Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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オベロンが引けたので初投稿です。
 


アナザー・偽りの旋律2008

 

 

 

 胤舜の案内を受け、夕暮れの森を歩いていく。

 目指す先は彼が世話になっているという庵である。

 道中、歩きながらも大雑把に情報の共有を済ませておく。

 

 一通りの話を終えた後、彼は大層難しげな表情を浮かべ、むんと唸った。

 

「魔神なぁ、拙僧にはそれらしい相手は思い浮かばないが……」

「実はこの状況、魔神が関係ないって話は有り得るんですか?」

 

 ツクヨミに問われ、オルガマリーは顎に手を当て小さく俯く。

 もっともそれを考察するための情報もない。

 考えたところで答えなどでるはずもないだろう。

 ただ仮に魔神の契約者がいるとしたら―――やはり天草四郎その人だろうか。

 

「……カルデアとの通信はまだ通じない?」

「まだですねー、どうも電波状態はよくないみたいです」

「―――こうして侵入してみると、恐ろしく不安定な時空間です。何が起きるかわかりませんので、細心の注意を」

 

 ルビーとサファイアがアンテナを生やしつつみょんみょん揺れる。が、ステッキ二人が力を尽くしているというのに成果は未だ上がってこない。この二振りが駄目だと言うならば、それこそキシュア・ゼルレッチ本人に御出まし頂くくらいしか解決法はないだろう。ならばもはや考えてもしょうがない話だ。

 そもそも今回のそれはレイシフトという機能の想定外だ。カレイドステッキとBB、インチキにインチキを重ねた強行軍。これによってどんな不具合が起こるかは未知数だった。ならば状況の推察よりも、素直に現地における情報集めに徹するのが吉だろう。

 

「そういえばさ、胤舜はあいつらのこと初めて見たんだよね」

「うん? ああ、そこらの怪異とは比較にならぬ強者が動いているとは分かっていたが、つい先程まで克ち合うことはなかったな」

 

 ソウゴからの問いかけ。それがアーチャー・インフェルノやアサシン・衆合地獄、キャスター・リンボと言ったような英霊剣豪を名乗る連中のことだと理解して返答しつつ、胤舜は思考を深めるように己の顎に手を添えた。

 

「……つまり英霊剣豪? とかいうあの手のサーヴァントたちにはあなたたちを抑えるより、殺戮を優先させてたってわけよね」

「そうなるな」

 

 重ねて問われるクロエの言葉に深く息を吐きつつ同意する胤舜。

 

 ランサー・プルガトリオ、胤舜に与えられる筈だったらしい忌名。それを与えるために向こうから接触してくることもなかった。胤舜たちの行っていた急場しのぎの場当たり的な対処には無反応。

 今まで胤舜たちは近場、移動できる範囲での雑魚狩りしかできなかった。どうあっても行動範囲が絞られる彼らに対応しなかった、ということは最初からそのつもりが無かったと考えるのが自然だろう。

 その上で今になってこの状況ということは、カルデアの到来したという事実を以て連中は何らかの行動を起こし始めたということだ。

 

「……妙な話だと思う」

「妙、って?」

 

 呟く美遊に反応してイリヤが首を傾げる。

 

「クラス名で呼び合ってたことからして、英霊剣豪はたぶん全員で七騎。聖杯戦争を下敷きにした何らかの呪術によって呼ばれたもの、なんだと思う」

 

 聖杯戦争はただの召喚術というわけではない。

 あくまで英霊をサーヴァントとして呼出し、燃料として利用する儀式なのだ。

 つまりサーヴァント召喚のその先、というものがあって然るべきなのである。

 

「―――聖杯戦争の目的は、サーヴァントの魂によって完成される聖杯。つまり最終的にサーヴァントが全て退場しなければ成就しないもの。多少の誤差はあれどね。

 けれどそんなサーヴァントを使ってやっていることは、英霊剣豪とやらにして狂化させ、一般人の殺戮三昧。これでは聖杯の完成なんて夢のまた夢、何の意味があるのかってことでしょう」

 

 オルガマリーが溜め息混じりにそう告げて、額に手を当てた。

 

 ただそれこそバアルとモリアーティのように、儀式の完遂とは別の尺度から“意味ある七騎”が用意されている可能性もある。それらが正しく“消費”された時、悪魔と人間の同盟は正しく勝利に手をかけた。

 だからこそ単純に考えるわけにはいかないが、英霊剣豪を揃えた意味は……いや、ランサーの枠に嵌る筈であった胤舜を放置しているのだ。そこからはまともに儀式の運行をする意識さえ見られない。そうして揃えた恐らく残りの六騎を使い、積極的にやっていることは一般人の殺戮。どうにもサーヴァントを用意しての行動としては、ちぐはぐな印象を受ける。

 

「英霊剣豪の行動が最終的に、呪術師にとって聖杯の降臨に匹敵する何かになる?」

「……まあ、恐らくはね」

 

 現状の情報。それだけで考え、正直に言ってしまえば()()()()()()

 一般人の殺戮が目的であり、英霊剣豪はそのための手駒に過ぎないように見える。

 あるいはその殺戮が別の呪術儀式を呼び起こすのか。

 

「ただ生活しているだけの村人を襲い、皆殺しにして、それで目的に近付くというわけか。

 反吐が出るような話だ」

 

 腕を組んで鼻を鳴らすゲイツ。

 同じように腕を組んで、ソウゴは悩むように空を見上げた。

 

「……つまりこの状況を作った奴にとって一番困ることは、英霊剣豪を止めること? でもたぶん、倒さない方がいいよね、英霊剣豪も」

「なに? どういうことだ」

「英霊剣豪は英霊剣豪で、倒したら相手が目的に近付いちゃうと思うってこと」

 

 眉を吊り上げ詰問するゲイツに、ソウゴはそう返す。

 一般人の殺戮が大呪術の燃料であると考えたとして、サーヴァントを退去させることは同じくその大呪術の燃料になってしまう可能性が高い。相手は積極的に村民を殺す悪鬼外道、計画を進めさせるようなことはできれば避けたい。

 英霊剣豪の殺戮は防ぎつつ、魔神と関わりがあるかどうかも不明だが、とにかく術者―――あるいは明らかに呪術師に近い立ち位置にいると思われるキャスター・リンボを押さえる。

 

 それが最適解ではなかろうか、と。

 

「―――ありえると思います。月が変わった時のあの空気、あれは格別に呪に長じた術者でなければ起こし得ない現象だと感じました。

 ましてこの悪辣さ。こちらが不死の英霊剣豪こそ呪を進める要と見て撃破する事、それこそが致命的な失着になりえるような、二段構えの罠が用意されている可能性は念頭に置いておくべきかと」

 

 ソウゴの感覚を補強するように小太郎が同意する。

 

 魔術だの呪術のことは未だとんと分からない、が理由には納得したのだろう。

 ゲイツはソウゴを睨む視線を引っ込め、眉間に皺を寄せた。

 

「捕まえる方法さえあればむしろそっちの方がいい?」

「相手は不死身みたいだし出てきたら毎回足止めし続けるでもいいけど……人数が足りれば」

 

 相手は恐らく六騎。

 一ヵ所に全員出てくれれば考えなしにそこに直行でいいが、そうもいかない。

 

「封印するような方法があれば一番、ってことですか?」

 

 イリヤがルビーを見上げる。だがその意識が向けられているのはルビー本体ではなく、彼女が管理しているサーヴァントのクラスカード。その中のライダー、メドゥーサの魔眼なら或いはと考えたのだ。

 何せ場合によっては大魔獣ゴルゴーンクラスにまで出力を上げられる。イリヤの持つカードの中でも、周囲を顧みなければ制圧力に特化した切り札だ。

 

 だが現状、少なくとも彼女たちが確認した相手は鬼種である。大魔獣の魔眼とはいえ、易々と封じられるとは思えないと美遊は小さく眉を顰めた。

 同時に少し違う理由で、ゴルゴーンの力で巴御前を石化させようという考えに、ツクヨミは何とも言えない表情を見せた。

 

 そもそも心情的に巴御前をインフェルノのまま放置するのは気が引ける。そこは少なくともウルクで顔を合わせていた全員の共通認識だろう。あの無限に噴き出す憎悪こそが、彼女が牛若丸を避けていた理由なのだと実感で理解できたほどだ。

 

 効率の良い勝利のために巴御前を石化してそのままにするくらいならば、彼女を解放するために打倒し、呪術師の呪いを完成させた上で真正面から叩き潰す方がいい。

 倒さない方がいいかも、と口にしたソウゴも言うには言ったが結局そういう考えの人間だ。

 

「……倒す倒さないはさておいて。まずは倒せる方法を探さなくてはね。先に呪術師を探し当てられるならそれ以上はないけれど」

 

 英霊剣豪にどのような呪術が仕込まれていたとして、要である呪術師を討ち取れば破綻するだろう。それが最も解決に近付く選択肢であることは疑いようもない。

 オルガマリーはそう締め括り、彼女たちは胤舜の案内についていくことに集中した。

 

 

 

 

 

 

 カコーン、と日の沈みゆく森に響く爽快な音。薪割りの音だろうか。目の前には木々の合間から煙が上がっているのも見える。どうやら胤舜がねぐらにしている庵とやらは、もう目と鼻の先らしい。

 テンポよく続く薪の割られる音は、庵に近づくにつれより大きく聞こえるようになっていく。

 

 森林を抜けて開けた場所に出た瞬間こそ、その音が一番よく耳に響いた。

 薪を割っていた赤い髪の青年はちらりと闖入者を確かめると、盛大に溜め息ひとつ。

 

「おい、おま―――」

「お、おおおおおおおおおおおお―――!? お兄ちゃん!?!?」

「あン?」

 

 青年の声を吹っ飛ばし、少女が大きな驚愕と少しの喜悦を混ぜて叫ぶ。

 

 叫んだのはイリヤスフィール。少女が起こした突然の奇行に集まる視線。そうして注目されていることにも気付かないまま、彼女はありえないものを見たという表情で戦慄いていた。

 そして声こそ出ていないが、クロエと美遊も唖然とした様子を見せている。が、そちらの二人は揃ってハッと何かに気付いた様子を見せていた。

 

 二人が連想したのは同じもの。カルデアの戦いの記録における第七特異点、古代ウルクで共闘した女神イシュタルだ。あの女神は現世に降霊するために、真体ではなく波長の合う人間の体を借り受けることで、霊格を落としたサーヴァントとして現界していた。

 

 ―――となれば、目の前の青年も。

 

「どどど、どうしてお兄ちゃんがここにいるの!? え、どうして? え、なんで!? えとえと、わたしは今カルデアってとこの人たちを手伝ってて……そう、リツカさん! リツカさんって人を探しにきたんだけど! お兄ちゃんはなんで―――」

「……少し落ち着いたらどうだ、嬢ちゃん。そんで誰だお前さんたちは、当たり前だが(オレ)には異国人の妹なンざいねえぞ」

「―――――」

 

 フリーズ、少女が電池の切れたロボットのように停止する。

 青年は切り株に斧を立てて手放すと、軽く肩を回しながら訪問者に胡乱な目を向けた。

 

「ンで? 今度は(オレ)の姉か兄か弟か?」

「いえ、別にアナタの縁者でも何でもないけれど……」

 

 フリーズしたままゆるゆるぱたんと倒れるイリヤ。

 あーあ、と肩を竦めるクロの横をすり抜け、美遊がすぐさま駆け寄った。

 糸の切れた人形のようでありつつも痙攣しているイリヤを揺する美遊。

 

「イリヤ……! イリヤ、気を確かに……! 傷が深いのは分かるけれど……とても分かるけれど……!」

「あーあー、仕方ありませんねぇ。とりあえず落ち着くように鎮静剤……いえ、むしろ失意のどん底にいるんですから、元気が出るアッパー系のおクスリでも一発ぶすっと逝っときます?」

「とりあえず休ませるのがいいかと。寝床を借りましょう」

 

 にょっきりと注射器を生やすルビー。そんな姉を瞬きの速さで繰り出す羽飾りの手刀で撃墜しつつ、サファイアは青年に向いてそう言った。

 珍妙な物体は空飛んで話してる、というだけで奇妙なものを見る目を向けるには十分。あからさまに警戒しながら、青年は胤舜の方へと視線を向けた。

 

「で、何なんだこいつらは」

「うーむ、拙僧も理解が怪しい故に詳しい説明というのは難しいが……うむ、頼りになる味方だな!」

「なんだそりゃ……」

 

 目の前で少女が倒れ伏したので、仕方なしにか。

 溜め息混じりにとりあえず話を聞くか、という姿勢を見せる青年。

 

 唐突な謎のお兄ちゃんイベントが発生して目を白黒させていたオルガマリーがハッとする。

 タイミングは外したが、とにかくカルデアの名は名乗っておくのがいいだろう。

 

「わたしたちは―――」

「ねえねえ、いま立香とか何とか聞き覚えのある名前が聞こえてきたけど、もしかして、もしかしちゃったりなんかしない? いやいや、流石にそんなわけない―――」

 

 説明をしようと前に出ようとするオルガマリー。

 しかしそこで彼女の声を遮るように、庵の中から女が一人出てきたではないか。

 

 姿を見せたのは奇抜な着物の女性。

 一度見れば記憶に焼き付く派手な装束、見覚えがある顔、聞き覚えのある声。

 腰に剣を佩いていなくとも彼女が武芸者だと分かる。

 立ち姿、風格を検めるまでもなく、その事実を知っているのだから。

 

 ―――即ち。

 あのご飯が山盛りの茶碗と箸で両手が塞がった女こそが、二天一流。

 

「そんなわけ……あった?」

 

 新免武蔵守藤原玄信、宮本武蔵は目の前の光景に目を見開いて。

 そしてとりあえず、食事をそのまま続行した。

 

 

 

 

 

 

 洞窟内に軽快な足音が響く。

 こんな楽しげにこの場所を歩く者を、ここで寝転がっている者は一人しか知らない。

 怪人は気怠そうに体を起こし、そちらへと視線を向ける。

 

「おや、これはお休みのところ申し訳ございません。少々、お手伝いして頂きたいことがありまして」

「手伝い? あっちの見張りはいいのか? ま、誰も来ないから暇な仕事だが」

 

 何も申し訳ないなどと思っていなそうなリンボの声。

 それに失笑を返しつつ、怪人は親指を立てて洞窟の奥を雑に指し示した。

 

 そちらから漏れてくる唸るような、呻くような声。

 大事な大事な計画の要だ。リンボにとっては、だが。

 恐らく何も無いだろうとはいえ、放置していいのかと問いかけている。

 

 だが問われたリンボは、何の問題もないとばかりに微笑み返した。

 

「段蔵」

「―――――」

 

 リンボが一言名を告げると、どこからか現れその場に降り立つひとつの影。

 その体を作るのは肉に非ず、絡繰によって構築された人ならざるもの。

 しかし傍目にも人と見紛うほどの人形である。

 

 姿を露わにしてしかし無言。美女と称するに相応しい造形の顔面には、表情と言うべきものはまったく浮かんでいない。その在り様は、繰られた通りに四肢が動くだけの糸人形のそれ。

 人形らしく一切の生気を感じさせない女は、ただリンボの側で跪いて控える姿勢を取っていた。

 

 それを見て怪人は首を捻る。

 

「見張りを交代か?」

「―――貴方にお願いしたい事というのは他でもありません。こちらに来たカルデアの主戦力に、黒縄地獄殿を伴って襲撃を仕掛けて頂きたいのです」

「冗談だろ?」

 

 言われた要求を軽く笑い飛ばす怪人。なにせ今の体だって大したものじゃない。何とかトランスチームガンを起動できる程度の、最低限のハザードレベルしか出ていない。その程度のハザードレベルで死なない人間をやっとのことで見つけ、今どうにかこうしているのが彼の現状なのだ。

 この状態でジオウやらウォズやらの前に立つなんて、罰ゲームにも程がある。ちょっかいを出して手酷くやられれば、同化してる人間も当然消滅するだろう。そうなったらまた新しい体を探さなくてはならない。

 

「ンン、御心配なく。戦ってくれと言っているわけではありません。ただ()になって頂ければよろしいのです。無論、協力には見返りを。

 拙僧の目的が果たされた際には、我が掌中から如何様なものでも差し上げましょうとも。貴方が望むものであれば、何であろうと用意してご覧にいれましょう」

「見返りねぇ……」

 

 この世界における呪術式が叶えば、その程度の報酬はまったく問題ないと言うように。リンボは妖しく唇を歪めて微笑んでみせる。

 その言葉の真意がどうであれ、どちらにしろ現段階でウォズやらの目の前に出たくないのは変わらない。存在自体を知らせたくないのだ。見返りとやらがどんなものでも、そう吊り合うことはないだろう。

 ―――とはいえ、だ。ここでゴロゴロしているだけというのも、退屈でしかなかったというのが現状への正直な感想である。問題は多いが、せっかくの話と思えなくもない。

 

 重そうに腰を上げて、赤い怪人は立ち上がる。

 リンボと視線を交わし、彼は酷く億劫そうに肩をゆっくりと回した。

 

「―――ま、暇潰しには悪くないか。報酬は……期待しないようにしておくがな」

「これはこれは。流石にこちらの自尊心を煽る口振りも達者でいらっしゃる、そう言われてしまえば是が非でも、度肝を抜くモノを用意して差し上げたくなるのが人情というもの。ええ、ええ。もちろん貴方のお望みを叶える物、全力で準備させて頂きますとも。お愉しみに」

 

 くつくつと笑いながらリンボの姿が薄れていく。

 段蔵と呼ばれた人形は残したまま、彼はこの場からあっさりと消え去った。

 

 勝って当たり前、という考えなのだろう。それだけの準備が整っているという自信の表れなのだろう。この洞穴の奥に座すモノを考えれば、まあ分からなくもない。

 だがそう上手く事態が動くなら苦労しないという話である。

 

 咽喉の奥で笑い声を転がす。

 彼はそうした数秒後、じっとしたままの人形を見下ろして呟いた。

 

「さてなァ……まあ払いに関して心配も期待もしちゃいない。ここで“お前の目的が果たされた時”なんて、どうせ一生こないだろうからな。なあ?」

「―――――」

 

 半分笑いながらの言葉に、当然人形はだんまり。

 それに肩を小さく竦め、怪人は再び彼女に声をかけた。

 

「とりあえず黒縄地獄とやらのとこまで案内してもらおうか。そんでもってそれからは、三人一緒に仲良くお仕事の時間だ」

「御意」

 

 かたり、かたりと絡繰人形が動き出す。

 リンボが彼をわざわざ動かしに来た理由。段蔵を置いていった意味。英霊剣豪、黒縄地獄。

 どんな仕事が求められているかは明白だ。

 どこまで通じるかは分からないが、まあやってやれば満足するだろう。

 

 

 

 

 

 

「立香は城下の方に? んー、じゃあまあ安全でしょう。凄いのがいるみたいだし。今晩はここで明かして、明日迎えに行けばいいと思うわ」

 

 こちらの状況を簡潔に伝えると、茶碗をやっと置いた武蔵がそう言って息を吐く。

 そうして言い切った女に対し、ギロリと鋭い視線が向いた。

 

「馬鹿野郎、何でお前が勝手に寝泊まりの話を纏めてやがる。それもこれも家主の(オレ)が決めることだろうが。飯まで勝手に食い始めてやがったこの阿呆が」

「それはごめんなさい。でも化け物狩りがまあ大変だったんだもの。ちょっとくらい、ね?」

 

 てへぺろ、と武蔵が青年に謝罪する。

 

 だが新免武蔵は生身の人間、走り回って剣を振るえば腹も減るのだ。ひとつの殺し合いが終わったら、次に備えて補給は怠れない。いつ発生するか、いつ終息するか分からない超常現象、怪物が現れて見境なく人々を殺戮する地獄変。それに備えようと思えばちょっとくらい、と。

 

 そこに理解は示しているのか、青年は苦い顔で彼女を睨むに留めた。

 

「でもじいちゃま、みんなでごはんたべるのはたのしいよ? ね?」

「きゃっ、きゃっ」

「おぬい、お前は口を挟むんじゃねェ。さっさと食って、田助と一緒に寝ちまえ」

 

 おぬいと呼ばれた童女が自分の食事を進めながら青年に告げる。

 彼女の隣に座っている小太郎の腕の中、抱かれた赤子が同意するようにはしゃいだ。

 その赤子の方が、田助という名なのだろう。

 

 あやすように腕を動かし続ける小太郎が、どこか困惑した様子で苦笑した。

 

「……食事はありがとうございます。この分の埋め合わせはさせて頂きますので……」

 

 食事している連中をちらりと見て、オルガマリーが息を吐く。

 いきなりこの人数で押しかけ、食事をたかることになったらまあ文句も当然。

 何故、サーヴァントがこんな生活をしているかは疑問だが。

 

 とにかくまず謝罪をと言葉を続けるオルガマリー。

 そんな彼女に対し、青年は酷く面倒そうに箸を持った手を振ってみせた。

 

「お前らに飯を食わせる義理なんざどこにもねェ。ねェンだが、この辺鄙な林の中に腹を空かせたガキどもがやってきた。そんでもってここらで唯一の民家であるこっちは、丁度夕餉の支度をしてるとこだった。

 ならそこは仕方ねェ。まして坊主の案内でとくれば、これも飯を食わせてやれとお釈迦さまが手繰った縁だったンだろうさ。だからそこに文句はねェ」

 

 そういう気質なのか、それはどうでもいいと言い捨てる青年。

 では何に怒っているのか、とオルガマリーは目を白黒とさせた。

 

 正しく案内人となっていた坊主がそこで口を挟む。

 

「その食事のこともある。彼らに振舞って備蓄も底をついただろう? 明日、城下に仲間を迎えに行くついでに、食料を買ってきてもらえばいいのではないか。それならば今晩床を貸す理由にもなるだろう?」

 

 床の間ではなく居間で雑魚寝になる人数だが、と。

 そう言ってくる胤舜を軽く睨むような青年。

 

「わ、きょうはおねえさんたちもいっしょなの? たのしそうでねむれなくなっちゃいそう!」

「駄目よ、夜はちゃんと眠らなくちゃ」

 

 箸を手に少々興奮した様子を見せるおぬい。

 その隣に来るのは、食事を終えたツクヨミ。彼女が小太郎と代わり田助を抱く。

 

 サーヴァントなので食事は要らぬ、と言いたいところではあるが。振舞われたからにはそんな事を口にする方が礼を失するだろう。まして家主もサーヴァント、そんな事分かり切った上で振舞っているのだろうから。

 手の空いた小太郎は自分の分と用意された夕餉に手を付け始めた。

 

(性質の近しい人間の肉体情報を依り代とした疑似サーヴァント……女神イシュタルのような規格外故の疑似サーヴァント、とは思えませんが)

 

 箸を手にしつつ、小太郎の視線は酷く面倒そうな顔をした青年の方へ。

 イシュタルのあれは女神であるが故に起きた措置。

 だが目の前の青年の霊格は通常のサーヴァントの域を出ないだろう。

 

 ではこの青年は一体何故。今も部屋の隅で死んだダンゴムシみたいに転がっている、イリヤスフィールの兄という人間を依り代に顕れる事になったのか。

 

 家主たちの話が行われている中、ソウゴたちは何となくひそひそと声を潜めて、武蔵へと今まで戦ってきた敵の様子を訪ねていた。

 胤舜の話では今回が初めてだった英霊剣豪。ならば別の場所で戦っていたらしい武蔵も、彼女らに会敵しているかもしれないと。

 

「英霊剣豪?」

「武蔵の方には来なかったの?」

「んー……私が斬ったのは普通にいつも通り、空飛ぶ蜥蜴とかその辺りだったけれど」

 

 だが実際、先程訪れた夕焼けの夜でそのような更なる異常はなかったという。

 英霊剣豪はこちらにしか出てこなかったのだろうか。

 後は城下に現れた可能性もあるだろうが……

 

「彼奴らはどうやら不死身らしくてな。複数と当たるような事になれば、恐らく拙僧も武蔵も無事では済まないだろう。そういう意味でもここで皆に寝泊まりするのは、村―――」

 

 宿泊させるに足る理由。怪物から身を守るための護衛としてカルデアの者たちをを同じ屋根の下に置いておくのは、間違いなく安全に寄与する選択肢だろう。

 

 ―――が、そんな事を示すために軽妙に回っていた胤舜の口が急に動きを止めた。

 そうするに値するだけの、ひりつくような空気感が満ちていく。

 坊主の顔が即座に戦に臨む者のそれに代わり、椀を置いて手を空けてみせた。

 

「……明らかに何か違う。英霊剣豪、さっそく見物できそうね」

「―――英霊剣豪、かな? これ」

 

 ただ魔獣がそこそこ出てくるような雰囲気ではない。それを今し方聞いたばかりの話、英霊剣豪のものであると武蔵は判断した。

 

 が、隣で残っていた汁物を一気に掻き込んだソウゴは眉を潜める。英霊剣豪であればこんな凍るような空気ではなく、燃えるような殺意が乱舞するような印象があったのだ。もっとも全ての英霊剣豪を知っているわけではないのだから、そんなもの既知の英霊剣豪で抱いた偏ったイメージでしかない。

 

 暗闇の中、どこかで放たれた狼の遠吠えが響いた。

 窓から覗く欠けた月が満ち、黄金の満月となって輝き出す。

 

 ―――異形の夜がやってくる。

 

「……そっちの様子は」

「見ての通り、イリヤはまだ死んでるけど?」

「どれだけショックだったのよ……」

 

 オルガマリーが確認すれば、イリヤは未だにダウンしていた。

 クロエにつつかれても起きる様子がない。

 ただ顔を引き攣らせるオルガマリーとは反対に、美遊は気持ちはよく分かると深々と頷いていた。

 

「けど、さっき明けたばかりなのにまた夜とはね。いいえ、もう夜なのは変わらないけど……ううん、夜の内に夜にこられると表現に困るわね」

 

 武蔵が床に置いていた刀を佩き、溜め息交じりの言葉を呟きながら立ち上がる。

 どこかで化け物が乱舞し、誰かが殺される地獄の時間。

 

「―――さて、しかし今回は明らかに拙僧らを狙い澄ましているようだが……いつもこうだと手間がかからんのだがな」

 

 愛槍を手の中に顕して、意識を外に向ける胤舜。

 彼の耳には外で何かが動く音、何かが引きずられるような音が届いていた。

 

 英霊剣豪にしては殺気が薄い、別の何かだろうか。

 或いは殺気の薄い英霊剣豪もいるのか。

 

「ツクヨミ、お前はそいつらと一緒に中にいろ」

「……ええ、分かった」

 

 ドライバーを手に立ち上り、ゲイツが眉間に皺を寄せながらそう言った。

 そいつら、というのはイリヤたちの事。

 顔を顰めた青年は問題ないとしても、おぬいと田助のことは守らねばならない。

 魔法少女三人の戦闘力ならば、何かあっても十分に防戦は叶うはずだ。

 

「じゃあクロは頑張ってイリヤを起こしといて」

「りょーかい」

 

 立ち上り、ドライバーを備えてそう言うソウゴ。

 マスターからの指示に、対象への干渉をつんつんからぺしぺしに切り替えるクロエ。

 これでその内目を覚ますだろう。

 

 その様子を見届けてから、ジクウドライバーを腰にあてる二人。

 備えておくように注意はした。

 が、そもそも何が来ても通すつもりなどない。

 

「アサシン、偵察を」

「御意」

 

 マスターから下る指示とほぼ同時の事。

 窓をするりと抜け、屋根の上へと躍り出る忍。

 彼は満月の下ですぐさま視線を周囲へ巡らせ―――

 

「……敵を捕捉しました。大槌のような武装を手に、徒歩でこちらに向かってきています。この歩行速度ならば、この庵の前に来るまでまだ二分はかかるかと」

『英霊剣豪? それとも別の何か? 判断できる?』

 

 オルガマリーが開いたパスを通じ、念話にて伝える情報。

 それを受けとれば即座に返ってくる問いかけ。

 一瞬の逡巡の後、風魔小太郎はマスターに対し正確に情報を伝達した。

 

「少なくとも外見は人間ではなく異形。人型の蝙蝠、というのが一番近い表現だと思います。

 手にしている武装の大槌は僕も見た事がある。ウルクにて、仮面ライダーディケイドが姿を変えた時使っていました。恐らくは同じものかと。

 ……そして翼には文字が刻んであります。K・I・V・A、と」

 

 余りにも特徴的な姿形を伝達され、確信と同時にその名を口にする。

 

『―――アナザーライダー……っ!』

 

 オルガマリーの声にソウゴとゲイツが顔を見合わせて。

 そしてゲイツはすぐさま顔を背けた。

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと歩んでいく怪人、アナザーライダーが顔を上げる。

 その視線の先には庵の屋根上に上がった少年の姿。

 ―――敵を捕捉したからか、一度そこで怪人が足を止めた。

 

「ちょうどいい距離じゃないか? まずは一発、派手にやってみせろよ」

 

 木陰に隠れたコブラの囁き。

 動きを止めていたアナザーライダーは動き出し、手にした大槌を振り上げた。

 

「―――――」

 

 振り下ろすのではなく、柄尻を地面に立てる槌による攻撃とは思えぬ姿勢。

 だがそうした瞬間、拳のような形をした槌が開き始めた。

 その動作に伴って弾ける稲妻。形成されていく力場は、無音の雄叫びの如く。

 真実の目が見据えた全てに破壊を齎す前兆。

 

 根こそぎ消し飛ばさんとする破壊の雷。

 それは忍者の少年以外、未だ誰も出てきていない庵へと向け行使され―――

 

〈仮面ライダージオウ!〉

 

「お?」

 

 庵の中から音が響く。変身を終え、正面から防ぐつもりか。

 だがそう簡単に防げるような攻撃範囲ではない。

 さてどうなるか、と愉しげに顎を撫でるコブラの目前。

 

〈アーマータイム!〉

 

 突如アナザーライダーの頭上にミサイル……否、ロケットが形成された。

 それが即座にブースターを点火し、アナザーライダーの脳天に激突していく。

 頭上から思い切り不意打ちをかまされた怪人が、大槌を手放してよろめいた。

 

 直後に飛び出したジオウに向け飛んでいくロケット。

 それがパーツごとに分離し、彼に装着された。

 

〈3! 2! 1! フォーゼ!〉

 

 だがその隙に立て直し、攻撃を続行しようとするアナザーライダー。

 怪人はすぐさま地面に立ったままの大槌に手を伸ばし、

 

「ゲイツ!!」

 

〈仮面ライダーゲイツ!〉

〈アーマータイム! プリーズ! ウィザード!〉

 

 いきなり地面から生えてきた腕に両足を掴まれ、つんのめる。

 そのまま膝下まで一気に地面の下に引き込んでくる魔法の所業。

 怪人は、当然のようにそこで動きを止めざるを得ない。

 

 仮面ライダーゲイツ・ウィザードアーマー。

 彼はすぐさま地面を飛び出し、突き立った大槌を蹴り倒してから離脱する。

 そうして残されるのは、足を沈められた怪人だけ。

 

〈フィニッシュタイム! フォーゼ!〉

〈リミット! タイムブレーク!〉

 

「宇宙ロケットきりもみキィイイ―――ック!!」

 

 仮面ライダージオウ・フォーゼアーマー。

 彼が地面を踏み切り、空中でロケットモードへと変形。

 高速回転しながら、動きを封じられた怪人目掛けて突撃した。

 

 相手はアナザーライダー、これで倒すことは出来なくともダメージは与えられる。

 これでダウンさせてからすぐさまジオウⅡで必殺の一撃を見舞う、

 そう言った目論見によって放たれた一撃は、

 

 ざぶん、と。

 怪人の体が膝下どころか全身まで一気に地面に沈んだことで空振りした。

 何もない空間を通り過ぎていくフォーゼアーマー。

 

 ただ地面に埋まったのではない。

 地面が一瞬で水場になり、溺れるように沈んだのだ。

 

「これって……!」

 

 心当たりのある力。それはいい、そういう敵だと分かっていた。

 だが今のは明らかにアナザーライダー本人が行使したタイミングではなかった。

 つまりこの水の狩場を張った、別の存在がここにいるということ。

 

 空振りした必殺エネルギー。

 破壊力に転化できず、急速旋回して庵の方へ戻ろうとするには邪魔になる突進力。

 それを急ブレーキによって殺さざるを得ないジオウ。

 無理な軌道を描くことで発生する過負荷にアーマーが軋む。

 

 そうして、空中で見せる大きな隙が分かっていたかのように。

 泥の中から緑の怪人が飛び出し、減速したジオウに掴みかかっていた。

 

「ぐっ……!?」

 

 水辺に叩き落とされるフォーゼアーマー。

 手放したブースターが水に飲まれ、波に攫われていく。

 体の動きが鈍い。持っていかれるブースターを追う事もできない。

 それはただ水のせいで動き辛い、なんてものじゃない。

 

 狩られる側として落ちて、よくよく理解する。

 ここがただの水場ではなく、水棲怪人の狩場なのであると。

 

「ジオウ!」

 

 水に踏み込むのが悪手、と理解したのだろう。

 ゲイツはジオウに向け腕を向け、エクステンドの魔法を行使した。

 伸ばした手で彼を引き摺りだす事を目的とした行動。

 

 ―――その腕を、横合いから紫の怪人が掴み取る。

 

「なにっ……!?」

 

 相手の腕を掴んだまま全身を振り抜き、ゲイツを投げ飛ばす怪人。

 壮絶な勢いで飛ばされ、木々を薙ぎ倒しながらウィザードアーマーが宙を舞う。

 紫の怪人はそれを見送った後、泥の中に腕を突っ込み、そこにいるものを引き揚げた。

 引きずり出されるアナザーライダー。

 それは泥の上へと再び足を下ろし、庵の方へと視線を向けた。

 

 即座に屋根から地面に降り立つ風魔小太郎。

 庵から飛び出す宮本武蔵、宝蔵院胤舜。

 

 だがそれに対するように、林から飛び出して月光の許に降り立つ青い姿。

 アナザーライダーの前に現れた狼の怪人は、咽喉を震わせ唸りを上げた。

 

 そんな着々と変わっていく戦場。

 それを少し離れた木の上で見下ろしながら、赤いコブラは愉しげに小さく嗤った。

 

 

 

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