Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー 作:アナザーコゴエンベエ
大地を削る獣の爪。
その爪の持ち主は体長3メートルはあろう大型の四足獣。
魂を喰らう幻獣、ソウルイーター。
そんな怪物を前にして、レジスタンスの男が蹈鞴を踏んだ。
空を飛ぶワイバーン程度となら投げ槍を持って戦った事がある。
だがあれはライダーの指示通りに動き、何よりライダーが一番前に立ってくれた。
怪物と言うなら、こいつが子猫に見えてくるもっととんでもない怪物を見た事もある。
きっとこいつとメガロスの小指だけで比較してもメガロスの方が危険な筈だ。
だけど、奴のターゲットは常にライダーだった。
彼はメガロスから目を背け、ひたすら逃げるために走るだけでよかった。
「あ、ぅあ……!?」
初めてだ。
初めて、一瞬で自分を殺せる怪物に、獲物を見る目で睨まれて―――
大地を削る、爪の音。夜闇に走る紅の閃光。
それが瞬きさえ許さぬ内に彼まで届き、
「■■■■……ッ!?」
ソウルイーターの顎が衝撃で跳ねる。
夜闇を切り裂く赤光はソウルイーターとは別のもの。
狩りに水を注された獣が首を曲げ、下手人を睨む。
そこにいたのは、夜闇の中でよく目立つ白いケープ。
ツクヨミがファイズフォンXを手に、ソウルイーターを見据えていた。
獣の狙いが変わる。
衝撃に跳ねた体勢を立て直し、ソウルイーターが体を捻る。
正面にツクヨミを捉える姿勢に変わり、獣が一気呵成に踏み切った。
行われるのは疾風の如き侵攻。
そうして照準された彼女は、飛び掛かってくる獣をしかと見極めて。
「ハ―――ッ!」
正面方向へと一歩で踏み切り、直後にダッシュからスライディングに繋ぎ。
完璧なタイミングで、跳躍した獣の下を擦り抜けた。
自分の下を通り過ぎていく獲物。
その事実にソウルイーターが驚愕めいた反応を見せ、頭を真下に向ける。
飛行手段を持たない獣は、一度着地するまで方向を切り返せない。
獣の中で次の一手のための行動が開始される。
空中で体を捻りながら着地し、ロスタイム無しで直角に反転。
逃れたと思っている獲物を背中から食い千切る、と。
そして。
次の一歩のために体を捻る獣に、その次は訪れなかった。
着地を次の加速のための繋ぎと考えた獣の体勢に、無理は利かない。
その黒い四肢は跳躍のために地面を踏み締める。
だからこそ、その位置に差し込まれる迎撃を獣は認識すらしなかった。
地面から噴き出す黒炎。屹立する槍衾。
足場と思って獣が体を下した場所が、処刑場へと移り変わる。
囚われた獣に実行されるのは呪詛を燃料にした火炙りの刑。
槍に突き上げられ、撃ち貫かれる黒い皮膚。
開いた大口から吐き出されるのは断末魔に非ず。呪槍を通じて体内に流し込まれた黒い炎を嘔吐のように吐き出して、ソウルイーターが瞬く間に灰に還る。
「―――なによ、こんなもの?」
地面に散った灰を踏み躙り、邪竜の魔女はおかしげに嗤う。
彼女の指が持ち手をくるりと回せば、風に広がるのは灰色の旗。
逆流してくる熱気に長髪と旗をはためかせ、ジャンヌ・オルタが剣を抜く。
周囲から更に姿を見せるソウルイーター。
その顔は全て彼女に向けられている。
高位の霊体であるサーヴァントを確認した時点で、狙いが切り替わったかのように。
そんな獣たちを鼻で笑いながら、彼女は視線を軽く上げた。
空を行くのはヒポグリフ。
あの幻獣もまたソウルイーターが狙うに足る超常の存在だ。
(……桃源郷の中で他所の連中が人間を襲ってもペナルティ無し。私たちが迎撃しても同じく。ヘラクレ……メガロスが動く条件に、現場が三つの国のどこかであることがあるのは確定、でいいのかしらね。まあ確認するまでもなく、今までもそこそこ魔獣に襲われてたみたいだけど)
敵から視線を外して剣をくるくると回すオルタ。
それを隙と見たか、ソウルイーターが一匹駆け出した。
到達まで一秒弱の距離。
炎による迎撃もない空間をいとも容易く詰め切って―――
「危ない!」
空から。流星の如く、白い光が降り注いだ。
それを認識した瞬間、全力で後方へと飛び退るジャンヌ・オルタ。
直後にやってきたのは翼持つ白い馬。
光の手綱で制御されたその天馬が、墜落するように突っ込んできたのだ。
それが着地する位置にいた疾走中のソウルイーター。
その体もろとも地面を蹄で踏み砕き、天馬は強引に着陸して嘶いた。
「どう! どう! どーう!」
『イリヤさーん、私を外さないとペガサスは落ち着きませんよー』
何とかペガサスを落ちつけようと“
そんな少女に声をかけるのは、その手綱に変わっているルビーの声。
その力によって招来した天馬に宝具となる“
それこそがライダーのクラスカードが持つ必殺。戦いには向かない天馬の気性を荒ぶらせ、あらゆるものを打ち砕く流星と化す奥義。
そんなもんを制御し切れず突っ込んできた考えなしを見て、オルタが眉を吊り上げた。
「……あんたたちの方がよっぽど危ないわよ」
「うぐぅっ」
『細かい事を言わないでくださいよ。ドジっ娘属性くらい魔法少女には標準装備なんですー』
ペガサスの着陸を見て、ソウルイーターの狙いが再び変わる。
その四肢こそが神代の空を駆けた伝説。
神話に生きた魂を喰らう為、獣たちが続々とこの場へと釣られてくる。
「あなたもこっちに!」
そんな光景を前に固まっていたレジスタンスの腕が引かれる。
彼を引いたのは立香。そしてその向かう先は一軒の小屋。
その小屋の外ではオルガマリーがルーンストーンを地に弾き、結界を敷いていた。
連れてきた男を結界の中に押し込んで、立香が振り返る。
と、同時。逆に結界から出てくるのは巨漢のライダー。
「これで全員だ。助かったぜ」
軽く目を細めてそう言うライダー。
その様子はまるでどこか苦悩しているようで。
人的被害が無いに越したことはないが、だからと言って逃げの一手は宜しくない。
彼らがこの地下で戦う当事者である以上、人任せにはしてはいけない。
だが流石にあれほどの獣の前に出すのもまた難しい。
無駄死にさせたくないのはライダーだって同じだ。
カルデアと共闘するならば組織の改革は急務だな、と。
そんな独白を飲み干した彼が、戦場を見る。
その瞬間に閃く紅閃。
瞬く間に二頭のソウルイーターが心臓を貫かれて絶命した。
それを成した魔槍を持つ美遊が、槍を引き戻しつつ視線を巡らせた。
柔らかな肉体が生む俊敏な動作で飛び掛かる獣。
突撃に正面から応えるのは少年の突撃。
爪を砕き、牙を砕き、螺旋の剣がソウルイーターを蹂躙した。
そんな光景を見下ろして、あらかた釣ったと判断したアストルフォ。
彼が手綱を引けば、了解したとヒポグリフが急降下。
直上から獣に取り付き、その嘴で敵を啄んで引き千切る。
そうして敵の中に躍り出た幻獣たち。
どうやら獣はヒポグリフやペガサスにより惹かれるのか。
そっちに向かって群がろうとする多数のソウルイーター。
そんな連中に対して吐き出される鉛玉。
狙いを付けずとも中る無数の弾丸が、獣の集団に突き刺さる。
銃撃により足並みの崩れた集団。
疎らになる獣の突進。
彼女はその中に悠々と立ちはだかり、黒く染まった聖剣を振り上げた。
振り上げた剣が閃く。騎士王の腕が振るわれるのは一秒につき一度。
そして一太刀ごとに確実に一匹。
ソウルイーターは両断され、絶命して二つに分かれた骸を晒す。
「……問題なく処理はできそう、だけど」
「いつまた襲われるか分からないって事だよね」
結界の維持をしながら渋い顔を浮かべるオルガマリー。
そんな彼女に並び、目を細める立香。
この襲撃によって、カルデアは自由に動けなくなった。こんな獣の集団をいつでも差し向けられると言われたら、レジスタンスは瓦解するだろう。
それを防ぐためにはカルデアは桃源郷の防衛を常に行わなくてはならなくなる。三国の攻略に全戦力を傾ける事は出来なくなった、という事だ。
恐らくは黒幕―――魔神の仕業。
動きが速い。半日と待たずにこちらを制しにきたのだ。
当然のように桃源郷の存在も理解している。
(―――……当たり前だよね。この特異点は伝承に縁のあるサーヴァントを利用したにしろ、魔神の望んだ何かを叶えるために設計されたものの筈。桃源郷の存在を知らない筈がない。
じゃあなぜ放置してるの? これだけの戦力を半日以下の時間で使い捨てるために用意できる準備があって、ライダーたちを攻める事をしなかったのは……)
立香が頭を回しながら、モリアーティに視線を向ける。
ここにいる魔神がバアルほどこの特異点に情熱を傾けたかは分からない。
だが基本設計は少なくともその魔神がやっている筈だ。
ライダーは分からないが、桃源郷は必要な場所として用意されたのだ。
だからエレナもライダーも積極的に襲われるような事はなかった。
だがここにきての突然の襲撃。
これは明らかにカルデアへのプレッシャーを狙ったものだろう。
この短期間で察知と対応を成し遂げた速度。
こちらが桃源郷に合流した、とすぐに認識していたのだ。
(どこにいてもこっちの動きが魔神に視えてる、っていうわけじゃないなら……メガロスからライダーたちと一緒に逃げた事がきっとその理由。そうだとしたら魔神とメガロスはその視点を共有してる? メガロスに指示を与えている相手も魔神、って事?)
メガロスが何と通信しているのかは分からない。
ただ誰を狙うべきか機械的に判断するものなのか、あるいは黒幕側の魔神やサーヴァントか。
だがどちらにせよ今回この対応の早さを見せたという事は、魔神かそれに近しいものにメガロスが見たものが共有されている可能性は非常に高い。
そしてメガロスに発生する指示待ちのアイドリング。それを鑑みるに、メガロスが行っている通信にはタイムラグがある。
その理由は分からないが、そんな状況だとすれば相手の通信網も知れたもの。自由自在に情報収集や通信ができるとは思えないわけだが。
「―――……あれ、でもこれってつまり」
ふと思いついた事に、立香が瞬きして。
―――しかし幾ら考えたところで現状の情報で答えは出ない。
とにかくまずはここを終わらせることだ、と。
彼女は目の前でソウルイーターが狩られていく光景に集中した。
「貴様は……タイムジャッカーか」
ドライバーを懐から取り出し、油断なく構える。が、彼の目の前に現れた赤い怪人アナザーカブトは、ゲイツの臨戦態勢に応じる素振りはない。その様子に顔を顰めるゲイツ。
互いに静止しての沈黙は数秒。
「―――お前、俺に協力する気はないか?」
「なに?」
アナザーカブトが口を開き、ゲイツに告げるのは勧誘の言葉。
「俺の目的は常磐ソウゴ。お前の目的は奴が消えた世界。協力できると思わないか?」
アナザーカブトはただ、常磐ソウゴを葬り去りたい。
そしてゲイツはオーマジオウを倒したい。
それはオーマジオウという支配者の消滅を求めるからだ。
であるならば、その結果さえ得られるならばいい筈。結果的に常磐ソウゴが消えるなら、倒すのはアナザーカブトであっても問題ないだろう、と。
怪人はそう言って、ゲイツを見据えた。
「肩を並べて戦えなんて言うわけじゃない、むしろ逆だ。常磐ソウゴは俺だけの獲物。誰にも邪魔をされたくない……これに何か問題があるか? お前からすれば、奴が消えさえすれば文句はないだろう?」
差し出される怪人の手。
そうしながら、アナザーカブトはゲイツに言い放つ。
「俺と奴が戦うために、常磐ソウゴを誘い出せ。それだけでいい」
共闘など以ての他。要求はただ示し合わせる事。
お互いに目的を果たすための擦り合わせでしかない、と。
ただそう告げて、彼はゲイツからの返答を待つ。
ゲイツはそれに迷いなく、アナザーカブトを睨んで口を開いた。
「―――断る」
「なんだと?」
その返答に対し、それなりに意外だという様子を見せる怪人。
彼は一瞬だけ声を浮かせて、すぐに取り直して鼻で笑った。
「ふん、なんだ。奴を狙ってきたのかと思えば、もう取り込まれたのか」
「……違うな」
己を嘲笑うアナザーカブトを睨み据え、ゲイツは腰にドライバーを宛がう。巻き付くベルトが固定され、次に手が伸びるのはウォッチホルダー。仮面ライダーゲイツのウォッチを手にして、彼は強く握り締めた。
そうしたゲイツを見ながら首を回しつつ、アナザーカブトが笑い混じりに問いかける。
「何が違う? お前は獲物を前にして二の足を踏んだ挙句、常磐ソウゴのおともに成り下がっているだけだろう」
「俺たちはあの世界を……オーマジオウが創る世界を認めない。
だからこそ俺たちは、世界を取り戻すために戦った。俺の目の前で散っていた仲間たちは、そのために立ち上がった戦士たちだった。
……今の俺がやっている事は、負けた俺たちの最後の足掻きだ。オーマジオウには歯が立たなかった。だからオーマジオウになる前の常磐ソウゴを倒す。
―――そうだ。これはそんな足掻きだからこそ、俺は奴を見極める」
〈ゲイツ!〉
起動するライドウォッチ。
それを正面に構えながら、ゲイツはアナザーカブトを強く睨む。
「俺が背負った仲間たちの死を。敗者が行う最後の悪足掻きを。俺はけして罪無き者への理不尽な暴力にまで貶める気はない。
―――だから。奴がオーマジオウとなると、そう確信できた時に俺自身の手で倒す」
装填されるゲイツウォッチ。
拳でロックを叩いて外し、回転待機状態へと移行するジクウドライバー。
自分で自分を確かめるように口にする言葉。
そうして噛み締めた感覚で、ようやく自分の中に火が入った、と。
大きく息を吐き出して、ゲイツは正面に両の腕を突き出す。
「……俺の判断の甘さのせいで奴が魔王の力を高めてしまったのなら、その時は俺の命を懸ける。命を懸けて、あの魔王を倒してみせる。
お前のような奴に、協力を申し出られるような謂れはない!」
「……ふん、お前に目を付けた俺が馬鹿だったな」
―――変身、と。
キーワードを口にして、腕を振るってドライバーを回す。
その動作を許す気はないと、アナザーカブトが時流を移る。
〈クロックアップゥ…!〉
瞬間、アナザーカブトだけが時間の流れを別路線に乗り換えた。
世界が停止する。自分以外の全てが停滞する時流。
そこに単身踏み込んで、彼は悠然と動きを止めたゲイツに歩み寄っていく。
いや、動いていないわけではない。ただただ遅い、どうしようもないほどに。
相手の知覚さえ許さぬ速度でゆっくりと。
赤い甲虫の怪人はゲイツの間近に迫り、その首へと手を伸ばし―――
「だったら、最初から俺だけ見てれば?」
「―――――」
伸ばした腕の手首を、唯一同じ世界に踏み込んだ仇敵に捕まえられた。
突き合わされる二つの青い眼光。
二人のカブトが至近距離で顔を合わせ、そのまま力をかけあう。
互角の腕力で競り合うカブトアーマーとアナザーカブト。
「常磐、ソウゴ……!」
「あんたが何で俺に執着してるのかは知らない。けど、それなら俺だけを狙えばいいだろ。スウォルツに従ってわざわざこんな事をする理由はなに?」
ギシリと軋むアナザーカブトの手首。
本人が引き攣るほどに力をかけたのか、その腕が微かに震える。
そうして、アナザーカブト―――加古川飛流は、咽喉の奥から笑い声を漏らした。
「―――決まってるだろう」
笑い交じりの声。
その直後、アナザーカブトの腰部にタキオン粒子の輝きが灯った。
ジオウもまた即座にウォッチとドライバーを指で叩く。
〈フィニッシュタイム! カブト!〉
互いに頭部のホーンを経由させ、破壊の光を集約させるのは右足。
手首を掴んだ手を払い、その勢いのまま体を回し、双方揃って繰り出すのは回し蹴り。
爪先にスパークする光の波動。
〈クロック! タイムブレーク!!〉
「俺は、お前の持っているものを全て壊すために此処にいるからだ……!」
激突する。まったく同じ性質にして、まったく同じ威力。
繰り出されたライダーキックが正面からぶつかり合って、衝撃を巻き起こす。
その攻撃が衝突を維持すること数秒。
破裂した粒子の反動で互いに弾け合い、共に後方へと押し出される。
地面を滑る二人のカブト。
衝撃によって解除されるお互いのクロックアップ。
通常時間軸に帰還した二人が、砂塵越しに対峙する。
「っ、貴様……! オーマ……ジオウ、何故ここに……!?」
「ゲイツこそもう夜なのに何でずっと外にいたの?」
「貴様の顔も見たくなかったからだ!」
目の前で交わされる茶番に鼻を鳴らし、アナザーカブトがゆらりと立ち上がる。
身構えているジオウを前にして、隙だらけに見える体勢。
それを怪訝に思う事を隠さないジオウの前で、アナザーカブトが変身を解除した。
怪人の外装を取り払い、姿を現す一人の少年。
加古川飛流は生身を晒し、ただジオウを見据えている。
彼の胸から飛び出して、地面にころりと落ちるアナザーカブトウォッチ。
そんな彼の様子を前にして、ジオウが困惑げな様子を見せて問う。
「……話をする気に―――」
「なったと思うか?」
構えを解きかけたジオウの目に、彼が握っているウォッチが映る。
今まで変身に使っていたカブトのアナザーウォッチは地面に転がっていた。
となれば必然、それは別のアナザーライダーのウォッチであるはずで。
―――しかし彼が変身を解いた瞬間、他の者たちは動いていた。
飛流の背後で空間が歪む。その空間跳躍の予兆の後に現れるのはクロエ。
同時に彼が背にしていた木々の一つから、潜んでいたデオンが飛び出した。
サーヴァント二騎による背後からの奇襲。
彼女たちは飛流を完全に制するつもりで踏み込んで―――
「
〈ジオウゥ…!〉
―――その場に。
最低最悪の怪人が、出現していた。
持っていたアナザーウォッチを起動し、ドライバーに装填するように腰に押し付ける。
その瞬間、加古川飛流の姿はアナザーライダーへと変わったのだ。
白い体。銀色のアーマー。体の各所を走るマゼンタのライン。
そして、時計の文字盤を思わせるマスク。
両手に握られた双剣はまるで、時計の長針と短針のようだ。
「―――――ッ!?」
あまりにも見慣れた。しかし決定的に違う異形。
その姿を見て、クロエとデオンの疾走が一瞬鈍る。
それもまた知っていた事、とばかりに動き出す怪人。
双剣を握る手首が跳ねる。
クロが黒白の双剣を守りに構える。
デオンがサーベルを傾け受け流すための姿勢を整える。
もちろん。
それも知っていたと、怪人の手の中で双剣の刀身に纏う光が酷く膨れ上がった。
苦し紛れの防御を力尽くで粉砕するための、純粋な破壊力。
剣から立ち上る力は、まるでジオウⅡのような圧倒的な奔流。
当然、一切の躊躇なく振るわれる剣撃。
その刃が二人を切り裂く直前、まったく同時に二人の姿が押し出された。
「っ、マス……!」
カブトアーマーが二人を押し出した位置で静止する。
彼をクロックアップに導くのは全身を駆け巡るタキオン粒子。そのタキオン粒子を光の波動に変え放つのがライダーキック。同質、同威力キックの激突で一時的に激減した粒子量は、ジオウを光の速さから追い出した。
―――それも、知っていたと。
双剣が目論見道理に、確かにジオウに向けられる。
逃れる手段を失ったジオウが、そのまま切り裂かれ―――
〈ライダータイム!〉
る、その直前。
ジオウの横合いから、黄色い“らいだー”の文字が激突した。
それで体勢を崩しつつも押しやられ、彼の体が剣閃の軌道上から外される。
直撃を免れた彼に、しかし掠める双剣の軌跡。
直撃ならぬその衝撃だけで軋みをあげ、弾け飛ぶカブトアーマー。
「ぐ、ぁ……!」
「マスター!」
アーマーを解除されながら吹き飛ばされるジオウ。
大地に叩き付けられ、白煙を噴きながら転がる黒い姿。
それを追う選択肢を外し、怪人は即座に怒りのままに振り返る。
〈仮面ライダー! ゲイツ!〉
「貴、様ァ……! よくも邪魔を―――!」
怒りを滲ませる怪人の前で、仮面ライダーゲイツが変身シーケンスを完了した。
返ってきた“らいだー”の文字が顔面に嵌め込まれる。
輝く頭部の複眼、インジケーションバタフライ。
指を張り、拳に纏うグローブに力がかかる。
ぎしりと音を立てる腕部の感覚を確かめながら、ゲイツは逆に飛流に怒りを飛ばした。
「邪魔? 邪魔をしたのは―――先に俺の戦いにケチをつけてきたのはお前だ。
こっちにだって貴様を見逃す理由はない」
ジオウに駆け寄るクロエとデオン。
そんな二人の前で、怪人はぐるりとゲイツに向き直る。
彼の手の中にある双剣が紫炎に燃え、その威力を高めていく。
激突までの一瞬の停滞。
数秒と無い静寂。
その瞬間を切り取ったかのように、彼らの動きが停止した。
「やれやれ……わざわざ魔王を庇ってしまうとは。まったく、我が救世主にも困ったものだ。
今の段階ではまだ、魔王の力には追い付けないというのに」
そんな戦いが始まる寸前、刹那の光景を背景として。
ゆったりと歩み出てくるのは、白い服のウォズ。
彼は面倒そうな顔で背景を眺めると、脇に抱えていたノートを広げる。
―――が、白ウォズはそこで軽く片眉を上げた。
そのままノートを畳んで溜息ひとつ。
「仕方ない、私の目的を果たす前に全滅されても困る。
スウォルツ氏に乗せられるのは癪に障るが……ま、いいとしよう」
まるでオーマの日に向けて加古川飛流を育てているようだ、と。
そう感じながらも、白ウォズは無視することにした。
魔王が二人いても別にいい。それを倒すために用意されるのが救世主だ。
来るべきオーマの日に勝利すべきは他の誰でもない。
―――彼が選んだ未来だ。
そうして微笑むと、彼は懐からビヨンドライバーを取り出した。
お前もタイムジャッカーにならないか?
今なら時間停止能力がもらえる!