Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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唆す悪魔2000

 

 

 

 斬りかかってくるのはアマゾネス。

 進軍してきた大勢の戦士たち。彼女たちは会敵を経て、しかし一切のブレーキもない。

 不夜城の外で待機していた彼らに対し、一気呵成に突撃してきた。

 

「フッ―――!」

 

 斬りかかってくる女の手首を取り、勢い任せに投げる。

 そのまま体を捻り、振り上げた足で後続の一人を蹴り飛ばした。

 しかし一人二人をどうにかした程度で勢いが収まる筈もなく。

 

 懐からドライバーを取り出しつつ、裏拳でアマゾネスを殴打。

 そうしながらゲイツはライダーに向け叫んだ。

 

「おい、こいつらを退かせろ!」

「出来りゃあやってるさ!」

 

 サーベルを抜刀し、銃を抜いたライダー。

 彼もまたアマゾネスに対抗しつつ、舌打ちひとつ。

 

 如何に戦力をメガロスに集中させているとはいえ、こちらに残した分だけでもアマゾネスが攻めてきた程度で負けるつもりはない。

 だがこの物量では大量の荷車、レジスタンスたちを守り切るのが難しい。

 

 直後に轟く連続で鉄が弾ける音。

 目前にいたアマゾネスたちに直撃していく無数の銃弾。

 数発、十数発の弾丸にさえ耐え抜きつつ、その衝撃で体勢を崩す女たち。

 

 それを隙と見て、ゲイツが即座にドライバーを腰に装着。

 ウォッチを装填し、ドライバーを回転させた。

 

「変身!」

 

〈仮面ライダーゲイツ!〉

〈ジカンザックス!〉

 

 構成された黄色い“らいだー”の文字。インジケーションバタフライが羽搏き、アマゾネスたちを一蹴。そのまま姿を変えたゲイツの頭部に嵌り、変身シーケンスを完了させる。

 流れるように武装を呼び出し、彼はその刃で体勢を崩したままの連中を切り払う。

 

 武装棺桶、ライヘンバッハから突き出すのは硝煙を吐き出す砲身。

 その白煙をくゆらせながら、モリアーティが軽く顎を撫でる。

 

「最大の問題はもう不夜城内で男性を集めてしまっている事だネ。今すぐに撤退する、という事は彼らを見捨てると言う事になってしまう。

 私個人の考えでいくとするならまァ、それはそれで……みたいな感じだケド」

「不夜城から見て男性の最大の価値は()()に男性が必要だと言う事。つまり不夜城に打撃を与える事だけ考えれば、彼らをこちらが奪うのも戦闘に巻き込まれて死亡させる事も変わりなく戦果である、と?」

 

 小声で呟くモリアーティに対し、フェルグスは胡乱げな声を投げてくる。

 一瞬目を瞠り、てへっ! とでも言いたげな表情を浮かべる老爺。

 

「モチロン、そんな事にならないように動くとも。マスターたちにとってそれは敗北だからネ」

 

 胡散臭いものを見るフェルグスの視線。

 

「とにかく不夜城から出てくる男連中を荷車に放り込め! そんで走れる限界まで積み込んだ荷車からさっさと走り出せ! とにかく暴風(メガロス)の射程から出ねえとどうしようもねえ!」

 

 女王を使って引き付けているとは言え、非戦闘員はさっさと離すに限る。

 次にどう動くかの選択肢を広げるためにも。

 ライダーはそうして叫びながら立て続けに発砲し、アマゾネスを打倒して―――

 

「うぉう―――ッ!?」

 

 ブオン、と。空気を殴り飛ばしたような轟音に見舞われる。咄嗟に、本能の赴くままに体を横に投げ出すライダー。その動きによって、彼の命は救われた。

 そんな動きの直後に彼がいた場所にやってきて、叩き付けられるのは巨大な鉄球。地面を粉砕しながら着弾したそれの衝撃で大地が震動し、戦場の動きが一瞬停止する。

 

「っ、女王……!」

 

 アマゾネスの戦士たちが真っ先のその攻撃の正体を理解する。彼女たちがざわめきながら女王と口にした後、半ば地面に埋まった鉄球の上に着陸してくる女。

 その姿は鍛え抜かれた体を惜しげもなくさらす、少女と呼べるだろう年頃のアマゾネス。彼女は鉄球に着地したそばから、自身の手で自身の顔面を覆い隠していた。

 

「アァ……! キ、ィ……ッ!」

 

 憎悪が滾る声。戦場に乱入したばかりだというのに、少女の意識は既にここにはない。

 その視線が向かうのは不夜城。国家としての不夜城ではなく、この国の中心。

 今まさに酷い破砕音が嵐のように巻き起こる、女王の居住地である不夜城に向いていた。

 

「なんだ……?」

 

 今の反応でこの少女がアマゾネスの女王らしいと理解する。

 だが何がどうなっていて、これからどうしようとしているかが分からない。

 目の前の敵であるところの自分たちへの敵意はない。

 ただ何故か、不夜城の方へと地獄の釜で煮詰めたような殺意の渦が溢れている。

 

 少女自身も抑えようとして、しかし抑えられない憎悪。

 手で覆った顔。その眼球が逆流した血で赤く染まっていく。

 全身でひしひしと感じるこの気配。鼻をつくこの臭い。

 彼女の知覚が認識したものを脳が把握した瞬間、血が沸き立ち、思考が沸騰する。

 

「お待ちください、女王……! まだ―――!」

「レェ……ッ! ゥ、■■■■■■■■■■■■―――――――ッ!!」

 

 自身を抑え込み、従える戦士たちに戦場を任せる。

 そう思考していたはずだというのに、女王という立ち位置を持つ少女が猛った。

 放たれる咆哮が戦場を震撼させ、アマゾネスたちの総身に駆け巡る。

 状況に戸惑いながら、アマゾネスの戦士たちはその性能を上昇させていく。

 

 そんな戦士たちを差し置いて、女王が跳ねた。

 握った鎖に引きずられ、鉄球が地面から引き抜かれる。

 鉄塊を引き摺りながら駆けていく少女が目指す先は、不夜城の中心。

 

「いけない! 通してしまったら……!」

 

 フェルグスが剣を振るい、アマゾネスの攻撃を受け流す。

 この期に及んでも女性に対して痛打を与える事を戸惑う自分の腕に、少年の眉が厳しく歪んだ。

 

 国家よりも女王の優先度が高い以上、不夜城を破壊してもアマゾネスの女王はメガロスに襲われる事はない筈。問題は不夜城でアマゾネスの女王に反撃した場合だ。

 不夜城で不夜城の女王に攻撃すれば襲われる。エルドラドでアマゾネスの女王に攻撃すれば襲われる。それは分かり切っているが、不夜城でアマゾネスの女王に対して攻撃した場合はどう動く?

 

 メガロスの活動エリアは設定された国土に限定されている。

 国家の防衛が大前提であり、それを離れすぎたエリアではそもそも戦闘は一切行わない。

 たとえ排除条件を満たした後でも、メガロスの活動区域を離れた場合追ってこない。

 それは恐らく女王に対しても同じ筈だ。国の外で戦闘を行う女王に対し、メガロスの防衛は恐らく発生しない。ただ、国家に対する損害は三国ごとに区別されているが、女王の守護が自国でしか発生しないと言い切れる理由がない。

 メガロスが活動を許されたエリアで女王が攻撃された場合、三国のいずれかという所属を問わずに、彼の行動理由として判定される可能性を否定できない。

 

 不夜城の女王とメガロスを相手に時間稼ぎをしているだろう現状、メガロスの動きを変えてしまう可能性が高いアマゾネスの女王という、更に状況を混沌とさせる存在を飛び込ませるわけにはいかない。

 

「―――不夜城の圏内に入る前に足止めが必要だ、が」

 

 目を細めるモリアーティ。彼の銃撃は女王ではなく、他のアマゾネスたちに向けられている。あの暴走した戦士がちょっとした銃撃で止まる筈も無い。

 もし止めたいのであれば、正面に立ちはだかって力尽くでやるしかないだろう。

 

 だからこそ、その位置に赤いボディが滑り込む。

 

「他人事か……ッ!」

「私ではやりようがなくてネぇ……」

 

 ゲイツの割り込みを確認し、モリアーティがライヘンバッハを叩く。展開される砲身。そこから吐き出される榴弾。それは疾走する女王の手が引き摺る鉄球へ立て続けに発射され、弾けた。

 爆炎と共に生じる衝撃に吹き飛ばされて、鉄球が少女の進行の邪魔になる。体を横に引っ張る鉄球の軌道。それを鎖を握り直して止めて―――

 

「オォオオオオ―――ッ!」

 

 疾走の勢いが緩んだ瞬間、ライダーゲイツが少女に一気に掴みかかった。

 腕を捕まえて、引き倒すための動き。

 

「■■■■■■■■――――――ッ!!」

「……っ!」

 

 そんな動きをしかし、少女の体が強引に引き戻した。

 相手の腕を掴んだままのゲイツがその力強さに息を呑む。

 

 競り合う二人が突き合わせた顔面。ゲイツの前で紅に染まる少女の貌。逆流した血液が溢れ、血涙となって少女の頬を濡らしていく。

 そうして血が抜けた事で僅かに理性が戻ってきたのか、女王がゲイツと視線を交わす。

 

「退、け……ッ! 退け、退けェ――――ッ!!」

 

 少女の足が撓んだ鎖を引っかけて、引き戻す。

 自身に向けて飛来した鉄球を即座に手繰り、彼女はゲイツの横合いからそれを叩きつけた。

 

 火花を噴き出し押し返されるゲイツ。

 何とか足を止めさせた彼が、ジカンザックスを握り直しながら体勢を立て直す。

 

「ちっ……!」

「殺す、殺す、殺す、殺す……ッ! 今度こそ、奴を殺す――――!

 その骸を前に勝利を叫ぶのは今度こそ私だ! そうだ、勝負とは……勝者とは、そうでなければならない……! だと言うのに……ッ! 貴様はぁああ――――ッ!!」

 

 加速する感情のまま、叫ぶ女王。その手が投擲される鉄球。

 棘の突き出した鉄塊が迫る中、ゲイツは即座に弓を放つ。

 撃墜された鉄球を追い越しながら、女王は腕に装備された鉄爪を振り上げる。

 

「なんなんだ、こいつは――――ッ!」

「我が戦士としての生涯、その死の間際に与えられた最大の侮辱……! 敗者の座すら追われた屈辱……! 貴様の手により恥辱に塗れた骸を晒した私が……ッ!

 今度こそ、この手で貴様を八つ裂きにして、その雪辱を果たしてやる――――ッ!!」

 

 頬を濡らしていた血が蒸発する。

 筋肉の蠢動で生じる熱が、彼女の体から焦げた血を剥がしていく。

 一瞬の静止の直後、彼女は咽喉の奥から憎悪の叫びを迸らせた。

 

「アァキレウスゥゥゥウウウウウウウウウウ―――――――ッ!!!」

「な、にぃ……っ!?」

 

 上擦るゲイツの声。

 突然誰とも知れない名前―――いや、恐らくはギリシャ神話のアキレウスだろう。

 とにかく突然関係ない名前を叫びだした事に違いはない。

 

 この女はメガロスを目掛けていたが、ゲイツはあれをヘラクレスだと聞いている。

 ある意味似たようなものと言えばそうだろうが。

 

 放たれる鉤爪の一撃。それを腕で受け止め、しかしゲイツの体が押し切られる。

 火花を散らして衝撃を相殺する装甲。それでもその一撃の威力に軽く痺れた腕を振りつつ、彼は武装であるジカンザックスを振り上げた。

 

 激突する斧と爪。双方の体が押しやられ、距離が開く。

 

「女王! どうか気を静めて……!」

「ぐ、ゥ、■■■―――……ッ!」

 

 理性の蒸発した狂戦士の耳にアマゾネスの静止の声が入る。その声を確かに認識し、女王は腕を振り抜いた姿勢のまま固まり、己の顔を掴むように手で覆った。

 少女の頭の中で始まる理性と本能のシーソーゲーム。まるでランプが明滅するように、彼女の瞳は正気と狂気で乱れ変わる。

 

「―――ギリシャの大英雄、アキレウス。彼を酷く憎悪する関係者であり、アマゾネスの女王。黄金郷(エルドラド)とは関係ないが、なるほど」

 

 荒ぶる少女を前に、したり顔で語ろうとするモリアーティ。

 

「軍神アレスの娘。トロイア戦争に参戦し、大英雄アキレウスと一騎打ちの果てに敗北した戦士。勝利したアキレウスがその()()を惜しんだと言われる()()()気高きアマゾーン」

「――――――――――」

 

 ―――瞬間、少女の瞳から瞬きの間もなく理性が消し飛んだ。

 狂気を抑えようとしていた少女の理性が消え、意志と行動が合致する。

 

 女王の首が回り、老爺を視界に収める。

 真紅に燃える眼光が、確実に抹殺する対象としてモリアーティを捕捉する。

 鎖を握る手が動けば、力任せに宙を舞う鉄球。

 

「その名をペンテ―――げ!」

 

 語ろうとしていたモリアーティが言葉を引っ込める。

 メガロスの事さえ忘れたように、少女の殺意は完全にモリアーティを向いていた。

 

「また何を狙ってるかも分からん奴……! そんな奴ばかりか!」

 

 ゲイツの腕が弓を弾き、放たれる光の矢。

 鎖を握る少女の腕、膨れ上がった筋肉が軋みを上げて、鉄球を回転させる。

 殴り飛ばされて砕け、飛散する矢の残骸。

 そうした勢いのまま、少女がモリアーティに向け鉄球を投げ放つ。

 

 狙われた老爺は咄嗟に逃げる、というような俊敏さは持ち合わせていない。

 割と真面目に頬を引き攣らせつつ、彼は棺桶を前に出し―――

 

 鋼の打ち合う、酷い激突音に鼓膜を揺らされた。

 

 弾き返されて地面に落ちる鉄球。その衝撃で陥没する大地。

 巻き上げられる砂塵ごしに対峙するのは二人の王。

 それをすぐに鎖ごと引き戻す女王と、それを撃ち落とした漆黒の剣を構えた騎士王。

 

「―――――()()()、と言ったな。この、私に……!」

「この男が何を言ったかなど知らん。私に分かるのは、今の貴様の一撃がまともに評価するに値しない乱雑なものだった、という事実だけだ」

 

 嘲るように、一言。騎士王は女王に吐き捨てた。

 数秒、彼女が凍る。

 

 その凍結が終わった後、瞳の赤さが僅かに薄れた彼女の視線がアルトリアを見据えた。

 

「……また、か。戦場でこの有様とは。恥の上塗りとはこのことか」

 

 戦闘態勢を崩さぬままに、息に体内から溢れる熱を乗せて深く吐き捨てる。

 突然クールダウンした相手に対し、ゲイツとフェルグスが視線を向けた。

 その状況でも戦いを止めていないアマゾネスたちを捌きつつ。

 

 カチャリ、と。騎士王の手の中で、グローブと擦れて鳴る聖剣の柄。

 それに対して顔を向け、再び息を吸う女王。

 

「――――」

「―――ありがたい。今の私がとった戦の作法を知らぬ行いを見過ごせとも、忘れろとも言わん。戦場で重ねた恥を雪げるのは戦場でのみ。

 我が一撃を容易に返したその剣、貴様ほどの強者はトロイアにおいてさえそうはいまい。奴への憎悪に歪んだままの性根で戦い、汚すには惜しい一戦になる」

 

 チェーンを引き、鉄球を手元まで持ってくる。

 止まない憎悪を絶えず吐息で排熱しながら、少女は目の前に立つアルトリアを睨んだ。

 

 彼女の意識を保っているのはギリギリの理性。背後にある不夜城の領地から臭ってくるギリシャの男の気配に、今にも意識は壊れそう。

 ―――それでも、彼女は戦いだけは汚せない。戦士としての戦いだけは、汚せない。それをしてしまった時、彼女は憎悪の対象と同じものにまで堕ちてしまう。

 

 言葉を返さず、騎士王はただ剣の切っ先を彼女に向けて。そうしながら同時に、彼女はモリアーティを横目で見た。

 小さく頷いて、視線を不夜城から駆け出してくる男たちの方へ向ける。そこに広がっているのは、被った土砂を払いつつライダーが男たちの誘導をしている光景。

 

「……あの女帝の奴隷たちを逃がすか」

「ほう、不満があるのか?」

 

 脳髄が湯立つような昂揚感を抑え込みながらも、声を絞る女王。

 その様子に片眉を上げて、アルトリアが問い返した。

 

 最後の一呼吸。高まる戦意は高調し、理性は削られながらもしかし正気を繋ぎ止め、ぶり返す狂気は最後の一線で塞き止められる。

 

「―――いいや。家畜をどう扱うかになぞ、わざわざ口を挟む気はない。

 仮に私が口を挟む事があるとすればそれは……戦士として戦った者に対し与えられるべき、戦士としての“死”が踏み躙られた時だけだ――――ッ!!」

 

 鉄球が唸る。女王の腕が発生させた勢いのまま、敵を砕くために迫る暴力。

 その威力を前に、アルトリアは聖剣を両手で握り締めた。

 

 

 

 

 

 酷く疲労した表情を隠さず、女が廊下を歩いている。

 そうして目的地を目指していた彼女がふと、足を止めて天井を見上げた。

 止まって数秒、酷く顔を顰める女。

 

「…………もう、辿り着かせたのですか。心臓部の起動にはまだ早いのでは……」

 

 どこかの誰かと話す女。彼女は視線を周囲に巡らせて、周囲の気配を探る。

 この国―――イースは潜んで情報を得る、なんて器用な真似が出来る者がいる国ではない。

 話を聞かれる事についての注意はさほど必要ない。

 そういう意味では彼女が黒幕として一番動きづらいのは不夜城だったろう。

 

 出し抜くのが一番難しいのが不夜城の女王―――アサシンだ。

 逆に一番楽なのがこのイースの女王だろう。だからこその要所である。

 

 そして出し抜くとかそういうの関係なく殺されてしまうのがエルドラドの女王。

 絶対に近づきたくない。死んでしまう。

 

 逸れかけた思考を戻し、彼女は直接頭に届く声に意識を向けた。

 

「―――ああ、なるほど。そのおかげで助かったのですね。不夜城が保っていないと最後に問題になりますから……それで、内部を見て回っているだけで、玉手箱はまだ?」

 

 沈まない太陽、不夜城。

 境界線、黄金郷(エルドラド)

 水底に沈んだ海上都市、イース。

 国家から秘された隠遁地、桃源郷

 

 総じて、地底都市アガルタ。

 だがこの土地には未だに衆目から隠された場所がある。

 

 ―――海神(わたつみ)の住まう海底城、竜宮。

 

 竜宮の存在を把握しているのは彼女と、彼女と通じた悪魔。それ以外で知っているのはイースの女王くらいなものだ。いや、ものだった。

 

 彼女に情報を伝えてくる声は、エレナ・ブラヴァツキーがつい先程辿り着いたらしいと教えてくれる。彼女は川の流れを追い、水中に潜って遂に辿り着いたようだ。

 思わず溜め息が混じる。彼女の竜宮城到達はもう少し遅くなると思っていたが、悪魔の囁きに導かれては仕方ない。まだ行動に移されては困るのだが、辿り着いた以上はエレナの好奇心はそれなりの間あそこに釘付けになってくれるだろう。そうだと思いたい。

 

「……でしたら、一応は問題ないのですね」

 

 イースの女王は竜宮を真っ先に発見して、玉手箱の存在も把握している。こちらもそうなった原因は悪魔の囁きと言えるだろう。

 悪魔の声に唆された彼女はふらっと国を離れ、いとも簡単にあそこを見つけてしまった。普段使う事はないが、万が一の逃げ場とは考えているだろう。追い詰められたらあそこに逃げ込む気に違いない。というか、そうでなくては困るのだが。

 

「……幾つかであれば使われてしまっても問題ありません。ですが、心臓部の起動に必要分の玉手箱まで使い切られてはいけない。彼女がそうしてしまう前に仕掛ける必要が……」

 

 再び深々と溜息をひとつ。女は状況の難しさを嘆くように、視線を僅かに伏せる。

 そうしている彼女だけに届く声が続ける言葉。それを聞いて、女は微かに顔を上げた。

 

「―――イースの海賊たちがそろそろ届く?

 ……それはつまり、この乱戦に横槍を入れてイースにカルデアを引き込む気、と?」

 

 イースから出立した連中にはキャスターである彼女の魔術がかかっている。それを通じて映像を拾っていた悪魔が伝えてくる事実。

 こちらから出ている者たちがいま、不夜城に迫っている。狙うべきはひとつだろう。桃源郷に逃げ帰ろうとするレジスタンスたちしかない。

 

 この国―――イースにおいての男たちの扱い。それは弱者を受け入れないアマゾネスや、一応は国民(の所有物)として扱っている不夜城とは違う。

 ただの消耗品。繁殖のための胤であり、娯楽だ。後先なんか考えない。だから、彼女たちは何も気にせずに奪い取ってくるだろう。それがカルデアを呼び込む、という破滅であっても。

 

 顎を指先で触れて、考え込むような姿勢を見せる女。

 どうなるかを想像してしまったのか、女が豊満な体をぶるりと揺らした。

 最終的にはカルデアと相対しなくてはいけないのは分かっている。

 だがどう考えても準備不足。まだ時間をかける必要がある。

 

「ですが今の状況では、如何に恙なく心臓を造りアレが召喚できても、それだけでは完成まで届かない。もっと時間をかけて馴染ませ―――……カルデアのサーヴァントから触媒を盗む?

 ――――え? 私が、ですか。いえ、そんな、無理、です。死んでしまいます。絶対に死んでしまいます。その、確かに……最終的にヘラクレスはどうにかしなければいけないのですが……」

 

 切り札はある。カルデアからメガロスと呼称されている巨人以外に、だ。

 問題は横入りでメガロスがアナザーフォーゼとして更なる強化がなされている事。

 メガロスを自由に動かす事ができない以上、状況は最悪に近い。

 何故って、最終段階ではカルデアとメガロス両方から狙われかねないのだから。

 正直、どっちかが潰れるまでは見てるだけにしたいくらいだ。

 

 ―――とはいえ、切り札を十全の状態で召喚できれば問題ない。カルデアとメガロス、両方を相手にできるだけのモノは準備している。だがまだ時間が足りない。

 竜宮城の逸話。浦島太郎が味わった歪んだ時間の性質を利用して、完成までの時間を加速させるつもりだが、まだ準備が終わっていないのだ。このままでは最終作戦実行から、メガロスを止めなければならない状況までの短い時間で、完成まで漕ぎ着けられない。

 

 だが彼女に語り掛ける悪魔は、それを短縮するための手段はあるとする。

 彼女たちの目的に辿り着くまで、あと少し。

 見え始めた本当の終点を前にして、悪魔は彼女を諭すように歌いかけた。

 

 

 




 
 人間にはアキレス腱があるのでギリシャ英雄じゃなくても特攻範囲に含めていいのでは?(全人類アキレウス関係者説)
 
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