Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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武周の法705

 

 

 

 血が飛沫くように撒き散らされる赤い果汁。メガロスの一撃に割られたスイカの残骸が積み重なり、山のようになった。べちゃべちゃという水音と共に破片は周囲にも貼り付き、周囲に甘い匂いを放つ。

 

「もう、ちょっと……!」

 

 流石に粉砕と再生を繰り返しすぎたか、像が綻び始める大玉スイカ。

 それでもジオウはそれを維持。応えるようにコダマスイカがエネルギーを捻りだす。

 回転し、再び彼はメガロスに向かって行く球体。

 結果は再演。スイカが割られ、飛散するという状況が繰り返される。

 

 行き過ぎたくらいに周囲を満たす甘い匂い。

 そのスイカの香りに顔を顰めつつ、オルガマリーがヒポグリフの背を叩いた。

 軽く鳴き、幻獣は主の命に従い背中に乗せた者の指示に従う。

 空中で飛来する拷問器具を回避しつつ、幾度か羽搏き風を起こす幻馬。

 

 上下左右に揺れる激しい動き。最低限の手加減は感じるものの、真っ当な人間では追従できない強い動き。それを幻馬の体に掴まって何とか耐えつつ、オルガマリーと立香は顔を見合わせる。

 

「カブトムシになった気分かも……!」

「虫くらい簡単に罠に嵌ってくれたら楽でしょうけど……!」

 

 荒ぶる幻馬の動きと、酔いそうなほど強い匂い。

 それに表情を引き攣らせつつ、しかし彼女たちはそこで耐える。

 

 背中のそんな様子を微かに気にしつつ、風を荒ぶらせるヒポグリフの翼。

 その翼が起こす突風が不夜城を揺すり、一部の残骸を地上に落下させていく。

 

 その様子を城の上で睨みつつ、不夜城の女王は眉をきつく顰めた。

 このままでは決着の前に不夜城が潰れてしまう。

 逃がす気は一切ない。彼女の法を犯した以上、相応しい罰は下さねばならない。

 それが国家を運営する為政者としての活動というものだ。

 

 後はメガロスもである。

 本当にどうしてくれようか、と怒りにきつく上がる眉。

 

 ―――それはそれとして、だ。

 現状において、何よりの問題がもうひとつ。

 

 ()()()()()()

 空気がとにかく甘い。幾度となく飛散したスイカの残骸が放つ香りが鼻を―――

 

「――――ち」

 

 そこでようやく気付き、童女が舌打ち混じりに背後を見やる。

 

 周囲に充満するのは、むせ返るようなフルーツの甘い匂い。

 そして甘い香りに紛れて漂うのは、身を蝕む毒の香。

 未だにサーヴァントの体を侵すに程遠い薄さであるが、それにしても間が抜けている。

 疾く気付くべきだったというのに。

 

 ―――それを空気に紛れ込ませるのは、城の壁に張り付いた何者か。

 太陽のように輝く黄金の城の壁にぽつりと浮かぶのは黒い影。

 

 その姿は肌を毒に染めた一人の魔法少女。

 毒の娘、ハサン・サッバーハを纏った美遊・エーデルフェルトに相違ない。

 発見された少女の僅か、驚愕の色を顔に浮かべる。

 

 気配遮断はアサシンの専売特許であり、そう簡単に見つかる筈がないというのに。力の源が山の翁の一人というならなおさらだ。だが不夜城の女王はいとも簡単に、酔いそうなくらい甘い匂いの中に秘められた毒香に気付いていた。

 彼女の肌からこぼれた微かな毒が風に運ばれ童女にまで届いた。ただそれだけで、彼女はそこに何かがいる事を容易に看破せしめていたのだ。

 

 城に張り付く暗殺者を見た童女の貌が、酷くおかしそうに笑みを浮かべる。

 

(まだほとんど毒は流して無いのに気付かれた……!)

「美遊様―――!」

 

 少女が頭に乗せた髑髏の面から、サファイアの声。

 その瞬間、彼女が張り付いていた場所から無数に発生する拷問器具。

 咄嗟に跳ねた少女が、童女の立つ天守の手すりの一角へ着地した。

 

「くふふ、ふるーつの甘い匂いに毒香を秘める。

 さしずめ、ふるーつの毒入りほん……ふぉ、ふぉんじゅー、という奴じゃな?」

(フォンデュ……?)

 

 ふわっとした言葉を聞き流しつつ、美遊は目を細める。

 五指を開きながら体勢を低くし、少女が取るのは四肢で跳ぶ獣のような姿勢。

 吐息は長く、彼女の内で精製された毒が放出されていく。

 

 甘い香りに忍ぶ死の吐息。

 それは幻馬の起こす風に巻かれ、城内だけに吹き込むように誘導される。

 

 だが、それは。

 

「しかし、妾を毒で暗殺しようなど片腹痛い。まして此処は妾の城、毒を仕込まれ苦痛に喘ぐのは貴様ら罪人の方だと知るがいい!」

 

 童女が手を持ち上げ、横に振るう。まるで何かに指示を出すように。

 すると彼女の前には、ごとりと音を立てて突然どこからか壺が湧いて出てきた。

 壺を前にした童女が掌を握る。

 

 美遊がそれに怪訝な反応を示した一瞬の内に、まるで空気の中から絞りとるように、毒の娘が放った毒気だけが雫となって壺の中に滴り落ちる。

 ほんの数滴が壺の中に落ちて、水音を立てて―――

 

 次の瞬間には、壺から溢れた毒の津波が美遊に向かって押し寄せてきた。

 

「―――――っ!」

 

 毒の娘が跳ねる。飛沫さえも避けるための、大きな軌道を描く回避行動。

 そうして空中に身を投げ出した少女に対し、追うように展開してくる無数の拷問器具。

 少女が咄嗟に手に短剣を顕すが、それで凌げる物量ではない。

 

 毒に塗れながら雪崩れ込む刃の群れに対し―――

 

「美遊、こっちへ!」

 

〈エクシードチャージ!〉

 

 城の屋根に上がっている、マスターの声を聞いた。

 放たれた赤い弾丸は鋸刃にぶつかり、弾けて円柱を形成。標的であった拷問器具をその場に強引に拘束した結果、固定されたそれが美遊までの道を阻む壁になり、激突してくる後続の凶器が四散させていく。

 

「ええい……!」

「アンインストール!」

 

 女王が口惜し気に僅かばかり眉を上げ、視線を城の屋根に立つツクヨミを睨む。

 彼女の意志に従い、発動する法の裁き。改めて無数に展開される刃の群れ。

 

 美遊の胸元から弾かれるアサシンのクラスカード。

 それを掴み取りながら、元の姿に戻った魔法少女が宙に敷いた足場を駆ける。

 刃を差し向けられたマスターを目掛けて全力疾走。

 

 ツクヨミはそれを視認すると、己の足で城内に向かって走り出す。

 追跡してくる刃を躱し、銃撃で迎撃しつつの逃走。

 刃を撃ち落とす銃撃に紛れさせ、彼女は女王に向けての発砲を織り交ぜていく。

 

「っ、酷吏よ!」

 

 一瞬大きく顔を顰め、下す女王の勅令。

 彼女の足元から湧き立つ、城下から回収された数名の酷吏。

 銃撃からの盾となる事を命じられた者たちが、その任務を全うする。

 

「ええい……! 妾の城の中から妾を狙うとは!

 もし妾に当たったらあの筋肉ダルマが突っ込んでくるじゃろ……!」

 

 もしメガロスが不夜城の中に逃げ込んだ者に対して照準した場合が悲惨だ。そいつを狙ってメガロスが城内に突っ込み、倒壊するだろうことは想像に難くない。

 今でも余波で酷い事になっているのに、そうなっては敵わない。突っ込んでくる口実を潰すため、彼女はぎりぎりと歯を食い縛りつつ、数瞬後に腕を大きく振るった。

 

 拷問器具の出現パターンが変化する。

 ツクヨミを追い立てていたそれが、彼女の道を塞ぎ城に入れなくなるように敷かれていく。

 それを認めたツクヨミは切り返し、外へと逃れるようなルート取りで走り続ける。

 

 幾度か宙を跳ねて、そんな彼女に追いついた美遊が手を伸ばした。

 

「ツクヨミさん―――!」

「ありがと!」

 

 手を取り合って、そのまま美遊の推力に任せて城を飛び立つ二人。

 その後ろ姿を見ながら、女王は舌打ちひとつ。

 直後、発砲された赤い光弾を酷吏を盾にして遮る。

 

 そうして、美遊たちに意識が向いているのを見たイリヤが杖を振るった。

 彼女が空中に展開した複数の魔法陣が回りだす。

 

「ルビー!」

「転移術式、準備完了! 一発撃った後、すぐに転移します! ただしそこでキャスターのインストールは解除されますので!」

 

 少女とステッキが複数構成した魔法陣の内、攻撃のために展開したのはただひとつ。

 杖を突き出し、それが砲身であるかのように強く握る。そこを起点に発動する神代の魔術師、メディアの魔術。溢れて弾ける紫電と化した魔力を束ね、少女はそれを押し出すように力を込めた。

 

「ええい……!」

 

 令を下す。童女の掌が翻り、裁くべきものを指し示す。

 その動作によって彼女は砲撃に対する壁を用意しようと試みて、しかし。

 

 飛来する武装を模した黒炎と、剣を矢に見立てた弾幕。

 ただでさえ手が足りないというのに、それらが邪魔になって防ぎきれない。

 

「ちぃ……っ!」

 

 口惜しげに童女が足を動かす。

 天守から地上へと滝のように毒を流しつつ、彼女は回避行動を取らざるを得ない。

 拷問器具を弾き飛ばし、魔力砲が城の天守へと突き刺さる。

 

 メガロスはあまりにも簡単に壊すが、元来この城はそう簡単に壊れやしない。不夜城はアガルタに紐付いた、あって当然であるべきもの。

 であるが故に堅牢。如何に相当な魔力砲とはいえ貫通するほどの事にはならない。

 

 しかしその熱量に至近距離を通られた女王は酷く眉間に皺を寄せた。

 

「■■■■■■■……ッ!」

 

 スイカ割りをしていたメガロスが標的を変える。

 次に狙うのは、空中に浮かぶ魔法少女。

 その意志を感じ取ったイリヤが僅かに唇を噛み締めつつ、すぐに次の魔術の準備に入った。

 

「ルビー、回避するよ!」

「はいはーい!」

 

 残した魔法陣は全て、攻撃後に訪れる大英雄から逃れるためのもの。

 一瞬を稼ぐための魔力障壁と、その後射程外まで避難するための転移。

 コルキスの王女メディアの魔術師としての性能を遺憾なく発揮しつつ、彼女は空で身構える。

 

 少女の動きを察知して、ヒポグリフが彼女から距離を取った。

 その背の上で、オルガマリーの目が細められる。

 

(この状況でどこまで攻める。メガロスを引き付けて避難が完了した時点で撤退する? 可能であれば、このタイミングで不夜城を完全に落としてしまう? 魔神の動きが見えない以上、潜んでいるのはここではないと見ていいでしょうけど……)

 

 思考に埋まりそうな彼女の肩を叩き、立香が顔を寄せてくる。

 小さく首を動かして、オルガマリーは耳を寄せた。

 

「所長、聖神皇帝って……」

「……そうと名乗ったのは中国史上において唯一の女帝。後宮に取り上げられ、皇后として立ち、やがて皇帝に登り詰め、自分の国として“周”を興した。

 彼女の名前は武照。けれど、英霊としての真名を通りのよいものから選ぶとするならば……則天武后。いえ、彼女が皇后ではなくこの地で今なお女王、女帝としての立場に就いているのであれば、こう呼ぶのが正しいのでしょう―――即ち、聖神皇帝・武則天と」

 

 故にこの国家、宝具の名を“告密羅織経(こくみつらしょくけい)”。聖神皇帝・武則天の国造りにおいて、彼女という帝こそが全てを支配する法であったという証明。

 その国において罪人とは罪を犯したが故になるものではなく、彼女に罪悪だと認識された者に与えられるラベルである。彼女がそうと決めれば、真実こそが彼女の意志に遵う。

 不夜城が彼女の国家になっている以上、この国の全域でその宝具は効果が発揮される。この国にいる限り逃れられぬ様々な拷問は、罪を雪ぐために与えられる皇帝の慈悲なのだから。

 

「国は周……つまり不夜城って、武則天とは関係ない?」

『共通点があるとすれば、中国にあった国家というだけかと』

 

 マシュに補足されて、立香が眉を顰める。

 

「■■■■■■■■■■■■――――――ッ!!」

 

 そうしている内に、メガロスがイリヤに向けて突撃していた。

 即座に魔力障壁を展開しつつ、転移魔術を実行する。

 メガロスが壁にぶつかった瞬間に、離れた位置に移動したイリヤスフィール。

 彼女は自身から排出されたカードを手に取りつつ、すぐにルビーを握り直す。

 

 障壁はいとも簡単に砕いたが、獲物を逃して空振りするメガロス。

 彼は地面を粉砕しながらすぐさま振り返り―――

 

〈仮面ライダー!〉〈ライダー!〉

〈ジオウ!〉〈ジオウ!〉〈ジオウⅡ!!〉

 

 スイカの残骸を吹き飛ばしながら、二重の“ライダー”の文字が飛来する。

 それに激突されても微動だにせず踏み出そうとする大英雄。だが彼がその一歩を踏み出す直前、新たな姿に変わったジオウ―――ジオウⅡの腕が、既にドライバーにかけられていた。

 

〈〈ライダーフィニッシュタイム!!〉〉

 

 右手でジクウドライバーを回転させながら握り込まれる左の拳。

 拳を覆うように形成されるエネルギーフィールド。

 ジオウⅡのエネルギーを破壊のために凝縮したその一撃が、メガロスの腹部目掛けて放たれる。

 

〈〈トゥワイスタイムブレーク!!〉〉

 

 アナザーライダーの不死性すら強大な力で突破する特殊フィールド、マゼンタリーマジェスティ。その力が叩き付けられたのは、十二の試練を潜り抜けた無敵の肉体。不死身を粉砕する拳が激突するのは、極まった筋肉の頑強さ。おおよそ筋肉というものが発揮できる強度を超越したボディが、それでもその一撃によって軋みをあげた。

 振り返りざまに殴打された巨大な肉体が押し返されて、その足が地面に轍を刻む。

 

 全力の殴打。その反動で痺れた腕を軽く振りながら、ソウゴが小さく呟いた。

 

「……アナザーフォーゼのウォッチだけでも壊せないかな」

 

 口にしつつ、ダメそうな気がすると自分で否定する。

 壊せるなら前回の戦いで壊せている筈だ。サイキョージカンギレードによる一撃以上の攻撃力は、ジオウⅡには存在しない。あれでダメなら切り捨てていい選択肢だ。壊せているのに宝具の力で一緒に再生しているだけかもしれないが、どうしようもないという現実に大差はない。

 

 イリヤがジオウⅡの背後に着地する。メガロスの照準が彼女に変わっている以上、後やれるのは真正面からの激突だけ。

 しかしこの勝負したところで、パワーはまだしもタフネスの問題がある。スタミナの削り合いになった場合、メガロスに勝つ手段などないと言ってもいい。前回削った分を考えても、残りの蘇生回数が7回以下という事もないだろう。もちろんそれは、動いていない時間でメガロスの蘇生回数が回復していない、という前提でだ。最悪、命のストックが全快しているだろう。

 

(そういえばスウォルツは戦う気がなさそうだったけど……加古川飛流を俺にぶつけたい、ってのは本当だろうけど、別の理由もあるんじゃない?

  多分、新宿の時と同じ。ギンガの力がここでは回復できないから。それで……宇宙から力をもらってるのは、アナザーフォーゼも同じじゃない?)

 

 ジカンギレードとサイキョーギレードを呼び出し、両手に握る。

 崩した体勢を立て直し、メガロスが武装を握り直す。

 

(ヘラクレスをアナザーフォーゼにしてるってことは、飛流がもうアナザーフォーゼの力を回収してるって事。だったらそれを使って宇宙に行けばギンガの力だって補充できそうだけど。

 宇宙に行きたくない? 飛流に連れて行ってくれって頼むのが嫌だとか? うーん……ありそうだけど、なんか違う気がする。どちらかというと……()()()()()()()()()()()()()?)

 

 ―――スウォルツの目的はなんだろう。それは身をもってよく知っている、自分や加古川飛流の()()だ。最終的にそれが何に繋がるかは分からないが、少なくとスウォルツがそれを現時点における目的としているのは間違いない。

 

(俺に回収させたい仮面ライダーの力を持った新しいアナザーライダー、まだ見てないよね。ってことは、まだ作れてないんだ。だからまだこの特異点を解決されたら困る。今はまだ俺たちに足踏みしててほしい。つまり、魔神は―――)

 

 不自然だ、とは思っていた。こっちがメガロスの降臨条件を満たした時はあんなにスムーズに落ちてくるくせに、標的を変更する場合に限ってあんなにラグが出来るなんて。宇宙にいる場合は通信良好、地下にいる場合は通信不良。であるならば、メガロスの目標を決定するための計算機(まじん)は宇宙にあると考えるのが自然だろう。魔神がちゃんとアガルタの中にいるのなら、落ちてくるまでは時間がかかるが、落ちてきた後の動きに淀みがない方がそれらしい。

 確定情報と言えるほどの証拠はないが、一考には値すると思う。

 

 ただどちらにせよこれだけ手の込んだ特異点を作っている以上、目的として何かが秘められているのは間違いない筈だが。

 

(一回戻った後、宇宙の方を調べてみるって相談しよっかな)

 

 息を吐いて、全身に力を籠め直す。今まで考えていた事を全部投げ捨てて、メガロスのみに専心していく。余分な思考をしていた意識を解放して、集中して前を見る。

 

 ―――現実を追い越して、ジオウⅡの視界に訪れる数秒先の未来。

 未来に見えるのは、再動した大英雄の動き。

 

 それはいずれ来たる既知の未来。既に見た光景をなぞるように描く過ぎ去った軌跡に対し、ジオウⅡは双剣をもって対抗する。

 唸る大戦斧の腹に叩き付けられるサイキョーギレードの切っ先。火花を散らして逸らされて、メガロスの一撃は地面を抉り飛ばすに留まった。

 

「イリヤ、俺の後ろについてて」

「はい! 夢幻召喚(インストール)、ライダー!」

 

 少女の姿が変わる。彼女の手持ちのカードで最も足回りに優れた英霊のカード、メドゥーサの姿を借りたイリヤが、杭のような短剣を手にしながらジオウⅡの背後にぴたりと張り付いた。

 そんな動きを見せるイリヤに対し、メガロスの視線がついて回る。

 攻め続けるメガロスと、受け流す事に終始するジオウⅡ。その攻防の余波だけで酷吏たちと街中を蹂躙するほどの破壊の嵐。

 

 そうして陥没していく街並み。薙ぎ払われる酷吏たちを横目で認識して、不夜城の女王―――女帝、武則天は酷く眉を吊り上げた。

 

(崩すのであれば空を行くあの鳥に乗った者、マスター二人からしかあるまい。ええい、手どころか何もかもが足りぬ……! あの筋肉ダルマがいなければ戦力の差が埋められぬ……! 最終的に処分するとしても、今は処遇を改めねばならぬとは何とも腹立たしい……!)

 

 ―――それでも、と。武則天の目が強く光を湛える。

 同時、彼女の元から鋸刃が地上に向けて射出された。

 

「!?」

 

 ガキン、という金属同士が撃ち合う鋼の音。それは、武則天が放った刃がクロエが投射していた剣と衝突した結果。その刃がお互いに弾けあい、見当違いの方向へと飛んでいく。

 クロが酷吏に向け撃ち出していた剣は上方へと舞い上がり―――その結果を導いた武則天が軽く体を逸らして、自らの体を掠めさせた。腕に走る赤い線から滴る血が、指先にまで伝う。

 

 機関が待ったをかける。一瞬のアイドリングの末、照準が移される。

 巨英雄メガロスが導かれる。迸る殺意の視線が、刹那の内にクロエを対象にしていた。

 

「―――あいつ……!」

「まったくもって腹立たしい。それでも妾のやるべきことは変わらぬ。必要であるならばやるだけなのだから、何を戸惑うこともない。

 貴様たちを裁くと決めた以上、そのために必要となる事を積み上げるだけの話よ―――!」

 

 例え不夜城がどれだけ抉られようと彼女の道行きに乱れはない。

 彼女がやるべき事ははっきりしている。

 ならばこの土地が何一つ残さず消し飛んでも、同じように築くだけだ。

 かつて“そこに立つ”と決めた場所に立つために辿った道程。

 それと同じように彼女は正しく必要な労苦を支払うだけ。

 

 既に決めた事は曲げない。

 彼女は今の体―――童女だった頃の時分に、とうに目的地を決めている。

 もう既に辿り着くべき場所は設定しているのだから、過程に揺り動かされることはない。

 

〈ライダー斬り!〉

 

 メガロスの意識がクロエに向かった瞬間、サイキョーギレードが鋼の肉体を打ち据える。

 膨大な力を纏った時計の針が描く軌跡。

 その直撃によって一瞬揺れたが、しかしメガロスの動きはまるで鈍らない。

 

「クロ……!」

「妾は光輝! 遍く真実を照らす正義にして、あらゆる悪を罰する太陽! 過たず、正しくあらんと邁進する妾の姿を追い、誰もが正しき世に向かって進めばよい!」

 

 武則天が大きく腕を振るう。周辺一帯から溢れ出す拷問器具。

 メガロスを止めるため動こうとした者たちの初動を止める凶器の氾濫。

 

「正しく進み、悪しきを排除するというその在り様を示す事が何より優れた妾の治世! 悪を憎む正義の化身たる皇帝を見て、人々は悪を赦さぬという思惟を抱く! 正しき行いを求めた人々は、悪を排斥せんと正義である妾へと悪の所在を告げるであろう! 妾は正義の心によって明かされた悪を裁き、いずれこの世界から悪を永劫滅却する事となる!」

 

 彼女は示す。正しくあろうとする方向性だけを。

 それ以外の道に逸れようとした者を串刺して。

 いずれ数え切れぬ屍を積み上げて、道は一つのみしかないのだと誰もが知るだろう。

 悪徳は淘汰され、正義のみが存在を許される。

 

「妾という太陽はくべられた悪を燃やし、より激しく燃える事でこの光輝を示す。その光に照らされる事によって、民たちは己の行いの正しさをとくと知る。

 正しく生きる事によって得られる、この光輝の許で生きる尊さを」

 

 それこそが正しき営みである、と女帝は気持ちよさそうに笑いながら断言した。

 

「誰もが正義を正義と称え、悪を悪と知って厭う。誰にとっても厭わしく、しかし常に人について回る汚濁。悪という概念は、いずれ誰もがそれを忌避し、排斥する事によって消え失せる。

 妾の治世、この都市はいずれそこへと辿り着く。何故ならば――――()()()()()()()()()()辿()()()()()()()()()()()()()

 

 夜を不らぬ城、太陽の沈まぬ都。陰を否定して陽のみに生きる女帝の言葉。

 その言葉に対し応えるように、響くのは鋼の音。

 ジオウⅡが双剣を連結した剣を振り抜いて、雪崩れ込む拷問器具を薙ぎ払っていた。

 

「……そう? 俺なら―――どっちも受け入れた国にするけど!」

 

 続けて彼に迫る刃の数々を、黒炎の槍が地面から飛び出して塞き止めた。

 炎の壁を突破してくる数少ないものも、いつの間にか張り巡らされていた鎖が絡め捕る。

 その隙にクロエの前に滑り込むジオウⅡ。

 暴風の如き戦斧の一撃とサイキョージカンギレードが激突して、火花を散らす。

 

「ふん? しかしそれは無秩序というもの。国を、人心を惑わすものを放置することは百害あって一利なし。それを解せぬのは、無能の誹りを免れないじゃろう」

『いいえ、それでも……! それでも、悪をただ消す事が正しいとは思えません……!』

 

 片眉を上げつつ、武則天の目線がヒポグリフを向く。

 上に乗ったマスターの横に浮かぶ、一人の少女の幻影。

 この場にいない少女が、それでもひたむきに武則天を見据えている。

 そんな姿を見て、彼女の眉の角度が再び僅かに上がった。

 

『今まで行われていた何かが、たとえ悪辣な行いであったとしても、わたしは……わたしたちは、それが今のわたしたちの時代にまで繋がってきた、けして消してはならない、誰かの大事な足跡だと知っているから―――!』

 

 メガロスの肉体が熱を帯びる。彼の肉体に秘められた、圧倒的な力の蠕動。

 迸るのは宇宙のエナジー。刀身から立ち上る青い炎のような力の渦。

 

『迷う事も、苦しむ事も、人間が人間だから持つ事ができた、どれだけ辛くても素晴らしい事だと信じたいから―――!』

 

 ジオウⅡがギレードキャリバーに手をかけた。

 ジオウの顔を模した形状に刻まれた文字、インパクトサインが変わる。

 オーバーロード状態に突入するジオウⅡの持つ最強剣。

 

『だからこそ、退けません。わたしたちは悪を排斥して綺麗なだけの正しさを手に入れるのではなく、たとえ泥に塗れてでも、正しくありたいという想いを抱えてその先に、行けるところまで歩いて行きたいと願ったのだから――――!』

 

 地面が捲り上がるほどの勢いでメガロスが足を踏み込み、両腕で握る大戦斧を振り上げた。

 

〈リミットブレイク…!〉

〈ジオウサイキョー!!〉

 

 その所作を見てジオウⅡが即座に合体剣を振り上げる。

 形成される、浮かぶ文字通りの最強光刃。

 

 最大火力の激突の前兆を見て、美遊に引かれて飛ぶツクヨミが眉根を寄せた。

 

「不味いわ、このままじゃ勝っても負けてもこの辺り一帯が……!」

 

 不夜城周辺が吹き飛びかねない、と。マスターの言葉に美遊が苦い顔を浮かべる。

 武則天は未だに天守で立ち、その光景を眺めていた。

 

 ―――彼女はとうに覚悟を決めている。

 不夜城が消し飛んだらどうする? 決まっている、何としても逃れて、再び建国するのだ。

 目的を果たすまで彼女は諦めないし、彼女が健在である限り終わりじゃない。

 不夜城だとか、アガルタだとか、武則天には関係ないのだ。

 やり遂げると決めている以上、国が一度消し飛んだとしても止まる理由にならない。

 彼女は再び己の国を興し、排除すると決めたカルデアとメガロスを処分する。

 絶対にそうするために動く。

 

「サファイア、武則天は……」

「アサシンのサーヴァント、でしょう。国家を得て強力になっていますが、本来は暗殺・拷問に特化しているだけのサーヴァントだと思われます」

 

 つまり、逃げる余地を残せば気配遮断で逃亡される可能性が高い。

 武則天は迷わないだろう。必要ならば、彼女はどんな事だってするだろう。

 それがどういう事になるか、分からない。

 不夜城という土地を潰せば魔神の目的は潰せるのか、あるいは女王さえいればいいのか。

 

 その光景をヒポグリフの背で見下ろしながら、オルガマリーが唇を噛んだ。

 

(どうする……! いえ、もう宝具級の攻撃の激突は避けられない。不夜城の中心の壊滅は決定的。なら、逃げるだろう武則天を追わせる? 誰に? いえ、可能なのはライダー。わたしたちがヒポグリフを降りて、彼に追わせればいい。どのタイミングでわたしたちは降りればいい? 今降りたら武則天に狙い撃ちされる。どうやってタイミングを見極める? 次にメガロスがどう動くかの判断材料も足りていないのに……!)

「――――所長!」

 

 埋没していく思考から引き戻し、立香の声に反応する。

 振り向けば彼女はどこかを指差していて。

 そちらに視線を向けてみれば、空中に色とりどりの光が見えた。

 

 ―――モリアーティが打ち上げた発光弾。

 オルガマリーがそれを視認した、ほぼ次の瞬間。

 

 がちりと、ジオウⅡと対峙するメガロスの動作が何故か固まった。

 突然の状況に対してジオウⅡが困惑するように一瞬浮足立って、しかし。

 刹那の後に、彼は手にした光の刃を振り抜いていた。

 

〈キング!! ギリギリスラッシュ!!〉

 

 真正面から叩き付けられるジオウⅡ最強の一撃。大地ごと切り裂く光の一閃。

 それほどの攻撃を無防備に、棒立ちで受けたメガロスが唐竹割にされ、更に衝撃で不夜城の塀まで吹き飛ばされた。メガロスが激突した瞬間、粉微塵に吹き飛ぶ塀の一角。

 

 ―――そうして瓦礫と粉塵に埋まった真っ二つの巨体が、視線を下に向けるように顔を下げた。

 

 

 




 
 追加シナリオをやりながら事件簿コラボもやりたいなぁとか考える。
 ムネモシュネーなのでバトライドウォーやね。新作はよ。
 一応医療器具なのでエグゼイドに投げ込んでもよい。
 
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