Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー 作:アナザーコゴエンベエ
SE.RA.PHの裏側に設けられた居城と、デートスポットの数々。
彼女の趣味で組み替えられた城下の光景。
無駄なほどに装飾された明るい街並み。
天守で手すりに腰掛けて、その光景を見下ろしていた鈴鹿御前。
そんな彼女が、ふと何かに気付いて顔を上げる。
自分の意志ではない。勝手に黄金に染まり、輝く瞳。
その事実をもって、彼女は絶句した。
何もかもが馬鹿らしくなってきて、軽く喉を引き攣らせる。
「―――ああ、そう」
体育座りで、額を膝に押し付けて、渇いた笑いを数秒。
そうしてからゆっくりと顔を上げた彼女は、凄絶に笑っていた。
「そっか、そっかぁ……じゃあ、このままじゃいられないわよね」
小通連を手にして、残る二刀を神通力で浮かべる。
最後にやるべきことを果たすために。
立ち上り―――跳ぶ前に。
彼女はふと、空いた手で自分の頬に触れた。
硬く、楽しむことなど忘れた、殺意だけに溢れた貌。
口を閉ざして、目を瞑って、数秒だけ待って。
次に目を開けた時、彼女はニヤリと不敵に笑い、ただ楽しげに言葉を紡いだ。
「さ! 今回は最初から最後まで最悪の召喚だと思ってたけど、この顛末なら実際のとこ悪くないじゃん? わざわざ譲ってもらったからには、ここでお役目果たしにいかなきゃ女が廃るってもんでしょ! せっかくだから特等席で、あのクソ女の最期を指差して笑ってやるし!」
城を蹴り、鈴鹿御前が跳び上がる。
彼女は
SE.RA.PHの移動は自由が利く。
行こうと思えばすぐにだって、行くべき場所に行けるのだ。
銀の刃が床を滑る。圧倒的な速度で繰り出される連続の蹴撃。
それに対し、殺生院は胎の前で合掌したまま不動。
ただ彼女は背中より魔神を織り上げた新たな腕を作り出す。
そんなことをする必要はない。ただのお遊びのようなものだ。
お遊びで、彼女は阿修羅の如き様相に変わる。
「く、ぁ……っ!?」
物理的に新たな四本の腕を得て、彼女は至極あっさりとメルトを叩き落とした。
続くシャルル、ガウェイン、フィン。
それらの三騎士もまた、残る三本の腕でそれぞれ打ち払われる。
絶望的な戦況、結果の決まりきった状況推移。
テーブルに腰掛けながら、それを画面越しに眺めるBB。
彼女の横に映った砂時計からは着々と砂が落ちていく。
『―――そういえばキアラさんが先程、
現実とは違い不可逆のものではないのです。
誰かに話しかけているのか、あるいは独り言か。
ただ単にAIとしてその辺りを誤解されたままなのが気にかかっただけか。
トリスタンの音の矢を平手で払い。
アタランテの斉射を全て指で挟み。
エリザベートの怪音波を拍手の響きで相殺する。
その拍手が起こした空気の振動が、ついでのように周囲を蹂躙した。
ただ手を叩くだけの動作がまるで宝具のようだ。
彼女を中心に発生した不可視の衝撃波。
それに耐えきれず、吹き飛ばされていくサーヴァントたち。
『
ここと向こうはあくまでまったく別の時空。同一の時間帯に存在する別の可能性というだけで、本来交わることのない別の
衝撃波を何とか堪えたパッションリップ。
彼女がよろめきながらも両手を組み、拳二つを同時に撃ち出した。
リップの背後にいたことで守られた者たちがそれに続く。
ブーディカが剣を振るい、光弾を飛ばす。
ネロが剣を振るい、白い炎の剣閃を飛ばす。
清姫が限界まで深く呼吸し、青い炎弾を飛ばす。
だが殺生院は真っ先に届いた黄金の鉄槌を無造作に掴んでみせた。
破壊力も重量も何も気にせず、ただ乱雑に片腕で。
そうして掴んだそれを、辿ってきたのと全く同じ軌道で投げ返す。
光も炎も投げ返された黄金の拳に引き潰されて四散。
後続の追撃は何一つ殺生院にまで届かない。
「―――ぁっ!?」
戻ってくる自分の腕。
それを受け止めようとしたリップが、激突に耐え切れず拳と共に吹き飛んだ。
ネロたちも巻き込んで、吹き飛ばされてくるサーヴァント。
立香を乗せた戦車を御していたブーディカが手綱を引く。
が、遅い。リップたちが戦車に激突し、そのまま戦車は横転した。
激突した連中と纏めて床をバウンドして、破砕音を立てつつ転げていく。
咄嗟にブーディカに掴まれ、投げ出される立香。
その彼女を即座に跳んだタマモキャットが拾い上げた。
確保すると同時、キャットは立香を自分の後ろに放り、殺生院からの視線を切る。
『なので、向こうを前回とか一週目とか呼ぶのは、ちょっと意味合いが違ってしまうわけですね。まあ、呼び分けのために分かりやすい名付けが必要、というのはその通りだと思いますので、分かりやすくソウゴさんの経験した時流をAルート、ここでこうしてセンパイが経験している時流をBルート、としておくのが無難でしょうか』
言いながらBBが眺めている砂時計。
もうすぐ落ち切るだろう砂の量。
それを改めて確認した殺生院は、キャットに庇われている少女に向かう。
「させま、せん―――!」
彼女が歩き出した瞬間、鎧が砕かれた姿のガウェインが奔る。
迸る太陽の炎熱を纏った聖剣による一撃。
それを二本の指で挟んで止めて、女は触れるような掌底を彼の腹に添えた。
「ご、ァ……ッ!?」
血を吐き、突撃してきた速度以上で跳ね返される巨体。
そうして跳ね返ってきた彼を飛び越え、頭上を取る。
直上から脳天目掛けて放たれる、極彩色の一刀両断。
「“
王に続く十二の輝剣。
だがそれらが放たれる前に、頭上に向け手刀が突き出されていた。
それは魔神を織り上げただけの腕のようなもの。
少し弄れば伸ばすことなど幾らでもできる。
咄嗟に防御姿勢に入った聖剣と手刀が激突。
当然のように手刀が押し勝ち、少年はいとも簡単に打ち返された。
ボールのように弾かれて、高速で落ちていくシャルルマーニュ。
弓を構えようとしていたトリスタンにその体がぶつかり、纏めて薙ぎ倒される。
そこで一瞬の静寂。
直後に発生する怒涛の水流と共に、メルトリリスが押し寄せる。
フィン・マックールが死力を振り絞った宝具と併せた絶大な水量。
その津波を己と同化させた少女という波濤を前に、殺生院は眉を顰めた。
「殺生院……ッ!」
「……今更大した問題にもなりません。が、ここまで異常な性能の向上となれば少々気にかかるのも事実。一体何を取り込んでこうなったかに興味はありますが―――全て終わった後、貴方を私に取り込み直せば済む話ですか」
「“
津波が一つの槍となり、その威力の全てを殺生院に向ける。
清流にして濁流、あらゆるものを押し流し粉砕し溶解させる必殺。
id_es、“オールドレイン”の最大出力。
全身全霊の一撃を前にして、僅かばかり表情を変えて防御姿勢を取る殺生院。
(―――どうにも分かりかねますが、“オールドレイン”……強制同化が何かと絡み合い、より強力になっていると見えます。
圧倒的な水流。変生した殺生院にさえ届くかもしれない、そんな少女の全身全霊。
少々業腹ではあるが、それを無防備で受けるような真似はせず防御する。
―――仕方なしに殺生院が取ったその行動。
ただそれだけで、メルトリリスとフィンの全霊は傷一つ与えられずに消費された。
成果と呼べることはただひとつ。
防御に集中せざるを得なかった結果、殺生院の位置が押し流され距離が開いたことくらい。
たったそれだけの結果のために全てを尽くしたメルト。
彼女は床にぶち撒けられた大量の水の上で、疲労のままに息を荒くした。
その状況でそこらに浮かんでいる画面、砂時計を確認する。
残りの砂はあと僅か。あと何分? あと何十秒?
気にしている場合ではない。
そんなことより果たさねばならない契約がある。
分かっているが、気にしてしまう自分に腹が立つ。
濡れた体から水を滴らせつつ、殺生院は微笑みかける。
「急がなくてよいのですか、メルトリリス? そろそろ時間も―――」
言って、彼女も砂時計に目を向ける。
と、そこで何かに気付いたかのように、僅かに目を細めた。
先程までそこにいたはずのBBがいない。
だが探すまでもなかった。
見失った少女の声が、直後に空から響いたのだ。
「皆さんお忙しそうなところですが、失礼しまーす。そろそろ決着がついてしまいそうなので、動くなら今かと思いまして! 漁夫の利を狙っているBBちゃん的には、この辺りが潮時かなーっというわけで。空気を読まずに乱入させて頂きますね?
さあ覚悟してください、キアラさん! ラスボス系小悪魔風後輩型スーパーAIとして、一番目立つそのポジション、しっかりと取り返させて頂きますので!」
ふざけたような言葉と共に、びしりと伸ばした腕で殺生院を指差すBB。
天空に浮かぶ少女の目は真紅に染まり、全てを睥睨していた。
その視線に見下ろされながらも、呆れた風に肩を竦める殺生院。
聖杯戦争の進行役として彼女をサルベージしたのは殺生院だ。
だが別に味方だと思っていたわけもない。
放置すれば何かしらをしでかそうとすることなど分かりきっていた。
ただそれも一興、と思っていただけである。
「こんなタイミングで、ですか。BB、今の貴方に私が倒せるとでも?」
「倒せませんよ? ムーンセルが万全にわたしをバックアップしてくれている、とかならともかく、どう足掻いたところでわたしはアナタにまったくもって勝てません」
手の中で教鞭、
その錫杖が手に有ったところで、ムーンセルから引き出せる力には限度がある。
そしてビーストⅢ、殺生院キアラはその閾値の範囲でどうにかできる存在じゃない。
では一体何をしにきたのか、と。
―――そう眉を顰めた殺生院の足元が、唐突に割れた。
「な―――」
「ありがとうございます、メルトリリス。最終的にSE.RA.PHを手に入れるためには、どうにかキアラさんを天体室から引き離さなければいけなかった。あそこまで巻き込んで破壊してしまっては、セラフィックスの電脳化自体が解除されてしまいますから」
くすくすと嗤い、息を荒げるメルトを見下ろすBB。
確かに先程の戦いは管制室を発端にし、その周辺で行われていた。
それを全力の一撃で押し込み、引き離したのはメルトリリスだ。
「BB、アナタ何を……!」
バキン、と音を立てて殺生院の足元から巨大な腕が二本現れる。
一目で分かる。キングプロテア、アナザーディケイドのもの。
次元の壁を乗り越え現れた腕に対し、殺生院は即座に対処しようとして―――
「――――!」
「残念。如何に欲有る知性に対して絶対の権能を持つ、知的生命体キラーであるキアラさんとはいえ、虚数……そこにあるかどうか分からないものまでは蕩かせない。虚数空間にいる限り、アナタの蜜はプロテアには届かないのです」
故に単純な力勝負。だがそれだけでもビーストⅢの力は圧倒的だ。
サクラファイブの中でもパワー最強。
パッションリップの“トラッシュ&クラッシュ”さえも力負けする怪物。
幾らアナザーディケイドと化したプロテアとはいえ、力押しで勝てるわけもなく。
そこでゆるり、と。
微笑みながらBBが
「確かにアナタはあらゆる知性体を法悦させる快楽の獣。ですが、知性が意味を為さない虚数の海で、それにいったいどれほどの価値があるでしょう?」
起動する十の王冠。引き出されるのは、許された分だけの月の輝き。
その力をBBは、全てプロテアの腕へと注ぎ込む。
赤黒く燃え上がり、周囲に黒々しい影を纏い出すアナザーディケイド。
包み込まれたビーストⅢよりなお禍々しい、悪魔のような巨大な腕。
巨腕とその影が徐々に殺生院の姿を押し潰していく。
―――否、別の場所へと呑み込んでいく。
「ええ。わたしがアナタを倒せるほどムーンセルのバックアップは厚くない。けれどそれならそれで、別の手段を用意したまでです。
世界の壁を砕き、渡る。キングプロテアが宿したアナザーディケイドの力と、今のわたしが扱えるだけの“
これによってアナタを虚数空間に落としてしまえば、それでおしまい。足りない部分を違うもので埋め合わせた、発想の転換によって再現されたわたしの宝具―――」
影の動きが加速する。
更に展開される銀色の幕と、まるで布のように広がっていく黒い影。
それらが脈動しながら、一気に殺生院を包み込んでいく。
段階が進むごとに重くなっていく圧力に、初めて殺生院の表情に焦りが浮かんだ。
「く、ぅ……ッ! まさか、これほど―――!? BB……ッ!」
「霊核同期、
―――そう。今度はアナタが、わたしに追い落とされる番です。さあ、どうぞ悦んでください? アナタを粉々になるまで砕いて、この宇宙のどこでもない虚数の海にバラ撒いてあげる」
加速する。加速する、加速する、加速、加速、加速―――影と銀幕が折り重なって、内側に取り込んだ殺生院を包み込んでしまった。そして姿も見えなくなった彼女を潰すように、球体にまでなった黒と銀の包装が一気に収縮し、この時空から完全に消滅していく。
包み込んだ次元ごと虚数へ投棄するワールド・パージ。
ビーストであろうと二度と帰還できない、永劫の旅への放逐。
「オペレーション、“
―――声は静かに。私の影は、世界を覆う」
SE.RA.PHの一角ごと丸ごと消滅させる次元隔離。
それにより作業を終えたプロテアの腕が、ゆっくりとそこから離れていく。
アナザーディケイドの腕がブレる。エネルギーを使い果たしたのだ。
恐らくこのままでは変身が解除されるだろう。
「一度
BBの指示に従い、プロテアの腕が沈んでいく。
アナザーディケイドの力を使い果たした以上、自由に動けないということだろう。
であれば少なくとも、この事件の解決までもう彼女を見ることはないのか。
―――そして殺生院の反応はない。あるはずもない。
彼女はバラバラに引き裂かれ、虚数空間へと捨てられた。
例え再生できたとしても、虚数からこちらに帰還する術がない。
プロテアを帰還させてから、数秒待ち。
くすりと小さく口許に笑みを浮かべ、BBはメルトリリスたちを見下ろした。
「さて、SE.RA.PHの頭脳体であったキアラさんは消え去りました。頭脳を失いここに残されたのは、もはやただの電脳構造体でしかないSE.RA.PH。
―――というわけで。これからわたしがこのSE.RA.PHの頭脳体に昇格し、地上の人間を支配するため、ここから真の最終決戦といきましょう! イエーイ!」
大して悪びれた様子もなく、当たり前のように敵対宣言。
元より敵であったが、この状況でまでこれとは。
まさかの殺生院退場に唖然としていたメルトが、しかしすぐに力を入れ直す。
頭脳体の席が空いたなら、今にも天体室に飛び込み支配すればいい。
そうしてここを浮上させれば、やっと―――
「―――流石に。少し、驚きました」
メルトリリスの感慨など知ったことではないと、罅割れる次元の壁。
空間を粉砕し、姿を現す魔性菩薩。
快楽の獣が、当たり前のようにこの決戦場へと帰還する。
分かり切っていたことだとばかりに吐き出される、BBの深い溜め息。
BBとプロテアが行使したワールド・パージの威力は絶大だった。
殺生院ですら囚われ、確かに虚数へと放逐されたはずだった。
だというのに、何ともなさそうに女は笑う。
「うふふ……五体をバラバラに引き裂かれ、何もできず、自分がどうなっているかすら分からない。そんな状態で、まともな知覚すら得られない異界にバラ撒かれるというのも、得難いとても貴重な体験でした。本当に感謝しないといけませんね、魔神……ええと。魔神、ゼ……?
―――とにかく、私の肉体を魔神へと変えて良かった、と。こんな体験、人間であったらできないに決まっています」
本当に。本当に嬉しそうに女は嗤う。
地獄に落とされてなお、泳いで渡ってきた化け物が愉しそうに。
「良い体験を得て、こうしてめでたく帰還することも叶いました。なのでまずはBB、貴重な経験をさせて下さった貴方にもお礼を言わせて頂きます」
「うわぁ、うわぁ……流石のこれにはBBちゃんもドン引きです。バラバラにされて、虚数空間に捨てられて、そんな状態で帰ってきた挙句、普通に悦んでますこの人。
まあそもそもキアラさんの行動に関して、ドン引きしないことの方が少ないですけど……」
宙に浮く怪物、BB。床に足を下ろした怪物、殺生院。
まるで世間話をするように怪物どもが言葉を交わす。
とにかくさっきまでの思考は放棄せねばならない。
まずは殺生院を取り除かなければ、SE.RA.PHは取り戻せない。
気にする意味の無い砂時計に視線が向かう。
今までの減り方から言って、もう一分程度だろうという事が察せた。
「やはり分かっていましたね、BB。私は帰還できる、と」
「鈴鹿さんのKPがまだこっちにあるので目印にして戻ってくるだろう、とは思ってました。それにしたって早過ぎだとは思いますけど」
虚数に放り込まれても、実界に残った自分の一部は感じ取れた。
故に彼女はただ、そこを目指して虚数を掻き分けてきたのだ。
獣として“単独顕現”を持つ、全能に近い彼女だからこそできた荒業。
「私が目印にできるものを予め潰せればよかったのでしょうけれど……五つのKPを全て私に返していれば、そもそも異界送りも叶わなかった、と」
「ええ。ビーストⅢ、キアラさんにKP欠如に不完全態という瑕疵がなければ、そもそもわたしとプロテアの一撃は決まらなかった。なので返すわけにはいかなかったわけです」
困った困った、と。
指を頬に添えて首を横に倒してかわい子ぶるBB。
そんな彼女を探るような視線で見上げる殺生院。
「でしたら最初から返さず、メルトリリスに壊させておけばよかったでしょうに」
「…………」
KPを破壊せず、わざわざ守り、キアラに返還する。
そんなことをしていなければ、彼女が詰んでいた場面は多かろう。
だというのに何故そんなことを、と。
そう問いかけた殺生院に対し、BBは口を噤んでみせた。
確かにカルデアと殺生院の戦いで漁夫の利を得る、という目的であったのなら、強すぎるメルトリリスに対してパワーバランスを取るため、殺生院の力を守ることもあるだろう。
だが結局行き過ぎた殺生院の強化によってこの有様。
BBとプロテア、彼女たちの全力ならばまだ通じる目もある。だがプロテアが戦線離脱した以上、もう彼女を害する手段は残っていない。
こうなることをBBが予測していなかった、というのは流石にありえない。ではこうなった上で、何かまだ目的があるのだと考えられるが―――
「まだまだ何か目論みはありそうなところですが……正直なところ、それをちゃんと見届けて、味わい、踏み躙りたいという気持ちもないではありませんけれど。
流石にバラバラにされた肉体を再構築し、虚無の海から己の欠片を目指して泳いで帰ってくるのは疲れました。時間も差し迫ってきたようですし、残念ながらもう終わらせましょう」
前言を翻すようだが、致し方ない。どう考えてもBBの目的は時間稼ぎ。今更ではあるが、あの砂時計が本当にタイムリミットかどうかも怪しいものだ。砂が落ち切る前にわざわざBBの乱入があったということは、むしろあれが落ち切るのを待っているのかもしれない。
今まで乗ってきておいて何だが、ここで終わりにするのがいいだろう。
砂時計が落ち切るまでは残り20秒といったところか。
その時間がやってくる前に―――とりあえず、メルトリリスとそのマスターくらいは消しておくとしよう。BBにとって利用価値があるとして、まあその二人くらいだろう。
ついでに少々体力を消耗した今メルトリリスは厄介なことだし。といっても、二人まとめて消すのに五秒もかからないだろう。やる気になれば、それであっさりと終わる話
殺生院が一歩踏み出す。
その動きから続く殺生院の行動を理解して、メルトは全身を震わせた。
間に合わない。そして、果たせない。前のマスターも救えず、そして最後の命令も果たせず今のマスターも守れない。そんな末路など、けして認められるものか。
BBとプロテアの攻撃で殺生院にダメージがあったのは事実。
いま彼女という存在に可能な限りの損傷が与えられているのは真実。
であるならば、ここに全てを懸けるより他にない。
放つのは最大最期の一撃。
放った直後に自分が砕け散るくらいに、全てを注いだ必殺。
後先なんて考えていてどうにかなる相手ではない。
メルトと殺生院の視線が交差する。
獣はただ、やってみればいい、という態度のまま歩みを進めようとしている。
四秒後には今はキャットが呪術で護っている立香は蕩かされるだろう。
彼女の護りでさえ、そんな薄布程度の効果しか期待できない。
であれば。
―――で、あれば。
ギャリ、と銀色の爪先が床を抉った。
「―――――」
何故、何故、何故、何故―――
圧倒的な力を前にして、立香にできることは驚くほど何もない。
だからこそ、考える。考えて、何かを見つけ出さねばならない。
メルトリリスが突撃してしまったら終わりだ。
なんとなくそんな気がする。いや、間違いなくそうなるだろう。
だってそうなったら彼女は死ぬ。
どんな結末であれ、メルトリリスが死んで終わるに違いない。
(できないよね―――!)
じゃあ何故。何故、ソウゴは彼女にライドウォッチを託した?
オーズウォッチ、そこに何の意味があるのだ。
そのウォッチについて自分が知っていること、いったい何がある?
考えて思いつくことができることなのか。
いいや、分かるか分からないか考えたって意味は無い。
何かがあると確信して、考え抜くより他にないのだから。
(何故、何で……最初の
BBが言うには、あくまで別の
ふと、そこも引っかかる。
BBは何故、先程ああも解説するかのような真似をしたのか。
ここと向こうは同じ連続した世界ではない。
同じ時間、同じ場所にいるのに、違う流れ、違う空間にいる。
電脳であるが故に、そんな時空のすれ違いがあり得ると―――
「――――」
条件が分からないけれど、状況は違うけれど。
それでもきっと、ありえないことはない。
けれど、あの砂時計が落ちきったらソウゴは死ぬとBBは明言していて―――
「―――――あ」
BBの言葉が脳内で蘇る。
彼女は全部、こちらに伝えきっていたのだ。
何故こんな真似が必要だったのか。
そもそも立香が思いついた事象が可能なことなのかは分からない。
だが立香が思考した上で、
理由は分からない。
だがやらなければいけないことだけは、伝えられていた。
ソウゴがメルトリリスにオーズウォッチを託すことで。
BBがこうしてここで行っていることを見て。
藤丸立香は、自分がここで
だったらもう、自分の思考を疑っても仕方ない。
「キャット! 前に出るね!」
「なんと!? いや―――その目……庭で七輪にかけられよく焼けたサンマを見る野良猫の如き決意に満ちた野性の瞳……! ヨシ、安請け合いは任せておけ! 死んでも守ってみせよう!」
一切迷いなく、キャットは立香の話に乗った。殺生院相手から時間を稼ぐなど、1秒とて永遠に等しい難行に違いない。
だがやらねばならぬ、と足を前に出そうとする立香の覚悟。それにお魚を銜えに行くドラ猫のソウルを感じた彼女は、散歩の時間になったのでご主人に纏わりつく犬のように猛ってみせた。
泥船とて溶けて水底に沈めば海を僅かに浅くする。
タマモキャットはその僅かな泥になることを躊躇うような軽い女ではなかった。
速度を調節し、走り出すタマモキャット。
ただ人間では近付くだけで蕩けてしまいそうな怪物、ビーストⅢ。そんな獣からの影響を最小限まで低減する呪力の盾となり、キャットは尻尾を毛羽立たせた。
盾となってくれている彼女に続き走り出して、立香は叫ぶ。
「止まって、メルトリリス!!」
走り出す直前、少女の耳にマスターの声が届く。
だが迷って足を止めて、加速を鈍らせて威力を落とすわけにはいかない。
彼女にはもう、一縷の望みにかけて殺生院を仕留めにいくしかない。
「今のあなたのマスターは誰!?」
続けて届く言葉。それでも止まれない。
止まってしまっては、今までの全てが水泡に帰す。
だから―――
「私を護って、勝たせなさい!!」
自爆などしてないで、勝利をもたらせとマスターが命じた。
藤丸立香が想定する完全なる勝利を寄越せ、と。
それができれば何とよいことか。
だけどそんなもの、今さら不可能だから彼女はこの脚を動かすのであり―――
しかし何故だろう。
そこで彼女の脚が、止まっていた。
何となく今までのことで分かっていたけれど。
あの自分によく似た王様も、だから彼女を信じているのだろうと思えたから。
他の何でもない、
それならば、ひとりぼっちのプリマでさえ、脚を止めてもいいと思ってしまえたから
「―――――」
突撃が行われなかったことに眉を軽く上げる殺生院。
まあそれならそれでいい。結果は何も変わらない。
相手から来ないなら、こちらから潰しにいくだけのことだ。
攻撃に備えていただけの時間を無駄にして、残り15秒。
魔神を織り上げ、背中から生やした腕を伸ばす。
無数に展開されたそれは、シルエットだけならばまるで千手観音。
それらの指先、全てをメルトとキャット越しの立香に向けて。
「では、これにて―――」
―――初動で放った二十の手。
その全てに完璧なタイミングで黄金の刀が激突し、僅かに狙いを逸らした。
弾け飛んでいくその刀を見て、眉根を寄せる殺生院。
圧倒的な力の差がありながら確かに狙いを逸らさせてみせた計算尽くの配置。
見上げてみれば、空に輝く黄金の刀が二百三十。
既に撃ち放たれた二十と合わせ、二百五十の“
「
―――その傲り、天魔の姫が斬り捨てにきてやったわよ。快楽天」
既に銀の刀を手にした彼女は、朱色の鞘からすらりと最後の剣を抜く。
それこそは顕明連。
鈴鹿御前が持つ、水界の蛇の尾より取りし愛剣。
そして彼女が有する最後にして最大の宝具―――
「我が眼が視通すは顕明連が刃に映せし“
新たな神を嘯く獣の末路、しかと見届けてあげるわ」
―――この期に及び、彼女は女子高生の制服を脱ぎ捨てる。
代わりに纏うは天魔の姫としての装束。
朱色の着物に天魔の羽衣を装いて、彼女の変生は完了した。
黄金の瞳を開き、全てを観通すサーヴァントを超越した天魔の姫。
それこそが今の鈴鹿御前。サーヴァントの枠に収まらないその姿は、発揮した時点で鈴鹿御前というサーヴァントの霊基を崩壊させていく。それに至った時点で、彼女の消滅は決定的。
だがそれでいい。そんなことで目的が果たせるなら、何の迷いもない。
殺生院が拡げる手を、全て完璧な軌道によって放たれる大通連で逸らす。
真っ当なサーヴァントではできない奇跡の偉業。
だが、所詮はそこどまり。
一切瑕疵なく完璧に扱われる“天鬼雨”。それは数秒、確かに殺生院を止めた。
しかしたかが刀の二百五十で一体どれだけ止められるのか。
あっという間に降らせる剣を使い尽くし、彼女は殺生院に対抗する術を失った。
大言の割にはいとも容易い、と。殺生院は笑う。
天魔の姫が腕を振るえば、黄金の剣が一振りに戻り彼女の手元に引き戻されようとする。
再びの“天鬼雨”でも降らせようというのか。
それは余りにも、馬鹿らしくなるほどに間抜けさに満ち溢れた行動。
地に墜ちている剣が神通力で引き戻される前に、魔神の腕で掴み取る。
そうして剣を奪われたことにも無表情。
ただ彼女は奪われた剣をひたすらに引き戻そうと、神通力をかけ続けていた。
自分の手の中でカタカタと震える黄金の剣。
「……ふふ。取り戻したいのですね、この剣を。折角のお話です、お互いに自分のものを預け合った身ですもの。是非とも、交換してさしあげましょう」
ふ、と。剣を掴んだ殺生院の手がブレる。
それは一息に鈴鹿御前にまで届き―――大通連が、彼女の胸を貫いた。
「――――ッ」
刹那の間に僅かに体を逸らすことで致命傷は避けた鈴鹿。
そんな彼女の刀が突き刺さった傷に触れる指先。
それが傷にずぶりと沈み込み、内側から光の結晶を抉り出した。
投げ捨てられて、刀を突き立てられたまま床を滑っていく少女の肢体。
―――抉り出した光こそ、最後の
彼女に欠けていた最後の欠片が、指先から溶け込んでいく。
正しく全能。正しく全知。
今まで抵抗が成立していたのは、彼女の方が欠けていたからだ。
それも埋まった今、新しき
完璧に至った彼女には、如何なる小細工すら届くまい。
鈴鹿への対処で時間を無駄にしたが、自分がこの位階に至ったならまあ良しとしよう。
BBが何を企んでいようが、既にその小細工が意味を為す段階ではなくなった。
視線を砂時計に向ければ、最後の1秒。
最後の1粒がいままさに落ち切るところであった。
ここに至るまでにあのマスターは蕩かせなかったが、まあいい。
メルトリリスの絶望を見るために振り向きつつ、口を開く。
「さあ、どんな気分ですメルトリリス? 大帝陛下にわざわざ救われ、あの少年を救うためにやってきたというのに。またもこの私に阻まれ、飛べもせず、地に伏せ嘆くこの始末―――?」
―――大帝陛下? あの少年?
自分がいま口にした言葉の意味を理解できず、殺生院が声を詰まらせた。
いや、意味は分かる。
カール大帝に、メルトリリスのマスターだったあの変身していた少年。
つい今まで見ていたように、姿も声も鮮明に思い浮かぶ。
だが同時に溢れ出す全知全能の感覚に、その違和感が曖昧になる。
自分の中に地球の全てが入ってくる感覚だ。
まだ核には到達していないはずだが、一気にこの星の知識が雪崩れこんでくる。
「……もう地球の核に到達するのも近いようですね。近づいただけでこの感覚、完全に融合に至ればいったいどれほどの―――」
「あれれ、キアラさん? 何か勘違いしていませんか?」
BBの声に彼女を見上げる。確かに困惑がある。
自分の中に入り込んでくるのは、確かに地球の全てだ。
これを求めていた。地球と一体になり、この星の全てを以て有頂天に達し、その悦楽の果てに自分は真に地球の性感帯、真なる快楽天へと昇華される。
つもりだった、はずなのだが。
「勘違い、とは?」
「またまたぁ、今のキアラさんには地球の情報全てが雪崩れ込んでいるはずでしょう? ですが今アナタが感じている感覚は、地球の核との融合とはまったくの別件。
でもどちらも地球との融合、といって差し支えないので、いわゆる感度倍増というやつです! このまま行けば、最終的にはキアラさんが想定していた2倍の快感が得られるでしょう!」
ニコニコと微笑むBB。
いったい何を、と。そう口にする前にSE.RA.PHが酷く震動し始めた。
自分の体だというのに、何が発生しているのかが分からない。
そんな最中にバタン、と。酷く盛大に本を開くような音がする。
何事かとそちらに視線を向ければ、そこには初めて見る男。メルトリリスやそのマスターの前に立つその男は、その場で開いた本を手にしながら不敵に微笑んでいた。
「黒ウォズ……?」
立香の声に顔を向け、そのまま彼は顎をしゃくってメルトリリスを示す。
そこでメルトに視線を向ければ、彼女の袖の中で何かが発光していた。
確認するまでもない。オーズのウォッチだろう。
「―――やっぱり、違う時間を」
「君が想定したのとは違う方法だが、概ね正解と言っていいだろう」
言葉少なに立香の思考を肯定し、肩を竦める黒ウォズ。
かつて第五特異点アメリカにおいて、オーズウォッチの回収時に起こした事象。
英雄ラーマとその妻シータの、時空を隔てた邂逅。
その場に同席したわけではないが、そういうことがあったとは知っている。
だからこうする必要があったのだろう。
違う時空の中に、メルトリリスがオーズウォッチを持ち込む必要があった。
二つの時空を交わらせるために。
そして先程のBBの言葉を考えると―――
「この時空交差はオーズの力単体で起こされたものじゃない。彼女の言葉を借りるなら、AルートとBルート……双方に存在する二つのウォッチが引き合うことで起こされた、というわけだ。
我が魔王がそこのメルトリリスに持たせたオーズ。そして、Aルートの戦いの最中にあの殺生院キアラに取り込まれたダブルのウォッチによって」
自分の中に溢れる情報に困惑しながら、己の記憶を探る殺生院。
突然入ってきた情報が膨大すぎて混乱している。
だが確かに、Aルートで殺生院キアラが経験した事態が自分の中にある。
彼女の困惑を見て取って、BBが口を開いた。
「AとB。本来は交わらない二つの時空が重なった時、ベースとなったのは見ての通りBルート。そうなったのは単純に情報の質量による問題です。その事象が発生した瞬間、Aルートに既にカール大帝は亡く、メルトが持ち込んだ彼の霊基の分だけBルートのSE.RA.PHの方が
そして時空交差が発生した瞬間、二つの時空においてあらゆる情報は編纂されました。双方に存在していた人物は情報が統合され、片方にしかいなかった人物はそのまま継続する。AルートとBルートが融合して、どちらでもないCルートという新ルートが発生したわけです」
「……なるほど。これが貴方たちの目論見だった、というわけですか」
頭痛を堪えるように顔を顰めつつ、殺生院がBBを睨む。
「ですがそれに一体何の意味が?
「果たしてそうでしょうか? ね、センパイ?」
BBが立香に視線を向ける。
彼女を見返して、立香は己の思考の結果を述べる。
「砂が落ち切った時ソウゴが死ぬ、っていう砂時計が落ち切った瞬間、時空が統合されたこと。BBが必死になって今の今まで時間を引き延ばそうとしてくれてたこと。
―――あの人……殺生院キアラが、知的生命体では勝てないビーストであること」
わざわざBBが情報としてくれた事実。
ビーストⅢ、殺生院キアラの性質。
ソウゴが死ぬ、という話も嘘じゃないはずだ。
この時空が統合された瞬間に。否、彼が死んだ瞬間に時空が統合されたのだ。
事実として殺生院は彼を蕩かした、と言っている。
如何にソウゴが強かろうと、人間である以上は知的生命体に変わりはない。
彼女が有する権能に対して対抗することはできなかった。
そうだ。
「だからこそ、今までの全部があったのなら。きっとそういうことなんだ。
―――
轟音と共にSE.RA.PHが揺らめく。
電脳化したセラフィックスは、海底を突き抜けて地球の中心を目指して沈んでいく。
戦場が地球の核へと移り変わろうとしている。
そんな中で、メルトリリスの持つオーズウォッチ。
そして殺生院が戦いの最中に意図せずジカンギレードごと取り込んだダブルウォッチ。
それらが同時に強く光を発した。
「……っ! 何が……!」
己の中から溢れ出す光に、殺生院が当惑する。
ただでさえ流れ込んでくる情報が多すぎて頭痛がするというのに。
最後の戦いの中。カール大帝は遂に倒れ、ジオウⅡは彼女に蕩かされた。あの砂時計が告げた時間こそがその瞬間。間違いなく、常磐ソウゴという人間が死を迎えた瞬間だ。
その瞬間に刻まれたソウゴの死という情報はなくならない。二つの時空を統合したCルートにまで保存され、紛れもない事実として引き継がれる。常磐ソウゴの死は、Cルートの成り立ち故に回避できない真実となる。
ビーストⅢ/R、随喜自在第三外法快楽天。
魔性菩薩・殺生院キアラ。
知的生命体を例外なく蕩かして昇華する“ロゴスイーター”の手で、常磐ソウゴは死んだ。
これが彼が経た、Aルートにおけるソウゴの顛末。
この情報は消えない。消せない。
―――故に、それが覆るとすればより正しく成立した道理のみ。
この情報が発生したその瞬間に時空が交差し、Cルートとして統合された。
原因は二つの時空。ダブルウォッチがあるAルートと、オーズウォッチがあるBルート。
この二つの世界が地球の
二つの時空が交わって、Cルートへと変わったことにより情報は再編された。
常磐ソウゴの死という確定情報は変わらない。
ただその過程と、意味だけが少しずれる。
「あ―――」
メルトリリスが小さく声を漏らす。
管制室だった場所、違う世界では機動聖都があった場所に嵐が起こる。
その中に、無事なところなどない罅割れた銀色の装甲が見えた。
今にも倒れそうな状態で、ただライドウォッチを手にして立っている彼。
―――ジオウⅡ、常磐ソウゴがそのウォッチを強く握った。
〈スカル!〉
ジオウⅡが纏っている力は骸骨の記憶。
動く骸骨。血流も、神経も、あらゆる感覚が死者同然に失われるライダーの力。
変身すること即ち死者となること。
仮面ライダースカルの力により、常磐ソウゴは確かにいま死者となっていた。
五感亡き死者が相手では魔性の色香は届かない。
知性が得る快楽というものを死体が感じることはない。
快楽を感じない死体を“ロゴスイーター”が蕩かすことはできない。
以上の情報によって、Cルートにおける彼の顛末は決定された。
常磐ソウゴは仮面ライダースカルの力を得て死亡。
死体である彼をビーストⅢが蕩かすことはできず、今に至る。
「でも、これ以上死んでるわけにはいかないよね」
ウォッチを握っていた腕を下ろし、ジオウⅡが殺生院に顔を向ける。
そうして対面して、彼女は強く眉根を寄せた。
感覚で―――否、知識で理解できる。
地球に刻まれた骸骨の記憶。
死者と変わるその力によって、ソウゴは己の力から逃れおおせたのだと。
「……まさかあそこから逃れているとは思いもしませんでした。ですが所詮は一度きりの大道芸、生き返った以上は私に蕩かされる末路を回避できないでしょう?」
ジオウⅡのダメージは深刻だ。そもそもカール大帝との戦闘の直後、という事実は変わっていないのだから。“蕩かされて死んだ”という事実を、“死んだことで蕩かされなかった”に変えたところで、ビーストⅢが放っていた魔神の力という攻撃の余波によって受けたダメージが、全て丸々0になるわけでもない。
彼は確かに生き返ったが、もう戦える状態じゃないのは明白だ。もう一度同じように殺生院が力を行使すれば、今度はあっさりと消え去るだろう。
それをさして強く否定するわけでもなく、少年はただ泰然と笑い返した。
「そうかな? まあ俺一人じゃそうかもね。でもさ、独りきりの
ビーストⅢの権能に陰りはない。
後は地球の核へと辿り着き、羽化の時を迎えるだけ。
それを止められる存在など此処には―――
否、どこにもいないにも関わらず、ソウゴは勝ち誇るように笑ってみせた。
死んだことをスカルウォッチを使用した、という事実に差し替えることで死んだことをなかったことにする。
グリフォンライダーをサーチしてドラコバックを捨てることで勇者に装備してバウンスしつつ万能無効を構えるみたいなインチキくさい動き。お世話になってます。