Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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正義と夢2003

 

 

 

 アナザーファイズの腕が動く。

 海賊らしいカットラスの刀身が、赤光を引いて形状を変える。

 

 発光する剣を構える姿を見て、即座にジャンヌ・オルタが旗を振り抜いた。四方に向け、サンタマリアの船上を走る黒炎。

 

 真っ先に選ばれた宝具破壊の行動。

 それを見て、コロンブスは鼻を鳴らす。応じるように振るわれた光の剣。甲板を掠めた切っ先から走った光が、途中で黒炎を切り裂いた。

 

『ツクヨミさんの武装と同質のエネルギー反応を確認! あの攻撃に被弾した場合、拘束される可能性があります……!』

「見りゃわかる、っての!」

 

 見慣れた発光パターン。それに舌打ちしつつ、オルタは燃焼に専念する。

 魔力が薄い。が、マスターがオルガマリーな分、供給量的にまだマシか。

 

 どうでるにせよ、自分たちでアレは倒せない。

 変身解除まで追い詰めるほどの魔力もないのではどうしようもない

 ジオウがさっさとフェニクスを倒して戻ってくるまでは、時間稼ぎしかできない。

 

 そうして赤い閃光を放射しつつ、アナザーファイズが銃を構える。

 同じくコロンブスのものから変質した銃を向ける対象はアストルフォ。

 レジスタンスたちの方へ回ろうとした彼を撃ち抜くため、彼は即座に引金を引いた。

 

 が、その赤い弾丸は全て途中に立ちはだかった黒いアーマーに阻まれる。

 直撃を受けて火花を散らし、白煙を上げるゴーストアーマー。

 それを鎧ったゲイツが、コロンブスに対して顔を向けた。

 

「……お前は一体、何をするつもりだ」

「うん? そりゃお前、決まってんだろ?

 商売だよ、商売。この島が落ちて人類が失墜したら、人間を喰い散らかす化け物が霊長なんかになるわけだろ。だったら、やる事は決まってるよなァ!」

「……さっぱり分からん。お前が前に語った言葉は、全部嘘だったのか」

 

 笑うコロンブスに対しそう問いつつ、拳を握るライダーゲイツ。

 能力の酷使とダメージ、限界が迫りつつゴーストアーマー。

 それを理解しながらも彼は、そこから動かずコロンブスの言葉を待った。

 

「あん? 嘘なんか言った覚えはねェな。俺はアガルタの連中が許せねえ、とは言った。無駄にそいつらを殺す非道な連中を許せねェ、ってな。それは紛れもなく、俺の本音だぜ?」

 

 心外だとばかりにそう返すコロンブス。

 彼が手にしたまま手を揺らし、ふらふらと揺れる赤光剣の切っ先。

 それがゲイツとアストルフォが背に庇うレジスタンスたちを示す。

 

「……なんだと?」

「オイオイ、少し考えりゃ分かるだろ? この大地の種族は男さえいれば無限に繁殖できるんだぜ? しかも生まれた瞬間即戦力。こいつはとんでもねェ事だ。だったら大切にしなきゃいけねえのはどっちだ? 男は有限だが、男さえいれば女は無限に量産できる。それのどっちが貴重かなんて、赤ん坊でも分かるぜ。

 な? 大事にしなきゃいけねえだろ? 優秀な労働力(どれい)を生産するための備品(どれい)として」

 

 気紛れに殺すだなんて馬鹿げている。もう使えない奴を処分するならまだしも、まだ使える奴を意味なく潰すなんてもったいない。アガルタの物資は有限だったのだ、湯水の如く使っていい環境な筈がない。

 

「労働力として優秀なのは女の方だ。海賊、酷吏、アマゾネス。連中は普通の人間とは比べ物にならねェ戦力だ。だから働かせるとすりゃそっちだろ? 男っていう奴隷の生産に関わる貴重品は、できる限り傷付けちゃいけねェわけよ」

 

 単純に、数字で見て。限られた資源の使い道は考えるべきであり、使い潰すのであれば幾らでも生産が利くものを。そんな事も分かっていなかったアガルタの連中に怒り、変えねばならないと奮起した。上手くできればこの土地の価値は暴騰する。

 自分ならばそうできる。そう信じて、彼は確かに本気の怒りをゲイツに語った。

 

「だったら人質にしようとするのもやめるべきだね!」

「そりゃ地上に出たんだ。もうここにいる連中は無くしても大きな損失じゃねェからな」

 

 剣を手にレジスタンスを背に庇うアストルフォからの言葉。

 それを鼻で笑い飛ばすコロンブス。

 人間の数が限られていたアガルタだからこその怒り、それは地上に出る事で解決する。

 

 彼のそんな様子に、今まで彼に従っていたレジスタンスたちが愕然とした。

 

「言っとくがお前たちだって逆らわなきゃ生かして帰してやるぜ? もちろん故郷によ。

 まあ、故郷で俺の奴隷の生産に協力してもらうがな!」

 

 アナザーファイズが顎を撫でながら、消沈した人間たちにそう言った。

 別に虐殺する気もない。価値は落ちたが資源であることには変わりない。

 使えるならばきっちり使う。ただそれだけの話なのだから。

 

『……まるで世界征服でもすると言いたげだね』

「響きがいいねェ、世界征服! だが間違っちゃいない、俺の次の商売相手は世界そのものだ!」

 

 ダ・ヴィンチちゃんからの言葉。

 彼女が言った言葉に対し、コロンブスは興奮していきり立つ。

 

「俺は魔術だのそんなものに詳しくはねェ。だが人間が霊長とやらから引きずり落とされたヤバい事になる、ってのはまあ分かる。だがよォ、そうなったら人間はどうなると思う?」

「どうなるか、だと?」

 

 霊長からの零落。あらゆる生命の頂点という階層からの転落。

 星の表層を支配し、文明を築き上げた種としての滅亡。

 食物連鎖の下位に堕した人間種がどうなるか、と。

 

 怪物の食糧に成り下がるだろう種の未来を。

 コロンブスは何一つ疑わず、笑いながら確信をもって口にした。

 

「―――()()()()よなァ!! どんな相手だろうが、自分たちで乗り越えようとする!

 それが人間だ! それが人類だ! 一度おいやられたくらいで終わりはしねェ! どれだけ追い詰められようが、霊長から追い落とされようが、きっとひっくり返そうとするに決まってる!! だったらどうする? 霊長奪還のために人類は戦争をおっぱじめるよなァ! 聖戦って奴さ!」

 

 唖然として、彼の言葉を聞き届ける。

 

 天を仰ぐアナザーファイズ。彼の言葉に一切疑念はない。

 彼は断言する。人類という種は、どうしようもない怪物の被食者になった程度では諦めないと。

 だからこそ、彼はここにいるのだと。

 

 赤光の剣を振り掲げて、コロンブスはその場を赤く照らす。

 

「だが次の霊長に成り上がるのはきっと化け物さ。人理ってのを否定するそういう連中には、人類の文明が造った兵器は効果が薄いんだろう? 戦う意思があっても武器がねえ。

 そこを俺がどうにかしてやる! そんな奴らに対して、使い潰せる武器としてこの大地が産出する奴隷を売り捌く! 俺が此処を人類を救う方舟に仕立て上げる! 

 ―――そうして、全世界で発生する戦争の利権を俺が得る!!」

 

 何ら躊躇いを抱かずに、喜色いっぱいに宣言するコロンブス。

 このラピュタは兵器工場―――不死鳥の兵装舎。

 何度敗れようと、何度でも蘇り、戦うために立ち上がる者に力を授ける場所。

 彼はここを運営して、不死身の戦力を売る商売人として世界を牛耳る。

 

「ラピュタは落下で砕けるだろうが、その中のエルドラドだけは俺が死ぬ気で維持する!

 あの土地が俺の夢を糧に動いているならできる筈だ! いいや、たとえ落下で木っ端微塵に砕けようが蘇るはずだ! 俺が諦めねェ限り、たとえ燃え尽きようとその灰の中から飛び立てるはずだ! 俺はどれだけやられようが、絶対に諦めねェ!!

 ―――俺が辿り着く事を諦めない限り、“黄金郷(エルドラド)”はそこにある!!」

 

 ラピュタが徐々に速度を増す。フェニクスの誘導、コロンブスの前進。

 それがこの方舟に推力を与え、終末に向かって突き進ませる。

 

『……彼の自信の理屈はともかく、ありえないとは言い切れない。ラピュタの落下が神秘の暴露に繋がり、時代を幻想種に奪い取られた場合、そこが幻想世界と中心となる。そうなれば実在しない黄金郷(エルドラド)という幻想都市がそれを切っ掛けに顕在化しかねない……!』

『元々は存在しない伝承都市、というのがキモだね。実在しないから壊れない。

 実在してもおかしくない事にできる程度に、世界から正しい人理を追い出した後、落ちた場所を“そこはエルドラドだった”という事実に塗り替えるわけだ』

 

 最終的に、こうして立ちはだかったコロンブス。

 彼とフェニクスを打倒しない限り、状況は好転しない。

 そういうようにロマニとダ・ヴィンチちゃんが口にするのを聞いて、溜め息ひとつ。

 

 流れるように弓を投影し、矢を番えるのはクロエ。

 

「マッチポンプってのよ、そういうの―――!」

「大いに結構!」

 

 発射される数本の矢。

 それを剣の一振りで薙ぎ払い、そのまま銃を向けるアナザーファイズ。

 少女に向け撃ち出された弾丸を前に、美遊が即座に障壁を張る。

 とにかく今は耐えるしか、と。

 

 そうして防御を固めた少女たちの前で、コロンブスが剣を放った。

 同時に拳に装着されるナックルガードのようなもの。

 彼の全身を巡る赤い光が、その拳に集中していく。

 

「っ、クロ!」

「―――っ、これが限界……!」

 

 美遊の声に応じて盾を投影しようとして、その魔力さえも無いと歯噛みする。

 故に、彼女が全霊を注ぎ込んで投影するのは複数の宝剣。

 それを前方にひたすら並べ、即席の盾として運用した。

 その壁の奥で、全魔力を障壁に注ぎ込む美遊。

 

「サファイア……っ!」

 

〈Exceed Charge…!〉

 

 拳が鋼を粉砕しながら突き抜けて、少女たちを守る障壁に突き刺さる。

 一瞬耐え、しかしまるでガラスのように砕ける魔力障壁。

 その勢いで、美遊とクロエが船上から投げ出された。

 

「ちぃ……!」

 

 炎を撒き散らしたところで、火力を維持できない。

 振り絞れる分は全て刀身に乗せて、オルタはそのまま切りかかる。

 刃とアナザーファイズが火花を散らす。

 が、それを意にも介さず、怪人は強引に回し蹴りでオルタを押し返した。

 胴体を蹴り抜かれ、彼女もまた船の外へと押し出される。

 

 まず三人排除。そのまま拳を開き、再び手元に剣を顕す。

 振り向きざまの剣閃は迫りくるアストルフォに対して。

 そうして向けられた刃をアストルフォは切り替えた武装、両手で掴んだ槍でもって迎撃する。

 

「全員落とそうったってそうはいかない! “触れれば(トラップ・オブ)―――!」

 

 人質が欲しい、という動きは見えている。自分の宝具という檻に抱えた人員は、彼にとっては武器になる。

 今の彼にとって最大の障害は、ジオウがフェニクスを倒して帰還する事だ。そうなった時の備えとして、人質はできるだけ手放せない。だからこそこっちを船上から叩き落とすのだろう。

 

 競り合う光剣と馬上槍。

 その結果、足を取られて転ぶ事になるのはアナザーファイズ。

 

 このまま一緒に纏めて落ちて、袋叩きにしてやれと。

 押し切ろうとするアストルフォに対し、コロンブスが吼えた。

 

「ああ、だが俺の宝具の事を忘れてるな!」

「へ?」

 

 瞬間、サンタマリア号が鳴動する。

 怪人化したコロンブスに合わせ、変わっていく宝具の姿。

 波が寄せるように黒と銀の装甲が押し寄せ、覆われていく木造船。

 

 変化していく船の甲板が数か所開いた。

 そんなギミックが本来ある筈もないというのに。

 そこから頭を出すのは、どう見ても大航海時代のものではない近代兵器。

 

 ―――無数の大型ミサイルを搭載した、発射装置だった。

 

「うっそぉ!?」

 

 間も無く発射されるミサイル。それは相手に狙いを付けず、甲板の上に落ちてそこで爆発した。

 罅割れる甲板、撒き散らされる爆風。転ばされていたアナザーファイズが床にへばりついてそれに耐え、爆風に背を押されてアストルフォは船外へと吹き飛ばされた。

 

 その衝撃と熱波の前に立ちはだかり、ゴーストパーカーを展開。

 背に庇ったレジスタンスたちを守り抜き、遂にゴーストアーマーは限界を迎えた。

 自身も膝を落とし、全身から白煙を上げるライダーゲイツ。

 

「ぐっ……!」

 

 軽く肩を回しながら立ち上がるアナザーファイズ。

 それと同時に、鋼の装甲に覆われたサンタマリア号だったものが浮遊し始めた。

 ミサイルランチャーには次弾の装填が始まる。

 

「……で、どうする? さっきも言った通り、従順な奴に手は出さねえぜ?」

 

 ゲイツの頭越しに、怪物がレジスタンスたちに問いかける。

 

 目の前で起こった破壊。

 サンタマリアに搭載されたミサイルが補充を終え、再び発射体制に入った。

 それは拒否すればどうなるか、という意思表示である。

 

 そちらを確認しつつ、眼下も確認するコロンブス。こっちがある程度高度を稼げば、カルデアは手出しできない。飛行手段がないわけではないだろうが、そんな余裕もないだろう。何より、この状況でコロンブスを倒してしまえば人質は全員地面に真っ逆さま。

 これで時間稼ぎのための状況は一通り整った、と言っていいだろう。

 

 甲板にいる奴らはもうどうでもいい。

 船室の方にも十分な数の人間が捕まえてある。

 人質はそっちだけで問題ないだろう。

 

 まだ使えるなら囲うし、使えないならゲイツと共に処分する。

 

「―――帰り、たい」

 

 そんな、死を前にした状況で。誰かが一人、真っ先に口にした。

 その言葉に対し、怪物となった体で口角を吊り上げるように笑うコロンブス。

 

 ゲイツがその男の方に振り向き、確かめる。

 俯き、体を震わせながら振り絞られる、蚊の鳴くようなか細い声。

 

「おう、帰してやる」

「……帰りたいんだよ、俺の元居た場所に」

「もちろんだ。お前の居場所も、お前を待ってるぜ」

 

 応じる声は喜色。嘘はない、コロンブスは本当に彼を故郷に返す。

 超越種と人間種の戦場になった星で、彼は地上を丸ごと兵器工場にする。

 

 世界中で戦争をするのだ。エルドラドで生産するだけでは、輸送に手間がかかる。

 ならば戦闘用ではなく繁殖用の女たちも用意し、各地で生産した方が効率的だ。

 だから、男に使われる場所を選ぶくらいの自由は許してやる。

 どうせ誰をどこで使っても変わらないのだから。

 

 もうこの男たちはいなくてもいいが、いて困る事はない。

 消耗品だから代えは利くが、消耗品だからこそ数があった方がいい。

 

「だから―――」

 

 レジスタンスの男が、顔を上げる。

 その声を聴いて、他の男たちも顔を上げる。

 少なくともその場にいる連中の意志が、一つであるというように。

 

「諦めて、たまるか……!」

 

 その顔を見て。目の前に並ぶ人間たちの顔を見て。

 頭が痛いとばかりにアナザーファイズが、天を仰ぐように首を傾けた。

 

「俺たちが生きてた場所を、アンタに壊されるのは真っ平ごめんだ……!」

 

 何ができるか、などと聞かれて答えられるものは誰もいない。

 だが、何がしたいかなら何度も確かめながらここまできた。

 正直な話、彼らはコロンブスたちが語った内容を半分も理解できていない。

 それでもこれからどうなるかは何となく分かる。

 

 突然攫われ、辿り着いた地底世界。

 そこで一人の男に助けられ、諦めるなと励まされ、いまここにいる。

 夢に見たのは、戻りたいのは、ここに来る前に自分がいた場所だ。

 

 そこを完膚なきまでに壊した後、戻してやると男は言う。

 

 だが―――そんな話で、納得できるものか。

 

 だったら。そんな終わり方に納得がいかないのなら。

 何ができるか分からなくても、ただ諦めることだけはしてはならない。

 それを彼らに誰より示してきたのが、目の前の男だったとしても。

 

「俺たちは、俺たちの家に帰りたいんだ……っ!」

 

 決死の叫びを聞き、ゲイツが僅かに顎を引く。

 対し、そんな連中を前にしてアナザーファイズはおかしげに顎を撫でる。

 

「反骨心を育てすぎたかもなァ。いや、メガロスだのヒュドラだの見すぎたせいで麻痺しちまったのか? そりゃ俺がどんだけ怪物になろうとアイツら程じゃねェわな!

 ……俺がわざわざ、せっかく教えてやったのによォ! 勝てるわけのねェ相手に考え無しに楯突くのは、自殺と変わらねェ馬鹿な話だってよ!!」

 

 アナザーファイズが剣を掲げる。発射態勢に入るミサイルランチャー。

 直撃を避けようと、甲板ごと爆風で巻き込む大威力の弾頭。

 

 それが放たれれば終わりだ。

 仮にゲイツが無事で済んでも、もう爆発を防ぎ切れない以上大勢が死ぬ。

 

 ―――フラッシュバックする。

 脳裏に刻まれた衝撃的な光景が、視界を掠めていく。

 

 吹き抜ける熱風。膨大な熱量が大地を灰色に染めていく。

 それで、共に笑い、共に泣き、共に戦った友が大勢消えた。

 舞い散る灰越しに見据える、最低最悪の魔王。

 ゆるりと手を突き出しただけの彼は、ただ悠然と立っているだけ。

 

 世界を牛耳る黄昏の孤老を前に、地面に這いつくばる自分が砂を握る。

 

 地獄のような光景だった。

 この最悪の世界に生れ落ちてから、ずっと共に戦ってきた仲間たち。

 それが瞬く間に、全て消えてなくなっていたのだから。

 

 瞼に張り付いたその光景を見て、仮面の下で眼球の動きが止まる。

 

 その光景を許せないから、こうしているというのに。

 その光景に後悔したから、ここまできたというのに。

 

 あの光景を、あの未来を、打ち砕くために。

 明光院ゲイツは、いま此処に居る筈なのに。

 

 握った拳が鋼の甲板を擦る。

 

 常磐ソウゴを倒すために。オーマジオウになる前のあの男を倒すために、ここまできた。だというのに、あの男の言葉に乗せられて協力までする羽目になっている。

 少年期の常磐ソウゴと顔を合わせ、言葉を交わし、どこかに迷いが生じたのか。夢を語り、そのために全霊を懸けると言ったあの少年を疑えず、ゲイツが取った行動はその言葉を見極めると拳を下ろして静観の構え。

 

 同じように、まるで夢とばかりに大業を語る男に唆され、疑いもしなかった。

 コロンブスは自分を利用するために近付き、言葉を交わし、レジスタンスを利用し、世界を思うままにするために行動していたという。そう、まるで―――

 

「はぁ……君に任せるのは不本意だが、これも我が魔王のため。

 存分に救世主とやらを演じるといい」

 

 強く握った拳の傍に、がらん、と。

 彼の手元を目掛け、頭上から落ちてくるブランクウォッチ。

 同じように降ってくる声は、どうやらマストの上から。

 見るまでもなくその男の正体を察して、拳を更に強く握り締める。

 

 信じていた、仲間として。ウォズを。

 疑わなかった、肩を並べる相手として。コロンブスを。

 

 なら、本当にこのままでいいのか。

 常磐ソウゴを相手に、自分はこのまま静観していいのか。

 

 一瞬、空の彼方を見上げる。

 とうに見えなくなっている、宇宙にまで昇って行ったジオウ。

 その姿を視線で追い―――雲より高いこの場所で、太陽を見た。

 

「まあいいさ、もう幾らでも代えはいる! 奴隷としても、人質としてもな!

 テメェらの行先は故郷じゃなく、地獄で決まりだ!」

 

 まだまだ船内に回収した男たちはいる。戦力を増やすための奴隷は地上で回収できる。

 アガルタにいた頃は宝石のようだった連中の価値は、もうとっくに底値だ。

 甲板に溢れた連中くらいは、処分してしまっても問題ない。

 その事実を言葉で突き付けて、アナザーファイズは剣を振り下ろした。

 

 号令に従い、発射されるミサイルランチャー。

 そうなった以上、結果は決まった。

 直撃しようが迎撃しようが、爆発は確実に何の力もない人間たちを焼き殺す。

 

 ゲイツが何をしようとそれを避けられない。

 その事実に強く歯を食い縛りながら、彼は手元に落ちたブランクウォッチを握る。

 だがブランクだ。何の力もない。こんなものを使ったところで意味が無い。

 

 握った瞬間にウォッチから感じるのは鼓動。

 感じたものをそのままぶつけるように、そいつを腕のウォッチホルダーに叩き付ける。

 バチン、と音を立てて収まるブランクウォッチ。

 

 そこから手を離してもまだ手に残った熱。

 それを形にするように、ゲイツは腕を振り上げながら武装を召喚した。

 

〈ジカンザックス!〉〈Oh(オー)No(ノー)!〉

〈フィニッシュタイム!〉

 

 斧形態のザックスが燃え上がる。

 それを握ると同時に装填されていた黒と銀のライドウォッチが力を放つ。

 既に発射されたミサイルに向け、ゲイツはそれを全力で振り抜いた。

 

〈ザックリカッティング!〉

 

「あぁああああああ―――――ッ!!」

「ハッ―――!」

 

 振り抜かれた刃が奔る閃光。広がっていく青白い波濤。

 迎撃行動を見たアナザーファイズが爆発に対し、身構えた。

 

 ミサイルを打ち砕けばそこで誘爆し、船上を炎と衝撃が舐め尽くす。

 それで甲板にいるレジスタンスは全員焼け死に、ゲイツもただでは済まないだろう。

 そこを突いて彼を叩き落し、後は悠々と―――

 

 と、衝撃から1秒。そこで爆発が起きない事に不審を抱くコロンブス。

 即座に斧の波動を受けたミサイルを見た彼の目に映ったのは、ミサイルが赤い炎で炎上し、爆発する事もなく灰に変わっていく様であった。

 

「あァン……!?」

 

 空中で止まったミサイルがざらざらと、灰になって崩れていく。

 その威力を発揮する事無く、赤い炎の中で崩壊する弾頭。

 甲板に降り積もっていく灰を見て、アナザーファイズがゲイツにすぐさま向き直った。

 

「何をしやがった……!?」

「……知らん。ただこいつらを、家まで帰そうと思っただけだ!」

 

You(ユー)Me(ミー)!〉

 

 ギリギリと軋むジカンザックス。

 弓形態へと展開した武装を、ゲイツの腕が引き絞る。

 その砲口でスパークする紫炎を見て、アナザーファイズが銃を構え。

 

〈フィニッシュタイム!〉〈ギワギワシュート!〉

 

 それより早く、ゲイツの矢が放たれていた。

 放たれた白い矢は、過たずアナザーファイズに直撃する。

 その瞬間に矢は形を変えて、構成されるのは人の大きさほどもある三角錐。

 まるでそれに縫い留められたかの如く、動かなくなるアナザーファイズの体。

 

 白い光が大気を焼き、立ち昇らせる紫炎。

 その炎を浴びながらも全身に力を籠め、しかし。

 どれほど力を掛けようとも動かない銃を握った腕。

 それに歯噛みしながら、アナザーファイズがゲイツを睨む。

 

「テ、メェ……ッ!」

 

 勢いのままに走り出し、ゲイツが甲板を蹴って跳んだ。

 

「ハァアアアアア―――――ッ!」

 

 両足を揃えて放つ跳び蹴り。

 それがアナザーファイズを縫い留める三角錐と交わり、炸裂した。

 

 叩き付けられる白く輝く光子の暴力。

 体内を突き抜けていく衝撃と撒き散らされる炎。

 その威力に全身を赤い炎に燃やしながら、アナザーファイズが蹈鞴を踏んだ。

 

「ぐ、ォ……ッ!?」

 

 自身を突き抜け背後に着地していたゲイツが、そのまま炎上するアナザーファイズの首を片腕で引っ掴み、背負い投げの格好で投げ飛ばす。

 甲板から投げ出された彼がラピュタの大地に激突、盛大に砂塵を巻き上げた。

 

「クソ、が……ッ!」

 

 光剣を杖に、すぐさま立ち上がる怪人。

 体を揺らして、纏わりついてくる赤い炎を振り払う。

 

 続いて船から飛び降りてきたゲイツが、そのすぐ傍に着地する。

 流れるように振るわれる斧の刃。

 コロンブスは即座にそれに応じ、赤い剣閃でもってそれを弾き返した。

 

 既に力を使い果たしているのか、赤い炎も白い光もない。

 押し切られ、ゲイツの手から弾き飛ばされるジカンザックス。

 無手となった相手を袈裟斬りにし、ゲイツの装甲で火花を散らす。

 

 怯んだ相手に形振り構わず突き出す蹴撃。

 胴体を蹴り抜くその一撃で、ゲイツを大きく吹き飛ばす。

 

「く……っ!」

「サンタマリア号!!」

 

 空中でラピュタに追従している船に向け叫ぶ。

 急がせるのは、ミサイルランチャーの次弾を装填。

 それさえ済めば、今度は完全に無防備な連中が人質だ。

 

 それで連中の動きを制圧しつつ、やるべき事がまずひとつ。

 

 この怪人の体はそう簡単に壊せない、と思っていた。

 が、今の一撃を喰らって感じた。()()()()()()、と。

 よく知りもしない力だが、本能が警鐘を鳴らしている。

 ゲイツが武装に装填していたアレは、奪わないと引っ繰り返されかねない。

 

 ―――いや。

 いきなりそんなものを出してきた以上、あれで終わりとは限らない。

 この力の弱点はジオウだけではなく、ゲイツもだったという事だ。

 早急に撃破しなければならない。

 

 カルデアの連中の方に視線を送る。

 そこでは立香が指示をしているのが見えた。

 

 何を指示しているかは知らないが、取れる手段はほとんどないだろう。

 無事な奴などいない。精も根も、魔力も底をついているはず。

 魔法少女の二人は無尽の魔力があるが、片方は体の方が限界だろう。

 

 であるならば、今まともに動けるのはただひとり。

 美遊・エーデルフェルトくらいなものだ。

 だが少女一人でサンタマリアまで助けに跳んだところで、解決するような状況ではない。

 

(まだ悪くねェ、船は地上に降ろさなきゃ人質にとって監獄同然。カルデアはほとんど手出しできねェ。手出しできたとして、下手に撃墜すりゃ人質ごと真っ逆さま!

 サンタマリア号はラピュタを爆撃しつつ上空で待機。俺はまず速攻でゲイツの奴を始末! 戻ってくるだろうソウゴの奴を、人質を盾に迎え撃つ―――!)

 

 反撃したら人質に被害がでるかもしれない船の上から絨毯爆撃。

 それが理想だったが、自分がラピュタに落とされてもまだどうとでもなる。

 相手が破壊できるできないとは別に、反撃できない事実に変わりはない。

 サンタマリア号が空中に居る限り人質の救助は叶わない。

 宝具でも使えればまだしも、それができないのでは接近すらできまい。

 

 押し返したゲイツに向け構える銃。

 彼が船上の状況に気を取られている内に、決着をつける。

 間を置かず引き金を引けば、発射される三つの光弾。

 

 ―――その光弾が、空中で同じく赤い光弾で相殺された。

 

「んだと……ッ!」

 

 揃って弾け飛ぶ三点バースト。

 銃弾を銃弾で撃墜してみせた相手を見れば、そこにいたのは一人の女。

 片膝をついただけの即席の狙撃体勢。

 

 そうして銃撃をやり遂げた女は、立ち上りつつゲイツに叫びかけた。

 

「ゲイツ、立って! いまそいつと戦えるのはあなたしかいないの! お願い!」

「ツクヨミ……」

 

 ツクヨミの姿を見て、ゲイツの視線が揺れる。

 アルトリアは同行していない。ペンテシレイアとの戦闘で限界だったのだろう。

 

 迷いなくジオウと共に戦ってきた彼女を見て、ゲイツが戸惑いを強くした。

 時間をかけて納得したのか、あるいは自分の知らない何かを知っているのか。

 逡巡する様子を見せたゲイツに対し、ツクヨミが困惑を示す。

 

「ゲイツ……っ!?」

「さあ、我が救世主。今の君ならこの程度の状況、どうとでもなるとも」

 

 突如ツクヨミの隣に現れた白ウォズ。

 彼の手がツクヨミの手からファイズフォンXを掠め取り、そのままゲイツへと放り投げた。

 咄嗟に掴んで、白ウォズへと顔を向ける。

 

 白ウォズが人差し指を立て、怪しく微笑んだ。

 

(スリー)(エイト)(トゥー)(ワン)だ」

「―――――」

 

 一応、彼の行動は自分の助けになっている。

 怪しさしか持っていない男だが、言われ通りにファイズフォンXのキーを叩く。

 すると、地面に転がったジカンザックスに装填されたウォッチが輝く。

 

〈Jet Sliger. Come Closer〉

 

 がたがたと震え始めるサンタマリア号。異常の動作、それを見て制御しようとして―――しかし自分の意志で自由に動かない事を理解して、コロンブスが愕然とした声を出す。

 

「オイオイ、俺の船だぞ!?」

「自業自得だね」

 

 船を仰ぐアナザーファイズを嘲笑う白ウォズ。

 

 アナザーファイズとして力を与えた宝具に、デルタウォッチの力が割り込んだ。

 その乗機がどちらのものでもある以上、一隻しかないそれは奪い合いになる。

 そんな奪い合いになったことを察したのか、ツクヨミが即座に叫ぶ。

 

「ゲイツ、船を下ろして!」

「……、させるかよ―――ッ!」

 

 光剣を手に、アナザーファイズが疾走する。

 ファイズフォンXを手に、船を見上げていたゲイツに対して振るわれる一閃。

 正面からの袈裟斬りが直撃し、滂沱と火花を噴き出すゲイツの装甲。

 

 よろめき、蹈鞴を踏んで、そうしている間に再び一撃。

 盛大に火花を散らして赤いボディが宙を舞う。

 

「ゲイツ!? どうしたの……っ!」

 

 地面に叩きつけられ、転がって。

 そんなツクヨミの言葉に、自分こそどうしたと言ってやりたいと心の中で吐き捨てる。

 

 そうしている内に距離を詰めているアナザーファイズ。

 彼が切っ先を下に向けた剣を両手で握り、ゲイツの咽喉目掛けて突き下ろす。

 その刃を咄嗟に掴み取り、そこで何とか止めさせる。

 

 刃の熱で白煙を噴くグローブ。

 過負荷で限界までのカウントダウンが始まるライダーゲイツ。

 完全に勝った体勢のまま、コロンブスが口端を歪めた。

 

「―――あァ、お前。俺を疑えなかった事がショックなわけか!

 そうだよなァ! 俺を疑えなかったって事は、自分の目が節穴だって証明されたって事だもんなァッ! つまり、ソウゴを信じようとしてる自分も信じらんねェって事だよなァッ!!」

 

 笑いながら言葉にされて、ゲイツが呻く。

 これだけの正体を持っていたコロンブスを疑えなかった自分が、常磐ソウゴの言葉を信じていいのか。あの言葉に自分が感じ入ったものなど全部幻想で、やはりオーマジオウの未来が待っているのではないか。そう考えないわけにはいかない。

 

 ―――だが。ただやはり信じられない、と切り捨てる事ができない。

 

 何を踏み躙ろうと自分ができる最大の目的を目指すコロンブス。

 自分の場所に帰りたいと願っているレジスタンスたち。

 そして、最高最善の魔王になると口にしたジオウ。

 

 少なくとも、ゲイツにはそれら全員の言葉が真摯な願いに思えた。

 そこに本気の、何より強い感情が燃えていると思えた。

 

 コロンブスでさえ、夢に懸けた情熱自体には疑いの余地がない。

 そんな感情に対して、どう立ち向かえばいいのかが分からない。

 

 そうして全力で生きる者たちの想い自体には、共感さえしてしまうからこそ。

 

「ゲイツ……」

「やれやれ、我が救世主の甘さにも困ったものだ……」

 

 ツクヨミの隣で白ウォズがビヨンドライバーを取り出す。

 そんな彼をツクヨミは強く睨み―――白ウォズがドライバーを腰に装着しようとした瞬間、彼が持っていたドライバーを両手で掴んで奪い取る。

 

 ついさっきファイズフォンXを奪われた意趣返しも込めてか。

 そのまま彼女は、ビヨンドライバーを全力で明後日の方へと投げ捨てた。

 思いきり投げ飛ばされたドライバーを唖然として見送り、白ウォズの眉が歪む。

 

「ツクヨミくん、君は一体何を考えているのかな」

「ゲイツ!!」

 

 眉を怒りでひくつかせる白ウォズを無視し、ツクヨミが声を張り上げた。

 

「私たちはきっと、いつだって私たちなのよ……!

 私たちはいま、ここにいるみんな全員が―――同じ時代で、一緒に生きてるの!

 あなたの決めたことは、他の誰かが決めたことと、同じだけの価値があるはずよ!」

 

 彼女だって答えを持っているわけではない。

 いいや。あの時からずっと、まだ答えなんて出ていない。

 

 それでも、思う事はある。

 ソウゴも、立香も、マシュも、カルデアの皆も、サーヴァントの皆も。

 現代の人間も、過去のサーヴァントも、未来から来た自分たちも。

 カルデアのある現代で、レイシフトしてきた過去の世界で。

 

 いまこの瞬間は、この時代で生きている。

 

「だから、信じたことも、許せないと思ったことも、なかったことにしないで。

 その上で―――いま! 戦うために立って!!」

 

 未来を変えるためではなく、現在に感じた想いを守るために。

 

 オーマジオウを倒すために彼女たちはこの時代にきた。

 だがこの時代で作ったしがらみは、それ以外の目的意識を彼女たちに与えたはずだ。

 ツクヨミだけではなく、ゲイツだってこの短い間でもそうであるはずだ。

 

 未来だけを考えて、現在の足を止めないで欲しい。

 彼女自身も纏められない、唐突な言葉。

 そうして叫ばれた千々に乱れたツクヨミの言葉を、どう受け取ったのか。

 

 剣を押し返しながら、ゲイツが呟く。

 

「奴は……」

 

 ライダーゲイツの装甲がスパークする。限界が迫る赤い鎧。

 それを意にも介さず、ゲイツは力任せに突き付けられた剣を押し返す。

 押し返されるその力を受け、舌打ち混じりに逆に押し返すアナザーファイズ。

 

「最高最善の魔王、とやらになりたいんだってな……!」

 

 徐々に自分の首に迫りくる赤い切っ先。それを押し込む事にコロンブスが集中した瞬間、ゲイツが片手を剣から離した。拮抗していたバランスが崩れ、一気にゲイツに迫る剣。

 その瞬間、力のかけ方を変える。押し返す方向から逸らす方向へ。突き下ろされる剣の方向を変え、首を掠めていく軌道に移す。狙いを逸れて、ゲイツの首を掠め地面を抉る剣。

 

 その事実に舌を鳴らし、アナザーファイズはすぐさまその状態から更に横一閃に薙ぎ払おうとする。その刃が己の首に届く前に、ゲイツは傍に落ちていたファイズフォンXを掴み、アナザーファイズの胴体に向けていた。

 

「―――だったら、望み通りにさせてやる……!」

 

 引金を引くこと一度、三点バースト。

 連続して発射された弾丸が、アナザーファイズの胴体で炸裂した。

 

「ガ……ッ!」

 

 押し返されるアナザーファイズ。

 起き上がろうとしたゲイツの横目に、ジオウⅡが投げ捨てた剣が見える。

 ジオウⅡを変身解除した事でサイキョーギレードの消えたジカンギレード。

 

 それを見て、ホルダーに装填されたウォッチの鼓動が加速する。

 そんな感覚に従って剣に向け飛び込むゲイツ。

 彼の腕が剣を握れば、ギレードにウォッチが自動的に装填された。

 黄色と黒のライドウォッチ。その力を纏った武装を、アナザーファイズへ。

 

〈ジカンギレード!〉〈ジュウ!〉

〈フィニッシュタイム!〉〈スレスレシューティング!〉

 

 銃形態のギレードから吐き出される黄金の弾丸。

 仰け反っていたアナザーファイズがそれを防ぐために剣を前に。

 しかし着弾と同時に弾丸は弾け、光の帯をアナザーファイズの体に走らせた。

 まるで彼を光の網に捕らえるように広がる光芒。

 アナザーファイズが、先程と同じようにその体を拘束される。

 

「ま、た……! こ、ンのォ……ッ!」

 

 ギリギリと軋む光の拘束。

 それが打ち破られる前に、ゲイツがジカンギレードを振り抜き、刃を回す。

 

〈ケン!〉〈フィニッシュタイム!〉

 

 刀身を黄金に輝かせるジカンギレードを逆手に握る。

 その状態で腰を落として構えたゲイツが、強く地面を踏み切った。

 加速するゲイツの前方に浮かぶ、光の剣閃。

 

「でぃいやぁあああああ―――――ッ!!」

 

 フォトンブラッドが描き出すのは黄金のX。

 発生したその光と共に、刃を構えて突撃するゲイツの姿が、アナザーファイズと重なった。

 迸る光のエネルギーをその瞬間に叩き込み、擦り抜けるその一撃。

 体内で爆発する黄金の光。体に刻まれたXの軌跡が、怪人を青い炎で炎上させる。

 

「ぐ、ご、ぁアアア―――ッ!」

 

 その炎を強引に引き裂き、復帰するアナザーファイズ。

 先程と同じく背後に突き抜けていたゲイツに対し、彼は振り向きざまの剣撃を浴びせた。

 背中に直撃を受け、ゲイツが吹き飛ばされる。

 弾かれるように手を離れて、地面を滑っていくジカンギレード。

 

「クソ……ッ! やっぱりこいつは効いてるよなァ……!」

 

 炎上した箇所を強く押さえて、アナザーファイズは息を切らす。

 聞いた限りでは、普通には倒しようがない筈。だが間違いなく、このまま同じような攻撃を受ければこの怪物は破壊される。それを感覚で理解して、コロンブスは顔を上げた。

 とにかく人質を奪い返さなければ、このまま負けかねない。

 

 彼の視線が向かうのは、彼がもう片手に持ったファイズフォンX。

 まだサンタマリアの制御が取り戻し切れない。

 なら、原因らしきあのガジェットを奪い取り、壊すしかあるまい。

 

 自分の実力を過信はしない。ああも通用する攻撃を何度もどこからか引っ張り出すゲイツには、そもそも近づきたくもない。だがジオウが帰還すれば余計に状況は不味くなる。

 その前にサンタマリアのコントロールは何としても取り戻さねばならないだろう。ここで日和れば負けるしかない場面。だとすれば、足は前にしか動かせない。

 

「だがまだだ……! まだ俺は負けてねェ! 諦めてねェ!

 何としてでも、俺は俺の夢に辿り着く―――!」

 

 そう言って剣と銃を構え直すアナザーファイズ。

 

 彼の前で立ち上がるゲイツが、手にしていたファイズフォンXを畳み込む。

 そのままそれをホルダーへと装着し―――代わりに、ホルダーに装着したブランクウォッチに触れた。

 何故そうしたかは、ゲイツ自身にさえ判然としない。ただまるで導かれるように、彼はその何も描かれていないウォッチに手を伸ばしていた。

 

「夢を語る誰の言葉が正しくて、正しくないのか。俺には分からない……」

「あぁん……?」

 

 誰もが真摯だからこそ、踏み込み切れない。あの絶望の未来を打ち壊すためであっても、確かに今を生き、全霊を尽くしている現在の人間を止め切れない。

 それを理不尽に阻むためにでは、ゲイツは全てを懸けた一歩が踏み出せない。

 

「……俺にはそうして夢に挑む連中を阻む事が、許されるかどうかさえ分からない」

 

 ゲイツの手が、ブランクウォッチを握る。

 

「お前は、手にしたチャンスで夢が叶えられない事が罪だと言ったな。

 なら、誰かが夢を叶えようとするのを阻むのも罪なんだろう」

 

 それがどれだけの地獄を呼ぶ悪夢であっても。

 夢に向かって突き進んでいる者にとっては、全てを懸けた足取りである事に疑いなく。

 その想いの強さに立ち向かうには、きっと同じだけの熱が必要になる。

 

 火種はある。あの地獄の中で燃やし続けた激情は常にある。

 しかし、それを過去の相手に向けきれないだけ。

 

「だが……お前が追い求める夢の世界は、他の誰かが目指す夢に続く道を壊す。

 だから、そんな悪夢を躊躇わないお前のような奴が、俺が戦うべき敵だ」

 

 ああ、きっとそうなのだろう。

 ひたすらに夢を目指す連中を止める事は、どんな事情であれ罪は罪なのだろう。

 たとえその夢の内容がなんであれ、そこに懸けた想いに嘘が無い以上は。

 

「罪を犯す事でしか、何かを踏み躙る夢を止められないなら……

 俺は、俺自身の意志でこうする事を選ぶ」

 

 もし、ジオウがオーマジオウになる未来がそこに見えたら。

 ただ常磐ソウゴを倒し、止めるのではない。

 彼が今まで見続けてきた夢を、完膚なきまでに踏み躙らなければいけない。

 それだけの熱量がそこになくては、ゲイツはジオウに勝てはしない。

 

 進もうとする意志を阻むには、それを上回る意志がなくてはならない。

 結論がどうであれ、世界を良くしたいと意志が今までのジオウを作ったならば。

 それ以上に強い想いが、ゲイツの中に無くてはならない。

 

 ……オーマジオウに奪われたもので、ジオウにそれだけの感情は抱けない。

 今まで奪われたものは、全てオーマジオウがやった事。

 甘いと言われようと、今のジオウにその感情は向けられない。

 そんなやり方では、逆にジオウに打ち負かされるだけなのだ、きっと。

 

 ―――だからこそ。

 

 本当に、必要な事として、ジオウを見極めなければならない。

 そうでなければ、自分の方こそ前に進めないとやっと腑に落ちた。

 

 オーマジオウの未来で味わった事ではなく、ジオウの持つ夢を打ち砕かなければならないと納得できて初めて、ゲイツはジオウに全てを懸けて立ち向かえるようになれる。

 オーマジオウへの感情なんて不純物が混じっていたら、本当の意味でジオウを倒すべき敵と見れる時はやってこない。ジオウはオーマジオウではなく、オーマジオウはジオウではない。少なくとも、ゲイツの中ではそうである必要がある。ジオウを倒す理由はオーマジオウに無い。彼の夢がオーマジオウのように破滅を呼び込む時こそ、ゲイツは真にその確信を得られるのだ。

 

 確信を得たいか、というならば。きっとそうではない。

 そんな夢が、世界中の人を幸福にできるような夢が叶うなら、それ以上はないだろう。そうあってくれたなら、拳を振り上げないままに終われるなら、きっとそれが一番いいに決まっている。

 

「誰かの夢を当たり前に踏み躙るような夢を砕く事を、俺はもう迷わない。

 そんな悪夢を壊す事さえ罪なのだとしたら、俺は―――望んでその罪を背負う」

 

 一拍置いて、アナザーファイズにそう宣言する。

 どんな夢であろうとそこに輝きがあると認めて、その上で。それが地獄を生み出すならば戦う。

 その結論が、明光院ゲイツが自分が一番迷いなく前を向けると出した答え。

 

 だから、こいつとは戦える。コロンブスの夢は打ち砕ける。

 そうしなければならないと、頭と心が出した答えが合致している。

 ジオウを相手には、まだ答えが出せていなくとも。

 

 アナザーファイズは、コロンブスの夢は、倒さねばならないと確信できている。

 

 それがたとえ、どれほどの罪なのだったとしても。

 この戦いは、その罪は、己の意志で背負い込める。

 

 握り、突き出したブランクウォッチが色付いていく。

 黒いベゼルの、銀色のウォッチ。

 ゲイツの指がベゼルを回し、ウォッチの表面にレジェンダリーフェイスを完成させた。

 スターターが押し込まれると、フェイスから黄色い眼光が放たれる。

 

〈ファイズ!〉

 

 起動したウォッチをドライバーへ。

 そのままロックを外し、両手を交差させてドライバーの両端を掴む。

 手を引けば、勢いよく回るジクウドライバー。

 

〈ライダータイム!〉〈仮面ライダーゲイツ!〉

〈アーマータイム!〉

 

 ジクウマトリクスが現出させるレジェンドライダーの力。

 四肢に装着される黒いアーマー。

 胴体を覆う銀色の装甲、エクシードブレスター。

 肩部には開いた携帯電話のようなユニット、フォンギアショルダー。

 

〈コンプリート!〉

 

 体の表面を走り抜ける赤い光。

 装甲の上で稲妻のように弾ける力を払うように、軽く腕を振るう。

 そうした彼の頭部に迫ってくるのは黄色い“ふぁいず”の文字。

 

〈ファイズ!〉

 

 顔面に合体するインジケーションバタフライ。

 そうして変身を完了した彼が、ようやく。

 一切の迷いなく、敵としてアナザーファイズの姿を睨み据えた。

 

 対峙するのは二人のファイズ。

 両者の間で散る赤い燐光、その光越しに交わる黄色い眼光。

 握った拳を持ち上げて、ゲイツは敵として見たコロンブスにただ告げる。

 

「―――そこを退け。ここから先に、お前の夢に続く道はない」

 

 

 

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