Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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 あけましておめでとうアナジオ~
 昭和97年も頑張るアナジオ~
 


地底の太陽624

 

 

 

 真っ先に反応したのは、アルトリアだった。

 街中を走り、見かけた適当な男たちを掴んで放り、行くべき場所を言い捨てている最中。

 

 ―――まるで怒号のような、外から迫る進軍の音を聞いた。

 舌打ちをしてから足を止めて、その咆哮の発生源の方角を確かめる。

 

「……モリアーティとライダーだけでは無理か」

 

 モリアーティ、そして協力者であるレジスタンスのライダー。その二人に加え、男であるフェルグスとゲイツも外である。

 中に入った男性は攻略の起点であるソウゴと、何故か当然のようにこっち側に参加する事になっていたアストルフォだけだ。デオンも性別不詳ではあるが。

 ともかく、どちらにせよ無理だろう。外には大量の荷車が待ち構えており、そこで待っているレジスタンスの男たちがいる。彼らを守りつつ、アマゾネスは止めきれない。

 

 海賊とアマゾネスの二択で考えれば、明らかにアマゾネスのやり方。

 その上、轟いてくる進軍の音色は明らかに格別。

 恐らく、あの進軍には女王が伴っている。

 エルドラド以外でその女王と交戦してもメガロスのターゲットにはならない、筈だが。

 

「どちらにせよ私以外には回れんか」

 

 本来の予定ならばメガロスは不夜城の中心に落とす予定だ。

 だからこそジオウが既にそこにいて、タイミングを計って他の連中もそっちに流れる手筈。

 だがここにきて、メガロスが先に外に落ちてくる可能性を考慮せねばならなくなった。

 外にメガロスが相手でも陣容を再編成する時間を稼げる手を配置せねばならない。

 

 ……人手を特に必要とするのは不夜城だ。

 ならば一騎だけ。中から外に回すとすれば、彼女以外にはないだろう。

 

 足を止め、ドレス姿だった騎士王が全身に魔力を奔らせる。

 編み上げられ、物質化する漆黒の鎧。

 赤黒い魔力を全身から放出しつつ、彼女は加速する体勢に突入した。

 

 

 

 

 

 黄金の城の天守から少女が悠然と歩み出てくる。

 少女と呼ぶより童女と呼んだ方が印象が近そうな、そんな外見。そんな小さな女王は姿を現すや、自分の身長ほどにも伸ばした紫の髪を大きく揺らしながら、小さな胸を大きく張った。

 

「くっふっふー! よくもまあ妾にこれだけの事を仕掛けたものよ。

 その悪辣なやり口で妾に拝謁せしめた、という点においてはある意味誇っても―――」

「じゃあメガロス呼ぶね」

 

〈ジカンギレード! ジュウ!〉

 

 言って、ジオウが女王にジカンギレードを向ける。

 

 メガロスに狙わせるべきは自分だ。

 広場にいた男たちの避難はデオンが迅速に行ってくれた。

 なので、後はメガロスをこの周辺に固定することが目的になる。

 

 メガロスの目標が優先するもの。

 それは今まで見た限り、国家に対して与えた被害額の多寡で決まるもの。

 だが今までの考えが正しかった場合、それを無視して優先されるものがある。

 

 ―――それは当然、女王の守護だ。

 

 瞬く間に引かれるトリガー。

 連続する発砲音と同時、弾丸は姿を現した女王に殺到する。

 

 だがすぐさま酷吏たちがその間に飛び込み、銃弾を塞き止めた。

 直撃して砕かれ、光に還る拷問官たち。

 そんな光景に口元を引き攣らせ、童女は城の上で手すりを殴りつける。

 

「こりゃーっ! この莫迦者ー! 例えアレを呼ぶことになろうと貴様たちは赦さんが、だからと言って軽々に呼び出そうとするなこの莫迦者ぉー!!

 目の前にあんな怪物が突然降ってくる羽目になる妾の気持ちも考えよ! 何を考えてるかも分からん! どういう理屈で行動してるかも分からん! ただとりあえず妾には害を為そうとしないが、それが何でかがさっぱり分からん! もしもの時に排除しようとしても、妾たちには傷の一つさえつける手段が存在しない! そんな奴にいきなり目の前に現れられて、好き放題に暴れられる妾の気持ちが貴様に分かるか!?」

 

 がんがんと手すりを殴りつつ童女が怒鳴っているが、どこか泣き声染みていて。

 そんな相手の様子を見て、ジオウが僅かに顔を横に傾けた。

 メガロスの設置に関わっている様子は感じない。

 他の部分からしてもそうだったが、不夜城は恐らく魔神ともメガロスとも関係ない。

 

(アマゾネス……エルドラドもまだ女王を見てないからちゃんと分かるわけじゃないけど、あんまりそんな感じじゃなさそうだったし……じゃあイース?)

 

 この地に潜むのはどの魔神か。そしてその目的は何か。それがまったく分かっていないからには、推理も立たない。せめて魔神の目的さえ分かればどう動いているのか考えようがあるのだが。

 彼らはまずそこから、この特異点の状況を観察して考慮せねばならない。

 

(うーん……そもそもメガロスがいる意味だよね。三国を守りたい、女王も守りたい。つまりアガルタのこの状況を維持したい。

 ―――ああ、あと桃源郷も残したいはず。そうじゃないならエレナやライダーが今まで無事で済んでた理由がないし……アガルタ全体が継続してる事に意味があるはず)

 

 立て直して、更に街中から集結してきた酷吏たち。

 それに対してジオウが緑の光を放ち、無数に分身した。

 緑光の人型を放出しつつ、彼自身も寄せ来る酷吏に対して迎撃を再開。

 

(っていうか、メガロスの存在ってどこまで魔神の思い通り? アナザーフォーゼになって変わってるのが強さだけならあんま関係ないけど……アナザーライダーになってるのはスウォルツのせいだから、あれのせいで魔神の目的からずれた行動をしてる可能性はある?)

 

 増員された酷吏に対するは、増殖した昆虫の放つ雷光と蟷螂の鎌。

 その衝突に危うげなく対処しつつ、ソウゴは仮面の下で眉を顰める。

 

(たぶん、何となく。メガロスは今でも魔神の目的のために動いてる気がする。でも魔神側にしてみれば、今のメガロスをそのままにしておけるのかな?

 どう考えても俺たちに何かの計画を止めさせないための切り札なのに、アナザーフォーゼになってたら、いつスウォルツのせいで自分たちで動かせなくなるか分からないって事でしょ?)

 

 考えつつ、ふと。

 何か思いついたように、ソウゴは自分の掌を拳で打った。

 同時にジオウの頭部からライオンのたてがみのように日輪熱波が広がっていく。

 薙ぎ払われる女王の手勢。

 

(―――あ、だから標的の判定を制限したとか?)

 

 打った手で弾けるエナジー。

 炸裂したそれを圧し固め、トラの爪と思しき刃を両手に織り成して。

 それで続々と迫りくる酷吏の鞭を払い除けつつ思考を回す。

 

(メガロスが勝手に動かされないように命令を完全に固定した? 多分聖杯かなんかで。そのせいで魔神たちも後から自由な命令が出来なくなって、あんな風に狙いがあやふやになるし、メガロス自体も狙うべき相手が条件を満たしてないと動けない。

 基本的には“三国のどこかを攻撃していて、その中でも一番危なそうな奴”。女王のボディガードとしては“いま女王に攻撃してる奴”。誘い込まれたり女王から引き離されすぎないように、その国の中だけの行動に絞らせて。

 ……とりあえずこうしておけば魔神の目的のアガルタ維持は最低限は果たせるから、問題はないって感じで……それで問題になるのは……女王に対する攻撃は見れば分かるからいいとして……もう片方の()()()()()()()()()()()()()()()()ってのを一体どこの誰が計算して、メガロスに教えてるのか、って事だから……?)

「えっと、つまり……?」

 

 よく分かんなくなってきた、と蹈鞴を踏んだソウゴが頭を軽く振る。

 そうして隙だらけの姿勢を見せたジオウに対し、殺到するのは酷吏の軍勢。

 振るわれる短鞭や鋸刃が確かにその装甲に叩き付けられた。

 

 弾き飛ばされるジオウの体。外れていくオーズアーマー。

 黒と銀の鎧が地面に擦れ、盛大に火花を散らす。

 

「よし、そのまま――――!」

 

 その状況を見て城の上で身を乗り出す童女。

 

〈鎧武!〉

 

 そして、転がりながら新たなウォッチを起動するジオウ。

 

 手すりから身を乗り出した童女の頭上に発生する次元のクラック。

 そこに生成されていく巨大な頭部。

 それに気づかれる前に、ジオウは即座にドライバーの操作を終えていた。

 

〈アーマータイム! ソイヤッ! 鎧武!〉

 

 遥か頭上、不夜城の天守よりなお高く。

 童女より上に形成された鎧武アーマーが、ジオウ目掛けて降り注ぐ。

 まるで隕石のように、童女の頭上目掛けて。

 

 童女よりも早く気付くのは一人の酷吏。

 彼女は降り注ぐ巨大な顔面を空中に視認して、即座に叫んでいた。

 

「女王、上を!」

「ぬっ!?」

 

 配下の声に導かれ、童女が顎を上げる。

 そこにあったのはでかい顔。呆けつつ、しかしその体は後ろに跳んでいた。

 天守に叩き付けられ、どかんと響く破砕音。

 そのまま屋根を伝ってジオウに向けて転がりだす大玉オレンジ。

 

「――――っ!」

 

 飛び退いた女王の対応は一瞬遅く、肩を掠めていったそれ。

 女王が傷付けられた。その事実をもって、条件が達成される。

 

「おのれ……っ!」

 

 転がり落ちていく鎧武の顔を発生させた空の穴、クラック。

 その空間の歪みに隣り合う場所に発生するのがワープドライブ。

 ―――開かれる宇宙(ソラ)に通じる門。

 光を導く星座の明かりが空から外れ、地上を突き抜け地下へと墜ちてくる。

 

「■■■■■■■■■■■■……ッ!」

 

 不夜城の一部を抉りながら着弾する筋肉の塊。

 同時にジオウの頭部へと鎧武アーマーが装着され、鎧として展開されていく。

 そうして追加装甲を纏ったジオウがとるのは大見得を切る体勢。

 

「オレンジころころ、地下道でオンパレェドだぁ―――ッ!」

 

 直後、空中に展開される無数の魔法陣。

 光の円陣その全てが砲台となり、桜色の閃光を解き放つ。

 地上に降り立ったメガロスに叩き付けられる、雨のような魔力砲。

 それを制御しながら、イリヤがちらりと下を見た。

 

「おむすびころりん……?」

「確かにあれも転がっていったおにぎりを追っていったおじいさんが、ネズミの巣という地下世界に辿り着く御伽噺の一種と言えますかねー?」

 

 ―――夢幻召喚(インストール)、キャスター。

 

 魔女メディアの力を得たイリヤによる砲撃を浴びながら、しかしメガロスは意にも介さない。

 彼の意識が睨むのはただ一人。彼が動くに足る条件を満たしたジオウのみ。

 

「全然止まらな――――っ!?」

「イリヤさん?」

 

 砲撃を続行しながら少女が何かの感覚に頭を左右に巡らせる。

 ステッキの権限で魔力の砲射を続けながら、ルビーは彼女の様子に問いかけた。

 迷うようにイリヤは再び数度頭を左右に振って周囲を確認。

 

「……いま、誰かに見られてた、ような……?」

「うーん……そのような反応は私のセンサーにはないですが。イリヤさんだけを、という事ですかねえ? もしくはメガロスの標的としての選定があった可能性はありますが……」

 

 空中で言葉を交わしながら、魔力砲は止まらない。

 だがそんな滝のように降り注ぐ砲撃の雨を突き破り、メガロスが侵略する。

 当然のようにイリヤもルビーのメガロスの意識の外。

 彼の標的はいま、女王に害した一人の人間だけに向いている。

 

 それに対抗し、ジオウの両の手が肩のスリーブから大橙丸Zを抜刀した。

 

 振り抜かれる大剣。迎え撃つ双剣。

 激突した瞬間に弾かれるオレンジ色の刃が二刀。

 殺し切れない衝撃に投げ出されるジオウの体。

 

 そうして舞ったジオウを目掛け、

 

「ソウゴ!」

 

 走り抜けつつ、全力投球。立香の手から離れて飛ぶコダマスイカ。

 その小型デバイスは空中で丸くなり、全身を覆うエネルギーフィールドを構成する。

 飛来する赤い果肉のような光の球体。

 

〈フィニッシュタイム! 鎧武!〉

 

 それに応じてジオウが行うのはドライバー操作。

 弾き飛ばされながら彼は即座にジクウドライバーを回転させた。

 同時、投げ飛ばされていたコダマスイカが彼の上に着地する。

 

〈コダマビックバン!〉

〈スカッシュ! タイムブレーク!〉

 

 瞬間、ジオウの姿が膨れ上がる。

 形成されるのは地上を転がるエネルギーボール。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■――――ッ!!」

 

 加速して激突しにくる自身に匹敵する大きさの巨大スイカに対し、メガロスが即座に吼え立てた。咆哮と同時に振り抜かれる大剣が迫りくる果実を粉砕する。

 砕かれた果実。撒き散らされる果肉の破片が四散し、しかし積み重なって再び果実となった。

 

 幾度となく激突しあう巨神と巨大スイカ。

 その光景を見ながら、先程拾ったイリヤの声にロマニが反応を示す。

 

『……おむすびころりん、というか地下世界。

 そうだ、確かあの物語にもその手の解釈があったような……』

「ドクター?」

 

 そうしている内にオルガマリーが立香の隣に到着する。

 二人の守りにつくのはジャンヌ・オルタとクロエ。

 酷吏たちを黒炎と剣群で薙ぎ払いつつ、そこでオルタが僅かに顔を顰めた。

 

『キミたちもバビロニアで体感しただろうけど、地下というのは死者の国とされる事が多い。いわゆる常世。常夜、常なる夜とも記される永久不変の幽世だ。

 ついこの前に話をした竜宮城も常世の国、とされているね。永遠の世界、常世に囚われたがために浦島は現世とは時間の流れを違え、あの顛末に至ったという』

「……竜宮城? 浦島?」

 

 何を言ってるんだ、という表情のオルガマリー。

 この前そういう話をしてたという事を説明しようとして、はたと気付いて立香が止まる。

 

「……ここ、不夜城だよね?」

『そう、不夜城。この地下大陸をアガルタと呼び、超文明の方向性でばかり考えていたからさらっと忘れていたけれど……ボクたちは真っ先に、ここで冥界を思い出すべきだった』

「エレちゃんに怒られちゃうね……」

 

 オルガマリーの何を言っているのだという表情がより固くなる。

 

()()()()()()?」

『間違いなく。なんで不夜城なんて魔術的に地下とは完全に相反する国をわざわざ……』

 

 常夜の大地に設けられた不夜の国。

 夜しかない場所で、夜を()らずと名付けられた土地。

 夜しかないのに夜を()らぬとは、では一体ここは何なのだ。

 

 昼と夜、善と悪、生と死。コインの表裏に揃っているべきである筈のもの。

 それにわざわざ反するように配置されていた国のひとつ。

 

「―――それは後で考えなさい。どちらにせよ、まずはこの国の攻略よ」

「今度はスイカがころりん? 割っても戻っちゃうなら食べられないね、っと!」

 

 オルガマリーの指示に応えるように屋根伝いに飛び、広場に乱入してくる影の手で翻る剣閃。

 腰に佩いていた剣を抜き、振るうのはセーラー服美女装戦士。

 その銀色の軌跡が、マスターに群がっていた者たちを斬り払った。

 

 そうして手を出してから、足を止めて一拍待ち。

 

 ―――メガロスの狙いが切り替わらない、という確信を得る。

 

「うん、こっちを狙わない!」

「優先順位は女王の警護の方が上。つまり女王に攻撃した者がいる状況ならば、もうこの国のどこで暴れても問題ない……! メガロスを制しつつ、不夜城の女王を押さえる! 恐らくは直近で女王を害そうとした者をメガロスは最優先に狙う! それを意識して立ち回りを―――!」

 

 続けて広場から男を追い出す事を終えたデオンが剣の柄に手を掛けた。

 つまり、もう男たちを国の外に連れ出せるという事でもある。

 そちらの組もこれから一気に男たちを奪いかかれるということ。

 

 それを天守で耳にした童女が、酷く顔を顰めた。

 

「ふん……妾も甘く見られたものじゃのう。

 あのような狼藉者、そも戦力として勘定にはいれてはおらぬわ!」

 

 メガロスしか脅威に見ていない事に憤るように。

 その思い上がりを糾すべく、彼女は軽く腕を振り上げた。

 

「此処は妾の国! 妾の法こそがこの国であり、この国に在るとは妾の令に遵うという事である! 押さえつけられるのは貴様たちの方と思い知れ!」

 

 童女の一動作に続けて戦慄く大地、不夜城の国土。

 その感覚を足元から感じ取ったジャンヌ・オルタが僅かに眉を上げて。

 即座に、近くにいたオルガマリーと立香の襟首を掴み取った。

 

「ちょ!?」

「アヴェンジャー!?」

「女男!」

 

 声に反応する間もなく遠投。

 二人の女を全力で、アストルフォに向かって投げつける。続けて自分も跳んで。

 直後に、彼女たちがいた場所に無数の刃が地面から噴き出してきた。

 折り重なるのは純粋に研ぎ澄まされた武具ではなく、拷問のために血濡れて錆びた刃。

 

 跳び退りながらそれを見て嫌そうに顔を顰めるオルタ。

 

「ヒポグリフを呼ぶよ、マスター!」

 

 飛んでくる二人の人間のため、アストルフォがマントを翻す。

 彼の号令に従い、現世に進出してくる幻想の獣。

 幻馬は羽搏きひとつで加速し、オルガマリーと立香の二人を背中で拾う。

 

 地面から噴き出して、飛んでくる拷問刃。

 その程度の攻撃でヒポグリフの飛行は追いきれない。

 だが攻撃が止む事もなく、翼を休める事も許されない。

 

「クロ!」

 

 自らのサーヴァントに声をかけた瞬間、巨大スイカがメガロスに粉砕される。

 再構成をしつつ転がり始めるそれを見て、クロエが近場の建物を駆けあがってみせる。

 そのままヒポグリフに向け跳ぶ少女。

 応じた幻馬は刃を掻い潜りながら空中で彼女を拾うために加速した。

 

「りょーかい!」

 

 ヒポグリフの背中に着地した少女が手にした双剣を投げ放つ。

 続けて空中に投影する無数の剣群。そのまま放てば剣弾のガトリング。

 地上から打ち上げられる拷問刃を、空中から撃ち落とされる剣が迎撃していく。

 

 その対応を僅かに目を細めながら見た童女が、しかしおかしげに唇を歪める。

 

「くっふっふー、妾の国にいると言う事は、その命運は妾の手の中にあると言う事。如何なる場所、如何なる状況、如何なる相手であろうと、妾の意志ひとつで自由自在に拷問にかけられる。

 逃げられるなどとは思うでないぞ? いいや。貴様たちが人間だと言うのなら、逃げようなどと夢にも思うな」

 

 言うや否や、地上で戦うサーヴァントたちにも差し向けられる拷問器具。

 酷吏を捌きつつそれを躱して。

 僅かばかり首を捻り、視線をオルタに向けたデオンが僅かに顔を顰める。

 

「こん、の……ッ!」

 

 黒炎の槍を形成し、対抗しようとするジャンヌ・オルタ。

 だが恩讐の炎が固まり切らないのか、その槍は構成が甘いまま撃ち出される。

 

(不夜城の女王は拷問に長けた存在。あれも一応はジャンヌ・ダルク、オリジナルほどではないとはいえ、処刑されたものとして影響を受けている?)

 

「妾の令で清算しようと言うのじゃ。拷問を科される事により、貴様たちの罪は贖われる」

 

 メガロスのせいで半壊した不夜城の上で、女王は悠然と微笑む。

 

「妾が磨り潰すのは悪心。犯した罪を、その心に根付いた悪諸共にこそぎ取る。

 拷問とは、人を善きものへと変えるために必要な痛み。こらてらるだめーじという奴じゃな」

 

(“悪”……不夜城では属性(アライメント)を参照した性能低下が発生する?)

 

 であるならば特にジャンヌ・オルタが影響を受けているのも頷ける。

 善のみの存在を許し、悪を一切赦さない。

 不夜城というのがそういう世界だと言うのなら。

 

「それで死すというのなら、貴様らの悪が命にまで根差していたというだけの事。命をもってしか贖えぬほどに深く、悪であったという事じゃ。であるならばそれは仕方あるまい」

 

 敵性に対する拷問器具の進出が加速する。

 ジオウに対するメガロスの侵略が加速する。

 

「善きものになるために、悪しきものは不要であるのだから」

『―――いいえ、それは違います……!』

「む?」

 

 己の言葉に反発され、眉を上げる女王。

 その声に、ヒポグリフの背でオルガマリーと立香が顔を合わせた。

 

『確かに誰もが善いものであれるなら、それはきっと素晴らしい事だと思います。ですが、そのために善くないものを排斥する事が正しい事ではないはずです……!』

「マシュ……」

『どちらも持っているのが人間なのだから、例えそれが悪であっても奪ってしまえば歪なものになってしまう。そうしてしまう事が善い事だなんて、わたしには思えないのです……!』

 

 カルデアから届くマシュの声。

 それを聞きながら表情の色を消し、数秒。

 

「――――それがどうした?」

 

 童女の顔が崩れる。凄然とした、王者の微笑。

 そんな反応にマシュの方が言葉を詰まらせる。

 

「人の裡には善もあろう、悪もあろう。

 切っても切り離せぬ陰陽こそ、天が定めしこの世の理なのじゃろう」

 

 天守で手すりにふらりと寄りかかり、彼女はゆるりと手を掲げる。

 その行動に呼応するように国中に氾濫するのは拷問器具。

 彼女は眼下で発生した地獄絵図を見下ろして、そこで笑おうとして。

 

 メガロスの一振りで周辺一帯の拷問器具が消し飛ばされる憂き目にあう。

 広場一帯を薙ぎ払う一撃。それに見舞われた瞬間に他の者たちの盾となって弾かれて、なお体勢を立て直し再び巨大スイカとなって動くジオウ。

 

 だが地面から飛び出したはずの拷問器具はそれで纏めて砕けた。

 見下ろす筈だった死山血河が、一瞬の内に禿げ上がった光景。

 それでも童女の表情は崩れない。

 

「……もう一度あえて言おう。それがどうした?

 天意こそがその理を定めた。それを妾が変えてはならぬと誰が決めたのじゃ。

 いや、どこかで誰かがそう決めていたとしても別によい。従わぬからの」

 

 再びの拷問器具出現。

 その殺戮空間に飛び込み、当然のように器具の方を一方的に粉砕するメガロス。

 彼が吹き飛ばしたスイカが不夜城に直撃し、一部が損壊した。

 ぐらりと揺れる天守の上で、しかし童女は表情を崩さない。

 

「……天の定めた理こそが妾の意に遵え。地に灯された明かりは妾こそを照らせ。

 人がこれ以上栄えたいと望むのであれば、妾の言葉こそを至上とすればよい。

 悪徳を全て切り捨て、善に生きよ。できぬのであれば悪として死ね。

 天意よりなお重き妾の言葉に遵えぬというならば、それは世の理に背くと言う事である。

 そのような者に生きる事を赦すほど、妾は寛大ではない」

 

 刃に限らず鞭、針、毒、と。人を苦しめるためのものが差し向けられる。

 悪意を煮詰めたかのようなあらゆる責め苦を再演するもの。

 

 童女の宝具とは女王としての生前の行いである。その為政こそが宝具なのだ。

 そして個人ではなく、いま国を所有している以上、その行いをこの国のどこでも再現できる。

 本来多くない対象人数を、国土に存在する全ての人間に実行できるほどだ。

 あらゆる人間を抹殺するその殺戮空間が、一人の怪物を標的とする。

 

「―――善悪は誰が感じる事でもなく、妾の意志が決める事。そして正しく支配者である聖神皇帝たる妾の導く国に、正しくあれない者など一人として要らぬ」

 

 結果として、何の成果もなし。

 当然だろう。この地上にあれを傷つけることができる手段など、数えるほどしかない。

 人を苦しめるための手段では、あの皮膚に傷一つつけられない。

 

「何が目的でこの国に踏み込んだか知らぬが、こうまで暴れた以上生きて帰れるなどとは思うでないぞ。妾の国である以上、どこであろうと我が拷問の手は届く。どう足掻いても貴様たちに生き残る術はない……」

 

 言葉尻が微かに震える。

 ついでのように再び不夜城の一部が破壊され、天守ごと体が大きく揺れた。

 

「そう……絶え間なく様々な拷問をしてるというに傷一つ負わず、刃を立てようとした器具の方がバキバキ折れていくような化け物でもなければなぁーっ!」

「■■■■■■■■■■■■――――ッ!!」

 

 本当に、本当に、憎らしげに絞り出される声。

 怒りともとれて、悲しみともとれるような童女の叫び。

 

 アナザーフォーゼ、メガロスが。

 その叫びを塗り潰すように、高らかに咆哮した。

 

 

 




 
 いま今年が昭和って言わなかったジオ~?
 ばっかもーん!今年は平成34年だジオ~!
 
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