Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー 作:アナザーコゴエンベエ
ブースターモジュールから噴き出す炎。
その推進力で重力を振り切り、命を許さない暗黒にまで駆け上がる。
そうして辿り着いた宇宙空間に、ぽつりと浮かぶ人型が見えた。
「見つけた―――!」
『現状でも魔神の反応はないけれど……フェニクスは死と再生を司る魔神。恐らくはその性質を利用して、生命の存在を許さない宇宙空間に身を置く事で、
ロマニの声に頷いて、そのままブースターで加速する。
その接近を把握していたのだろう、フェニクスがそこでようやく体を動かした。
腐肉の人型は僅かに頭を上げると、その背に炎の翼を現出させる。
宇宙で咲き誇る魔神の猛炎。それを一度羽搏かせ、彼は言葉を歌い出す。
「生死混濁/我は混沌に身を置くが故に定まらず、不可知。
生者に非ず/死者に非ず/不死にして不定の命。
不可避なる生と死の輪廻より、我が翼でもっていざ羽搏かん―――!」
フェニクスの腕が動き、己の顔を掴んだ。
一挙手一投足、口にする言葉。その全てから滲みだすのは、人類への憎悪。
彼がそうすると同時、炎の翼が大きく羽搏き、周囲に熱波をばら撒いた。
「“焼却式 フェニクス”―――――――!!」
高みから降り注ぐ炎の雨。
躱す事を一瞬考え、しかしジオウはそのまま直進する事を選んだ。
全身を叩く熱波。その熱量を、フォーゼアーマーが吸収する。
それを推力へと変えて、ジオウはフェニクスへ向かって加速した。
「……あの魔神、もしかしてシェヘラザードと」
同じ願いを、と。
そう口にしようとした迫るジオウを睨み、フェニクスの火勢が大きくなった。
憎悪が増す。憎悪を燃やし、火勢が増す。
降り注ぐ炎の雨が、まるで炎の滝のようにジオウを呑み込まんとする。
自身を削りながらその火力を発揮するフェニクスが叫んだ。
「―――おのれ……! おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれェ……ッ!!
何が文化だ、何が文明だ、おのれ知性体どもがァ……ッ!!」
絞り出す言葉が憎悪で濁り、炎と共に降ってくる。
炎を吸収し、自身の力に変えるフォーゼアーマーとて、無限に炎を吸収できるわけではない。
フェニクスが命を削り燃やす炎に、吸い取れる許容量が迫ってくる。
限界以上にエネルギーを注ぎ込まれたブースターが悲鳴を上げ、黒煙を吐き出した。
「なぜ死に意義を見出した! なぜ生に意味を定義した! どうして生と死を循環するものとしたァッ!! 貴様たちが死生観など設定するからこんなことになる! ただ生きて、ただ死んでいればよかったものを!」
不死鳥の悪魔が叫ぶ。ただ生まれて、死ぬだけでいればよかった。
だが人間は生に、死に、意味を与えてしまった。
スタートとゴールが無限に連なって、積み重なっていく世界を描いてしまった。
―――地獄の始まりだ。
不死などという属性を生み出したのは、そうした人間どもの夢想にすぎない。
「貴様たちの文明が我を生と死の円環に捕らえた!
そうして縛り付けられた我に、貴様たちは貴様たちが築いた
地獄の業火が燃え盛り、炎の翼が更に炎上する。
命を燃やして翼を燃やし、しかし彼の命は既に燃え尽きているが故に不調は発生しない。
生者であり。死者であり。生が死に変われば、死が生に変わる。
彼は誰にも殺せない。いや、殺しても生き返る。
そう決めたのは人間だ。人類が自分をこんなものにした。
「ふざけるな―――ふざけるな! おのれソロモン、何が巡礼だ……ッ!
死に辿り着ける貴様たちに、永劫繰り返すしかない我の苦しみが理解できるものか!!」
『フェニクス……!』
吸収した熱を全てブースターに回し、発生するオーバーヒート。
フォーゼアーマーの手にしたブースターが一つ、完全に焼損した。
火を噴くそれを投げ捨てながら、残された一つでジオウは進撃を続ける。
時間を経るごとに加速していく炎の雨、それを前に止まる事はできない。
もう片方のブースターもまた、すぐに限界が見えてくる。
「その巡礼は此処で終点だ! 貴様たちの望んだ旅路など、此処から先に用意してたまるものか……! 貴様たちの築いたものは全て灼き払う! あらゆる文化! 文明! 思想! 観念! 貴様たち知性体を餌にして、異形なるものどもをあの星に跋扈させる―――!」
あの星に、あの星の上に、今の
必要なのは、生にも死にも意味を見出さないモノ。
地上の覇者はそんな生命体であればいい。
そうすれば線引きを曖昧にされる事もないのだから。
「神! 精霊! 妖魔! 何でもいい、人類でさえなければ! 人間だけだ! 人間だけ! 貴様たちだけが文明や文化などという、生命活動に付随する余分を生み出すのだ!! 故に! 人間以外の何かによって、あの星を支配させる!!
神性、妖精、吸血種……! あらゆる超越種さえ、地上に築くものはいつだって貴様たちの模倣だ!! 奴らの在り様は新たなものを創らない……! 発生した理由だけで完結している! そこに何かが残るとしても、人が意味を見出し築いたものを、意味を見出す事無くただ完全に運営し続けるだけの真似事だ……! そうだ、奴らに文明や文化を解して歌う知性は生まれない―――! ただ、貴様たちだけがァッ!!」
フェニクスの憎悪が、ジオウ越しにロマニ・アーキマンを睨む。
「刮目せよ、ソロモンだったもの! この時代をもって……! 貴様が神より人間に受け渡した地上の支配権を、我が別の生命体に明け渡す―――!!」
雪崩れ込む炎の渦。それを一身に受け止めて、限界を迎えるフォーゼアーマー。
吸収しきれずに溢れ出す炎。残りのブースターもまた焼損し、爆発四散した。
その爆発に押し返されて、ジオウが炎と共に宇宙空間に流されていく。
魔神が力の行使に対する反動に顔を軋ませながら、その姿を視線で追う。炎を放つ翼もまた、その動きに連動するように。
ジオウを目掛け、天上から降り注ぎ続ける熱波のカーテン。炎の滝のようなその光景が、バランスを崩したジオウを呑み込んでいく。
「貴様たちの繁栄だけは赦すものか……!! 他の何があの大地に隆盛しようと、貴様たち人類だけは蔓延らせるものか……! 滅びろ、滅びろォ―――ッ!!」
眼下に発生する焦熱地獄。
それを見下ろしながら、フェニクスは更に翼の火力を振り絞った。
「―――祝え! 彼こそは闇を切り裂き、光をもたらす
その名も仮面ライダーゲイツ・ファイズアーマー!
いまこの時代に、この地上に、真の救世主が降り立った瞬間である!」
はためく白い衣。大仰に手を振るい、ゲイツの背後でそう宣言するのは白ウォズ。
拾ってきたビヨンドライバーを手にした彼が、黒ウォズのような事をしていた。
それに対し、胡乱げな視線を向けるツクヨミ。
彼女は彼を数秒見た後、まだ船の上にいる黒ウォズの方に視線を向ける。
マストの上に立っている黒ウォズは、どうでもよさげに肩を竦めた。
周囲の状況を確かめながら、アナザーファイズが顎を擦る。
「ハ―――ヒデェ言いようだ。俺はただ、自分の夢に一生懸命なだけなのによォ」
「お前が正しかったとしても。間違っているのが俺だけだったとしても。
俺はもう、お前の前から退く気はない」
拳を握り、腰を落とすファイズアーマー。
それを目の前にしながら、アナザーファイズは剣を握り直した。
視線を向ける先はゲイツの手にしたファイズフォンX。
ゲイツの指がキーへと向かい、押し込んでいく。
「―――そうだよなァ。進むも退くも、間違ってるかもしれないなんて迷って足を止めるのも、同じだけの時間を使うわけだ。考えなけりゃいけねェ事はあるだろうさ、動き始めたって考える事を止められるわけじゃねェさ。だが考えて動こうとしてからやっぱナシにして、もっかい悩むためにいったん中止じゃそりゃ時間の無駄ってもんだ。
じゃあ後は前に進むしかねェよな。考え抜いた癖に動いた後にいちいち止まってたら何もできやしねェんだからよ。あんだけうじうじ悩んでたんだ、考え無しじゃねェだろう?」
〈レディ! ショット・オン!〉
ゲイツの右手が出現したデバイスを握る。
拳の保護具、性能はコロンブスも自分で使っておおよそ把握している。
「海も風も時代も! 誰も待っちゃくれねえェからなァ! たった一つ言えることは、動く理由が他の奴から見て正しかろうが間違っていようが、どんな時だって前に進む事ができるのは、いつだって自分の足を動かしてる奴だけだってこった―――!!」
踏みつけられ、地面が弾ける。赤光を曳いて迫るファイズアーマー。
そうして向かってくるゲイツに対し、剣を横薙ぎに振り切るコロンブス。
体勢を低く、それを潜り抜けながら体を半回転。
その勢いのままに振り抜いた拳が、アナザーファイズの鳩尾に叩き込まれた。
全身で感じる、体に突き抜ける感覚。
こうして打ち続けられれば、やがてこの力は砕ける。
それを改めて確かめつつ、アナザーファイズは剣を乱雑に振り下ろす。
振り上げられたゲイツの拳と剣が激突し、火花を散らした。
激突の末に弾き返されたアナザーファイズ。
彼が吹き飛ばされるのに合わせ、ステップを刻みながらゲイツから距離を取る。
(時間は俺の味方! ラピュタが墜ちるまで俺が無事でいればいい!! 魔神がどんなもんかは知らねェが、こんだけどでかい仕込みをやったんだ! そう簡単に死なねェはずだ! ここにきて簡単に死ぬような執念で、こんな事はできねェに決まってる!
余計な問答おおいに結構。口で時間を稼ぎつつ、隙を見てサンタマリアのコントロールを奪い返す! 俺のこの鎧を壊せるのは現状ゲイツだけ! 人質さえ取り戻せば余裕で―――!)
更なる踏み込み。赤光を帯びる拳と、突き出された剣が衝突。
激しく明滅するフォトンブラッドの光。
その鍔迫り合いを維持しつつ、アナザーファイズが肩に力を籠める。
恐らくは、ゲイツが手にしたあの銃を奪えばいい。そうすればサンタマリア号は取り戻せる。
そうであるならば簡単だ。ギリギリを見極め、切り札を切る。
ゲイツは直情型である。視野を自分に集中させ狭めさせれば、チャンスは作れる。
完璧なタイミングを図る、そのための行動に移るコロンブス。
―――そんな彼の耳に、背後からの美しい声が届いた。
「……とても、怖い。あの時と同じように死ぬという事は、二度と味わいたくない感覚です」
シェヘラザード。既に失敗した女。だが彼女にもまた運が向いてきた。
彼女は結末を見届け、物語として語らねば意味がない。
この戦いを千夜一夜物語に加える事で、英霊として破綻するのが目的なのだから。
ヒュドラこそ失ったが、自分を狙うメガロスは潰えた。
この状況でわざわざシェヘラザードに構うほど、カルデアも暇ではない。
このままコロンブスの思惑通りにラピュタが動けば、彼女も目的を果たせるだろう。
だがそんな状況でなお俯いていた女が突然、心情を吐露し始めた。
その声はよく通り、彼と切り結ぶゲイツにも届いたようだ。
互いにかける力が僅かに緩む。時間だけが欲しいコロンブスからすれば好都合な事に。
「笑って死ぬ、なんて。私には無理です。絶対に。
そんな恐ろしいものに、笑って立ち向かえる人間ではありませんから」
フェルグスの死に様を見届けて、より恐怖に震える声。
暴虐に対して決然と立ち上がった女の心はとっくに死んでいる。
だからこそ、彼女はこの浮島にいるのだから。
「私の勇気は失われ、正義感などというものは嘘になった。
死に顔は、きっと恐怖一色だった事でしょう」
たとえ死ぬ事になってでも戦う、なんて。
そんな覚悟はもうできない。
今の彼女にできるのは、恐怖からの逃避だけ。
顔を背けて、視線を逸らして、目を瞑って。
見たくないものを見ない事しかできない。
「もう死にたくない、という願いを捨てる事はできない。ですが―――」
―――空中で停止していた船が、動き出す。
その事実を認識した瞬間、コロンブスが愕然としながら視線を上に向けた。
流石に振り返るほどの余裕はない。
だが明らかに、シェヘラザードが何かをして、サンタマリア号が動き出していた。
「な――――!?」
「……千夜一夜の結末は大団円。救われた王と語り部が結ばれて、経験した千夜に語られた物語を“
果たして、そんな結末を迎えた女であれば死を恐怖する事なく迎える事ができたのか……」
女がそこで息を吐く。次に出てくる言葉へと耳を引き寄せるような一呼吸。
彼女が生涯をかけて誇る、最高の話術。
「今回は……もし私の物語が大団円であったなら、死への恐怖を克服できていたのかもしれない、と。恐怖に震えながら、そう夢見る事にとどめておきます」
そんなもしもの話。
女は死と恐怖に囚われ堕ちた。だが物語の中で、女には幸福な未来が与えられた。
果たして、あの地獄の彼方に幸福を迎えていれば、彼女はどうなっていたのだろう。
恐怖を克服できたのか、或いは表には出さずとも伴侶となった王を恐怖し続けたのか。
―――ただ、まあ。それが彼女が語る“物語”の一つであるという事ならば。
女はただ幸福に終われていたと、そう語るだろう。
だって何より、それが綺麗だろう。
彼女自身が生き延びるためにどんな事をする女であったとしても。
それでも、語るべき物語には嘘はつかない。
“語ってくれ”と願われた物語に、嘘を織り交ぜる事はしたくない。
だから、ここではもう。
彼女の語りをねだった王に免じて、ただ語るにとどめるしかあるまい
「……船乗りシンドバッドは冒険を求め海に出て、波乱万丈な冒険の果てに、それでも故郷へと帰り着く。シンドバッドの船は難破するでしょうが、彼は……彼らはきっと、無事に帰る事ができるでしょう」
震える女の手が杖を握り、物語を語る。
シンドバットは冒険に出るたび、船を難破させては大冒険に繰り出した。
その果てにいつだって生還し、次なる冒険に繰り出すのだ。
コロンブスとゲイツ、吊り合っていたサンタマリア号の操船。
それが更に外から干渉されて、引きずり降ろされていく。
このまま彼らが乗った船は大地に叩き付けられ、そのまま動かなくなるだろう。
「彼らを故郷に返す事に否やはないのでしょう?」
「クソがァ……ッ!」
剣に力を籠める。打ち合っていた拳がずれる。
力尽くで押し込もうとしたアナザーファイズが体勢を崩した。
その直後、再びゲイツが拳を振り抜いて怪人の顔面へとその一撃を叩き込む。
罅割れる顔。それを押さえながら、蹈鞴を踏んで後ろに下がるアナザーファイズ。
追撃をかけるために踏み出そうとするゲイツの前で、コロンブスが叫んだ。
「幾らテメェらが船を奪おうとしたところで、奪えねェモンがある! 船そのもの以上に、これこそ俺が、夢の大地に踏み出すための足掛かりなんだからよォッ!
錨を下ろせ、サンタマリアァ――――ッ!!」
徐々に高度を落としていくサンタマリア。
その船上から射出される、錨のついた鎖の渦。
螺旋を描きながら地面へと叩き付けられる鉄鎖の暴威。
「く……ッ!?」
高度が下がっていた事で距離が縮み、逆に不意打ちとしての精度が増していたか。
頭上から突然暴れ狂う鉄鎖を見舞われた事で、ファイズアーマーが足を止める。
その鎖の渦によって生まれた隙に、アナザーファイズが即座に銃を取った。
迷いなく放たれる赤光弾の三点バースト。
それは過たず、ゲイツが手にしていたファイズフォンXを撃ち抜いた。
「ちぃ……!」
ゲイツの手から弾き飛ばされるデバイス。
その瞬間、サンタマリアのコントロールがコロンブスへと帰ってくる。
確かなその感覚に、怪人の鮫の牙のような口が歪む。
「ハッハーッ! これで形勢逆転だなァ!
少しでも動いてみろ、船の上の連中は木っ端微塵――――!」
「あら、それはどうかしら?」
その声に、コロンブスが唖然としながら空を見上げた。
高度を落とす船。地面に向かって落ちていくサンタマリア号。
コントロールを取り戻してなお、落下は免れない。シェヘラザードはアガルタに流れ着いた者たちを、シンドバットに見立てて語った。ならば、彼らが乗っている以上、サンタマリア号には難破が約束されている。まして、サンタマリア号は座礁して、コロンブス自身が乗り捨てた船だ。使い物にならなくなる結末は回避できない。
そんな船の甲板に取り残されている筈の人間たちが、宙に取り残されている。
まるで、更に上を飛ぶ円盤に引き寄せられているように。
「エ、レナ……ッ!」
エレナ・ブラヴァツキーが銀色の円盤の上で微笑む。
それが生み出す引力が、船上に取り残された人間を全て吸い上げていた。
空中に取り残された者たちは、その状況に目を白黒させている。
彼女を縛っていたのはシェヘラザード。
その呪縛が解かれたとするならば、エレナは確かに動ける戦力になる。
「だがァ! テメェらに船を壊す事はできねェ!!
人質はこっちの腹の中にいるままだ! まだ戦える目はある筈だよなァ!!」
その声と同時、サンタマリア上部に展開されたミサイルランチャーが動き出す。船を落とされるのは免れない。そして難破の果てに生還するシンドバットの皮を被せる事で、中にいる連中を落下の衝撃が守る算段もついているのだろう。
だが座礁しただけで船のコントロールは取り戻している。船上にある火器は全て運用可能だ。それを止めようにも、異形化したあの船を壊せるのはゲイツだけ。そして下手に破壊すれば、中の人質諸共になるだろう。勝利条件は時間なのだ。まだ十分、自分にはカードが残されている。
「……それは、あなたに不都合な真実が明かされなければの話でしょう」
「あ?」
シェヘラザードの声に振り向けば、そこにはこちらを見ている女が。
彼女は、ただこの島の真実を告げる。
「
「―――――」
一瞬、コロンブスが止まる。だが彼は即座にシェヘラザードに銃を向け、発砲。
しようとした瞬間、ゲイツからのタックルを受けて揃ってもんどり打って倒れた。
その状況で片目を瞑り、カルデアからホームズの声が聞こえる。
『ミス・キリエライト、エルドラド周辺の現在の状況は?』
『え? あ、はい。先程通り、エルドラド周辺は未だに都市が健在で……』
『
『え、と。は、はい。センサーで観測する限りは、そうなって……』
画面とホームズの間で視線を行き来させつつ、読み取れた事実だけを口にする。
そんな少女に対して、ホームズが再び問う。
『では、それは実在すると誰に証明できるのだろう』
「つまりは、エルドラドには二種類あると言う事だヨ。アマゾネスたちが拠点にした実像のエルドラドと、人の欲望が夢に見た虚像の
ではセンサーで見えているのはどっちでしょう? というお話だ」
モリアーティに補足され、不服そうにするホームズ。
それを無視して問いかけるオルガマリー。
「……センサーに感知されてるのは、虚像の方のエルドラド?」
『人が見ようとしたのは虚像のエルドラド。富に溢れた黄金の都の方だ。エルドラドの実態など必要ない。ただ一部族の儀式を原因に起こった勘違いでしかない、という事実は夢を壊すだけ。
つまり外から見る限りにおいて、見えるのは常に虚像のエルドラド。実在しない夢の都市だ。だからこそ、虚像のエルドラドを存在させ続けるためには条件がある』
「……虚像のエルドラドの不在を証明しちゃいけない。実在するエルドラドを見てしまったら、虚像のエルドラドが実在しないものだと証明してしまう」
『ああ、そうなる』
立香の答えに鷹揚に頷き、ホームズは椅子の背もたれに体を預けた。
『それにも条件がある。その答えを見なければならないのは、確かにその時代を生きる人間だけだ。真実を求めて、あるいは富を求めて、己の意志で踏み込んだ人間が真実を直視して、初めてその蜃気楼は晴れるのだろう。
あくまで外から踏み込んだ人間が、あくまでその時代の人間として、そこに存在するものを見届けなければならない。自分たちの生きるこの時代に、そんな幻想は存在しなかったのだ、と。真実を明かす、とはそういう事だ』
じゃあ、と。立香が空を見上げる。
自分たちでは意味が無い。自分たちはレイシフトで未来から来た人間だ。
そんな自分たちが行うのでは、それは歴史の考証になってしまう。
エレナの円盤によって宙に浮かされているレジスタンスたち。
彼らがエルドラドに辿り着けば、エルドラドは黄金郷としての意味を失う。
それは車からエンジンを引っこ抜くようなものだ。
どう足掻いてもラピュタは維持できなくなり、崩壊する事になる。
「させるか、よォ――――ッ!!」
自分を抑え込むゲイツを強引に蹴り返しつつ、アナザーファイズが腕を振る。
地面に船底を擦り付けるサンタマリアから吐き出されるミサイルの雨。
それは狙いをつけずに周囲へと撒き散らされた。
すぐさま、それの迎撃に入るのは美遊・エーデルフェルト。
彼女は大蛇が果てた場所から回収したキャスターのクラスカードを手に空を舞う。
「
はためく黒いマント。行使されるのは最高格の魔術師の力。
彼女は空に舞いながら魔法陣を形成し、そこで弾幕を張った。
発射直後に撃ち落とされるミサイル群。
だが、サンタマリアが行うのはミサイル32発の一斉射。
落とし切れずに抜けた弾丸が、エレナの方へと向かっていく。
エレナ本人だけならまだしも、人間を抱えたまま回避行動には移れない。
彼女がきつく表情を引き締めて―――
「黒ウォズ!!」
「やれやれ……ま、我が魔王ならやれと言うだろうからやるけれどね」
ツクヨミの叫びに応えて、他の人間たちと一緒に円盤に浮かされていた黒ウォズがストールに手をかけた。渦を巻く布が大きく波を打ち、周囲の人間を巻き込み、姿を消す。
抱えていたものが消えたエレナが即座に回避行動に移りつつ、魔力光を放ちミサイルの迎撃を行いだした。
布のはためき発生させる竜巻が地上に出現し、その中から吐き出されるレジスタンスたち。
黒ウォズが億劫そうにストールを首に巻きなおし、軽くはたく。
そんな彼を押し出しつつ、ツクヨミが座り込んでいるレジスタンスたちに駆け寄った。
「あなたたち! 詳しく説明している暇はないけど、すぐに―――!」
「ツクヨミ」
アナザーファイズに押し返されたファイズアーマー。
彼が立ち上がりながらツクヨミに声をかけつつ、腕のホルダーに手をかけた。
取り外したウォッチを起動しながら、放り投げる。
それはレジスタンスの目の前でバイクに変形し、着地する。
「お前たちで選べ。自分たちの目的のために、何をするかを」
それだけ告げ、ゲイツがアナザーファイズに向き直る。
空中ではサンタマリア号がミサイルを再装填。
更にデミ・カルバリン砲を展開し、カルデアのマスターたちを狙い撃ち出した。
そうしてサーヴァントを防御に引き付け、連続絨毯爆撃でもってこちらを制圧せんとする。
「ハッ、行かせねェよ! 向かおうもんなら最優先で爆撃して……」
「俺たちには、目指すべき光なんて必要ない。目指すべき場所はそいつが勝手に決めればいい。だからこそ、俺はこの世界を覆う闇を切り裂く」
―――それが、いつだかの自分との問題に向けられた答えだと理解して。
アナザーファイズが、本気で呆れるように鼻を鳴らした。
「……全ての人間が生き方を選べるように、ただ自由に生きる事さえ阻む闇を切り払う。誰もが自分の意志で、生きたいように生きられるように。誰もが自分の足で、進むべき道に進めるように。
俺が闇を切り裂き光をもたらすとするなら、それは誰かを先導するためじゃない。その光は、人が自分で進むべき道を選べるように、足元を照らすだけの光だ」
光を誰より前で目指すもの、と。
男はそれを使い、先導しつつ扇動する事こそが自分のやり方だと語った。
だからそれに対して今、確かな答えを返していく。
光を目指せ、なんて言うつもりは自分にはさらさらない。
他人に進む方向を示すのも、誰かを先導する事も、自分には合っていないしやる気はない。
誰もが自分で選べばいい。
どんな闇の中にいるかさえ分からないというなら、自分はそれを照らすための光をもたらす。
彼方にある光としてではなく、足元にどんな道があるかを知らしめるために。
進むべき道を示すためではなく、どんな道にでも踏み出せると示すために。
ただそれだけ。それを救世主と呼びたいなら好きにすればいい。
どう呼ばれるかなど興味もない。
ふらり、と。誰かが一人立ち上がった。
足取りは重く、恐怖が動きを鈍くする。
それでも、確かに。
一人のただの人間が、バイクに向かって走り出していた。
「馬鹿が!」
コロンブスが銃を向ける。その瞬間、残った連中が立ち上がる。
彼らはまるで盾になろうとするように、バイクに乗れる人間を守ろうとした。
何ら戸惑う事もなく、銃口から吐き出される赤い光弾。
それが直進して―――彼らの前に立ちはだかったファイズアーマーの装甲の上で弾けた。
舌打ち。サンタマリア号の砲が旋回し、こちらを向く。
だがその弾丸が放たれた直後、撃ち出された弾丸をランスが殴り飛ばして迎撃した。
空中でくるりと回転し、アストルフォがレジスタンスたちの前に着地する。
「バカで結構だい! キミこそよーく知ってるだろ! よっぽどのバカじゃなきゃ、大冒険への一歩はなかなか踏み出せないもんなのさ!」
再度の舌打ち。ミサイルは美遊とエレナが対応に終始している。モリアーティの援護射撃もある以上、爆撃が偶然通るなんて幸運はやってこない。サンタマリア号自体の砲門は多くない。が、存在する以上は、マスターの護衛で残りのサーヴァントはほぼ動かせない。アストルフォはレジスタンスの護衛に回りにきたが、それでギリギリだ。
エンジンが始動する。
危うげに、ふらふらと、それでも走り出すライドストライカー。
マシンは彼方に見える黄金郷を目掛けて発進する。
こうなったら、もう選択肢はない。
そいつを止めるには、コロンブス自身がどうにかするしかない。
目の前に立ちはだかる、仮面ライダーゲイツを突破して。
アナザーファイズが銃を捨てる。
そして剣を手に、拳を覆うナックルガードを握った。
疾走を開始する怪人。
突撃してくる相手を前に、ファイズアーマーが強く拳を握り締める。
「言ったはずだ。ここから先に、お前の道はない……!」
「それがどうした! 道がねェなら、切り拓くまでだろうがァ――――ッ!!」
「貴様たちが育てた想像が! 希望が! 空に描いた夢が! その重みで貴様たちの文明を完膚なきまでに潰す! 思い知れ、貴様たちが喰われるだけのモノであると! 堕落せよ、知性の行き着く果て! 人類が積み上げた傲慢……! 己らが空に立ち、星さえその知恵で自由に出来るなどと思い上がった証……!
貴様の存在を知らしめ、貴様を創ったモノどもを押し潰せ、ラピュタ―――!!」
炎の翼を広げ、フェニクスが雲の上を行く浮島を見下ろす。
そうすればやっと彼は終われる。その苦しみの終着がやってくる。
彼が持っていない、終わりが迎えられる。
だがそんな彼の前で、降り注ぐ炎の津波が引き裂かれた。
〈アーマータイム! ワーオ! ディケイド!〉
〈ファイナルフォームタイム! ウィ・ウィ・ウィ・ウィザード!〉
炎を裂くのは黄金の爪。
翼で羽搏き、尾を薙ぎ払い、炎の帳を蹴散らして。
ディケイドアーマー・ウィザードフォームが降臨する。
まだ立ちはだかる怨敵を前に、悪魔は憎悪を燃やす。
焦熱地獄そのもののように、フェニクスの熱量は天井知らずに上がっていく。
「―――貴様たちさえいなくなりさえすれば、あそこは元に戻るのだ……! 生にも死にも意味が無い、ただの大地に! 生がただ動くものをさす言葉となり、死がただ骸をさす言葉だった場所に!! そこならば……そこであれば、我は灰の中から蘇る事なく死ねるのだ――――ッ!!!」
「……させない」
炎の翼が羽搏いて、竜の翼が羽搏いた。
突き出すのは竜の爪。
両腕を前に突き出し、合わせて、まるで自分をドリルにするかのように回転。
地獄の炎を掻き分けて、直進する螺旋の突撃。
「意味がない事になんて、させない! お前が憎むそんな在り方……この世界で生きる事にも、死ぬ事にも意味があるのは、今までを生きてきた……そして、今を生きている人がそうあって欲しいって望んだからだ―――!」
燃え盛る憎悪を正面から打ち破り、ジオウは空の不死鳥を目掛けて突き進む。
迫りくる敵を前に、フェニクスが自身を削り熱量を絞り出す。
それでもなお、ジオウの直進は止まらない。
「俺の民が生きるこの世界の中に! 一生懸命生きて、いつかは死んでしまう未来の中に! 意味があって欲しいって願いがあるのなら―――そんな希望を守るのが、俺たちの戦いだ!!」
突き抜ける竜。
至近距離にまで迫るそれを前にして、不死鳥が体を大きく歪めた。
狂おしいほどに歪み、膨張し、人型を捨てて異形へと変貌する魔神。
そんな体を、竜の爪が引き裂いた
翼が宇宙でなお巻き起こす暴風が、フェニクスの体を削り取っていく。
失われていく質量。再生を始める不死の魂。
繰り返す死と再生の痛みと喪失感の中で、魔神が全身を燃やして叫ぶ。
「消えろ……! 消えろ消えろ消えろ消えろ、消えろォ――――ッ!!
我を縛る貴様たちの観念など、異形に喰わせて永劫の闇に消え果てろ―――――ッ!!!」
ウィザードフォームが体を回す。振り抜かれるのは凍気を纏った竜尾。
そのスイングがフェニクスの全身を砕き、吹き飛ばす。
弾かれた彼の全身が覚える、転移の感覚。
背後に張られた魔法陣を通り過ぎたフェニクスは、尋常ならざる距離を跳んでいた。
魔法陣越しに見えるジオウが、地球が、瞬く間に遠のいていく。
代わりに自身を縛るように捕らえたのは、地球など比較にならない質量が持つ重力。
重力が、熱量が、背後にあるその存在を確かに伝えてくる。
フェニクスが持つ推力など、不死性など、蝋のように溶かして滅ぼす絶対の地獄。
―――太陽が、背後に迫ってくる。いいや、自分が太陽に迫っていく。
崩壊を始める魔神の肉体。再生した途端に再び殺す、抗いようのない熱量。
断言しよう。この恒星の中で、彼の生存は許されない。
生きていられないのだから、死んでいるしかない。
一瞬たりとも生存できない以上、生と死を繰り返すという理屈は通らない。
最後の崩壊を前に、不死鳥が消し炭になっていく腕らしきものを伸ばした。
「嫌だ……! 嫌だ、いやだ、いやだ、いやだいやだいやだ……!
沈んでいく。恒星の重力に囚われて、灰から蘇る不死鳥が炎の海に落ちていく。
けして消えない炎。地球文明より遥かに長く持続するだろう、永遠の火。
燃え尽きない以上、その焼け跡に灰が漂う事はない。
燃え続ける以上、不死鳥は灰から蘇る余地がない。
閉じていく魔法陣の前で、ジオウがゆっくりと身を翻した。
「―――そこが、アンタの望んだ本当の
生きる事にも死ぬ事にも意味がない、何もない炎の中だろ」
フェニクスとかいう喋らせたくない奴ナンバーワン。なので発狂させる。
ファントム、シェイクスピア、フェニクスはできる限り喋らないでくれ(直球)