Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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子供の夢814/A

 

 

 

「つまり、そのパッションリップって人は妹?」

 

 前を歩いていたソウゴが振り返り、メルトリリスに問いかける。

 彼女は一瞬だけ迷い、しかしまあそんなものだと肯いた。

 

「姉妹……まあ、そのようなものです。厳密にはサクラ―――BBが切り離したエゴを核とした派生機なので、少し違いますが」

「ああ。元々巨大ロボだったのが分離した、みたいなこと?」

「……その例えはどうかと思いますが、まあ姉妹よりはそちらの方が近いかと」

 

 巨大ロボットが手足を分離し、それが別の小型ロボと合体してまた巨大ロボに。

 そんなイメージを持ち出したソウゴに、メルトリリスは微妙な表情。

 

 彼女たちに後から追加合体させられたのは女神の要素。

 メルトリリスはアルテミス、サラスヴァティー、リヴァイアサン。

 そして当然、パッションリップもまた女神の要素を持つ。

 

「リップに与えられた女神は美の女神パールヴァティー、更にその一側面とされる戦いの女神ドゥルガー。戦乙女(ワルキューレ)の長姉、ブリュンヒルデ。

 女神の神剣を指に持つ彼女の能力は“トラッシュ&クラッシュ”。視界に収まるものなら何であろうと圧縮(エンコード)してしまう不可逆のid_es(コーデック)……」

 

 そこまで口にした後、メルトリリスがソウゴを見る。

 彼はもうその説明の内容について理解を放棄している顔だった。

 それが分かり始めた自分に嫌気がさしてくる。

 

「……つまり、見える範囲なら何でも握り潰してしまえる腕です」

「へえ……メルトリリスは足で、パッションリップって人は腕なんだね。体はBBだとして、やっぱり合体するの?」

「しません」

 

 にべもない返答を聞いて、どこか残念そうなソウゴ。

 合体するのはまだしも、その内容ではBBが中心ではないか。

 そんなのは絶対に無しである。

 

 そうして会話しつつ、目的地を目指して歩いていく。

 今回の目的地は前にメルトリリスが囚われていた場所。

 そこには恐らくまだパッションリップが捕獲されている筈だ。

 

「カール大帝の居城、機動聖都カロルス・パトリキウス。ここに侵入するためには、まず正門を粉砕する必要があります。そしてその手の破壊活動において、リップの右に出る者はいないでしょう。何より問答無用の破壊なので、位置取りさえ確かなら時間がかかりません」

「つまり侵入のための時間を考えなくていい?」

 

 最終目標はメルトリリスが“オールドレイン”でカール大帝から“天声同化(オラクル)”を奪い取ること。いまSE.RA.PHのコントロールは大帝が握っている。“天声同化”によって同化することで、SE.RA.PHを完全に掌握しているのだ。

 それを彼女が奪い取ることができれば、SE.RA.PHのコントロールが彼女の手に渡る。そうなってしまえば、浮上も沈降も思いのまま。セラフィックスを浮上させ解決だ。

 何となく気に入らないカール大帝や、最低最悪な殺生院の目論見が崩れて万々歳。

 

 カール大帝と戦う上で彼本人も当然注意しなければならないが、それと同等に注意しなければならないのが殺生院。彼女に乱入され、SE.RA.PHを奪われるのが最悪の事態。

 カール大帝をただ退去させ“天声同化(オラクル)”を解除してしまっては、SE.RA.PHのコントロールは元々多くを支配していた殺生院が手に入れるだろう。そうならないように、カール大帝はきっちりメルトリリスがドレインする。そのためにも彼女は強くなっておかねばならない。仮にマスターが大帝に勝てるとしても、それでは目的が達成できないのだ。

 

 パッションリップを奪還し、城攻めの最短ルートを構築することで、メルトリリスのレベル上げ期間を最大まで確保する。殺生院が姿を見せた時用に迎撃してくれるサーヴァントは残しつつ、彼女の経験値になってもらう。

 

「はい。状況次第ですが、機動聖都に突入するのは最後の1日になってからにしましょう。その分で浮いた時間は、私のレベル上げに使います。なので、ここでも」

 

 メルトリリスが首を軽く振る。曲がり角の壁際を示すような所作。

 彼女はその先にいるサーヴァントをドレインする、と言っている。

 彼女とパッションリップが囚われていた牢獄の近く。

 

 機動聖都の東門近く―――天体室に近いが、それでも外。

 パッションリップの攻撃力は把握しているだろうに、牢は聖都の外部にある。

 そうでなければそもそもメルトも逃れられなかっただろうが。

 作為的なものを感じるが、これ自体はあるいは殺生院を吊り出す餌の可能性もあるか。

 とにかく迷ってもしょうがない。こちらとしてはリップの破壊力は不可欠だ。

 運がよかったと思って、奪還させてもらうだけだ。

 

 一応は門番として配置されているのだろうか、そこにはサーヴァントが一騎いる。

 だがまさかのバーサーカー、任務が理解できているかどうかさえ怪しい狂戦士。

 このサーヴァントをドレインし、リップを奪還し、聖都近郊から離脱する。

 それで今回のミッションは達成だ。

 

 壁際から二人揃って先を覗く。

 そこに牢獄を守護するサーヴァントが一人―――

 

 どこかから持ってきた椅子を置き、そこに座ってじいっとしていた。

 

「はい?」

 

 メルトリリスが間抜けな声を出す。

 前に見た時は何もなくともガァーギィー叫んで暴れていた筈なのだが。

 今見た彼は、シャットダウンしたPCのように静かに鎮座しているだけ。

 

 だがそんな彼女の声が耳に届いたのか、ぴくりと揺れる巨漢。

 そのまま彼は目を開き、二人の方へと顔を向けた。

 

 自分の迂闊さ加減に眩暈がしたが、今更言っても仕方ない。

 彼女はすぐに加速のための体勢に入り、

 

「ん、どうやら戻ってきたようだな。あのアルターエゴを助けにきたのか?」

「はい?」

 

 狂戦士とは思えぬほど酷く理性的に、彼はメルトリリスに問いかけてきた。

 またも間抜けな声が出る。

 そうしている内に敵は椅子から立ち上がり、体をほぐすように軽く肩を回していた。

 ついでにマスターも壁際から出て、彼の方へと歩いていく。

 

「そうだけど、あんたは何してるの?」

「ちょっと!」

「いや、私は何もしていないんだ。グンヒルドが大帝に酷く注意していてな、どうにも……協力も敵対もどちらも選べんというか、静観しかできんというか」

 

 そう言って苦笑して、彼―――エイリーク血斧王は再び椅子に腰を下ろす。

 ソウゴも近くにあった椅子を二つ引っ張ってきて、彼の傍に置いて座る。

 それに座れというのか、とメルトリリスが唖然とした顔。

 

「グンヒルド……」

「ああ、妻だ」

 

 メルトリリスは座らず、エイリークに注意したまま立ち続ける。

 その態度を気にせず、彼は半裸の巨躯を小さい椅子の背もたれに預けた。

 

「その人がカール大帝に注意していると何かあるの?」

「うーん、厳密には大帝ではなく……アルターエゴ、じゃないか?」

 

 言って、軽く振り返って背後の建物へと視線を向けるエイリーク。

 そこが牢獄で、パッションリップが囚われているのだろう。

 彼のその言葉に反応して、メルトリリスが目を細めた。

 

「―――アナタ、何を知っているっていうの?」

「いや? 特に深い事情は何も知らないさ。ただ私に分かるのは、いま捕まっているアルターエゴにブリュンヒルデが含まれている、ということだけだ」

 

 北欧の大神オーディンの娘、ワルキューレ・ブリュンヒルデ。

 パッションリップを構成する一柱であり、同時に彼の祖先たる存在。

 竜殺しの英雄シグルドとブリュンヒルデを祖に持つバイキングの王。

 それを把握しているエイリークは、そう言って肩を竦めた。

 

「私からすれば、ただ祖先の神性を与えられただけの少女に見えるが、グンヒルドから見るとそれだけではないらしい。ただブリュンヒルデというよりは、それと関連する何かを警戒しているように見えた。まるで星を滅ぼす災厄を見たかのようだったな。

 注意はあのアルターエゴ……をわざわざ捕獲して、そのままにしている大帝、に対してだ。彼を異常に警戒するような理由が何かあったんだろう」

 

 素直に妻の様子の主観で語るエイリーク。

 それだけの何かがカール大帝にあるのか、まではエイリークには分からない。

 まあグンヒルドが警戒するなら何かあるのだろう、とは思うがそれだけだ。

 

 随分と大きな話をしているが、さほど気に留めていない。

 そんな彼の様子を見て、ソウゴは首を傾げた。

 

「でも、あんたはあんまり気にしてないね。どうして?」

「そうだな。私はたぶんグンヒルドの考えすぎなのだと思っている」

「そうなの?」

 

 よく分からないが、この状況に干渉しているさぞ凄い人らしいグンヒルド。

 彼女を行動させている大いなる不安に苦笑するエイリーク。

 

「私はちょっと特殊でな。“天声同化(オラクル)”の影響を受けているのは肉体だけで、精神は影響されていないんだが……その上で、この声に対しては不安や疑念は抱かない。むしろ、それも是という気分になる。グンヒルドの想定とカール大帝の行動に何か関係はあるのかもしれないが、不安の方は杞憂だろう」

「じゃあその人の勘違いってこと? 教えてあげないの?」

「まあ、あくまで私の勘だからな、確信があるわけでもない。それに彼女が不安に思っているから調べたい、というならもちろん付き合うさ」

 

 苦笑し、体を軽く動かすエイリーク。

 彼は立ち上りながら腕を組み、少し考え込むような動作をする。

 そうして思いついたことがあったのか、牢獄の方を指差した。

 

「あと伝えるべきことは……ああ、あの建物の奥の方には食料もあったかな。全部持っていくといい。大帝が支配した時点で、息のあった人間は機動聖都で保護されているからな。食べる奴はおまえの他にはいないだろう

 さて。それではこの辺りを片付けて戦闘モードに入っておくので、悪いが10分くらい辺りを散歩しててくれないか?」

「分かった、ありがとね」

 

 ソウゴが立ち上がり、笑いかける。

 それに微笑んで返した彼は、椅子を隅の方へと片付けだす。

 

「ああ、頑張るといい。こちらも伝えるべきことを伝えられて何よりだ」

 

 そう言って笑った彼に見送られつつ、とりあえずそこを離れるべく歩き出すソウゴ。

 彼の判断に追従しつつ、メルトリリスは不満げな顔。

 どうせ戦うならば、今ここで戦ってしまえばいいのに。時間の無駄だろう。

 

「わざわざ退く理由、ありますか?」

「そっちの方がメルトリリスは楽でしょ?」

 

 理性の保持されたエイリークと、理性を停止した血斧王。どちらが容易い相手かなど言うまでもない。“天声同化(オラクル)”の強化を考慮しても、狂化していた方が手間はかからないだろう。

 ドレイン相応に強化されているが、メルトリリスだって余裕があるわけではない。ソウゴとしても戦力の温存は望むところだ。

 

 納得できる理由ではあるが、その事実にむくれてみせるメルトリリス。

 そんな彼女を気にせず、ソウゴは機動聖都の外観を眺めに行った。

 

 

 

 

 

「ギギギギ、グガガ……ヒ、ヒヒヒ! 血、血ダァ! 血ヲヨコセ――――ッ!!」

 

 先程までの面影もない。眼光を血色に染め、狂乱するバーサーカー。

 彼の瞳からは理性の光など一切合切消失している。

 

 手には血を求める生きた斧、“血啜の獣斧(ハーフデッド・ブラッドアクス)”。

 狂戦士はそれを乱雑に振り回すが、きっちりと片付けられたそこには壊すものは何もない。

 開けた何もない戦場の真ん中で、エイリークは大笑していた。

 

 そのギャップに何とも言えない表情を浮かべつつ、メルトリリスが爪先を揺らす。

 パワーだけは注意しなくてはいけない。

 元の筋力に合わせ、天声同化の後押しも受けている状態だ。

 

「グガガ、ギ、ヒヒヒヒ―――――!!」

 

 エイリークという機体がこちらを認識する。

 こちらが何なのかさえまともに認識しないまま動き出す狂王。

 そんな彼を前にして、ソウゴがドライバーを回転させた。

 

「変身!」

 

〈仮面ライダージオウ!〉

〈アーマータイム! 3! 2! 1! フォーゼ!〉

 

 エイリークの背後から出現する白いロケット。

 それが彼の背中に激突して跳ね飛ばしながら、ジオウに変わったソウゴの元へ来る。

 分解されて装着されていくフォーゼアーマー。

 変身を完了したジオウは、両腕に握ったブースターモジュールを構えた。

 

 背後からの強襲。背中の強打など気にもせず、エイリークが狂気に笑う。

 ぶつかった勢いを利用し、加速する巨体。

 彼は前に立つジオウに向け、斧を振り上げながら突進した。

 

「来い―――!」

「ヌゥウウアアアアアアア――――ッ!!」

 

 ブースターと斧が激突し、火花を散らす。激突の勢いに負けたのはジオウ。彼はその威力に大きく後ろに押し返され―――しかし、それをブースターから噴く火で相殺してみせた。

 そのまま斧を全力で振り抜いた姿勢のエイリークに対し、体でぶつかりに行く。だがそれを受けたエイリークはその体当たりに耐え抜いた。押し返されず、その場に留まる体躯。

 

 ひっつかれていては斧を振るうに邪魔だ、と。エイリークは鬱陶しげに、空いた腕でジオウを押し返すべく肩を張る。そのタイミングに合わせてスラスターを逆噴射。即座に退くことで、血斧王の剛腕を回避する。

 

 そうして下がってきたジオウの肩に、メルトリリスの踵が下りた。

 互いの装甲が鳴らす金属音の後、二人が軽く一言交わす。

 

「氷より水の方が滑りやすいってことでいいんだよね?」

「私に与えられた女神の権能は、“流れるもの”に対するものなのです」

 

 メルトリリスがジオウを足場に踏み切る。

 

 同時、ジオウが左足をエイリークに向けて突き出した。

 そこに発生する蛇口のようなもの。直後に発生する鉄砲水。

 アストロスイッチ№23、ウォーターの生み出すコズミックエナジーを変換した水流。

 

 それがエイリークの正面からぶつかり、彼を一息に呑み込んだ。

 

「グァ、ゴァ、ゴ――――ッ!!」

 

 あらゆる動きに纏わりついてくる水の重み。

 雄叫びを上げる間にも口に流れ込む水流。

 如何に彼が海上の覇者(バイキング)であろうとも、水中で動きが鈍るのは当たり前。

 

 対し、流動する水そのものである彼女にその縛りは適用されない。

 溢れる水が動きを阻害する戦場で、彼女だけは悠々と舞うことができる。

 

「―――切り刻むわ」

 

 メルトリリスが水の中を加速する。その姿はさながら、彼女に与えられた神性のひとつであるリヴァイアサン。津波のように寄せ来る波の中、彼女はエイリークにヒット&アウェーを行う。

 彼女の爪先がエイリークに傷をつけ、それを撃墜せんとエイリークが斧を向けても既にメルトリリスの姿は彼方。少しずつ、その動きでエイリークは削られていく。

 

 だが狂化した血斧王は傷など考慮しない。

 彼のバーサーカーとしての有様は、まさに“血塗れの戴冠式(ブラッドバス・クラウン)

 ノルウェー王として名乗りを上げた凶行の具現。

 どれほど傷付けたところで、怯むことも弱ることもありはしない。

 彼というバーサーカーの戦場は、最初から最後まで暴れ狂うことで完結する。

 

 ―――それでも、じわじわとエイリークは溶けていく。

 メルトリリスの攻撃にウイルスが仕込まれている以上それは必然だ。

 彼女の踵は相手を溶かし、ドレインする。

 

 そうして見えてきた自身の結末、それに対してエイリークの肉体が動きを見せる。

 あるいは“天声同化(オラクル)”によって増幅された生存本能がそうさせたのか。

 

 “血啜の獣斧(ハーフデッド・ブラッドアクス)”を両腕で握る。

 そしてそれを全力をもって振り上げる。

 

「…………っ!」

 

 狙いなど定める必要がない。

 自身を覆う水流ごと、メルトリリスを飛沫にしてしまえばいい。

 天声同化の後押しを得ている今ならば。

 ウイルスが浸透しきっていない今ならば。

 エイリーク・ブラッドアクスには、それができる。

 

 肩が張り、腕が膨れ、拳が軋む。

 その巨躯が絞り出した全霊を注がれた斧が、水流に向かって振り下ろされる。

 

「ルォオオオオオオオオオオオオオオ―――――ッ!!!」

 

 海ごと割り、メルトリリスなどついでのように水飛沫に変える。

 そんな一撃の前に現れるのは、黄金色に煌めく刃。

 

〈フィニッシュタイム! フォーゼ!〉

 

 水流を割って突っ込んできたのは、ブースターを投げ捨て剣を持ったジオウ。

 彼は左足からの放水を続けながら、ジカンギレードを手にしてそこにいた。

 

〈ギリギリスラッシュ!〉

〈リミット! タイムブレーク!〉

 

 ギレードの刃が軋む。のみならず、激突に悲鳴を上げるフォーゼアーマー。

 染み出す苦悶の声を呑み込み、呼吸を整える。

 この交錯の果て、目指すべき道はただひとつ。当然、これを受け流すこと。

 

 未来は見えずとも、正しい刃の引き方は知っている。

 どうすれば強大な一撃を流せるのか、きっちり身に染みている。

 体で知っているのならば、失敗などできるものか。

 

「オ、オォオオオオ―――――ッ!!」

 

 全身各所のスラスターで強引に姿勢を整える。

 そうして半身を引かせ、刃を動かし、フォーゼアーマーは目的を完遂した。

 エイリークの全霊の一撃を、威力を減衰させつつ水面に叩き落す。

 

 弾け飛ぶ水面。立ち上る水柱。

 それに巻き込まれ、打ち上げられるメルトリリス。

 

 空中に放り出された彼女とジオウが視線を交わす。

 意思疎通がとれるわけではない。

 だがそんな仮面を被った顔でも、伝わってくるものがある。

 

 というか、大抵この少年は難題しか押し付けてこない。

 任せたとか、応えてよねとか、そういった投げっ放しの指令。

 今回もきっとそう。ならば―――

 

「行け! メルトリリス――――!!」 

 

 弾かれたジオウがスラスターを全開にする。

 剣を振り抜いた姿勢のまま、彼の体が加速した。

 どこかに向かって進行するのではなく、体の左右で分けてそれぞれ正反対にブースト。

 そうしてまるで独楽のように回転する彼の手の中。

 ジカンギレードに装填された仮面ライダーメテオのウォッチが輝いた。

 

 今なお放出され続け、エイリークの攻撃の余波で天高くまで満ちる流水。

 それを独楽のように回るジオウが巻き込んで、力任せに渦潮へと変えていく。

 周辺の水全てを巻き込み、作り上げられる水流の渦。

 竜巻のように暴れる水流が、ジオウの直近にいたエイリークを呑み込んだ。

 

「ガ、ァ、ゴァ、ゴボ―――――!」

 

 天に昇る水流に呑まれ、上に向かって落ちていくエイリーク。

 斧でこの柱を割ろうにも、踏み止まれもしないのでは話にならないだろう。

 

 こんな暴れ狂う水の竜巻の中で動けるものは、ただのひとりしかここにはいない。

 

その軌跡は流星(それはながれるほし)のように―――」

 

 星もまた“流れていくもの”ならば。彼女もまた、流星のように。

 水の器、メルトリリス。彼女の持つ女神サラスヴァティーの権能。

 水流の竜巻の中においてさえ、やはりメルトリリスは加速する。

 動きの取れないエイリークに対し、彼女は一方的に牙を剥く。

 

 女神の権能、全てを発揮すれば“流れるもの”を全てを溶かして押し流すだろう。水、風、言葉、音楽―――自然現象、文明問わず。流動、流行するあらゆる全てを溶かし、自分のものとする。()()()()()()が用意したハイ・サーヴァントとしての宝具とはそういうものだ。

 

 けれど、そうではなく。

 

 彼女が今ここに再構成するのは、誰もが憧れる美しく“流れていくもの”。万人が空に見上げる、けして手の届くことがない輝かしいもの

 ―――それはまるで、宇宙(ソラ)にかける流星(ほし)のように。

 

 天上の舞台、水流の渦の中で(プリマ)が躍る。

 誰の手も届かない独り舞台。誰もが見上げる美しき晴れ舞台。

 

 削られていくエイリークの手から遂に斧が手放され、そのまま流されていく。

 魔剣ジゼルの鋭さによって刻まれ、ウイルスは既に全身に伝播した。

 如何なるエイリークの肉体とて、これ以上は耐えきれない。

 故に、メルトリリスが最後の一撃を敢行する。

 

 霊核を目掛けた最後の一閃。トドメの突撃。

 それを阻む余力などなく、エイリークの肉体はその一撃を受けいれた。

 

「―――――――グ、ガ」

「“弁財天五弦琵琶(サラスヴァティー・メルトアウト)”―――――――ッ!!!」

 

 ―――最後の一撃を終えたことで、遅れて水の柱が崩れていく。

 

 水流の中に残っていたのはメルトリリスだけ。

 エイリークを構成していたものは、余すことなく少女の養分として吸収された。

 

 優雅に、水面に辿り着いた白鳥のように降り立つメルトリリス。

 彼女の目の前で、ジオウが疲れたとばかりに剣を放って背中から寝ころんだ。

 

「あー……お疲れ様、メルトリリス」

「―――――」

 

 少女が口を開こうとして、しかしそこで止まった。

 そのまま彼女は袖に覆われた右手を持ち上げ、自身の口に当てだした。

 不思議そうに見上げているソウゴに対し、メルトリリスはそのままたっぷり10秒沈黙。

 

 そうしてたっぷりと待たせた後、彼女は腕を口元からどかして僅かに口角を上げてみせた。

 

「―――アップデート終了。やっと()の情報を整理できる程度の演算能力(レベル)は取り戻せた、といったところかしら? まあこれでようやくスタート地点まで戻せた、程度の話だけれど……とにかく一応言っておきます。ご苦労様でした、マスター。これからも私が完璧な私に戻るため協力のほど、どうぞよろしくお願いしますね?」

「うん? うん。じゃあ行こっか」

 

 にやりとした笑い、とでも形容すればいいのか。

 メルトリリスが初めて見せる様子を見て、ジオウは頷いて立ち上がる。

 少女の顔に浮かぶ、正直そうだろうなと思ってた、と言いたげな不満そうな顔。

 

「……ちょっと、他に何か言うことはないの?」

「他って? メルトリリスがメルトリリスなのは変わってないんでしょ?」

「私が私だって分かっているなら、何が必要かも分かるはずでしょう? 仮にも私が認めたマスターでしょう、アナタ」

 

 そんなことより結構疲れたんだけど、というジオウの様子。

 エイリークの話では食料もあるようだし、手早く向かいたい。

 

 その様子にむっとしたものの、とりあえず揃って牢獄に向かって進みだす。

 道中でソウゴは変身を解除しつつ、メルトリリスに問いかけた。

 

「それさ、俺がびっくりした方が見て楽しいからびっくりしろ、みたいな話?」

「分かってるじゃない」

「うーん……じゃあ今度からは考えとく」

 

 どうせ大した反応なんてしないだろう、なんて。

 ギアがひとつ上がったメルトリリスは肩を竦めて滑り出した。

 とにかくこれで、パッションリップは救出できる。

 後はただ、可能な限り勝率を高めるだけだ。

 

 

 

 

 

『業務連絡、業務連絡、牢屋に繋いでいたパッションリップが脱走しちゃいました。で、ホントにいいんですかぁ?』

「何がだね?」

 

 BBの問いに何の感慨もなさげに返す玉座のカール大帝。

 彼の最終目的のためには、後は沈降を待つばかり。

 やるべきことなど、殺生院排除くらいなものだ。

 

 リップであれば正門をこじ開けられる。

 相手の反撃の起点になりえるそんな要素にさえ彼は頓着しない。

 そんな分かり切ったことにさえ興味がない。

 

 むむむ、と顔を顰めるBB。

 

『後はあの三人、ギリギリまでメルトのレベル上げしてここにくるでしょうけど。防衛線の構築とかお考えです?』

 

 彼女の言葉を鼻で笑う。

 

 そうもなるだろう。本気で迎撃するつもりがあるのなら最初からやっている。尻尾を出し次第、主砲でそのセクターを爆撃すればいいだけだ。一切の手心を加えないのであれば、彼は確実に勝利できた。そもそもの話、メルトリリスとパッションリップを捕獲ではなく消滅させておけばよかっただけ。

 

 だから、そんな話は今更だ。

 

「要らんよ。来たいというなら止めはせんし、来たというならば余が一人で迎え撃つ。お前も手駒の準備があるというのなら急ぐがいい、準備に準備を重ねて悪いことはなかろう」

 

 それで十分だ、と。大したこともないとばかりにカール大帝は語った。

 結果が彼の望む方向に行かなくなる可能性は否定できない。こんなやり方では、失敗の可能性を増やすばかりだ。だがもしそうなるとしても、彼はそれもまた是とする。

 

 言われたBBが片眉を上げて、大仰に肩を竦める。

 そのまま彼女はチャンネルを切断した。もしもの時に備え、別のアルターエゴの準備だろう。

 

 ひとりぼっちの静寂を取り戻した玉座で、彼は力を抜いた。

 荘厳な席に預けられる恵体の体重。

 

 積年の想いが去来する自分の胸中。

 それを喜べばいいのか、悲しめばいいのか。

 浮かぶのは何とも複雑な色の表情。

 

「――――目前だ。余の目指す普遍にして永久不変、絶対平和の世界到達へのな」

 

 それを成し遂げたいのなら、こんな回り道は必要ない。

 思考停止して爆撃でも仕掛ければ達成できる。

 外敵は全て問答無用で排除し、地球と同化するまで悠々としていればいい。

 

 だができない。それはできない。

 

「……ここにきて姉上(アルテラ)、貴方にこうも心乱されるとはな」

 

 何より、自分が認められないやり方を選ぶことはできない。

 “天声同化(オラクル)”とはそういうものだ。

 彼が自分で自分の意に反した瞬間、その声からは全てが失われるだろう。

 だから、想ってしまったからにはこれしかない。

 

 あの重厚な腕に姉上の面影を見た。

 巨神を元とし設計された戦乙女は確かに、彼女を感じさせるものだった。

 

 あの爪先に兵器の機能不全を見た。

 鋭く磨き抜かれただけの兵器が、しかし変われるものだったと理解した。

 

 寂しく、気高く、ひとりぼっちのまま。

 しかし、冷たいものではなくなったもの。

 温かな何かを得られたもの。

 

 ―――ああ、何という衝撃か。

 

 あれらがそう変われたとのだとすれば、もしそんなことが起き得たのだとすれば。

 今のこの人の世においてさえ、彼女さえも笑わせることができたのだろうか。

 

「だが、これはこれで悪くない。

 こうして最後に()の前に立ちはだかるのが、子供の頃の夢景色というのもな」

 

 異星の鍵(モノリス)の先に彼女の姿を垣間見て、あの時別れた現実と夢。

 カール大帝とシャルルマーニュ。

 本来は両方備えてカール大帝であるが、此度は少々違いがあった。

 

 ―――だというのに、この始末とは。

 

「性根は変わらぬか。余はいつでも、欲する世界のために此処にあるのだから」

 

 見たかった光景だ。

 あの(モノリス)の先に見えた破壊の化身にして、ひとりぼっちの少女。

 彼女と同じような者たちが、ああなれたというのなら。

 彼女が笑える世界があるかもしれないなら、それとはぶつからなければ。

 

 変われた少女たちと、自分のやり方で決着をつけなければなるまい。

 

 

 




 
 対界から対人に再構成した流れ的な。

 弁財天は凄いな。
 だから制限されるんだ。
 
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