Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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狂獣乱戦1783/A

 

 

 

 ギャリギャリと音を立て、銀色の踵が滑る。

 穴だらけに荒げた床の滑り心地の悪さに、メルトリリスは舌打ちした。

 そうした態度を取りつつ、対象からは視線を切らない。

 

 目の前に立つのは漆黒の鎧。

 頭頂部にある群青色の兜飾りが、衝撃に大きく靡いている。

 その原因は彼が両手に握る破壊のための兵装。

 

 二丁の大型機関銃が一切途切れることなく、連射され続けているから。

 

「Arrrrrr―――――!!」

 

 嵐の如く横殴りに吹き付ける黒鉄の弾丸。

 メルトリリスはその速度で回避することで対応し。

 パッションリップは両腕を前に突き出して、鋼の巨腕を盾にして凌ぐ。

 

「なんでランスロットが銃を持ってるんだろう」

「そんなどうでもいいこと考えてる場合じゃ、ないと思います!」

 

 リップの背後に庇われながら、ソウゴは不思議そうに首を傾げる。

 その気の抜けた様子に、リップは小さく頬を膨らませた。

 

 本当ならば“トラッシュ&クラッシュ”で潰してしまいたい。

 もっとも最終目的はメルトリリスの経験値。

 潰してキューブにしてポイでは、そもそもここにきた意味もなくなってしまう。

 そう思いつつ視線をランスロットへと向けるパッションリップ。

 

 どちらにせよ、この止め処なく吹き荒れる弾丸の嵐だ。

 いくらリップが防御力にも優れるとはいえ、腕を盾以外の用途には回せない。

 今のところは。

 

(……最後にメルトが吸収できるくらいに元のかたちを留めてれば、少しくらいきゅっとしても大丈夫だよね? なら、うん。最後には―――)

 

 どういう理屈か弾切れはない様子。

 ランスロットは両腕に兵器を構えつつ、いつでも動ける姿勢。

 あの大型機銃を引っ提げつつも、動作の俊敏さは失われていないだろう。

 

 下手に動けば回り込まれて機銃の掃射を浴びる羽目になる。

 だからリップは盾という役目。

 メルトはランスロットを制するような動きを強いられている。

 

 バーサーカーであるランスロットを狙ってここに来たはいいものの、会敵するや否や機銃掃射の雨あられ。一気に防戦一方に持ち込まれてしまったのだ。

 そんな現在の状況を整理して、ソウゴはドライバーとウォッチに手をかける。

 

「ねえ、リップ! 思いっきり殴っちゃって!」

「え? 何をですか?」

 

 困惑する少女の背後で、ソウゴが変身シーケンスを進める。

 起動するウォッチは二つ。ジオウのものと―――

 

〈ジオウ!〉〈鎧武!〉

 

「うーんと、神様の顔?」

「???」

「変身!!」

 

 ソウゴの腕の動きに合わせ、回転するジクウドライバー。

 現出するライダーの時計、時を刻む針と文字盤。

 それが分解し、ソウゴを覆う時の王者の装いへと変わっていく。

 

〈ライダータイム! 仮面ライダージオウ!〉

〈アーマータイム!〉

 

 ―――そして、その上から落下してくる大型のユニット。

 仮面ライダー鎧武が刻んだ時間と力の結晶。

 鎧武アーマーが、巨大な鎧武の顔そのものの状態でジオウの頭上から落ちてくる。

 

「行くよ、リップ。せーのっ!」

 

 落ちてきた鎧武アーマーを殴るジオウの拳。

 それはリップの頭上を飛び越えて、彼女の目の前へと飛び出した。

 

 そういう意味か、と理解が及ぶ。神様の顔? の意味は分からないが。

 とにかく、前へと現れた巨大な顔面が銃弾を浴びてくれている隙に、盾にしていた黄金の拳を強く握り締める。そうして、神の剣たる指が軋るほどに強く固めた拳を、全霊を持って振り抜いた。

 

 ―――激突、殴打、フルスイング。

 鎧武アーマーに叩きつけられたリップの拳が、その巨大な顔を盛大に打ち出した。

 飛来する超巨大な顔面砲弾は銃弾の雨をものともせず、ランスロットへ直進する。

 

 無数の銃弾を浴び減速なし。撃墜できぬ、と判断。

 掃射を一瞬停止してまでも、回避を選択する湖の騎士。

 機銃の重量をものともせずに、彼は横っ飛びに跳躍して―――

 

「今度はこっちの番、切り刻んであげる!」

 

 雨の止んだ舞台で加速したプリマと接敵した。

 即座に銃口をそちらへと向ける。

 その銃口に合わせるように振り抜かれる銀色の脚、踵の魔剣(ジゼル)

 

 ランスロットの力で宝具化した銃身と魔剣ジゼルが火花を散らす。その交錯によって切断にまでは至らずとも、強い衝撃に歪む銃身。

 一丁、機能不全。もう弾丸は発射できない。彼はすぐさま使い物にならなくなった銃を鈍器と見做し、メルトリリスに向けて投げつけた。

 脚を振るった勢いのままに回転し、更なる蹴撃をと試みていたメルトの前に機銃が飛んでくる。

 

「悪足掻きね、踏み躙って欲しいのかしら―――!」

 

 ランスロットの手から離れた時点で、宝具“騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)”の効果は終了する。機銃は神秘を帯びた宝具から、ただの鉄の塊へと戻ってしまう。

 そんなものでは水の器であるメルトリリスに当たったところで、飛沫を散らすだけであり―――

 

 ガルン、と。ランスロットの手の中でもう一丁の機関銃が火を噴いた。

 無理な体勢ながらも、そこから撃ち放たれる銃弾。

 それはメルトリリスではなく、彼女の前に撃ち捨てられた機銃を撃ち抜いていた。

 

 宝具の効果が終了し、神秘が抜け切る前の機関銃。

 それが動力を撃ち抜かれて、盛大に爆発する。

 

 低ランクとはいえ宝具の爆散。

 その衝撃に押され、迫っていた二人が吹き飛ばされる。

 メルトリリスが押し返され、ランスロットが勢いに乗って跳び退いて。

 

「ちっ……!」

 

 開いた間合いを利用して、残った一丁による制圧射撃に戻らんとする。無論、その状態でもパッションリップの腕には注意する。あれは本能レベルで察することのできる凶悪な兵器だ。

 機関銃二丁をそれぞれ二騎のアルターエゴに向けてはいられなくなった。ただの一丁でメルトとリップを相手取らねばならない以上、足を止めた状態での射撃による制圧は不可能。

 これ以降は足を止めずに射撃しながらの乱戦に持ち込むしかない。戦況は悪い方に傾いたが、この程度なら何の問題もないと銃爪(ひきがね)に指をかけて―――

 

〈ソイヤッ! 鎧武!〉

 

 パッションリップの方から声がする。

 そこにいたのは外装、鎧武アーマーを纏っていくジオウの姿。展開して鎧となっていく、殴り飛ばして彼方へと転がっていった筈の顔面砲弾。

 吹き飛んで転がっていったはずのそれが一体なぜそこに、と。狂化したランスロットがそう疑問に思う余地があったかは定かではない。

 

 が、その答えこそはジオウの頭上に開いたクラックにあった。虚空にジッパーを取り付けて、それを引いて開放したかのような空間の歪み。遥か彼方に転がっていった鎧武の頭は、それを通じて再びジオウの頭上から降ってきていた。

 頭から被さり展開し、着装されるオレンジの鎧。肩部のダイダイスリーブから刀剣・大橙丸Zを引き抜きつつ、彼はジクウドライバーの必殺動作を完了していた。

 

〈フィニッシュタイム! 鎧武!〉

〈スカッシュ! タイムブレーク!〉

 

「セイハァーッ!」

 

 構えた刀身に噴き上がる赤いエナジー。

 それを撃ち放つように盛大に振り抜かれる大橙丸Z。

 刀身から迸るのは、クナイのような形状になった無数の赤い刃。

 

 ランスロットの思考に走る一瞬の躊躇。

 無数の刃は数こそ多いが一つ一つの威力は大きくないと見えた。恐らく宝具化した機関銃を盾にしつつ、直撃を避けるように回避に専念すれば、大した損害もなく受け切れる。

 今から刃が無数に降り注ぐ空間の中には、メルトリリスも易々と踏み込んでこれまい。水になって擦り抜ける、というのにも限度があるだろうし、何よりそんな状況では加速が乗らない。

 

 だがそうして刃を飛ばしてきているジオウの隣で、腕を前に突き出すパッションリップを見た。そのことにより、彼は一切迷うことなく次の行動を決断するに至った。

 手にしていた機関銃を刃の群れの中に放り投げる。宝具の効果が薄れる機関銃。それは来たる刃にズタズタに引き裂かれ、動力の爆発と神秘の残滓の破裂を同時に起こし、盛大な爆炎を発生させた。

 

 武装を失いつつも、ランスロットがその威力から逃れる。

 そうして跳んだ先で彼は危うげなく着地して。

 

 ―――それと同時、まったく意想外の理由によって。

 着地したその場から全身全霊、死に物狂いで横に跳んでいた。

 

 直後、上空から落ちてくる暗紅の流れ星。それはランスロットの着地点を目掛け正確に落下し、真紅の穂先でもって床を大きく抉り飛ばした。罅割れ、弾け飛ぶSE.RA.PHの床面。

 強引な姿勢で再動を余儀なくされたランスロットは、その代償に無理な姿勢で床で跳ね回り、全身を打ち付けながら転がっていく。

 

 流星か砲弾か。いずこからか放たれ、この場に着弾したのは黒い外甲を鎧った獣の如き男だった。彼はゆるりと立ち上りつつ槍を引き戻し、軽く回しながら赤黒い棘の生えた尾を揺らす。

 

「―――なんだ、指定された獲物とは違う連中か」

「……クー・フーリン」

 

 通常のクー・フーリンではない。ランサーでも、キャスターでもなく。

 女王メイヴが祈ったが故に発生した、狂王クー・フーリン。

 そうして発生したという事実をもって成立した彼が、口角を軽く吊り上げた。

 

 カルデア、ソウゴとの面識の記憶があるわけではない。

 あくまであの時存在を確立され、新たに召喚されたもの。

 

 そんな彼の登場は、単純に戦闘音を聞き付けての参陣。

 自分に与えられたセクターを放置して、文字通りに跳んできたのだろう。

 そうした彼は槍を肩に乗せ、周囲の獲物をざっと見渡した。

 どこか退屈そうに、しかし楽しげに狂気の猛犬が笑う。

 

「まあいいさ、戦場であることに変わりはない。であれば、やるべきことも変わらない」

 

 黒い外殻に覆われた足を踏み出し、クー・フーリンが槍を構える。

 それに対し、這うような姿勢で状況の推移を探るランスロット。

 

 “天声同化(オラクル)”で同一化している以上、本来ならば狂王を敵とは見なさないはず。

 が、ランスロットの注意は明らかにクー・フーリンにも向かっている様子だった。

 その状況を見て、ソウゴは彼に問いかける。

 

「ねえ、あんたはカール大帝の味方じゃないの?」

「“天声同化(オラクル)”か? 影響は受けちゃいるが、さして興味もねえ。目的のために好きにやれって話なんだ、好きにやらせてもらうさ」

 

 その影響を受けているのは間違いない。

 だが、と。

 

「“マスター”は生きたいと叫び、オレを召喚した。そしてその願いを拾い上げたらしい大帝は、ここに呼ばれたサーヴァントどもに、『自分に仕え、大望を果たす礎となるがよい。さすればお前たちに抱かれたその切なる願いたちは、ある意味では叶うだろう』、なんて言ってたか。

 ―――ならまあ、オレがやることはただひとつだろうさ」

 

 彼は積極的にカール大帝の敵を排除する。それは殺生院、カルデアを選ばずだ。

 

 カール大帝の味方だからではない。

 マスターの今際の切望を叶えるために、大帝が大望を成就させることを援護する。

 善も悪もない生存への渇望を求められて、そのためだけに疾走している。

 

「こっちはただの狂戦士(バーサーカー)、この身にできることなんざたかが知れてる。

 ただの番犬代わりに使われろ、というなら是非もない」

 

 だからカルデア、アルターエゴも敵。

 その栄養になるらしい追い詰められた同僚も必要とあらば処分対象。

 大帝の下についたサーヴァントはあくまで自分本位。

 同じ意志の許に集っている、というだけで最初から敵も味方もありはしない。

 

「まあ、番犬ならばそこらの猛獣より巧くこなせる、という自負はあるがな」

「どんな時でもお節介なくらい律儀だよね、ランサーってさ!」

 

 爆発するような踏み込み。黒い獣が疾駆する。

 即座に前に出ながら、ジオウはもう一振りの大橙丸Zをスリーブから抜刀した。

 

 二人の衝突ルートを前にして、ランスロットが体を跳ね上げる。

 機関銃は失われたが、未だに聖剣アロンダイトは解放可能。対応力こそ下がるが、戦力としては十二分。が、この乱戦に至る状況でその対応力を下げてしまってもいいのか。

 狂気の本能に訴えかけてくる戦場を俯瞰する視点、“無窮の武練”。自分の性能を十全と発揮するためには、“騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)”を放棄できない―――と。

 

 その予感の源泉は恐らくクー・フーリン。

 彼が手にした絶殺の槍、呪いの魔槍ゲイ・ボルク。

 あれを放たせてはならない、という生存の本能。

 

 どうにかしてあれを奪い取り、自分の宝具によって染め上げる。

 それ以外に彼があの槍を防ぐ方法が存在しないのだ。

 

「――――――!」

 

 そうして、彼は無手のままにジオウとクー・フーリンへと突撃する。

 最大の攻撃力、パッションリップの殺傷力は限定的。

 ジオウの至近にいれば使用できず、ただの案山子になるとおおよそ察知して。

 

 乱戦を利用してゲイ・ボルクを奪い取る。

 それを使い全員を撃破する。

 クー・フーリンさえ仕留められれば、アロンダイトの解放も視野に入れていい。

 

 とにかく、まずはクー・フーリンとパッションリップ。

 濃密な絶対死の予感をさせる者たちを処理しなければ始まらない。

 

 そこで割り込んでくるメルトリリスのステップ。

 彼女の踵は武器も無しに防げるような切れ味ではない。

 

「生憎だけど、遊んでいる時間はもうないの!」

 

 一閃、二閃、三閃―――間髪入れずに閃くメルトリリスの脚甲。

 それを全て刃に触れぬように躱す、獣の如きランスロットの体捌き。

 容易に躱されたという事実を見せつけられ、少女の顔に憤怒が浮かぶ。

 

 そこでより前にかかるメルトリリスのアクセル。

 それをいなすため、体勢を整えるランスロット。

 

(だめ、わたしじゃ追い切れない……メルトもわたしがいるって分かってるんだから、もっと追い込むみたいに戦っててくれればいいのに! メルトごと潰しちゃえれば楽なのにな……)

 

 腕を持ち上げ、しかし力を行使するわけにもいかず止まるパッションリップ。

 

 メルトの速力、メルトウイルスに濡れた刃をいなし続けるランスロット。

 だが如何に彼と言えど、無手のままそれを凌ぎ続けることは敵わない。

 どうにかしてメルトの踵、ジゼルの魔剣と打ち合うための武器を手にいれねばならない。

 

 ―――であれば、予感を無視して抜くしかないか。

 このまま嬲り殺されるくらいならば、聖剣に手をかけよう。

 諦めにも似た、次善の行動を選択せねばならないという上半身を捻る動き。

 

「Arr―――」

 

 騒がしい白鳥の羽ばたきが波紋を広げる湖面。

 ざわめく湖に静謐なる凪をもたらすため、引き抜かれるは聖なる剣。

 その聖剣こそ、湖の騎士ランスロットの切り札―――

 

 ガキン、と。

 と、そこでランスロットがその剣の柄を掴む前に、離れた戦場で金属音。

 直後にこちらに向かって飛来する、一振りの刀剣。

 

 ジオウの手から弾かれた大橙丸Zが、吹き飛ばされてきていた。

 

 それを認識した瞬間、狂戦士の思考が切替わる。

 ランスロットの選択はその場からの跳躍。

 彼は全力で跳び、吹き飛んできた剣を空中に掴みに行く。

 

 それを迎撃しようとするメルトの踵。

 だが彼は空中で掴み取った剣で見事なまでに捌いてみせた。

 

「こんの……!」

 

 掴み取った大橙丸Zがランスロットの魔力に侵され、オレンジが腐るかのように黒く染め上げられていく。必要に足る武装を手に入れた彼は、その刃で以てメルトリリスとの戦場を膠着させる手段を手に入れた、と言ってよかった。

 聖剣アロンダイトを使用する、という選択肢を除外して戦闘態勢に入る湖の騎士。

 

(なに相手に武器を与えるようなやられ方してるのよ、知った顔相手に気を抜いてるんじゃないでしょうね―――!?)

 

 刃を交わしながら、メルトがもう一つの戦場に視線を送る。

 大橙丸Zを弾かれたジオウは、空いた手に今度はジカンギレードを抜いていた。

 

 それでなくとも鎧武アーマーが装備した剣はスリーブに二振り、肩のサイドアームに二振り、両脛部に二振り。備わった大橙丸Zは実に六振りに及ぶ。

 ひとつふたつ弾かれたところで、彼自身の戦闘には何ら支障はない。

 

 だがそういう話ではない。

 そういうこととは別の話。

 

 文句を言いたげなメルトリリスの視線。

 そんな彼女に対して、握った剣の柄を鳴らしつつ彼が視線を合わせてきていた。

 

「―――――」

 

 交わす言葉はない。

 これまで長くなく、短くもない間、一緒にやってきた。

 やり方は分かっているだろう、とでも言いたげだ。

 分かっているとも。彼女は彼のやり方を、彼は彼女の性格を。

 

「ああ――――」

 

 小さく、口端が上がる。彼の方針を否定はしない。

 だってそうだろう。

 見てみればいい、ランスロットの立ち回りを。

 直感能力に優れたわけでもない彼が行っているのは、本能で死を忌避するような立ち回り。

 

 リップの“トラッシュ&クラッシュ”と、クー・フーリンの“抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)”。狙われれば問答無用で即死するような、殺意の塊のようなスキルばかりを注意した戦法。

 メルトリリスをリップからの弾除けにし、ジオウをクー・フーリンへの当て馬にする。とても合理的で、安全で、理に適った立ち回りなのではないだろうか。バーサーカーとは思えない。

 

 ―――だから腹が立つ。

 自分がこの戦場で端役だ、脅威戦力外だ、と言われてるに等しい。

 

 常磐ソウゴはメルトリリスに問う。

 『メルトリリスってそういうので満足できるんだっけ?』

 

 上がっていた口端が更に上へ。

 嗜虐的な危うい笑みを顔面に浮かべた少女が、踵で床を打ち鳴らす。

 

(まずはあの黒兜! ええ、いいわ! やってあげようじゃない、私から求めるセッション! あくまで私が主役(プリマ)の、ね!)

 

 加速、滑走。ランスロットを取り巻くように、流水の如くメルトが奔る。

 狂戦士の選択はメルトへの追従。

 パッションリップの能力を避けるなら、彼女から離れるわけにはいかない。

 

「リップ! 潰す準備をしていなさい!」

「メルトごと!?」

「お馬鹿!」

 

 驚くリップに怒鳴り返しつつ、奔るためのレーンを切り替える。

 ランスロットへと向かう直線軌道。

 向かいくる腐した果汁の滴る黒いオレンジの剣。

 それに対して、彼女は全霊の速度で以て応じてみせる。

 

「行くわよ、行くわよ行くわよ行くわよ――――!!」

 

 湖の騎士に対し奮うのは、白鳥の姫を擬装した悪魔の如き悪辣さ。

 その悪辣さを打ち破れるのは、王子と姫が共に湖に身を投げる真実の愛のみ。

 不貞の騎士など、切り刻んで湖畔にバラ撒き魚の餌にするのがちょうどいい。

 

 交わす、交わす、交わす―――互いの剣が刃を交わし、火花を散らす。

 三合、五合、十合、二十合。

 打ち合わせるごとに互いに腕と脚を軋ませて、それでも動きは鈍らない。

 

 だが凌ぎ合う二人には明確な違いがある。

 リップに声をかけた時点でランスロットだけを注視するメルトリリス。

 常にパッションリップの動向を探らねばならないランスロット。

 それだけの違いがあれば、十分なほどに彼女の全霊は目標へと到達できる。

 

「これで―――――!!」

 

 数多に刃を交わすその流れの中で、見極めた一瞬の隙間。

 放つのはその一撃の後のリカバリーを考えない、全霊を注いだ一閃。

 受け流せるものではないと見て、必要にかられ正面から防ぐ騎士。

 手甲が軋む音を立て、堪え切れずランスロットの拳が開いた。

 その手の中から弾き飛ばされる大橙丸Z。

 

 全力の一撃を放った直後で硬直するメルトリリス。

 武器を弾き飛ばされ、無手になったランスロット。

 

 ランスロットの思考が直後の行動をどうするか選択する。

 

 メルトリリスを捻じ伏せる? いくら何でも素手では難しい。

 メルトリリスは両脚が武器。ならばと両脚を掴まえて、彼女ごと振り回すような自身の宝具にしてみるか? いいや流石に無理がある。彼女は元から水、染め切る前に逃げられかねない。まして自分で振り回すには彼女のウイルスは危険すぎる。

 

 弾かれた剣を拾いに行く?

 ならばメルトリリスから離れる必要がある。それはつまり、パッションリップの射程に入るという事。メルトを巻き込む可能性、というリップの心理ブレーキを外す行為だ。

 能力を行使されても恐らく回避はできるだろうが、その状況でメルトからの横槍が入る危険は無視できない。リップの攻撃範囲から逃れつつ、メルトのウイルスを持つ刃を無手で凌ぐ。

 それは流石に少々無理がある。危険を減らすためにパッションリップより先に、まずはメルトリリスに対処したい。だがそのために必要な剣が、既に手の中にはない。

 

 ならば一体どうするのか―――

 となると。致し方ない、今度こそ聖剣アロンダイトを抜くしかないか。

 

 本能で死を忌避するが故に狭まる方針。

 その思考を目の前にしながら、硬直していたメルトリリスが小さく笑う。

 

(そんなにリップが気になるのなら、存分に味わったらいいわ。あの子の爪の凶悪さを、ね!)

 

 微笑むメルトの耳に、再び金属音が届く。

 またもジオウの腕から弾かれた刃がこちらに飛んできたのだ。

 空を裂き、回転しながら飛来する白銀の剣。

 

 判断を変える。

 ランスロットの本能は、聖剣の解放を最終手段としか見ていない。

 セイバーならまだしも、今の己はバーサーカーなのだから。

 

 リップの腕と、クー・フーリンの槍。

 どちらも聖剣の破壊力より対応力に優れる逸話宝具の方が相性がいい。

 だからこそ、その仕組まれた幸運に対しランスロットは再び同じ手段を選ぶ。

 

 飛んでくる剣。伸ばされた腕。

 ジカンギレードの刃に触れる、ランスロットの黒い手甲。

 その瞬間、

 

〈フィニッシュタイム! ギリギリスラッシュ!〉

 

 黄色い光がその場で弾け、ランスロットを取り囲んでいた。

 衝撃で手にするはずだったジカンギレードが弾かれ、床に転がっていく。

 そこに装填されているライドウォッチは、仮面ライダーバロンのもの。

 

「――――――――ッ!?」

 

 湖の騎士を覆うように発生するエネルギーボール。

 周囲を満たすのはまるで花切りにされたマンゴーの果肉。

 全身にかかる圧力に漆黒の鎧が軋む。

 

 そうして驚愕している騎士の前。

 白鳥が羽搏くように、メルトリリスが甲高い音を立てて高く跳躍した。

 空中に舞い上がった彼女が、待機していたものへと声をかける。

 

「さあパッションリップ、アナタの出番よ? 殻に覆われた霊核(たね)だけは潰さないように慎重に、けれど思う存分に絞り潰してあげなさい!」

 

 ガリガリと音を立てながら床を削り、黄金の腕が持ち上がる。

 その能力の効果範囲は彼女の目が届く全ての空間。

 ある程度の制御は利くが、問答無用・不可逆回帰の圧縮機(エンコーダー)

 

 神剣の指が開き、対象空間をその眼光が見定める。

 ランスロットはエネルギー体、マンゴーの中。

 内側からそれを引き千切ろうと四肢を動かそうとするが動けていない。

 

「―――フルーツジュースにしてあげます……!」

 

 そうして照準し、腕を構え、行使する。その一連の流れにかかる準備の時間だけで相当なものになる。だからこそ彼女は凶悪ではあっても絶対の脅威にまではなっていなかった。

 だがその時間を稼いでしまう援護が成立してしまった。そうなった以上、こうして対峙するランスロットには逃げ場も、活路もありはしない。

 

 空間が捻じれ、圧し潰されていく。

 ランスロットだけ、というような器用な範囲設定はできていない。

 周囲一帯まとめて削り潰し、廃棄物(ダストデータ)に変える能力行使。

 

 id_es(イデス)・“トラッシュ&クラッシュ”。

 そしてハイ・サーヴァントとして彼女に与えられたブリュンヒルデの神格。

 十の神剣を指に持つ黄金の巨腕、ドゥルガーの神格。

 それらを併せて成し遂げる、サクラファイブ最強の破壊力を誇る奥義。

 

「“死が二人を別離つとも(ブリュンヒルデ・ロマンシア)”ッ!!」

「―――――――――!!!」

 

 拉げていく黒い鎧、潰れていく騎士の命。

 その悲鳴さえもマンゴーの果汁の中、溺れるような泡と共に消えていく。

 

 命脈は確実に断った、と。そう判断したリップが腕にかける力を緩める。

 爆発するように溢れ出し、流れ落ちていくマンゴーの果汁。

 その中心で残骸となり、消えかけているランスロットだったもの。

 

 空中にいたメルトがそこを目掛け、踵から落ちてくる。

 何の抵抗もなくそれを貫いてみせる彼女の刃。

 その状態で行使される、霊基を己のものとする“オールドレイン”。

 

 トドメは譲らない。

 凪の湖を荒らし尽くす暴風の後、静寂の訪れた湖面に優雅に降り立つ白鳥。

 少々出番を譲りすぎだが、そこは姉の余裕というものだ。

 

 そこで一息、などついている場合ではない。

 戦闘はまだ続いている。

 メルトとリップはすぐさまもうひとつの戦場へと視線を向けた。

 

 直後、盛大な炸裂音と共にジオウが吹き飛ばされてくる。

 受けた威力に限界を超え、解除される鎧武アーマー。

 

「はっ、小器用なこった」

 

 自分と斬り合いながらタイミングを計って剣を弾かせる。随分と余裕のある戦術。こちらが狂戦士らしく技とは無縁の力任せを主体にしているにしても、だ。

 その技巧、その剣筋自体に感心はする。よほど流麗な剣士から筋を学んだのだろう。

 

 だがどうでもいい話。そんな余分にかまけて地面に転ばされていたら世話が無い。

 放たせてはいけない絶死の一撃を有するのは彼もまた同じなのだから。

 クー・フーリンとの間合いを空けた時点で、連中の戦術は決壊したと言ってもいい。

 

「そちらがかけてる手間なんざ関係なく鏖殺する。蠢動しろ、死棘の魔槍」

 

 槍を握った腕が張る。ルーン魔術が発動する。

 肉体の限界を超えた強化に、骨格、神経、筋肉、全てが悲鳴を挙げた。

 その一切合切を黙殺し、全身で以て投擲するのがこの男の槍。

 

 必中必殺の魔槍、“抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)”。

 放ったからに必ず中る、絶対必中にして確殺の一撃。

 

 ―――けれど、その槍のことは何度だって見てきた。

 どれほど強力な槍なのか、どれほど頼りになる槍なのか、よく知っている。

 

 常磐ソウゴという人間が、“突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)”という槍を、ただ距離を開けて投げつけられただけで当たってやるほど、甘く見てなどいるはずもない。

 

〈オーズ!〉〈アーマータイム!〉

 

 起動したウォッチを流れるように装填し、ジクウドライバーを回す。

 途端に解放される三つのユニット。赤いタカ、黄色いトラ、緑のバッタ。

 それらが合身して、ジオウをオーズアーマーの姿に変えた。

 

〈タカ! トラ! バッタ! オーズ!〉

 

「メルト、後ろに! リップはこっち!」

 

 投げられる前に潰そうとして、加速しようとしていたメルトがつんのめる。

 そんな指示に一瞬言い返そうとして、しかし。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とその様子から理解して。

 

「は、はい!」

「―――――」

 

 パッションリップがジオウに並ぶために頑張って前に進む。

 メルトリリスが大人しく、彼の指示に従って後ろに下がる。

 

 その動きに先んじるように、クー・フーリンが一歩を踏み出した。

 力強く、床を踏み砕くような死力の踏み切り。足の動きに連動し、撓る腰。槍を握る拳を先端に、上半身の動きはまるで鞭のように。

 

「“抉り穿つ(ゲイ)―――――!」

 

 獣の視線は真っ直ぐ、ジオウに向けられている。

 その目を真っ向から受け止めて、彼は胸のスキャニングブレスターを変化させた。浮かぶ文字はライオン・トラ・チーター。

 その変化を受けて、迸る黄金のオーラ。ジオウの顔から溢れる陽光の奔流。

 

 この場一帯を満たす、視覚を潰す光の壁。

 その目的を理解して、クー・フーリンが眉を僅かに上げた。

 

 ごくごく当たり前の話。ゲイ・ボルクは必殺必中、だが狙いを定めていなければ当たる筈もないのが道理。

 視界を一切塗り潰す光の渦。だが一瞬前までそれぞれ立っていた場所も分かっていれば、気配まで完全に消えているわけではない。それだけの情報で十分、心臓までは撃ち抜けなくとも、当てるだけならお釣りがくる。

 

 光の中に気配は三つ。

 最後方、恐らく後ろに回っていたメルトリリス。

 光が発生した爆心地、恐らく待機しているパッションリップ。

 そしてこちらに向け疾走してくるもの、これがジオウだろう。

 

 光は徐々に弱まっていく。それが消えきる前に再び距離を詰め、接近戦に持ち込み槍を封じようという腹なのだろう。

 今度は三対一、必殺の一撃さえ封じれば押し切れるだろうという計算か。

 

 その侮りに殺意を以て応えるべく、クー・フーリンの四肢に更なる力が漲った。

 ルーンにより極限を超え強化された肉体。限界を超えて自壊する肉体を、ルーン魔術によって修復しながらの壊進撃。

 真っ直ぐこちらに全速力で突っ込んでくるというのなら、まずは投擲ではなく刺突によって応じるまで。

 

 光の幕を突き抜けジオウが姿を現した、その瞬間に放つ一撃。

 

鏖殺の槍(ボルク)”――――――ッ!!」

 

 ジオウが光を突き破るのと、クー・フーリンが槍を放つこと。

 そのタイミングが完全に一致して、呪力漲る魔の槍がジオウの胴体を打ち砕いた。

 

「―――――!」

 

 魔槍の威力を余すことなく浴び、木っ端微塵に吹き飛ばされるのは、緑色のオーラでできたジオウの分身体。そのブレスターに浮かぶ文字はクワガタ・カマキリ・バッタ。

 飛散する緑色のエネルギーの残滓を目にして、微かな驚きに眉を寄せるクー・フーリン。

 

(分身? いつ本体を見失った―――)

 

 目眩ましの光が薄れていく。その中に隠されていたものが、朧気ながら見えてくる。

 想定通り、後方配置はメルトリリス。だが、光の発生源で待機しているのはパッションリップではなかった。正確には、パッションリップだけではなかった。

 パッションリップと、ジオウ本体の二人。

 

 そうして直接目にして気づく。

 

(でかい方のアルターエゴにそこにいる気配がまるでない、高ランクの気配遮断。

 あの目立つ図体のせいで気にもしてなかっただけで、奴の存在は気配からじゃ探れなかったってわけか。オレの節穴だな)

 

 誤認した。光の中の三つの気配は、その実四人いたという事実。

 リップの気配は感知できず、分身したジオウ二人分で数を合わされていた。

 

 そうして分身に槍を振るわされたクー・フーリンに対し、彼方で少女が嗜虐的に微笑んだ。

 今か今かと待ち侘びたスタートの瞬間、床に刻む加速の轍、爆発的な速度を瞬時に生み出し、快楽のアルターエゴが狂獣に向けて突貫した。

 

「―――さあ、待ちに待った晴れ舞台ね!」

 

 ジオウとすれ違う刹那に、ソウゴとメルトが目配せする。

 そのまま減速などなく、音速の槍となり突き抜ける少女の刃。

 

「確かに一手、上回られた。が、それで勝てると思うな」

 

 全力で放った槍を引き戻す。反動で引き千切れる筋肉をルーンの回復力で強引に修復。苦痛以外に何の問題もなく、クー・フーリンは体勢を立て直した。

 

「冗談。これから打ち合うもの全部、上手はこっちのものよ!」

 

 己自身を槍とするように、魔剣ジゼルの切っ先を突き出す。

 それに応じるゲイ・ボルク。真名解放するほどの余裕はないが、それでもメルトの突撃程度、力尽くでねじ伏せるだけの力はある。

 

 空中で交錯する二つの穂先。

 正面からの激突、火花が吹き出し弾ける両者―――

 

 となると、考えていたクー・フーリン。

 彼の前で起こったのは、それとは違う結果。

 

 突き出された両者の槍の穂先。それが掠れて、ただすれ違っていく。激突などせず、ただ刃を交えて、交差しただけで消費される全力疾走の突撃。

 酷く頭に響く金属同士の擦過音を轟かせながら、彼女はその速度のままにクー・フーリンの横を過ぎ去っていく。

 

 なにを、と。

 その疑問の前に、メルトの脚と交えた槍の異物に気づく。

 

 アンカーだ。ワイヤーに繋がった、クレーンアームの。

 

 今の交錯はこれをこちらの槍に引っかけるためのものだったのだろう。

 ギギ、と軋む音。それを理解した瞬間にワイヤーの巻き取りが始まった。

 槍を持って行かれないように、咄嗟に思い切り自分の方へと引き寄せる。

 

 ―――それをやってから、悪手だと舌打ちした。

 

 元からそれは武器を奪うつもりの張力ではない。

 この高速の巻き取りと、それに反発して自分の方へと引き寄せようとするクー・フーリンの筋力を利用して、この場へと全力を超えた速度で跳んでくるための誘い。

 

 ワイヤーの先にはそれと変わったジカンギレードを手にしたジオウ。バースのウォッチの力で剣をクレーンに変えた彼が、ブレスターをタカ・トラ・バッタに戻した状態で跳躍する。

 クレーンの発生させる張力を利用し、クー・フーリンが行った引き寄せに応じ、バッタの跳躍力で大地を踏み締めて―――ジオウは尋常ならざる速度で、クー・フーリンに向け突撃してきた。

 

 腕に装着されたトラクローZが力を帯びる。

 仕込み抜いた突進力を全て載せた、爪による必殺の一撃。

 

「オォオオオオ――――ッ!!」

 

 万全に仕組まれた必殺までのルート。

 確かに妙手の繋ぎに対して、こちらは悪手の連続を踏まされた。

 

 ―――だがそれを正面から踏み潰してこそ英雄。人理に刻まれた英霊というものだ。

 

 如何にイレギュラーな存在である彼にとて、クー・フーリンとしての矜持はある。

 ジオウが己に届く、その刹那を見切る。確かに見極めたその瞬間、彼は強引に槍を更に強く引き寄せた。当然、槍に絡んだクレーンごと引けば、ジオウは意図せず更に加速する。

 それで、タイミングがずれた。加速と合わせ完璧なタイミングで振り抜かれるはずだったトラクローは、中途半端な位置でのスイングに。速すぎて修正は利くものではない。

 

「……っ!」

 

 そうして威力を大きく減じたトラの爪を、腕を盾にして受け止める。完璧なタイミングであれば、ルーンで強化されていようが、それで腕の肉も骨もさくりと斬り落とせただろう。

 だがそうはならなかった。中途半端な威力では、ルーンの守護は貫けない。腕に爪がザクリと斬り込み、そこで全てを懸けたジオウの突進は終わる。

 

 直後に体を捻りながら回転しつつ振るう獣尾。勢いよく撓る紅く黒い巨大な尾が、停止した相手を背中から張り飛ばした。

 その威力を受け、衝撃に剣を手放してしまうジオウ。クレーンはただの刃に戻り、槍から離れて床へと落ちて滑っていく。

 

 火花を散らしながら吹き飛ばされるジオウの体。

 それに対して回転の勢いのまま、自由になった槍を振るう姿勢を見せるクー・フーリン。

 

「これで仕舞いだ」

「悪いけど……まだ続くよ!」

 

 吹き飛ばされるままにならず、ジオウが全身に灰色のオーラを纏う。

 ブレスターに浮かぶ文字はサイ・ゴリラ・ゾウ。

 

 ジオウ自身にかかる重力が増大し、吹き飛び切れず地面への落下を始める体。

 尋常ならざる衝撃がかかる着地をゾウの脚で受け止めて、彼はそのまま振り向いた。

 腕には灰色の力が集約し、ゴリラの腕のパワーが漲っている。

 

 このまま行けば槍と拳で激突。

 よく足掻く、とクー・フーリンは失笑しようとして。

 

「―――これなら、外しません!」

 

 背後から爆速で迫る、少女の声を聞いた。

 

「なに……!」

 

 灰色に輝くジオウの頭部。行われているのは特定の対象に対する重力操作。

 つまり、パッションリップをこの場に引き寄せる引力(アトラクション)

 結果として発生する、ジオウとリップによる挟み撃ち。

 

 いっそ感心して、舌打ちをひとつ。

 なるほど、宣告通りまた上手を取られたわけだ。

 

 槍一本ではこれを凌げない。考えるまでもない純然たる事実。

 ならば選択肢はひとつしかありえない。

 

 即座に槍を捨て、奥義たる宝具を解放する。

 

「全呪解放、“噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)”――――!!」

 

 発動するや、クー・フーリンの体を覆う骨の鎧。

 それこそは紅海の海獣クリードの骨で作り合げられた甲冑。

 その海獣の頭蓋骨より削り出されたものこそ、紅の魔槍ゲイ・ボルク。

 

 四肢をゲイ・ボルクと同じ骨格で覆った獣が、その状況に応じてみせた。

 骨の爪が立ち並ぶ両腕を、迫りくる双方に向ける。

 

 激突するオーズアーマーの拳、パッションリップの爪。

 両側から叩きつけられる衝撃が、骨の甲冑を振動させる。

 ジオウはその紅の爪と互角に打ち合い。

 パッションリップの指の神剣は、徐々に骨の爪を削り落としていく。

 

「でも、これなら……!」

 

 ジオウが近くにいる以上、id_es(イデス)は使えない。

 だが自分の破壊力なら押し切れる。そう判断したリップが一歩踏み出す。

 

 それを認め、クー・フーリンはすぐに動いた。

 下方を薙ぎ払うように振るわれる獣尾。

 足元を刈り取るようなその一撃の初動を察し、すぐさまジオウは力を行使。

 

「リップ、跳べ!」

「え、あ、はいっ!?」

 

 よく分からないけど指示に従って、押し込むことより跳ぶことを選ぶ。

 彼女の腕の重量を重力操作で無にし、少女はそれなりの高さにジャンプする。

 そうなれば押し合っていたクー・フーリンは自由になる。

 

 ジオウは自身も尾を飛び越えながら、宝具を解放したクー・フーリンに対して、ゴリラのパワーを全開にした両腕を突き出して―――

 

「甘ェ」

 

 リップの方から視線を切り、両腕をジオウへと向ける狂獣。

 紅の爪とゴリラの剛腕が両腕でそれぞれ激突。尾を躱すために跳んでいたジオウは踏み止まることもできず、あっさりと激突に負けて吹き飛ばされた。

 

「この……っ!」

 

 ジオウが吹き飛ばされ、重力操作が解除される。

 腕の重量を取り戻したリップは、即座に跳躍状態から腕を下に向けた。

 クー・フーリンに向け落ちてくるパッションリップの黄金の巨腕。

 

 上に掲げた紅の爪と、落ちてくる黄金の爪が衝突した。

 威力と併せ、圧倒的な加重。

 一瞬なれどミシリと軋む海獣の甲冑、クリード・コインヘン。

 

 だがそこまで。

 相手が重ねた上手は全て返した。

 

 この一瞬の過負荷が過ぎ去った後、尾で圧し掛かるリップを叩き落とす。

 後は順番にこの爪で貫いて終わりだ。

 

「ここまでだ、次はない」

「―――ええ、ここでフィニッシュ」

 

 その思考を遮る、更に上からの声。声の主は言うまでもない。

 初撃の後に取って返してきて、跳躍してきたメルトリリス。

 

 だが今は自分の上にパッションリップが圧し掛かっている。味方ごと串刺しにするつもりがなければ、あの位置では攻撃を試みることさえできまい。

 そしてリップを叩き落とした後ならもう関係ない。体勢を立て直した後ならば、どれほどの威力だろうと突撃など逆に砕き返してやるまでだ

 

 故にクー・フーリンは鼻を鳴らすのみ。

 そしてそんな彼を笑うかのように、メルトが直上から更にもう一言。

 

「詰んだわよ、アナタ。逃げ場なんてあるわけないくらいに!」

 

 頭上に水流が発生する。メルトリリスが起こす津波。

 パッションリップごと串刺しのつもりか。

 ならば彼女を盾にし一秒稼ぎ、その後に貫き返せばいいだけ。

 

 クー・フーリンのそうした思考の最中。

 更に突然、彼の足元からも大量の水流が湧き上がってきた。

 

「なに―――!?」

 

 水流の中に見える、水と同化した半透明のその姿。

 それは紛れもなく、ブレスターをシャチ・ウナギ・タコと変えたジオウのもの。

 彼自身が津波となって、地上から天上を目指し立ち昇る。

 その勢いに巻かれ、水流の外へと弾き出されるパッションリップ。

 

「ひゃあ……っ!?」

 

 対し、クー・フーリンは完全にその中へと呑み込まれた。

 

 応えるように天上から降り注ぐ滝のような洪水。

 地上から昇るものと、天上から降るもの。

 二つの水流が交わって、空中に圧倒的な乱れ狂う水の檻を織り上げた。

 

「ち、ィ……!」

 

 水流の嵐。一定の法則すらなく流れる向きすら定まらず暴れ狂う水流。

 その水と同化した二つの影が、自由を奪われた狂獣を削っていく。

 

 波濤の獣、海獣クリードの鎧。

 それをもってさえまともに動くことすらできない渦潮地獄。

 そしてその骨すら溶かし、堅牢さを失わせていくメルトウイルス。

 

 閉じ込められたクー・フーリンに対しジオウの振るう鞭と、メルトの振るう刃。

 それが彼の甲冑を徐々に削り落としていき―――

 

()()()()()()()―――!!」

 

〈フィニッシュタイム! オーズ!〉

 

 水中で二つの影が重なる。

 タコの脚を束ね、まるでドリルのような螺旋を下半身に作り上げるジオウ。

 銀色の刃を煌めかせ、全霊のその切っ先に注ぐメルトリリス。

 

 その二つの姿は隣り合い、水流に拘束された一人の獣に向かう。

 

「“弁財天(サラスヴァティー)―――!」

 

〈スキャニング! タイムブレーク!〉

 

 互いに乱れ狂う水流と同化し、制しながら得る推進力。

 それは不規則な軌道を描きながら、しかし完全に同時に目標へと到達する。

 

五弦琵琶 (メルトアウト)”―――――!!」

「セイヤァアアアアアア―――――ッ!!」

 

 ジオウの一撃がクー・フーリンの鎧を打ち砕く。

 メルトリリスの一刺しがその霊核を貫き通す。

 発動するオールドレイン。実行される吸収は、決定的な決着。

 

 崩れていく水の檻が解け、流れ落ちていく。

 水を踏み締め着地するジオウ。

 彼の後に続き、クー・フーリンを貫いたメルトもまた落ちてくる。

 

 背中から水面に落ち、喀血する余裕もなく眉を顰める獣。

 

「……ここまで、か。しくじったな」

 

 四肢は動かない。宝具は機能停止。

 獣はもはや立ち上がれず、疾走することなど叶わない。

 

 異種であるが、クランの猛犬クー・フーリン。

 上級サーヴァントである彼ほどの存在から得られる経験値だ。

 メルトリリスは余すことなく摂取する。

 

 完全な決着を見て、水に満ちた床に腰を落としながらソウゴが口を開く。

 

「……お疲れ様。悪いけど、俺たちの方が先に進ませてもらうよ」

「互いに敵とまみえ、お前らが勝ち、オレが負けた。それだけだ。それだけの関係の相手に労われるほど間抜けな話もない。お前の方から何か思うことがあったとするなら、そんな反省(もの)はせいぜい目的を達成した後の暇潰しにでも回しておくんだな」

 

 それだけ残して、黒いクー・フーリンの体が崩壊していく。

 灰が崩れるようにボロボロと、失われていく人の形。

 それを確かに見届けながら、ソウゴは小さく息を吐いた。

 

 

 




 
 SE.RA.PHまわりでまた何か追加情報があるのだろうか。
 どうなるどうするFZi-O。適当にやりまーす(思考放棄)。

 ところでヴァレルエンドドラゴン追加まだ?
 
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