Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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攻略会議1999

 

 

 

 街中を縫って、都庁から離れる逃避行。

 どうやら完全に狙撃手からのマークは離れているらしい。

 警戒は保ちつつ、しかし少し気を抜いて歩き続ける一行。

 

 そんなタイミングで、ソウゴがアーチャーに視線を向けた。

 

「ところでさ、なんであの……」

 

「ライダーかね?」

 

 ソウゴが途中で言葉を詰まらせたのを見て、アーチャーが軽く顎をしゃくる。

 そうして示された国道の方角を見て、彼は頷いた。

 

「なんでライダーは国道から出ないか知ってる?」

 

「ンー……何故、か。都庁に巣食う黒幕にそう命令されている、と考えるのが自然だ。

 或いは、本人が何かルールを持っているのかもしれない。動物的なね」

 

 質問に対し、顎を撫でながらそう言うアーチャー。

 まるで相手が野性の獣であるかのような。

 そんな彼の物言いに、マシュが不思議そうに首を傾げた。

 

『動物的、ですか?』

 

「ああ、ライダーは狼に乗った首無し騎士、だった。ああなる前まではね。

 その頃はもう少し戦える見込みがあったんだが」

 

 元から怪物、今となっては光速の獣。

 そんな相手の姿を思い浮かべ、渋い表情を浮かべるアーチャー。

 

「狼に乗った凄い速い首無し騎士……の、サーヴァント?」

 

『……いまの言いようだと、あの速度に関しては後付け、と聞こえるけれど』

 

「途中で変わったってこと? 宝具じゃないなら、それは……」

 

 アーチャーからソウゴへ、皆が視線を移す。

 

 あの速度の中で完全に確信が得られたわけではない。

 本当に一瞬の交錯でしかなかったのだ。

 だが、確かに、そ(・)う(・)な(・)の(・)で(・)は(・)な(・)い(・)か(・)という感覚を得ていたことに違いはない。

 

「うん。多分、アナザーライダーだった」

 

「アナザーライダー……確か、ソウゴさんの持ってる力でしか倒せない怪物、ですよね」

 

 半ば確信した言葉に、イリヤが視線を泳がせる。

 

 ソウゴたちの先回りをするように出現する男―――名をスウォルツ。

 彼が使用するアナザーウォッチを使う事で現れる者。

 歪んだ仮面ライダーの力を持つその怪物こそ、アナザーライダー。

 

 特異点ごとにスウォルツが繰り出してきた、カルデアが乗り越えてきた壁の一つだ。

 ウィザード、ドライブ、フォーゼ、ダブル、オーズ、鎧武、ゴースト、ディケイド、龍騎。

 この特異点でもまた、既にアナザーライダーが生成されている。

 そんな事実に対して、ロマニが口を手で覆うように考え込む姿勢に入った。

 

『ああ。そして基本的に、アナザーライダーには個別に対応する仮面ライダーの力がある。

 それをソウゴくんが手に入れないと、倒せないと考えていい』

 

 ロマニの注釈に頷いてみせるソウゴ。

 ディケイドアーマーによるライドヘイセイバーの一撃。

 あるいはジオウⅡによる必殺の一撃。

 それならば倒せる可能性はやはりあると思うが、結局のところ追い付けなければ意味がない。

 

 通常の視界であの移動速度を捉えるのは不可能。

 ジオウⅡによる未来予測を兼ねた視点ならばもしかしたら、と言ったところ。

 現状で絶対に戦えない、とは言わない。が、勝機は薄いだろう。

 仮に勝てそうになっても、逃亡されたら追い付くのは不可能だ。

 

 アナザーライダーに対する仮面ライダーの力か、あるいは相手を減速させる一手がいる。

 

「……とりあえず、あれが縄張りから動かない理由に話を戻そうか。まずは、敵の正体の問題だ。狼に乗った首無し騎士(デュラハン)、これで真名が予測できるかナ?」

 

『狼、か。いや、この場合は首無し騎士から推測するべきなのか?

 いやでも首無し騎士が狼に騎乗した、なんて語られる伝説なんて―――』

 

 難しい顔を浮かべる彼に、鷹揚に頷いてみせるアーチャー。

 答えが見つかるはずもない、と知っている顔。

 それを見て、ロマニは目を瞬かせた。

 

「だろうネ。あれの正体はこの特異点の性質にもかかってくることだ。

 いわゆる“幻霊”。本来なら“英霊”として成立することなく、消えるのみの存在。

 サーヴァントとして召喚しようにも、霊基数値が足りず確立できないような亡霊。

 アレらはね、それなんだよ」

 

「幻霊……?」

 

『――――ちょっと待った。

 それ、幻霊を二体掛け合わせて、サーヴァントにしたって意味かい?』

 

 愕然としていた様子のロマニ。

 その反応もむべなるかな、と。アーチャーが訳知り顔で自分の髭を撫でた。

 

 本当に情報がどんどん出てくるな、という顔で彼を見る視線。

 彼の怪しさが天井知らずに高まっているが、今さらだろう。

 注目の的になっているのを理解しつつ、彼は話を続ける。

 

「そうとも。ああいや、アレが二体で出来ているかどうかは分からないが。

 基本的に幻霊とは、サーヴァントという器に容れて満たすには、本来小さすぎる情報。

 そして足りないなら他所から持ってくる、というのはどこでも同じことサ。

 幻霊ではサーヴァントにできないなら、幻霊を複数押し固めてサーヴァントにすればいい。

 そんな発想をして、成功させたのがこの特異点の黒幕というわけだネ」

 

『……簡単に言うけれど、そんなこと―――』

 

「簡単ではなかっただろうが、事実としてアレが地上の覇権を取っているからネ。

 出来てしまったのだ、と納得するしかないだろう?」

 

 アーチャーが一瞬だけマシュに視線を向ける。

 難(・)易(・)度(・)は大差ない、と言いたいのか。

 そんな彼の態度にロマニが押し黙り、言葉を探すように視線を彷徨わせた。

 

「つまり、ライダーは複数の幻霊の集合体。確定している幻霊は首無し騎士と狼。

 そして、恐らく主体となっているのは狼側、ということ?」

 

「おお、纏めてくれてありがたい。

 ―――まあ幻霊に関しては、今のライダーに轢かれただけでは納得しづらいところもあるだろう。歌舞伎町のクリスティーヌを見れば、理解せざるを得ないだろうが」

 

 美遊からの問いかけによくできました、とアーチャーが微笑む。

 当然のように、少女から胡散臭いものを見る視線を返される。

 

「クリスティーヌって?」

 

「幻霊の一人だが……まあ、それはおいおい。

 つまるところ、ライダーは狼の幻霊が中心にサーヴァント化したものというわけだ」

 

 美遊の言葉にそう言って笑い、彼はそのまま軽く手を打ち合わせた。

 パン、と子気味いい音が静かな街に響く。

 それを話題の回帰だと理解して、揃って顔を見合わせる。

 

「―――そんなアレの行動は、例えば……縄張りに踏み込んできた人間だけを対象にした狩り。いや、罠(・)というのはどうかな? あれは引っかかった者を悉く殺す罠なのだ。罠にかかって死ぬ人間を嘲笑っているのかもしれない」

 

 彼の言葉を聞いたマシュが考え込むように視線を伏せる。

 同じく聞いていた立香は、そのまま視線をソウゴの方に投げた。

 

「そんな感じ、した?」

 

「………………違うと思う。あれはもっと―――」

 

 交錯は一瞬だった。多分、赤かったと思う。

 外見的に理解できたのはその程度というくらい、薄弱とした情報だが。

 そんな何かが、何も視ず、何も聞かず、ただ走り抜けて行った。

 

 ―――いた世界が違った。あれは、同じ場所にいながら違う世界にいた。

 同じ場所にいるのに、独りぼっちの世界を走っていた。

 だから彼らが離脱した後も追ってこなかったのだろう。

 

「何も見てなかった、と思う」

 

「……なら縄張りに他の誰かが入るのが許せなかっただけ、ってこと?」

 

 ツクヨミの問いかけに腕を組むソウゴ。

 

 何も感じなかったわけじゃない。

 駆け抜けていったのは、溢れるような憎悪の爆発。

 誰に向けられているのかも分からない、そんな感情の迸り。

 

 嘲笑うとか、そんな余分は持っていない。

 嚇怒を以て研ぎ澄まされた、憎悪の牙。

 ただその感情がどこに向けられているのかが分からない。

 

 怒りと憎しみがそこにあるのは分かる。

 なのに、どう使われているのかが分からない。

 

「何かを憎んでるのは間違いないと思う。ただ、それ以上は……」

 

 何か思いつきそうな、しかしどうにも。

 イマイチ理解し切れない状況に、首を傾げる。

 

「それにしても、狼なのにそんな人の街の道路が縄張りでいいのかな?

 ……それとも本当は自然があるとこに行きたいけど行けない、みたいな?」

 

「そーいえば、なんか新宿全体がでっかい壁に覆われてるみたいね。

 隔離されてるみたいだけど、外どうなってるのかしら」

 

 そもそも狼が何故、人の住処に縄張りを?

 そう言ったイリヤが、周囲を見回す。

 ビルの合間から微かに見える高い壁は、恐らく新宿中を囲う檻のようなもの。

 クロエもまた彼女の視線を追って、窮屈な世界に肩を竦めた。

 

『―――それが、観測できないのです。

 いま皆さんがいる特異点は、新宿の外に関して一切解析不能です』

 

『……その壁の存在が世界の異常化を新宿に押し留めている、のかな。

 結果として特異点は規模が小さくなり、人理定礎の揺らぎも極小化している』

 

「箱庭、いやまるで実験場だネ。先の話と合わせて考えると、幻霊をサーヴァント化させて野放しにして、観察すること自体が目的かもしれん」

 

 マシュとロマニの言葉を聞いて、そう呟くアーチャー。

 実験でしかない可能性、を考えるならば。

 ライダーがああしている理由が、真っ当な理屈で考える意味がなくなる。

 

「つまり……ライダーも何か実験のためにそうなってる?」

 

「ふむ。例えば人間を憎悪する狼に、人を守る騎士を混ぜてみたら精神状態がどうなるかの実験、みたいナ? 確かにそれはありえないでもない」

 

「けど、首無し騎士の伝承は大抵、相手に死をもたらすもの。主体が人を憎む狼で、それに死をもたらす首無し騎士を混ぜたのなら、縄張りから動かない理由はなくなると思う」

 

 幻霊を兵器として検証するために野放しにしている。

 そう考えるにしても、あのライダーの動きにはイマイチ納得がいかない。

 何かを憎悪する狼が主体になっている、と思われる。

 だというのに、人間の街を間違いなく縄張りとして定めている。

 それは妙だろうと美遊が口にすれば、アーチャーが神妙な顔で一つ頷いた。

 

「では悪の首無し騎士ときっちり縄張りで待つ狼で混ぜた結果ああなった、と。

 ―――なるほど、読めた。ライダーの主体となっているのは忠犬ハチ公だネ……!」

 

「ハチ公って渋谷じゃない?」

 

「同じ東京でお隣さんだろう? この程度は誤差だろう? ダメ?」

 

 そんなこと訊かれても、という表情を浮かべる皆。

 ダメかぁ、と残念そうな顔で溜め息をひとつ。

 

「そう言えばアーチャー。あのアナザーライダーがどの仮面ライダーのアナザーか知ってる?」

 

 ソウゴの力の事を知っていたのだ、ならばそれも知っているのでは?

 そう考えた立香からの問いかけ。

 向けられた質問に対して、したり顔で鷹揚に頷いて見せるアーチャー。

 

「知っているとも。対応する仮面ライダーは、カブト。

 アレはアナザーカブト、ということだね」

 

 ―――その名を、仮面ライダーカブト。転じて、アナザーライダーカブト。

 彼は軽く指を立てて、ライダーが手にしている力はそのような名の仮面ライダーだと宣言する。

 

 確かにライドヘイセイバーを使用する上で、そんな名を聞いたことはある。

 その名の通りカブトムシのような何かを出したこともある。

 だとすると、先の交錯でソウゴを打ち据えたのはカブトムシの角なのかもしれない。

 

「俺より詳しいね」

 

「ふむ、では私が知る限りの事は教えようか?

 と言っても、仮面ライダーカブトについて私が把握しているのはほとんどないのだが。

 だがそれ以外の仮面ライダーについて……さっき口にした龍騎やディケイドだ。

 それはなんとなーく知っているんだよ、聞くかね?」

 

「うーん、とりあえずいいかな……」

 

 恐らく、そっちはいま関係ないことだろう。

 アーチャーは、カブトに関する情報をほぼ持っていないという。

 事実ならば、それは意識的に与(・)え(・)ら(・)れ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ということ。

 

 こっちに渡したい情報。こっちに渡したくない情報。

 その取捨選択は行われていると考えるべきだ。

 

 そう考えているソウゴに一度頷いて、小さく口の端を持ち上げるアーチャー。

 

「自分が使う力だ。知っておいた方がいいのではないかネ?」

 

「でもアーチャーもその棺桶が何か知らないんでしょ」

 

「確かに……じゃあ別に使えれば知らなくてもいいか」

 

 ソウゴのウォッチを見るアーチャーに、棺桶を見る視線を返す。

 彼も自分が使っている武器の事を何にも知らないのだ。

 使えるならそれでいいか、と特に気にせず使ってしまっている。

 そんなわけで納得して、話題を畳むアーチャー。

 

「何でそんな変なとこで共感しちゃうのかな……!」

 

 そこで決着していいのか、とイリヤが口を挟む。

 が、すぐにクロエが揶揄うように笑みを浮かべた。

 

「へー、じゃあイリヤは自分が使ってるクラスカードの英霊のこと、ちゃんと勉強した?」

 

 今持っているだけでも、メドゥーサ、メディア、ヘラクレス。

 ギリシャの英雄たちの名前を思い浮かべて。

 少女は視線を彷徨わせて、ソウゴとアーチャーから目を逸らす。

 

「……とりあえず今は、別に使えればいいかな……」

 

「ダメ人間たちですねぇ」

 

 頭をつついてくる相棒に、むむむと悩ましい表情を返す。

 そういう暇がなかっただけだし、と言うのは簡単なのだけれど。

 

「イリヤがその気になったらいつでもわたしが教えるから」

 

「では、いつでも勉強できるように資料を纏めておきましょう」

 

 使命感に燃える美遊と、それを補助する気全開のサファイア。

 

「では“よく分からないケド使えてるなら別にいいジャン”トリオ結成といこうか!」

 

 アラフィフと少年と少女の心が一つになった、と。

 アーチャーがチーム結成を宣言する。

 ソウゴが特に反応を示さないのを見て、イリヤが叫んだ。

 

「か、感覚派! 感覚派なだけだから!」

 

 どうにかチーム結成を防ごうとする少女。

 わたわたと手を振って拒絶を意思表示するそんな姿を見て苦笑して。

 しかしそれはさておき、と。ロマニが口を出す。

 

『……アナザーライダーに関してはとりあえず置いておこう。

 行動パターンが変わった場合を考慮すると、放置はしたくないけれど……

 さておき、まずはこれからどうするかだ』

 

「うん。アーチャー、どうすればいい?」

 

 その話をまずアーチャーに投げる立香。

 

「うむ。ではとりあえず、まずは目的を設定しよう。

 これは当然、“この特異点の解決”だ。それでいいかね?」

 

 それを確かに受け取った彼は、まずは指を一本立ててみせた。

 変動する筈もない前提条件の確認。

 立香たちは問題ないと首を縦に振って示す。

 

「うん」

 

「では、そのためにどうすればいいだろうか?

 私が持っているこの特異点の情報と共に、確認していこう」

 

 立香がふとソウゴと視線を合わせ、その後でツクヨミと合わせる。

 ツクヨミから返されるのは、呆れるような反応。

 しかし数秒後、彼女の方が折れたのか、渋々といった表情に変わる。

 

「はーい」

 

「ウム、生徒たちが元気いっぱいのようで大変結構」

 

 満足気に首を振るアーチャー。

 それを見ていたイリヤが、突然のノリについていけずに呆ける。

 

「あ、なんか始まってた……?」

 

「イリヤさんも何か思いついたら元気いっぱい挙手しなきゃですよ」

 

「これ、そういう感じなの……?」

 

 自分の横に浮いているルビーに対し、何とも言えない表情を見せるイリヤ。

 そんな彼女を指差して、アーチャーが一つ咳払いした。

 

「うぉっほん! さて、では私語の多いイリヤスフィールくん。

 この特異点を解決する。そのためには何が必要かナ?」

 

「え? えー、と……東京都庁が相手の本拠地なんだよね?

 じゃあ、そこを攻略するとか……」

 

 そういう流れ、だったと思う。

 本来の歴史にはないものこそが怪しい、みたいな。

 そんな認識で動けばいいはずだったわけで。

 

「攻略、というのが厳密に何を指すか分かるかな?」

 

「え、と、え? えー……」

 

 そこに繰り出された次なる質問。

 イリヤが視線を泳がせて、考え込む姿勢に入る。

 

「―――聖杯を手に入れる。厳密には“聖杯戦争に勝利し、聖杯を勝ち取る”」

 

 が、それを断ち切って美遊がそう口にする。

 彼女の答えを聞いて、なるほどと納得の声を漏らすイリヤ。

 

「ウム。では聖杯は誰が持っていて、それで何をしているかが問題なわけだ」

 

 とん、と。アーチャーの指が手にしたステッキを軽く叩く。

 

「現在、新宿を跋扈する者たち。彼らは都庁を乗っ取り、要塞に改造し、この街を悪逆の坩堝に貶めた。彼らの名は、“幻影魔人同盟”」

 

「幻影、魔人同盟……?」

 

「当然、彼らもサーヴァントだ。街全土を演出するキャスター。国道を蹂躙するライダー。

 歌舞伎町に歌うバーサーカー。華やかなりし街の影に舞うアサシン。

 都庁を守護するアーチャー……そして、それらの背後から全てを支配するアーチャー」

 

 彼が口にする六騎。そこに更にアーチャー自身を加えれば七騎だ。

 ならばおかしくない、のかもしれない。

 いや、仮にそうだとしたら七騎中三騎がアーチャーなどという事態になるが。

 

「……セイバーとランサーはいないの?」

 

 ふとそう問いかけた立香に対し、アーチャーはステッキを指で叩きながら答える。

 

「ふむ、セイバーとランサーも同じく召喚はされたらしい。

 だがアーチャー……黒幕のアーチャーに反旗を翻し、討ち取られたそうだ。

 二騎を撃破したのはアーチャー……狙撃手のアーチャーだとか」

 

「なんか……! なんかアーチャーが多い……!」

 

 幻影魔人同盟という組織の長がアーチャーで。

 その下に実働を担う、セイバーとランサーを倒すほどのアーチャーがいて。

 しかも目の前にもう一人のアーチャーがいる。

 

 そんな情報に目を回したイリヤに同意するように頷く、目の前にいる方のアーチャー。

 

「うん、自分で言ってて分かりづらいことこの上ない……まして私もアーチャーだしネ。だが流石に真名までは把握していないのでしょうがない」

 

「うーん、じゃあアーチャーのことはイケオジのアーチャーって呼ぼうか?」

 

 それ使うの? という顔を浮かべるツクヨミ。

 立香が言い出したその言葉に、ソウゴが指折りアーチャーを数えだす。

 

「黒幕のアーチャー、狙撃手のアーチャー、イケオジのアーチャー?」

 

「黒幕と狙撃手……の方はまだしも、こっちの呼びたくないんだけど」

 

 狙撃手、と口にする時に一瞬だけ目を細めて。

 しかしすぐに胡乱げな視線をイケオジのアーチャーに向けるクロエ。

 残念だナー、という表情を浮かべる相手に彼女は軽く眉を上げた。

 

「記憶喪失の人の名前かぁ……あ、メルセデスは?」

 

「……それって女の人の名前じゃなかった?

 というか、流石にエドモンに怒られるんじゃないの」

 

 いい案を思いついたとばかりに声を上げる立香。

 それに対して前使用者のツクヨミは、何とも言えない表情。

 巌窟王エドモン・ダンテスに由来する女性の名前だ。

 それをこのアーチャーにつけるのはどうか、と。

 

「へー……ママの車もメルセデスっていうのだよね?」

 

「そうね。じゃあベンツのアーチャーとでも呼ぶ?」

 

 アーチャーが吊っている白い棺桶を見ながら、そう話すイリヤとクロエ。

 

 何故棺桶から自家用車を思い起こすのか、と。

 あえて訊くことはせずに、アーチャーが眉根を寄せた。

 

「もしくはメルセデスのアーチャー?」

 

「うーむ、それは流石にねェ……」

 

 メルセデスという名前に対して、微妙に難色を示す男。

 それも仕方ない、と。ツクヨミが別の呼び方を考案する。

 

「じゃあ……メルセデスだから、M・アーチャーとか、アーチャー・Mとか」

 

 ふと、彼女の提案したものを聞いたアーチャーが目を見開いた。

 顎に手を添えて、悩みこむこと数秒。

 

「M、Mかァ……ふーむ、M……そうだネ、では今やった教師ごっこが思いのほか楽しかったので、教授(プロフェッサー)、プロフェッサーMでどうか。お、なんか凄いしっくりきたぞゥ?」

 

 なんだか妙にテンションが上がるプロフェッサー。

 どうやら気に入ったらしい。

 だったらそれでいいか、と周りを見回すソウゴ。

 

「本人が気に入ったならプロフェッサー……M? でいいんじゃない」

 

『確かにアーチャーさんはどこか、教師のような雰囲気がある方ですね。

 ―――ただ問題は、銃火器内蔵の棺桶を持った教師などという人物は思い当たらないのですが』

 

「牧師に変装して棺桶に偽装した兵器でテロでも起こしたのかな、私は」

 

 マシュに対し、惚けた風にそう言い返すプロフェッサー。

 胡乱げな目でそんな男を上から下まで見て、美遊とクロエが言葉を交わす。

 

「棺桶を所構わず引きずってたら即捕まりそうだけど……」

 

「っていうか棺桶引きずってたら牧師っていうか葬儀屋でしょ」

 

「だが牧師という肩書の方が便利だヨ。

 ほら、神の遣いということで気を許してもらえたりするかもしれないだろう?」

 

「やっぱり詐欺師の発想しか持ってない」

 

 呆れ果てるという視線を向ける美遊。

 そんな視線に微妙に落ち込む様子を見せ、肩を落とすプロフェッサー。

 通信先でロマニが苦笑して、話を進めようとする。

 

『あー、うん。じゃあとりあえず。

 こちらのアーチャーをプロフェッサーM……あるいは、プロフェッサーと。

 そんな感じに呼ぶとして、話を続けて欲しい』

 

「―――そうして二騎士が撃破された後、更なる追加召喚があったようだ。つまり今の新宿では、カウンターとして召喚されたサーヴァント数名が、幻影魔人同盟と戦っているというわけだネ」

 

「カウンター……? そんなに普通にサーヴァントが増えるんですか?」

 

 サーヴァントは超常の戦力だ。

 そんなサーヴァントの影の姿以外を多くを知らないイリヤでも、それは分かる。

 だがここではそんな存在がぽんぽんと再召喚されるという。

 プロフェッサーというより、横にいた立香を見上げたイリヤ。

 彼女が返答する前に、プロフェッサーはそれに対する答えを示した。

 

「言わずもがな、“聖杯戦争”と呼ばれる儀式にはルールがある。その儀式の形式を利用し、サーヴァントを召喚したのであれば、当然そのルールに縛られるのだ。

 “聖杯は、勝者にこそ与えられる。聖杯戦争は勝者を定めるための儀式である”。その前提を無視して聖杯に干渉した場合、聖杯はその者に手にされる事を拒絶する。その結果として、聖杯の魔力においてカウンター・サーヴァントが召喚されるのだ。

 無法者に利用されまいとする聖杯自身―――というと少し語弊があるかナ。まあとにかく、聖杯自体による最後の抵抗、と思ってもらえればいい」

 

「な、なるほど……?」

 

 説明はなんとなく理解して。

 ふと、視界の端で美遊が一瞬だけ目をきつく細めた気がした。

 が、意識を向けた瞬間にもうその違和感は消えている。

 

 首を小さく傾げたイリヤの後ろで、クロが思考しながら口元に手を当てた。

 彼女の態度を見つつ、ツクヨミがプロフェッサーに問いかける。

 

「追加召喚されたサーヴァントの数は?」

 

「不明だ、とりあえず私の方で存在を認識しているのは二騎。

 つまり最低で二騎、最大でも恐らく五騎だろう」

 

 軽く五指を立て、パーとチョキを交互に繰り出してみせるプロフェッサー。

 二騎、というなら失われたセイバーとランサーの枠が使われた、と考えるのが妥当だろうか。

 

 そして五騎というのは、現在黒幕のアーチャーの許に残っている戦力だろう。

 聖杯がカウンターとしてそれと同等の戦力が用意できた場合のケース。

 

 それはそれとして、と。

 クロエがそこで強く顔を顰めた。

 

 セイバーとランサーがいた。つまりこの特異点にいたサーヴァントは、セイバー、ランサー、黒幕のアーチャー、狙撃手のアーチャー、プロフェッサーM、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー。プロフェッサーを含めて、サーヴァントが九人存在していたことになる。

 ―――そして聖杯は、カウンターまでもしっかりと発動する程度にはちゃんと機能している。

 

 だったらおかしいのは、だ。

 

「……つまり、まず最初に黒幕のアーチャーが存在した。

 彼が聖杯を手に入れて、この特異点を作り、聖杯戦争を始めた?」

 

 アーチャーが三人いる、という状況に他ならない。

 他のクラスは満遍なく埋まっているのだから、なおさら。

 であるならば、アーチャーのうち二人は聖杯戦争とは別(・)件(・)のはず。

 

「まず黒幕のアーチャーがどうやって召喚されたか、が重要?」

 

「黒幕のアーチャーは黒幕だからともかく、ここにいるアーチャーが出てくる余地がなくない?」

 

『カウンターとして召喚されたうちの一人、というわけでは……』

 

 九騎のうち七騎は、あくまで聖杯戦争に呼ばれたサーヴァント。

 であるならば、最大の問題は残る二騎。

 つまりは何故か三騎いるアーチャーのうち二人が、明らかに怪しい。

 

 そうして立香とソウゴが話している間に、マシュが一応無罪の可能性に言及。

 だがそれは、クロエに両断される。

 

「無いでしょ。カウンターとして呼ばれたにしちゃ、それ以前からの状況を見てきたように語ってる。これでカウンター・サーヴァントの一人です、なんて言おうものなら即拘束だわ」

 

「―――彼はこの特異点を解決したい、と口にした。だから積極的にわたしたちを助けにきた。

 だけど、元凶である魔人同盟と敵対しているカウンター・サーヴァントを認識しながら、接触すらしていない。彼自身がカウンターで呼ばれているのなら、共闘や真名の開示はいざ知らず、情報の共有を行うための接触くらい行っていて然るべき」

 

「うーむ、どうかな? 見ての通り私は怪しいからネ、その辺りは避けたとも―――」

 

 クロエに続き、美遊からも疑念を向けられるプロフェッサー。

 彼の言葉を遮って、少女は更に言い募る。

 いつでも転身できるように、相棒たるサファイアを握り締めながら。

 

「だから……あなたは自分が怪しいからこそ。本来ならば怪しくないと主張するためにも、カウンター・サーヴァントに接触したという実績を作りたがるはず。なのにできなかった。

 それは―――あなたは聖杯に呼ばれたサーヴァントではないから、だと思う。聖(・)杯(・)に(・)呼(・)ば(・)れ(・)た(・)サ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)が(・)、(・)ど(・)の(・)程(・)度(・)の(・)知(・)識(・)を(・)聖(・)杯(・)か(・)ら(・)与(・)え(・)ら(・)れ(・)る(・)の(・)か(・)分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)。だからあなたは相手に会話を合わせられないと考え、接触に踏み切れなかった」

 

 おお、とイリヤが驚嘆する。

 これまでの会話の中から推測し、彼がおかしいと断言とする所作。

 それはまるで、推理漫画のようで。

 

 ―――そんな状況に追い込まれたプロフェッサーは、困り顔。

 

「いや……私が知ってる二騎は、遠巻きに見ていたらもうすっごいドッカンドッカンと周辺ごと爆発や何やらを撒き散らしてたせいで、近づけなかっただけなんどけどネ?

 特に一人は完全に私を認識してて、剣を振って風の爆弾みたいなの飛ばしてくるし……アレは死ぬかと思った。というか、国道を挟んだ位置取りしてなかったら死んでたヨ」

 

 ただ追加された連中が猛獣だっただけ、と言われて。

 それを追求するための情報は持っていないので、美遊がぐぬぬと悔しげに押し黙る。

 しかしプロフェッサーは彼女の意見に完全なる否定は返さなかった。

 

「まあ私が聖杯によって呼ばれたサーヴァントじゃない可能性については否定しないがネ。

 正直、私自身も黒幕に近い側の何かなんじゃ? と思わないでもないし……」

 

「自分で言っていくんだ……」

 

 失敗した少女にそう言って、不敵に微笑むアラフィフ。

 そんな彼に対し、そこ笑う場面? と、イリヤが表情を引き攣らせる。

 

「まあどっちにしろ、そのサーヴァントたちに俺たちで接触することになるよね」

 

「そうね、戦力は多いに越したことないし。問題は私たちがプロフェッサーを連れてることで、その風の爆弾みたいなのを飛ばされる可能性があることだけど……」

 

 美遊の肩に手を添えつつ、ツクヨミがソウゴの意見に同意する。

 聖杯戦争である以上、それに勝利しなくては本当に意味で聖杯は手に入らない。

 そのルールはこちらにも適用される話だ。

 幻影魔人同盟とカルデアという戦いに持ち込み、勝利する。

 それこそが大目的に設定されたようなものだ。

 

 カウンター・サーヴァントは、その目的のために共闘するべき存在。

 

 そこでコホンと一つ咳払い。

 プロフェッサーはカウンター・サーヴァントたちに話を戻した。

 

「私が知るのは、まずは新宿各所を巡るバイクを駆るライダーらしきサーヴァント。走行できない国道は空をかっ飛んで飛び越しているようだネ。剣を武装にして、魔力を暴風の如く吹き荒らしている事から、バイクは後付けで手に入れたセイバークラスの可能性もある。

 当然、私に気付いていたサーヴァントというのはこっちだ」

 

「バイクに乗って、剣を振り回して、魔力が暴風みたいに……」

 

 ツクヨミが繰り返して呟いてみる。

 が、多分そう言う事ができるサーヴァントは数え切れないくらいにいると思う。

 現状で正体を予想するのは流石に難しいだろう。

 

「じゃあもう一人はランサー?」

 

「もう一人は……まあ槍のような得物は持っているネ。旗だが」

 

 立香がもう一人の事を尋ねてみれば、返ってくるのは武装の話。

 

「旗?」

 

「黒い炎を放つ、剣と旗を手にした女性だ」

 

 神妙な顔でそう告げるプロフェッサー。

 他にいる可能性は捨てきれないが、あまりにも覚えがある特異性だと思う。

 

 竜の魔女の紋章が縫われた旗を振るい、漆黒の業火に燃える恩讐の徒。

 魔元帥ジル・ド・レェの憎悪が焼いた灰の中から産まれた、生粋の復讐者。

 クラスにして、アヴェンジャー。

 

「……それオルタじゃない?」

 

『オルタさん、ですね。恐らく』

 

「オルタ、って。確か……」

 

 人理焼却の中、オルガマリー・アニムスフィアのサーヴァントとして共に戦った一人。

 ジャンヌ・ダルク・オルタ。

 カルデアの中でそんな名前を聞いたことがある、とイリヤが思い出し。

 

「うん、カルデアにいたサーヴァント。カルデアの資料室に大量の筆記練習用のノートと、色々な絵が描かれたスケッチブックを残していた人」

 

「―――――えっと、ミユ。それ、見たの?」

 

 愕然としたイリヤとクロエ。

 そんな二人から視線を向けられて、美遊は不思議そうに首を傾げる。

 

「? うん。練習の跡を見れば分かるくらい、凄く努力してたと思う。文字だけじゃなくて文章も、小説仕立てで練習してたかな。強大な暗黒の力を宿してしまった闇の騎士の話。

 スケッチブックの方は、レオナルド・ダ・ヴィンチ……さん、の作品の模写とか色々やった後に、オリジナルと思しき黒い三つ首のドラゴンの絵とか……」

 

「ストップ、ストップ! それ絶対本人の前で言っちゃダメな奴!?」

 

『……処分し忘れていたんだね』

 

 ロマニの沈痛な声。

 いや別にちょっとした創作ノートがどうした、という話だけれど。

 見たところで、知ったところで、何が変わるというわけでもないけれど。

 誰かに見られることが苦行にあたるかどうかは、本人しだいだけれど。

 などと、詳しい話を言及しづらいという雰囲気。

 

 確かに彼女とアレキサンダー、エルメロイⅡ世。

 あの辺りのメンバーは、あそこが定位置だった。

 私物がそちらに残してあってもおかしくはない話だ。

 

「資料室に残してたんだから、自信満々に置いてったんじゃない?」

 

「ちょうどいるなら聞いてみればいいんじゃない? 処分した方がいいかどうか」

 

「絶対ダメだからね!?」

 

 立香とソウゴを怒鳴りつけるように、イリヤがこれ以上の深堀を却下した。

 気にしないどころか自信満々に晒すタイプな気がするけれど、と。

 首を傾げながらもしかし、別に重要でもない話だ。

 

 いま得られた情報から、立香が次の行動を提案する。

 

「そう? まあ、とりあえず知り合い―――のはずの、オルタから会いに行こうか。

 記憶があれば普通に協力してくれると思うし。

 特異点だし、多分今までと同じ記憶を持ってるんだよね?」

 

『恐らくね。アーチャー……プロフェッサーは参考にならないが、特異点ならばサーヴァントが以前の記録を持ってこれている可能性は高いと思う。

 特にジャンヌ・オルタは成立からして特殊なサーヴァントだし、まず大丈夫、のはず』

 

「―――……では、歌舞伎町方面だね。彼女はあの辺りをぶらついては破壊の限りを尽くしている。コロラトゥーラという、バーサーカーのしもべたちを相手にね」

 

 どこか納得するような表情を浮かべるプロフェッサー。

 彼女はカルデアのサーヴァント、ジャンヌ・ダルク・オルタ。

 だ(・)か(・)ら(・)、(・)コ(・)ロ(・)ラ(・)ト(・)ゥ(・)ー(・)ラ(・)を(・)狩(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)の(・)だ(・)ろ(・)う(・)。

 自分のマスターたちにやらせることになるかもしれない、という事実を厭って。

 

 人の縁、良縁という奴かもしれない。

 悪意に満ちた世界の中で、煌めくような小さな善意の灯り。

 それが彼女たちを導いている。

 

 そうなるだろう。そうでなければいけない。

 だって、

 

「……フ、ム」

 

 思考が乱れて、プロフェッサーが眉間に指を当てる。

 奪われた記憶が取り戻される前兆だろうか。

 と言っても、未だに記憶は戻ってこない。

 何となくある程度の推理は進めているが、まだ答えには遠いだろう。

 

「歌舞伎町、って。都庁……っていうか、新宿駅の方に戻らなきゃいけないね」

 

「国道は飛び越えていくとして、飛ぶにしても狙撃は気をつけなきゃいけないかも」

 

「射線はまず取れないでしょうけど、都庁から歌舞伎町なんて普通に射程内でしょ。

 あそこは高さもあるもの。見つかったらまた撃たれるわよ」

 

 移動方法を模索する中で、クロエが顔を顰めた。

 特異点が狭い故に、相手の場所が狭い範囲に固まっている。

 拠点間がせいぜい数キロもないのでは、その全てが狙撃手のアーチャーの射程距離だ。

 

「射線を切れるのは地上を歩いてる場合だけ。

 飛んで国道を越えようとすると、どうしても狙撃は注意しなきゃいけない。

 低い位置で飛んだら今度はライダーの狩猟範囲に入ることになる」

 

「ソウゴ様の力で短距離転移の方が安全ではあると思われます」

 

「じゃあそっちにしようか」

 

 美遊とサファイアに応え、ソウゴがジクウドライバーを取り出した。

 そうすることでライダーの破壊から逃れられるなら惜しむ理由もない。

 都庁から離れたとはいえ、距離はせいぜい数キロ程度。

 脅威がライダーとアーチャーの狙撃だけならば、すぐに着くだろう。

 

 そこで、プロフェッサーが小さく眉を顰めて頭を動かした。

 視線が向く先は少々離れたビルの影。

 そこから聞こえるのは、からからと金属が地面を擦る音。

 

「……どうやら、いまの新宿に生きる者たちのお出ましのようだネ」

 

『―――微弱だが、魔力反応……? いや、さっきキャスターの事を口にしていたね。

 これがキャスターによる使い魔か何かって……』

 

「いや」

 

 ロマニの言葉を否定しきるまでもなく。

 姿を現すのは人間。金属パイプなどを地面に引きずっている、ただの人間だった。

 多少の魔力を感知できるが、何の変哲もない、普通の人間のはずだ。

 

 少女たちがその異様な雰囲気に身構える。

 

 各々凶器を備えている十数人の集団。

 彼らは少年少女と初老などという、目の前の獲物を見て笑い―――

 

「へへへ、ラッキーだぜ。ガキがこんだけ……」

 

「ほい」

 

 ぷすり、と。首筋に、全員一斉に注射器が打ち込まれた。

 謎の液体を注入され、揃って痙攣しながら倒れていく連中。

 

 反応する前に瞬く間に鎮圧された危険な集団。

 いつの間にか回り込み、それを成していたのはマジカルルビー。

 彼女が大仰に、羽飾りで汗を拭うような動作を見せる。

 

「いやぁ、都会は危険ですねえ」

 

 いきなり現れた謎の危険人物たちに驚く暇もない。

 泡を吹いて転がる連中に口許を引き攣らせ、ルビーを見上げるイリヤ。

 

「……ルビー、それ、なに?」

 

「いえいえー、ただの睡眠薬みたいなものですよ。

 起きられるようになるまで、大体半日くらいですかね。

 ほら、皆さん幸せそうに眠っていらっしゃるでしょう?」

 

「苦痛に悶えて痙攣してるように見えるけど……」

 

 地面に転がる十数人。

 魔力を帯びていようが関係ないとばかりの投薬は、彼らを完全に無力化していた。

 日頃から好き放題しがちな魔法のステッキの面目躍如、というわけだろうか。

 

「―――ま、いいんじゃないかネ? 見ての通り、彼らは悪党だったヨ。

 彼らに限らず、この新宿特異点で今もまだ生きている人間は悪人ばかりだ。

 善人の優しさは悪人に食い潰される。悪人はより悪辣な悪人に利用される。

 そして誰であっても、人間であるならば幻影魔人同盟には殺される。

 それがこの特異点のルールなのだよ」

 

『それ、は。つまり、この特異点では、もう……』

 

 真っ当に生きていた人間たちは、あのような住民たちに殺されてしまった、ということか。

 そう問いかけようとしたマシュに、プロフェッサーは肩を竦めて返す。

 

「では人間が生きるために何をすればいいか、というと。長いものには巻かれろ、という奴サ。

 この街の人間にとっては、魔人同盟におもねるのが最も安全な延命策だ。

 そのためにアサシンがこの街で暗躍する。

 ならば、アサシンに対してどうやって命を乞う? もちろん金だとも。

 彼らはあらゆる手段を尽くして、他人の命を含めてあらゆる物品を換金し、自分の命を乞う」

 

「……アサシンにお金を集める意味はあるの?」

 

「どうだろうネェ……この世界において、もはや貨幣なんて意味はない。

 金を積み上げて栄華を築こうとも、何が買えるわけでもない。

 いまの新宿において財産とは、ただの寿命でしかないのだヨ」

 

 金品、財産、価値あるもの。

 物質としてあることで保証され、煌びやかに輝く栄華。

 そういったものと引き換えに、アサシンは相手の生存を保障する。

 アサシンの許に華やかに栄えし証、財産を積み上げ続ける限り生きられる。

 

 ―――ア(・)サ(・)シ(・)ン(・)の(・)栄(・)華(・)を(・)保(・)証(・)し(・)続(・)け(・)る(・)限(・)り(・)、(・)生(・)か(・)し(・)て(・)も(・)ら(・)え(・)る(・)。

 

 言葉を詰まらせた者たちに苦笑して、プロフェッサーが軽く手を叩く。

 

「まあ無益な殺生はしないに越したことはない。

 放って置いたら他の連中に命ごと持っていかれそうだが」

 

「じゃあ、こうしとこう」

 

〈ジオウ!〉〈ドライブ!〉

 

 二つのウォッチを起動して、そのままドライバーに装填。

 そうしてから腰に当て、ベルトを装着する。

 変身待機状態になっているジクウドライバーのロックを外し、腕を上げ。

 

「変身!」

 

〈仮面ライダージオウ!〉〈ドライブ!〉

 

 回すことで、彼は仮面ライダージオウへと変身を完了した。

 更に追加装甲、ドライブアーマーが重なる。

 肩から放たれるホイールが、倒れ伏した連中の頭上に舞う。

 

 そこから射出される無数の鉄棒。

 それが周囲を囲う檻となり、最後には柵となって屋根が落とされた。

 ジャスティスハンターによる、一人一人個別に捕まえる檻。

 それは動きを封じると同時に、逆に外敵から身を守る盾にもなる。

 

「これって消えちゃわないの?」

 

「一日くらいなら大丈夫じゃないかな。攻撃されて壊れるとかなければ」

 

「では今後、変質者がいたら同じように対処で―――」

 

 地面に無数に設けられた檻。

 それらを放置して動き出そうとした彼らの耳に、再び何かの音が届く。

 

 ―――今度はガリガリ、と。何かが削れる音。

 その音を聞いた皆で黙り、音源だろう方向へと視線を向けた。

 先程のような、鉄とアスファルトが擦れるような軽い音ではない。

 地面を削って砕いているような、重い音色。

 

「……さっき話した奴だネ。うん、キャスターの作成した怪物だ」

 

 プロフェッサーの言葉と同時、ビルの合間から何かが姿を現す。

 建造物の壁に巌の手をかけ、押し潰しながら。

 ゆっくりとした動作で姿を見せたそれは、全長は5mほどにもなるか。

 枯れた岩と土を押し固めたような巨人。

 頭にはくすんだ黄金の王冠を被り、肩には道化の人間を乗せて。

 

 切り出した岩を剣のように引っ提げた、異形の怪物。

 彷徨える王が、そこにいた。

 

 

 




 
 スプリガンくん初登場。すぐ死にます。
 二期一話でやる前作総集編的なものに四話かかる。

 プロフェッサーM、いったいなにものなんだ。
 
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