サイキョーハンドルを起こし、キャリバーのリミッターを解除。オーバーロード状態へと移行した合体剣が光の刀身を形成していく。

 

〈サイキョー! フィニッシュタイム!〉

 

 迫りくるヘラクレス。

 最大威力で叩き込むために、限界を見極めるジオウⅡの視界。

 

 マスクの頭部で回る時計の長針、バリオンプレセデンス。

 同じく短針、メソンプレセデンス。

 現在を観測し、可能性を計算し、未来を導き出すジオウⅡの視る世界。

 求められた解。求めた結果に到達するために駆動する、ジオウⅡの全身全霊。

 

「これが――――俺が見た、未来だ!!」

 

〈キング!! ギリギリスラッシュ!!〉

 

 “ジオウサイキョウ”と文字を浮かべた刃を、彼は横薙ぎに振るう。

 ヘラクレスの胴体に叩き付けられる閃光。

 確かに斬り込まれながら、大英雄はけして前進を止めはしない。

 押し返されそうになる体を力尽くで抑え込めば、ジオウⅡの踵が地面を抉る。

 

 たとえ両断されようが止まらない驀進。

 だとすればもはや粉々に吹き飛ばすより他にない。

 だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ヘラクレスの前進に巻き込まれて粉砕された家屋の残骸。

 それらを更に吹き飛ばしながら、彼方より黒い光が迫りくる。

 

 避難民の誘導をしながらも真っ先にそれに気づいたマスターが、即座に令呪の使用を断行した。

 使い切る寸前にまで消費されていた彼女の魔力が瞬時に充填される。

 

「アルトリア! あなたの全力を――――!」

 

 その魔力を使用し更なる加速、加速、加速。

 黒い魔力の奔流が描くは、まるで地上を走るほうき星。

 加速に使う以外の魔力の残りは、全て彼女が手にした黒き聖剣へ。

 

 噴射する莫大な魔力の調整は爆発的ながらも細やかに。

 狙うべき位置を直感任せに感じ取り、アルトリアが大地を蹴って跳んだ。

 

「“約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)”―――――――ッ!!」

 

 ジオウⅡと重なるように。しかし激突はせぬように。

 いっそ芸術的なまでに力任せな強引な軌道を描き、騎士王が大英雄へと到達する。

 ジオウⅡが横薙ぎにするというなら、彼女は加速のままに直上からの唐竹割り。

 

「オォオオオオオオオオオ――――――――ッ!!!」

 

 光の大剣二振りはまったく同時に振り抜かれながらも衝突せず。

 しかし同時に巨体を斬り抜けて、確かにヘラクレスの無敵の肉体を斬断した。

 

 一拍遅れて走る極光。

 その光の渦に呑み込まれ、ヘラクレスの五体が蒸発しながら吹き飛んだ。

 

 

 




 
 まるでエクスカリバーのバーゲンセールだな…
 
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