Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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不可侵領域2030/A

 

 

 

「それでわざわざ僕のところへ?」

 

 きょとんとした、間の抜けた表情を浮かべる青年。

 話を聞いたヘンリー・ジキルは目を瞬かせ、少年の言葉に困惑した。

 

「そう。ジキルはどうなってるかなって思ってさ」

 

 そんな相手の様子を気にした風もなく、ソウゴはじろじろと相手を見回す。

 不躾な視線に苦笑しながら、自分の様子を検め始めるジキル。

 

「どうなっているか、か。どうなっているかと言われると、まあ見ての通り“天声同化(オラクル)”の影響下にあるのは間違いないけれど……」

 

 そう言って軽く手を持ち上げるジキル。全身に纏わる彼らしからぬ強力な魔力の波動は、間違いなくカール大帝から与えられたもの。

 ヘンリー・ジキルは戦闘を得意としているわけではないが、これならばそれなりの戦力になるだろう。もっとも、流石にメルトリリスやパッションリップをどうにかできるわけでもないが。

 

 そうして自身を確かめているジキルから、メルトとリップは視線を外さない。そんな、襲われたらひとたまりもない少女たちに警戒されている事実を前にしても、ジキルの方にはさほど気にした様子もなかった。

 

「ジキルはカール大帝のこと、その“天声同化”のことどう感じてる?」

「うーん……そうだね、悪いものとは感じてないよ? 多少の思考誘導こそあれ、このスキルで引き出されているのが自分の意志なのは間違いない。

 頭の中に響いてくるのは自分らしく、生きたいように生きろ、という声。誰もがそう生きられたならこれ以上のことはないに違いない、という大望へと突き進む意志だ。積極的に否定するサーヴァントはあんまりいないんじゃないかな」

 

 だからほとんどのサーヴァントが大帝の声に従った。拒否権がないわけではない。ジル・ド・レェのように、自分と大帝の意志がそぐわない、と確信した者は効果から外れるくらいの自由がある。その上で、大抵のサーヴァントは彼に従ったのだ。

 そうであってほしい、という大帝が見せた選択肢に消極的賛成以上の意志を示したものだけが、“天声同化(オラクル)”の影響下に入るのだから。

 

「ジキルもそうなの?」

「それこそ見ての通り、そうでなければ“天声同化”に取り込まれはしないだろう?」

 

 これ見よがしにオーラを纏った四肢を軽く振るうジキル。

 へえ、とソウゴが頭を軽く傾げる。

 彼の様子にジキルは僅かに目を細め、眼鏡のブリッジに指を添えた。

 

 そんな彼の小さな所作に、少々離れた位置で見ていたメルトとリップが反応。

 彼女たちが少しばかり体に力を入れ、動けるような態勢に入る。

 

「ところでさ」

 

 ひりついた空気感。

 そんな中で変わらず、ソウゴは再び問いかける。

 

「ジキルにとっての自分らしい生き方、ってなに?」

「…………」

 

 ヘンリー・ジキルが停止する。眼鏡に指を掛けたまま、ぴたりと。

 

「良いとこも悪いとこも、善も悪もあるのが人間で、自分らしいありのままの生き方っていうのは、どんな形でもそれを受け入れることだと思うんだけどさ」

 

 常磐ソウゴは構えない。

 わざわざ戦闘に発展する以外にない内容に踏み込んだ上で、構えもしない。

 

 ヘンリー・ジキルにそんな“ありのまま”はない。

 彼はそれを否定したからこそ、【ジキル博士とハイド氏】となったのだ。

 

「ジキルはさ、どう?」

「―――――」

 

 答えなんて聞くまでもない。そういう質問を投げかけている。

 それをしっかりと理解した上で、ソウゴはジキルだったものからの返答を求める。

 

「本物のジキルなら多分、“天声同化(オラクル)”は受け入れないよね? 悪の部分を自分の“らしさ”だって認められなかったからこそのジキルとハイドなんでしょ?」

「―――――」

 

 瞑目するジキル。そうして無表情のまま、彼がかけていた眼鏡を外す。

 手にしたそのつるを指で潰して、床に落ちた残骸を踏み躙る。

 

 そうして次に瞼を開いた時には、彼の目は血のように紅に染まっていた。

 

「ご明察、ジキルの奴はさっさと消えちまったよ。そりゃそうだ、生まれ持った“自分”らしく生きられるんなら、最初からオレたちは分かれるようなことになってねェって話」

 

 自分の頭をぐしゃぐしゃに掻き乱し、整えていた髪を荒らす。

 きっちりと締めていたタイを緩め、彼は面倒そうに首を軽く回した。

 その変貌ぶりに呆れつつ、問いかけるメルトリリス。

 

「それでアナタだけ残った、と」

「ハ―――だってそりゃ、消える必要ねえからなァ。オレは最初からジキルの悪の部分、生まれた時から悪一色。わざわざ鏡に向かってこれは自分じゃない! なんて言うような自己否定主義の宿主サマとは違うんだって話」

 

 わざわざフリをしてたのにバレてたのも赤っ恥。

 めんどくせぇ、とエドワード・ハイドはメルトリリスを睨む。

 

 “天声同化”の強化込みで勝負にならない。もっと狂化、自己改造のランクが高ければ少しはマシだっただろうけれど。しかしその場合やはり自己矛盾で“天声同化”からは外れていただろう。あの矛盾を抱えていてこそのジキルとハイド、どちらに皿が落ちるにせよ天秤が傾き切った時、その存在は大したものではなくなるのだから。この場所は、ジキルとハイドにとって相性が悪すぎる。

 

「んで、会う前から分かり切ってたんだろ? なんでわざわざオレに会いに来るかね、おまえら」

「ハイドはカール大帝のことどう思うのかなって思って」

 

 胡乱げな表情でソウゴを見据えるハイド。

 

 懐からナイフを取り出し一突き、いけるか? 流石にキツい。

 鈍重そうな方はともかく、速そうな方のアルターエゴは警戒態勢。

 ハイドの速力では詰め切れないだろう。

 

「……アァン? 決まってんだろ、最悪だよ、最悪。オレの関係ないところでジキルを潰しちまうわ、挙句の果てに―――」

 

 そこでふと、ハイドは口を止めて空を見上げる。

 

「やめたやめた、何でオレがお前らにそんな情報恵んでやらなきゃならねえんだよ。いくらカール大帝が気に入らねえからってお前らに協力する理由もねえわ」

「そっか。でもカール大帝が目指してる目的はハイドがすごく気に入らない世界になることだ、ってのはよく分かったよ。ありがとね」

 

 不機嫌そうなハイドに対して、にこりを微笑みそう言い放つソウゴ。

 それを聞いて無言で数秒。

 ハイドは眉間に皺を寄せつつ、髪を乱暴に掻き乱す。

 

「あー……なんつーか。おまえ、さ」

「なに?」

 

 戸惑うような、少し逡巡するような。そうしたまごまごとした態度と動き。

 一体次に何を言い出すのか、と感じるそういう注意を引くような所作。

 それを数秒足らずの間しっかりと見せたハイドが。

 

「―――カール大帝と同じ系で、オレが大嫌いなタイプだわ」

「だと思った」

 

 手首が跳ねる。一直線、投げ飛ばされるナイフ。

 すぐさま守りに入ろうとしたメルトの前でしかし。

 ソウゴの両脇に緑と黒のユニットが出現し、それを阻んだ。

 

〈ダブル!〉

 

 既にウォッチを装填し、片手に提げていたジクウドライバー。

 そこに装填されていたダブルウォッチが輝くと共に出現したのが二機のユニット。

 メモリドロイドサイクロンと、メモリドロイドジョーカー。

 それに身を守られたソウゴはそのまま悠然とドライバーを装着し、一息に回す。

 

「変身」

 

〈仮面ライダージオウ!〉

〈サイクロン! ジョーカー! ダブル!〉

 

 弾き返されてきたナイフをハイドの手が握る。

 

 緑と黒、二機のメモリドロイド人型からメモリ型に変形。

 それを両肩に装備することで、ジオウがインジケーションアイが切り替わる。

 身に纏ったライダーの力、“ダブル”の文字に。

 

 相手にゆるりと手を向けて、ジオウ・ダブルアーマーがハイドに問う。

 

「さあ―――あんたの罪を教えて?」

「ヒヒヒ……! 人が犯すあらゆる悪逆こそが罪なんだろう? だがその罪こそが、このオレが何より愛するモノなんでなぁ。

 罪を愛することを罪だとするなら、オレにとっちゃあ罪も愛も同じもの。オレの全てがオレの罪さァッ!! ヒャハハハハハハハ―――――ッ!!」

 

 ハイドが加速する。気に食わなかろうと、“天声同化”の強化は万全に受けている。

 獣の如き疾走を開始したハイドに対し、メルトリリスが舌打ちした。

 

「もう気が済んだってことでいいのよね!」

「うん、これまで通り行こ―――」

「えぇええ――――っい!!」

 

 駆け巡るハイドに対し、パッションリップが腕を振るう。

 神剣の指を持つ巨大な黄金の腕。

 id_es関係なしにまともに喰らえばひとたまりもない、圧倒的の破壊力の一撃。

 

 当然、威力の代わりに鈍く遅いそれに当たるような真似はしない。

 そんなものに直撃でもすれば、あっさりと潰される。

 

 ハイドの戦闘力は高くない。ジキルが元からバーサーカーで呼ばれていれば話は別だったが、今の彼にあるのは自己改造の副産物である多少の頑丈さと速度。

 たったこれだけの武器で、怪物どもを相手にする必要がある。

 

(無理だろ)

 

 端的に結論する。

 勝てないのはいいとしても、どこも殺せないのがシャクに障る。

 じゃあこのまま無謀に戦って盛大に死ぬか、というと。

 

 狙いはマスターが変身していない時だった。

 一度離脱して姿を晦まし、寝込みを襲うように襲撃するくらいしかやりようがない。

 別に大帝から行動を縛られているわけでもない。こうなったからには―――

 

(いっかい逃げるしかねえか!)

 

 スピードだけならそれなり。

 必死こいて逃げればメルトリリスからも逃げられるはず。

 

 ここはそもそも彼の陣地、大帝に割り振られた彼のセクターだ。

 姿を隠すスペースを確保することくらいならば簡単だろう。

 一度身を隠し、その後ジキルに振られたアサシンのクラスらしく暗殺でも試みればいい。

 

 こっちだって関係無しに暴れられるバーサーカーが良かったのだ。

 このくらい目を瞑ってくれてもいいだろう。

 

 ハイドの足が床を叩く。明らかに逃げるような動き。

 対し追走していたメルトリリスがその軌道に目を細めた。

 

「悪ぃがここは退かせてもらうぜ!」

「悪いけどここからは逃がさないよ」

 

〈フィニッシュタイム! ダブル!〉

 

 ダブルアーマーの右肩、緑色のショルダーが黄色く染まる。

 放たれる幻想の力がジオウの四肢に力を与えていく。

 

「パッションリップ!」

「はい……! 逃がしません!」

 

 リップがソウゴの声を聞き、両腕を突き出して構える。その一瞬の溜めの直後、彼女の巨大な黄金の腕の手首から先が自切した。

 両の拳がまるでロケット弾であるかのように炎を吹き出し、推力を得て、ハイドに向かって飛来する。リップ本人の鈍重さとはかけ離れた攻撃速度に意表を突かれるハイド。

 

「なんだぁそりゃ!?」

 

 唖然としながらしかし獣のような男の足は止まらない。

 どうせ攻撃は一直線の素直な軌道。

 多少の軌道修正はきくだろうが小回りは利かず、反転などは大回りするしかない。

 だったらこんなもの、いとも容易く振り切って―――

 

〈マキシマム! タイムブレーク!〉

 

 ジオウの姿がブレる。右半身だけが分身し、ジオウの姿が二つに増えた。

 更に金色のエネルギーを纏った右腕は奇妙にも伸長。

 二本の右腕を鞭のように撓らせつつ、彼は一気呵成にその腕を振り抜いた。

 

 直進するリップの拳を横合いから叩くジオウの腕。

 それにより強引に軌道を変えられ、加速はそのままに乱れ飛ぶ破壊の鉄槌。

 金色の巨大な二つの拳と、金色の鞭のように撓る二本の腕。双方が一定空間内で乱れ飛び、ぶつかり合い、その場を強引に破壊の限りを尽くすピンボールに仕立て上げる。

 

 周囲を鉄槌と鞭が飛び交う地獄に囲まれて、ハイドが口許を引き攣らせた。

 

(隙をついて抜けそうな部分から突破! そうやって必死こいて外に出たタイミングで、もう一人のアルターエゴがグサリ! 最悪じゃねえか、クソが!)

 

 止まるハイドの足。

 周囲を跳ね回るのは破壊の鉄槌。その処刑監獄の外には徘徊する串刺し魔。

 彼の処理能力で突破は不可能極まりなく―――

 

 しゃらん、と。

 涼やかな音を立てて、その地獄の檻の中に白鳥が舞い降りた。

 黄金の拳と鞭が周囲に乱舞する戦場で、二人の加害者が対峙する。

 

「……逃げ道塞いで嬲り殺し。良い趣味してるな、共感するぜ」

「あら、そうなの? 同好の士っていう奴ね。でも残念、私が好きなのは一方的に相手を嬲ること。アナタもそうなのだとしたら、趣味を果たせるのはどちらか一人ということになってしまうもの」

 

 床を削る金属音。メルトの踵が轍を残し、ハイドに向かって加速する。

 対抗するべく突き出されるナイフ。

 魔剣ジゼルとナイフの凌ぎ合い、その結果は火を見るより明らかで。

 

 必死に受け流すハイドの手の中で、ナイフの刃がこぼれていく。

 

「さあ……! いくわよ、いくわよいくわよ――――!」

 

 愉しげに、加速を繰り返すメルトの蹴撃。

 調子が上がってきたとはいえ、未だに完成に程遠いメルトリリス。

 元より戦闘に優れているわけではないとはいえ、“天声同化”の後押しがあるハイド。

 戦闘速度はほぼ互角、ただし得物の差でハイドに勝ち目なし。

 

(どうにか逃げ果せるには……!)

 

 周囲に張り巡らされた破壊結界を擦り抜けるしかない。

 メルトリリスの攻勢に晒されながら。

 だがやらなければ死ぬだけだ。

 そう考えると、逆に分かりやすくて好感触ですらある。

 

 瞬時に覚悟を決めて、最後にメルトリリスと刃を交わす。

 砕け散るナイフ。その衝撃に合わせて、ハイドが後ろに跳んだ。

 そうして拳の飛び交う壁際で一度着地し、タイミングを合わせて更に跳ぶ。

 

(っし、抜けた―――!)

 

 その直後、鞭になった腕が拳を大きく弾き飛ばした。

 ハイドに向かって直線的に射出するようにだ。

 幾ら弾速が速かろうと、流石にそんな一撃は横っ飛びに躱せば十分で。

 

 咄嗟に横に回避行動した彼の前で、ガキン、という金属音。

 その音に反応して前を見れば、そこには飛んできた拳を腕に再接続した怪物。

 

 パッションリップが、飛行するバイクに乗せられそこにいた。

 ライドストライカーが纏うダブルの力。

 飛行(タービュラー)ユニットの力で空舞うマシンを足場に、リップが重々しく腕を振るう。

 

「ヒヒ、オイオイ……ありかよ、そんなの」

「潰れて、ください―――!」

 

 リップが手を突き出し構え、彼女の重量をライドストライカーが強引に動かす。

 逃げ出すために跳び回った直後の相手に、アクセル全開でぶつかりに行く。それは殴ることでさえなく、拳を持ち上げた状態での激突。鈍重なパッションリップが自身で動くのではなく、彼女を乗せた足場が推進することで移動速度を補った強引な手段。

 

「クソ、がァ……ッ!?」

 

 回避は僅かに間に合わない。

 直撃は避けれども、しかし肩へとぶつかっていく黄金の拳。

 

 その威力を受け、きりもみ回転しながらハイドの体は宙に浮いた。

 悲鳴を噛み殺しつつ、何とか姿勢を整えようとする。

 が、鳥ならぬ彼では空中で自由に動く手段など持っていない。

 

 そうして、ハイドが落ちてくるだろう場所に先んじて。

 メルトリリスが膝を曲げ、その(ヒール)を構えて。

 

 腕を引き、鎧を緑に戻したジオウがジカンギレードを握り。

 ギレードへとウォッチを装填し、半身を引くように構えた。

 

「……アナタに合わせるわ」

「うーん、まだ無理じゃない?」

 

 落ちてくるハイドへと意識を向けつつ、言葉を交わす。

 シンプルに提案を否定されたメルトリリスがカチン、と。

 その怒りを彼女は全て脚を動かすエネルギーに変え、体を沈めた。

 メルトリリスの言葉にさっくり返したジオウが、続けてギレードのトリガーを引く。

 

 ジオウとメルト、踏み込むのは同時。

 

〈フィニッシュタイム! ギリギリスラッシュ!〉

 

 怒涛の流水、メルトリリス。

 疾風の如く加速する疾走、ジオウ。

 互いに絞り出す全力の速度。

 

 ジオウの振るう剣閃が赤く明滅しながら軌跡を描く。

 瞬時に刻み込まれるのは(エース)の文字。

 同時に踏み出し、その脚を振るうメルトリリスが微かに口許を歪めた。

 

 一閃、足らず。

 

 地上へと叩き付けられる寸前に、ハイドを挟むように放たれる斬撃。それは速やかに彼から“天声同化”の加護を砕き、戦闘能力を奪い、霊核を撃ち抜いた。

 霊核(しんぞう)に突き刺さった毒針から広がるウイルスに溶かされながら、悪人は毒づく

 

「あぁ、クソ……! そこそこどまりサーヴァント相手に全力出し過ぎだろ、こいつら。なんて大人げねェ連中だよ、ちくしょう……!」

 

 潔く死ぬとかそういうのはジキルの担当。

 ハイドであるならば、死ぬ時まで必死に無様で命にしがみつく。

 であるならば、そうして悲鳴を絞り出すくらいしかない。

 

 どろりと溶かされ、メルトリリスの経験値になっていく。

 その意識が保たれている最後の一瞬まで、彼はぐちぐちと文句を並べ続けた。

 

 ―――戦闘を終えて、メルトリリスがヒールを下す。

 経験値こそ増えたが不満顔。

 空飛ぶバイクから恐る恐る飛び降りつつ、そんな同胞を姿を見てリップが首を傾げた。

 

「メルトのは一回足りなかったね。追いつけなかったんだ?」

「―――――」

 

 ハイドとの決着の一撃。

 ジオウはアクセルのウォッチを装填した剣で、圧倒的速度の剣撃を放った。

 その剣閃で“(エース)”で描く、エースラッシャー。

 

 メルトリリスは事前にそれに合わせると口にして。

 一閃、足りなかった。

 

 不満全開な顔を隠さず、しかし気にしていないという態度を全開にする少女。

 

「―――違うわよ。私は最初から(エース)じゃなくてΛ(ラムダ)を刻むつもりだっただけ、別に一手遅れて追いつけなかったとかそういうんじゃないんだから」

「うわあ! メルト、いますごく子供っぽい! そんなに悔しかったの?」

「子供っぽい? さっぱり分からないわね。ΛはつまりL、リヴァイアサンとして牙を剥いた証としてサインを刻むなら、一番それらしい文字でしょう?

 ねえリップ。私、何かおかしなこと言っているかしら?」

「……そっか、そうだね。うん。メルトの言う通りだと思うよ」

 

 リップが追及をやめて、生暖かい目でメルトを見る。

 

 その視線を受けて、眉間に皺を寄せるメルトリリス。

 まだ調子が完璧じゃないだけだ。

 ちゃんと回復していれば、絶対に自分の方がスピードは上だ。

 そんな思考を顔に出しながら、メルトリリスはジオウを睨む。

 

 彼は戦闘を終えたまま、腕を組んで考え事をしている様子だった。

 

「……何してるのよ」

「うーん……いや、やっぱいいや。その時になったらカール大帝に直接訊いてみる」

「……まあ、別にいいですけど」

 

 そうしてカール大帝に辿り着くためにもまだまだ戦いが必要なのだ。

 時間ギリギリまで攻めて、確実に勝利してみせる。

 

 

 

 

 

 こつこつと規則正しい足音。

 その足音がアルジュナのものだと理解して、カール大帝は玉座に預けていた背を起こした。

 目の前に現れた白衣の男を見下ろし、問いかける。

 

「どうかしたかね、アルジュナ卿」

「いいえ。ただの何も見つからなかった、という報告です」

 

 溜め息交じりに告げられる現状。殺生院はどこにも見つからない。

 よくもまあここまで隠れ通せるものだ。

 アルジュナ他、千里眼を持つアーチャーが複数捜索に参加しているというのに。

 

 そんな報告を聞いて大帝は鷹揚に頷くと、静かに微笑んだ。

 

「ふむ。アルジュナ卿らの視界にすら入らない、となればそれはただの隠形ではあるまい。

 恐らくは誰にも()()()()()()()に潜んでいるのだろう。いや、誰も()()()()()()()()()、かな? となれば、あちらから出てくるまでは打つ手なしだ」

「というと?」

「このSE.RA.PH(セラフ)における余の唯一の死角、ということだ」

「そのような場所があるというのですか、このSE.RA.PH(セラフ)に?」

 

 貴様はそんな余分を許す男なのか、という大帝への問い。

 その詰問に対して大帝はただ静かに笑う。

 元より余裕、というより無駄の多い采配ばかりであるが極まったか、と。

 責めるようなアルジュナの視線に対して、カール大帝は心外だとばかりに肩を竦める。

 

「余にとて踏み込めぬ領域、というものはある」

「―――……それはBBに好きにさせているセクター、という話ではなく?」

「そちらは踏み込む理由がないだけだ。必要であれば踏み荒らすとも」

 

 どこか物憂げな様子で、冗談を交えたような口調。

 それが嘘や誤魔化しではないと理解して、アルジュナが軽く眉を上げた。

 

「……もし奴めの潜伏先がそうであったとすれば、警戒しかできぬ。が、同時に余が健在である限りあちらも潜っている以外にないということ。全ては余とカルデアたちの勝負次第か」

「…………私たちはその戦いに水入りさせないように立ち回ればいい、と」

 

 そこまで口にして、アルジュナは一礼して踵を返した。

 そうして歩き出した彼はふと、もう一度振り返って彼に問いかける。

 

「……カール大帝、貴方はどちらを望んでいるのです?」

「無論、()()()()()()()()()を」

 

 返答は間もなく。一切の迷いなく、大帝は告げる。

 その晴れ晴れとさえした言葉の前に、アルジュナの方こそ黙らされた。

 

 

 




 
 天井叩きました。
 道中でローラン6、クリームヒルト1。
 もうちょっと割れてもええんやぞ。

 書けば出るとは何だったのか。
 殺してやるぞ天の助。
 
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