Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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 真骨彫キバエンペラーが届いたので初テンションフォルテッシモです。
 


闇の訪れ2006

 

 

 

 集団から離れた場所。

 水面を桃の花が流れていく川を眺めながら、ゲイツは乱雑に地面に腰を下ろした。

 レジスタンスらしからぬ活気の場所、桃源郷。

 それ自体は不思議に思いつつ、別に不快ではない。

 ただつい先程オーマジオウに言い負かされたような敗北感が胸にある。

 

 その気分を抱えたまま動く気になれず、彼は川を睨んでいた。

 

「よう、随分機嫌が悪そうだな」

 

 そんな彼の横に並び、突然腰を下ろしてくる大男。

 ライダー、とか呼ばれていた男だ。

 

「……なんだ。何か用でもあるのか」

「おいおい、用が無くちゃ話しかけちゃいけねェのか?

 いいじゃねえか、大した事ない話をちょろっとするくらいよ」

 

 ライダーはゲイツからの不機嫌極まりない視線をなんのその、と笑い飛ばす。

 

「……連中との話は終わったのか?」

「いや? ただまあうちの女王様と知り合いだかなんだか、まあ俺にはよく分からん関係らしくてな。そっちの話を済ませてから、と外してきたのさ」

「女王様……?」

 

 このアガルタでは女王、というのはある種特別な意味を持つ。

 わざわざそんな呼び方を選んだ男を怪訝そうに見るゲイツ。

 ライダーはその反応にきょとんとし、すぐに気付いて笑い飛ばした。

 

「ハッハー! 言葉の綾って奴さ。レジスタンスでは俺がトップだが、桃源郷のトップはあいつだからな。確かにここじゃ女王ってのはちと風聞が良くねェか」

 

 そう言って反省するように頭を掻くライダー。

 そんな様子に怪訝な顔を見せ、ゲイツは彼に問いかける。

 

「桃源郷のトップ、か。どういう意味だ?」

「そのままの意味だよ。あいつはこの桃源郷に直接召喚されたサーヴァント。だからあいつは多分、桃源郷にとってイース、エルドラド、不夜城の女王に値するような存在なわけさ。

 それに対して俺ァ平原にぽいっと召喚されて、歩いてたらここに辿り着いただけのはぐれサーヴァント。なら、立場はあっちの方が上だろう?」

「何か特別なのか?」

「どうかねェ? ここは国として成立してるわけじゃねェしな」

 

 ゲイツの眉尻が微かに上がる。

 どういう意味だ、と。

 そんな質問だと受け取ったライダーが、訊かれる前に喋り出す。

 

「他所の国はよ、どうやら国力に比例した戦力が自然発生するらしい。お前たちが見たアマゾネスなんかだな。それを普通以上に殖やす手段が男を使っての繁殖なわけだが、そうやって殖やし始める前の最初の一人は人から生まれるんじゃなく女王を頂いた国土が発生させてるんだと。

 うちの女王様からの受け売りの説明だがな」

 

 アマゾネスたち、に限らずこの世界で生まれた女は全てだ。

 生命体ではあるが人間ではなく、国ごとに分割された大地が発生させた触手。

 そう言われたゲイツが、よく分からないとばかりに顔を顰めた。

 同じく思うところもあるのか、ライダーはそれに肩を竦めて応えてみせる。

 

「まあ純粋な人間じゃねェ、と理解しときゃいいだろうさ。

 で、この桃源郷にはそんなシステムはねェ。桃は幾らでも生るが、国民は一切湧いてこない。

 だから要するに、ここは少なくともこの大地の上で国とは言えねえ場所扱いなんだろう」

「なら、なおさら女王と呼ぶ理由はないな」

「だな! ま、この場所と同じさ。呼び方なんざどうでもいい、ってな」

 

 そう言いながら笑い、ゲイツの肩を叩くライダー。

 それを鬱陶しげに払いのけつつ、彼はライダーから距離を離した。

 

「……それで。まだ何かあるのか」

 

 胡乱げな視線を向けつつ、面倒そうに問いかけるゲイツの声。

 笑い終えたライダーはその問いに対し、一瞬だけ瞑目する。

 そうして次に目を開いた時、彼の表情が少しだけ険しく見えた。

 

「―――ここの連中はよう、普通に生きてたところをいきなりこんな場所に落とされた奴らさ。元の住処から突然追われて、もし捕まれば女が自分を殖やすための奴隷として消費される。それどころか、何の理由もなく連中の気分ひとつであっさり殺される事だってある。

 本当に……本当に、ヒデェ話だ。絶対に止めなきゃならねェ、そうは思わねえか?」

「………………」

 

 ライダーがゲイツから視線を外し、川を見据える。

 怒りで握り込まれた彼の拳がぎしりと軋む。

 

「……そうだな」

 

 彼の様子に浮かされて、という事でもなく。

 その熱意に対し、素直に同意する。

 肩を震わせていたライダーが力を緩め、口許に小さな笑みを浮かべた。

 

「ここの連中はよ、今は完全な闇の中にいるのさ。どっちに向かえばいいかも分からねえ、そもそも歩ける場所なのか、どうやって立てばいいのかも分からねえ、そんなとびっきりの真っ暗闇」

「お前がそれを導いている、というわけか」

 

 リーダーとして。先頭に立って。

 そう返されたライダーが微かに視線を伏せた。

 

「導く、か……なァ、どうしてそんな風に目の前が真っ暗闇になっちまうか、分かるか?」

「……光が無いからだ」

「だなァ。まあ、そういうことだよな」

 

 視線を逸らしながら回答したゲイツに対し、ライダーが苦笑する。

 彼はそこで顔を上げ、再びゲイツへと向き直った。

 その態度に応じて、ゲイツも渋々と彼の方へと顔を向ける。

 

「―――ただよ、光が無いんじゃねェ。()()()()()()()()

 いま自分がどうなってるか分からねえ。これからどうなるかも分からねえ。自分がどういう闇の中にいるかさえ知らねえから、何が自分を照らしてくれるかも分からねェんだ」

 

 言って、ライダーは腰を上げる。

 顎を持ち上げ首を反らし、見上げた先にあるのは岩の天蓋。

 太陽のように輝く苔の光が弱まり始めている光景。

 

 この地下には昼夜があり、夜の訪れに合わせてあの光は消えていく。

 ゆっくりと弱くなっていく鎖された空からの灯り。

 その光景を見据えながら、ライダーは静かな声で語り出す。

 

「光を目指して進め、と暗闇の中にいる連中に言うのは簡単だ。だが光ってどんなもんだよ、って訊かれた時に納得できるように答えるのは中々に難しい。

 どこに何があるかなんて実際のとこを知らねえのは俺も一緒だ」

 

 腕を伸ばし、天へと掌を向ける男。

 彼はゆっくりとその手で拳を握りながら続けた。

 

「だからこそ、俺たちは常に光を見据えなきゃならねえ。何があるかも知れない闇を睨んで、この先に光があると断言しなきゃいけねえ。例え目の前に何も無かろうと、彼方に望んだものがあると胸を張れなきゃならねェんだ」

 

 怪訝そうなゲイツの表情。

 それが見えているのかいないのか、ライダーは言葉を紡ぐ。

 そんな滔々とした語りを遮るように、彼は声を上げた。

 

「……つまり、お前の言う光っていうのは何のことだ?」

「だから知らねえって。先に何があるかなんて誰も知るわけがねェんだ、正体なんか誰にも分かるもんかよ。だがそれでも、進んだ先にあるものを俺たちは光として見なきゃならねえ」

「何があるか……何かがあるかどうかさえ分からないのにか」

「いや、何かはあるさ。諦めずに前に進み続ける限り、いつかはどこかに辿り着く。本当に何もねえなんてことは絶対にねェんだ。

 そうして誰も知らねえ何かを見つけた時、俺たちが真っ先に声を挙げるんだ。見つけたぞ、俺たちが求めた光は此処にあった―――ってな」

 

 呆れ半分なゲイツの声に対し、ライダーが振り返りニヤリと笑う。

 そんな態度に浮かぶのは、より呆れを深くした表情。

 

「何かも分からないものを見つけただけでか?」

「何もかも分からねえモンだからこそ何にでもできるのさ。

 全ては俺たち次第、どうとでも変えられるってもんだ。だったらそいつで俺たちの目の前にかかった闇を切り裂き、光を齎す事だってできる筈だ」

 

 そう言ってライダーは自分の腕を自分で叩く。

 その後で彼が顔を引き締め、神妙な表情を浮かべた。

 ゲイツの背中に回され、軽く叩くライダーの掌。

 

「随分と遠回しに言ったが、つまり。

 ―――これから俺たちは共に闇に迷う連中を先導する仲間だ。よろしくな、ってこった」

「…………ああ」

 

 彼はそう言い終えるとゲイツの背中を再び数度叩いてから、来た方向に向け歩き出した。

 

 帰っていくライダーの背中をちらりと見て、すぐに視線を外す。

 徐々に暗くなっていく地下帝国。

 

 その天蓋を見上げながらぼうっと、ゲイツはその場に座り続け。

 

〈カブトォ…!〉

 

「―――――っ!?」

 

 川の向こうに見える木々の合間に、赤い怪人を見つけた。

 

 

 

 

 

「ったくよー、なんでわざわざ管制室から出る必要があるんだよ」

 

 ぶちぶちと呟きつつ、カルデア職員の一人がホームズの自室に入ってくる。

 小太りな眼鏡をかけた男性職員。

 彼の入室に反応し、本を手にしていたホームズがそれを閉じた。

 

「すまないね、ミスター・ムニエル。それで」

「ほら、これ。リアルタイムで見ればいいのに何でいちいち動画データが必要なんだ?」

「私がブラヴァツキー夫人と顔を合わせるのは少々問題があってね」

 

 エレナ・ブラヴァツキーと合流した、と。

 その一報が入った瞬間、ホームズは管制室から退室した。

 きょとんとしているマシュたちの前で、電光石火の即逃亡だった。

 

 その鮮やかな手際を思い返しつつ、ムニエルと呼ばれた男性が問いかける。

 

「なんだよ、仲悪いのか? というか知り合いなのか?」

「ああ。仲が悪いわけではないが、少々複雑な関係でね。

 ……彼女の精神が安定している時はいいが、まずその点がどうなのかという事さ」

 

 差し出されたメモリを受け取りつつ、ホームズが微かに眉を上げる。

 別に顔を突き合わせた瞬間敵対するとかそんな関係ではない。

 モリアーティ相手じゃあるまいし、そんな態度を取る必要はない筈だ。本来ならば。

 

 彼女がアガルタにどう影響を受けているかが分からない。

 フェルグス、ヘラクレス。ついでに記憶喪失のライダーという状況を鑑みれば、彼女がアガルタに召喚された事によって何らかの変調をきたしていない、とは言えない。というかまず何らかの影響が発生しているだろう。

 だからこそその方向性を見極めるまでは接触するべきではないと考え、こうした次第だ。

 

「ふーん……まあいいけどさ」

「手間をかけて悪いが、まあキミの趣味のついでと思ってくれたまえ」

「……いまなんて?」

 

 腰に手を当てていたムニエルが、ホームズの言葉に停止する。

 ギギギ、なんて音がしそうな動きで傾く首。

 相手のそんな様子に特に感慨もなさそうに、手の中でメモリを転がすホームズ。

 

「キミがプライベート用に保存しているサーヴァントたちの映像のついで、と思えばそう面倒でもないだろう? 誰を集中的に録画しているかは言わぬが花、知らぬが仏……いや。知らねば花、という所かな?」

「なんだと!? 知ってるからこそより美しい花なんだし!

 いや、じゃなくて言ってるも同然じゃないか! え、なんで知ってるんだよおまえ!?」

 

 ムニエルの悲鳴に応えず、ホームズは部屋にある端末にメモリを差した。

 そうして必要そうな情報をさっさと拾い上げていく。

 

「――――……夫人の行動範囲はアガルタ全域。目的はアガルタ人の捜索及び、マハトマを感じること。時折見つけた落ちてきた男性を拾ってくることもある……か」

「少なくとも俺にはアメリカで見たエレナ・ブラヴァツキーとそう変わらない感じに見えたけどな!」

 

 がなるムニエル。

 彼の言葉を聞いて、ホームズが手で口元を覆う。

 

「……ブラヴァツキー夫人は明かす者だ」

「ああ、最初の時もそんなこと言ってたな。それがどうしたんだ?」

「では桃源郷は?」

 

 問いかけたムニエルに問い返すホームズ。

 今は趣味の話ではなく真面目な話をしているのだ、と。そんな彼の語調に気圧されるように、ムニエルの勢いが削がれた。もっとも謎をいじくり回す事がホームズの趣味なので、彼も真面目に趣味の話をしているだけだが。

 

「いや、ではって言われても……」

「アマゾンの秘境、エルドラドにアマゾネス。海賊公女のねぐら、イースに海賊。不夜城はまだ情報が足りないが……恐らく相性の良い者が配置されていると思われる」

「相性?」

 

 聞き返しつつも、何となくは分かる。

 元からアマゾンにある秘境の伝説、エルドラドにアマゾネス。

 海賊行為で成立していた幻の海上都市、イースに海賊。

 まあそうだろうな、と思えるだけの組み合わせにはなっている。

 

 その納得をムニエルの顔に見たか、ホームズが話を続けた。

 

「桃源郷は隠れ里だ。秦の始皇帝が治めた時代、国の動乱を嫌った者たちが移り住んだ場所。

 では、エレナ・ブラヴァツキーは? 彼女は本来隠匿すべき魔術・神秘の類ですら公にしてしまう気風だ。その在り様のせいでまあ色々と折り合いがつかない事も多かった」

「……お前もそのせいで何か色々と折り合いがつかなかった?」

 

 挟みこまれるムニエルの声。

 それに片眉を上げて、一度口を噤む名探偵。

 

「……それには黙秘するとしよう。

 とにかく、彼女は隠れ里といった場所と酷く相性が悪い。彼女は隠れる側ではなく暴く側の人間だからだ。アガルタに関してのどうこうで既に口にしたと思うが、それを改めて言っておこう」

 

 そこまで聞かされて、一応話を理解したと腕を組むムニエル。

 エルドラドにアマゾネス。イースに海賊。

 ときて、桃源郷にエレナでは筋が通らない、ということだろう。

 

 彼女が召喚時に桃源郷に配置されたのは本人から聞かされた。

 エルドラド、イース、不夜城の女王。恐らくサーヴァントだろう三人。

 その三人も最初からそれぞれの場所に女王として召喚された筈だ。

 

「まあ、それは分かったけど。それで? なんかあるのか?」

「――――……いや。これ以上はまだ、ただの憶測にしかなるまい。

 証拠となる情報が集まればともかく、今の時点で口にするのは憚られる」

「じゃあ何でここまで話したんだよ!」

「ハハハ、あくまで前提となった条件を確認しただけだとも」

 

 だが、そこで探偵は一方的に話題を打ち切った。

 

「ったく……」

 

 そんな態度のホームズに頭を掻き、ムニエルは踵を返した。

 管制室に戻るためにさっさと歩き出す。

 彼の姿が通路に出て、自動ドアが閉まるまでを確かに見届けて。

 

 その数秒後、ホームズがゆっくりと椅子に腰を下ろす。

 視線を上げて天井へと送りながら、口にするのは呟くような小さな声。

 

「地上と地下を隔てるアガルタの天蓋。人の伝承に語られる三つの国家。現世から離れた者たちの住まう桃源郷の囲い……そして今まで隠されていたものを暴き出す者、か。

 ―――幻想の暴露、伝承の実在証明。では、この先は……」

 

 

 

 

 

『つまり、エレナ・ブラヴァツキーにしてはおかしい、と?』

「そう長い間一緒にいたわけでもないし、言い切れる話ではないけれどね」

 

 山のように盛られた桃を睨みつつ、オルガマリーが溜め息ひとつ。

 レジスタンスが建設した小屋の一つをカルデアで借り受け、彼女たちの拠点とする事は許された。それは有難いことだが、食事は桃一択。

 

『エレナさんにしてはこの状況に対しての取り掛かり方がおざなりに過ぎる、と言いますか……他人事のようにしか考えていなそう、と言いますか……』

「そう? マハトマ女がマハトマ言ってるのは平常運転な気がするけどね」

 

 どこか寂しそうにそう口にするマシュ。

 そんな彼女を鼻で笑いつつ、ジャンヌ・オルタが桃を口に運ぶ。

 

「思う事が無いわけではないのだろう。ただそれ以上の興味がこの状況への思考を塗り潰している、という印象だったな、私は」

「それが彼女が受けている影響、という事でしょうか?」

 

 壁に寄り掛かったデオンからの言葉に問いかける美遊。

 

 他のサーヴァントの現状を鑑みるに、この特異点への召喚による影響がないとは考えづらい。

 そう考える根拠の一つとなるフェルグスが、視線を集めた事に居心地悪そうに身を竦めた。

 

『アガルタ人……未知の探求を最優先に、か』

 

 ロマニが何とも言えない顔でエレナの思考を口にする。

 

 エレナ・ブラヴァツキーの思考は、この地の探索が最優先事項だった。

 彼女の行動指針において、捕まった奴隷となっている人間の救助は二の次。

 そうであると分かった時に感じる圧倒的な違和感。

 

 サーヴァントであるならばその精神性もある程度は召喚の状況に左右される。

 あくまでその存在は生前の本人の影法師。

 特定の思考だけを強調したような精神に成る事だってあり得るのだ。

 善性と探求心の比重が変わるような事も、ありえないとは言い切れない。

 

「もしかして……理性蒸発仲間!?」

「素でそうなっているキミには負けるだろうさ」

 

 何故かハッとした様子で声を上げるアストルフォ。

 彼の発言をさっさと斬り捨て、デオンは小屋の中を見回した。

 

 そこで声を上げるのは、桃を自分の目の前に山積みしていたアルトリア。

 

「―――仮にあの女が何らかの影響を受けていたとして、今は気にする必要はないだろう。敵対しているわけではなく、味方である事に違いはない以上はな」

「まー、そうよね。別に好き勝手動いてるだけで、ついでにくらいの気持ちとは言え人を拾ってきてくれる事があるなら、何の問題もないわよね」

 

 どこか違和感こそあるが、エレナ・ブラヴァツキーの行動は得しかない。

 積極的に助けになる事はないが、邪魔になる事もない。

 むしろ気紛れ程度にならば助けになってくれているサーヴァントだ。

 フェルグスが何故か少年になっていて、しかしこちらの助けになってくれているように。

 であるならば問題ないだろうと、クロエが頷く。

 

「……彼女は好奇心を増幅されていると思われる、という点は心に留めておいた方がいいかもネ」

 

 そこに口を挟むモリアーティ。

 そちらをちらりと一瞥し、しかしすぐにアルトリアは話を続けた。

 

「それよりこれからどう動くかだ。アマゾネスか、海賊か、それとも不夜城とかいう国か」

「第一候補はやっぱり不夜城?」

「アマゾネスの方を調べ切ってしまう、っていうのもありだと思うけど」

 

 立香が不夜城の名を口にし、ツクヨミはエルドラドを上げる。

 三国同時に関わるよりは、一国ずつ確実に調べていった方がいい。

 その提案にむーん、と腕を組んで唸る立香。

 

「でもその場合あの……ヘラクレス……と、正面から戦う事になるん、ですよね」

 

 戦闘力としての脅威よりも、思うところがあるからと。

 イリヤが隣に浮いているルビーの方を見る。

 彼女が意識しているのはステッキに収納されたバーサーカーのクラスカード。

 

 強く、優しく、偉大なりし大英雄。

 彼にいつか背中を押されたように気がする少女は、その事実に表情を曇らせる。

 

「……そうだね。その場合あの……アナザーフォーゼの事も考えなきゃいけない」

 

 一瞬だけ言葉を濁らせる立香。

 それに申し訳なさそうな顔を浮かべるイリヤと、呆れるようなクロエ。

 そんな中に差し込まれるダ・ヴィンチちゃんの声。

 

『まあ確かにアレをヘラクレスと呼ぶのも違和感だ。

 他の呼び名をつけるとしたら……そうだね、例えばヘラクレス・ギガス。ギガンテス、なんていうのは流石に無いか。これじゃあ彼が打倒した巨人になってしまう。

 となれば、今の彼は何かの意志を受け動く機械の兵隊みたいなもの。その意志が大いなるもの、だなんて言うつもりもないが、せっかくだからこう渾名すのはどうだい?

 ――――巨進英雄、半機神メガ・ヘラクレス……アナザーフォーゼ・メガロス、とね』

 

 宇宙(ソラ)より来たりし秩序の外を蹂躙する機神。

 であるからこそ、まるでメガヘクスのようだとそう名付けたダ・ヴィンチちゃん。

 そんな名付けにソウゴが微かに視線を上に持ち上げる。

 

 そうしている間に腕を組み、納得するように頷くアストルフォ。

 

「メガロス、メガロスかぁ。いいんじゃない? 呼び易くて」

「呼び易い……? いえ、わたしもいいと思います」

 

 そして彼のよく分からない理由に乗っかる美遊。

 彼女はイリヤの不安を軽くしたいだけだろう、とあたりをつける。

 オルガマリーはさっと周囲を見渡して、まあ別に拒否する理由もないと頷いた。

 

 と、一応妙な反応を見せていたソウゴの方に確認をしておく。

 

「常磐、何かあるの?」

「え? いや、別にないけど。ただゲイツ遅いなーって」

「そういえばもう夜ね。いえ、夜というか光が消えたというか……」

 

 窓から差し込む光はもうほとんどない。

 アガルタの天蓋、光源となっていた苔から光が失われているのだ。

 これから8、9時間ほどアガルタには夜が発生する。

 その後再び徐々に明かりを取り戻し、朝がやってくるまで。

 

「アンタと一緒の場所で寝る気がないんじゃない?」

 

 肩を竦めながらソウゴにそう言うジャンヌ・オルタ。

 彼女の言葉にツクヨミはそうかも、という表情を浮かべる。

 

「どこで寝るかはともかく、とりあえず明日からどう動くかは共有したいけど……できれば全員で確実に一か所ずつ攻略する方がいいだろうし」

 

 そう言いながら立ち上がった立香。

 彼女が一つだけ設けられた窓へと歩き出し、手の上にコダマスイカを乗せた。

 コダマの頭部が光り、ライト代わりとなって外を照らす。

 

 その光に照らされた夜闇の中。

 ぼんやりと浮かびあがるのは、赤い灯火。

 まるで目のように二つ揃ったその光が、ぎょろりと動く。

 

 ―――そこにいたのは、黒い獣だった。

 獲物を選ぶように尾を揺らす、全身に瘴気を纏う四足獣。

 

「え?」

 

 瞬間、外に静かに佇んでいた獣が奔る。

 対応すべく飛ぼうとするコダマがその役割を果たす前に、立香の襟首を掴む手。

 アストルフォに強引に引き戻された彼女に入れ替わり、フェルグスが前に出る。

 

「ハァ――――ッ!」

 

 獣の爪とカラドボルグが激突する。

 如何に未熟と言えど獣一匹に押されるような事などあってたまるか、と。

 フェルグスが正面から獣を押し返した。

 

 そうしている間に獣の側頭部を殴り飛ばすオルタの旗。

 その衝撃によって弾き返され、しかし空中でくるりと綺麗に一回転。

 頭部を覆う鬣をゆらめかせながら、獣は悠然と地面に降り立った。

 

『ご無事ですか、先輩……!?』

「うん、大丈夫……!」

 

 マシュに返事しつつ、手にしていたコダマを肩に乗せる。

 そうしている内に彼女を引っ張り戻したアストルフォは前に出ていた。

 

『魔獣……! いや、幻獣クラス……!? 自分の燃料として高位の霊体を喰らうタイプの獣だ!

 注意してくれ、サーヴァントを優先して狙ってくるぞ―――!』

 

 ロマニの声を肯定するように、獣は人間など視界に入れていない。

 ただ目の前にいる数多くのサーヴァントを見据えている。

 それが捕食者としてのものである、というのは言わずと知れたこと。

 

 獣を押し返してすぐ、それを追うように窓から飛び出す。

 そうしてから周囲の状況を見回すソウゴ。

 ざわめきだした桃源郷の中、どこかでライダーが声を荒げているのが聞こえる。

 

「―――桃源郷全体にいろいろ入り込んでるみたいだね」

「……となると、散るしかないですね。僕たちを視界に入れれば、あの魔獣たちは確実に僕たちを狙ってくる。その点でいえばやりやすい」

 

 フェルグスが剣を構え直しながらそう言った。

 彼らが的になれるならば、それに越した事はないだろうと。

 

魂喰い(ソウルイーター)……ならば、サーヴァントの集団を狙う、というのはもっともらしい話だ。だから私たちが優先して狙われるならおかしくない。何故、桃源郷全体に散らばる? エレナ・ブラヴァツキーは桃源郷を出発済み。なら狙いは私たちかライダーの二択になる筈)

 

 だからこそ、デオンが酷く表情を歪めた。

 何者かに仕組まれている。そうでなければ動きに説明がつかない。

 だがそれにしたって何故こんなタイミングで?

 桃源郷の被害を大きくしたいなら、もっと夜が更けてからの方がいいだろうに。

 

「警告、だネ」

 

 棺桶を引っ張り上げ、もたもたと窓を乗り越えるモリアーティのセリフ。

 それを聞いて、デオンは眉を顰めながら理解した。

 これは、“こんな風に桃源郷をいつでも襲える”というこちらへのメッセージ。

 明日から全員で他国の攻略をさせないためのストッパーだ。

 

 敵は桃源郷に必ず守りを残せ、と言っている。

 まるでこちらが全員で動くことに怯えるように。

 

「……どちらにせよ」

「―――とにかくまず、桃源郷に入り込んだ魔獣を倒す!」

 

 サーベルを引き抜いたデオンの横で、既にマスターは変身のシーケンスを完了していた。

 背後に展開される大時計が時間を刻み、ソウゴの姿を別物に変えていく。

 

「変身!」

 

〈ライダータイム! 仮面ライダージオウ!〉

〈アーマータイム! チェンジビートル! カブト!〉

 

 赤いカブトの甲殻を鎧に変えて、ジオウがカブトアーマーを身に纏う。

 ジオウの頭部と両肩に屹立する雄々しき甲虫の角。

 

 目の前に現れた赤い戦士など眼中に無いとばかりに、黒い獣が魂を求めて咆哮した。

 

 

 




 
 エレナは好奇心が100万倍になってハイテンションに。
 
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