Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー 作:アナザーコゴエンベエ
ぼんやりと滲む視界。
失われていた自分の意識が浮上してくる感覚。
ゆっくりと、メルトリリスはそこに帰還する。
―――そして開眼一番、目にしたのは最悪の顔。
面倒そうに彼女を見下ろし、手を伸ばしている童女。
カズラドロップの顔に他ならなかった。
「カズ、ラ……アナタ、何を……!」
「ビーストⅢの構成要素をたっっっぷりと同化した、カール大帝の霊核を貴方から抜いて上げてるんですよ。感謝はされても文句を言われる筋合いはありません」
そんな
自分とカズラドロップとの関係は最悪だ。しかしそう言われてしまっては文句のつけようもない。治療、と言える行為を施されているのは自分の方だ。
不満げに、しかし大人しく体を横たえたままにするメルトリリス。
「アイツ、は」
「消えました。残っているのは、それこそ貴方がドレインした部分だけです」
本来ならばそれと一緒にメルトも消えることだったろう。
だが彼女の中の大帝は最後まで彼女を守った。
不必要な部分、ビーストの残滓を全部自身に同化し、取り込んだのだ。
これであればカール大帝の霊核を抜き出すだけで、メルトリリスは元に戻る。
その事実を理解し、しかし納得できないと顔を顰める。
上にいた者たちは全員天体室に降りてきたらしい。
周囲のコフィン、人体実験の痕跡も確認したのだろう。
あまりいい雰囲気ではないが、まあ仕方ないことだ。
メルトには関係ないことでもあるし。
目を瞑り、顔を逸らしたメルトの耳にガウェインの声が届く。
「……つまり、あの声はこのコフィンに収められたマスターのものだった、と?」
そう言えばそんな話もしていたっけか。
自分の聞いた声がここのマスターが発した断末魔だなんて納得できない、と。
「……私は納得がいきましたが、ガウェイン卿はそうではないと?」
トリスタンはその事実に疑問はない、とする。
彼が周囲を見渡して、他のサーヴァントを確認してみせた。
タマモキャットも微妙に沈鬱そうに尻尾を下げている。
彼女は確かに悲鳴を聞いた、ということだろう。
よく覚えてないとばかりに首を傾げるエリザベート。
彼女のことはこっちも忘れよう。
カルナは無言で肯首を返し、トリスタンに同意を示す。
未だに横になっている鈴鹿御前も
しかし何故か、軽く揶揄うような笑み。
ネロも、フィンも、アタランテも、清姫も、ブーディカも。皆が揃ってその答えに何か違う、というような表情。
そんなサーヴァントたちを見て、立香は寝転んでいるソウゴの隣に座り、天体室の掌握に取り掛かっているBBの背中を見た。
「ねえ、BBはいつAルートのこと知ったの?」
「―――――」
ちらりと振り返り、少し悩むような様子。
彼女が視線を向けたのは、どうやらメルトリリスらしい。
見られた当人はそっぽを向いていて気付いていないが。
「メルトリリスから聞いたんですよ」
「BBが立てた作戦に必要な情報、全部メルトリリスから?」
「そういうことなら、シャルルマーニュさんからも聞きましたよ?」
良い聞き方してきますね、と笑顔を浮かべるBB。
話を振られたシャルルはいやいや、と少し口許を歪めた。
続けざまに立香から質問が飛ぶ。
「
「―――センパイの思い描いたとおり、だと思いますよ?」
「やるじゃん、アンタ。その反応、もう分かってます、って宣言してるようなもんだし? かーわいそー……じゃなかった、かーわいー」
辛そうに、しかしけらけらと咽喉を鳴らす鈴鹿御前。
彼女の反応に訝しげな反応を見せるサーヴァントたち。
同じように、それよりいやらしげにクスクスと笑うカズラドロップ。
童女はメルトリリスを見下ろしながら、愉しげに彼女に声をかける。
「ですって、褒められていますよ。良かったですね、メルトリリス」
「はぁ?」
「―――それはそうとアンタが私の話に乗ってきてんじゃないっての。ぶっ殺すわよ」
唐突に放たれる鈴鹿御前の殺意、それに肩を竦めるカズラ。
この二人の不仲は自分にもよく分かる。
機会があればスズカと手を組み、首を捕りに行ってもいいくらいには。
それはそれとして一体何の話をしているというのか。
一連のやり取りを見て、鷹揚に頷くタマモキャット。
彼女の視線はついとメルトリリスへ向かう。
「ふむ……つまりは、そういうことか」
「何よ、何か分かったとでも言いたげね。なら教えなさいよ」
正直どういう話題かも理解していないのだが、エリザは言う。
発狂度合が高かったが故に、聞いたマスターの声も憶えていないのだ。
ならば違いなど気にかけようもないだろう。
「いやー。先輩の気性を考えるに、黙っておいてあげた方が……」
「つまり汝はその点はBBには話したが、我らには分かっていて黙っていた、と」
「あー……っと」
アタランテの追求に答えを迷い、言葉を詰まらせるシャルル。
彼の様子を見て顎に手をあてがい、したり顔でフィンが微笑んだ。
「なるほど、おおよその流れは掴めた。BBの言うシャルルマーニュとはつまり、カール大帝というわけだ。それほどの
BBがシャルルマーニュに聞いた、というのは嘘ではない。だがそれだけでイコール今この場にいるシャルルに聞いた、ということにはならないのだ。シャルルとカール大帝が同一存在である以上、カール大帝の発言をシャルルの発言だと言い張ることは嘘にはならない。
「ふむ! ……つまりはどういうことだ?」
「さあ……」
ネロとブーディカが揃って首を傾げる。
何やら分かったように話を進めているが、何を納得したというのか。
「私が推察するに、まず大前提として我らが聞いた声は、この天体室で眠ったマスターたちが発したものではない。そもそも別の場所から届けられたもの、ということになる」
「……と、言いますと?」
清姫から促されたフィンは、しかし言葉を止めて立香に目配せする。
彼女の口から話した方がいい、ということだろうか。
確かに、鈴鹿御前に対して言及する必要もある。
鈴鹿から酷く嫌われているフィンよりは、立香からの方がいいか。
「……BBは言ったよね、ここではあくまで時間も情報のひとつだって」
「言いましたねぇ」
「じゃあ、ここから
その物言いにサーヴァントたちが眉を顰める。
直後に視線を集める鈴鹿御前。
天魔の姫としての彼女の視界は、サーヴァントどころではない。
あらゆる並行世界を観測するムーンセルに匹敵する広さ。
殺生院がゼパルを通じて手に入れたかつての戦いの舞台。
魔神とサーヴァントが入り乱れる最終決戦。
それを記録している者がいたことで、彼女の視界はそこにも伸ばせた。
「―――時間神殿か」
額に手を当て、アタランテが呟く。
人理焼却最終局面、時間と空間から隔離された終局特異点。
流石に普通ではそこまで眼が届かないだろう。
だが、ゼパルがいた。ゼパルだった殺生院がいた。
彼女に心の中に潜まれていた鈴鹿には、その情報の残滓があったのだ。
位置情報が明確ならば後はそこまで視界を広げるだけ。
故に彼女ならば、その光景を観ることができた。
「そこが真実、時間にも空間にも囚われず存在している場所なら、観測することで
軽い口調でそう言うBB。
時間神殿の存在時間は紀元前1000年から2016年。
この時間にはもはや存在しないところだが、時間から外れた電脳空間ならば。
どちらも真っ当な時間から切り離された空間同士、多少の干渉はありえる。
ほう、と息を吐いて清姫が頬に手を当てた。
「……つまり、
きりりとした表情で強く頷いてみせる少女。
どうしたものかとブーディカがアタランテを見る。
知らん、とアタランテがそっぽを向く。
だったらカルデアでの記憶があるのも分かる。
カルデアの英霊召喚システム、フェイト。
あそこに登録された霊基も参照せず、記憶を持ち越せるわけがなかったのだから。
そのルールを覆したのが、時間神殿との干渉だ。
時間にも空間にも囚われず、あらゆるサーヴァントが集った決戦場。
そこに存在していた霊基を参照しての召喚。
「清姫さんの運命は知りませんが、その通りでしょう。鈴鹿さんが時間神殿を観測した状態で、Bルートにおける最後の128騎のサーヴァント召喚が実行された。その結果として、時間神殿から連続性を保ったサーヴァントが何騎か召喚されてしまった、と」
「そりゃあ運が良かった! じゃなきゃこの大逆転も上手くいってなかったろうしな!」
うんうんと頷き、笑って言い放つシャルルマーニュ。
実際こうならなければ上手いこといったかどうかは分からない話。
ではあるが、よく言う、と言いたげなBBの視線を受ける少年王。
「それって順番が逆転してない? 鈴鹿御前が時間神殿を観測できたのはAルートの最後、同じくBルートでも二つが交わるちょっと前でしょ? アタシたちに繋がる原因になるのはいいとして、召喚される時に使える情報じゃなかったんじゃないの?」
ブーディカがそれも把握していそうな立香に顔を向ける。
さっきから誤魔化そうとしているシャルルからして、彼も理解しているのだろう。
だが直接訊いたところで答えてくれそうにはない。
であれば、自然と彼女に問いかけることになる。
少しだけ戸惑うように声を詰まらせ、しかし立香は答えた。
「だから、
「―――なるほど。だから我らが聞いた声の印象が違った……ガウェイン卿たちがここにいるマスターとは別の声を聞いて召喚に応じた、とはそういうことですか」
納得するトリスタン。彼の視線が横になっているメルトに向かう。
その視線でエリザベート以外が理解した。
言っちゃった、と珍妙な表情をみせるシャルルマーニュ。
Aルートを飛び立ち、光の速さを越えて、時空の狭間を越えて、世界線の移動を成し遂げ、Bルートに着陸した。そんなことをやったのはただひとり。
つまりAルートで観測された時間神殿まで声を届けながら、Bルートにまで召喚のための縁を繋げる者なんて最初からひとりしかいなかった。
「……そう。メルトリリスがBルートに着地したと同時に天体室によって行われた最後の召喚。これにより時間神殿から皆さん方が召喚されることになりました」
鈴鹿が観測していた時間、空間共に完璧だったのだろう。
ちょうど天体室のコフィン、マスターたちの棺が起動する瞬間に彼女はやってきた。
結果として、召喚枠にカルデアのサーヴァントが割り込んだのだ。
そこまで大人しく聞いていたメルトが頭を持ち上げ、嫌そうに言葉を挟む。
「……ちょっと。さっきからなに意味の分からないことを私に押し付けてるのよ。私はそんなことしていませんけど?」
「まあ、先輩の方にやった気がないのはそうだろうけどなぁ」
言われてしまったからには仕方ない、と。
シャルルマーニュは肩を竦めながら腕を組んで、首を軽く横に振った。
「―――“
これはアナタが己の意志・信念に従う行動をとり続ける限り、絶対的なバックアップを行っていました。そしてそれだけではなく、メルトリリスの意志を
カズラドロップの腕がメルトリリスから引き抜かれる。
彼女の中にあった異物を抜き出す指先。
データの結晶と化したそれを見せつけるようにしつつ、愉しげに笑う童女。
その嫌らしい笑みを見て、メルトが酷く表情を顰めた。
「世界の壁を渡る時、“あの人を助けたい、サーヴァントとしての使命を果たしたい”。本心でそう思っていたのでしょう? だから、それが光速を超えたアナタから
―――結果的に。状況も味方し、その情報は時間神殿に届いた。そういうことです」
「――――――――」
本来は観測しただけでは大きな干渉など起きないだろう時空。時間神殿に対し、光速を超越したメルトリリスから発信される情報として“
“己のマスターとして時間を共にした、彼を助けたい”。その目的を果たすため、想いを共有できる―――同化できる力を呼び込むために。
そういう意味で時間神殿にいたカルデアのサーヴァントならば、呼び込めない筈もなかった。メルトリリスが目的としたことは、彼らにとっても同意するに迷いなきことだったのだから。
その話を聞いて、なるほどとガウェインが鷹揚に頷いた。
「なるほど、疑問が氷解しました。つまり我らの聞いたあの救いを求める切なる乙女の声は、レディ・メルトリリスが発したものであった、と」
「―――は?」
そういう手合いの声だと思っていたのだ。
悲鳴だ、断末魔だとばかり言われていたが、彼にはまったく納得できなかった。
あれは紛れもなく、救いを求める乙女の声であったと思う。
ようやく納得がいったと晴れ晴れしい顔を浮かべる太陽の騎士。
「まあそういうことで、わたしの情報源もそこからですよ。その子から逆流してきた同化情報を、シャルル・パトリキウスの作戦室で、わたし自身をヴァイオレットに解析させることで算出しました。あの宝具自体のおかげでカール大帝の霊基情報はある程度得られたので、そこはそう難しいものでもなかったですね。
そしてその情報を元に今回の作戦を立案。教会でメルトリリスに接触し、わざとキアラさんにも情報を流して、あのような行動を起こすように誘導した、というわけです」
そこで問題になったのが立香側の戦力だ。メルトリリス本人は言わずもがな、カルデアのサーヴァントまでメルトリリスによって追加されていたのだ。
メルト相手に時間を稼ぐならば、リップだけでどうにかなるはず。などという甘い目論見は一瞬で砕け散った。結局、時間稼ぎの手段にどこからともなく潜り込んできた黒ウォズの協力を得て、プロテアをああして運用する羽目になったのだ。
その過程でBルートのBB/GO―――つまりムーンセルの派遣したBBとは違う、キアラがサルベージしたBB。彼女とシャルル・パトリキウスでの一大決戦があったのだがそこはそれ。
今となってはどうでもいい話だろう。緑茶バリアーの存在が勝敗を分けたギリギリの戦いだった、とでもしておこう。キアラの目を誤魔化すためとはいえ、二人でリソースの分配などしている余裕がなかったのだ。
「ちなみにシャルルは……」
「―――俺はまあ……召喚されたこと自体、厳密にはアイツが意図したことかどうかも分からないからな。俺個人として予想するなら、多分無意識だったと思うぜ?」
カズラが手にした霊基の結晶を見ながら、少年はそう言う。
カール大帝が意図してシャルルを配置したか、と言われるとそうではないと思う。
シャルル・パトリキウスは役に立ったが、それを意識していたかというと微妙だ。
ただあの男のことである。ただ、自分のことである。
誰かを救うために立ち上がった少女の、ひとりぼっちの旅立ち。
怪物のままに人間と折り合いをつけた女の子の頑張り。
ただ自分の夢に重ね合わせて、入れ込んでしまうには十分な価値がある。
そう。自分はあの時、自分の夢の先に、あの光景が欲しかったのだ。
―――ああ、そうだ。自分はただそうであって欲しかった。
そんな風にヒトの中に手を引いて、同じ場所に入れてあげたかっただけ。
だからその光景を守るのは、そこから先を守るのは、
いつか夢に見た皆救える聖なる騎士、物語に謳われる勇士たちの王。
欲しかった
ただ二人の
結果として、少年王は送りだされた。
気合の入ったことに、メルトに与えた霊基とは別口として。
居城にいたとはいえ、霊基を失った状態でここまでやるのだから恐れ入る。
しかし、どうしてそこまで気合が入ったかはよく分かる。
そりゃあそうだろうとも。
悪鬼に追い詰められた少女を救うだなんて、そりゃあもう。
騎士に用意された、一番カッコいいシチュエーションなのだから。
「……ま、そっちはもうどうでもいいことさ。アイツは意外でもなく結構ひねくれてた、ってだけの話だからな。
それより悪い、メルト先輩。一応黙っておこうとは思ってたけど、普通にバレた」
「な、―――――」
彼には初見からメルトの中のカール大帝が見えていた。彼女がカール大帝を通じ“声”を出していた、ということも知っていた。
ひとりでやりたがるだろう彼女が、それをバラされるのは嫌だろう。そう思って黙ってはいたが、もう隠しておける状況ではない。
いやはや、と首を横に振るシャルルマーニュ。
彼を見上げながら、メルトリリスがカタカタと震え出す。
「まあおかしい、そんなに震えてしまって。どうしたのですかメルトリリス? ええ、何を隠すことがあるのですかメルトリリス? いいことだと思いますよ、頑張ったんですものね? マスターのために。完璧なサーヴァントであろうと一生懸命だったんですよね?
アナタがAIとして完璧だとは微塵も思いませんが、サーヴァントとして完璧であろうとした意志を私はもちろん尊敬しますよ……ふふ」
くすくすくすくす、袖で口許を隠して厭らしく笑うカズラドロップ。
殺したい。
一度言葉を詰まらせて、しかし彼女はすぐに息を整えて吹き返した。
「ええ、その通り! どうあれサーヴァントになった以上、サーヴァントとして完璧な仕事をする。それが当然の話なので、きっとその意気込みが出ただけ!
言っておきますけど、本気で切実に誰かのために助けを呼ぶとか、そんな間抜けなことなんてした覚えはありませんから―――!」
誰に言っているのか。
少なくとも彼女の視線は寝転がっているソウゴに向いている。
それをソウゴの近くで座り、聞いていた立香とリップ。
彼女たちがきょとんとしつつ顔を合わせ、転がっているソウゴを見る。
そうして何とも言えない顔で、メルトに向き直った。
「ねえ、メルト……」
「ソウゴ寝てるよ?」
「……―――ああそうですかっ!」
疲労困憊、満身創痍、物理的に死亡までしていたのだ。
とっくに体は限界を超えて、睡眠に入っている。
そんな事実を前にして、メルトリリスが余計に声を荒げて顔を背けた。
カズラドロップはその光景を最高に面白い、と。
馬鹿を見る顔でそれをにやにやしながら見てきている。
殺したい。殺そう。
掠れた声でからから笑う鈴鹿御前。
そこでどしんと床が揺れ、彼女はその笑い声を止めた。
「地球の核まで迫ってます。着弾まで後3分、と言ったところですか。そろそろ限界でしょうし、さっさとSE.RA.PHを浮上させますね。
カズラドロップ、アナタは帰還してヴァイオレットの補佐を」
「ええ、分かりました。ではメルトリリス、ご機嫌よう?」
彼女は抜き出した霊核を手に立ち上がる。
すぐ傍に生えてくる巨大な腕。アナザーディケイドになったキングプロテアの腕だ。どうやらまた変身できるようになったらしい。カズラを掌に載せて、虚数に沈んでいく腕。ヴァイオレットの補佐、ということは恐らくはシャルル・パトリキウスに向かったのだろう。
アナザーライダーってほっといていいのかな、と。立香が思っても、ソウゴが完全にダウンしているんじゃ考えても仕方ない。
「……電脳化したセラフィックスの沈降ルート。SE.RA.PHが通過したことで電脳化した海溝を遡ることによって、ここで起こった事象は可能性のひとつにまで確度が落ち、電脳化以前の段階までセラフィックスの状態が回帰します。ただこの手法で戻せるのはSE.RA.PHが誕生する時点まで。
それ以前にセラフィックスで発生していた問題。ゼパルさんの暗躍、キアラさんの変貌、職員の暴徒化等々、その事実は消えません」
「…………」
SE.RA.PH化によって加速する以前から、セラフィックスには暴力が蔓延った。
ゼパルがキアラを隠れ蓑に行っていたらしいこと。
あのベックマンもその加害者であり、被害者のひとりだ。
どういう表情をすればいいのか。
そう顔を曇らせる立香に対し、BBは軽く肩を竦めた。
「センパイがどんな考えであれ、わたしの目的は
具体的にはメルトと鈴鹿さんが繋いでくれた時間神殿までの時空の繋がりを通じ、人類史が燃え尽きて空白になっていた2016年にセラフィックスの解体予定、という事象をねじ込みます。2016年に解体準備が進められていたことにして、人類史が取り戻された2017年初頭に解体してしまうわけですね。これによりセラフィックスで起きた問題の全てが、
セラフィックスがそもそも運営されていなければ、ゼパルは潜みようがない。
無論、そこの職員だったキアラを暴走させようもない。
人理焼却を逆に利用し、そういう状況を作り出す、と彼女は言った。
「ふむ、魔神はどうなるのかな?」
「ご覧になった通り、
フィンからの質問に答えるBB。それに納得したのか、フィンは一度頷いた。
魔神だったもの。魔神から変生したもの。
つまりはビーストⅢの残滓、殺生院キアラの構成要素を同化したカール大帝の霊基だろう。
どうするかは知らないが、それから魔神に戻ることなくゼパルは消滅する。
最後に手の中でくるりと教鞭を回し、モニターをとんと叩く。
それによって彼女が予定した残務処理は開始された。
「というわけで、伝えるべきことは以上です。後は気付いた時には全てが終わっている……いいえ、始まる前に戻っているでしょう。お疲れさまでした」
言われて、少し力が抜ける。
自分もソウゴのように寝てしまおうか、と思うが。
ふと、拗ねたようにそっぽを向くメルトリリスを見る。
「……ありがとう、メルト。あなたたちのおかげで何とかなったみたい」
「―――当然です。サーヴァントとして契約した以上、それが私の務めなのですから」
「うん、最高の結果を出してくれたんだと思うよ。
私にとってのサーヴァントとしても、ソウゴにとってのサーヴァントとしても」
少し息を詰まらせてから溜め息ひとつ。
まるで自分に呆れるような、強がりを諦めるような声を出すメルト。
「―――――そうね、私も最高の結果を得た気分よ。マスターっていう関係の相手も、サーヴァントになるという経験も、悪いものではなかったわ。
私のひとりで躍るのが一番美しいものになるとは思うけれど、たまには美しさ以外を求めるような、こういった趣向の舞台もありでしょう」
そんな少女を見て、シャルルマーニュが軽く笑う。
その声に反応して睨まれるが、我慢できないものはしょうがない。
だってこの光景を前にしたらそうもない。
人間と怪物でも、このくらいには距離が詰められるのだ。
ここは、この星はずっと、自分が生きたあの時から。
ただ自分がそうとは思えなくなってしまっただけで、変わらず。
そんな希望に満ちた世界だったのだ。
―――意識が溶けていく。
時間流を遡り、問題は残らず回帰して、ありえなかったことになっていく。
確定された問題を避けるため、少し位相をずらしながら。
「―――輩? 先輩?」
ゆさゆさと肩を揺さぶられる。
久しぶりに聞く声な気がするが、そんなはずもない。
毎日だって聞いている声なのだから。
「うぅん……マシュ?」
「はいっ、マシュ・キリエライトです」
「フォウフォフォーウ?」
どうやら机に突っ伏して眠っていたらしい。
起き上がった立香を見て、どこか安心したような様子のマシュ。
彼女の頭をの上で、フォウが小さく尾を傾げていた。
寝惚け眼で周りを見回せば、反対ではソウゴも同じ状況。
「二人揃っていきなり寝ちゃうんだから。そんなに疲れてたの?」
「どうせ夜にしっかりと寝ていなかったんだろう。睡眠に問題があると感じるなら、それこそドクター・ロマニにでもさっさと相談すればいいものを」
お茶を飲みながらちらりとツクヨミは横のゲイツを見た。
彼はやれやれと首を横に振りながら教科書を見て、次の授業に使う内容を纏めている。
手際よくテキストを整備していく彼を見ながら、カップを置くツクヨミ。
「ねえゲイツ、それって怒ってるの? それとも心配してるの?」
「自己管理もできていない奴らに呆れているんだ。まったく……眠れないなら部屋にラベンダーでも置いておけばいいだろう」
「なるほど。ラベンダーの香りでリラックスして、快眠効果が期待できそうです。ではお二人の部屋に必要と思われる量のラベンダーを準備しておきましょう!」
すぐさま立ち上がり、ラベンダーの準備に向かうマシュ。
今日部屋に戻ったら部屋がラベンダーでいっぱいになっていそうだ。
ただカルデアにラベンダーは在庫があるんだろうか。
走り出したマシュの背中を見送って、ツクヨミが改めてこちらに向き直る。
「それで二人とも、何か様子が変だけど……どうかしたの?」
「んー……」
「えーと……」
揃って顔を合わせて、首を傾げる。
そうして数秒。
ふと何か思いついた様子の立香が、ツクヨミに問いかける。
「そういえば所長は?」
「? 所長さんはまだ戻ってきてないけど」
「確かこの年の初めに手放した海洋油田基地の後始末、だったか?」
ゲイツが教科書から視線を外し、小さく呟く。
前々から予定されていた北海に浮かぶ海洋油田基地セラフィックスの解体。
人理焼却事件によって予定は狂いに狂い、手が入ったのは今年の初め。
人理焼却によって起こったあれこれ。カルデアとして国連とやりとりするそれとは別に、アニムスフィア家当主として、オルガマリーは最近あっちにこっちに忙しそうだ。
それを聞いて立香は顎に手を当て、ソウゴは腕を組み。
―――またも二人揃って顔を見合わせて、同時に首を傾げさせた。
「ソウゴは?」
「立香も?」
あー、と。二人揃って変に納得するような声を出す。
そんな珍妙なやり取りを眺めて、ツクヨミは胡乱げに眉を顰めた。
「……ホントにどうしたの、二人とも」
「……勉強しすぎで頭が茹だっているのかもな」
ゲイツがノートを手元に引き寄せる。
彼はそこにメモされていた今日の分の授業範囲を少し減らして、明日分に回した。
今はセラフィックスの件で所長のオルガマリーが外出中。
よってここの最高責任者は、ロマニ・アーキマンということになる。
そしてダ・ヴィンチちゃんは基本的に自分の研究室。
つまりかなり自由な彼は、中央管制室に詰めつつマギ☆マリを愉しむ余裕があった。
いつ表面化するか分からない魔神の問題はあるが、緊急事態もここ最近はない。彼は他の職員との交代の時間までたっぷりとマギ☆マリを愉しんだ後、自室……医務室へ向かう帰路についた。
そうして管制室を出て、歩き出して。ふと足を止める。
いったい何だろうか、この胸騒ぎは。
自分には特別な能力とかもう微塵もないが、直感的な何か。
ふと視線が引き寄せられる、奥まった通路。
管制室の裏手に通じる道。
倉庫区画の―――カルデアで唯一、天窓のある部屋。
「……まさかね」
直感を小さく笑い飛ばす。まあ確かに、隠し事のひとつである。
でも今更関係ないし、もうあそこには誰もいない。
残っているのはちょっとした怪談話だけ。
午前0時にあそこに入ると、いつか失われた者、あるいはいずれ失う者を見る、なんて。
ちょうど今、そんな時間だが、まあそんなのただの噂話。
確かにあの部屋は位置的にカルデアスの磁場の影響を強く受ける。
何らかの異常現象が起きてもおかしくない場所だ。
だからといって、そうそう何度も何かが起きるはずもないし―――
「―――――」
まさかね、なんて言った癖に、ついつい足がそちらに向く。
使用されていないから通路の電灯は落とされている。
とはいえ通路は広いし、歩く場所として慣れたものだ。
手にしたタブレット端末のバックライトだけで光源には十分すぎる。
真っ暗い通路を自然な足取りで踏破して、目的地に辿り着く。
ロストルーム、入るのはいつぶりだろうか。
入ったところで誰がいるわけでも、何があるわけでもないのだが。
シュー、と。音を立てて開いていく自動ドア。
その先に広がるのは、邪魔な荷物をいくらか放り込まれた何もない部屋―――
ではなかった。
「え?」
「む、ロマニではないか」
帰ってくるのは聞き覚えのある女性の声。
声の方を見上げれば白い花嫁装束。
なんて見覚えのある姿。
そんな彼女がいることもそうだが、何もない部屋、のはずが。
そこに広がっていたのは、何故か屋外のような場所だった。
まるでちょっとした観光地のようだ。
門の先には噴水のある広場があり、その中央広場を囲うように幾つかの建造物。
その建物もいやにしっかりとした造りの豪奢な屋敷。
ロマニに声をかけてきた花嫁姿の女性。
それは、建物を見て唸っているネロ・クラウディウスに他ならなかった。
「あ、え……え!?」
「ちょうどよい、そなたも余に賛同するがよい。あの屋敷であるが、こう……金色が足りぬと思わぬか? 宮殿たるもの、もそっと派手であるべきであろう?」
ネロはそう言って建物を指差す。
確かに落ち着いたシックな色合いの普通の建物だ。
金色に塗ったらさぞ目が痛くなるだろう。
「おーい、ネロ先輩。流石に金ぴかはないって、落ち着かない。もちろん真紅もさ」
「うむ、少し待て。いまはそうでもないうだつの上がらぬ男だが、かつては貴様に劣らず聖王の名に負けぬ身であった者。元ソロモン王を味方につけ、貴様を論破してやろう!」
「ソロモン王って……マジ? お、その人がロマニ・アーキマン? おおー!」
「ちょっと待って、どういう状況だいこれ!?」
ネロと言葉をを交わすのは少年。
彼もまたサーヴァントである、というのは想像に難くない。
ロストルームだった場所、カルデアと外界の境界を見て視線が右往左往。
ロマニは困惑のままに、更に現れた初見のサーヴァントを見る。
彼に続いて見たことある人ない人、更にぞろぞろと出てくるではないか。
「まさか本当にカルデアに繋いでしまうとは……」
「ホントにいいのかな、これ……」
呆れの色が強いガウェインとブーディカの声。
その二人の視線を受けるのは、またも初見の少女。
黒コートに菫色の髪の少女はにこりと笑い、手にした教鞭を軽く振った。
「こちらの空間、どうにもカルデアスの磁場の影響でかなり時空が揺らいでいる様子でしたので、勢いでシャルル・パトリキウスを連結させてみました。
ビーストⅢ、つまり魔神ゼパルの構成要素を多量に含んだカール大帝の霊基をエネルギーとして、安全に
セラフィックスは浮上し、問題が起こる前へと時空は回帰した。あの油田基地は2017年の海上へと帰還し、そして2016年に予定されていたことになった解体が実行されて機能を停止した。
月の聖杯戦争を発端に、地球に根を下ろそうとしたビーストの存在。その処理に関してはムーンセルからの最大のバックアップがあるのだ。失敗するはずもなく、残務処理は滞りなく行われた。
だがそれに相対速度を合わせていたシャルル・パトリキウスは別だ。実在の建造物を無理矢理電脳化させたものと違い、元より英霊の宝具。電脳化した海溝を遡ったところでいきなり消滅するわけでもない。
ムーンセルもビーストを処理できたのであれば、BB含め後はどうでもいいという判断。現場に任せる、という投げやりっぷり。ならばとパトリキウス側で回収していたビーストⅢの残滓。ビーストの顕現より前の時間においては、それを誘発した魔神ゼパルという存在。それを安全に消費しつつ、この空中要塞を進軍させてやれとやってやったのがこの行為。
セラフィックスと位置を同期したシャルル・パトリキウスは2017年に到着。カール大帝の霊基が同化したゼパルを燃料に電脳化された状態で存在を維持。
流石にそのままカルデアまで飛んでくるわけにもいかない―――ので、
「!?!? え、つまり……なに!? いったいどういうことなんだい!?」
「これで後始末も全て完了。BBちゃんはムーンセルから与えられた使命を果たし、晴れて自由の身。でもこのまま退去するだけなんて勿体無い!
―――というわけで、ちょうどいいのでカルデアに乗り込んでやったのでしたー!」
何がどうなっているのか分からない、と。そうして目を白黒させるロマニ。
彼の前で、カルデアの一部を勝手に電脳空間に呑み込んだ少女は高らかに宣言する。
泡のように消えさったひとつの―――ふたつの大きな戦いで得た戦果として。
なんと彼女は移動型空中要塞ごとカルデアに乗り上げてみせたのだ。
Aルートのジャガーマンはオラクルの影響化に入ったトラパインにノリと勢いで飛び込んできた存在。
Bルートにも実はジャガーマンはいて、時間神殿から退去する際に声を聞いた気がして乱入。救援要請を送った直後のトラパインに融合した存在。宝具によって闇に隠れつつ野性の勘に従いフラフラしてたら、どこをどう通ったのか天体室に到着。
「あらまぁ、種族のために地球への生贄とかそういうのアタシ嫌いじゃない。けどこういう魂だけミキサーして叫びだけお供えとか、勿体無いお化けが出ない?血も肉もちゃんと使ってこその生贄だとアタシは思うのニャー」と、ぞんざいな生贄スタイルに苦言を呈しつつふらふらしている内に、魔神は出てくるわアーチャーは落ちてくるわで盛り上がってきたな!とアーチャーを確保しつつ様子見。
何となくあの光景を見て満足したので帰りました。野性とは自由。
剣豪に入る前になんかふわっと始めてふわっと終わる、ちょっとした現状を説明するどうでもいい話を挟みたいところ。
七大スペース水着剣豪キラウェア火山大決戦とか?
最後にはキラウェア火山が噴火して中から岩石大首領が出てきます。
無いですね。
福袋がモレーだったのでハロウィン系でもよいかも。