Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー 作:アナザーコゴエンベエ
「改めまして、はじめまして。その……アルターエゴ、パッションリップです」
「こっちこそよろしく、俺は常磐ソウゴ」
帰りの道中。黄金の爪を揺らしながら、菫色の髪の少女が名乗りながらはにかんだ。
歩きながらの自己紹介に、後ろについていたメルトリリスは肩を竦める。
救出は何事もなく完了した。拘束されていたパッションリップの拘束具は、外側から力任せに破壊した。ただそれだけで、難なく連れ出せたのだ。当然のように妨害もない。
彼女らは何ら被害を得ず、機動聖都から離れる途中だ。
銀色の脚のメルトリリス、黄金の腕のパッションリップ。
ブルーの瞳とリボンのメルトリリス、ピンクの瞳とリボンのパッションリップ。
対称的な二人を比べてみて、何となく感嘆の息を吐くソウゴ。
何故感心されたのか、とリップがそこで困惑の表情を浮かべた。
そんな二人の様子を見て、メルトリリスが浮かべるのは呆れ顔。
「気にする事はないわ、リップ。そいつ、感性が普通の人間とずれてるから。何をしでかしても適当に流しておいた方が健全よ。気に掛けるだけ無駄だわ」
「メ、メルト……」
いきなりマスターを罵倒するメルトリリス。
彼女にとってはそれは当たり前のことだろうが、良い事ではない。
そのくらいのこと、リップにだってとうに分かっている。
ソウゴの様子を窺うリップの前で、言われたソウゴが悩むように腕を組む。
とりあえずフォローしなければ、と彼女は視線を右往左往させつつ言葉を探す。
「あ、あの……メルトはこういう子なので、あんまり気にしないでください……」
「ちょっと」
姉妹機の無礼に対し、申し訳なさそうにするパッションリップ。
だがさほど気にした様子もなく、神妙な顔をしたソウゴはメルトを見据えて問いかける。
「普通っぽくないってさ、やっぱり……普通より王様っぽいってこと?」
「違います」
少年の謎の発言、テンポよく否定する少女の反応。
それを横から見ていて、リップが奇妙なものを見たとメルトをまじまじと見る。
そんな反応を向けられて、メルトが眉を吊り上げた。
「……なによ」
「―――ううん、別に?」
わざわざ言わない方がいいのかな、と。リップは思ったことを口にすることをやめた。この判断、これこそが自分の成長なのだと、彼女はメルトに向かって得意げに大きな胸を張る。
その怒りを煽る態度がアナタらしい、とメルトリリスがよりきつく眉を上げた。
少女たちのやり取りをこれまた横から見ていたソウゴ。
彼はその仲良さげなやり取りに、一応訊いてみることにした。
「そういえばさ、結局どっちがお姉さんなの?」
「姉妹というわけじゃない、と言ったでしょう?」
「私たちは発生に違いがあるわけではないですけれど……でも、ちゃんと
「へー」
否定するメルトリリスに対しリップはしかし、そうと答えを返した。
単純に順番の話だ、パッションリップの方が先に完結したという話。
真実、彼女はそれだけのことのつもりで告げたのだが。
すぐさまメルトは、リップに何を言い出すのかという視線を向ける。
「ちょっと、何よそれ。それはただアナタの方が出番が早かったというだけでしょう。それに、その理屈で序列を決めるのだとしたら、なおさら私の方がよほど姉に相応しいじゃない。
アナタや、それこそBBなんかより私の方がよほど早く、自己の在り様について
幾分か口調を早めるメルトリリス。
彼女のそんな反応に対し、不思議そうに首を傾げる二人。
ついでに顔を見合わせてから、二人揃ってより深い角度で首を倒す。
「……そう? メルトがそれが良いならいいけど……その、メルトがお姉さん、みたいです」
「へー……」
「何かムカつくわね、こいつら……!」
苛立たしげにメルトリリスの爪先が床を軋らせる。
怒っているらしい彼女に対し、きょとんとした表情を見せる二人。
そうして並んだ表情に眉根を寄せつつ、彼女は顔を背けた。
「それで! 拠点に戻らずどこに向かうつもりなんです!」
がなるメルトリリス。
ソウゴが持っているのは、エイリークから教えてもらった食料の入った袋。
こんなものを持って探索する理由はない。
一度戦闘も終えている。教会に戻り、休息するべき場面だ。
だというのに、ソウゴが選んだ進路はそれとは違う。
その事実を問い詰める声に対し、彼は軽く微笑んだ。
「さっき散歩してる時に見かけたサーヴァントがいてさ、行ってみようかなって」
解放されたばかりで本調子ではないリップ。
戦闘を終えたばかりで疲労しているメルトリリスとソウゴ。
メルトはそんな状況で散策続行とは、と胡乱げな表情を浮かべた。
「でさー、それで何で私のとこに来ることになるワケ?」
「何でって、近くに知り合いがいたから寄ったんだけど。カルナはいないの?」
「ギャル男はだいたい常に空飛んでるし。真面目に仕事してるんじゃない?」
機動聖都からほど近いセクターの一角。
そこで腰を下ろしていた鈴鹿御前が、間抜けを見る視線を飛ばしてくる。
知り合い。ついこの間斬り合った、なおも一応は敵対している仲が?
溜め息を落としつつ、彼女はアホを見る目でソウゴを見た。
ついでにメルトリリスからも似たような視線が飛ぶ。
エイリークと戦う前にふらふらしている間、彼女の姿を見つけたソウゴ。
彼はせっかくだからと、帰りにここに寄ってみることにした。
どうやら鈴鹿御前に与えられているセクターは、聖都近くのものだったらしい。
鈴鹿からしてみれば、最後の一瞬に至るまで彼らがこの場に来るとは一切思っていなかった。だというのにいきなり来られての怪訝顔。
そんな表情のまま、彼女はメルトとリップへと顔を向ける。
「結局そっちも助け出してきたわけね。ま、大帝が止める気無いのは目に見えてたからそうなるでしょうケド。それにしても元気になったみたいじゃん、メルトリリス?」
「おかげさまで。まだまだカンストには程遠いけれど、それなりに充足したわ。これからもサーヴァント狩りは続行するけれど、アナタを養分にするつもりはないから安心していいわよ?」
嘲るような鈴鹿の声。それに対し、髪を掻き上げて余裕の表情を浮かべるメルト。
鈴鹿が微かに目を細め、一段階表情を厳しくした。
こちらとしては鈴鹿御前を狩る理由はない。
できる限りサーヴァントを経験値として回収したいが、それでも相手は選ぶ。
対カール大帝と殺生院の制圧、どちらも手を抜けない以上見極めは必要だ。
―――だからこそ鈴鹿もまた、彼らがここに来ないと確信していたのだが。
先導してきた少年を見れば、気にしている様子もない。
それどころか、当然のように問いかけてくる。
「ねえ。あんたはさ、何で楽しもうとしないの?」
「―――――」
不意に訊かれて、言葉を詰まらせる。
「はぁ? 楽しんでるけど?」
ただそうと返せばいいだけの話。なのに言葉が詰まり、後に続かなかった。
そう口にしたソウゴに対し、目を細めるメルトリリス。
わざわざ地雷を踏みに行くということは、決戦を仕掛けるということか。
微かに表情をきつくした彼女の前で、リップがおずおずと声を上げる。
「あ、あの……そういうこと、訊かない方がいいんじゃないですか? スズカさんの場合、楽しんでるフリに必死みたいですし。邪魔をしてあげない方がいいと思います」
「でも訊かないと理由とか分からないし」
言われて、口の中で言葉を転がすパッションリップ。たぶんカズラのせい、わたしもカズラには言ってやりたい、Id_esは持って行ったくせにカズラは腕がそのままなんてずるい、等々。
吐き出さずに自分の中で消化しようとしている内に、鈴鹿御前が片眉を上げた。
「―――あのさぁ。コイツらなんなの、メルトリリス?」
「私に言わないで。リップのことならBBへ、そっちのマスターのことならカルデアに問い合わせればいいんじゃない?」
処置無し、と即座に回答を放棄するメルトリリス。
人をおちょくりにきたのか、こいつらは。
感情のボルテージが高まっていく中で、鈴鹿は眉間を指で叩きながらソウゴを睨む。
「アンタ、訊いて良いことと悪いことの区別さえつかないわけ?」
「鈴鹿御前こそ。誤魔化して良いことと悪いことの区別ついてるのになんでそうなの?」
「そ、そういうことを言っちゃダメだと思います……! スズカさんは頭がいいから本当のことが分かってるけど、そうやって頭が悪くて分からないフリをしてないと誤魔化せないタイプの人なんですからっ」
メルトリリスが視線を逸らす。
ソウゴとリップ。この二人、一緒に行動させたら駄目な組み合わせだったかもしれない。
まあどうでもいいか、と。彼女はその場で備えることにした。
疲労した自分とソウゴ、そしてパッションリップ。
そして“
鈴鹿が本気で全力を解放すれば、およそ互角といったところ。
もっとも彼女の全力は制限時間つき。力を出せば、勝手に自滅する。
相手にする気はなかったが、別に積極的に見逃そうと思っているわけでもない。
踵を鳴らし、目を細める。
「…………言ってくれるじゃん」
怒りの声を吐きつつ、彼女は動かない。
その態度に警戒状態を維持しつつメルトリリスも静観する。
如何に鈴鹿御前が今を楽しむなどと口にしようと、それは言葉ばかり。
彼女の性根はどうしようもなく苦しんでいる。
楽しくない経験など要らないと言いつつ、彼女はそれを捨てられていない。
じいと見つめるソウゴの視線。
数秒の沈黙を挟み、鈴鹿御前は海中の空を見上げた。
「……私の眼はさ、色々と視えちゃうわけ。そりゃ本気で
サーヴァントとしての私がどっかで得た、確かな自分の
原因が何か、などと今更考えても無駄だろう。
ただ彼女は声に呼ばれ、ここにきた。今にも消えそうなマスターの声だ。
それは天体室からの声。だから、聞こえてくるのがそれだけならよかった。
その無念を晴らすことに否やはない。それを蹴飛ばすなど、女が廃るというものだ。
だが、鈴鹿御前の場合はそこで終わらなかった。
剣を抜くことなく、彼女は語り出す。
それを聞きながら腰を下ろすソウゴと、彼に倣って近場に腰掛けるリップ。
当然のように一人立つことになるメルトリリス。
「私の視界に掠めたどこかの私が重ねた記憶。ただそれだけなら、私もきっとこれだけ入れ込むような真似はしなかったでしょう。
―――けど、しょうがないじゃん。“
……ただ望
鈴鹿御前らしからぬ、平坦で寂しげな声。
自分じゃない自分、別の自分が拾った因果。そんなものが、視界に掠めてしまったのだ。
自分でもビックリするくらいに、その声を無視できなかった。
そんなこともあったんだ、と終わらせることができなかった。
詳細まで読み取れたわけではないのに、それでも入れ込み切ってしまった。
「楽しんだ私じゃダメだったんだから、あの声に応えるためには私の方を変えないと」
第四天魔王の真子、立烏帽子・鈴鹿御前。彼女はサーヴァントとして現世の知識を得て、女子高生としての生き方を選んだ。我儘、刹那的、短絡思考―――でも最高に今を楽しんでる。サーヴァントして降臨する彼女は、今の自分にそんな生き方を与える。
でも、それでは駄目だったのだと知ってしまった。
駄目だった、という強い悲哀と憎悪だけがその記録にこびりついている。
「普通ならそこまで思わないでしょう。その声を拾うことはあっても、引きずられるような真似はきっとしない。本来の私だって尽くす女だけど、こんななっさけない女じゃない。そんな私がここまで歪むんだもの、“天声同化”ってのはそれほどとんでもない力ってわけ」
そんな光景が視界を掠めていくだけなら耐えられた。
ああ、そういうことになってしまった私もいるのだ、と。それで終わりだった。
ここまで入れ込まなかったのだ。
そこで得た全ては、その経験をしたその自分だけのものなのだから。
ただ、“天声同化”に乗ったらもう駄目だった。
どこかの自分が拾った、どこの誰かも分からない声。それすらスルーできなくなった。
今この自分に向けられたものじゃない声に尽くしてもしょうがない。
あれは別の自分に向けて放たれた叫び。
この自分があの声に尽くそうとするのは、少し違うという話だ。
そんなことは分かっているのに、彼女は降りられなかった。
「歪んでしまったこと自体は嫌じゃないの?」
「情けないとは思うけど嫌なわけじゃない。それがあの大帝のとんでもないとこ。だって分かっちゃうんだもの。こんな情けないことをしてでも、私には救いたいものがあったんだと思い知らせてくれる。
……あの大帝の
こうしたい、あれやりたい、じゃあ全部やるしかないっしょ! というJKの生き様。
こうしているだけの方が効率がいい、という天女の演算。
それが頭の中でぶつかって、どうにかしてしまいそうになった。
“才知の祝福”どころではない。
あれもまた自分の意識を純粋な演算結果が圧迫してくるが、それ以上だ。
頭の中が沸騰するような苦しみの末。
でも、勝ったのはJKの思考の方だった。
そして勝ったのはそっちの考えだったのに―――
その生き方では
自分らしく生きたいのに、それでは自分の目的は果たせない。
“
理想と現実の乖離に悩む頭には、なおさらあの声は染み渡ってくる。
同じだけの苦悩の末に、全てを救う、と。普遍なる平和を、と。
カール大帝はそう結論し、いまこの場所は地底深くへと突き進んでいる。
「―――だから私は“
今の自分にできることはそれだけだ。
だって、どこかの誰かにいつか
彼女にできる献身など、それくらいしか存在しないのだ。
「本当にそれでいいの?」
問いかけには無言で返す。“
そっか、と。
納得の声を返してソウゴが食料袋を漁り出す。
そんな反応を見せた少年をねめつけて、鈴鹿御前が眉根を寄せた。
口にすべきではなかった心中。
それを少なからず言葉にしたことで、どこか少し気が抜けた様子を見せつつ。
「そんでさー、結局アンタら何しに来たわけ? 私に本音喋らせて何か意味あんの?」
「別にないけど。一応あんたが従ってるカール大帝ってどんな王様なんだろうな、くらいは考えてたけど」
「適当すぎ。私がキレてここでバトってたらこれからどうするつもりだったわけ? その場のノリで生きてんの、アンタ」
女子高生が生き方の自分を差し置いて、彼女はそう言って溜め息を吐いた。ここで休んで次の場所に行く、というつもりだろうか。別にどこで休もうが彼らをわざわざ襲撃するサーヴァント(バーサーカー以外)はいないだろうが。
そういうつもりなのだと理解して、メルトリリスも呆れた様子を隠さない。
彼女はそのままリップの方を確認して。
パッションリップがどこか不思議そうに、周囲を見回しているのに気付いた。
「どうしたの、リップ」
「……ううん、なんか変な感じがした気がしたんだけど……やっぱりなんでもない」
気のせいだった、と。そう断じて、リップは気を取り直す。
本当に何かあるのなら、鈴鹿やメルトが気付いているはずだろう。
首を傾げているリップを見ていたメルトにかかるソウゴの声。
「それで、次はどこ行くの?」
「……残しておく必要が無さそうなサーヴァントの目星はついています。私が誘導するので心配する必要はありません」
「ふーん、それぞれどんなサーヴァントなの?」
食事しながら身を乗り出してくるソウゴ。
その態度に仕方なさげに、メルトは鈴鹿の方を見た。
「スズカ、地図とかある?」
「あるわけないっしょ。てか、あったとしても貸さないし」
適当に手を払う鈴鹿御前。
彼女の態度に肩を竦め、息を吐き落とし。
『はいはーい、地図ならこちらにありますよー』
「ありがと」
直後にどこからともなく顔を見せたBBから、ソウゴが地図をさっさと受け取った。
空間に浮かぶウィンドウ。そこからどうやってか突き出していたマップ画像。
どういう仕組みか普通に持てるそれを、彼はみなに見えるよう床に置いた。
『……………もうちょっとなんか反応ないんですかー!? せっかくここぞというタイミングで顔を出したのに!』
「反応したって喜ばすだけって分かってるもの」
「お母さま……BBはあれで実は頭が硬い人なので。奇抜なことをやっているように見せて、大抵の場合は基本に忠実に
突然のインターセプトだというのに無反応。
それどころかむしろ助かった、という態度ときた。
ソウゴどころかメルトとリップもこの始末。
というか苦笑しながら何を言っているのか、このアルターエゴは。
『反抗期ですよ、鈴鹿さん。まさかアルターエゴである二人にここまで、というかリップは後でお仕置きですねこれ』
「はいはい、どう見ても同族嫌悪っしょ」
『―――――』
画面の向こうでBBが自分の唇に指で触れる。
少し悩むような、そんな所作。
『ま、そんなことはどうでもいいんですよ』
だが彼女は自分の一秒前の動作をさっぱり忘れ、すぐに気を取り直した。
『それで、どうするか決まりました? もういっそ今から大帝の場所に突撃、とかどうです?』
地図をソウゴが指差して、そこに関する説明をメルトが告げる。
そう言ったやりとりを続けること数分。
ちょっかいをかけた方がいいのか、それをやったら負けか。
先程のやりとりを通じ、悩みこむBB。
不意打ちで声をかけても利かないどころか飽きられたなら、何か別物を用意すべきか。
そうして悩んでいるBBの横にいる鈴鹿に対し声がかかる。
「……ねえ、鈴鹿御前。さっきの話さ、正しく生きたい、その生き方が間違ってないって言ってもらえてる、みたいな。それが大帝の“
「はぁー? ……まあ、そんな感じだけど」
気のない返答。
だがそれで十分だとばかりに、ソウゴは強く頷いた。
「―――じゃあ、次はここにしようか」
「……別にそいつ、どっちでもいい奴でしょう? わざわざそこを優先する意味があるの?」
ちゃんと説明しただろうに、と。怪訝な表情を浮かべるメルトリリス。
だが彼女のそんな顔を気にもかけず、ソウゴは自信ありげに笑う。
「ちょっと訊きたいことがあってさ。さっき鈴鹿から聞いた話についてなんだけど……この人に詳しく訊けば、何となく確信が持てる気がするんだよね」
そう言ってソウゴは地図の一角を指差しつつ、そこにいるらしい顔を思い浮かべた。
まずはパレオロゴスを出してきましたか。まあいいでしょう。
ガチャ前の聖晶石の輝きがマナプリズムの山に変わる…楽しいと思いませんか?ですが今後のことを考えてここはスルーさせていただくとし!ま!しょ!う!かァッ!