Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー 作:アナザーコゴエンベエ
三振り目の剣、顕明連を握る少女の手。
―――鈴鹿御前。
立烏帽子とも呼ばれる、平安の世に天界より遣わされた第四天魔王の娘。
彼女の持つ宝具は、戦闘に使用している三振りの宝剣。
第一刀、大通連。
神通力によって刃を雨と降らせる対軍宝具、“
第二刀、小通連。
文殊の智慧を引き出して知性を上昇させる“
そして、第三刀たる顕明連。
その刃を解放した時に発揮される力こそが―――
「“
まるで鬼のように。
その表情を歪めて、吼える鈴鹿。
彼女の行動に前にジオウⅡが、その覇気に装甲を揺らした。
そのプレッシャーを浴びながら、ジオウⅡの頭部でブレードが回る。
どのように動くか、という光景を彼がその視界が捉えて―――
―――瞬間、互いの視界を遮る炎が迸った。
崩れた天井から降り注ぐ、圧し固められて槍としての形状を持たされた熱量の塊。
それがジオウⅡと鈴鹿の間に、無数に降り注ぎ突き刺さった。
槍衾によって強引に築き上げられる炎の壁。
双方、その下手人を即座に理解して視線を上へと向ける。
そこには互いの想像通り、日輪の輝きがあった。
「やめておけ、セイバー」
空を灼く炎の翼。その身に備えるのは黄金の鎧と槍。
圧倒的な熱量を携えて、白髪の男はそこにいた。
天上の太陽を即座に睨みつけ、鈴鹿は彼に食いかかる。
「はぁ……? なに邪魔してくれてるわけ?
これ、ギャル男には関係ないっしょ。いいから引っ込んで―――!」
「今ここでその千里真眼を開くこと。その行動がお前が抱く真情であるならば、オレとて何も言うまい。真実それが望みであるというのであれば、それを阻む槍をオレは持たない。
―――だからこそやめておけ、と。こうして横入りしている」
崩れた教会の壁に降り立つ男。彼の背で、日輪の如き炎の翼が畳まれる。
そんな余裕な態度に対し、鈴鹿は酷く表情を歪めた。
「今のお前は、大帝の“
であれば、正気を取り戻すには今行われたオレの介入で十分な筈だが」
激情を理由とした見切り発車はここで止めておけ、と。
彼は黄金の槍を軽く払いつつ鈴鹿に告げる。
舞い散る太陽の残り火を睨みながら、彼女は唇を噛み締めた。
数秒だけじっと彼女を見て、そうした後に視線をジオウⅡへと向ける。
ジオウⅡよりも、彼が背にした倒れた少女か。
「そのアルターエゴを捕縛する理由も、そのマスターと敵対する理由も、現状のオレたちは持ち合わせていない。ならば速やかに帰還するべきだろう」
「…………」
無言で返す鈴鹿御前。
彼女のその反応を見つつ、ジオウⅡが僅かに足取りを迷わせた。
いま目の前に現れた相手と戦う事になれば、どう決着するにしろ末期的だ。
判断材料にするだけの詳細な状況が分かっていればまだよかったのだが。
この状態では撤退を見過ごす、以外の答えは存在しないだろう。
「ねえカルナ、それ、どういうこと?」
「オレたちはお前たちに備えて配置されているわけではないということだ。生憎、オレから事細かに説明する義理はない。詳しい事を知りたければ、そこのアルターエゴに訊けばいい」
それはそれとして、と。問いかけた言葉への返答はにべもない。
―――太陽神の子、施しの英雄カルナ。
彼は己の名を突然呼びかけられた事に対し、さほど驚きをみせる事もなく。
ただジオウⅡとその後ろの少女を見据えるのみ。
「……よく分からないけど。ここをこうした奴に、あんたは味方をしてるんだよね?」
「見た通りだ。
カルナが踵を返す。敵に対し警戒すらせず。
いや。彼はつい今、ソウゴたちを敵ではないとは断言した。
純粋に、彼にとってここにいるソウゴたちは警戒に値しない存在であると。
当然のように、味方でもないだろうが。
去ろうとするカルナが足を止め、鈴鹿御前へと目を向ける。
それを受け止めた少女が、軋むほどに歯を食い縛って。
酷く乱雑に、手にしていた剣を鞘へと叩き込んだ。
「分かってる……! そんなこと、分かってるし……ッ!」
瓦礫を踏み砕き、鈴鹿御前が強く跳ねる。
超長距離を跳ぶ勢いを見送ってから、カルナもまた炎の翼を展開した。
空に炎で軌跡を曳いて、こちらを振り返る事もなく離脱する戦士。
呼び止めても意味はないのだろう、と大人しくジオウⅡはそれを見過ごす。
(……うーん。カルナに、鈴鹿御前……それに何か、大帝? 多分、俺ひとりじゃ保たないな)
カルナの力はよく分かっている。激突すればそれは決戦だ。余裕なんて残らないだろう。
鈴鹿御前も
大帝と言うのは少なくともこの二人を従えた存在。
まあ自分一人で複数相手取るのは無理だ、という前提で進めるべきだろう。
さておき。振り返って、さっきの女の子の方に向き直る。
転がしておくのも何なので、そのまま歩み寄って軽く抱きかかえた。
そうされて、困惑げな表情でジオウⅡを見上げる少女。
周囲を見回して、彼女を座らせられそうな場所を探す。
そうして残骸が積み上がって高くなった場所を見繕って、そこまで運ぶとゆっくり下した。
座る姿勢にされ、体を起こされた少女が戸惑いがちに礼を述べる。
「すみません、ありがとうございます」
「BBが言ってたみたいに契約すれば回復するの? それなら契約するのが一番早いけど」
「……その前に、私の素性を確認するべきなのではないのでしょうか……?」
契約するなら一応先に変身解除した方がいいかな、とベルトに手をかけるジオウⅡ。
そうして武装を解こうとした彼に、恐る恐るといった様子でそう言う少女。
レベルダウンした彼女にできることは多くない。
が、こうまで隙を見せられてはどう反応したものか分からない。
「別にそれは回復してからでもいいんじゃない? まともに動けないんじゃ困るでしょ」
「―――――」
それは甘いのでは、と。そう考えようとして。
彼女の前でさっさと変身を解除した少年を見て、少し違う事に気付いた。
少年の表情には微かに焦燥が混じっている、と思う。
そこを理解して、納得した。
ああ、この人間は自分が裏切るかどうかも情報のひとつとして早く欲しいのだ、と。
少なくとも彼はBBとここで会話していた。恐らく彼女の誘いに乗り、こんなところに来るような人間ということだ。
BBから何らかの情報を提供されているという事は、BBの行動がどれだけ信用できるかも測りたいだろう。そうなれば、彼女―――メルトリリスがBBから彼に対し消極的にでも提供された戦力でもある以上、自分の動向は同時にBBが何を考えているかという指針にできる。彼女を情報源として利用するには、動けないままでは色々と困るわけだ。
「―――では、お言葉に甘えて。
私は快楽のアルターエゴ、メルトリリス。アナタと契約を結びましょう」
そういう理由があるならば納得できる。
戦えるマスターがそれをやるならば戦術としては有りだろう。
彼が焦っているわけまでは分からない。
が、その焦りを解消するのがこの契約の目的なら、彼女にも否やはなかった。
一時間近く経って、最低限、少なくとも立てるくらいには回復して。
未だに教会の跡地で瓦礫を椅子代わりに、二人はたむろしていた。
その体の様子を確かめながら、メルトリリスはソウゴと言葉を交わす。
「つまりこれ、どうすればいい状況なの?」
さっぱりだ、と。腕を組んで眉を顰めるソウゴ。
こっちだってアナタにどう説明すれば分かってくれるのかさっぱりなのです、と。
メルトリリスは困った風に首を傾げる。
とにかく、順を追って話してしまうしかない。
「ええと……まずは現状を改めて。ここは電脳空間、
アナタたちの時代の海洋油田基地、セラフィックスが電脳化して、
そこまでは分かる、と。
メルトリリスの対面で瓦礫に腰かけたソウゴが頷く。
というか、場所の情報自体は究極的にどうでもいい話だ。
何をどうすればいいのかさえ分かれば。
「うん、それでどうしてこうなったのかが……」
「―――確かに、そこはとても複雑なのですが」
この場で発生した状況の二転三転具合は中々のものだ。
メルトリリスはそこで一度言葉を止めて、一拍置いた。
「まず最初に発端から。アナタたちの知る魔術式―――魔神が、セラフィックスを支配した事が始まりです。時期は2017年に入ってから。私の持つ情報からは、目的までは具体的には分かりません。アナタたちへの復讐か、あるいは別の目的か。ただ、カルデアの関連設備であるセラフィックスを狙っている以上、復讐に近いものだと予想はできます」
「セラフィックスを……」
つまり所長が魔術協会とか国連とてんやわんやしている間に、ということか。
そこまで手が回らなくなっていた結果、放置される羽目になった。
魔神ゼパルはそういう状況にも味方され、ここを弄る事に成功してしまった。
「魔神がやったのは、セラフィックスを作り替える事。ただ電脳空間にシフトさせた、というわけではありません。セラフィックスを外界から遮断し、閉鎖環境にして、極限状態に追い詰められた人間の悪性を突き詰める地獄を降臨させたのです」
眉を顰めて、その話を聞く。
悪性の具現といえば、作り替えられた新宿もそうだっただろうか。
「……その過程において魔神は、セラフィックスの職員の中から、自分が潜伏するための苗床として使用する人間を一人選びました。それに選ばれたのが……殺生院キアラ。セラフィックスに理学療法士として招かれていた女性にして、魔神が選ぶには最低最悪の選択肢でした」
「どういうこと?」
その名を呼ぶことさえ厭わしげに、彼女はその名を口にする。
とにかく、情報だけを吐き出すために深呼吸。そうしてから、彼女は続けた。
「―――彼女には才能がありました。魔神以上の怪物……いえ、魔神の中心にして終端。魔神王ゲーティアに匹敵する怪物に変生する才能が。魔神単体では対抗できないのは当然でした」
「ゲーティアに、匹敵する……」
それがどれほどの脅威か、など説明されずとも分かる。
魔神王ゲーティア、七十二の魔神を統率する魔術式ゲーティアの成れの果て。
人理焼却という偉業を、あと一歩のところまで進めた憐憫の獣。
彼らカルデアはそれを越えてきたが、それが簡単なものであったはずもない。
状況の切迫はセラフィックスだけではない。彼が立香とはぐれた事だけでもない。
見逃してはいけない大事が、そこには発生していた。
「彼女と魔神の主従関係は逆転し、魔神はただの情報として使用された。
この時点で最大の原因だった魔神はその意味を消失します」
現状の対策を打つ上で、考慮しなければいけない存在。
その中からゼパルが真っ先に消える。
魔神はもう殺生院キアラによって無力化されているとの事だった。
「殺生院は魔神が整えた閉鎖空間であるセラフィックスの混沌を支配しつつ―――根本原因の一つである、セラフィックスの天体室を起動した」
「天体室……プラネタリウムみたいな?」
プラネタリウムが何の関係があるのか。
そうして首を傾げるソウゴを見て、メルトリリスは溜め息ひとつ。
ゆっくりと首を横に振って、プラネタリウムなんかじゃないと否定した。
「…………アナタもカルデアのマスターなら、それが
天体室とはアニムスフィアの有する実験室、ごく一部の職員以外には隠匿された区画です。その目的はある意味では、カルデアと同じものという事です」
まあここがそもそも所長ん家のものなら、そうなるのだろう。
つまり天体室という名前の由来は、所長が担当する学科ということだろう。
結局魔術協会の事をよく分かっていないので、そこは曖昧に頷いておくしかない。
「えっと……じゃあ100年後の未来、人理の保障のため?」
カルデアはそういう目的のために存在する施設だ。
メルトリリスがそう語ったと言う事は、そういう事なのだろうか。
だが彼女は、返答に迷うように視線を彷徨わせる。
「重ねて言いますが、ある意味では。目的は同じですが方針が真逆。自分たちで観測し保障するのではなく、もっと
カルデアが表の人理保障機関であるならば、天体室は裏の人理保障機関。非人道的な実験も多く行われていたようです」
だが語ると決めたのだろう。
彼女は気を取り直して、ソウゴを見据えて話を続ける。
「天体室にはアナタたちがレイシフトを行うためのものと同じ、クライン・コフィンが128基設置されています。そこに投入されるのは、良質な魔術回路を保有したマスター候補。カルデアでマスター候補として選定された者の中から、一部をこちらへと回していたようですね」
「でも俺とか立香は一般人枠だったと思うけど……そんなに128人もいるなら、カルデアに呼べばよかったんじゃないの?」
「―――そうなるに至るまで、どのようなやり取りがあったかまでは知りません。ただ一般人を採用する事に関しては、国連へのアピールなのではないですか? 少なくとも、それなりに優秀なマスターさえあそこに回されていたのは事実です。どちらにせよ、いなくなってももみ消せる程度の人材であったのでしょうが」
見れば、不満げな表情を浮かべているソウゴ。
まあ、彼がよく知るオルガマリー・アニムスフィアは関わっていないだろうし、そうだとも思っていないだろう。
そもそも彼女では、この暗部に関わらせてもらえるほど
とはいえ、今はもうこれを気にしてしょうがない。
彼の視線に応え、続きを語る。
「彼らを集めた目的は、地球への接触。コフィンに入れられた魔術師は、ここから霊脈を通して地球の核へと意識を飛ばす事を目的としていました。
地球の意志と呼ぶべきものに対し、
意識上だけで、地球に接触する。
話題が飛躍したので、ソウゴの表情にもどういうこと? と浮かぶ。
天体室はカルデアと目的を同じにしていた、と言ったのはメルトリリスだ。
それが一体、どうしてカルデアと同じになるのか。
「
地球自体に『私の上で繁栄しているのはこの知性体であり、文明だ』と認めてもらうのです。
それにより自分たち人間の未来を確固たるものにしようとした」
そう言われれば、なるほどと。
鷹揚に頷いて、そのすぐ後に首を傾げた。
「……なんで?」
「私にもそこまでは」
カルデアが正常に働いているならば、そんなものはいらないのではないか。
カルデアと違って隠すくらいだから、バレたら魔術師としても不味いのだろう。
であるならば、そんな危険な橋を何故渡るのか。
そう考えこもうとするソウゴの前で、メルトリリスのヒールが床を叩いた。
カンカン、と。鳴らされた床の音を聞き、ソウゴは彼女に視線を戻す。
「とにかく、そうして地球の核に人間の意識をレイシフトさせるような、天体室とはそういう設備でした。ですが、殺生院はその設備を別の目的で起動した。
―――言うまでもなく、聖杯戦争のためにです」
だからこうして、今は128騎のサーヴァントが呼ばれている。
何故そんなにサーヴァントが降霊したのか。
単純な話だ、128人のマスターが霊脈に接続する設備がそこにあったから。
足らない魔力は霊脈から直接引き出しているのだ。
コフィン内の人間が無事で済むかどうかを考慮しなければ無理も利く。
「彼女には栄養が必要でした。魔神を溶かした時点で並みのサーヴァントは超えていたと思いますが、それでも。魔神だけではまるで足りない、狂った人間を含めてもまるで足りない。
だから、地上における聖杯戦争が争いの果てに完成した聖杯を降霊するように、彼女は争いの果てに発生するエネルギーを自身の栄養として吸収することにした。天体室にある128基のコフィン、そこに収まったマスターたちにサーヴァントを召喚させ、自分を成長させるための蟲毒を始めようとしたのです」
ただ、自分が羽化に至るためだけに。
自分自身で、今の自分はさぞ嫌そうな顔をしているだろうな、と思いつつ。
メルトリリスは、殺生院について口にする。
「最初は上手くいっていたのでしょう。そうして何度か繰り返した後、彼女は聖杯戦争運営の円滑化を目的として、確保したリソースで自分の記録から私たちをサルベージした。
……この世界の殺生院キアラは、本来は真っ当な人間であり、怪物に至るのは単なる実現しなかった可能性にすぎませんでした。ですが、魔神との接触を契機として、彼女はその可能性と繋がってしまった。私たちはそんな可能性の世界で彼女と縁があったAIなのです。その可能性を手繰り寄せ、殺生院は私たちをこうして召喚してみせた」
AI? と首を傾げるソウゴ。
まあこうやって目の前に立っているのが人工知能、というのはイメージしにくいだろう。
「BBは聖杯戦争の運営に。私たちは殺生院の感覚、
それを与えられたサーヴァントは、通常以上の力を発揮できる。
ただし、その代わりに
ソウゴの顔を見れば、専門用語が多い、と思っている表情が分かり易い。
その間の抜けた顔に小さく息を漏らしつつ、まだ続ける。
「一応、言うと。私は殺生院に従う気はありませんでした。いえ、タイミングを計って彼女に叛逆するつもりだった。それを目標として設定し、SE.RA.PHの現況を確認するため、行動範囲の確保を目的として
そこで軽く息を吐き、ようやく。
現状を説明するための一歩を踏む。
「その後も幾度か聖杯戦争は続き―――その時が来た」
「……大帝?」
鈴鹿御前もカルナも口にした名だ。それは分かるだろう。
神妙な顔で、メルトリリスは彼の問いに頷いた。
「はい。つまりは今回の128騎の再召喚を終えた後、129騎目のサーヴァントが召喚されたのです。黄金のルーラー、その真名をカール大帝」
「カール大帝って、あのローマ皇帝にもなった王様?」
何故か、その名を聞いて身を乗り出す少年。
珍妙なものを見る顔で、メルトリリスは彼の問いに頷いた。
「コフィン内のマスターではなく、殺生院の肉体が行ったイレギュラーの召喚。彼女の意志ではなく、彼女にただ消費されていた魔神が行った最後の抵抗だったようでしたが、殺生院はそれを気にとめる事さえありませんでした。
恐らくは魔神の足掻き程度、何が起きてもこの事態は自分の掌から逸脱するものではないと甘くみたのでしょう」
小さく笑うメルトリリス。よほど彼女の失態が嬉しいのか。
奇妙なものを見る顔で、ソウゴは彼女をじいと見つめる。
それに気づいたのか、彼女は咳払いをして話題を元に戻す。
「ですが、変化は劇的でした。
その理由はただひとつ、カール大帝のスキルである“
これは先程見たスズカ、カルナも影響を受けていました」
「オラクル……」
確かにその名をカルナも口にしていた。
どういった能力なのか、とメルトリリスを見る。
「あのスキルはカール大帝の意志に賛意を示した者に対し、その存在をカール大帝と同一化、隷属させる能力。そんな彼のスキルの影響は瞬く間にSE.RA.PH全土に浸透し、全てのサーヴァントを統一しました。一人たりとも例外なく」
一言で説明されたが、途轍もない話だ。
それこそが、人理に燦然と輝く凄烈な功績を刻んだカール大帝の能力ということか。
おお、と感心の息を吐くソウゴを見て溜め息を吐くメルトリリス。
「……コフィンにいる128名のマスターは、恐らく純粋に“生きたい”、“消えたくない”等の願いを抱いています。それは人体実験の被験者としての、命が消費される前に彼らが抱いた願いでもあるでしょう。ですが、そもそもそうなるように仕組まれていたのだと思います。
地球への対話内容として飛ばすため、適切で痛切なメッセージとして」
カール大帝の話題から外れた内容に眉を顰めるソウゴ。
そういう噛み合い方をしたのか、と。
「地球に生きたい、消えたくない、っていう人間のメッセージを飛ばしてる?」
「それが実際に効果的であるかどうかはともかく、星の内核へ送る人類種からのメッセージとしては、真摯なアプローチである事には違いないでしょうから」
それが天体室の人理保障。星の庇護下に入るための救難要請。
メルトリリスの様子にも、少し呆れが入っているような。
彼女はすぐに気を取り直し、カール大帝に話を戻す。
「とにかく、召喚されたサーヴァントは全員その意志に賛意を示しました。
全てのマスターが持つ“生きたい”という願いを叶えよう、と意識を統一された。
その結果が一切逡巡のない“
サーヴァントは全て、そうして消費されている人間の叫びに応えた。
いっそ誇らしい、と思ってもいいのではないだろうか。
人理の軌跡、星のような英雄たちは、そんな人間たちの意志に応えたのだから。
実際、そのおかげで殺生院の目的は暗礁に乗り上げたのだ。
―――とはいえ、カール大帝もSE.RA.PHを。
セラフィックスを己の思うままに使っているのだ。
魔神を消したからといって、殺生院を見逃せないように。
殺生院を阻んだからといって、カール大帝をこのまま見過ごせない。
「カール大帝は支配地をより強固に堅め、性能を向上させるスキルも持っています。それを利用し、カール大帝傘下のサーヴァントが天体室を中心に展開。彼らが陣地を手に入れるごとに、彼らの力はより強固になっていきました。現状でSE.RA.PHの9割以上を大帝は手に入れています。それを見過ごした結果、完全に勢力は逆転。殺生院はSE.RA.PHの支配権を一切合切奪われ、私たちから
メルトリリスの説明を受けて、ソウゴが表情を渋くする。
カール大帝がSE.RA.PHと同化している、といっても何もかも分かるわけじゃないのだろうか。9割以上を支配しているならそこには隠れられないし、残り1割以下なら128騎のサーヴァントで探せばすぐに見つかりそうなものだが。
「それ、全部同化されてる場所なのに隠れられるものなの?」
「流石に大帝の感覚が全土に届く、というわけではありません。要するに、同化したサーヴァントが支配したセクターは大帝の領土になる、というだけです。128騎の中でも感知力が鈍い英霊が配置されたセクターならば、状況によっては幾らでも隠れられるでしょう。
話を戻しますね。そうして殺生院が消えた後、私たち―――私ともう一人のアルターエゴ、パッションリップは大帝に捕らえられました。そのまま聖都内部に隔離され、私は先程言った通りに逃亡してきて、今に至ります。見たところBBは、そのまま大帝の協力者にスライドしたようですけれど」
殺生院ほどではないが、BBの事も嫌っているのか。
彼女がBBの事に口にする時にも棘がある。
とりあえず、現状に至るまでの流れは確認できた。
ではここから先だ。
立香を探す、と言いたいが……いるならば、BBが見つけているのではないか。
BBの口振りでは、まるで自分が何かしたような事を言っていた。
『―――さあ? アナタが必要だ、と判断したんじゃないですか?』
そうして現状を聞いてみれば、相手の規模として挙げられた魔神王ゲーティア。
相手にはカルナや彼に匹敵するサーヴァント。
そしてその勇士たちを統一する絶対皇帝、カール大帝。
そんな現状を思考しつつ、数秒瞑目。
「……ウォズー! ねえ、黒ウォズー! 白ウォズでもいいよー!」
「!?」
思い立って、空に向かってとりあえず叫ぶ。
いきなりなんか叫び出したソウゴに対し、メルトリリスが目を白黒させた。
数秒待ち、無反応。また何かやってるんだろうか。
ゲイツにファイズウォッチ借りとけばよかった、と。
そう思ってももう遅い。
「……うーん、そもそもさ。どっちとも、目的はなんなの?」
「え? あ、ええ……厳密には不明です。大帝はまだしも、殺生院などただ愉しむ事が目的、という可能性さえあります。なので、考えてもどうしようもないと思います」
「そっかぁ……」
ただ、セラフィックスの沈降を止めない、という事実だけがある。
殺生院はともかく、カール大帝にならそれを止められるはずだ。
だというのに止まらないという事は、止める気がないという事だろう。
「ですが、どちらも最終的な目標は地球の核への沈降を目的としているようです。理屈は置いておいても、やらなければいけない事は明確です。
SE.RA.PHの沈降を止めて、浮上させる。そうしなければセラフィックスは完全に崩壊してしまう。そのためにはSE.RA.PHのコントロールを大帝から奪い、殺生院から守る必要がある」
「うん、なるほど。そう、だよね」
「電脳化したSE.RA.PHは現実とは時間の流れが違います。現実でセラフィックスが限界深度を越えるまで、こちらの時間で約10日間。その間に、コントロールを得る事ができれば……」
ソウゴとメルトリリス、二人揃って考え込む姿勢。
そう、両方を成し遂げなければいけないのだ。
ゲーティアに比肩するかもしれない殺生院キアラと、それを抑え込んだカール大帝。
セラフィックスを潰す行動を取っている両者を、倒さねばならない。
「SE.RA.PHのコントロールを得るということは、大帝の支配を無効化するということ。一応ですが私には、大帝と接触すれば彼の支配を奪える
殺生院に対する備えとしては、という事だろう。カール大帝と決戦をすれば、勝敗はどうあれどっちも消耗する。そこを殺生院に衝かれるような真似はしたくない。彼女はカール大帝相手には逃げるしかないが、真っ当なサーヴァントでは勝てないほどには強い。
「なので、私がカール大帝の許に辿り着く事ができれば……」
「でも今のメルトリリス、すごい弱いんでしょ? 無理じゃない?」
「―――はい。経験値を限界まで削ぎ落としたので、レベル1状態です」
率直な言葉のナイフ。直球火の玉ストレート。
それを受けて、むすっとしつつメルトリリスは視線を僅かに逸らした。
それでも彼女の報告は淀みなく、自分の現状を教えてくれる。
「どうにかなるの?」
「私の
128騎のサーヴァントがいる、ということは逆に言えば私が経験値を得る手段に溢れている、といえます。その上、サーヴァントの撃破は大帝勢力の力を削ぐ事にもなる。
殺生院が自由にならない程度にサーヴァントを撃破し、その経験値で私を強化し、大帝の“
「でもそれって、下手すれば俺たちが袋叩きになるんじゃない?」
彼女の言う事は、つまりカール大帝の軍に手を出すと言う事だ。
そんな事をしたら、普通は逆襲されるだろう。
もっとも、先程は鈴鹿もカルナもあっさりと撤退してしまったが。
「……その可能性は否定できません。けれど、サーヴァントたちは協力網を敷いているわけではありません。あくまで彼らは、自分の―――ひいては、マスターの願いを叶えようとしている。それは必ずしも、大帝を守る事には繋がらないのです」
「どういうこと?」
「彼らのもっとも強い意識の繋がりは、殺生院キアラの排除ということです」
生存の妨害。自己の喪失。それこそが、彼らがもっとも否定するものだ。
その点において、殺生院キアラは一切疑念の余地なく大敵である。
逆に言えば、大帝はそこだけは守っている筈、ということになるが。
極端な話、“助かるための戦い”は彼らの信条を阻まない。
セラフィックスを救うために大帝に歯向かう事は、彼らにとって許せない事にはならない。
もちろん絶対に逆襲されない、とは言い切れないが。
「殺生院が顔を出せば一切容赦なく全サーヴァントと機動聖都の火力を集中されるでしょう。彼女の場合は周りから少しずつ削っていく、という戦法は許されません。
ですが私たちならば、不可能ではない……かもしれない」
断定はできない。失敗すれば一気に詰み。
だがそもそも相手の陣容が盤石すぎて、賭け以外にやれる事はない。
ソウゴが腕を組んで考えるのを見て、メルトリリスは続ける。
「私は殺生院の事はともかく、カール大帝の性格をあまり把握していません。ですので、あくまで想像に依るところが多いのですが……カール大帝と殺生院は、酷く相性が悪いようです。
彼女に対しては、大帝も全戦力の投入を惜しみません。私を追跡してきたスズカはともかく、わざわざカルナがここに顔を見せたのも、そもそもの目的は殺生院の捜索でしょう」
「―――そうなの?」
ソウゴの問いかけに、はい、と大きく頷くメルトリリス。
「……つまり、俺たちなら攻撃されないかもしれない。というか、殺生院って人への警戒を優先して俺たちは無視するかもしれない、ってこと?」
「……カール大帝は恐らく、殺生院に対する防衛網は解かない。他に何があっても。同化している他のサーヴァントたちもそれは同じです。
ですので、可能性がある行動方針としてはこれくらいかと思うのですが……」
彼女が言い終えるのを待って、ソウゴは考える。
そのまま待って、約1分。
考え込んでいるソウゴに、何をそんなに、という視線を向けるメルトリリス。
ちょうどそんなタイミングで、ソウゴが再び彼女に問う。
「ところでさ、メルトリリスは何でこっちに協力してくれるの?」
「え?」
予想外の質問だったのか、固まるメルトリリス。
そんな彼女の反応を見て、追加するように。
「殺生院、って人が嫌いなのは伝わってくるんだけどさ。だったら、ここを支配しているのが殺生院って人を追い払ったカール大帝である以上、別に逆らう理由はないわけでしょ?」
訊かれて、やっと自分で考える。
なぜ大帝に逆らうのか。レベルを捨てて、こうやって逃げ出してまで。
殺生院に逆らうのは当たり前だ。どんな状況だろうと、アレと手を組むのは無しだ。
だがわざわざここまでして、どうしてカール大帝にまで。
自分は彼の目的すら知らないというのに。
「……そう、ですね。なぜ、でしょう。
―――――すみません。いまの私には、わかりません」
「ううん、別にいいんだけどさ。実際に会ってみれば分かるかもしれないし」
そう言って、ソウゴが立ち上がる。
彼女はカール大帝を敵視しているらしい。
捕まっていたのだから、それも当然かもしれないとは思う。
ただそれにしたって、目的が一切分からないのに敵対を明確にして譲らない。
もしかしたら、何かあるのだろうか。
彼女の方針にそれほど不満もない。というか、それくらいしか選択肢はない。
カルナと鈴鹿の様子からいって、メルトリリスの予想はそう外れていないのだろうし。
後は、立香の事だけれど。
懐から取り出すジオウⅡのライドウォッチ。
それを握り、瞑目するのは一瞬。
(……俺が必要だと思った。なら大丈夫。
―――今の俺は、俺が俺であるためにも、絶対に見過ごさない)
128人全員と戦うとかマジないからよ…
レベル上げだけするんで…