Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

58 / 91
 
 マーリン・オルタナティブ⚔様から300話突破記念で支援絵を頂いたジオ~
 ありがとうジオ~
 
【挿絵表示】


 そんなに書いてたん?(素)
 


シャッタークラッシュ2009/B

 

 

 

 加速、加速、加速、加速―――

 少女が徹底的に加速して、目前に立ちはだかるパッションリップへ突撃する。

 鋼の脚が生み出す速度に、鋼の腕は追い付けない。

 しかしそのままの勢いで直進しようとしたメルトリリスの速度が陰る。

 

「―――!?」

 

 少女の顔が驚きを浮かべる。

 それはそうだ、だって彼女は減速なんて望んでいない。

 だというのに何故か、メルトリリスの速度が低下。

 

 メルトの放つ一閃が届くのと、リップが腕を持ち上げる動作が重なった。

 激突する鋼の踵と爪。

 重量の差か、弾き返されるのはメルトリリスの方。

 

「何が……!」

 

 足回りが悪くなったことに困惑する少女。

 その正面で、パッションリップが巨大な腕を上げる。

 重々しく力強い動きはまるで重機のようで。

 

「アアアアアアァ―――――!!」

 

 起動するid_es、視界に収まる全てを潰す“トラッシュ&クラッシュ”。

 リップは迷いなくメルトに向けその能力を行使しようとして、

 

「来たれ、疑似勇士!」

 

 メルトを抜き去り、前に出るシャルルマーニュ。彼の手に飛び込んだ翼のような輝剣が、その姿を黄金の槍に変えていく。

 全てを圧縮する能力が行使される前に、リップの手に届くシャルルの手にした槍。

 

「“触れれば転倒(アストのやり)!”」

 

 腕に穂先をぶつけた瞬間、少女の態勢が崩れ落ちる。

 バランスを損なって転げるパッションリップ。

 彼女の腕である圧縮機は、その時視界の先にあった床のみを削り落とす。

 

「ァ、ア―――」

 

 地面に倒れ込み、自分が削り落とした床に埋もれるパッションリップ。

 すぐさま彼女から距離を取りつつ、手にした槍を両手で強く握りしめる。そうしながら、シャルルは目の前の光景に眉根を寄せた。

 

姉さん(アルテラ)、じゃないけど近しい気配。メルト先輩の事と併せて、だからアイツの癖にあんなことをしてんのか。まあ、やりたくなる気持ちは分かるけどさ)

 

 カール大帝らしくないと言うか、らしいと言うか。

 まあ理由は何となく察せたのでいいとする。

 

 そうしている間にメルトが復帰して前へと出てくる。

 シャルルと並んだ彼女は、彼の手元を見て嫌そうに表情を渋くした。

 

「大丈夫か、先輩?」

「―――少し足元が狂っただけです、問題ないわ。

 そんなことよりアナタ、使うならそんな槍より前に見せた盾になさい。リップのid_esは“トラッシュ&クラッシュ”、視界内の全てを圧縮するもの。転ばせてもあの子の視界が向いていたどこかが削られる。アナタにできる最善の対処は、目晦ましをしてそもそも発動させないこと」

「なるほど、そうなのか。了解」

 

 腕の重量のせいか、立ち上りの動きさえ鈍いパッションリップ。

 彼女がそうしている内に、槍を輝剣に戻して手放すシャルル。その代わりに彼は手元に来た別の剣を掴み、勇士ブラダマンテの宝具である光の盾を顕した。

 

 視界さえ奪えば能力が使えない、というならこれで問題ない。

 “目映きは閃光の魔盾(ブークリエ・デ・アトラント)”。

 リップの動作は遅い。これならば、魔力の閃光で視界を奪い続けることにも無理はない。

 

(問題は、時間稼ぎは楽勝だが攻略が難しいってこと)

 

 僅かに頭を横に向け、隣にいるメルトリリスを見る。

 迷いと焦燥が入り混じる表情。

 今の動作を見れば分かる、彼女にはパッションリップを倒せない。

 そしてメルトリリスが倒せないというなら、シャルルマーニュも。

 

 顔を背け、今度はリップの背後に見えるウィンドウへ。

 そこに映ったBBの顔は、こちらの苦境を楽しむような表情。

 

()()()()()()、でいいんだよな?)

 

 立ち上がり、再稼働を始める圧縮機。

 獲物を選ばず、目的を選ばず、範囲だけ設定して圧し潰すマシン。

 そうなっているパッションリップに対し、シャルルは光の盾をかざした。

 

 

 

 

 

 回る大通連、その刃が嵐となって放たれる。

 “楼嵐”に引き裂かれ、フィンが槍に纏わせていた水流が四散した。

 

「さて、随分と私に執心してくれているようだが、何か言いたいことがあるなら聞こうとも。それがどういった内容であれ、女性からの言葉をふいにする男ではないよ、私は」

「―――別に、アンタに言うべきことなんて何もないし。っていうか、ただのストレス解消? 誰でもよかった、みたいな」

「誰でもよかったというのに、わざわざ私を選んでくれるとは。やはり輝きすぎか、私」

 

 目的はない。理由はない。狙う必要なんてあるわけない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 刃に戻った大通連を掴み取り、大上段から斬りかかる。代わりに手放す小通連。

 神通力で宙を舞う小通連を視線で追いつつ、フィンの槍が鈴鹿の太刀筋を受け流す。

 直後に横から飛来させる小通連、続けて加速させる自身の背後に設置した顕明連。

 

 それを鈴鹿自身を捌いた立ち位置のまま、続けざまに受け流す槍捌き。

 

(―――“才知”無しじゃ詰め切れない。だからってこいつに使う? 冗談……!)

 

 槍の穂先が翻る。牽制のように放たれる刺突撃。

 躱せると理解していながら、しかし動かず気合を入れる。

 腹に直撃する槍の一撃。それをKP(カルマファージ)で強化された肉体で強引に受け切った。

 

「む」

 

 フィンが眉を顰める。そうして攻撃を受けた状態のまま、刃を翻して斬りかかる。

 水流を防御に回しつつ、回避運動へと移る男。

 慌ただしくもされど優美に、金色の髪を靡かせながらの流麗な足取り。

 攻め手に合わせた守り手を、過つことなく重ねていく。

 

 鈴鹿が攻めればフィンは防戦一方。

 だが、押し切れない。

 

 時間がかかるだけならば、“才知の祝福”を使えばいい。

 フィンの攻撃ではKPの護りを突破できない。

 であれば、重ねた時間と見た太刀筋がそのまま彼女に武器になる。

 

「―――――!」

 

 相手の反撃に意味のないことを理解した、隙だらけの大振りの一撃。

 それを正面から受け止め、弾かれて、フィンと鈴鹿の間合いが開く。

 

 距離が開いた状態で止まる戦闘。

 鈴鹿はそれに追撃せず、フィンもまたそれに反撃しない。

 静止した少女の姿を見て軽く眉を上げるフィン・マックール。

 

「ふむ……これではどうあれ納得できない、というのであればまたの機会でもいいが?」

「…………」

 

 KPを受け取ったことを後悔する。こんな状況で勝ったところで意味がない。

 ()()()()()と証立てるには、こんな不純物は要らなかったのだ。

 どちらにせよこんな精神状態では、“才知の祝福”も使えずジリ貧だろうが。

 

 ああ、本当に馬鹿らしい。

 せめて自分らしく、楽しめばいいものを。

 

「またの機会、またの機会ね。そんなもんがあったら―――」

 

 加速する。大通連を手放し、小通連を手に。

 廻る大通連の刃が水となってフィンへと向けて殺到する。

 激突する水流。跳ね飛ぶ飛沫。

 水飛沫のカーテンを突き破るように顕明連を飛ばす。

 

 放つ神威の水に限らず、舞うようなその動きは流水の如く。

 攻めあぐねているという事実そのものが、より自分を苛立たせた。

 

 小通連を手放し、弾き返されてきた顕明連を掴む。

 放たれるのは空間を軋らせるほどの神威。

 普通であれば保ちはしないが、KPで強化された今ならば―――

 

 と、そこまでしておいて、彼女は手にした剣を手放した。

 

「……私は、私の()()()()()をアンタなんかに使ってやるのはゴメンだし。あーあー、何やってるんだか。やめやめ、適当に相手するだけにしとく」

 

 小通連を掴み、大通連を再び動かす。乱雑に放たれる神通力。

 刃を水に変えて飛来する剣を、フィンは危うげなく撃墜する。

 

「文句ないでしょ、BB」

『ま、鈴鹿さんがそれでいいなら特に言うことはありません。というか、わたしは最初から時間稼ぎをお願いしているんですけれど。パーティ会場が整うまで適当に流して下さい』

 

 鈴鹿の問いかけに対し、彼女の近くに窓が開く。

 そんなBBの物言いに対し、溜め息混じりに剣を振るう鈴鹿。

 彼女の神通力が剣を浮かして、フィンの周囲を飛び交う。

 

 フィンは迎撃のため槍を回して構え直す。

 

(さて、あのアルターエゴ以外に彼女を倒せる手段なし。私が引き付けている内に他所から攻略というのも、どうにも巧く行く流れではなさそうだが……)

 

 こちらの矛らしいメルトリリスというアルターエゴは、もう一人のアルターエゴに足止めを食っている。そちらはすぐに終わりそうにもない。

 鈴鹿御前もフィンへの殺意はなりを潜めたが、まだ攻撃は続いている。KPによる防御力を加味すれば、ただそれだけのノイズすら突破は容易ではなく―――

 

(彼女から私への執着―――も、情報のひとつと見える。そういう記録があると理解しつつ、それを認めることを拒否している。カルデアのサーヴァントが得たそれとは違う、どこかで確かに得た記録。重要なのはそれを得た経緯か、理由か。彼女が衛士(センチネル)とやらに選ばれているのもそれが理由か? さて、黒幕(BB)が時間を求めている理由も重なるのか……)

 

 槍の穂先が返されて、飛刀とぶつかり火花を散らす。

 直後に発生する嵐を後ろに下がって躱しつつ、どうしたものかとフィンか麗らかに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 腕に装着された弓からの射撃。それは立香を狙ったもの。

 その矢を剣で打ち払いつつ、ネロは肩をいからせた。

 

「おのれ、リツカを直接狙うとはな!」

「オレのこと知ってるなら、そういう手合いだってことは分かってるでしょうに。それともオタクの知ってるオレ、正々堂々みたいな騎士の真似事でもしてました?」

 

 ロビンの視線は下に。ネロの足取りを注視し、彼女が前に出ようとすれば立香を狙う。

 雇い主から依頼されたのは時間稼ぎだけ。ならこんなもんで十分だ。

 ただでさえBBに目を付けられ、ストレスばかりが積もる仕事なのだ。

 最低限の仕事だけすればいい。

 

 発生する膠着。

 戦場は三つ、その全てが押しも押されもしない戦い。

 その光景を素早く見渡しつつ、立香は強く眉根を寄せた。

 

(フィンと鈴鹿御前の方を真っ先に取りに来るのかと思ったら、そっちでも消極的。じゃあBBは何がしたいの? 本当にただの時間稼ぎ?)

 

 握り締めた拳の表面がざらりとする。情報分解が進行しているのだろう。

 

(……私がここで活動していられる時間は限られてる。一度外で活動したら、今のところ教会か―――たぶん管制室も大丈夫、かな。どっちかで休息しなきゃいけない。こうして一度出てきてしまった以上、どうあれどこかで数時間の休憩は挟まなきゃいけなくなった)

 

 対策を講じるために教会に引き返せば、そこで6時間程度の睡眠が必要になる。

 行ってみて、何もできずに帰ってしまえば活動時間以上に多大なロスになるのだ。

 BBからしてみれば、それが目的の可能性があるが。

 

(この防衛線を無理に回避して管制室に突撃しても、あのパッションリップの能力ならきっと場所ごと破壊できる。避難所として管制室が使えなくなれば、結局教会に戻らなきゃいけない。戻れなければ、私の体はこの空間で分解される。だから前に行くなら、パッションリップには必ず対処しておかなきゃいけない)

 

 現状ではやはり、この状況を鑑みて撤退が最善手。

 何せ全ての盤面が膠着状態なのだ。

 ここで存在していられる時間に大きな制限がある立香では、ゴリ押しはできない。

 

 ガウェイン、ネロ、フィン。見知ったサーヴァントとここで合流できたことも考えれば、ここを突破するためにSE.RA.PHを巡って仲間集め、という選択肢もあると言っていい。

 そうしてこい、と言われている気さえする。

 

(やっぱり……時間をかけろ、ってBBに誘導されてる気がするけど……)

 

 メルトの方へと視線を送る。

 これまで見せていた彼女の動きとは違う、やや歩調の乱れた舞。並みのサーヴァントならば圧倒できるだろうが、今までのような他とは隔絶した力をその動きからは感じない。不調、というよりパッションリップには全力を出せない、という縛りがあるかのような状態に見えた。

 

 空中に投影されたBBの映る画面に目を向ける。

 彼女は向けられた視線に気づくと見返してきて、悪戯に微笑んだ。

 

(さあ、どうしますかセンパイ? 戦場は三面、内容ではどうでもいいです。こちらが欲しいのは時間だけ。天体室に到達するまでの時間をひたすら稼ぐだけ。

 わたしとセンパイ、選ぶ行動を悩ましいものにする要因はお互いにひとつ)

 

 退く、立香がこの選択を出すのは簡単だ。

 時間稼ぎ、BBの求めるそれは普通ならば難しくない。

 だが―――

 

 爪と踵が鎬を削る。

 視界を光の盾に潰されて、ただ乱雑に両腕を振り回すパッションリップ。

 嵐のように暴れるリップに踏み込みきれないメルトリリス。

 

 前のめりに突き進むメルトの背を見て、逡巡する立香。

 それに対して軽く口角を上げて、BBは軽く手にした教鞭を弾いた。

 

(メルトの動き、これほどまでにリップに対して力が出せないのは思わぬ収穫。けどあれが続けば、痺れを切らしたあの子が鈴鹿さんを先に倒しにいきかねない。リップの抑えはシャルルさんが果たせてしまえているから、動くだけの余裕はありますよね。

 鈴鹿さん本人はもちろん、いまKPを溶かされてはこちらが詰み。メルトとしては当然あんなもの、ドレインせずに溶かして捨てるでしょうし)

 

 管制室に向かうにはリップの制圧は必須。

 “トラッシュ&クラッシュ”を放置すれば、管制室ごと握り潰される。

 だからメルトがああもパワーダウンした以上、ここから先には進めない。

 そうして苛立ったメルトに、ストレス解消として鈴鹿を狙われてはことだ。

 

(それにシャルルさんがいてはリップの力も形無し。道を潰す、というのも今からでは難しい。ついでにそうしてしまったら、今後の行動のコントロールも難しい、と)

 

 今この場、管制室へ繋がる回廊をリップに潰させる。

 時間稼ぎ的にはそれはそれでありだが、最終的には天体室までの誘導は必要だ。

 BBが自由に行動できるならそれでもどうにかするが、今は流石に難しい。

 

『―――ま、なら仕方ないですね』

 

 ぴん、と弾かれる教鞭。

 それが合図だったのか、周囲を満たした水中の景色が歪んだ。

 広がっていくのは銀色の幕。

 

 それを視界に収めた立香が一瞬息を詰まらせ、即座に叫ぶ。

 

「ネロ!!」

「なっ、ぬぅ……あれは―――!」

 

 銀色のカーテンを突き抜けて、巨大な腕が生えてくる。

 悪魔のような、竜のような、巨人の腕。

 それは真っ直ぐに立香たちの方へと伸びてきた。

 

 腕が届く前に取って返したネロが立香を抱え、大きく跳ぶ。

 直後にSE.RA.PHの床に叩き付けられる巨人の腕。

 衝撃ですっ飛ばされたロビンがすぐさま雇い主に対して抗議の声をあげる。

 

「ちょ、てめぇ……! BB、お前オレごと潰す気か!?」

『ロビンさんなら避けれると思ってましたー』

 

 棒読みで適当に返すBBの前で、巨人の腕がゆっくりと持ち上がる。

 そのまま銀幕の中に引き戻されていく巨腕。

 

 突然の一撃に対し、メルトリリスがそちらを見て頬を引き攣らせた。

 

「な―――この容量(サイズ)、まさかキングプロテア!? BB、アナタなんてことを! あの子を外に出すなんて、SE.RA.PHごと潰すつもり!?」

『安心してください? 今のあの子は劇場版仕様。虚数空間への潜航状態から直接こちらに手を伸ばしてますので、SE.RA.PHの処理能力に負担はほぼかかりません。

 つまりはぼーっとしてると、いきなり腕だけ出てきてとりあえず殴ってくる。そういうステージギミックみたいなものなわけです。膠着した戦況を動かすテコ入れ要素ですね』

 

 引き戻される、白とマゼンタの装甲に覆われた悪魔のような腕。

 銀幕に消える寸前、握られていた拳が開かれて掌を広げる。

 まるでバイバイと告げるように、そのままゆっくり左右に揺れる手首。

 

 挨拶して消える手を見て眉を顰めつつ、BBは邪悪に笑みを深めた。

 

『虚数空間に存在しているということは時間という要素に囚われない、ということ。時間が経過したことにならなければ、常時EXP(けいけんち)自動獲得の“グロウアップグロウ”は機能不全。成長が一定状態で固定されたことで、天井に到達した時点で規格を拡張する“ヒュージスケール”も当然発動しない。あの子の成長を止めた上で運用できるわけです。虚数空間にいたまま自由に動けるアナザーディケイドさん? に感謝ですね』

 

 当然のようにアナザーディケイド、と口にしたBBに立香が顔を顰める。

 ネロもフィンも、かつての決戦を思い出して眉根を寄せた。

 

 古代ウルクで激突した超弩級の怪物、地母神ティアマト。

 ビーストⅡ・アナザーディケイド。

 彼女たちが潜り抜けてきた戦いの中でも、最上位の存在だったもの。

 それを感じさせる相手に対し、立香たちはより表情を引き締めた。

 

 そしてそんなことになっているキングプロテアという存在に対し、メルトが声を絞り出す。

 

「やりたい放題じゃない……!」

『それはもう! ここはわたしのゲーム盤。周回特典(チート)にはGM特権(チート)でやり返すのが礼儀というもの、ヒロイン力の差というものを思い知らせてあげましょう!』

「うっわぁ……何出してくれてんの。流石にこれはドン引きっしょ……」

 

 大通連を神通力で動かしながら、鈴鹿がBBにドン引きする。

 どこからあんな化け物を持ってきたのか知らないが、流石にドン引きだ。

 怪物の神格が高すぎて狐の尾がピリピリと痺れる。鈴鹿御前のケモミミと尻尾はただカワイイからつけてる飾りだというのに、これは酷い。

 

 ―――そこで、鈴鹿御前が何かを堪えるように眉間を押さえた。

 

『ふっふっふ、ドン引きされた程度でブレーキがかかるのなら、小悪魔(ラスボス)系後輩AIなんてやっていられません! さあやってしまいなさい、プロテア!』

 

 BBが教鞭を振るえば銀幕が開く。

 そこから現れて振り上げられる悪魔の腕。

 床に向かって振り下ろされるをそれを視線で追い、ネロがすぐさま離脱した。

 

 近くに叩き落された掌の衝撃でSE.RA.PHが震撼する。

 

「ぬ、ぅ……! いかん。これは不味いぞ、リツカ……!」

「―――分かってる。一時撤退! 教会まで戻ろう!」

 

 下されるマスターの指令。

 一瞬の逡巡。が、すぐにメルトリリスは取って返した。

 加速に乗って、足を突き出し、そのまま床に叩き落されていた巨人の腕へと激突。

 その超常的な威力が、巨人の腕を大きく押し返した。

 単純に圧倒的なパワーで、プロテアの重量を吹き飛ばす。

 

「っ、やっぱりリップ以外が相手なら問題ない……! 私がプロテアとスズカ! シャルルマーニュはリップ! 相手をしている間にマスターたちは撤退なさい!」

 

 鋼の踵が床を削る。驚いた様子のアナザーディケイドの腕に、更なる一撃。

 銀幕の中へと蹴り返しつつ、メルトは叫ぶ。

 

「任せたよ!」

 

 彼女の叫びに応えるように、立香が言葉を返す。

 メルトリリスのマスターである彼女がその判断を下した、という事実。

 それをもって、ネロとフィンは迷わず撤退という選択をした。

 

『ふふん、緑茶さんを勘定に入れ忘れましたね! さあ今です! パッションリップにするように、メルトリリスにきっついお仕置きをしてあげちゃってください!』

「いや無理だろ……」

 

 メルトリリスがロビンフッドを勘定に入れなかったのは入れる意味がないからだ。

 立香を抱えたネロはまだしも、その後ろを固めたフィンを出し抜くのは無理。

 そもそも彼ではメルトリリスを抜き去って追撃や、彼女に痛打など与えられるはずもない。

 KPを有する鈴鹿御前ですら相手にならないのだ。無理に決まっている。

 

 弓の構えを解いて、いつでも消えられるように外套の準備をするロビン。

 

 そんな彼の隣に銀幕から生えてくる巨大な腕。

 それは戸惑うように恐る恐る出てきて、空中でゆらゆらと蠢いた。

 

『ま、そうですよね。あ、鈴鹿さんも前に出ないでください。ここで敗退されると手が足りなくなるので。プロテアはメルトが動いたら最優先で対応を』

「…………」

 

 無言で返す鈴鹿御前。

 了解した、と拳を握り締めるアナザーディケイド。

 

 一つ離れた戦場で、乱雑に振り回される腕を光の盾が弾く。

 その衝撃で間合いを取りつつ、シャルルがメルトに叫ぶ。

 

「で、先輩! 俺たちは目晦ましに乗じて全力疾走でいいのか!?」

「―――――」

 

 いつでも疾走を開始できる体勢で、メルトがBBへと視線を向ける。

 突き刺すような氷の視線。

 

「スズカ……いえ、KP(カルマファージ)の方かしら。随分重要だと考えてるのね、BB。今ここでスズカだけでも始末すれば、アナタのお遊びにとって邪魔になるのかしら?」

『なりますよ? ええ、認めましょう。わたしはアナタの足止めに全力を注いでる。なんだかんだ言って、リップをシャルルマーニュさんに抑えられた状況では今のアナタは抑えきれません。

 プロテアがいてもこの状況、鈴鹿さんだけならやろうと思えばやれる、アナタの考えている通りです。でもそれ、本当にアナタの目的に繋がりますか?』

 

 氷の視線は何にも刺さらず、洞のようなBBの赤い目に沈んでいく。

 

『プロテアが本格的にSE.RA.PHに乗り込めない以上、アナタの力はこの電脳世界で二番目に高いことになる。それなのにアナタがこの状況でどうにか誰かを助けたい、というなら考えなくてはいけないことがあるでしょう?』

「考えているわ。だからこそ、ここでKPは砕くべきでしょう?」

 

 メルトリリスの踵が床を削る。

 その動作に合わせて、BBはにこりと微笑んだ。

 

『いいんですか? ()()()()()()()()()

 

 少女の足が止まる。

 流石に盾の維持が厳しくなってきたシャルルが、そんな彼女の表情を見た。

 

『オールドレインを有するアナタに語るのも釈迦に説法もいいとこですけど、電脳体を溶解吸収する情報集積体から、吸収された特定情報のサルベージをするのなら、その情報源である存在が完全である必要があります。下手にそれを壊してしまえば、吸収された存在の情報も傷ついてしまうかもしれないですから』

「BB、アナタ……まさか、アレはそういう意味で……!」

『壊しますか? KP(カルマファージ)

 

 悪魔のような笑み。

 それによってメルトリリスに生まれた自失は一秒間。

 彼女はそれだけの時間思考して、それだけの時間が過ぎた後には確固たる結論を持っていた。

 

「―――そう、そうなのね。ならいいわ、私が優先するものはもう決めているの。

 今、此処で、その情報源もろとも一切合切消えなさい、スズカ」

 

 刃が鋭さを取り戻し、鈴鹿御前に最大の殺意を向ける。

 

 それを受けた鈴鹿は剣を握って軽く舌打ち。

 襲撃に備えて魔力を回し―――

 

「ストップだ、先輩」

 

 しかしメルトが走り出す前に、彼女の視界を青いマントが覆った。

 メルトを抑えるように前に立って、進行を妨げる騎士。

 邪魔だ、と言おうとして。

 

「よくわかんねえけどそれ、たぶんマスターと決めるべきことだろ?

 いや、違うか。決めるのは確かにメルト先輩の意志だろうけど。ただそれは、マスターに対してアンタからちゃんと告げてからやるべきことだ」

「―――――」

 

 唇を噛み締めるメルトリリス。

 だがそれを認めるのか、彼女の足はそれより前に出なかった。

 

「ここは退くぜ、BB。こっちが見逃したんだ、そっちも見逃してくれるんだろ?」

『ええ、尻尾を巻いて逃げるならお好きにどうぞ。こちらとしても管制室に近付かないなら、リップにもプロテアにも襲わせはしませんよ』

 

 であれば、と。悠々とマントを翻し、シャルルは帰還の姿勢を取る。

 と、そこで首だけ捻って顔を後ろに向け、彼はBBに問いかけた。

 

「っと、一応確認のために訊いておきたいんだが。さっき言ってたサプライズパーティーの会場? ってどんな場所なんだ?」

『サプライズはサプライズ。センパイたちの驚いた顔が見れる場所ですよ。ここでアナタに教えたってしょうがないでしょう?』

 

 返答はにべもない。

 だがその答えに満足したのか、シャルルは一度頷いて歩き出す。

 一度口惜しげに顔を顰め、メルトリリスも踵を返した。

 

 そうして終了した戦場に、ゆらりと現れる人影。

 

「……口八丁、まるで我が魔王を助けるためにはそのKPとやらが必要だとでも言いたげだね」

『別に嘘はついてませんしー。まったく、メルトにも困ったものです。これだけ言ってまだ戦う気を見せてくるんですから』

 

 アナザーディケイドの腕が銀幕に引っ込み、消える。それを見上げながら、黒ウォズは軽く溜め息をひとつ。こうしてキングプロテアを運用できるようになった代わりに、スウォルツと加古川飛流にアナザーディケイドを回収されてしまった。向こうからしても、ティアマトを内包した彼女は絶好のカモだったろう。

 再生ウォッチはああしてプロテアの中にあるが、一度精製に成功した以上は既に、アナザージオウの能力範囲に含まれてしまった。だがまあ今更言っても仕方ない。

 

 そんな話をしている連中を面倒そうに眺め、鈴鹿御前は深い溜め息を吐いた。

 

「はぁ……どいつもこいつも、何がどうなってるんだか。怪しさが服着て歩いてるような連中が集まってごちゃごちゃと、どんだけスッキリしない話なわけコレ?」

 

 BBと黒ウォズが同時に呆れた視線を鈴鹿に向ける。

 まるでお前もこっち側だろ、と言いたげな顔。

 何故か責めるような視線を受け止めて、彼女は機嫌を悪くしてそっぽを向く。

 

 そうして顔を逸らした先では、動きを止めたパッションリップが静かに佇んでいた。

 

 

 




 
 いつの間にか来てた謎のシルエット…いや待て、あの孤独なSilhouetteは…?
 再臨でシャルルとカール大帝が切り替わったりしないかなー。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。