Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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デルタな歴史2017

 

 

 

〈ビヨンドライバー!〉

〈ウォズ!〉

 

 白ウォズが腰に装着した瞬間、起動するビヨンドライバー。

 誰もが止まった時間の狭間。

 彼はそのまま流れるようにウォズミライドウォッチも起動した。

 

 そんな彼の視界の端に掠めるのは同じく止まった時間を動く者。

 黒ウォズが【逢魔降臨暦】を片手に歩み出してくる。

 

「……この本によれば。普通の高校生、常磐ソウゴ。彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた。

 人理焼却で一時は失われたその未来。だが彼らは魔神王ゲーティアを打倒し、奪われていた自分たちの未来を取り戻した」

 

 その語りを聞き流しながら、白ウォズの手がウォッチをドライバーに装着する。ハンドルに装填されたミライドウォッチのスターターが押し込まれ、展開するのはミライドウォッチのカバー、ゲートアクティベーター。

 

〈アクション!〉

 

 待機状態へと移行し、力を解放する瞬間を待ち受けるドライバー。

 大仰に腕を振るいながら、ゆったりと変身動作を行う白ウォズ。

 

 そんな自身と同じ顔の男の背中を見ながら、黒ウォズが続ける。

 

「これはその戦いの続き。魔神王ゲーティアとの決戦の地、時間神殿から離脱して生き延びた魔神たちから、再び仕掛けられた新たなる戦い。

 新宿に蜘蛛の巣を張り待ち受けたバアルに勝利し、次に彼らが辿り着いたのは伝承に語られる幻の大地。西暦2000年の地球の内側に秘められた地底都市アガルタ」

「―――変身!」

 

 ハンドルにかかる白ウォズの手。

 彼がそれを思い切り押し倒し、ビヨンドライバーのメーンユニットに接続した。

 ウォッチのモニターから放たれた光が、ドライバーのスコープに映し出される。

 同時にドライバーはその映像を虚空に出力し、白ウォズの周囲に物質化していく。

 

〈投影! フューチャータイム!〉

 

 描き出されるのは、シルバーとライトグリーンのアーマー。

 自身を囲うように構築されていく鎧に、深くなる白ウォズの笑み。

 

「そしてこの世界において彼らに牙を剥くのは魔神だけではない様子。どうやらアナザーファイズを作り出すつもりらしいスウォルツに、彼に従っているとおぼしき加古川飛流という少年……」

 

 白ウォズから外された視線が、白い怪人へと向けられる。

 時計を思わせる造形のその怪人こそ、紛れもなく最低最悪のアナザーライダー。

 そんな存在を前に、酷く不快そうな表情を浮かべる黒ウォズ。

 

 彼は一度瞑目して表情を戻すと、再び口を開く。

 

「……そして、ツクヨミくんと同じく2068年からやってきたオーマジオウに刃向かうレジスタンスの一人である……」

「救世主たる明光院ゲイツと、彼を導く者たるこの私―――」

 

〈スゴイ! ジダイ! ミライ!〉

 

 空中に投影されたアーマーが、白ウォズを中心に組み上がっていく。

 全身を覆う銀色のボディが夜闇の中で強く煌めく。

 自身の存在を誇示するような彼の立ち姿こそが、変身が完了した事の証。

 最後にドライバーが告げるのは、その戦士の名前。

 

〈仮面ライダーウォズ!〉

 

「というわけだ」

 

〈ウォズ!〉

 

 そうして剽軽と言えるほどの軽さで声を弾ませる白ウォズ。

 完成した銀色の戦士に目もくれず、黒ウォズは【逢魔降臨暦】へと視線を落とす。

 

「……どうやらそろそろ本腰を入れ始める者たちもいるようです。

 というなら、あえてこの私に語る言葉は―――我が魔王の覇道に立ちはだかる者どもの運命や如何に、と締めくくっておきましょう」

 

 そこまで告げてバタン、と。

 彼は些か乱暴に、手にしていた本の頁を閉じた。

 

 

 

 

 

 白い怪人が剣を振り上げる。

 それに先んじてライダーゲイツが手に呼び込むのはジカンザックス。

 弓形態で握った武装を敵に向け、彼は即座に連射した。

 

 殺到する光の矢。

 張られた弾幕に一度鼻を鳴らし、飛流は一切対応を行わなかった。その攻撃、全てを自身に直撃させながら始めるのは疾走。差し向けられた矢を意にも介さず、彼はゲイツに向け突進する。

 

「ちっ……!」

 

 迫りくる怪人を前に、ゲイツがすぐさま弓を斧へと切り替えた。

 だがそれであの敵の一撃を受け止められないのは分かっている。

 紫電を纏う双剣。その攻撃を前に、両腕で戦斧を構え直すゲイツ。

 

 そうして向かい合う両者の横合いから、緑光の刺突撃が割り込んだ。

 

〈フィニッシュタイム! 爆裂DEランス!〉

 

 今にも振り抜かんとされていた剣の腹を打ち据える槍の一撃。その衝撃に押し込まれ、怪人の体が大きく揺らぐ。

 見当違いの方向へと流される太刀筋。苛立たし気に足を止める飛流。そこから乱入者の方へと顔を向けようとした彼の腹に、続けて放たれたミドルキックが突き刺さる。自分で蹴り飛ばした白い怪人を視線で追いつつ、ライダーウォズが振り抜いた足をゆるりと降ろした。

 

「貴様、白い方の……一体何をしに」

「私も好きで出てきたわけではないよ、我が救世主。

 やれやれまったく、まさかこんなところでアナザージオウにお目にかかるとは」

「アナザージオウ……!」

 

 ゲイツが白ウォズの背中に向けていた視線が、弾かれた怪人に向けられる。

 彼の言葉に出て、すぐに繰り返される怪人の名前。

 

 それはライダーの歴史の体現者。

 真実の上に被された偽りの仮面。

 その中において、20番目に時を刻む怪人の王。

 

 ―――即ちアナザーライダー、ジオウ。

 押し込まれた体勢を立て直し、アナザージオウが剣を握り直す。

 

 白いジオウの姿を見上げる本来のジオウ。

 彼がデオンに肩を借りつつ、何とか体を起こした。

 

「やっぱりあれ、俺の……!」

「ふん……」

 

 ジオウとアナザージオウが両立する。

 いつかアナザー鎧武の成立と引き換えに鎧武が消えたのとは違う。

 ディケイドとアナザーディケイドが分割されたのとも違う。

 

 ゴーストとアナザーゴーストが両立したように。

 彼らは今という時代の中で、争いの果てに決着をつけるべき存在なのだと言わんばかりに。

 

「クロ……!」

「―――りょーかい!」

 

 何とか自立したジオウ。

 彼が差し出した掌からウォッチを受け取り、少女が走る。

 アナザージオウを目掛けた脇目も振らない突進。

 

 その少女の姿を目線で追いかけ、しかし。

 そこから消失する事を予見し、飛流はその先に目を向けた。

 

 発動する転移。消えたクロエの行先はゲイツの上。

 彼女はゲイツの肩に着地すると、ジオウから受け取っていたウォッチを放る。

 突然投げられたウォッチを咄嗟にキャッチ。

 そうしてしまったゲイツが息を呑み、次の行動に一瞬迷う。

 

 が、すぐさま彼の指はウォッチを起動した。

 

「余計なことを……!」

 

〈ウィザード!〉

 

 呟くように文句を言いつつも、ドライバーに装填されるウィザードウォッチ。

 その様子に彼に並びつつ呆れるクロエと、大仰に肩を竦めるライダーウォズ。

 

〈ジオウⅡ!!〉

 

 アナザージオウを挟み、ジオウがその反対側で二重のウォッチを割る。

 同時にジクウドライバーを待機状態にし、彼らは一気に腕を振り抜いた。

 回るジクウマトリクスが、周囲にウォッチに内包された力を具現化していく。

 

 ゲイツが纏うのは燃えるように赤い宝石。

 そしてそれを飾る装飾である指輪を模った魔法の鎧。

 装着の衝撃で魔法陣を分割したローブを靡かせ、彼は周囲に炎を躍らせる。

 

〈アーマータイム! プリーズ! ウィザード!〉

 

 ジオウが変わる。鏡合わせの時計を二つ重ねて一つに束ねて。

 現れる姿は、ジオウにとって正しく進化というべき変化。

 鎧に加わった金色の意匠を一際輝かせ、彼は両手に剣を携えた。

 

〈〈ライダータイム!!〉〉〈仮面ライダー!〉〈ライダー!〉

〈ジオウ!〉〈ジオウ!〉〈〈ジオウⅡ!!〉〉

 

 そうして移り変わった戦場を一巡り見渡して。

 アナザージオウが、ジオウの方へと視線を移した。

 

 瞬間、奔る二つの姿。黒のジオウⅡ、白のアナザージオウ。

 彼らはまったく同時にお互いに仕掛け合い―――

 

 二振りの剣をぶつけ合って、揃って同じように弾かれた。

 

「っ……!」

「ハ――――!」

 

 直後に上がる声、飛流の声に喜色が混じる。

 

 互いに放った剣による二蓮撃は相殺。

 その結果として両者は大きく吹き飛ばされて距離をあけた。

 そして―――

 

 着地した際にアナザージオウは一歩後退するだけで体勢を立て直し。

 しかしジオウⅡは三歩後退して、膝をついた。

 

 一度の激突でよく分かった。

 パワーは互角。スピードも互角。武装も互角。

 

 ―――だから、無傷の飛流が圧勝する。

 

 ジオウは既にアナザージオウから一撃を受けている。

 あらゆる点で同等である以上、彼が傷を負った時点で勝敗は決定した。

 

 それを理解した瞬間、アナザージオウは更に加速する。

 元より小細工を積み重ねるためにスウォルツの誘いに乗ったのではない。

 

 彼が求めていたのはたった一つの事。

 その望みが今まさに、こうして目の前にまで来ているのだと。

 それを実感した少年の、マスクに覆われた怪物の顔が猛々しく歪む。

 

「マスター、後ろへ!」

 

 加速するアナザージオウの前に立ちはだかるシュヴァリエ・デオン。

 弓を構え、射撃体勢に入るライダーゲイツとクロエ。

 

 ジカンデスピアを肩に担ぎ、その場で動く気無しと足を止めるライダーウォズ。

 

 アナザージオウの頭部、時計の針のようなアンテナが回る。彼は前を向きながらしかし、背後から放たれる矢の軌跡を確かに見据えた。

 このまま行けば貰う直撃コース。その矢が自身に中った未来を視て、攻撃を受けた場所から軌道を逆算し、全ての攻撃のコースを理解する。

 そうすれば振り向くまでもなく、彼は足を何処に運べばいいか見極められた。

 

「――――!!」

 

 完全回避。停止せず、減速すらなく、振り向く事さえしないままアナザージオウは最小限の動きで全ての射撃を潜り抜けた。

 矢の一射さえ掠らない進撃を前にして、クロエが即座に次弾を番える。そうして彼女は敵に一撃を中てる方法を求め、しかし。彼女の予測は必中の武装以外の答えを出せなかった。

 

 ゲイツが射撃を続行する中、クロエが答えを求めて視線を彷徨わせて。

 見つけた光景に一瞬顔を顰め、すぐに彼女は狙いを変えた。

 弓を捨てて発動する剣弾(ソードバレル)

 剣を矢に改造する事なく投影して放つ、速射を求めて発動させた次善の行動。

 選ぶ武装は宝具。優先するのは数。結果、顕れるのは一山いくらの低ランク宝具。

 

「―――撃つわよ!」

 

 彼女の視線の先にいる者にそう告げて、射出するのは無数の剣群。

 自身に中る軌道ではないと理解し、アナザージオウの踏む軌道は変わらない。

 放たれた無数の剣は白い怪人を追い越して、ただ地面へと突き立った。

 

 ―――剣の弾丸が撒き上げる土埃。

 それを白いマントで跳ね除けながらデオンの腕が動く。

 地面に並んだ剣の柄をその手が握り、引き抜いた。

 

 常磐ソウゴまでに立ちはだかった邪魔なもの。

 彼にとってはそんなものはただの障害でしかない。

 

 無造作なまでに力任せな剣の一振りがデオンを襲う。

 

 アナザージオウが振るう剣に纏うのは純粋な力。

 ただ純粋に破壊力だけを押し固めた暴力的なエネルギーの乱舞。

 相手に技巧を凝らす事を許さない。力のかけ具合でどうにかするなど許さない。

 そんな、絶対的なもの。

 

 それを剣技でどうにかする、というのは。

 さながら隕石に地上から石を投げつけ、軌道を逸らすようなものだ。

 

 ―――それでも、一撃ならばどうにかしよう。

 だがデオンの剣では一撃逸らせばその時点で刀身が溶け落ちる。

 後が続かない。双剣の内、一刀一撃しか捌けない。

 

 だったら、どうするというのか―――と。

 

 その答えを示すように、剣閃が重なる。

 アナザージオウが振るう、暗く燃える剣による剛撃。

 それに対しデオンの添えるような、投影された宝剣による柔撃。

 対照的の一撃が触れ合った、その瞬間。

 

「――――ッ!?」

 

 ()()()()()()()

 刀身のみを炸薬に、デオンの剣腕と爆発の勢いでアナザージオウの一撃を逸らし切る。

 凌がれた、という事実に飛流が戸惑ったのは一瞬。

 その一瞬の内に剣の残骸を投げ捨て、デオンは新たな宝具を地面から両手で引き抜いていた。

 

 立て直したアナザージオウの双剣に対し、応じるデオンの双剣。

 その衝突の次に起こる流れはまったく同じもの。

 宝具の炸裂刀身を利用して、本来なら押し切られるような剛撃を受け流す。

 

 立て直して続けて再度振るわれる剣。

 結果は再演、同じように受け流される。

 直後にデオンの傍に補充するように投影宝具がまた突き立った。

 それを確認して引き抜きながら、デオンとクロエが視線を交わす。

 

 刹那のタイミングによる着火を要求されているクロエが、僅かに引き攣った顔で笑う。

 宝具を起爆するクロエにデオンに合わせられる剣技はない。

 デオンが受け流すのに必要な完璧な爆破タイミングは計れない。

 

 が、そこに絶対無二の答えがあるのなら。

 ―――彼女には確かに視える。そういう眼を持っている。

 

 攻めあぐねた事を自覚したアナザージオウを前に、デオンが微かに唇を上げた。

 

「さあ、何度でも付き合おうじゃないか?」

 

 受け流すだけでもかかる負荷を噛み殺しながら、美しささえ感じる笑み。

 余裕さえも表情に浮かべ、アナザージオウを見据えるデオン。

 そうして挑発してくる相手に対して、飛流が怒りのままに歯を軋らせた。

 

「邪魔だ――――ッ!!」

 

 振り上げられる双剣。

 今までのように通り抜けるついでに障害物に放つようなものではない。

 ただ目の前にいる邪魔なものを根こそぎ吹き飛ばすような、全力を注いだ一撃。

 

 あまりにも隙だらけな、全力の大振り。

 だがそんな隙さえも止められない。怪人の装甲を突破できる攻撃力を用意できない。

 そこまで力を込められてはもう、当然のように逸らす事もできない。

 だから、それが振るわれればデオンに為す術は一切ない。

 

「ああ、そう。それは失礼した」

 

 そんな事実を前にして、デオンの体が横にずれる。

 まるで、道を開けるように。

 

〈ライダー斬り!〉

 

 瞬間。時計の針が弧を描き、アナザージオウに殺到した。

 振り上げた双剣を引き戻して、咄嗟に行う守り。

 それが間に合った理由は、偏にジオウⅡの一撃の太刀筋の鈍さが原因だった。

 

 光の斬撃を受け止めて、その衝撃で押し戻される。

 受けた反動で僅かにひりつく掌。

 

 アナザージオウがどうにか防いだ剣撃越しにジオウⅡの姿を見る。

 揺れるサイキョーギレードの切っ先。結果、定まらなかった太刀筋。

 間に合わなければ自分が相手と同等のダメージを受けていた。

 そうしてまた負けていた、と。

 

 頭の中に浸み込んでくる可能性の光景が、飛流の血液を沸騰させる。

 

「常磐、ソウゴォ―――――ッ!!」

 

 双剣を振り上げ、それらの柄尻を合体させる。

 組み上がるのは柄を中心に両端に刃を持つ一振りの剣。

 ダブルブレードの刀身に沸き立つこれまで以上のエネルギー。

 

 デオンで受け流し切れるものではなく。

 ジオウⅡですら今は相殺し切れるものではない。

 余波ですら大地を砕くアナザージオウ必殺の一撃。

 それを前にして、クロエが叫ぶ。

 

「壁!」

「な、……ああ」

 

 少女の言葉に一瞬だけ逡巡し、しかしウィザードアーマーが魔力を放つ。

 アナザージオウを囲うように隆起する土の塊。

 しかし屹立すると同時、吹き荒れる破壊の風に削られていく防壁。

 乱舞する砂塵の中、視界を壁に遮られたアナザージオウの視点が時空を超えた。

 

 ―――視えるのは未来。

 この土壁が崩壊した時点でどの方向から相手が斬り込んでくるか。

 ジオウⅡの手にはサイキョージカンギレード。

 その未来を視認して、アナザージオウがそれに対応した。

 

 ダブルブレードの一振りが起こす爆風が、土壁の一角を吹き飛ばす。

 崩れ落ちた先には、確かに彼が視た通りジオウⅡがいた。

 合体させた剣を手に、彼の指がドライバーにかけられている。

 

「視えているぞ、その未来……!」

 

〈〈ライダーフィニッシュタイム!!〉〉

 

 左手にサイキョージカンギレードを握り、振り上げながら。

 待機状態のドライバーにかけた右手に力が籠る。

 

 ジオウⅡとアナザージオウの差は縮まっていない。

 正面からの激突によって齎される答えは動きようがない。

 彼らが互いの最強の一撃をぶつけあうこの決戦に割り込める者などいない。

 

 アナザージオウが大地を蹴る。

 回しながら振り上げた刃の余波で、残っていた土壁が蒸発していく。

 

 迫りくる憎悪に猛る怪人を前にして、ジオウⅡの後ろでデオンが呟いた。

 

「キミなら出来るさ。それだけの戦いはあった筈だ。後はタイミングひとつ」

「そう? そう言われるとなんか―――いける気がする……!」

 

 デオンの前でジオウⅡが大地を砕く。

 アナザージオウに匹敵する加速で、剣を振り上げたジオウⅡが加速した。

 衝突までの時間は1秒足らず。その瞬間、激突以外の未来が消える。

 

 それを勝利の確信とするのは加古川飛流。

 

 その一瞬の中で、いつかこの身で味わった拳撃を思い起こす常磐ソウゴ。

 彼の右腕が、ドライバーを一息に回した。

 

〈〈トゥワイスタイムブレーク!!〉〉

 

 薙ぎ払われるダブルブレード。

 振り下ろされるサイキョージカンギレード。

 

 激突からの拮抗―――は、一瞬すら存在せず。

 

「!?」

 

 ―――サイキョージカンギレードが粉砕される。

 ジオウⅡの持つ最強の刃である筈の剣が、まるで硝子細工のようにいとも容易く砕け散る。

 まるで跳ね返ってこない互角に近い筈の手応え。

 一気に押し切らんと前のめりになっていたアナザージオウが戸惑った。

 止まらない。止まれない。全身全霊の突進に減速が叶う筈もない。

 

 そうして切り結ぶ事を考えていた相手の前。

 無手になったジオウⅡが右手で拳を握り締めた。

 ドライバーを回し、放出したウォッチの出力はただ一ヵ所に集っていく。

 

 思い返すのは拳の嵐。あらゆる攻撃手段を跳ね退けてみせた無影の拳。

 その動きを真似られる、とは思わない。

 その動きが出来る者には、才能だけではなく相応の積み重ねがあるものだ。

 だからジオウⅡにそれを動きとして真似る事は叶わない。

 

 だがそういう事が可能なのだという事実を、よく知っているだけ。

 

「――――今だ!!」

 

 デオンの声が背後から告げる、拳を跳ね上げるべきタイミング。

 体勢は低く。スライディングにも近しい体の沈め方。横薙ぎに振るわれるアナザージオウの剣が、そうして下に逃れようとするジオウⅡを追おうとして。

 その瞬間、振り上げられた拳が剣の腹へと叩き込まれた。

 

 衝突、押し合いになれば勝てる道理がない。

 だからそれは全力でぶつかる事で、相手の力の方向逸らすためのもの。

 パワーだけなら足りている。

 途中で停止がかけられない程アナザージオウは前がかり。

 後はタイミングさえ合致すれば、この一撃だけはどうにか出来ると踏んで、

 

「逃が、すか……ッ!」

 

 それでも、アナザージオウがジオウⅡを圧し潰すために無理矢理剣閃を捻じ曲げる。

 全力で振り抜いた筈の切っ先がより沈む。

 衝突した結果ずれて、擦れ違う筈だったという未来を別物へと塗り替え―――

 

「まったく……我が救世主にも困ったものだ。魔王の戦いなんて放置すればいいものを。

 【シュヴァリエ・デオンに導かれた仮面ライダージオウⅡの一撃は、見事アナザージオウの必殺剣を受け流した】」

 

 可能性が指定された未来に向け、収束する。

 未来ノートに綴られた光景が訪れる。

 

 そんな風に仕方なさげに。

 ノートを携えた白ウォズ自身も、あまり乗り気で無いと言うように。

 

 だがジオウⅡにしろ、アナザージオウにしろ、今の救世主では届かない。

 ならもう彼が目醒める時までは適当にぶつかっていて貰うしかないのだから仕方ない。

 その心中がどうあれ、彼が導いた未来はやってくる。

 ノートを畳んだライダーウォズの前で、二人のジオウが擦れ違う。

 

 受け流され、空振ったアナザージオウの剣。

 ぶらりと垂れ下がるジオウⅡの右腕。

 必殺を以て決着だった筈の両者がすれ違い、背を向け合った。

 

 右手の装甲が焼け落ちた。

 たった一度の交錯で、過負荷は限界にまで辿り着いた。

 麻痺して動かない右腕をぶら下げて、しかし。

 彼は思い切り左腕を伸ばす。

 

 ジオウⅡが伸ばした手の先、空間を跳躍して出現する一人の少女。

 彼女の手の中には簡単に砕けるような外見だけの贋作ではない、本物の剣がある。

 

「一気に、決めちゃいなさい―――!」

 

 投擲される大剣。

 ジオウⅡの左脇を通すような軌道で一直線に進むサイキョージカンギレード。

 飛来する剣を掴む前に、ギレードに装填されたキャリバーのハンドルを倒す。

 “ライダー”から“ジオウサイキョウ”へと変化するインパクトサイン。

 

〈ジオウサイキョー!〉

 

 その体勢のままサイキョージカンギレードの柄を掴まえて。

 剣を逆手に握り、背後を突き刺すように構える。

 そうして剣を構えたジオウⅡの背後には、連ねた双剣を振り抜いたままのアナザージオウ。

 彼がすれ違ったソウゴを視線で追うために振り向く、その前に。

 

「―――これが、お前が視た未来の先に俺が視た未来だ!」

 

〈キング!! ギリギリスラッシュ!!!〉

 

 迸る光の刃。構築される“ジオウサイキョウ”。

 振り向きざまのアナザージオウ、その背中に突き立てられる必殺の光剣。

 直撃した瞬間に弾ける威力が、怪人の白い体表を一気に焦がした。

 

「ぐ、が……ッ!?」

 

 それでも飛流が踏み止まったのは、威力が足りないからではない。

 その剣を支えるにはジオウⅡの左腕一本で足りないからだ。

 本来なら万難一切を切り裂く筈の刃は、それ故にアナザージオウを貫けない。

 

「ふ、ざ、ける――――なァ……ッ!」

 

 背中で光刃を塞き止めながら、アナザージオウがダブルブレードを強く握る。

 その刀身で沸き立つ憎悪。刃を暗く燃やす怨念を原動力した火力。

 こうして追い詰められた状況でなお飛流はそれを背後に振るおうとして、

 

〈ウィザード! ザックリカッティング!〉

 

 正面から叩き付けられる巨大化した戦斧の一撃。

 その衝撃が、無理な体勢で振り上げられた彼の腕からダブルブレードを吹き飛ばす。

 サイキョージカンギレードとジカンザックス。文字通りの挟み撃ち。

 鋏で挟まれるように二つの刃がアナザージオウに突き立てられる。

 

「これで、終わりだ……!」

「ぐ、あ、ァ……ッ! おぉ、オォオオ……! わ、れる、か……!

 こんな、ところで……! 俺は……! 俺は――――!!」

 

 罅割れていく白いジオウ。

 前と後ろ、双方から叩き付けられている光の刃。

 致命傷となりえるのはサイキョージカンギレードの一撃。

 それから逃れるのを防ぐのはジカンザックスの一撃。

 そうして追い詰められた時点で彼一人で打開する手段はありえない。

 

 ―――だからこそ、そこで空を破り紫の光が降り注いだ。

 

 アナザージオウの元に落ちてくる光の隕石。

 それが放つ宇宙のパワーが、ジオウⅡとゲイツの攻撃の軌道を僅かに逸らした。

 鋏ならずに噛み合わず、光刃の間に挟まれていたアナザージオウが弾き出される。

 

 半壊した怪人が地面を転がっていくのを見送るのは紫の衣を纏った男。

 即ち、

 

「スウォルツ……!」

 

 剣から伝わる反動が消え、ふらつくジオウⅡ。

 巨大戦斧を振り抜いたゲイツが斧を引き戻し、新たな闖入者に視線を向ける。

 

「やあ、スウォルツ氏。虎の子のアナザージオウの危機に手助けかい?」

「貴様こそ救世主とやらの手助けに来ているのだろう」

 

 白ウォズに一言返しつつ、彼は転げたアナザージオウの方に歩を進める。

 それを追おうとジオウⅡが足を動かそうとして、しかし膝を落とした。

 体を支えるために動かそうとした右腕は鈍く、彼はそのまま地面に倒れる。

 

「ソウゴ!」

 

 すぐに彼に駆け寄るクロエ。

 倒れたマスターと傍に寄った少女を庇うように前に立つデオン。

 一瞬迷い、しかし同じようにスウォルツとソウゴの間に立つゲイツ。

 

 スウォルツはそれをおかしげに見ると、途中で足を止めた。

 

「時の王として歴史に立つ事を決められたオーマジオウ、常磐ソウゴ。

 その対抗馬として俺が擁立する事を決めたアナザージオウ、加古川飛流。

 そして、白ウォズ。貴様が魔王を打倒するべく仕立てた救世主、明光院ゲイツ。

 なかなか盤面も賑やかになって面白くなってきたな」

「面白い、だと?」

 

 苛立たしげなゲイツの声。

 それに笑みを深くする事で反応を示し、彼は笑い交じりに言葉を返す。

 

「ああ、最近は自分の思い通りに駒を育てる事が楽しみでな」

 

 大地を殴る音。何度も、何度も。罅割れた拳が地面を割る。

 勝利の目前にまで迫り、しかし逆転された事実。

 より強く握られた拳の奏でる音を聞きながら、スウォルツは楽しげにソウゴたちを見渡した。

 

「育てるには、そいつに与える餌も確かなものを選ぶだろう?

 俺の目に狂いはなかった。思った通りお前たちは、これに極上の無様を喰らわせた」

 

 そこまで言ったスウォルツが再び足を動かした。

 彼は這い蹲ったアナザージオウを見下ろして、確固たる口調で告げる。

 

「―――自分の無様さを糧に憎悪を燃やせ。

 いずれ行きつくところまで行きついた時、お前の憎しみは常磐ソウゴの全てを奪う」

 

 ―――アナザージオウが顔を上げる。

 揃って地面に倒れた二人のジオウが視線を交わす。

 その瞬間、彼を巻き込んでスウォルツが光となって空に舞う。

 

 空を割り、時の狭間に消える光の球体。

 彼らの軌跡を目で追いながら、ジオウⅡが小さく拳を握った。

 

 

 


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