Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー 作:アナザーコゴエンベエ
「現状、カルデアが召喚に使えるリソースは二度ほど。どちらかというとシャルル・パトリキウスの方に稼働率を高めてもらわないとだから、そこは仕方ない」
「それで、これが今回のカルデアが記録した霊基相性度、と」
ロマニの言葉にオルガマリーが手元が紙をぱたつかせつつ、目を細める。
召喚できるサーヴァントの選択肢が少ない。というより、もはや選択の余地が無いと言っても過言ではない。今回のレイシフトに同行させられるサーヴァントは、現状で確認した限り古代ウルクで記録した風魔小太郎、茨木童子くらいなものだ。
「そして天草四郎、巴御前などは数値に異常が見られた。これはアガルタの時と同じケースだと思われる。何らかの形で既に特異点……ではなく剪定事象が確定した並行世界か。
ふむ。まったく別物となるとこれは何と称するべきかな?」
「並行剪定事象特異点世界?」
「お前は黙っていろ」
ホームズの言葉に対し適当に名前をくっつけるソウゴ。
彼に対して視線を向け、黙らせるゲイツ。
それを受けて、ホームズはふぅむと腕を組んで何かを考え出す。
「―――剪定事象である並行世界の特異点、か。
さて。そのままでありつつ、ある種の真理をついていそうな名付けではあるが……」
「名前は後でいいから続けて」
オルガマリーの指示に肩を竦めるホームズ。
「これは失礼、では続きを。天草四郎、巴御前の両名は並行剪定事象特異点世界と既に何らかの関わりを持っていると思われる。
現状BBたちによって特定されている情報は、並行剪定事象特異点世界は日本であること。時期はまだ完全な特定に至っていないが、ここ500年以内の時期だということだ」
「小太郎と茨木童子だけって、牛若丸なんかがレイシフトできないのはなんで?」
「不明だ。今のところ、状況証拠として日本の鬼種と縁がある者ならば通れる、という可能性は考えられる。とはいえ、その想定であれば坂田金時にも可能性があっていい筈だが……」
ソウゴの質問に片目を瞑って返答するホームズ。
雷神たる赤龍の要素が強いが、坂田金時の母は鬼女。だからこそ可能性があってもおかしくはない、と探偵は語る。
しかしツクヨミが彼の言葉を聞いて資料を見てみれば、金時が今回レイシフトできる可能性は皆無。単純に何かの法則がある、というわけではないということだろう。
「タマモキャットさんが言うには、呪術師と呼ぶべき人物の存在が濃厚ということです。その呪術師が魔神と共謀し、カルデアに接触。先輩へと何らかの攻撃を仕掛けた上で、こちらの戦力を限定するための結界を張っている、というのが一番考えられるかと」
落ち着かない様子でそう口にするマシュ。
彼女の頭の上には、その様子に反応してか尻尾を忙しなく動かすフォウがいる。
「つまり……そういう呪術師とか、魔物とか、そういうのを相手にするのが得意な英霊は弾けるようにしてる?」
「それが一番納得がいく話ではある」
元々並行世界、まして剪定事象として切り落とされる寸前の世界なのだ。サーヴァントのレイシフト程度、わざわざ弾く理由が世界側にはない。世界の観測さえリソースは有限であり、可能性が潰えた世界に対しそれを割くことを無意味とする。故に詰んだ世界は剪定されるのだ。
観測を打ち切る寸前の時間に、それほど強固な世界の修正力が働いているとは思いづらい。であればサーヴァントがこうも参入できないことには、何か別の理由がなければならない。
「……どちらにせよ選択肢は増えない、どうするかに話を戻すわ。
まずは風魔小太郎を召喚する。それはいいとして―――
風魔小太郎はいい。何の問題もない。
立香の捜索、というレイシフト後まず発生するミッションにも適している。
彼が選択肢に残っていたのは不幸中の幸いとさえ言えるだろう。
だがもう一人。茨木童子はどうするか、と。
別に彼女の人格、気性が悪いという話じゃない。
ただ純粋に彼女は鬼という生物で、カルデアは人の組織であるということだ。
人理焼却という世界の状況。ラフム、ティアマトという共通の大敵。
人と鬼の関係、という彼女が持つ理によって最終的には共闘できたウルクとは違う。
いきなり襲ってくることはないだろうが、共闘してくれるかは微妙なところだろう。
召喚はされたが協力は拒否し、食堂で甘味を貪るだけの生き物になる可能性は高い。
「召喚するとしたらゲイツ?」
ソウゴに視線を向けられ、ゲイツは目を眇めつつ強く鼻を鳴らした。
「言っておくが俺はサーヴァントとかいう連中の召喚なんてやらんぞ。俺はジオウを見定めるためにここにいるのであって、お前たちの仲間になったわけでもなんでもないからな」
フン、と顔を逸らす男。
そんなゲイツの横顔を、ツクヨミが何とも言えないという顔で眺める。
それを気にせず、ソウゴがならばと問いかける。
「じゃあ所長とツクヨミ?」
戦力的にソウゴのサーヴァント拡充は後回しでいい、というのはまあ共通認識か。
現状でイリヤ、クロエ、美遊。そして小太郎。
となると、小太郎はオルガマリーが召喚することは確定だ。
ではツクヨミが呼ぶか。
あるいはオルガマリーに2騎つけるか。
(召喚して協力してもらうのは多分、無理じゃないけど……)
顎に指を添えて、思考するように視線を上げるツクヨミ。
話が拗れる可能性を否定できない。茨木童子は素直な鬼であり、鬼種としての義理堅さを備えている。そうした、きっちりと人間とは種を異にする“鬼”である。
鬼種が深く関係する、かもしれないレイシフト先の状況。その状況において、彼女がただ味方であってくれるとは言い切れない。普段ならそれもよしで済ませてしまえたかもしれないが……
(今は立香の救出が最優先。問題が起こる可能性を抱えない、っていう意味では召喚しない方がいいわよね……)
ツクヨミがオルガマリーを見る。同じタイミングで見返される。
二人の視線は同じ結論を出した、と双方理解したようだ。
揃って頷いて、彼女たちは風魔小太郎のみの召喚を行うことにした。
『年代の測定も完了、西暦1639年。日本は上総国周辺だと思われます。
ちょうどそこの風魔小太郎さんが処刑されてからちょっと、くらいの時期ですね』
「はぁ……」
管制室に繋がれた通信。BBスタジオの中心で微笑むBB。当初はだいぶトサカを立ててバーサークしていたようだが、少しは調子を取り戻した様子である。
それを証明するように召喚されたばかりの小太郎に対し、さっそくの余計な一言。言われた当人。赤毛の少年忍者は、目が隠れるほど長い前髪で表情が見えない。が、特に気にしてはいないように見えた。
「年代で言うと、天草四郎くんと関係深い島原の乱も直近であった頃だね」
「ジャンヌが処刑された直後のフランス、みたいな?」
ロマニの注釈でふと思いついたような顔をするソウゴ。
彼はそのまま管制室の開いた席に座っているジャンヌ・オルタを見上げる。
彼女は椅子に体重をかけつつ、どうでもよさそうに返答した。
「そーね、じゃあ黒幕は天草オルタとかなんじゃない?」
「あの件の黒幕と言うべき人物はジル・ド・レェだろう。復讐者になった天草四郎、というような隠れ蓑を使い、呪術師とやらが暗躍しているケースなのではないかな」
黒幕面してニヤリと笑っているオルタにそう言うデオン。
彼女は主犯であるが首謀者ではない。
そう言われて、ふいと顔を背けるジャンヌ・オルタ。
「確かに、どこか懐かしさすら感じる配置というか……」
聖人の感性を持つ、ルーラーに至るような人間の死の直後。その当人が恐らくサーヴァントとして召喚された特異……並行剪定事象特異点世界。
確かに何か思わせぶりというか、不思議な符合を感じるところだ。
モニターと向き合い、レイシフトの準備を進めるマシュ。
そうしながら、いつか出会い、話をした天草のことを回想する。
(けれど、天草四郎さんは多分……アヴェンジャーにはなり得ない)
だって彼はもうとっくにアヴェンジャーよりもっと狂気的なものに身を委ねている。彼は己という人の心を秤にし、人の在り様に確かな答えを導き出した。天草四郎という英霊の中で既に結論は出ている。彼はもうそこに向かってしか進まない。その道のりを縮めるためにだけ、聖杯という奇跡を願う存在だ。
彼にとっては復讐なんて無駄な寄り道にすぎない。
そんなもののために使う時間も魔力も持ってはいないだろう。
(本人の精神性故にアヴェンジャー足り得ない、他人から見ればアヴェンジャーの資格を持つ英霊。これも偶然の符合、なんでしょうか)
少し考えて、しかし首を横に振って考えを打ち切る。
そもそも天草四郎がどのような状況で現地に関わっているかも分からないのだ。
今から考えても答えなど出るわけが無い。
「とりあえず……レイシフトしたら、わたしとのレイラインをルビーが辿ってリツカさんを探す、でいいんですよね?」
「ええ。ただしアサシンはまず別行動。ざっとでいいから周辺の捜索をしてもらって、時代的に明らかにおかしいものがないかの確認をお願い。もちろん、藤丸の残した痕跡らしきものがあれば最優先で連絡を」
「了解しました、主殿」
少々時間は経っている。が、生前の活動時期に近いということは、現地の不自然を見取りやすいということだ。BBは彼に対し煽るように口にしたが、小太郎本人からすれば役立つ情報が最初からあって助かるとさえ言えるだろう。
(上総国……か)
咽喉にまでせりあがる僅かな感慨らしきもの。
それををすぐに飲み干して、少年は顔を上げる。
「こんな事態にも関わらずこちらで待ちぼうけだなんて、なんて殺生な。魔法少女ですか?
「ひゃあああぁ――――っ!?」
すると何やらカルデアの行動にとって重要な
引き剥がそうとする美遊の手を掻い潜る動きはいっそ素晴らしい。風魔から見ても、どこへでも忍び込めそうな良い動きをしていると言える。
明らかに悲鳴に聞こえるが、しかし女児同士の交流を邪魔することもあるまい。
小太郎は生前に得た地理を思い起こしつつ、そのまま待機を続けた。
そんな中で声を張り上げるのは、蛇に絡まれるイリヤと感覚を共有しているクロエ。彼女が酷く身震いしつつ、オルガマリーに向かって叫ぶように言い放つ。
「と、とにかく早く行ってリツカのこと探すんでしょ! 早く! レイシフト! ハリー! ハリー!」
「……まあ、そうね。とにかく行ってみなければ始まらないし」
『ルビーさんとサファイアさんはコフィン中でもこちらとの同期を切らないようにお願いしますねー』
ここで考えを重ねても仕方ない。まずは特攻し、立香を確保してから考える。
そうせざるを得ない状況なのだから。
仕方なさげにジャンヌ・オルタとデオンが清姫を確保しにいく。
しかしやはり清姫も大した動きだ。この二人を相手に潜り抜けるような動作を繰り返し、まったく捕まらない。地味ながらその卓越した動きに、技巧派であるという自負があるデオンが唖然とした様子を見せた。
「ああ……ますたぁの危機だというのにこの清姫、ただただ心を砕いてこの場で待つことしかできないなんて……!」
「これを暴力で黙らせてた白い奴がいかに効率的だったか、今更だけど身に染みて分かるわね……!」
関係ないところで黒いのに評価される白いの。
そうして喧々囂々、騒いでいる中に涼やかに響く美しい音色。その音の直後、清姫がぴたりと動きを止め、静止した。
気付けば一切の動きが止まっている清姫。その手足の先で照明を照り返し、僅かに輝くのは細い物。少女を傷つけないように丁寧に配置された弦の結界であった。
弦に縛られた清姫が酷く不満そうに管制室の入口を見やる。
「マスターの危機に馳せ参じたい、という気持ちに一定の理解は示します。が、それで助け舟が遅れては意味がない。カルデアが掲げる帆を白から黒に変えさせるような真似はやめておくべきでしょう」
「女の扱いで白を黒に変えさせた貴公から生前の反省を活かす助言が出るとは何よりだ。人の心が分からぬ王などとは違うと私も鼻が高い。そのまま蛇娘を抑えておくがいいぞ、トリスタン」
「は……」
ぽろろろろん、清姫を抑えつつも哀しみのメロディー。
知ったことではないと踏み込んでくるアルトリア・オルタ。
彼女は管制室をざっと見回すと、画面に大写しになったBBを見上げた。
「そこの蛇娘や村娘以外にここで問題を起こす奴がいるとも思わんが、早々に始めるがいい」
『それは願ったりですけど。ちなみにアルトリアさん、アナタがわざわざ自分が参加しない出立に顔を出すくらいには何か感じ入るものがある、ということでしょうか?』
無体な言葉、そこで村娘呼ばわりされた黒いのが暴れようとする。
それと同時に彼女の腕がデオンに捕まり、背中に回された。
力のかからない、しかし容易には振り解けない拘束技。
そう。この動きは中々のものである、という自負があったのだ。
だというのに清姫、なんという機動力か。
不思議そうな顔を装ったBBからの問いかけ。
アルトリアはそれに僅かに目を眇め、小さく視線を彷徨わせ―――
「さて、な。だが新宿や地底とは明らかに別の何かがある。ついこの前に
あえて重ねて言おう。今回の一件は私が感じる限り、
言いたい事を言い終えたのか、アルトリアはひとつ頷いて踵を返す。
トリスタンは管制室の入口で待機し、清姫の抑えを続けるようだ。
蛇娘から出る文句は完全シャットアウト。
嘆きの騎士は騎士王の指令を完璧に守り、管制室を騒がすものへの対処に専念する。
「―――直感とはいえ、そうまで言われる一件なわけね」
溜め息をつき、すぐに顔をロマニとマシュに向けるオルガマリー。
二人は揃って頷いて、レイシフトの最終調整を開始。
彼女たちもさっさとコフィンに入るとしよう。
そう言った意味合いの視線で周囲を見渡せば、皆が頷いて行動を開始。
続々とクラインコフィン内に入っていく人員。
今回はあの中でルビーとサファイアも作業する事になる。
故にイリヤと美遊の分のコフィンには特別調整が必須。そのために降りてきていたダ・ヴィンチちゃんが立ち上がり、魔法少女にウィンクを飛ばした。準備OK、ということだろう。
総員の搭乗を確認した後に、オルガマリー自身もコフィンへと身を預けた。
まああれだ。アルトリアの忠告も、また現場でどでかい問題が出てくるというだけの話だろう。とはいえ、そのくらい慣れたものだ。機械惑星とか巨大ロボットとか宇宙の彼方から来た異星人とか、そういうのくらいまでならもう許容範囲なのだぞ、多分。
『アンサモンプログラム スタ―――ガ、ピ』
『こほん。ではでは、アンサモンプログラム、スタート! クライン・コフィン起動、内部の
観測レンズ・シバの観測領域、拡大。特定平行世界まで範囲を延ばし、目的地までの進路を確定。最終的な細かい調整はマジカルステッキのお二方にお任せです。
パラレル・レイシフト準備完了、安全度については……んー、ギリギリ
「ちょっと待った! さっきからだいぶアウトなこと言ってないかい、キミ!?」
などとロマニが言ったところで、今さら止められない。
電子戦でBBに匹敵できる環境がカルデアにあるはずもない。
彼女が実行すると言ったら、それを止められるものはいなかった。
『パラレル・ロストワールド・オーダー、
いえーい! ごーごー!』
そのように、止める間も無く実行される強行軍。泡を食って通常作業に戻り、存在証明の確立を行いに入るロマニたち。これは前例の無い、突拍子も無い、とんでもレイシフトだ。
開始したからには数日は管制室も忙しないことになるだろう。
そんな様子をデスクではなくコフィン近く。喧噪から離れた位置で見上げながら、ダ・ヴィンチちゃんが口許に手を当てて、カルデアスを見上げた。
「―――――」
到着と同時に、真っ先に動いたのは風魔小太郎。
彼はマスターであるオルガマリーの肩に手をかけ、己の背後に押しやっていた。
それに逆らわず押し飛ばされつつ、指揮官たる女は周囲を見回す。
暗い、こちらは夜だったのか。
木々の隙間から擦り抜けてくるのは、真紅の灯り。
気にかかって咄嗟に空を見上げてみれば、空には満月が浮かんでいた。
「紅い、月……!?」
「そやねぇ、紅い綺麗なお月はん。でもなぁ、綺麗すぎてアレ見てると、もう少し昏くて紅いモノが見たくなってしまうさかい……酒の肴にはならへんなぁ」
ごう、と。まるで疾風のように来たる剣閃。
振るわれたのは、柄に青い瓢箪がついた大太刀。
その刃を振るった者は、頭部に角を生やした少女の外見。
「鬼―――!?」
迫りくる脅威を前に、小太郎がその正体を看破する。
麗しい少女の容姿も、手折れそうな華奢な肢体も、何の秤にもならない。
外見などでは計り知れない超越種。
オルガマリーを背後に回した以上、回避は取れない。
守りに入ろうとする小太郎に対し、鬼の少女は笑みを深くし―――
瞬間、少女に対して赤い弾丸が連続で直撃した。
体勢を崩すほどでもない横入り。
それに対し鬱陶しげに、少女は視線だけをそちらへと向けて。
「ゲイツ!」
「変身―――!」
赤い装甲に包まれながら疾駆する、一人の戦士を認識した。
〈仮面ライダーゲイツ!〉
“らいだー”と。今の彼の状態を示すインジケーションバタフライが、ライダーゲイツの頭部へと合体。それをもって変身シーケンスを完了し、ゲイツは少女への突撃を慣行した。
少女が足を止め、勢い余って背負った青い瓢箪が揺れる。
それと同時に即座に大剣を切り返し、向ける先はライダーゲイツ。
「なんや、小僧が好きそうなのがまた出てきはったなぁ」
「おぉおおお―――ッ!」
ゲイツの拳と鬼の剣が衝突する。
互いに技も駆け引きもなく、正面から力をぶつけ合う姿勢。
刃と打ち合う度に大量に火花を散らすゲイツの腕。
その隙に小太郎がオルガマリーを抱え、その場から離れる。
「イリヤとミユは護衛! 私とソウゴで攻撃! で、いいでしょ!?」
小太郎が連れてきたオルガマリー、そしてツクヨミ。
クロエの言葉に頷いて、二人の護衛につく形になるイリヤと美遊。
だがソウゴは変身の準備を整えた状態で、ウォッチを手に一瞬固まった。
「―――その前にひとつ、やらなきゃいけないことがあるみたい」
ソウゴが目を細め、その場で変身のための動作を止めた。
クロエが眉を顰めるが、ソウゴの視線は周囲の森を見渡している。
伏兵の存在を感知したのか。
ならば確かにあの鬼だけに掛かり切るわけにはいかないが。
「ツクヨミ! ゲイツに電話渡して!」
「え? ええ!」
アナザーファイズとの戦いでそれの有用性は認識している。
自身の武装としているファイズフォンⅩを手放す判断を即座にして、ツクヨミが受け渡しのタイミングを計る。そう遠くもなくやってきたその瞬間は、鬼の剣を受けてライダーゲイツが押し返され、膝をついたタイミング。
「ゲイツ、受け取って!」
「―――――」
投げ渡されるファイズフォンⅩ。
放物線を描き飛んでくるそれの意味をしかと理解して、ゲイツは即座にホルダーからウォッチをひとつ外し、起動する。
〈ファイズ!〉
起動したウォッチを装填し、ドライバーのロックを解除。カクリと傾いたドライバーの両側へ、腕を交差させながら手をかける。
きょとんとしている鬼を前に、ゲイツは両腕を一気に引いて独楽のようにドライバーを回転させた。
〈アーマータイム!〉
〈コンプリート! ファイズ!〉
一回転するジクウドライバー。
その動きに合わせ、ジクウマトリクスが装填されたウォッチの歴史を虚空に描く。
ウォッチに秘められたレジェンドの力が現出し、ゲイツの身に鎧っていく。
現れいずるのは仮面ライダーファイズの力。
「……これまた、小僧が好きそうなヤツやわぁ」
くすくすと何か、誰かを思い起こしながら大剣を構え直す鬼。
ファイズアーマーへと換装したゲイツが、地面に転がったファイズフォンⅩを拾い上げる。そのまま必殺のためのコードを入力し、武装を直接手の中へと呼び出す。
〈レディ! ショット・オン!〉
右拳を装着されるパンチングユニット、ショット555。
その感触を確かめるように指に力をかけつつ、ゲイツが腰を落とす。
「行くぞ―――!」
地面を炸裂させる踏み込み。突き出される銀色のナックル。
それに応じるのは鬼の剣。
お互いに放った一撃の衝撃で弾け、揃って後退る。
「へえ……」
「フ―――ッ!」
その感触、その勢いに少女の表情が艶やかに蕩けた。
剣撃を伴い愉し気に跳ねる鬼を追い、銀色の拳撃は間を置かず攻め立てる。
闇夜に散る火花と共に、幾度となく交差する二つの影。
それを見守りつつ、ツクヨミがソウゴを方を見た。
「何だか知らないけど、まだなの……!?」
「―――――」
ウォッチを握りつつ目を閉じ、集中して何かを感じ取ろうとしているソウゴ。
何がどうなっているのか、という少女たちの視線。
それを受けつつ、彼は不動でそのまま数秒待機して―――
「―――ん……ほんま、いけずやわぁ」
ゲイツを相手取りつつ、鬼の少女の声が軽く響く。声の軽さに反し、酷く不快そうな様子で。
次の瞬間、更に威力を増した大剣が拳と強く打ち合わされる。つい一瞬前までやっていた、舞うような小競り合いとはまるで違う。単純明快に鬼の膂力を全開にした力押し。
それを理解したライダーゲイツは即座に己も突き出した拳に全霊を込め、更には空いた手をドライバーへと伸ばしていた。
〈フィニッシュタイム! ファイズ!〉
〈エクシード! タイムバースト!〉
ゲイツと鬼の少女。二人が必殺の意気で互いに一撃を放つ、その瞬間。
〈ジオウⅡ!!〉
―――ソウゴが目を開き、手にしたジオウⅡウォッチを両手で割った。
ドライバーの両サイドに装填される金と銀のライドウォッチ。
ソウゴは至極慣れた動作で変身シーケンスを進め、滞りなく完了する。
「変身!」
〈〈ライダータイム!!〉〉
〈仮面ライダー!〉〈ライダー!〉
装着されていくスーツに、銀色の仮面。
今の常磐ソウゴが発揮できる、仮面ライダージオウ最強の力。
〈ジオウ!〉〈ジオウ!〉
〈〈ジオウⅡ!!〉〉
ジカンギレードを手にしたジオウⅡが、その場に降臨する。
彼はそこで留まることなくホルダーからウォッチを外し、ジカンギレードへ装填。光を放ち出す剣を手に、鬱蒼とした森の一角にマゼンタに輝く眼光を向けた。
「小太郎はゲイツを引っ張って連れ戻して! クロは
「……アサシン! どうにかあの敵に隙を作って明光院を引き戻しなさい!」
ソウゴはクロエに撃ち返せ、と命じた。
つまりは何か、狙撃のような攻撃を予知したということだろう。
であるならばとりあえず固まって迎撃に入る、というならそれでいい。
「御意!」
主であるオルガマリーに従い、忍が影に消える。
続いてよく分かっていないがとにかく弓を投影し、準備に入るクロ。
呆れるというほどではないにしろ、少女は肩を竦めてみせる。
それに続けてイリヤの手の中で、ルビーも羽飾りをやれやれと動かした。
「自分だけが分かってることを使った指示が下手よね、ソウゴは!」
「立香さんがいたら翻訳が入るんですけどねー」
「そう? じゃあ立香にはこのまま俺の国の宰相にでもなってもらわないとね!」
数度の軽口、それを挟んだ直後。
森が一息に炎上し、瞬く間に灰になっていく。周囲を囲っていた木々が、一気に燃え尽きるほどの圧倒的な火力。それを成すのは鬼種の放つ炎。燃え盛る女の情念。
誤解を恐れずに直接的に、一切を正しく表現するならば、“愛の炎”と称するべき怨恨の呪詛。いつかの戦いにおいて、その気配に覚えがある。事前情報でも推察できたことだ。
ジオウⅡが僅かに剣を握った腕の肘を曲げ、ツクヨミが魔法少女たちに庇われつつ目を細める。オルガマリーが苦虫を噛み潰したような顔で、確定した敵の名前を呼ぶ。
「アーチャー……! 巴御前――――ッ!」
直後に彼方で爆発が巻き起こる。
発生するのは、矢が放たれた、という所作が起こしたとは思えぬ炎の渦。
“
紛れもなくアーチャー・巴御前の宝具。
既にその炎の矢は放たれた。
周囲を蒸発させながら迫りくる、狙ったモノを消滅まで導く一矢。
鬼種としての力。その呪炎は明らかにかつてウルクで見たものより強い。
あれがこちらに着弾すれば周辺諸共一瞬で灰になろう。
カルデアチームどころか、こちらで斬り合っている鬼の少女諸共だ。
放たれた後にそれの気配を察し、ゲイツが微かに動揺する。だが彼と競り合う鬼の少女は退屈そうで、自分も纏めて吹き飛ばす一撃に対してさえ、気に掛ける様子もない。
動揺に重ね、その事実に対する困惑が混じる。
そうしてやる気の薄くなった鬼と、当惑するゲイツ。
二人が激突している最中に、無数の玉が放り込まれた。
双方反応するより前に、玉は一斉に破裂する。
そこから拡がっていくのは、両名を覆い隠すような濃密な白煙。
「なんやのこれ、もう……」
「ゲイツ殿、こちらへ」
視界を覆い尽くすしたのは忍の扱う煙玉。
状況は退屈極まるものだ、と鬼の口調は冷めきっていた。
それを利用して小太郎はゲイツへ退避ルートを指示。
二人は周囲を見回す鬼の少女から距離を離す。
そうしている間にも、カルデアが集まっている位置に迫りくる呪怨の矢。
その一撃の前に立ちはだかるのは仮面ライダージオウⅡ。彼は装填したウォッチの力を臨界にしたギレードを握り、迫る劫火に向け一歩を踏み出した。
〈フィニッシュタイム!〉
カルデアが鬼の少女への対応している隙を突き、森ごと滅却するような狙撃にして砲撃。明らかにこちらが此処に来ることに備えた布陣。前もってこの世界を歪めているものが準備していなければ、こうはなるまい。
だが、
「それは、俺が見た未来だ――――!」
〈フォーゼ! ギリギリスラッシュ!〉
殺到するのは、まるで怨念を推進剤として飛翔するロケット弾。
光と熱、そして呪いを周囲に振り撒きながら突き進む一撃だ。
その矢に対して、完璧なタイミングでジオウⅡは手にした剣の刃を立てる。
激突する矢と刃。赤黒く燃える炎と、蒼く煌めくコズミックエナジー。だがその衝突が威力勝負に縺れ込むようなことはない。
接触した瞬間にフォーゼウォッチが赤く輝き、周囲で燃え盛る呪怨の炎を吸収し始めたのだ。炎を取り込み、己が力に変えるフォーゼの力。容量には限度がある。この一矢、全ての火力を取り込めるわけではない。だがどこまで吸収し切れるか、ジオウⅡは既に見極めている。
光と熱がフォーゼウォッチの中に収まっていく。周辺一帯を根こそぎ消し飛ばす筈だった爆撃の威力が、ある程度の範囲を吹き飛ばすまでに下落する。
「―――――!」
薄れた赤い光の先。木々が纏めて炭化した灼熱地獄の中心に、額から双角を生やした鎧武者。動揺を見せる白髪鬼、巴御前の姿が認められた。
無論、その動揺はカルデアを認識したが故ではなく、渾身の一射を凌がれた事実に対してのもの。だが彼女はすぐさま再び矢筒に手をかけ、新たな矢を弓に番えて―――
「森をまるっと焼いてくれてどうもありがと―――おかげで、あなたの姿がよく視える」
既に剣を矢と成し、番えている少女が弦をきしりと鳴らす。
もはや相手を隠す自然のカーテンは存在しない。
巴御前自身の一射によって、全てが炭化して崩れ落ちた。
初撃を放ったスナイパーは直後に隠形が鉄則。
しかし身を潜める場所全てを自分で焼き払った彼女にそれは叶わない。
そしてそこに視える以上、彼女の矢は外れない。
フォーゼウォッチの熱量吸収限界を察し、ジオウⅡが腕を傾けた。
威力を大きく殺されたその一撃は、十分に弾ける状態。
それに対し目的を果たすべく、ジオウⅡが空いた手でドライバーに手をかけた。
「“
「ハァアア――――!!」
クロエの指が矢を放す。放たれるのは赤光と化した矢の一撃。
相手の虚を突いた反撃の一射。しかし白髪鬼の反応はけして遅くない。彼女はすぐさま射の間に合わぬ弓を手放し、代わりに薙刀を手にしていた。彼女の呪炎は矢にだけ乗るものではない。薙刀の刀身もまた同じく怨念に燃え、矢と変わらぬ火力を発揮する。
「フ――――!」
薙刀の一閃が赤光を捉える。炎上する刃と交錯し、いとも容易く弾かれる矢の一撃。耳を劈く擦過音を響かせ、赤光の矢は軌道を逸らされ彼方へ飛んだ。
巴御前が先に放った一射とは比べ物にならないような軽い矢だ。そもそもクロエが如何に全力を振り絞ったとて、巴御前の一撃には遠く及ぶまい。彼女の有する最大最強である
それでも彼女は、既に二射目の体勢に入っていた。
此度、番える
弦に指を掛けたまま引けば、そこに投影され現れる螺旋を描く光の矢。
彼女にとって。あるいは彼女の力の源泉たる英霊にとって。
もっとも撃ち慣れた、射に入るまでの速度と威力に最も信がおけるもの。
―――だがそんな少女の最速程度、真実弓の英霊である巴御前は上回る。
薙刀を地面に突き立て、弓を取り、矢を引き抜いて、番えて燃やす。
少女は攻め手に回り、あらゆる工程を投影で省略して射の体勢。
白髪鬼は守勢に余儀なくされた挙句、あらゆる工程を確かにこなして射の体勢。
その差があって、なお放つ直前に工程が並んだ。
後は互いに放つのみ。同時に放てば、粉砕されるのはクロエの矢だ。
1秒後に訪れる分かり切った結末。
そうであろうとも、もはや止まりようがない。
そんな状況で少女は、狙い通りとばかりにニヤリと笑う。
先の一撃、赤光の矢。“
この状況。互いに弓を向け合った姿勢で、白髪鬼の頭上より降り注ぐ猟犬の追撃。相手はどうあってもこれを回避、迎撃せざるを得ない。この状況をもって体勢を崩させ、少女の方が先に射抜く。
空から地に向け、天を割るように墜ちる赤い流星。
それは巴御前の脳天を目掛け、ひたすらに加速しながら墜ちてきて。
「―――――」
中る直前、白髪鬼が射の体勢を崩さぬままに後ろに跳んだ。目前を過ぎ去る赤光の矢。
回避は見事、だがそれだけで猟犬は止まらない。その矢は地を抉りながら切り返し、再び彼女に向かって殺到する―――
前に、白髪鬼が地に足を着くと同時に跳んだ。
爆発的な加速をしながら、むしろ自分から目の前の矢に向かう鎧武者。
直滑降してきた赤い矢は今、巴御前に鏃ではなく腹を見せている。
その状況を正しく認識している彼女は、そこで思い切り膝を突き出した。
―――激突。結果として、“
互いに弓を向け合ったままの攻防の中、クロエが唖然とした顔を見せる。少女の認識が甘かった。それが英雄であれ人ならいざ知らず、女は紛れもなく鬼。鬼種の四肢、膂力はそれこそ宝具と変わらない。クロエが張った仕込みは、超常の生物によってあっけなく踏み潰された。
両者共に弓に番えた矢以外、手を残っていない。
では残した撃ち合いを清算しよう。
互いに一射放ち、どちらかが打ち砕かれるという結果を見よう。
無論、その結末がどうなるか。
分かり切ってはいるところだが―――
〈〈ライダーフィニッシュタイム!!〉〉
〈〈トゥワイスタイムブレーク!!〉〉
故に、ジオウⅡが剣を振り切る。ジオウⅡ自身のパワーも乗せた剣閃。
それは威力の減じた巴御前の最初の矢を弾き、あらぬ方向へと吹き飛ばした。
粉砕するでもなく、撃ち落とすでもなく、弾き飛ばす。
その選択肢を選んだのはこの瞬間のためだ。
弾かれた矢が白煙の中に飛び込んでいく。
超速で狙い澄ました位置へと正確に撃ち込まれる逆撃。
それが、煙幕に取り残された少女の脚に直撃した。
「ああ、こら……えげつないこと考えはるわぁ」
煙幕を吹き散らしながら飛来した炎の矢。
鬼にも通じる特性の煙幕だったのだろう、ギリギリまで勘が利かなかった。
そして、ギリギリの察知では間に合わなかった。
膝下から弾け飛ぶ鬼の右足。
鬼の少女は大剣の重量も含め片足で器用にバランスを保つ。
が、矢はそこで止まらず地面にまで到達し、突き立った。
―――瞬間、溢れ出す爆発的な熱量。
ジオウⅡが吸収しきれなかった炎が全て、そこを爆心地として解放される。周辺を更地に変えるほどの火力はないが、戦場を爆発で混沌させる程度の威力はそこにある。
至近にいた鬼の少女は当然中心で巻き込まれ、それに留まらず吹き荒れる爆風が戦場を乱した。
無論。多少離れていれば踏み止まれる程度の衝撃に収まるだろう。
マスターたちはイリヤと美遊の物理障壁で何ともないはずだ。
クロエとて地に足を置いているのだ。踏ん張れば、何とか射の体勢を崩さずにいられる。
しかし、果たして。猟犬を蹴り殺すために宙に舞っていた白髪鬼はどうか。
元は己の一撃だったものが起こした爆風に体が持っていかれる。
地に片足で着いていればどうとでもなっただろう。
だが完全に空中にいては、どう足掻いても己が思い描いた通りには動けない。
「な、く―――っ!?」
弓の英霊、いや白髪鬼は弓を向ける先を決める自由さえ奪われた。であれば、先んじてその弦にかけた指を放す権利は、地に足を置いた少女にこそ譲られる。
しかと大地を踏み締めて、空中でもんどり打つ標的を見据え、少女は螺旋の矢を解き放った。
「“
もはや抵抗の余地はない。白髪鬼が姿勢を直す前に、その一矢は届く。
空間ごと削り取る螺旋の矢が、女の胴体を撃ち抜きながら天へと昇って行った。
あっさり二人倒したことだしきっとすぐ終わるんやろなぁ