Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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 己を貫いていた大通連を引き抜く。

 手にしていた顕明連と合わせ、からん、と。床に落ちた刃が音を立てた。

 KP(カルマ・ファージ)を抉り出された傷も中々に深い。

 限界などとっくに越えているが、しかし無理矢理生かされている。

 

 酷く不快ではあるが、まあここは我慢のしどころだ。

 ようやくあの女の無様な負け姿を観れるのだから。

 消滅していく悪寒と、強引に維持される痛み。

 

 それに耐えながら顔を上げた彼女の前に、一人の男が舞い降りる。

 

「確認しようがなかったが、無事なようで何よりだ」

「アンタにはこれが無事な姿に見えるワケ?」

「少なくとも、オレがお前に請われ鎧を渡した時よりは」

 

 降り立つ男は太陽の子、施しの英雄カルナ。

 彼の傷も深いが、彼としてもまだ退場するわけにはいかない。

 ()を託した少女より先には消えられない。

 

 ―――殺生院に霊核を砕かれた後、彼女はカルナに延命を願った。

 その鎧が持つ規格外の性能で自分を無理矢理生かしてくれ、と。

 

 無論、カルナは快諾した。

 願われたのであれば応えるのがこの男。

 

 宝具、“日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)”。

 カルナが太陽神スーリヤから与えられた光そのものである黄金の耳輪と鎧。

 彼は鈴鹿に願われて、当然のようにその鎧を彼女に譲渡した。

 

 その鎧が纏った者に与える絶大な防御力と超常の治癒力。

 それによって鈴鹿御前は、あの戦いを聖都の外で生き延びた。

 死にながらも消えなかった、程度の話だが。

 だがそれで十分だった。

 

 彼女は光の鎧に護られ、死を超越する再生力で無理矢理生き延びながら、先程のように天魔の姫としての眼を開いたのだ。あらゆる世界を観測できるムーンセルに匹敵する視界。

 そして見つけ出したのが、()()()()()()()()()

 

 観測する、ということは実在を証明するということ。ただの情報の積算でしかないこの電脳の中で、彼女だけは実態の世界を観ていた。常磐ソウゴが視つけた別の時空を、鈴鹿御前が観続けることで実在を証明し続けた。Bルートというこの最後の局面に至るための始まり。その成立のための立香とメルトリリスの着地をずらさず合わせられたのは、彼女の観測によるところだ。

 そして最終的には、Aルートの鈴鹿からBルートの鈴鹿を観測することで気付かせ、Bルートの鈴鹿からAルートの鈴鹿を観測させ返させることで理解させた。

 

 ―――殺生院は怨敵である。

 その眼を開いて最後までの道のりを観測して、自分の役目を果たしに行け、と。

 

 結果として、彼女は最後のKP(カルマ・ファージ)を囮とした時間稼ぎを行った。そのまま死ぬところだったが、直後に発生した時空編纂によって、Aルートの鈴鹿が持っていたカルナの鎧は彼女に引き継がれ、こうして何とか死に損なっているというわけだ。

 

 彼女の観測が原因でメルトリリスがまた別の事態も引き起こしたが―――

 それはまた別の話だろう。

 

「もう返せ、って言うなら、返すケド……」

「お前が未だその鎧を必要としているならば構わん」

 

 ありがたい。本当に。

 この鎧のインチキ染みた性能がなければ、今にも弾けて消えそうなのだ。

 Aルートの鈴鹿とは違い、Bルートの鈴鹿御前は未だに霊核を残していた。

 だがどちらも結局は第三宝具を開帳し、自己崩壊が始まっている。

 

 これがなければ、あの女の末路を見届けられない。

 

 そう思いながら頭を何とか上げて、殺生院を見据える。

 確かに彼女は全知全能に等しい位階にまで至った。

 このSE.RA.PHにおいて、最強無敵の獣として君臨しているのだ。

 

 ―――だから、こうなる羽目になる。

 

 

 

 

 

 頭痛が酷い。流れ込んでくる情報が多すぎる。

 地球の記憶が彼女という器に止め処なく流入し続ける。

 けれどこれも最果てに至るための前戯と思えば辛くはない。

 これのせいで少々手荒くなるだろうが、それも自業自得。

 

 死の淵から這い上がってきたジオウⅡ。

 何とか今まで生き延びてきたにすぎないメルトリリスたち。

 彼らは、魔性菩薩の掌で泡のように消え果てる―――

 

「そ――――れ――――で――――は――――」

 

 ―――声が遅い。声帯が震えない。

 どうしてこうも体が重いのか。

 全知全能たる彼女の身に、一体何が起きているというのか。

 

 疑問すら口に出せない。

 思考と乖離した体の動きに、声が続かないのだ。

 

「なに、が?」

 

 明らかにおかしい殺生院の様子。

 それを疑問に思ったメルトリリスの声。

 

 そんなこと、こっちが訊きたい。

 何故完全なる獣の幼体、後は生まれいずるのを待つばかりのこの身が。

 ビーストⅢ、殺生院キアラが一体なぜ。

 こうして赤子よりも不自由な身になるというのか―――

 

 ぱちん、と支配の錫杖で手を鳴らしたBBが微笑む。

 

「決まってるじゃないですか。()()()()です」

「処理、落ち?」

 

 立香の声に頷いて、彼女が軽く教鞭を振る。

 すると周囲に残されていた画面に映されたままだった砂時計が回り出す。

 90°ごとにカクリ、カクリ、と回る砂時計。

 ビジー状態を示すポインターの動作そのままの表現。

 

「オリジナルのSE.RA.PH(ムーンセル)なら問題なかったでしょう。あそこであれば、演算能力が不足する、なんて事態はありえません。ですがここはセラフィックス、ムーンセルを模して形成した疑似SE.RA.PH。当然の話ですけど、オリジナルほどの演算能力はないのです」

 

 カール大帝ですらオリジナルのムーンセルでは同化は六割が限度。

 だが彼はセラフィックスを容易に完全同化していた。

 それだけでも二つのSE.RA.PHの性能の違いが明確に分かるというもの。

 

 ごくごく当然の話だ。

 片や、たかだか地球の海に浮かぶ海洋油田基地を電脳化しただけの、オリジナルの構造を真似てカタチだけをそれらしく整えたSE.RA.PHのコピー。

 片や、全長3000㎞に及ぶフォトニック純結晶体であり、地球誕生からその全てを記録する超遺物(アーティファクト)。“七天の聖杯(セブンスヘブン・アートグラフ)”、ムーンセル・オートマトン。

 

 それらの演算性能が同等であるはずもない。

 

「今のキアラさんは獣の幼体としてパーフェクトモード。その上、地球の記憶という情報の全てを読み込み中、という状態。

 アナタという完全な電脳獣を支えるだけでも、このSE.RA.PHが持つ処理能力の半分以上が使われているはずです。なのに追加で地球の情報をアナタの中に全部どーん! してしまったので、今SE.RA.PHはその読み込みだけでいっぱいいっぱいなわけですよ」

 

 彼女は()()()()()()()()

 KP(カルマ・ファージ)を全て回収し、一切の瑕疵がない獣へと変貌した。

 その上で地球の持つ記憶情報を全て、その身に読み込んでしまったのだ。

 まともな状態ならば地球の全てなんて情報が入り切ることはない。

 

 だがビーストⅢは全知全能に等しい位階に至ることで、それだけの情報を読み込める頭脳体として()()()()()()()()。それこそ地球の全てを記録するムーンセルの頭脳体としてさえ、見劣りすることがない性能だと断言できるほどに。

 今の彼女を構成する情報量は、一個の惑星に匹敵する規模になりつつある。幼体にしてこれなのだ。最終的に成体に至った暁には、もはや何者にも阻めぬ究極の快楽天になるに違いない。

 才覚、資質、精神性、一体どれほどのものを備えていれば此処にまで至れるのか。どうあれ、彼女は文字通りの全知全能の(かみ)へと昇華している最中。その規模は人類の規格(スケール)では計り知れない天文学的な容量(サイズ)なのだ。

 

 ―――そう。こんな小さな体(セラフィックス)では、耐え切れないほどに。

 

 宇宙規模の快楽天に至った頭脳体(ソフト)

 それに見合わない、あまりにも小さすぎる構造体(ハード)

 当然の如く、その齟齬は致命的なエラーに繋がる。

 

「キアラさんという頭脳体は情報を受け入れようとする。けれどSE.RA.PHという構造体はもうとっくに容量限界、アナタの処理能力についていけず、オーバーフロー中です。脳は活動していますが、神経信号が全て渋滞を起こしていて、指一本動かせないのが今のアナタ。

 ―――当然の話ですが、電脳の獣であるアナタが持つあらゆる権能もまた、SE.RA.PHという電脳構造体によって実行、処理されるシステム。つまりSE.RA.PHの演算能力に余裕が生まれない限り、アナタはアナタが持つあらゆる機能を使えない」

 

 相手の五感全てに作用し色香に酔わせる獣としての“万色悠滞”。

 そして知性体に対して無敵の権能、“ロゴスイーター”。

 それらは発動すれば問答無用であらゆる知的生命体を天上解脱させる。

 

 だがそれらは全て、彼女という電脳の獣が正しく機能しているのが前提だ。

 彼女の体であり、権能の演算装置であるSE.RA.PH。

 それがシステムダウンしているいま、彼女の持つあらゆる権能は機能しない。

 

 もはやビーストⅢの規模を考えれば、SE.RA.PHの機能に余裕ができることはありえない。彼女が今後まともに体を動かせる機会があるとすれば、それは地球の核に到達した時。

 セラフィックスという自分が収まりきらない矮小な体を捨て、地球という巨大な構造体を自分の体にできた時だけだ。

 

「な、―――――ん、て……!」

「と、いうわけです。手間暇かけてKP(カルマ・ファージ)をぜーんぶ無事に返してあげた理由、お分かり頂けました?」

 

 喋るだけは何とかしようとしてみせる殺生院。

 だがどう足掻こうとできることはそんな程度でしかない。

 SE.RA.PHに負担をかける行動は何ひとつ取れない。

 

 それが分かり切っていて、ああ疲れた疲れた、とニヤニヤしながら肩を回すBB。

 それは殺生院に言っているのか、あるいはメルトリリスに言っているのか。

 酷く腹立たしそうに顔を顰めるメルト。

 

 ギリ、と唇を噛み締める。

 そのまま必死に、鉛のように重い咽喉を震わせるビーストⅢ。

 

「おか、しい……! そ、ん、なの―――おかし、いでしょ……うっ! あなた、たちが、どこに、立って、いると、思って、いるのです……ッ!? SE.RA.PH、の―――わた、くしの、からだ、の、うえ、の、はずです―――っ! わ、たくしが、うごけ、ない、のに……! あな、たたち、が、うごけ、るのは……おか、しい、でしょうっ!」

 

 ―――SE.RA.PH上で発生する全ては、SE.RA.PHの演算によって物理現象となる。SE.RA.PHにおいて、あらゆる情報に変化が発生するのは、SE.RA.PHという環境が正しく機能しているからだ。

 ビーストⅢの成長、肥大化によってSE.RA.PH自体が異常をきたしてしまったというのなら、この空間に存在する全てが影響を受けていなければならない。当然ながら、彼女の体の上に這う虫たちも、動けなくなるのが道理だろうに。

 

 だというのにどういうことか。動けないのは彼女ばかりで、BBも、メルトリリスも、ジオウⅡも、藤丸立香も、何の障害もなく動けているではないか。

 そう叫ぶ殺生院に対し、唇の端を吊り上げるBB。そんな彼女の反応と同時に、別の場所から渇いた笑い声が上がった。

 

「はは、―――そういうことか。だからあれが必要だった、ってわけか……いや、渡しといてよかった、本気(マジ)で。こんなとんでもない相手への切り札になるなんて、考えてもいなかったからな」

 

 倒れたままそう言って、笑っているのはシャルルマーニュ。

 満身創痍の彼は、何とか上半身だけを起こしてBBを見上げた。

 

「……そもそもアナタが原因とも言えるんですけどね」

 

 今度は本当に疲れたように、ぽつりと呟くBB。

 

 そもそも何故こんな酷く遠回りな手段が必要だったのか。

 もはやBBが想定したスタートがぶち壊され、ああなった以上推測しかできない。

 だがもう理由は分かり切っている。

 

 BBの想定では足りなかった。二つ分の世界の攻略は必須だった。

 その手間を必要とした原因はただひとつ。

 

 ―――カール大帝だ。

 殺生院を最大限敵視しつつ、カルデアからも一歩も退かない頑固親父。

 

 彼がカルデアと協力して殺生院をぶっ飛ばし、後顧の憂いを断った後に最終決戦するような柔軟な対応をしてくれればこんな必要はなかったのだ。

 ソウゴにも、メルトリリスにも、パッションリップにも、まったくもって駄々甘な対応をしていた癖に、そういうところでは無駄に容赦をしないあの頑固さが、こちらにこの結論以外を出させなかった。だから大帝と殺生院、二人の攻略はそれぞれ別の時空で、なんていう羽目になってしまったのだ。

 

 見上げてくるシャルルを見下ろし、肩を竦めるBB。

 自分でやれ、というジェスチャー。

 それに目を白黒させて、仕方なしに彼は痛む体を押して、聖剣を杖代わりに立ち上がる。

 

「ま、カール大帝(アイツ)のに比べちゃ随分と小さい宝具でさ。機動聖都(カロルス・パトリキウス)を見てきただろうアンタにとっちゃ、あんま驚けるもんじゃないだろうが。

 それでもこの局面、ちょっとは驚いてくれてもいいぜ……これぞ俺の、小さな夢」

 

 世界全てを同化しようとしたした大帝に比べ酷く小さなもの。都市とも呼べないような小さな前線基地。仲間と一緒に笑いあい、馬鹿しあい―――ただこんな幸福が、ずっといつまでもあればいい、少しでもこんな世界が広がればいい、と願っていた小さく儚き夢の跡。

 

 SE.RA.PHの外。そこに見える景色は既に暗い。

 地殻を突き抜け、マントルにまで到達した光景は既に水中のものではない。

 電脳化した昏い大地の中、その光景の中に出現するはひとつの要塞。

 

「宝具、“我が儚き栄光よ(シャルル・パトリキウス)”―――!!」

 

 ―――カール大帝ならぬシャルルマーニュの宝具。

 聖都に比べれば矮小な移動型空中要塞。

 要塞といってもベースキャンプ程度にしかならないサイズの移動基地だ。

 

 その姿がSE.RA.PHの外に現れたのを見て、殺生院が当惑した。

 

「あ、……んな、もの、が……い、ったい―――!」

「見ての通りですけど? SE.RA.PH外に位置する、SE.RA.PHに存在を依存しない、最低限の演算機能は備えた拠点です。SE.RA.PHとの時間合わせのため、落下の相対速度合わせには苦労したんですから。そしてもちろん、既にわたしのスタジオもあちらにお引越し済みです。スタジオのヴァイオレットちゃーん、聞こえますかー?」

 

 BBが呼びかければ、今まで砂時計を映していた画面が全て切り替わる。

 見た事のある、BBチャンネルの際に使用していたスタジオ。

 

 そこに立ち、虚空に浮かべたディスプレイを叩き続けてる長身の女性。

 アルターエゴ、ヴァイオレット。

 そしてその近くには暇そうにそっぽを向いているカズラドロップ。

 

 彼女たちの後ろに見えるのは、床に座り込み壁に背を預けたロビンフッド。

 酷く疲労困憊の様子に見える。

 今までのことから考えて恐らくは、引っ越し、とやらに酷使されたのだろう。

 

 そんな状況が画面に浮かべられて、困惑を深くする殺生院。

 

『シャルル・パトリキウス、稼働状態良好です。

 殺生院キアラを除く全員の生命活動、霊基グラフ、観測に問題ありません』

 

 俯いたままの作業が多く、僅かにずれた眼鏡の位置。

 それを掌で軽く上げて直しつつ、静かに告げるヴァイオレット。

 その言葉こそが、殺生院の疑問に対する答えだった。

 システムダウンしたSE.RA.PHで、SE.RA.PHに存在する情報体は誰も動けない。

 

 だから、()()()()()()のだ。いまBBたちはSE.RA.PH上に存在する情報体ではなく、シャルル・パトリキウスから命綱を繋げて降下してきた探査隊。

 沈没船の中で呼吸もできずもがいているキアラとは違い、ちゃんと水底で活動できるように準備して沈没船まで降りてきた他所からの来訪者だ。

 

「……これがシャルルの秘密?」

「あー、黙ってることはもう一個あるけど……ま、これが一番大きいヤツだ!」

 

 立香に問いかけられて、シャルルは苦笑を返す。

 

 彼はSE.RA.PHに降り立ち、真っ先にBBに接触された。

 その時に彼の素性、能力を聞いたBBから要求されたのが宝具の譲渡。

 この“我が儚き栄光よ(シャルル・パトリキウス)”の存在だった。

 

 流石にちょっと考えたものだが、まあいいかと思って渡しておいてよかった。

 そう言って痛みを交えた顔で微笑むシャルル。

 彼の様子を見て、満足げなBBを見て、僅かに首を傾げる立香。

 

(……BルートのBBは、いったいどのタイミングでAルートの事情と状況を知ったんだろう。Cルートになった今は両方の情報があるだろうけど、その前にメルトリリスから聞けない情報まで手に入れられる方法って……ううん、今はそれより)

 

 もう最悪、どうせ黒ウォズに聞いたんだろうで決着がつくどうでもいい疑問だ。

 既にこの事件は終わったもの、とばかりに緩く立っている黒ウォズ。

 彼がいる以上、考えてもあんまり意味はない。

 

 考えるにしても、それは全てを終わらせてからやるべきことだ。

 

「では、こほん。あー、あー……」

 

 BBが咳払いし、声の調子を整える。本来ならこれをやってからカメラを入れるところだが、今回は現場要員なので仕方ない。声を整え、気分を整え、浮かべた笑顔は100点満点。

 そうして口を開いた彼女は、大仰な動作で華々しく、くるりくるりと美麗に回った。

 

「BBぃ~~~チャンネル~~~~~っ!! スペシャルサプライズバージョンっ!

 さあ、やっと始められました! BBチャンネル出張特別スタジオ版! わたしがスタジオではなく現地にいる辺り、酷く急ごしらえの企画に見えてしまいますが、そこはそれ。スタジオの司会から現場リポーターまでマルチにこなすスーパーAI、BBちゃんの面目躍如ということでここはひとつ! そんなハイパー可愛い人気マルチAIとして、小悪魔から邪神まで幅広い悪だくみ(かつやく)に定評のあるわたしが、今回取材させて頂くのはこの人っ!」

 

 見下ろされた殺生院が顔を顰める。

 そんな動作しかできない彼女に、より笑みを深めるBB。

 

「自分の快楽を追い求める余りビーストⅢにまで駆け上がった脅威のスターダム! ドレスコードなんて知ったことかと着の身着のまま城に乗り込んで、勢いのままに国を滅ぼす灰かぶり(シンデレラ)。殺した狼から剥ぎ取った皮を被り、お婆さんまで自分が食い散らかす血濡れ(あか)頭巾。

 ―――さあ、どうぞ? 快楽天という新しい神様気分でいられたアナタ。魔性菩薩・殺生院キアラさん。地獄の底に帰る前に、今の気分を述べておく余裕はありますか?」

 

 問いかけに対して数秒、無言。

 だがしかし魔性菩薩はすぐに淑やかな笑みを浮かべ、彼女を見返した。

 

「―――ええ。うごけ、ない……ところ、を、英雄、英傑の、皆様方に、蹂躙、される。それもまた、一興……と、思っては、おりますけれど。ふふ、どうぞ、お気をつけ、くださいませ……?

 下手に、わた、くしの、情報を、削れば……私が、軽く、なって、しまうやも―――?」

「―――――」

 

 既に権能は機能しない。まともに動くことすらできない。

 殺生院キアラというビーストⅢの頭脳体は、完全に無防備な存在だ。

 だが、()()。あまりにも()()()()()だ。

 簡単に破壊し切れるような質量ではない。

 故に下手な攻撃を行えば、彼女という存在を中途半端に破壊することになる。

 

 そして、()()()()()()()()()()()()S()E().()R()A().()P()H()()()()()()()()()

 重すぎる彼女を支えられなかった体が、彼女が軽くなることで復活するのだ。

 そうなってしまえば、ビーストⅢは完全ならずとも権能を取り戻す。

 欠けることで性能が低下することは、今の彼女にとっては望むところ。

 

 未完成の状態にあっても彼女は絶対的な知性体キラー。

 動けるようになれば、ここからの逆転も至極容易なことである。

 そして地球の核に到達すればもうこんな煩わしい小さな体に悩むこともない。

 

 だから。ここに至ってなお、BBたちは追い詰められる。

 残り数分だろう時間制限の中で。

 ここに至るまで戦力を使い果たした満身創痍の自分たちが。

 ビーストⅢという大質量に対して、中途半端な傷を与えず。

 ただの一撃で完全に彼女を打倒する必要がある。

 

 宝具を発動できる戦えるサーヴァントなど残っていない。仮に解放できたとて、威力が足りないだろう。恐らくいま一番可能性があるカルナでさえ、ビーストⅢクラスの質量が相手では、その神槍が彼女にまともな傷を与える前に自分が消えるだろう。

 

 ジオウⅡはもう立ってさえいられない。彼は疲労に片膝をつき、マスクの下で息荒く喘いでいる。その上、ジカンギレードはここに至るため殺生院の胎の中。最大威力の必殺剣は、どう足掻いても発動できないのだ。

 

 時間は回復を待ってはくれない。

 地球の核に到達すれば、今は雁字搦めのビーストⅢは羽化に至る。

 こんな状況は些事とばかりに、当たり前のように覆されるだろう。

 

 では一体、誰がこの状況をどうにかできるというのか―――

 

 マスター二人が顔を上げる。

 此処に至り、託せるのは一人だけ。

 最後の最後に、彼と彼女が恃むのは二人にとってのサーヴァント。

 

「―――メルトリリス!」

 

 二つの声が重なって、少女の耳を叩く。

 認めたくないが、確かなこととしてその事実によって昂揚する体。

 

 黒衣を翻し、アルターエゴが爪先を立てる。

 床を削り、火花を散らす銀色の刃。

 最後の最後に訪れた、彼女が飛翔するための瞬間。

 

 それを見て、殺生院が眉根を寄せた。

 メルトリリスならば自分を削った側から吸収し、取り込める。

 id_es(イデス)“オールドレイン”の面目躍如。

 

 殺生院が傷つくと同時にメルトリリスという刃は肥大化する。

 傷つければ傷つけただけ威力を増す槍なら、威力が足りなくなることはない。

 

 ビーストⅢが動けるようになるのが先か。

 権能を取り戻す前に殺生院の(しんぞう)をアルターエゴが穿つか。

 全てを懸けた勝負は、快楽の獣と、快楽のアルターエゴに委ねられる。

 

「無駄、です……! 貴方の、器では、わたく、しを、受け止め、られない……!

 私を、取り込んだ、端から……貴方が、私に、染められて、いくだけです――――っ!」

「―――――」

 

 そんな言葉なんてどうでもいいくらい、脚が軽い。

 二人のマスターからの熱が届き、自分の中の何かを燃え上がらせる。

 そうして全霊の姿勢を取る少女の後ろに、もう一人。

 いや、もう四人か。

 

「おも、いくらなんでも重すぎる、でしょう……っ! だいえっと推奨、ですっ!」

「それは今ばかりは言わぬが花だ……! 嘘ではなく、余だってそのくらいの配慮はするぞっ! であるが確かに重いっ、重すぎる……っ!」

「言ってるじゃないか……! 気にせず頑張って……!」

 

 黄金の爪を床に引き摺り、押し戻されてくる愛憎のアルターエゴ。

 被虐の少女、パッションリップ。

 彼女は羞恥に顔を赤く染め、胸を震わせながら、我慢ならないとばかりに叫ぶ。

 

「う、腕ですから! わたしが重いのは、主に腕が原因ですから! 体重がそんな、たるんだ体のせいというわけじゃないですから!」

 

 清姫、ネロ、ブーディカと。女の細腕で強引に押し出されてくる少女。

 そんな間抜けな光景に小さく微笑み、メルトリリスは更に深く沈んだ。

 

 射出装置(カタパルト)は準備完了。

 後はただ、今度は逃げるためではなく―――完全勝利するために。

 マスターたちに、完全勝利をくれてやるために、羽搏いてみせればいいだけだ。

 

 ふと、彼女が殺生院に対して口を開く。

 

「―――アナタがついでのように始末したサーヴァント、そのひとりからの言葉。私に向けられたものだったけれど……せっかくだから、アナタにあげるわ」

「なに、を……?」

 

 いつぞや邂逅を思い出す。人を愛する者を思い出す。

 怪物的でありながら、深く他人を愛していた者。

 怪物そのものである自分や、殺生院などとは相容れない愛のカタチ。

 

「アナタのその過食(あい)は破綻している。それを哀しいことだと思えるのは、ヒトがヒトであるが故のこと……だから、怪物は赦しを得るための煉獄に落ちることさえ許されず、ただその咎を抱えて地獄に落ちるが定めである―――ってね」

 

 自分たちの行先は地獄にしかない。

 怪物に変生した時点で、天上解脱など夢のまた夢。

 菩薩などという誇大広告を掲げていないで、怪物は怪物らしくするのがいい。

 顔を顰めた最低最悪の女に対し、最後に投げるのはキラーワード。

 殺す前に叩きつけてやるに相応しい、殺し文句という奴だ。

 

「怪物になったアナタにだから愛を捧ぐ偏屈家なんてここにはいない。大人しく、寂しいままに、ひとりぼっちで、無間の地獄に落ちなさい、殺生院―――――ッ!!」

 

 メルトリリスが床を蹴る。カタパルトが作動する。

 空間が圧縮されて、その反動によって光速にまで加速する水の槍。

 回避などできはしない。防御などできはしない。反応すらできやしない。

 その一撃の威力、速度とは別の話で。

 魔性菩薩は身動ぎ一つできないまま、その槍の直撃を受けるしかないのだから。

 

「“その愛楽は流星のように(ヴァージンレイザー・パラディオン)”――――――ッ!!!」

 

 光を超え加速した銀の流星。その一撃が獣の胴体に直撃する。

 肌を切り裂き、肉を貫き、しかしそこで止まる魔剣ジゼル。

 まともな相手であれば、この直撃だけで塵一つ残さず蒸発しているだろうに。

 当然、まともでもなければ真っ当でもないビーストⅢはそうはならない。

 

 メルトを受け止めた殺生院。

 彼女の足が床を削りながら、徐々に押し込まれていく。

 そのように勢いがほぼ殺されるほどに、今の彼女は重いのだ。

 

 反動で罅割れていくメルトの脚。

 それを埋め立てるべく、彼女の“オールドレイン”が殺生院を栄養に変えていく。

 湖に灼熱のマグマを流し込むような自傷行為だ。

 だがそれでもやらないわけにはいかない。やることを戸惑う理由もない。

 

 蒸発していく白鳥の湖。

 その水が枯れ切る前に、この魔人の命脈を断ち切ってみせるだけ。

 

(―――不可能ですよ、メルトリリス。貴方と今の私では質量が桁違い。貴方如きのドレインでは、私が動けるようになるまで質量を減らすことはできないでしょう。

 ですが同時に、貴方が私の命を断てる刃に至ることもできない。その前に、貴方という意識は私という存在に塗り潰され―――っ!?)

 

 メルトリリスの膨張が速い。力の増大が速過ぎる。

 明らかに殺生院がドレインされた分以上に、彼女という刃が鋭くなっていく。

 その上、メルトリリスという存在が薄まらない。

 

(何故、いえ分かり切っている……! カール大帝―――ッ!!)

 

 メルトリリスの内部、彼女が取り込んだカール大帝の霊基。それが未だに機能し続けている。溶かされていないのだ、ずっと。取り込まれたその時から。

 彼はメルトリリスの中でカール大帝としての霊基を保ったまま、その能力を行使し続けている。即ち“天声同化(オラクル)”。彼女は常にその後押しを受け続けてきていた。それが彼女の常軌を逸した強さの理由。彼女は自分がやりたいこと、望んだことに向けて羽搏き続ける限り、カール大帝という聖なる王の加護をその身に受け続けてきた。

 メルトリリスが殺生院をドレインした分だけ強くなる、ではとても目標まで届かない。だがメルトリリスという(せかい)が広がった分だけ、支配地域の拡大によるカール大帝の“天声同化(オラクル)”による追加の性能向上がかかるのならば―――

 

(っ、いえ、これは……! 届いてしまう……! 私が権能を取り戻す前に、メルトリリスの力が私の命を溶かせる領域に―――!)

 

 だがその前に消えるはずだ。性能の向上速度が限界を超えたところで、そのために殺生院を自分に溶かしこまなければいけない事には変わりない。そんなことをすれば、メルトリリスが自我を薄められて消えるという事実も変わらない。そうでなければいけないのに―――!

 

 自我の溶解、という結末を大帝が許すか?

 自分らしく生きることを何より夢見た男の力の全てが、自我の塗替えを許すのか?

 

 ―――いいや、許さない。

 メルトリリスに限らず、そんな結末を許すような男ではなかった。

 

「そん、な、まさか―――! ここまで、で……わた、くし、が……!?」

 

 溶かされて、吸収される。

 その分だけメルトリリスが力を増す。

 取り込んだ分、それ以上に“天声同化”が力を増幅する。

 

 駄目だ、どう足掻いても間に合わない。

 自分の機能復旧より、メルトリリスの拡大の方が遥かに速い―――

 

「カール、大帝……! っ、メルト、リリス―――――ッ!!」

 

 徐々に押し込まれる速度が加速していく。

 殺生院が軽くなっていく証明であり、メルトリリスが重くなっていく証明。

 力関係が逆転することは流石にありえない。

 ただ指一本動かせない全知全能の心臓に、限界以上に研ぎ澄ました針で穴を開けるだけ。

 

 押し込むメルト、押し込まれていく殺生院。

 二人の姿が、膝を落としているジオウⅡの横を過ぎていく。

 視線を交わすことはなく、言葉を交わすこともなく。

 

 しかしその瞬間に彼女は小さく笑い、更に脚に力を込めた。

 

「これ、でぇ―――ッ!!」

「――――――ッ!?」

 

 パキン、と。致命的な音がする。

 何の守りもない魔人の核に、逆襲の刃が届く音。

 

 動かなかったはずの体から力が抜けていく。

 剥離していく全知。崩壊していく全能感。

 取りあげられるSE.RA.PHという構造体。

 電子の海の支配者が、ただそこに漂う物体の一つに成り下がる。

 

 と、その瞬間に殺生院が体勢を崩した。

 重みを失った彼女には、メルトの勢いを支えきれない。

 二人の決着の地は管制室跡地。

 かつて彼女が敗北し、今一度のために飛び立った場所。

 

 ―――背中から倒れ込む殺生院は、ちょうど穴の開いた場所に倒れる。

 パッションリップが開いた、天体室にまで開通した孔。

 そこを埋め立てていた魔神の塊は残っていなかった。

 殺生院がSE.RA.PHから切り離された以上、あんな膨大な魔神は維持できない。

 

 その勢いのままどころか更に加速しつつ、天体室へと落ちていく二人。

 二人纏めて相当の距離を落ち、床面に叩きつけられる。

 瞬間、勢い余って殺生院の胎を突き破り剣が飛び出していった。

 

 カラカラと床を滑り、転がっていく剣。

 ダブルウォッチの装備されたジカンギレード。

 そんなことを気にする余裕もなく、力無く床に横たわる殺生院。

 だが死に体なのは殺生院だけではない。

 

 落下した瞬間に、殺生院に突き刺さったメルトの脚が膝から折れる。

 砕け散り、硝子片のようにぶち撒けられる銀色の脚の残骸。

 脚を失った少女が木の葉のように吹き飛んで、床に落ちて転がった。

 

 勝者はメルトリリス。だが彼女も限界を超えていた。

 カール大帝の“天声同化”が覆しただけで、無理に無理を重ねた結果だ。

 少女は意識を喪失し、完全に沈黙している。

 

 敗者であるビーストⅢはその構造体を失い、頭脳体の核を砕かれた。

 消滅するのも今や時間の問題と言っていいだろう。

 だが、しかし。だがしかし―――

 

「ふ、うふふ、ふ――――」

 

 女の体が動き出す。

 もはや立ち上がる力もなく、這う事でしか動けないような状態で。

 角の折られた頭を上げ、彼女は目の前に倒れるメルトリリスを見据えた。

 

「まだ、です……まだ……!」

 

 ずるり、ずるり。

 震える腕で体と白衣を引きずって、女は徐々にメルトに迫る。

 

「魔神で造った……わたくしのからだは、もはや、これまで……ですが、元はわたくしからサルベージした存在である、あなたがここに、いる……!

 幸い、ここは天体室……あなたの体を奪い、あなたのウィルスを、わたくしのものとすれば、天体室を同化し、SE.RA.PHは再び手に入れられる……!

 そればかりか、あなたの中のカール大帝の霊基を得れば、あなたたちの観測を維持をしている、あのカール大帝の宝具……あの空中要塞も、わたくしが乗っ取ることができ―――!」

「呆れ果てるな。曲がりなりにも菩薩の位階に至った女、それがこうまで生き汚いとは」

 

 ガチャリ、と。わざとらしく鳴らされる鉄の音。

 弾丸が装填される、そんな音を鳴らすサーヴァントは多くない。

 そして何よりこの声。

 聞き覚えのある皮肉げな声。この声の持ち主となれば、ただ一人。

 

「アー……チャー……っ!?」

 

 愕然としながら振り返れば、そこには満身創痍の男の姿。全身に孔を開けられたあの時の姿のまま―――否、傷口の内側から刃金が生じ、傷を埋め立てている。それで血を止めているのか。どちらにせよ死体のようなものには変わるまい。その状態で生き延びていた、とでもいうのか。

 

 ありえるはずがない。放り捨てた後も生きていたのはいい。

 だが彼女が全能を封じられる前は、この空間は魔神の巣窟だったのだ。

 あんな体のまま、生き永らえていることなどありえない。

 

 そうして驚愕を露わにした彼女の視界に入る、彼の更に奥にいる影。

 この雰囲気に合わない可愛らしい着ぐるみを被ったナニカ。

 そんな姿を見つけて、殺生院はなおさらに愕然とした。

 

「トラ、パイン……!? いえ、神霊サーヴァント……! 何故、ここに」

 

 いいや、ここにいたっていい。時空統合の後になら、どこにいようが知ったことではない。だが今ここに居合わせているなんて、まるで彼女がアーチャーを救ったようではないか。

 だがそれはありえない。彼女、トラパインに降りた神霊はAルートのみの存在のはず。Bルートにはあんなものは存在していなかった。だから時空統合よりずっと前、Bルートでここに放り捨てられたアーチャーを救うなど、彼女には不可能なはずだ。

 

 ガチン、と。またもわざとらしく音を立て、撃鉄が起こされる。

 

 ―――それまでしていた思考を止める。

 もはやどうでもよいことだ、と。

 目を瞑り、小さく嗤い、そうして彼女は現実へと回帰した。

 

 無駄な思考を捨てた彼女は、再び目を開いてアーチャーを見上げた。

 

「……珍しいこと。今度は(わたくし)の許に間に合ったのですね、貴方は」

 

 男が酷く顔を顰める。

 今の彼女はこの男に詳しくないが、まあどういうものかくらいは分かる。

 自分と、この男の活動時期。重ね合わせれば、まあそういうこともあるだろう、と。

 図星なのだろう、分かり易い男だ。

 

「間に合った? つい数秒前の自分のことさえ忘れたのか、お前は。そちらが勝手に死んでるオレの前に落ちてきただけだろうに。

 まったく、よく落ちる女だ。よほど意識を(ソラ)に飛ばしたいと見える」

 

 男が酷く落ち着いた声で、女に銃を突き付ける。

 ビースト相手ならば玩具のようなものだろう。

 だが瀕死の女にトドメを刺すだけならば、十分以上の威力がある。

 

「仮にも菩薩。糸を垂らすに留めておけばいいものを、わざわざ踏み躙ろうと足を持ち上げるから、こうして掬われる無様を晒す羽目になる。挙句の果てには、地獄から這い上がってきた怪物に引きずり降ろされ、最下層まで一緒にランデブーときた。実にお前らしい顛末だよ。

 快楽天とやらにはなり損じたようだが、笑いの神は引き込んだらしい」

「ふふふ……笑ってしまうといえば、確かに。奇縁とはこういうものかと笑えてきますわ」

 

 適当なサーバーを足場に、しゃがんでこちらを眺めている着ぐるみ。その顔と同じ名前を借りたことも、いつかあったか。

 彼女はそういう存在だ。ムーンセルが選んだ、聖杯戦争の参加者を一時管理させるに相応しい立場と人格の人間だ。であれば、やはりそういうこと。奇縁に奇縁、これだけ重ねれば必定か。

 

 メルトリリスさえ置き去りに、真っ先に殺生院の名を殺しにきたのだ。恐らくは自分と彼の成り立ちは余程、関係が深いのだろう。ご愁傷様、と火に油を注ぐのも悪くはないが。

 しかしまあ。()()であればまあ、納得してもいいだろう。

 

「……私を殺すのがメルトリリスの我儘だなんて、あまりにも我慢がなりません。ですがそれを為すのが人間(あなた)兇弾(しゅうねん)であればまだ、まだ報われるというもの」

 

 銃爪(トリガー)が軋む。殺生院の最期が目前まで迫る。

 ここは地獄の底の底、もうこれ以下に落ちぶれるところはどこにもない。

 彼が弾丸を放てば、間違いなく標的にまで届くだろう。

 

 ―――最期の瞬間、女がにこりと妖しく微笑んだ。

 

「おめでとうございます。やっと届きましたね、エミヤシロウ」

 

 銃声。ただ1発、轟く炸薬の破裂音。

 ヒトを殺すのに十分だが、化け物を殺すには物足りないモノ。

 

 ただそれだけで、虫の息すら消えていた。

 偽装しようもなく、女はその場で完全に死んでいた。

 地球の核を目指していた怪物だったもの。

 それは全知全能に手をかけた神に等しい女だったとは思えぬほど、あっさりと消え失せた。

 

 ……死に体なのは男も同じ。

 串刺しにされた時点で死んでいて、そのまま魔神に溶かされるだけだった。

 それを横からあの珍生物に捕まって、今までずっと闇の中に隠されていたのだ。

 

 振り向けば、着ぐるみはしかと頷いてみせる。

 

「うむ。このジャガー、確かにこの決着を見届けた! 私の中に燻るタイガーなソウルもそうだそうだと言っている! 気がする!

 というわけで。何となくの目的も果たしたことだし、ジャガーマンはクールに去るゼッ!」

 

 両手を突き出しサムズアップ。

 空気の読めない訳の分からん神霊は、そのままにっこり笑顔で消滅していった。

 恐らく借り受けていた肉体は元の場所、通信室に返還されたのだろう。

 本当に訳が分からない。だがまあ、神霊とはそういうものだと思えばいいだけか。

 

 それを見なかったことにして、男は力の抜けた手から拳銃を取り落とす。

 そうして、自分を嗤うよう鼻を鳴らして。

 彼もまた積み重なった砂が崩れるように、光の粒子となって消滅していく。

 

「……ハ、知らん()だな。それに言ったはずだぞ。オレが届いたのではなく、貴様が無様にも地の底まで堕ちてきただけなのだ、と。

 ―――邪道に堕ちた魔性菩薩には似合いの結末だろう。蟲の巣穴に垂らされた蜜のように、この星が終わるまで地獄の信者(もうじゃ)に集られていろ。殺生院祈荒(キアラ)

 

 ―――その場で動いていた者たち、全てが消え失せる。

 

 天体室に訪れる、先程までの死闘が嘘のような静寂。

 残されたものはたったひとつ。

 飛ぶことに疲れて湖畔で翼を休める鳥のように、静かに眠るメルトリリスだけだった。

 

 

 




 
 次回エピローグ。
 こいついつも事前に宣言した話数で終わってねえな。

 この瞬間、SE.RA.PHから除外されている「シャルル・パトリキウス」の効果発動!
 フィールド魔法ゾーンにある「BBチャンネルスタジオ」を除外することで、このターン自分フィールド上のエクストラリンク状態にあるサーヴァントは、相手のカード効果を受けない!
 これこそがハワイの崇高なる力……底知れぬキラウェアの火口へ、沈め!
 
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