Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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蜘蛛の糸2017/B

 

 

 

「いやマジ? アイツ、マジでスカート普段着にしてるの?」

 

 嘘だろ、と自然とこぼれる言葉。

 アストルフォがカルデアにいると聞き、確認してみればこれだ。

 なんで女装がデフォになってんだ、アイツ。

 王として何といえばいいのか、と沈痛な面持ちを浮かべるシャルルマーニュ。

 

 でも凄い頼りになるし、助かってるよ。なんてフォローする。

 それは知ってる、と言わんばかりに微笑んで頭を掻くシャルル。

 

「マジかー、そんな子に育てた覚えはないんだがなぁ」

「……この状況でアナタたち、いったい何を話しているのかしら」

 

 先導するメルトが不機嫌そうに振り返る。

 立香がデータとして情報分解されるまで、時間制限が存在するのだ。

 こんなところでのんびりと雑談している暇はない。

 

 言われ、立香が軽く手を見てみれば、体表が先程よりもより粟立っている。

 それを確認しつつ、彼女は申し訳なさそうに苦笑した。

 

「ごめんね、メルト。すぐ行くから」

「……別にいいけれど。口を動かすにしろ、足も動かしなさい。

 ―――こっちには、分解を阻害してくれるものもないんだから」

 

 ぽつり、と。メルトが付け足すように口にした言葉。

 それを耳聡く拾い、シャルルが軽く肩を竦めた。

 

「……確かにな。例えばここをアイツが“天声同化(オラクル)”で支配していようものなら、そうやって分解されて消えるって事はなかっただろう。自己が溶けてなくなる、なんて終わり方を許容するような奴じゃない。例えどんな状況だろうと、そこから梯子を外すような事はしない。だからこそ、この状況を見る限り、やっぱりカール大帝は動いてないんだろう」

「―――――」

 

 振り返ったメルトがシャルルを睨む。

 シャルルマーニュは言う。

 ここがカール大帝の支配下にあるならば、こんな無法な環境は許さないだろう、と。

 その事実をもって、カール大帝の不在証明の理由とした。

 ただそれだけの話に対し、彼女は眼光を鋭く尖らせる。

 

 と、立香はその話の中に出てきたフレーズに目を瞬かせた。

 

「オラクルって?」

「カール大帝のスキルさ。元々はアイツが持つ風格、王気(オーラ)というか、まあ要するにカリスマのスキルだったんだが、ちょっとした事情でそんなものにまで変容しちまってな。アイツ自身の霊格の高さも相まって、このSE.RA.PHならほぼ完全に支配しちまえるもんさ」

 

 呆れるように溜め息混じりに、少年王はそう言った。

 

 そんなシャルルマーニュの言葉に感じるものがあり、立香が微かに目を開く。

 彼はいま、このSE.RA.PH、と言った。それほどの規模のスキルを持つカール大帝の超級ぶりに感心するような、苦笑するような、そんな口調で。

 だがそれは、SE.RA.PHの全容をおおよそでも知ってないと出てこないのではないか。

 

 彼は自分が状況をよく分かってないと言った。だが自分が出たからにはカール大帝が何らかの関与をしているだろう、と。そういった推測で動いているはずなのだ。

 BBに近しいメルトリリスならともかく、イレギュラーな召喚をされた彼がSE.RA.PHの規模に関する情報を多少なりとも持っているものだろうか。

 

 それに彼は聖杯戦争に関して、何かの情報も持っていそうで―――

 

「聞こえていなかったかしら? いいから、無駄口を叩いていないで足を動かして」

 

 いい加減我慢ならない、と。ぶすっとした表情でそう告げるメルト。

 彼女の様子に謝りつつ、立香が走り出す。

 

「うん、ごめん。とりあえず休めそうな場所まで急ごうか」

 

 考えるのは後にしよう。BBに告げられた10日というリミットが長いのか短いのか、それさえ分からない今だが、何であれ分かり切っている事がひとつ。

 立香は10日間休まず戦い続ける、なんて真似はできないということだ。その問題を解消するためにも、まずはとにかく拠点の確保を優先しよう。

 

 向かうのは、拗ねるようにそっぽを向いたメルトの許。

 そんな彼女の手前にまで駆け込んだ、瞬間。

 

 立香の視界を覆うように、白いマントが翻っていた。

 

「シャルル―――?」

 

 彼女の認識速度より速く、疾走していたサーヴァント。

 

 そうして前に立ったシャルルと、それより先にいるメルトが視線を交わす。

 選択肢を真っ先に相手に譲ったのはシャルル。

 彼は素直に、どうするかの選択を先輩と呼ぶハイ・サーヴァントに預けていた。

 

 悩むのはメルト。だが彼女は自分の性能を知っている。

 どうするかなど、本来は悩むまでもない。

 

「…………そこでマスターを守ってなさい」

「了解、先輩」

 

 彼女は孤高のプリマドンナ。

 彼女の躍る独り舞台(クライム・バレエ)には、重力でさえ上がる事を許されない。

 そんな当たり前の話を考慮してしまえば、選択の余地はない。

 役割分担は自然と、収まるべきところに収まるだろう。

 

 即ち、メルトリリスは剣であり、シャルルマーニュは盾だ。

 そんな事、分かり切っている話。

 

 床を滑り、前衛へと躍り出るメルトリリス。

 彼女たちの動きを見て、立香もまた理解する。

 これは敵襲への対応なのだと。

 

 電脳化しきれなかったセラフィックスの名残。

 建造物だったものが歪んでできた障害物。

 壁のように聳え立つそれを見据えて、二騎のサーヴァントが戦闘態勢を整えて。

 

 次の瞬間、目の前にあった残骸の壁が吹き飛んだ。

 

 それをぶち破ってくるのは、厚い背中。

 肩に留めた青いマントに覆われた、白銀の鎧の騎士の姿。

 太陽の炎を纏った剣の閃き。その灯りを受けて輝く金色の髪。

 

 ああ、覚えがある姿だ。忘れる筈も無い。

 人理焼却における第六特異点、キャメロットにおいて対峙して。

 それを突破した後は、これ以上ないほどに力になってくれた騎士の一人。

 

「ガウェイン!?」

「―――――!」

 

 咄嗟に叫んだ彼の名前。

 その声に反応して、ガウェインが視線をこちらに向け―――

 

「Ⅰs、kandar―――――――ッ!!!」

 

 彼を追うように、黒い巨漢が姿を現した。

 3m近い身長の体躯。両腕に握った二振りの大戦斧。

 骸骨となってなお動く兵士を従え、侵攻してくる偉丈夫。

 

 その姿こそは正しく、ダレイオス三世。

 

 無双を誇る太陽の騎士と、死を超越した破壊の大王。

 いつぞや見たような両雄の激突。

 

「ぬぅううううん――――――ッ!!」

 

 ガウェインが体勢を立て直し、SE.RA.PHの床を蹴りつける。

 同時に、聖剣を握った腕に注ぎ込まれる全力。

 

 留まる事なく雪崩れ込んでくる不死隊(アタナトイ)

 彼はそれに、忠義によって燃える刃をもって応える。

 横薙ぎに振るわれるその一閃が、骸骨の津波を焼き払いながら吹き飛ばした。

 

 不死者の津波を押し流す太陽の熱波。

 それに巻き込まれ、同じく押し返されていくダレイオス。

 

 そうして生まれた僅かな静寂の中。

 ガウェインがマントの裾を熱波に揺らしながら、聖剣の切っ先を床に置いた。

 

 この場が聖杯戦争の舞台とは思えぬほどにこやかに。

 今が戦闘の最中とは感じられぬほどに穏やかに。

 彼は立香を見て、話しかけてくる。

 

「どなたかと思えば。お久しぶりです、レディ・フジマル。

 マスター……いえ、レディ・ツクヨミたちは一緒ではないのですか?」

「あれ?」

 

 不思議そうに首を傾げれば、何か? と言わんばかりにガウェインも首を傾げる。

 

「……私たちのこと、覚えてるの?」

「ええ、今回の召喚では何故か。理由までは分かりませんが―――と」

 

 ガウェインが立香から顔を背け、灼熱の方へと視線を向ける。

 その途端に弾け飛ぶ溶解した建物の残骸。

 

 そこから顔を出すのは、黒い巨躯の大王。

 溶けた建材で焦がされながら、続いて骸骨兵どもも立ち上がる。

 これぞ不死隊、“不死の一万騎兵(アタナトイ・テン・サウザンド)”。

 

 立ちはだかる不死の兵士たちを前にして、ガウェインが聖剣を構えなおす。

 

「Ⅰskandarrr……ッ!!」

「申し訳ない、先に戦闘を終わらせます」

 

 そうしながら彼は、立香の周りにいるサーヴァントを見た。

 唖然としているメルトリリス。おー、と感心しているシャルルマーニュ。

 シャルルはさておき、メルトリリスの姿を見て、彼は小さく眉を上げた。

 

「……衛士(センチネル)。アルターエゴ、ですか。まあ、あなたたちの事だ。そういう事もあるでしょう。とにかく、この場はあなたのサーヴァントと共に下がっていてください。

 彼との戦闘は私一人ですぐに決着をつけてご覧に入れましょう」

「ッ、ジョーダンじゃないわ!」

「メルト?」

 

 床を滑るメルトリリス。

 彼女はガウェインを追い越すと、ダレイオスと対峙するように前に出た。

 

「いいこと? ここで遊んでる時間はないの、アナタに遊ばせてる時間はね! 退きなさい、私がすぐに終わらせてあげるわ!」

 

 何故か怒り、声を荒げるメルトリリス。

 そんな彼女の様子に、きょとんとするガウェイン。

 だが何となく疑う理由はないと理解して、彼は強く剣を握る。

 

「……事情は分かりませんが、時間が惜しいのは事実なのでしょう。彼を正面から凌駕する、というのは私の我儘。仕方ありません、では共に戦いましょう。そちらの方が早く済む」

「むっ、ぐっ……!」

 

 なにせ、記憶を持ち越した彼にとってこれはいわゆる雪辱戦。

 相手に征服王こそいないものの、彼もまた聖者の数字の加護を得られていない。

 折角の機会。この大王とは正面からぶつかりあい、粉砕したかったのだが。

 

 しかしメルトリリスの言葉に切実なものを感じるのも事実。

 それが恐らく立香たちの危機に直結するとなれば、我を通す気はない。

 

 あっさりと共闘を持ち掛けたガウェインに対し、メルトリリスは唇を噛む。

 噛みつつも、迫りくる不死隊を彼女の(けん)は切り伏せていく。

 

「先輩、荒れてるなぁ」

「何でか分かるの?」

「いやぁ、乙女心ってのはちょっとわかんねえかも」

 

 マスター護衛の任を果たしつつ、ぼやくのはシャルル。彼の何とも言えないなぁ、みたいな感じの呟きに反応してみれば、彼は正しく何とも言えないと頬を掻いた。

 

「それはさておき、あれがガウェイン卿か!

 あの日輪そのものが如き聖剣の輝き、流石の冴えだ!」

 

 シャルルがそうして話を逸らす。

 だが、騎士がそう声を弾ませるのも仕方ない。

 

 唸る剣閃、迸る熱波。

 硬い、熱い、強い。三拍子揃った眩き太陽の騎士の侵略。

 

 数と不死性で戦場を埋め尽くすのが不死隊。

 だがそれも太陽の熱を前にしては総崩れ。

 多い上に減らない、という絶対的数の優位をただ剣の一振りで薙ぎ払う。

 それこそがサー・ガウェイン。

 

 あれでまだ太陽の下では強くなる、というのだから驚きだ。

 

 これを見れば、隣で躍るメルトリリスの機嫌もどんどん悪くなるというもの。

 彼女はついさっき、数の暴力を防ぐという戦闘は向いてないと、自分の性能を改めて確認したばかり。こんな当てつけのような光景を見れば、そうもなるだろう。

 

「―――なによ、それ」

 

 誰にも聞こえないよう、拗ねるようにそう言って、メルトリリスは加速する。

 集結し、戦象へと固まろうとする不死隊。だがその行為は太陽の剣閃が吹き飛ばす。

 焼け焦げて、砕け散り、飛散する不死隊の面々。

 

 そうして密度が下がった兵士の壁を擦り抜けて、彼女は前進する。

 兵士の盾ごしでも太陽の熱は届いたのか、黒煙を噴き上げる黒い巨体。

 そんな彼に対し迫るのは(ヒール)、魔剣ジゼル。

 

「Ⅰskandarrrrrrrr―――――ッ!!!」

 

 大王が傷に頓着せず力を振り絞る。膨れ上がる腕の筋肉。

 灼熱に焼かれてなお漲る剛力が、二振りの大戦斧を振り上げる。

 

 目標は彼の理性が選ぶものではない。

 ただ目の前にいた、最も近くにいたという理由で迫りくるメルトリリスを睨む。

 ここに存在しない仇敵の名を呼ぶ怒号と共に、彼の一撃は振るわれる。

 ダレイオス三世が放った一撃は威力を余す事なく発揮し、SE.RA.PHの床を破砕した。

 

 ―――メルトリリスの剣が、すれ違い様に己の霊核を打ち抜いた後に。

 

「Ⅰ、s……kanda―――」

 

 知らぬ間に胸に空いた大穴に、絶命をもってようやく気付く。

 己の命を奪ったのは、超常的な速度で放たれた一閃。

 その事実を死に至ってから認識した大王が消え始めた。

 

 双斧を大上段から打ち下ろした姿勢のまま、ダレイオスの巨体が解れていく。

 彼を取り巻いていた不死隊も当然消えていく。

 

 そんな一騎の最期を背にしつつ、メルトリリスは唇を尖らせながら軽く髪を掻き上げた。

 

 ガウェインが僅か、眉を上げる。

 衛士(センチネル)に相応しい圧倒的性能。

 だというのに、彼女はいま立香のサーヴァントだという。

 一体どういう事なのか、と。少し思案した後、彼はすぐに瞑目して疑問を捨てた。

 それを考えるのは、自分の役割ではないだろう。

 

 ふと振り向いたメルトの前には、駆け寄ってきた立香。

 

「お疲れ様。ありがとう、メルト」

「……別に、アナタが無事ならそれで構わないわ」

 

 そう応えて、彼女はガウェインへと視線を向ける。

 彼女の様子を理解して、すぐに立香が前に出た。

 

「それで、どうしてガウェインがここに?」

「―――――」

 

 マスターに遮られては、メルトから詰問を飛ばすわけにもいかない。

 これは立香が以降の行動を決めるために必要な行為なのだから。

 彼女はマスターの背後につき、不満そうな顔で待機した。

 

 その様子に面食らいつつ。しかしやはり()()()()()と太陽の騎士が相好を崩す。

 

 そして彼は手から聖剣を消すと、詳細は分かりかねると表情で語った。

 

「見た通り、この聖杯戦争に呼ばれたのです。マスターは存在するはずですが、一度も顔を合わせたことさえありません。召喚の際、確かに声を聞いた記憶はあるのですが」

 

 彼の説明を聞いて、立香は顎に手を添えて俯いた。

 そうして思考に耽るマスターの背後で、メルトリリスが僅かに視線を逸らす。

 

「……()()()()()()、と。そう、とても切実な叫びだったように思います。そのような声に応えない、というのは円卓の騎士の名折れでしょう。

 そうして応じた結果、私はこの空間に投げ出された。近くにマスターの気配もなく、辺りには無数のサーヴァントの気配。しかも他のサーヴァントはどうにも……恐慌状態、と言えばいいのか。必要以上に戦闘意欲を駆り立てられているようでして」

「―――その助けを求めるマスターの状態が、サーヴァントへとフィードバックされているんじゃなくって?

 誰だか知らないけれど、聞く限りアナタのマスターはこの異常に巻き込まれた人間。そんな風に問題に直面した人間が必死に絞り出した、生存意欲剥き出しの叫びだもの。レイラインで繋がっているサーヴァントだって、程度の差はあれ相応の影響を受けるでしょう」

 

 ガウェインの説明を聞いて、肩を竦めるメルトリリス。

 

(どういうことよ、BB。ここの聖杯戦争でカルデアの記録が参照されるはずがない。仮にカルデアに霊基データがあったとして、それを天体室に持ち込まなければそんな事態は発生しない。そんなことをすれば、あの女に気付かれかねないっていうのに……)

 

 ―――何故ガウェインが記録を記憶として持ち込めているかは分からない。

 が、恐らくはBBの仕業といったところだろう。

 カルデアのシステム“フェイト”から霊基データをハックし、こっちに仕込んだ。

 できるかどうかは知らないが、こうなっているからにはそんなところだろう。

 その事実にむすっとして、立てた襟に表情を隠すメルトリリス。

 

(カール大帝のことといい、これといい……BBを信じ、いえ。そもそも信じられる相手じゃなかったわね、あの人は。寝惚けていたのは私の方。

 とにかく、ガウェインの参戦自体は喜ばしいこと。けして多くない時間の中、状況を好転させるための戦力が増えるのは望ましいこと、でしょう?)

 

 表情を顰めて唸るメルトを見つつ。彼女の言葉にいまいち納得がいかなかったのか、ガウェインはどうにもしっくりこない、と眉を顰めた。

 

「ふむ……その割には―――」

「なんだか長くなりそうじゃないか? とりあえずメルト先輩の言う避難場所にまで行っちまおうぜ。考えるのはそれからでも遅くないだろ」

 

 言われて、ガウェインがシャルルへと視線を向ける。

 少年王の姿を見て、微かに困惑げな表情を浮かべる太陽の騎士。

 

「貴方は、もしや―――」

「おっと、ストップ。生憎だがこの身は、もしや、だなんて溜めが必要なほど大層なもんじゃないのさ、ガウェイン卿。

 俺はシャルルマーニュ。どちらかというと、自由な冒険者みたいなもんでさ。この事態の解決を目指すってことは、同道することになるだろ? よろしく頼む」

「―――は。御身がそう望むのであれば」

 

 誤魔化すようにそう言って笑う少年。

 しかし、そう言われてしまっては何も言えないのか。

 シャルルに対し一度騎士の礼を取り、ガウェインはそこで仕切り直す。

 

「シャルルマーニュが言うように、私もあなた方と同行しましょう。フジマルがここにいるということは、これはカルデアが介入する事象になっているということなのでしょう?

 であれば、解決するための一番の近道はあなたたちとの共闘と見ました。此度は剣を捧げる主を別にしていますが、その主の願いを果たすためにも」

 

 マスターから送られた叫び、その願い。

 それを果たすにはカルデアとの協力が最も正しい選択である。

 そう確信して、ガウェインは合流の意を示す。

 

 彼は立香の前に出て、その手を差し出してくる。

 それが視界に入った彼女はすぐに意識を引き戻し、自分の手を差し出し返した。

 少女の手を握り締める、太陽の騎士の厚い掌。

 ただそれだけで伝わってくるパワーに、立香が小さく苦笑する。

 

 同時に、そんな光景を見てメルトリリスが自身の手に視線をやった。

 長い袖に隠された手。

 ―――それを確認した自分を笑うように、彼女は高い襟で隠した口端を歪めた。

 

「ありがとう、ガウェイン。すごい助かると思う。とにかく、私たちの状況を―――と、その前に移動しちゃおうか。メルト、案内してくれる?」

「―――ええ。いい加減、大人しくついてきて欲しいものね」

 

 瓦礫は太陽が焼き滅ぼした。飛散した残骸は電脳化して溶けていく。

 道が塞がるようなこともなく、彼女はするりと前進を再開した。

 

 メルトリリス。そしてそれに着いていく立香。

 二人の少女の背を目で追いつつ、ガウェインがシャルルに問いかける。

 

「シャルルマーニュ。一応お聞きしたいのですが、あなたも私と同じようにあの声に……」

「うんにゃ、俺はまた別件さ。俺はアンタのように助けとして求められたわけじゃないし、そもそも真っ当な召喚ですらなかっただろう。もちろんこうして居合わせたからには、助けを求める者を見捨てるなんて、カッコ悪いことはしないけどな」

「…………」

 

 微笑む少年王。

 彼はガウェインの聴いた声と同じ類のものを聴いていない、という。

 

 どうにも消化しきれない感覚。

 藤丸立香の契約した、二騎のサーヴァント。

 何かある、何かあるのは間違いない。

 隠し事はあっても、嘘はないのだろうが。

 

(私がカルデアでの経験を保持している、というのは偶然ではありえない。そして私ばかりが闘争本能……いえ、生存本能に駆り立てられていない、というのも恐らく偶然ではない。

 マスターが放つ強い叫びに反応してサーヴァントたちがああなった、というのであれば、私が聴いた声はそもそもが違う誰かのものであった、と考えるべきなのでしょうか)

 

 確かにマスターの精神状態がサーヴァントの状態を左右する事もあるだろう。

 だがいくら何でも影響力が大きすぎる。

 呼び出したサーヴァント100騎以上が、ほぼ全て精神汚染級の影響を受けるなどと。

 しかも飛ばされてきた叫びは、純粋な生存への願いでしかないはずなのだ。

 

 何かがおかしいだろう。

 マスターの意識、それが飛ばすメッセージを何かで増幅している?

 だが一体どんな目的があれば、これほど強大な精神作用が必要だというのだ。

 なにせサーヴァントでさえ受け止めきれないほどの影響力だ。

 

 ―――では、英霊でさえ比較にならない巨大な何かにその意識を伝えるために?

 

「―――――」

 

 先に歩き出したシャルルマーニュの背を追う。

 メルトリリスもシャルルマーニュも、彼には持ち得ない情報を持っている。

 だが、二人とも持っているのは別の情報なのだろう。

 

 ガウェインの存在を知ったメルトリリスには困惑がある。

 だが、同じ情報を得たシャルルマーニュには納得がある。

 これは一体、どういうことなのか。

 

(……ですが、まだそう焦ることでもないでしょう。私だけが例外とは考えにくい。こうなったからには、恐らくカルデアの記憶を保持したサーヴァントは他にもいるはず)

 

 何故か味方らしいアルターエゴ、メルトリリス。

 聖剣を執るフランク王カール大帝の一側面、シャルルマーニュ。

 

 マシュやカルデアに所属する他のマスターとははぐれているようだが、ガウェインを含めた立香の陣容に不安はない。であれば、今の状況がそう悪いものとは思えない。

 ソウゴを心配する要素はなく、他の二人も正気でないサーヴァントから逃げるくらいはできるだろう。ガウェインのようにカルデアの記憶を持つサーヴァントと合流できれば盤石だ。

 単身では一番不安のある立香にこれだけ戦力が集まっているのは朗報だろう。

 

 

 




 
ダレイオスー!

カルデア記憶持ちはBルートのみ。Aルートでなんかあったんでしょう。
まあネロとかフィンとかその辺りをちょこちょこ出します。
TVシリーズの懐かしキャラ登場、劇場版FZi-oなんやな。
 
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