Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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 ねぇハドラー、キバ(コウモリ)とスターク(コブラ)がいるからせっかくならクモも欲しいなと思ってたら予想外のところからクモが飛んできたんだけどどうなってるの?
 


フェルマータ・迫る切狂言1639

 

 

 

 カチン、と鍔鳴りを起こして拾い上げられた刃が鞘に納まる。

 そのまま深く溜め息を吐いた青年は、横目に息を荒げる武蔵を見た。

 

「武蔵の手に、ね。そういうワケか。どういう絡繰りかは分かりゃしないが、納得はいった」

 

 彼の言葉にむすりと不機嫌を表情に出し、落とした自分の刀を拾い上げる武蔵。彼女自身にだって納得はできる。紛れもない自分の到達点が、勝手にその技量を自分の体で発揮したのだ。自分より巧く自分を使われるあの感覚、今思い出しても気色悪さが天井知らずに上がっていく。

 

「それはどうも。お爺ちゃんの御期待に添えずごめんなさいね」

「…………まあアレだ、少しは同情してやるさ。未知の自分に自分を塗り潰されるほど気色の悪いことはない、ってな事は何やらどうにも共感できちまう。(オレ)がそんな感覚知るわけねェンだから、借り受けた体の方の記憶だろうがな」

 

 そう言って踵を返し、庵の方へと歩き出す青年。彼の発言に何か思うところがあったのか、転身を解いた美遊は酷く難解な表情でその背中を見送った。

 

 逆に庵の屋根上に陣取ったクロエが、弓を下ろしながら眉を細める。青年は庵を出て真っ先に、刀身だけの刃を抜き出した。それが今彼の手にしている危険な刀、彼が突き詰めすぎた一振りだ。

 そう、あれは数分前まで裸の刃だったのだ。装具が何も装着されていない、刀としての拵えがされていない剥き身の刃。恐らく折るに折れぬと処分に困ったが故に浮いていたのだろう。

 

 なのに何故、今は装具が拵えられているのか。

 それは彼が抜き身の刃を手に取ると同時、一節の呪文を唱えたからだ。

 

 ―――『投影(トレース)開始(オン)』と。

 

 投影魔術であった。有り得ない精度と強度、そして持続時間。今回投影されたのは刀の装具のみであったが、それ以外も出せるだろう事は彼女の眼からすれば明白。何故って、彼が行使した力と、自分が宿した力がまったく同質のものであったからに決まっている。

 

 青年を見下ろしながら自身の胸に手を当てて、そこにある筈のクラスカードのことを考える。新宿の黒い狙撃手(アーチャー)こそ、彼女のクラスカードに宿る英霊だった。同じ力を使うモノ同士として関係ないなんて事はないだろう。ではあのアーチャーが、いま彼女の兄―――衛宮士郎の体を借りている英霊なのか? いいや、それは違うだろう。彼は射手であり、あの青年は刀鍛冶であるのだから。接していてもまるで共通点を感じない。

 

 ―――だったら、クロエと青年が同質の力を使う理由はただひとつしかない。

 つまり。あの青年は宿った肉体、衛宮士郎の性質として魔術回路を用いて投影魔術を使い。クロエが宿すクラスカード・アーチャーに刻まれた英霊の正体が衛宮士郎であり。あの新宿で会敵した黒いアーチャーこそ英霊・エミヤシロウであったという事だ。

 

「…………もう。なんなのよ、それ」

 

 繋がってしまった情報に頭痛がする。ありえない、とどう誤魔化そうとしても無理がある。信じられずともそれが答えだと理解してしまった。ここで頭を掻き毟ったところで何も変わらない。

 手から弓を消しつつ、彼女は辿り着いた結論に頭を痛めつつ深い溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 高木の太い枝に腰掛けながら、相変わらずいい仕事だとトランスチームガンを軽く撫でる。ベルナージュのお陰で地球ひとつに随分と手間をかける羽目になったが、この一丁が手に入った点は少なからずプラスになった事柄だろう。真の姿ほどでもないが、ブラッドスタークとしての姿も気に入っている。

 地球人には兵器を作る才能がある。これは火星の後すぐに地球をパンドラボックスで滅ぼしていたら分からなかった、原生生物に着目しなければ判明しなかった美点だと言える。もちろんそれを知らしめてくれたベルナージュに対しての感謝の気持ちなど、一切合切湧かないが。

 

「―――ここは」

 

 ピリピリしている―――いや、雰囲気ではなく実際に周囲で雷電がビリビリしている女。スチームガンの能力で戦場から引き戻した源頼光だ。声をかけることはせず、彼は軽く顎をしゃくって下に控えている人形に指示を出した。

 

「ご無事ですか、頼光殿」

「……ええ、どうにか生き永らえたようですね」

 

 頼光に声をかけたのはリンボのしもべ、彼が自由に動かしている黒髪の絡繰人形。腰より長い京紫色の襟巻きを身に着けたくのいちが行うのは、ただ事務的な確認であった。

 

 ふと頼光の視線が巡る。頭上の男と人形、双方に目を向けて見定める殺戮者の眼光。だがここにいるのは生物の範囲に入らない人形と、この星の生命とは根本的にズレた異種生命体(インベーダー)。どちらも彼女の宿業を刺激するには至らなかったようだ。

 

 そうでなくては困る。今の男はまともに戦闘などできやしない、中身に関わらず一定の性能を発揮するのがトランスチームガンのセールスポイントであるが、戦闘した場合に中の人間が耐えられるかどうかはまた別の話。彼がある程度力を発揮すれば肉体が崩壊し、いとも簡単に変身を維持できなくなるだろう。どうにか戦闘に耐えるだけの体を確保できれば、と思うが無い物強請りしてもしょうがない。

 当初はさっさと離れて元の姿に戻りたいと思っていた石動惣一の体が恋しくなる日が来るとは、人生とは儘ならないものである。

 

「それで、妖術師殿……いえ、リンボからの指示でもあるのですか?」

 

 頼光の視線が男に向く。彼は肩を竦めてから言葉を返した。

 

「いいや、特には聞いてないな。ま、必要なら本人が言ってくるだろ。それまでは適当に宿業に従って人殺しでもしてればいいんじゃないか?」

「そうですか」

 

 彼女は左手で逆手に持った刀を鞘へと納める。未だに右手は治っていないが、宿業(しんぞう)を断たれたわけではない。それなりに時間を置けば修復に至るだろう。ならば人の匂いを辿り、そこで鏖殺を繰り返すだけだ。

 下総国より外では既に殺戮の限りを尽くし、関東一帯で生き延びた者はごく一部の者に限られる。後は中心となる下総周辺だけ。ただそうして今までは外に英霊剣豪を向けていたからこそ、下総における殺戮は全く進んでいないわけなのだが。

 

 木の上に座った蛇が足を組み直し、さも今思い出したかのように言葉を付け足す。

 

「ああ、そういやエンピレオも呼び戻されてたんだったな?」

「御意の通りにございまする」

 

 肯定する絡繰人形。その会話に頼光が小さく反応した。

 

 セイバー・至高天(エンピレオ)

 宿業に狂った英霊剣豪内においてさえ、或いはリンボ以上に狂った男。

 

 剣聖の域にあるその卓越した剣腕を思い出し、僅かに眉を顰める。自身が先程刃を交わした()()()()。アレとエンピレオがぶつかった時、一体どうなるかと。どちらも剣の技量においては源頼光より上。神威によって技巧を圧し潰し滅殺する、というならば頼光にも勝機はあるが、斬り合いとなれば恐らくどちらとも百度やって百度同じ結果を迎えるだろう。

 

 だから彼女の視点からでは天上の二人の果し合いの結果は計り知れない、が。

 

(エンピレオでさえ。少なくとも今のエンピレオでは、あれに届くとはとても……)

 

 アレは英霊の同じ領域、()()()()()()だ。宮本武蔵という剣豪の、最大最高の値を測量した記録帯。であるからこそあの武蔵は最強の剣豪であり、他を寄せ付けぬ圧倒的な強さを誇る。

 だからこそ、()()()()()()()では勝ち目がない。そう考えて―――彼女は失笑した。

 

(であったとして、エンピレオは喜びこそすれ恐怖など持たないでしょう。ただ……)

 

 ―――かつての己の浅はかな判断に、後悔をするかもしれない。

 憐れむようにそう思った彼女は無駄な思考をしたばかりに表情を消し、ゆっくりと首を横に振ってその考えを頭の中から消しさった。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ行ってくるけど」

 

 激戦を潜り抜けた翌朝、オルガマリーが玄関口でそう言って振り返る。

 青年と幼い姉弟はもちろんだが、屋内にはまだ人が残っていた。

 

 武蔵とソウゴに加え、胤舜とクロエである。その四人は立香の捜索ではなく、こちらに残ってやる事があると城下に行かない選択を示した。昨晩の戦いを見れば武蔵と、それに付き合う事になるだろうソウゴもまだ分かる。だがクロエも、というのは一体どういうわけなのか。まあ、問題があるわけではないが。

 

「行ってらっしゃい、お姉ちゃんたち。気を付けてね?」

「だぁ」

 

 にこやかな童女と背負われた赤子に言葉をもらう。溜め息が出そうになるのを全力で噛み殺し、彼女もまたにこやかに笑って、ええ、と返した。

 

 そうして城下に向かっていった集団を見送った後。青年は家の中でどかりと座り、剥き出しの刀身へと向き合った。投影したものなどではなく、きっちりと刀に合わせた装具を拵えるための作業。

 ひりつくような空気は青年の雰囲気か、或いは刀の発する雰囲気からか。無言で仕事に取り掛かった彼を見て、おぬいは田助を背負ったまま朝食の片付けに取り掛かった。

 そして胤舜はそんな童女の姿を追い、手伝いにかかることにしたようだ。クロエも僅かに迷いを見せつつ、同じく手伝いのために二人を追った。

 

 武蔵が腰から一振り、刀を鞘ごと引き抜いた。ちらりと視線をくれた青年に対し、彼女はその剣を抜き、折れた刀身を見せながら告げる。

 

「悪いけどおじいちゃん、この子の供養もお願いできるかしら?」

「おう、そこに置いとけ」

 

 折れた剣に一瞥だけくれると、再び作業に戻る青年。

 今更ながらの話と思いつつ、二人を見ていたソウゴが声をかける。

 

「おじいちゃんってさ、ホントの名前は何て言うの? どんな英霊?」

 

 そも武蔵は当たり前のようにおじいちゃん呼びしているが、外見は立派な青年だ。呼ばれる側がそれで納得しているならば、別に呼び名などそれでいいのかもしれないが。

 厳しく細めた視線は刀から動かさないままに、青年はソウゴからの問いに答える。

 

「英霊なんつう大層な格に祀り上げられてンのは(オレ)からしたら甚だ疑問だがな。名は千子村正、見ての通りただの鍛冶屋、だったんだが。今は疑似サーヴァントって奴らしくてな、体をどこぞの誰かから借り受けてるせいで武士の真似事くらいはできる、ってくらいなもんだ」

「へぇ……」

 

 千子村正。刀への造詣が浅くとも聞いた事があるような、刀匠の中のビッグネーム。そしておじいちゃんと呼ばれている事と、外見が一致しないのは疑似サーヴァントだかららしい。つまりただ単に似ているとかではなく、本当にイリヤの兄が依り代の体になっているのだろう、多分。

 ふとソウゴが後ろを振り向くと、隣の部屋からクロエが頭を半分出してこちらを覗いていた。イリヤの兄という事は、クロエの兄でもあるという事。流石に気になるのだろう。

 

 時代や国を飛び越えても、意外と世界とは狭いものなのだろうか。

 

 感心しているソウゴの目の前で、村正が手早く拵えを済ませた剣を放る。それを咄嗟に掴み取った武蔵が強く顔を顰め、しかし意を決してその剣を腰に差した。これを使いこなせなければ源頼光、英霊剣豪に勝つ事など夢のまた夢、まして目の前であの性格悪い布切れ男にあんなものを見せられたのだ。やられたままで負けっぱなし、なんて死んでもごめんだ。

 

「ねえソウゴ。アレ、いつでも出せるのよね?」

「出せるけど、多分俺じゃタケルみたいにムサシの力を出し切る事はできないよ?」

 

 英雄眼魂を使うのはゴーストの能力だが、英雄と心を通わせその力を現出させていたのはタケルの力だ。仮面ライダージオウは仮面ライダーゴーストの力を使えるし、英雄眼魂の力を発揮させる事もできる。だがパーカーゴースト状態で出現させても、その英雄の真の力を引き出せているとは言えない。

 英雄たちを己に憑依させ、その肉体で英雄の真の力を体現する事こそ仮面ライダーゴーストの真骨頂。そのやり方を真似る事はソウゴには無理だろう。それどころか宮本武蔵の真の力となれば、もしかしたらタケルでさえ完全に再現するのは無理かもしれない。或いはそれができる者がいるとするならば、ムサシと盟友と呼べる関係にあったタケルの父親、天空寺龍ぐらいなものだろうか。

 

 先のムサシがあれほど力を出せたのは、憑依した相手が“宮本武蔵”であったからだ。だからこそ彼は完璧な状態で己の技量を発揮する事ができた。

 あの完全なる完結した“宮本武蔵”は、他の肉体で再現されることはないだろう。

 

 ―――だからなおさら腹が立つ。同じ体を使っても自分とアレにはそれだけの差がある、と如実に示されたも同然なのだから。

 今しがた腰に差したばかりの刀の柄に掌を当て、ソウゴに問う。

 

「……それでもいいわ。悪いけど付き合ってくれる?」

「いいよ」

 

 煮え滾るような問いかけと、何とも気の抜けるような返答。

 とにかく了解は貰った。

 武蔵は早速と玄関の方に歩き出し、ソウゴもまたそれに着いていく。

 

「……さて、どうなるかね」

 

 それを見ていた村正は武蔵から渡された刀から装具を外し、剥き身にする。刀身が真っ二つになった一振りの刀の成れの果て。こうまでされては打ち直すべくもない、持ち主の意向通りに供養するしかないだろう。そんな刃を手に取りながら、彼は片目を瞑らせ肩を竦めた。

 

 

 

 

 

 

 ふらりと軽い足取りで、ひとりの男が魔界の扉を潜り抜けてくる。

 その空間には数人の亡者がいたが、男に視線をやったのはただひとり。

 

「……戻ったか」

「ああ、良いものを仕立てて貰った。土の臭いが染みついた世捨て人であった拙者も、これで貴人の会合に居合わせるに最低限の格好はつくようになったでござろう?」

 

 男は仕立てたばかりの服をそうして雇い主に見せ微笑んだ。わざわざ揶揄うように侍を使うその様子を無視し、雇い主の青年がこの地獄の隅で佇む男を見る。

 何を言われるのか分かり切っているのか、リンボは即座に跪いて頭を垂れた。

 

「リンボよ。英霊剣豪最後の一騎、プルガトリオはどうなっておる」

「は……未だ宿業を埋め込む事叶ねば、彼奴めはランサー・宝蔵院胤舜として存在していまする。このキャスター・リンボ一生の不覚、如何様な罰でもお受けする所存」

 

 二人のやり取りを聞き、くすくすと嗤う声。目を向けるまでもなく、この場でそんな態度を取る者は一人しかいない。即ちバーサーカー、衆合地獄である。

 そんな鬼の反応を無いものとし、妖術師は平に伏すリンボに向けて言葉をかけた。

 

「よい。その程度の些末事、我が厭離穢土成就にとっては瑕疵にもならぬ」

 

 言いながら妖術師は両手を顔の高さまで上げる。それに伴い渦巻く怨嗟の呪力。この空間こそ正しく地獄、人が理不尽によって迎える死の今わの際に抱く呪詛を凝らせた異界。

 その中心に立つ青年は、一身に呪詛を集めながら口を開く。

 

「英霊剣豪七騎。その魂をくべることで、聖杯を満たすが如く厭離穢土は成就する。怨念に満ちた魂が足りぬ分は、生者を鏖殺して埋めればよい。無論、英霊剣豪とすることが出来ずとも英霊の魂も贄となろう」

 

 厭離穢土成就の儀式のために()()()()範囲は精々が関東一帯。その使える人間たちは英霊剣豪、そしてリンボが従える絡繰の働きによって一部を除き殺戮されている。

 後は英霊剣豪をくべれば、厭離穢土招来に呪力が足りず不発、という事はまずありえないだろう。

 

「ふぅん。ならうちらは後は好きなようにやるだけやって適当に死ね、いう話? 殺せる相手がいるかどうかは別として、それならそれで愉しめそうやね」

 

 衆合地獄が愉しそうに妖術師を見た。

 

「今日、エンピレオが表の顔で入城する。奴が準備を整え次第、英霊剣豪全騎によって城下を囲い、下総の人間を鏖殺する。

 ―――そして最後に、お前たちで殺し合うがいい。それがエンピレオの望みでもある」

「ンンン、流石はセイバー・エンピレオ。自分であれば我ら英霊剣豪を宿業ごと両断することなど容易い、とそう仰っておられるわけですな。もっとも彼は妖術師殿の大望成就ではなく、己の剣を一流の剣客の血に染めることに執着しているだけでしょうが。至高天(エンピレオ)の名が聞いて呆れる、というもの」

 

 呆れるように、揶揄うように、キャスター・リンボは男を嗤う。

 そんな中で、鬼が一人声を上げた。

 即ちアーチャー・インフェルノ。

 紅蓮の激情、鬼火の太陽は今は沈下しているのか、ただ理性が見て取れる。

 

「その鏖殺、阻もうとする者もおりましょう。そちらは如何様に?」

「カルデアのみならずあのシノビもか。無論、阻むのであれば殺せ。殺せぬのであれば殺されよ、それが貴様ら英霊剣豪の役目なれば」

 

 カルデアを殺しても、英霊剣豪が殺されても、どちらにせよ彼の計画は進む。

 死と怨嗟が渦巻く終末こそが彼の望む境地。

 

 だが英霊剣豪は不死身、無敵の殺戮者だ。普通に考えれば殺されると言う結末はありえない。だが妖術師はカルデアを殺せないのであれば殺されろ、と何でも無い風に言ってのけた。まるでカルデアが英霊剣豪を破る手段を手に入れる事を疑っていないかのように。

 

「へえ、そら分かりやすくてええなぁ。殺すか殺されるか、エンピレオの試し切り相手よりずっと面白そうやし」

 

 衆合地獄がいつの間にやら手にしていた盃を傾ける。

 妖術師からの返答に納得したのか、インフェルノは顔を伏せていた。

 

「ンンン―――では、エンピレオが場を整えるまでに、拙僧も最後の準備に取り掛かりましょう。全ては妖術師殿の望まれし厭離穢土降臨のため。

 ルチフェロなりしサタンの御名の下、我ら英霊剣豪の使命を果たしましょうぞ!」

 

 声を上げるのはリンボのみ。後は無視するか、呆れるか、或いは最初から気にも留めないか。そんな扱いであったが、キャスター・リンボの顔には喜色満面の笑顔が張り付いていた。

 話の邪魔にならぬようにと隅に背を預け、目を瞑っていた男。彼がこの異様な空間の中で、何事かに気付いたように片目を開いた。

 

(―――地震。いや、()()か。学の無い私にはこのような洞穴を揺らすほど逞しい心の臓を持つ生き物など思いもつかないが、さて……? 雇い主殿も気付いておらぬ様子となれば、間違いなくリンボ殿の仕込みであろうが)

 

 ほんの僅かな振動だった。理由もなく、しかしその現象が間違いなく何かの鼓動であったと確信する。この場所の直下に何かがいるわけではないだろう。そうであれば他の剣豪とて間違いなく気付く。

 であれば妖術か何かが働いている、という事になる。そんな妖しげな術を行使できるのは、妖術師かリンボの二択となるだろう。しかし妖術師はそのような話は一切していない。

 そして、リンボによるつい数秒前の宣言だ。

 

(最後の準備、とやらの一環であろうな。それが本気で雇い主殿のための行動かどうかはさておき)

 

 何かをしている、と感じただけで何をしているか理解したわけではない。妖術師にリンボが危ういと告げたところでも意味もない。

 まあそもそもの話、畑を耕すか棒を振っていたかの男に策謀・暗躍の心得などある筈もなし、何ぞ隠して行動しているリンボを掣肘する手段などある筈ない。つまり男に出来ることは何もないというわけだ。

 

(いやはや。用心棒ならば体ひとつあればできるものかと思えば、学も無ければ務まらぬ仕事だったとは……山とは違い、世間とはまこと厳しきものよな)

 

 鼓動はいつの間にか聞こえなくなっていた。結局あれが何だったのか、聞こうとしたところではぐらかされて終わりだろう。その事実に肩を竦め、男は困った風に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

「あーっ、見つけたーっ!」

「え?」

 

 大通りに響く少女の声。その聞き覚えのある響きに目を瞬かせ、立香は首だけで声の主に振り向いた。今更ながら、意識すれば直近に感じるマスターとサーヴァントが有する繋がり。そこにいたのは間違いなくイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。彼女と契約したサーヴァントであった。

 得意の走りで距離をあっという間に詰め、安心を表現するかのように腰に抱き着いてくる少女。一瞬よれたもののすぐに体勢を立て直し、立香はイリヤの頭に手を置いた。

 

「何か凄く元気だね、イリヤ」

「こんな状況でリツカさんが普通すぎるだけだと思う!」

「格好はあまり普通じゃなくなってますけどねぇ」

 

 ふわふわと浮くルビーが二人の周りを一周しつつ、そう言った。確かに学生服から何故か着物になっているのは普通じゃない。軽く腕を上げ、おつるより頂いた着物を検める立香。

 

「うーん、でもこの町の中なら普通じゃない? 着物」

「主に防御面の備えについて言っているんですけれど……」

 

 何の守りも無い礼装でも何でもない着物。その格好はこの特異点―――並行世界において、自殺行為も甚だしい、というのがルビーの言いたい事である。

 

「それは……」

「それは?」

 

 アナザーキバにそれはもう遠慮なくずんばらり、とされてしまったから。という事態を説明する前に、オルガマリーたちが追いついて来ていた。

 どことなくひんやりとした表情。まるで『わたし、今から怒ります』と顔に書いてあるようだ。心配をかけてしまったのでしょうがない。もちろん死にかけた事を隠すわけにもいかないだろう。

 

「とりあえず……現地協力サーヴァントのとこまで戻ってから話すね?」

 

 長くなるだろう話だ、するならば道端ではなく床の間がいい。

 おつるの事も紹介するべきだろうし。

 

 この状況で無防備に外をふらふらとしているその根性。そういう奴だと分かってはいたが、と吊り上がっていくオルガマリーの目尻。それが途中で止まり、深い溜息へと繋がる。だがまあサーヴァントの協力者を見つけているならば、最低限の自衛は考えていたということだろう、と。所長は仕方なさげに額に手を当て、重ねて溜め息を吐いた。

 

 そんな所長の様子に苦笑しつつ、こちらに集まってくる皆を見た立香が首を傾げる。

 

「あれ、ソウゴは?」

「ソウゴは武蔵と特訓してるわ。一応クロも」

「武蔵、って武蔵もここにいるの?」

 

 ツクヨミの答えに目を瞬かせる立香。

 宮本武蔵、かつての戦いで共闘した二天一流の女剣豪。前回は別れの挨拶を交わす暇もなく別れることになったが、まさかまた巡り合う事になろうとは。となると、ワンチャンひとりで外に踏み出すのも選択肢としては無しではなかった、のかもしれない。結局武蔵と出会えねば野垂れ死になので、どっちにしろあまり良い方針では無いのに変わりはないが。

 

 そんな驚きの情報を含め、彼女たちは歩きながらでも出来る話をしつつ、おつるの家へ向けて歩き出すのであった。

 

 

 




 
 仮面ライダーシノビ…!! 天草四郎…!! 加藤段蔵…!!
 果心居士…!! シドニー・マンソン…!!
 うぬら…5人か…!!

 天とは仮面ライダーからの供給!! 地とはFGOからの供給!!
 そしてマとは無論それらを見た時にこれマジ?と感じた余の気持ちの事を指す!!
 それこそが天地マ闘の構えの秘密…!!
 
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